個人投資家向けIRセミナー

小俣貴之氏(以下、小俣):日立建機株式会社ブランド・コミュニケーション本部、広報・IR部担当部長の小俣です。私は日立建機に入社してから、油圧ショベルや油圧ショベルを使った応用製品の設計を担当していました。その後、さまざまな経歴を経て、今では広報やIRなどの仕事をしています。よろしくお願いいたします。

本日ご説明したいことは、会社概要、経営戦略、株主還元の3点です。みなさまにはぜひ、日立建機がどんな会社なのか、成長のためにどのような戦略を展開しているのかを知っていただきたいと考えています。

豊かな大地・街づくりに貢献して70年

小俣:会社概要です。当社は「豊かな大地、豊かな街を未来へ 安全で持続可能な社会の実現に貢献します」をありたい姿として経営を行っています。当社の事業は、世の中に必要不可欠なエッセンシャルビジネスであり、事業を通じて持続可能な社会の実現を目指していきます。

日立建機グループの沿革①

小俣:日立建機の歴史をご紹介します。当社の歴史は、日立製作所で初めて機械式ショベルを開発し、量産を開始した1950年にさかのぼります。その後、1970年の日立製作所からの分離独立を「第1の創業」と位置づけています。ここであえて「第1」としているのは、続く「第2の創業」があるためです。

日立建機グループの沿革② 第2の創業

小俣:当社は、2022年に2つの大きな変化がありました。1つは、2022年3月に米州で独自の事業展開を開始したことです。これまで米州では、現地の農業機械メーカーであるディア社との合弁事業を展開していましたが、この提携関係を解消し、新たに当社独自の事業展開を始めました。

加えて同年8月には、日立製作所が保有する当社株式の約半分を日本産業パートナーズと伊藤忠商事に売却しました。これをもって日立製作所の連結子会社を外れ、日立グループから独立しています。

この2つは別々の事象ではありますが、いずれも当社にとっては非常に大きな変化です。こちらを当社の「第2の創業」と位置づけ、さらなる成長に向けた経営戦略を展開しています。

日立建機のグループアイデンティティ

小俣:このような事業環境の変化を受け、あらためて「日立建機とはどのような会社なのか」を自分たち自身で明確にするために、従業員から広く意見を募って独自のグループアイデンティティを策定しました。

スライドには、策定したアイデンティティを記載しています。「私たちの使命」として掲げているように、卓越した技術をベースにお客さまの期待や課題に迅速にお応えし、革新的な製品・サービス・ソリューションをお客さまや連携パートナーと協創していきます。

日立建機グループの事業ポートフォリオ

小俣:当社の事業についてご紹介します。スライド上段にあるいくつかの写真は、当社が製造・販売している建設機械の一部です。

これらの機械は、サイズによって3つに区分けしています。「コンパクト」は小型機、「コンストラクション」は大きな工事現場などで活躍している中型から大型機、「マイニング」は主に海外の鉱山などで使用されている超大型機です。

下段のバリューチェーン事業は、新車販売以外の事業を示しています。アフターサービスやレンタル事業、中古車の販売、部品や車体丸ごとの再生事業などを含んでおり、建設機械のバリューチェーン全体に価値を提供していくことから、このように呼んでいます。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):3つに区分けされている建設機械のうち、売上が一番大きいのはどちらになりますか?

小俣:一番の売れ筋製品はコンストラクションです。こちらの新車売上は約6,500億円で、主力製品となっています。マイニングの新車売上は1,036億円です。

坂本:最近伸びている機械はどちらですか?

小俣:今ご注目いただきたいのはマイニングです。鉄や銅などの資源価格が安定しているため、これらの稼働が非常に良いです。

坂本:御社で一番売れているコンストラクションは街中などでもよく目にするため、おそらく競合も多いと思います。やはり、マイニングのほうが競合等は少ないのでしょうか?

小俣:そのとおりです。マイニングの機械は、24時間365日、決して壊れてはいけません。したがって、これを作り上げる技術も相当高いレベルが求められており、競合メーカーの数は少ないです。

お客さまとのさまざまな接点で、「価値の連鎖」=「バリューチェーン」を提供

小俣:スライドの図は、バリューチェーン事業の考え方を示したものです。

当社の工場で生産された製品は、新車販売あるいはレンタルを通じてお客さまに届けられます。お客さまが製品を使った時に、部品販売やサービスでタッチポイントが生まれます。最終的には中古車として当社が買い取り、また新たに販売します。

あるいは、必要に応じて部品や本体丸ごと再生を行い、なるべく無駄がないように循環させていきます。お客さまとのさまざまな接点において、価値の連鎖、すなわちバリューチェーンを提供していきます。

さまざまな分野で働く 日立建機グループの製品

小俣:当社の機械が実際に活用されている現場の写真です。スライドのとおり、当社の製品はさまざまな分野で利用されています。

事業規模の推移

小俣:事業規模の推移です。スライドのグラフの一番左側が、当社が日立製作所から分離独立した1970年を示しています。

2000年代頃から本格的に開始したグローバル展開は、特に新興国の旺盛な需要に支えられて、海外売上比率が80パーセントを超えるまでに高まりました。2018年度には、当社として初めて売上1兆円を達成し、着実に成長を遂げています。

また近年では、機械の電子制御や機械の稼働データの活用などを通じ、お客さまと24時間365日つながるさまざまなサービスメニューをそろえるなど、バリューチェーン事業にも注力しています。

売上比率

小俣:事業別・地域別の売上比率です。事業別では、新車販売が約6割、バリューチェーン事業が約4割となっています。バリューチェーン事業は新車販売よりも収益性が高いため、売上比率を50パーセント程度にまで引き上げ、より収益性の高い事業構成にすることが今の目標です。

地域別ではグローバルに展開しており、バランスの良い売上比率になっています。

坂本:バリューチェーンの売上比率が高まってきているとお話しいただきました。建機業界にも、車のようにメーカー系列ではない独立系の中古販売会社や、消耗品のサプライヤーなどが存在するのでしょうか?

小俣:例えば、油圧ショベルの先端に付いている爪のような部分は、純正品ではなくてもまったく問題ありません。しかし、油圧機器やエンジンに関する部分は品質や性能が落ちてしまうため、なるべく純正品を使っていただきたいです。

ただし、当社のデータ通信では、純正品以外の部品や油が使われたことはすぐに把握できるようになっています。

坂本:その場合は、車などでもよくあるように補償が受けられなくなるのでしょうか?

小俣:おっしゃるとおりです。

坂本:そのあたりも全部把握できるようになっているのですね。また、地域別の売上についてもお話しいただきましたが、近年で変化している部分があれば教えてください。

小俣:スライドの円グラフは2022年度の地域別売上比率ですが、10年前の2012年度の売上比率は、日本が25パーセントで今よりも高かったです。アジア・インド・オセアニア等の地域はあまり変わっておらず、31パーセントでした。

注目すべきは中国です。今は3パーセントですが、2012年度は12パーセントと約4倍もありました。欧州・アフリカ・中近東は今とあまり変わらず、18パーセントです。

そして、最も変わったのは米州です。2012年度は15パーセント程度でしたが、今は24パーセントとなりました。特徴的なのは、中国の比率が非常に下がっていることと、それを打ち消すように米州の比率が伸びていることです。

グローバルネットワーク

小俣:グローバルネットワークについてです。当社はグローバルで事業を展開する中で「地産地消」を基本的な考えとして、各地域に開発・生産・販売拠点を展開しています。

地域ごとに求められる製品の種類や、性能・機能なども多様化しています。それに伴い、開発拠点や生産拠点をグローバルに拡大してきました。今では、部品や車体を再生する工場も世界各地にあります。

日立建機グループの強み:選ばれる理由

小俣:当社の強みと選ばれる理由についてご説明します。当社がお客さまに選ばれる理由は3つあります。

1つ目は独自の研究開発と高度な生産技術に支えられる「製品力」、2つ目は直接販売・直接サービスを基本として、お客さまとの深い接点を構築する「グローバルネットワーク」、3つ目はお客さまの作業効率化や資産管理に最適なソリューションを提供する「デジタルソリューション」です。

デジタルソリューションについては、後ほど詳しくご説明します。

中期経営計画

小俣:経営戦略についてご説明します。スライドには、中期経営計画の概念図を示しています。

ご注目いただきたいのは、スライド右側の「経営戦略の柱」です。経営戦略の柱として「顧客に寄り添う革新的ソリューションの提供」「バリューチェーン事業の拡充」「米州事業の拡大」「人・企業力の強化」の4つを掲げています。

経営戦略の柱

小俣:本日は、4つの経営戦略の柱ごとに重点施策をピックアップしてご紹介します。

顧客に寄り添う革新的ソリューションの提供

小俣:中期経営計画の1つ目の柱である「顧客に寄り添う革新的なソリューションの提供」についてご説明します。

お客さまの課題には「現場の安全性・生産性の向上」「ライフサイクルコストの低減」「環境に良い機械の使用」などが挙げられます。今はさまざまな技術が進歩しており、課題を解決する方法は、ますます複雑になっています。

当社はお客さまの課題を解決するために、デジタルを活用した「多彩なデータ連携」と「製品の進化」を目指しています。

スライド左側に記載している、機械の稼働情報を遠隔管理する「ConSite(コンサイト)」を中心としたデータ活用を今よりもさらに拡大しながら、人と機械の協調安全や高度な自立運転などの製品をさらに進化させることで、顧客に寄り添う革新的なソリューションの提供につなげていきます。

加えて、業界に先駆けて取り組んでいる、お客さまや建設機械業界以外のパートナーとさまざまなソリューションを作る協創についても、事業化を加速していきます。

バリューチェーン事業の拡充(部品サービス)

小俣:2つ目の柱である「バリューチェーン事業の拡充」についてご説明します。まずは、先ほどお話しした当社のサービス・ソリューション「ConSite」の活用事例動画をご覧ください。

(動画流れる)

バリューチェーン事業の拡充(部品サービス)

小俣:部品サービス事業においては、当社のサービス・ソリューション「ConSite」が非常に重要な役割を果たしています。

「ConSite」の活用は、故障後のアプローチだけではありません。「ConSite」を通じて日々取得しているデータを活用した故障予兆診断も実施しているため、機械が壊れる前に、お客さまに適切な提案を行うことができます。これらを通じて、お客さまのライフサイクルコストの低減を実現しています。

坂本:不具合発生時には御社にすぐデータが届き、事前に対策が打てるということだと思います。販売方式は直営と代理店の両方あるのでしょうか? また、サービスに関しては代理店が行うパターンと直営ですべて行うパターンがあると思いますが、このあたりの販売方式とサービス提供までのルートを教えてください。

小俣:この事業を始めた日本では直接サービスを提供しているほか、アジアやアフリカ、イギリスなどでも直売しています。

アメリカや中国、イギリス以外のヨーロッパでは代理店制を敷いており、常に情報を共有しています。代理店が販売しているところでは、代理店のサービス員や営業員のスマートフォンにこれらの信号が即座に届きます。

坂本:代理店のサービスマンに信号が届き、御社と同じようにサポートできる状況になっているということですね。

バリューチェーン事業の拡充(レンタル・中古車)

小俣:レンタル・中古車事業についてご説明します。当社は建設機械メーカーですが、レンタル事業も行っています。

当然ながら、レンタル機は「ConSite」を通じて、適切かつ行き届いたメンテナンスを行っています。レンタル期間が終わった後は、大変良質な中古車機械として販売できるため、お客さまに対してとても良い価値を提供することが可能となります。

レンタル機械は、スライド右上にロゴを記載した「PREMIUM RENTAL」としてブランド展開しています。

中古車は、当社のレンタル機械が中古車になったものと、お客さまから買い取ったものがあります。整備内容や保証条件に応じて「PREMIUM USED」あるいは「REFURBISHED USED」で展開しており、お客さまが選択できる幅を広げることで信頼感につなげています。

バリューチェーン事業の拡充(部品再生)

小俣:再生事業についてご説明します。まずは、当社が取り組んでいる部品再生事業の紹介動画をご覧ください。

(動画流れる)

日立建機グループでは1990年代後半から、部品再生の取り組みをグローバルに展開してきました。回収した部品を当社の再生工場で再生し、当社の保証をつけて販売しています。また、新品を再生部品に置き換えることで、新品に比べてCO2発生量を半減することが可能です。これらの取り組みにより、環境への効果を期待できます。

バリューチェーン事業の拡充(車体全体の再生)

小俣:部品再生事業の一環として、直近では車体全体の再生にも取り組んでいます。メーカーならではのノウハウを活かして車体全体を再生し、中古車として販売することで、新たなビジネスモデルの構築に取り組んでいます。

バリューチェーン事業の拡充(サーキュラーエコノミーへの取組)

小俣:バリューチェーン事業の総括です。

スライド左側には、当社が目指す「資源循環型ビジネス」を図示しています。部品再生・中古車販売・レンタルによるリユース・サービスによって、簡単に機械を捨てずに何度も直して使うことを通じて、さまざまな角度から鉄の廃棄量を減らします。これらを「4つのR」として、日立建機グループ全体で取り組んでいます。

また、当社の強みである「ConSite」や部品再生、本体再製造を活用することで、車体稼働年数を10年から15年に長期化させる目標を掲げています。これにより、サーキュラーエコノミーにも取り組んでいきます。

坂本:環境面では、最近課題になっている再使用や有効利用は非常に大事な取り組みだと思いますが、新車を販売したほうが利益や売上は伸びるのではないかとも思います。再生・中古車・レンタル・サービスを進化させることで、新車販売よりも利益が高くなるとイメージしてよいですか?

小俣:建設機械は「売って終わり」ではなく、機械を使用すればどこかが消耗したり壊れたりしてしまいます。そのために部品販売やサービスがあります。

機械の寿命を延ばすことは、お客さまとのタッチポイントをより長く保つことにつながります。それによってお客さまの信頼を得ることで、次の買替え時にも当社の機械を選んでいただけるという好循環を狙っています。

カーボンニュートラルに向けた取組

小俣:カーボンニュートラルに向けた取り組みについてご紹介します。当社はサステナブルな社会の実現を目指し、脱CO2に向けた長期的な取り組みを推進しています。

スライド左上にある4つの小型の油圧ショベルは、主に街中の工事で使われるものです。小型の電動ショベルはすでに欧州で販売実績があり、他社に先駆けて取り組んでいます。

スライド右下の油圧ショベルの近くに見える白い箱は、油圧ショベルをその場で充電できる大きなモバイルバッテリーです。みなさまがスマートフォンなどを充電する時に使うモバイルバッテリーを大きくしたものとイメージしてください。

また、伊藤忠商事や九州電力をはじめとする世界中のパートナーと協業し、本格的な実用化に向け、電動ショベルを建設現場で活用するためのシステム構築にも取り組んでいます。

カーボンニュートラルに向けた取組:フル電動ダンプトラック

小俣:フル電動ダンプトラックについてご紹介します。まずは動画をご覧ください。

(動画流れる)

ご覧いただいたフル電動ダンプトラックを、スイスの大手重電メーカーABB社と共同開発しています。当社がすでに販売している電動走行可能なトロリー式ダンプトラックには、発電用エンジンが積まれています。このエンジンをバッテリーに置き換えることで、トロリー給電とバッテリー給電を併用し、給電のために停止する必要がないフル電動ダンプトラックの実用化を急いでいます。

荒井沙織氏(以下、荒井):エンジンがバッテリーに代わるイメージ動画は、とてもわかりやすいと思いました。フル電動の建機は、従来の建機とどのくらい価格差があるのでしょうか?

小俣:機械自体の価格は少し高くなります。ただし、エンジンが必要なくなることに伴い、フィルター交換などの定期メンテナンスも必要なくなります。

また、このような鉱山では、軽油を燃料とするダンプトラックが数十台稼働していることもあります。軽油は高価ですので、電気に置き換えることができればランニングコストが大幅に縮減されます。そのため、お客さまに対しては、メンテナンス費用や燃料代などのランニングコストを含めた提案を行っています。

荒井:それらを含めれば、従来品と比べてもさほど大きなコストには感じないということでしょうか?

小俣:おっしゃるとおりです。その点でも注目いただいています。また、鉱山会社のみなさまはCO2を減らす努力をしていますので、そちらに対しても良い機械であると評価されています。

荒井:それらの取り組みについては、助成金などもあるのでしょうか?

小俣:鉱山の機械については、鉱山会社が十分な資金を持っています。ただし先ほどご紹介した小型の建設機械は、ヨーロッパの国々では購入時に政府からの助成金が出ることがあるため、お客さまのハードルも低くなっています。

(再掲)日立建機グループの沿革② 第2の創業

小俣:3つ目の柱である「米州事業の拡大」についてご説明します。冒頭の沿革でもお伝えしましたが、当社は2022年3月にディア社との合弁事業を解消し、米州で独自の事業展開を開始しました。

さらなる成長のための経営課題:米州事業

小俣:なぜ「米州事業の独自展開」が当社にとって重要なのかをご説明します。

スライド円グラフの「世界市場」と書かれているところをご覧ください。北米と中南米を足すと、中小型の建設機械は約40パーセント、マイニングの機械は約30パーセントと、非常に大きな割合を占めていることがわかります。

一方で、当社の売上比率はスライド右側の円グラフのとおりです。中小型の建設機械は約24パーセント、マイニングの機械は約14パーセントにとどまり、課題となっています。

米州事業の拡大:独自展開

小俣:世界最大の市場である米州で大きく成長するために当社が決断したのが、米州事業の独自展開です。スライドには、過去と現在の販売方法を図示しています。

2022年2月までの当社は、パートナーであるディア社との合弁事業を展開しており、製品開発は日立建機、製造はディア社と日立建機の両方が行い、販売とアフターサービスはすべてディア社が行っていました。

現在は、開発、製造、販売、アフターサービスまで一貫して、日立建機が独自に行えるようにしています。

ディア社にアフターサービスをお願いしていたため、彼らが販売した機械には「ConSite」を載せることができませんでした。世界の40パーセント以上を占めるお客さまからのデータが取れないのは当社にとってあまり良くないため、当社は独自展開の道を選んだという経緯になります。

坂本:ディア社がアフターサービスを行うとはいえ載せようと思えば載せられたと思いますが、あえて載せなかったのでしょうか?

小俣:載せられたかもしれませんが、ディア社としてはその情報をあまり外には出したくないということです。

先ほど「アフターサービスはとても収益性が高い」とお伝えしましたが、これはディア社にとっても同じです。したがって、当社が収益を伸ばすためにはアフターサービスも自分たちで行っていきたいと思っています。

坂本:一貫して行うことで利益率も上がってきますし、きめ細かいサービスをお客さまに提供できるために競争力も高くなるということですね。

小俣:おっしゃるとおりです。そして、アメリカの資本をもって世界中で事業を行っている会社もありますので、そのようなお客さまの声を世界中の製品に反映することができます。

米州事業の拡大:これまでの実績と定量目標

小俣:独自事業を開始して、この3月で約2年間が経過しました。スタートダッシュは非常に好調です。

日立ブランドの実績を背景として早期に代理店ネットワークを構築できたことで、独自展開の初年度である2022年の売上は、前年度比で2倍以上の成長となりました。直近では部品サービス拠点の強化や、エンドユーザーのお客さまや代理店が使用するファイナンスメニューの拡充など、事業の強化をさらに進めています。

スライドの棒グラフに記載のとおり、2025年度には日立建機の独自展開のみで売上3,000億円以上を目標としています。

坂本:ディア社には販売とアフターサービスを任せていましたが、独自展開では「ConSite」を使い、アフターサービスを代理店にある程度任せるかたちでの展開になるという認識で合っていますか?

小俣:ご認識のとおりです。ただし、製品は今まで当社がディア社を通じて販売していた機械よりも1世代あるいは2世代ほど新しくなるため、アメリカの代理店も初めて扱うかたちになります。したがって、「ConSite」の使い方や機械の直し方などの教育も充実させています。

坂本:御社は販売も行っていますが、独自展開にかかる販売網や人員などの一時的な費用はどのくらいでしたか? 

小俣:初めは、数百億円程度の投資が必要だと考えていましたが、結果的には数十億円程度の非常に小さな投資で済みました。

坂本:やはり代理店がアフターサービスを行うことが大きいのでしょうか?

小俣:そのとおりです。加えて、代理店が「やっと日立の機械を扱うことができるようになった、ウェルカム日立」という態度で、あまり当社がお金を出さなくても「ぜひ、この機械を扱わせてください」と言ってきてくれたことも大きいです。

デジタル人財育成

小俣:4つ目の柱である「人・企業力の強化」についてご説明します。

まずは、デジタル人財の育成についてです。建設機械という製品そのもののデジタル化に加えて、事業全体ではデータ活用に関するデジタル技術が非常に求められています。

そのため当社では、営業や企画などの仕事をしている人とモノ作りや開発などの現場で仕事をしている人が、それぞれに必要なデジタルスキルを考慮した上で実践的なスキルを身につけることができるよう、人財育成のプログラムを整備しています。

今後さらに求められるデジタル化へ迅速に対応できるように、人財を育成しています。

国内における開発・生産拠点の再編

小俣:企業力強化に関わる取り組みについてです。当社は収益性改善のため、またお客さま視点での経営に転換を図るために、国内の開発・生産拠点の再編を進めています。具体的には、製品ごとに分かれていた開発・生産拠点を「コンパクト」「コンストラクション」「マイニング」という大きさ別に集約するかたちで再編しています。

これにより、同じくらいの大きさの製品を同じ工場・拠点で生産・開発できるようになりました。今後も、これまで以上にお客さまのことを考え、お客さまの目線で生産や開発を進めることができるように体制を整えていきます。

中期経営計画の定量的目標

小俣:中期経営計画の定量目標についてご説明します。さまざまな観点で定量目標を設定していますが、注力事業である米州・マイニング・バリューチェーン事業を中心に、これまでにない規模での成長を目指して取り組んでいます。

配当実績

小俣:株主還元についてご説明します。

今年度からの中期経営計画では、連結配当性向の目標を「30パーセントから40パーセントを目安に安定的にかつ継続的に実施する」としています。前回の中期経営計画では、「30パーセント程度もしくはそれ以上」としていましたので、目標を1段階引き上げたかたちになります。

2022年度は堅調な市況と米州での独自展開を追い風にして収益が伸びました。1株あたりの年間配当は110円と、過去最高額を記録した2021年度と同額となっています。今年度の配当総額は未定ですが、中間配当は過去最高額となる85円と決定しています。

資本配分

小俣:資本配分の考え方としては、成長力、財務安定性、株主還元をバランス良く配分し、企業価値の向上を目指します。米州の独自展開などの必要な投資額は確保しつつ、連結配当性向は40パーセントを目指し、段階的に引き上げていく計画です。

株主のみなさまのご期待に添えられるよう、本日ご説明した成長戦略を着実に推進し、企業価値向上を目指していきます。

質疑応答:中国事業の見通しについて

坂本:以前は中国事業が地域別売上比率の12パーセントほどを占めており、現状は3パーセント程度とのことでした。今後の中国事業の見通しについて教えてください。

小俣:スライドの円グラフで示したように、現在の中国での売上は全体の3パーセントと非常に小さくなっています。ただし、中国には当社の大きな生産・開発拠点がありますので、今後も重要な拠点になると考えています。

坂本:中国で生産された製品は、中国国外へ輸出されるのでしょうか? それとも中国国内である程度販売されますか?

小俣:中国国内でももちろん販売しますが、主にヨーロッパや東南アジアなどへ展開しています。

質疑応答:為替感応度について

坂本:「為替感応度はどのぐらいあるのか教えてください」というご質問です。御社は海外展開も多いため、現地通貨で地産地消するとは言え円転する部分もあると思いますが、いかがでしょうか?

小俣:2023年度の予想では、前年度との比較において、調整後の営業利益に占める為替影響はプラス286億円、このうちアメリカドルが半分以上の180億円以上を占めています。

坂本:非常に大きいですね。やはり海外で勝負しているため、ある程度のブレは仕方ないところがあるのでしょうか?

小俣:おっしゃるとおりです。

質疑応答:海外でのダンプトラック事業のシェア獲得について

坂本:「2月の『日経ヴェリタス』を拝読し、米国でのダンプトラック事業が鍵だと感じました。ダンプトラックのシェア獲得への取り組みなどがあれば教えてください。欧米に行かれて数年経ちますので、そろそろ目処が立ってきたのではないかと思っています」というご質問です。

小俣:アメリカでの事業展開は2022年3月から始めましたので、2024年3月で2年になります。もともと、鉱山で使う大型油圧ショベルは、北米や南米でもある程度売れていました。

問題はダンプトラックです。特に中南米では、競合他社のダンプトラックしか走っていません。したがって、超大型油圧ショベルは当社製品でも、相手となるダンプトラックは他社製品という組み合わせが非常に多いです。

しかし、先ほどご説明した電動ダンプトラックは、中南米鉱山のお客さまにもご注目いただいています。この電動ダンプトラックのよいところは、今当社が販売しているダンプトラックを使っていても、後からフル電動に改造ができる点です。

当然ながらエンジンを外す作業は必要にはなりますが、いわゆる「レトロフィット」に対応しています。

坂本:設計段階からある程度考えて作られているのでしょうか?

小俣:おっしゃるとおりです。

質疑応答:フル電動ダンプトラックの発電について

荒井:「フル電動ダンプトラックは、給電だけではなく、タイヤ走行における発電も加わるのでしょうか?」というご質問です。

小俣:鉱山は、鉱物を掘っていくとだんだん穴が深くなっていきます。したがって、ダンプトラックが鉱物を載せるのは一番深い部分の谷底であり、そこからは上り坂になります。この上り坂に先ほどのような架線を引いて、給電しながら走ります。

下り坂は、最近のハイブリッド車と同様に、ブレーキをしながら回生ができます。そこで発電させることで、バッテリーをチャージすることも可能になります。

坂本:非常によく考えられていると思います。バッテリーをフルチャージすると、稼働時間はどのくらいになりますか? 当然給電しながら走る部分もあると思いますが、そのあたりのイメージを教えてください。

小俣:フル電動ダンプトラックは、バッテリーを使い切るような使い方を想定していません。あれほど大きなものが動かなくなるのは大変だからです。そのため、例えば満充電後に充電が減った際は、架線に戻るようなルートを運行することになっています。

坂本:バッテリーを使い切らずに、ずっと動かせることを前提とした設計になっているということですね。

小俣:おっしゃるとおりです。

質疑応答:再販する中古車の年代や需要の目安について

荒井:「中古車整備・再販で扱う製品は、どのくらいの年代のものが多いのでしょうか? 一般的な寿命の目安も教えてください」というご質問です。

小俣:お客さまによって違うものの、一番の売れ筋である重さ20トンクラスの油圧ショベルは大体5年から10年ほど使用し、中古車としての旨味があるうちに販売するケースが多いです。

坂本:まだ商機がある段階で売って、新しいものに変えるという考え方ですね。

質疑応答:ロシアでの販売について

坂本:「現在も、ロシアでの販売は継続されているのでしょうか?」というご質問です。

小俣:当社も世界中のみなさまと同じように、ロシアの問題が平和的に解決することを望んでいます。当社の製品のうち、鉱山の機械をロシアのお客さまにもご購入いただいていましたが、現在のロシア向け事業はほぼ停止しています。

質疑応答:再生部品の寿命について

坂本:「再生部品の寿命は新品と変わらないのでしょうか? 再生部品にも保証などは付いていると思いますが、新品と入れ替えた場合なども含めて教えてください」というご質問です。

小俣:油圧ショベルを例に上げると、シリンダーや油圧モーターなどの再生を行っており、新品とほぼ同等の寿命を目指して再生しています。性能に関しても、新品同様に再生してから出荷していますので、安心してお使いいただけます。

質疑応答:新興国に対する展望や取り組みについて

坂本:米国への事業展開は、当然ながら御社の利益に直結すると思いますし、今後の発展にも寄与すると思います。しかしながら、今後はインドやアフリカなどの新興国も伸びてくると思います。これらの国々に関する将来の展望と、御社が今行っている取り組みを教えてください。

小俣:インドやアフリカは、今後の成長が期待できる地域であると言えます。

特にインドに関しては「タタ・モーターズ」で有名なタタ・グループと一緒に、タタ日立という油圧ショベルの開発・生産工場および会社を設立しており、建設機械メーカーの中ではいち早くインドに進出しています。インドでのシェアは良い時で30パーセントほどを占め、インドのお客さまも「これは日本のメーカーではなく、インドの工場で作られた機械だ」という認識で使っています。

ご承知のとおり、インドはとても人口の多い国ですので、これからインフラ開発等もどんどん進むと思います。したがって、建設機械の需要の高まりにも非常に期待しています。

小俣氏よりご挨拶

本日は日立建機のご説明をお聞きいただきまして本当にありがとうございました。

当社の製品は、オレンジ色をコーポレートカラーとしています。街中で、このオレンジ色の機械を見かけましたら「あの会社か」と思い出していただければ幸いです。

当日に寄せられたその他の質問と回答

当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。

<質問1>

質問:PBRは1倍以上ありますが、今後何倍程度を目指すなどの目標はありますか? またPERは11倍台で、15倍以下は割安なのですが、どのように改善していきたいのか教えてください。

回答:PBRやPERに関して目標は設定していませんが、当社株式は競合他社と比較して、割安で評価される状況が続いていると認識しています。セミナーでご説明した成長戦略を着実に実行することで、投資家のみなさまからさらにご評価いただけるよう取り組んでいきます。

<質問2>

質問:どの部分が独自の研究開発なのでしょうか?

回答:例えば「油圧制御技術」です。当社の主力製品である油圧ショベルの強みの1つは快適な操作性です。これを可能にしているのは、ブームやアーム、旋回装置などに圧油を適切に分配・供給する当社独自の油圧制御技術です。

この起点となったのは、1965年に国内で初めて純国産技術による油圧ショベルを開発したことにさかのぼります。

当時主流であった1ポンプ1コントロールバルブ方式に対し、自社技術で開発した2ポンプ2コントロールバルブ方式の油圧システムを採用することにより、ブームを上げながら旋回する複合動作の快適な操作を可能とし、油圧ショベルの作業性を飛躍的に向上させました。ここから現在に至るまで、独自の研究開発による油圧制御技術は、製品の快適な操作性を実現する当社の強みとなっています。

<質問3>

質問:競合他社の説明会でも、GPSやセンサを活用したサポートなど、同じような話を聞くのですが、他社では行っていない御社ならではの事業を知りたいです。

回答:当社独自のサービスとして、遠隔でのオイルモニタリングサービス「ConSite OIL」が挙げられます。

センサーを用いてエンジンオイルと作動油の温度や含水量、異物の混入具合などを自動解析し、タイムリーなサービス対応や故障予兆検知につなげています。「ConSite OIL」に関連する技術は特許を取得しており、当社ならではのサービスとなっています。

<質問4>

質問:パートナー企業はどのように選定されているのでしょうか?

回答:研究開発の分野では、スピードアップや自社にない発想テーマを取り込むため、オープンイノベーションを推進しています。社内にオープンイノベーション専任チームを置き、業種にとらわれない幅広い企業との連携を常に模索しています。

<質問5>

質問:今期、営業利益率は過去最高水準の12パーセントを想定されています。マイニング、バリューチェーンの高い利益率が貢献していると思います。コマツの15パーセントを上回る水準になれば、株価のバリュエーション評価も変わってくると考えますが、今のシナリオで15パーセント以上は視野良好と捉えて良いでしょうか?

回答:当社が中期経営計画で掲げている目標は「調整後営業利益率13パーセント以上」です。この目標を早期に達成できるよう、収益性の高い米州・マイニング・バリューチェーン事業を中心とした成長戦略を着実に実行していきます。