ibisPaint
神谷栄治氏(以下、神谷):株式会社アイビス代表取締役社長の神谷です。当社の事業計画及び成長可能性に関する事項についてご説明します。
「ibisPaint(アイビスペイント)」は、日本企業発のアプリとして、欧米のアクティブユーザ数4年連続1位を獲得しています。
わたしたちのMISSIONとVISION
神谷:会社概要です。当社はMISSIONとして、「モバイル無双で世界中に“ワォ!”を創り続ける」を掲げています。モバイルアプリに強いことや、驚きを与えたいという思いから、このMISSIONを挙げています。
VISIONには「Boost Japanese Tech to the World」を掲げ、Made in Japanのプレゼンスを上げていきたいと考えています。日本のIT企業の中で、ゲーム以外は海外進出が難しいという状況ですが、そのような中でも世界で活躍したいと思い、活動しています。
主な沿革と代表略歴
神谷:私の略歴です。1973年に愛知県名古屋市で生まれ、名古屋工業大学工学部電気情報工学科を卒業しました。私は小学校の頃からプログラムを組んでおり、大学時代も無料のゲームやツールを数多くリリースしていました。
1本800円で作ったアプリがヒットして何千万円かお金が入ってきたことから、株式会社アイビスを設立することができました。
設立のタイミングは、ガラケーがインターネットにつながった時、すなわち「iモード」ができた時でした。
事業概要
神谷:当社の事業概要です。当社には、モバイル事業とソリューション事業があります。モバイル事業は「ibisPaint」が主力の製品で、高成長事業と考えています。ソリューション事業は、受託開発・IT技術者派遣というビジネスを行っており、安定成長事業と位置づけています。
売上高の比率は、モバイル事業が60.1パーセント、ソリューション事業が39.9パーセントです。
売上高推移
神谷:スライドのグラフは設立来の売上高推移です。緑色がソリューション事業、オレンジ色がモバイル事業を示しています。リーマン・ショックの時に2年ほど減収しているものの、基本的には創業以来増収を続けています。
直近3年間は、モバイル事業の売上高が伸びています。これは「ibisPaint」の成長によるものです。2023年12月期決算で、売上高が40.8億円となりました。
無料版でもほぼフル機能のアプリ【モバイル事業】
神谷:事業の特徴についてご説明します。「ibisPaint」は、「無料でもほぼフル機能が使える」「パソコン並みの高機能をスマートフォンで使える」ことをコンセプトに開発しています。
またAIやディープラーニングなど、最先端技術の機能を追加しています。アプリの詳細について、動画でご紹介します。
(動画流れる)
スマートフォンを使い、指だけできれいな絵が描ける本格的なモバイルペイントアプリです。このアプリを出す以前は、絵を描くにはパソコンや専用機材が必要になり、ハードルが大変高い時代でした。しかしこの「ibisPaint」により中高生たちも利用できるようになり、ハードルが大きく下がりました。
スライド左下に記載のとおり、プロの方にも使ってもらいたいと考え、2022年にWindows版をリリースしました。
ibisPaint各種データ推移【モバイル事業】
神谷:スライド左側はシリーズ累計ダウンロード数の推移です。2023年12月末で3.7億ダウンロードを達成しました。直近3年間でダウンロード数が急増していることがわかります。
スライド右側の薄い色の折れ線グラフは、売切型アプリ販売数を示しています。直近では少し右肩下がりになっています。
塗りつぶし部分は月間アクティブユーザ(MAU)です。12月末現在で3,627万人となりました。こちらは2年ほど前がピークになっており、社内では「コロナ特需」と呼んでいます。以降の推移は、水平または微減という状況です。
濃い色の折れ線グラフは、サブスクリプション契約数です。時間が経つほど成長速度が上がっていることがわかります。
売上構成【モバイル事業】
神谷:「ibisPaint」の売上構成比です。アプリ広告が75.2パーセント、サブスクリプションが13.4パーセント、売切型アプリが11.1パーセントです。基本的にフリーミアムモデルとなります。
ibisPaintの特徴【モバイル事業】
神谷:「ibisPaint」の特徴についてご説明します。「ibisPaint」は19言語に翻訳され、世界200以上の国と地域で使われています。特徴としては、「無料でほぼフル機能」であること、「海外ユーザ数」が多いことが挙げられます。
そして「コミュニティの活用」として、アプリの中には描いた絵を投稿できる投稿サイト機能が付いています。SNS的な機能として「いいね」やコメントを送り合うことができます。「Z世代」である中高生を中心に、若い方々にご利用いただいています。
収益モデル(フリーミアム)【モバイル事業】
神谷:無料版アプリを使っているアクティブユーザは3,627万人、そのうちの94.7万件が買切型アプリに課金しており、11.9万人がサブスクリプション契約をしています。
グローバル展開①【モバイル事業】
神谷:グローバル展開についてです。累計ダウンロードのうち、海外は93.2パーセントと非常に高く、売上高は海外が73.2パーセントを占めています。また、世界中でバランスよく、多くの地域からダウンロードされています。
Z世代からの高い支持【モバイル事業】
神谷:「ibisPaint」のユーザ属性についてです。25歳未満が49.3パーセント、女性の比率が72.7パーセントです。25歳未満のアクティブユーザのシェアでは、直接競合ペイントアプリの中で、当社は87.7パーセントと高いシェアを占めています。
小学校6年生や中学1年生でスマートフォンを買ってもらった方の中で、デジタル絵に興味がある方が「ibisPaint」をファーストアプリとして選んでくれています。このようなZ世代は大学生、社会人と進むにつれて購買力が増すため、今後も期待できると思っています。
ibisPaint製品ラインナップ【モバイル事業】
神谷:「ibisPaint」のラインナップです。売切型は1,500円から1,600円で販売しています。サブスクリプションは月額300円、または年額3,000円です。Windows版は売切型のみリリースしており、価格は3,450円です。Windows版のサブスクリプションは現在開発中です。
売上構成と特長【ソリューション事業】
神谷:ソリューション事業の内訳です。受託開発が17.1パーセント、IT技術者派遣が82.9パーセントです。
成長戦略概要
神谷:成長戦略についてです。スライドの図の緑色は、安定事業であるソリューション事業をイメージしています。
薄いオレンジ色はモバイル事業のイメージで、ユーザ数拡大を優先して進めてきました。直近では、濃いオレンジ色の部分であるサブスクリプションやプロ向けの利用を強化し、直接課金を増加させようというフェーズに入っています。
成長の展望①【モバイル事業/収益基盤の拡大】
神谷:成長の展望です。スライドには、将来挑戦したいことについて記載してあります。ディープラーニングやマネタイズのための施策、プロ向けの機能など、さまざまな構想があります。
直近では、開発人材への投資を強めたいと思っています。また、2024年12月期第2四半期からはM&Aを調査しようと考えています。
成長の展望②【モバイル事業/収益基盤の拡大】
神谷:サブスクリプションの強化についてです。今まではアクティブユーザを増やすことに力を入れていたため広告費をたくさん使っていましたが、今後はサブスクリプションの強化に力を入れたいと思っています。
サブスクリプションの契約数に関しては年次の伸び率が高いため、ここに注力していきたいと考えています。
現在、アプリ広告収入18億円に対してサブスクリプションと売切型アプリの販売が6億円という売上構成比で、広告がメインになっています。こちらを中長期的には同額くらいに増やしていきたいと思っています。
川合直也氏(以下、川合):MAUが必ずしも増えているわけではない中、サブスクリプションの売上がかなり加速していると思います。その背景をもう少し分解して教えてください。
神谷:スライド10ページの右側のグラフをご覧ください。濃い折れ線グラフがサブスクリプションの契約数ですが、時間とともに成長速度が上がっています。この背景の1つは、サブスクリプションをリリースした時、機能が非常に少なかったことが挙げられます。リリース後に追加で機能を増やしたため、契約数が増えていると考えています。
もう1つは内部施策として、「サブスクリプションの機能はとても便利ですよ」とPRしたり誘導したりするマーケティング部分を最適化したため、契約数が上がってきていると考えています。
川合:基本的には、無料版を使っていた方がサブスクリプションに切り替えるのでしょうか?
神谷:そうです。
川合:いきなりサブスクリプションにする方は、ほとんどいないのでしょうか?
神谷:課金するタイミングは、ダウンロードしてからの日にちが浅い方が比率的高いです。
川合:売切型からサブスクリプションに切り替える方はあまりいませんか?
神谷:非常に少ないです。
川合:既存のユーザがサブスクリプションに切り替えるためには、広告ではないところでプッシュする必要があると思います。どのような取り組みをしているのでしょうか?
神谷:無料版アプリを使っている時に、サブスクリプション機能を押すと「こんなに便利ですよ」といったPRが出ます。そのような施策を行っています。
成長の展望③【モバイル事業/収益基盤の拡大】
神谷:もう1つの成長戦略として、Windows版の販売を進めています。グラフに示したとおり、右肩上がりになっていることがわかります。2023年11月に、2,350円から3,450円へ値上げしていますが、値上げをした翌月の売上が非常に伸びており、売上自体はうまくいったと思っています。今後もプロが使えるよう、Windows版を強化したいと思います。
成長の展望④【モバイル事業/顧客基盤の拡大】
神谷:スライド10ページのグラフにあるとおり、MAUが水平になってきています。今後は広告費を減らしてサブスクリプションを強化したいと思っています。
FY2023/12 全社決算ハイライト
神谷:2023年12月期の決算についてです。2022年度の売上高は33.9億円でしたが、2023年度には40.8億円と、YoYで20.3パーセント増加しています。営業利益は2.1億円から4.3億円と、YoYで97.4パーセントの増加となっています。
営業利益率は6.5パーセントから10.6パーセントで、YoYで63.1パーセント増加しました。ibisPaintシリーズサブスクリプション売上は1.9億円から3.3億円と、YoYで66.5パーセント増加しており、利益等も非常に伸びています。
FY2023/12決算 全社業績推移
神谷:売上高については先ほどご説明したとおり、YoYで20.3パーセントの増加です。営業利益は2021年から6,000万円、2.19億円、4.34億円と大幅に増えています。
FY2023/12決算 セグメント別業績推移
神谷:売上高の内訳についてです。ソリューション事業はYoYで32.2パーセントの増加と、非常に高く伸びています。モバイル事業はYoYで13.5パーセント増加です。
セグメント利益では、モバイル事業が非常に高い伸びを示しており、YoYで94.0パーセント増加です。ソリューション事業はYoYで44.0パーセントの減少ですが、こちらは人材への投資を先行しているため利益が減っています。
FY2023/12決算 モバイルセグメント業績推移
神谷:モバイル事業の売上高の詳細です。サブスクリプションがYoYで66.5パーセント増加、アプリ広告がYoYで6.1パーセントの増加となりました。セグメント利益については、2022年度に比べて全体的に伸びています。
川合:スライド左側のグラフについてうかがいます。広告の売上はアクティブユーザなどと連動するのでしょうか?
神谷:そうです。1つはアクティブユーザ数で、主にDAUを見ています。もう1つは、昨年第1四半期から第4四半期で売上高が非常に右肩上がりになっています。これは広告市況に連動しています。広告売上単価がかなり変動するため、6掛けぐらいにしかならない時もあります。
大きく変動する上に当社側でコントロールできないため、そのような意味ではかなり不安定なところがあります。
川合:アクティブユーザ数が劇的に改善しているわけではなく、広告の枠数を増やしたり、表示回数を増やしたりしたのでしょうか?
神谷:そうではありません。
川合:純粋に広告の単価が上がったということですか?
神谷:そのとおりです。
川合:これは業界全体の傾向なのでしょうか?
神谷:そうです。昨年1月ごろは、「Facebook」や「YouTube」など、いろいろな会社が減収やリストラの発表をしていました。その時は広告系の調子が悪かったのですが、半年後ぐらいからは大きく状況が変わったというかたちです。
FY2023/12決算 ソリューションセグメント業績推移
神谷:ソリューションセグメントの内訳です。受託開発がYoYで56.2パーセントの増加、IT技術者派遣がYoYで28.2パーセント増加しました。セグメント利益は減っていますが、これは人材への先行投資というかたちになっています。
FY2023/12決算 全社 主要な費用項目
神谷:広告宣伝費の推移です。広告宣伝費は主にモバイルセグメントで発生していますが、大きな流れで言いますと、右肩下がりで減らしてきています。一方、採用費は増加させてきているところです。
FY2023/12決算 全社 事業KPI
神谷:KPIについてです。モバイルセグメントにおける「ibisPaint」のDAUはYoYで6.9パーセント減少し、1年前の580万人から570万人に減少しました。これは水平飛行のようなかたちになっています。サブスクリプション契約数はYoYで80.2パーセント増加、ソリューションセグメントのITエンジニア数はYoYで32.6パーセント増加しました。
FY2024/12業績計画 ハイライト
神谷:2024年12月期の計画です。売上高は2023年度の40.8億円からYoY5.2パーセント増の42.9億円、営業利益は4.3億円からYoY119.6パーセント増の9.5億円です。営業利益率は2023年度の10.6パーセントからYoY109.4パーセント増の22.2パーセント、ibisPaintシリーズサブスクリプション売上が、3.3億円からYoY57.0パーセント増の5.1億円です。営業利益が倍以上になると見込んでいます。
FY2024/12業績計画 全社業績推移
神谷:売上高推移はスライドのグラフのとおりです。各種利益についても倍々で増えてきている状況です。
FY2024/12業績計画 セグメント別業績推移
神谷:セグメント別の売上の内訳です。スライド右側のセグメント利益については、モバイルセグメントが牽引しています。
FY2024/12業績計画 セグメント区分別売上高
神谷:セグメント別の売上内訳です。モバイルセグメントでは、YoYでサブスクリプションが57.0パーセント増と最も大きくなっています。ソリューションセグメントでは、受託開発の売上を増加させる計画となっています。
FY2024/12業績計画 セグメント別費用内訳
神谷:費用についてです。スライド左側のモバイルセグメントでは、昨年9.5億円だった広告宣伝費を4.5億円に減らす計画です。
FY2024/12業績計画 事業KPIの推移
神谷:KPIの計画です。DAUはYoYで1.9パーセント増と、やはり水平飛行に近いだろうと見込んでいます。サブスクリプション契約数はYoYで58.4パーセント増と、こちらは急成長を続けたいと考えています。ソリューションセグメントのITエンジニア数は、YoYで1.3パーセント増を計画しています。
ここ1ヶ月くらい、株価などが上場時の初値を超えており、少し安堵しているところです。今後も売上・利益ともコンスタントに成長させていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
質疑応答:今後のグローバル展開について
川合:モバイルペイントアプリの欧米での展開が進んでいると思います。今後のグローバル展開や海外売上比率、シェア拡大の見通しについてうかがえますか?
神谷:海外展開については、かなり広がりきっているように思います。国別数のシェアで言いますと、当社はインドと中国のシェアがやや低いという問題があり、なかなかそこは苦戦しています。
それ以外の国に関しては、当社のアプリがほぼシェアを取っている状況ですので、今のコアターゲットで言うと、伸び率が鈍化しているだろうというところです。
荒井沙織氏(以下、荒井):インドと中国には強い競合がいるということでしょうか?
神谷:そうです。ほかのところでは勝っているのですが、インドと中国では、原因をいろいろと調べてはいるものの、未だ競合に負けています。
荒井:これからは、インドや中国で競合に勝っていくというよりは、他のエリアで強みを活かしてどんどん伸ばしていくという戦略を考えていらっしゃるのでしょうか?
神谷:そうですね。インドも何度かトライしていますが苦戦しており、費用対効果的になかなか難しいと考えています。またインドは物価が低いため、シェアを取り切った時の売上を見積っても、それほど大きくないという面があります。
中国は、もちろん物価は高いですが、こちらは地政学的なリスクが高いです。中国は今、彼らから見た海外のアプリ事業者が直接販売できないように進めており、日本の企業もかなり困ることになると見込んでいます。
川合:スライドに累計ダウンロード数の表がありますが、特に売上が取り切れていない地域はありますでしょうか?
神谷:インドと中国ぐらいです。アメリカはまだそれなりに伸びていますし、やはり1人当たりのGDPが一番高いため、今後も期待しています。
川合:インドと中国は、ダウンロードはされているものの、売上にはつながっていないというかたちでしょうか?
神谷:おっしゃるとおりです。
質疑応答:ユーザ内のプロの割合について
川合:ペイントアプリもしくはWindows版で、プロのユーザと一般のユーザの内訳はどのようになっていますか? どのくらいプロのユーザがいらっしゃるのでしょうか?
神谷:当サービスのユーザはほぼプロではなく、趣味で使っている方が多いです。これは、Windows版を出したのが遅かったということも理由の1つとしてあると思います。
また、プロにとって必須の機能が少し足りない部分もあると思いますので、開発に注力したいと思っています。
荒井:趣味で使っている方が多いということで、SNSに共有する場も作っていらっしゃると思います。アプリユーザの中で何割ぐらいの方が、その共有する場で楽しまれているのでしょうか?
神谷:すみません。それについては数字を出していません。
荒井:かなり多くの方が見てほしいと思っており、そのような場の提供になっているのでしょうか?
神谷:そうですね。やはり趣味で使っている方は、承認欲求で描いている方もたくさんいらっしゃいます。他には、スキルアップが楽しいという方もいます。
荒井:私も少し拝見しましたが、本当にいろいろなタイプの絵がずらっと並んでいて、絵を描かない立場でも、覗いてみると大変楽しいと思いました。
神谷:そうですね。当サービスのユーザの女子高校生がアップロードしたものに海外の方が英語でコメントをしていることもあります。コメントも海外比率がかなり大きく、おもしろいと思いながら見ています。
荒井:NFTに直接的につながるようなサービスは考えていらっしゃいますか?
神谷:NFTについてはあまり考えていません。
荒井:ではその先は、「アプリを使って作品を作られたユーザさまたち自身で楽しんでください」ということですね?
神谷:そうですね。NFTの場合は、本物であるかの証明だけですので、他にもいろいろな方法があると思います。
荒井:仮想通貨なども絡んできますので、ハードルがあり難しいかと思います。
質疑応答:今期の広告宣伝費を減らす決定について
川合:決算の広告宣伝費に関して質問です。今期はかなり減らしていくということで、各界も反応していると思います。その分析についてあらためてうかがいます。なぜ今期はかなり減らすという意思決定を下せたのでしょうか? 何か材料になっているデータなどはありますでしょうか?
神谷:基本的に、人口に対するコアなペイントユーザには上限があります。アクティブユーザ数が増え、その上限に達することを社内では「飽和」と言っていますが、そのようなかたちに近づけば近づくほど、広告取得単価は上がっていきます。それにより効率が悪化していくため、飽和した状態で広告をたくさん打ち続けることに意味がなくなっていきます。
また毎年、「中学1年生になってスマホを買った」という人も出てきますし、取り切れていない国やまだ伸びている国もあるため、そのために残しているという面もあります。
川合:スライドのグラフに記載されていますが、広告宣伝費の実額は、前期の9.5億円に対して今期は4.5億円を計画しています。4.5億円の投下で、一定のダウンロード数やMAUの増加が見込めるという分析でしょうか?
神谷:目標としては、DAUを維持するというイメージです。
川合:4.5億円ぐらい投下していればDAUを維持できるということですか?
神谷:厳密に言うと、実際には少しだけ下がる面もあります。例えば、広告を見てダウンロードした方の数が、「昨年は10万人でしたが、広告が半分になったため、ダウンロードした人数が5万人になりました」となると、ダウンロードして15分後にはアンインストールしたような、本当のターゲットではなかった方のダウンロード自体も減ります。そのため、DAUのカウントとして、直接的には少し減るだろうと考えています。
質疑応答:無料版でほぼフル機能使えることが有料版への移行を妨げている可能性について
川合:有料のサブスクリプションに切り替える前の無料版で機能を絞ることをせず、ほぼフル機能で使えることが有料版に移行するハードルを高めてしまっているのではないかという指摘があります。そのあたりはいかがでしょうか?
神谷:今まで無料でリリースしてきた機能を、後から有料に切り替えるということは行っていません。そのようなことをしている他企業のアプリもありますが、やはり大炎上して、会社としての信用を相当落とします。SNS時代のため、口コミの影響力は非常に大きいです。そのため、そこは慎重に判断していきたいと思っています。
一方、プロ向けの機能でまだ作っていないものが山ほどあるため、そちらの新機能をサブスクリプション用の機能として追加していくことを考えています。
質疑応答:今後のM&Aの調査・計画について
荒井:先ほどM&Aの調査を開始するというお話がありました。お話しいただける範囲で、どのような分野のどのような会社を狙っていくおつもりなのかを教えていただけますでしょうか?
神谷:未来の話はあまりできませんが、やはり今の「ibisPaint」ユーザのターゲットに、ある程度近しい隣の市場などを考えています。
またモバイル事業だけでなく、ソリューション事業のほうも検討していきたいと思っています。こちらは同業で人数が増えるイメージになります。
質疑応答:5年後の会社のイメージ像について
荒井:5年後の会社の目指す規模感について、どのようなイメージをお持ちでしょうか?
神谷:今回の資料に「中長期的に売上を倍にしたい」という内容があります。それが5年後かどうかは明確ではありませんが、今後は広告売上とサブスクリプション売上を足して倍にしていきたいと思っています。
質疑応答:M&Aの目的について
川合:先ほどのM&Aのお話を少しうかがいます。例えば「追加したい機能があり、そのためにエンジニアに来てもらいたいからM&Aをする」ということはあるのでしょうか?
神谷:それはないと思います。高い技術の人材を取るためにM&Aをするということは、なかなか難しい気がします。
川合:それでは、周辺のビジネスを拡大させるためということがメインになりますか?
神谷:そうですね。そちらのほうになります。
質疑応答:中高生向けの新しいビジネスイメージについて
荒井:中高生のユーザが非常に多いというお話がありました。そこに関連して、中高生に響く、何かまったく違うビジネスを展開していくイメージはあるのでしょうか?
神谷:私自身、若者の新しい文化や動き、流行などに大変興味があり、日々観察しています。したがって、新しい商品を作りたいという時は、そのようなことも考えられると思います。
荒井:神谷社長も昔から絵を描かれていたのでしょうか?
神谷:「ibisPaint」を企画設計したものの、私自身はまったく絵を描きません。
荒井:そうでしたか。ユーザの方のお気持ちを理解されているという背景があるのだと思っていました。
神谷:私は根っからのエンジニアのため、技術的にきちんと優位になるのか、ユーザーインターフェースの設計は良いのかなどに注力しつつ、あとは日々SNSで情報収集をして、ユーザの声を聞いています。
荒井:ご自身でSNSを確認されているのですね。
神谷:はい、毎日見ています。
荒井:そのようなところが若者に響くもの作りにつながっているのですね。
質疑応答:サブスクリプション契約数の増加に寄与した機能について
川合:先ほど、サブスクリプション契約数が、いろいろな機能を追加するごとに増えてきたというお話がありました。ここ1年、2年の間で、契約数増加に寄与した機能はありますか?
神谷:厳密な数字は出ていませんが、1年ほど前に「アニメーション機能」というものを作り、大変好評でした。もう少し前には「クラウド同期」という、端末が急に壊れた時でもデータがサーバーに保存されているという機能を作り、そちらも喜ばれました。
川合:以前の資料では「AI超解像」というものをご紹介されていたと思いますが、そちらも寄与しているのでしょうか?
神谷:「AI超解像」は基本的に広告付きの無料機能になっているため、直接的にサブスクリプションにつながるということはないと思います。
川合:バージョン11になったタイミングでも伸びたのではないかという分析もありますが、そのあたりはいかがでしょうか?
神谷:そうですね。まさにバージョン11の目玉が「アニメーション機能」の追加でした。
質疑応答:今後の新機能について
川合:2024年度において、どのような機能がアップデートされるのか、またはすでに決まっている機能などがあれば教えてください。
神谷:大きい機能ですと開発に2年ほどの時間がかかってきます。決まっている機能はありますが、まだリリース前ということで、お答えは控えます。
質疑応答:Mac版のリリースについて
荒井:「Mac版のリリースというのは、やはりハードルが高いものなのでしょうか?」というご質問です。
神谷:Mac版の要望は昔からいただいており、我々も作りたいと思っています。開発することが技術的に大変かというと、Windows版も出していますので、それほど大変ではありません。
むしろWindows版の時が大変でした。Mac版に関しては同じApple製品である「iPad」に近いため、作りやすい面があります。
荒井:なぜMac版に先行してWindows版に取りかかられたのでしょうか?
神谷:やはり、パソコンの市場では、おそらく85パーセントぐらいの方が「Windows」を使用していると思いますので、そちらを先にリリースしました。
質疑応答:費用の減少と市場の飽和の関係について
荒井:「今期費用が減少する理由は、市場が飽和しつつあるからだと解釈しています。ユーザ数の成長に限界がきつつあるということなのでしょうか?」というご質問です。
神谷:1年前は「新型コロナウイルス特需の反動だろうから、今後挽回するだろう」と半分期待していた部分があったのですが、スライドのMAUを表すグラフからもわかるとおり、1年以上水平を飛行している状態が続いています。
また競合とのシェアについても、すでに87パーセントほどのシェアを占めているため、これ以上シェアを広げることが難しくなってきています。このようなことから、市場は飽和状態にあるといえると思います。
したがって、今まで12年間リリースしてきた中で、アクティブユーザを増やすことにエネルギーを費やし、広告売上を主力としてきましたが、今後はサブスクリプションのほうに一層力を入れていくべきだと考えています。
質疑応答:高年齢ユーザ層の拡大について
荒井:若い層のユーザが多いというお話ですが、逆に高年齢層ユーザを増やしていくプランなどはありますか?
神谷:積極的に拡大していくということはあまり考えていません。サービスとしては、平均年齢がどうしても上がっていきています。例えば、「『Instagram』は若者に人気があるけど、『Facebook』は少し右肩下がりだよね」など、高齢化するとどうしても人気が下がっていく傾向があります。したがって、積極的に若者に興味を持ってもらうかたちで進めていきたいと思っています。
質疑応答:サブスクリプションの解約理由について
川合:サブスクリプションの解約率は開示されていますか?
神谷:開示していません。
川合:御社の分析でもかまいませんので、解約理由を教えていただけますか?
神谷:例えば、法人向けのSaaSなどに比べると解約率は高いです。「ibisPaint」は契約者の多くが中高生です。クレジットカードを持っていないということもあり、親御さまのカードを借りられる方はいいのですが、場合によってはコンビニなどでプリペイドカードを買って契約するというケースもあります。そのため、どうしても支払い期限が切れやすくなってしまいます。
またコンシューマー向けのサービスのため、例えば「今月は2回しか絵を描かなかった」ということになりますと、「1回解約しようかな」という考えになってきます。やはり法人向けのシステムに比べると、解約されやすいと思います。
質疑応答:為替感応度について
荒井:「為替感応度はどのくらいですか?」とのご質問です。
神谷:為替のほうは、1円円安になると利益が1,000万円出るという計算をしています。こちらは平均136円ぐらいでシミュレーションした計画になっています。昨年11月頃に、各銀行や証券会社が出している未来予測値を参考にして作成したため、現在は少し円安傾向にあり計画よりプラスになっています。
川合:為替感応度に関してですが、売上とコストはそれぞれどのような外貨建ての取引になっているのでしょうか?
神谷:海外比率73パーセントとスライドにありましたが、モバイル事業の売上に関しては、海外売上すべてがドル建てになります。
コストに関しては、ストア販売手数料があります。App StoreやGoogle Playストア、Microsoft Storeに支払う手数料で、18パーセントほどを占めています。こちらも海外売上に対してドル建てで引かれています。また、広告に関しても基本的には海外向けに広告を打っていますので、こちらもドル建てになっています。
川合:ユーザの国の通貨によって売上が立つということでしょうか?
神谷:一度ストアのほうで日本以外の国がすべてまとめられて、ドル建てされる仕組みになります。
質疑応答:ROEが高い理由について
荒井:「ROEが非常に高い理由について教えてください」というご質問です。
神谷:少ない元手で多額の利益を創出できる、資本効率が極めて高いモバイルセグメントが主事業であるためと考えています。
質疑応答:アプリ広告の売上について
川合:アプリ広告の売上に関しては、「ユーザ数×広告市況」が寄与していると思います。しかしながらボトムから6割ほど増えているため、広告市況連動の倍ぐらい動いているように思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか?
神谷:インターネット全体の統計は出ますが、広告市況全体についてはわかりかねます。またモバイルアプリの画面内に出る広告というのは、狭い市場になります。例えば、大ヒットしたゲームや「TikTok」のような人気アプリに、大赤字覚悟で広告をたくさん出す企業が現れると広告料も上がりますし、それが一段落すると下がります。このような変動が大きいのではないかと思っています。
川合:御社のユーザ層ならではの広告が出てくるようなイメージでよいのでしょうか?
神谷:そうです。基本的にはGoogle等のAIが最適なものを出しているということですが、市場としては広告出稿主の金額として、やはりゲームが多いという印象です。我々の商品はクリエイティブ製品になりますので、AIのアプリや画像系のAIアプリなどの広告が出てくるという感じになります。
質疑応答:為替の影響について
川合:為替の影響はありますでしょうか?
神谷:はい。為替のところは助かりました。
質疑応答:サブスクリプション契約数を増加させるための施策について
川合:スライド38ページのサブスクリプション契約数に関してです。前期は5万件ほどの増加、そして今期の計画として7万件ほどの増加を想定されていますが、こちらを加速させる施策などはありますでしょうか?
神谷:引き続きサブスクリプション専用の高機能を追加する予定と、マーケティング的に誘導する部分にも予定があります。
神谷氏からのご挨拶
社内でもたくさんの分析ツールを作り、きちんと計画にのっとり、かなり細かい分析を行いながら、創業から20年あまり、増収増益で経営をしてきました。今後も期待していただければと思います。応援のほど、よろしくお願いします。
当日に寄せられたその他の質問と回答
当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業にご回答いただきましたのでご紹介します。 (ご質問の内容については、ご理解いただきやすいよう部分的に加筆・修正しています。 回答は、2024年3月11日時点の内容です。)
<質問1>
質問:株式の流動性を高めるために社長及び常務の持ち株を一部放出しても良いのではと感じるのですが、この点に関するお考えを教えてください。
回答:私は今年2月21日に150,000株を、常務の村上は昨年11月、12月に計190,000株を放出しました。将来的に当社株式の流動性向上策としてさらに売出し等を検討する可能性はありますが、現時点においては未定です。
<質問2>
質問:売上構成比について、現在モバイル事業の売上が60パーセント、ソリューション事業の売上が40パーセントと記載がありますが、今後ソリューション事業が柱となる可能性もあるのでしょうか?
回答:現時点で、そのような可能性は低いとみています。