株式会社INPEX 個人投資家向けIRセミナー
上田隆之氏(以下、上田):株式会社INPEXの社長の上田隆之と申します。みなさま、こんばんは。今日はINPEXの実態や日頃の仕事ぶりなども含めてご紹介できればと思います。どうぞよろしくお願いします。
馬渕磨理子氏(以下、馬渕):私自身も、今日はお話をうかがえるのを大変楽しみにしていました。個人投資家の方も、非常に注目されている企業です。
最初に業績を確認します。売上高は過去最高を更新し、純利益も2期連続で最高益となっています。配当は実績ではここ5年で3.4倍に拡大しています。また、エネルギーの安全保障の観点からも非常多くの注目が集まっている企業です。
まずはどのような会社なのか、概要からお話しいただきます。よろしくお願いします。
上田:スライド表紙の写真は、新潟県の長岡にあるINPEXの国内プラントで、夜間に撮ったものです。石油、あるいは天然ガスを掘って東京などにお届けしているプラントの夜景の写真を持ってきました。
馬渕:工場夜景が好きな方もいらっしゃいますからね。素敵な写真をありがとうございます。
上田:株主の方々向けに、このような当社国内プラントへの見学会を行っています。工場のキャパシティもあるため、1回につき40人から50人しかお招きできないのですが、実際には2,000人を超える方の応募をいただきました。
新幹線の駅まではそれぞれ自費で来ていただき、駅からは我々がお連れするのですが、そのような負担があるにもかかわらず、多くの方々に見学会に参加していただきました。もしかすると本日ご視聴いただいている方の中にも、関心のある方がいらっしゃるかと思います。
引き続き見学会を行っていきたいと思いますので、もしご関心があれば、ぜひご参加いただきたいと思います。
馬渕:ぜひ、株主になって見学会に行っていただきたいと思います。
当社概要
上田:当社の概要についてご説明します。我々は株式会社INPEXといいます。以前は国際石油開発帝石株式会社といいましたが、「社名に石油の『石』の文字が2つもついているのは、今の時代にいかがなものか」という議論がありました。国際的には以前よりINPEXと名乗ってきたこともあり、INPEXという社名にしました。
株式会社INPEXか、INPEX株式会社かといろいろ迷いましたが、「株式会社INPEXのほうがかっこいいのではないか」ということで、現在は国内でも国際的にも通用する、株式会社INPEXという名前にしていています。
スライドに記載のとおり、従業員数は3,364人となっており、このうちの約4割は日本国籍以外の、いわゆる外国人の方々です。
馬渕:グローバルですね。
上田:非常にグローバルな企業です。株主の特色としては、エネルギー企業ということで政府との関係は非常に深く、経済産業大臣が約21パーセントの株式を保有しています。
スライド右側の写真は「リグ」と呼ばれる、井戸の地下にある天然ガスを掘削する機械です。こちらは新潟のもので、写真の井戸は、今日現在で地下約5,100mまで掘り進めています。本日はこの「リグ」の先端につける「ビット」という部品を持ってきました。非常に重く、一人ではとても持てません。
馬渕:先ほど少し持たせていただきましたが、大変重かったです。
上田:これをくるくる回しながら地下何千メートルを掘り進みます。地面が硬いため、先端にはチタン合金、場合によってはダイヤモンドなどを使いながら掘削しています。
日本のエネルギー会社というと、例えば東京ガスや東京電力ホールディングスなどいろいろありますが、これらの会社は電力あるいは天然ガスの小売事業を中心に行っています。一方、我々は世界で石油や天然ガスを掘り、そのような小売業の方々にお渡しするという会社です。
我々は日本のエネルギー企業ではあるものの、通常の電力会社あるいはガス会社とまったく異なります。世界中で掘ってエネルギー開発を行い、それをお届けする会社です。「山屋」という言葉がありますが、そのような会社のイメージです。
馬渕:エネルギーの最先端に接し、かつ世界でも幅広く開発されています。
上田:我々の事業のほとんどが海外です。日本でも新潟などで事業をしていますが、事業活動としては1割程度であり、残りの9割は世界各地で石油や天然ガスの掘削をしています。
ひと目で分かるINPEX
上田:スライド左上に記載しているとおり、当社は伝統的に石油と天然ガスを開発し、それを生産して日本、あるいはアジアにお届けする事業を中心に行っています。最近はクリーンエネルギーや水素、アンモニア、再生可能エネルギーといった分野にも、積極的に取り組んでいます。
スライドの中央上に記載しているように、我々は日本の年間エネルギー消費量の約1割を生産してお届けしています。純利益は、昨年は原油の価格が高かったことなどもあり、4,610億円と過去最高となりました。また先ほどもお話ししましたが、事業活動の約9割は海外となっています。非常にグローバルであり、先ほどお話ししたとおり従業員の4割は日本国籍以外のいわゆる外国人の方々です。
時価総額は最近少し下がり約2兆7,000億円、探鉱前営業キャッシュフローは1兆616億円という規模の会社です。
馬渕:すばらしい規模です。クリーンエネルギーについても、今トランジション・ファイナンスが始まっており、一足飛びでブラウンからグリーンエネルギーにいくのではなく、移行期も大事だとされています。御社はまさに今、移行期も含めて手がけているところですね。
上田:そのとおりです。INPEXが何の略かというものは明確にはありませんが、社内では、「Innovative Pioneer of Energy Transformation」と言っています。これは「エネルギートランスフォーメーションのパイオニアになっていこう」ということです。
まさにトランジションですね、世界が気候変動の中で大きく変わってきており、石油・天然ガスばかりではいけないということは、我々もまったくそのとおりだと思っています。
しかし、このトランジションは簡単ではありません。石油・天然ガスを確実に安定供給しながら、同時に水素などの新しいエネルギー等についても開発していかなければなりません。そのような意味でも、INPEXの最近の目標として「トランジション」というものを大切にしていきたいと思い事業に取り組んでいます。
石油・天然ガス開発の事業プロセス
馬渕:どのように石油・天然ガスが開発されているのかを、具体的にうかがいたいと思います。
上田:まず「01. 探す」として、世界の地下3,000メートルから5,000メートルぐらいの地層の中から、どこに石油があってどこに天然ガスがあるのかを探してくるという作業です。
これは地震波などを使い、まずそこの地下3,000mの地層がどのような状態になっているのかを調査します。私たちは「探査」と呼んでおり、当社の技術者には地下3,000mを探査する専門家がたくさんいます。私にはよくわからないのですが、彼らに言わせると「地下3,000mの地層がどうなっているかがわかる」と言います。
地層はずれたり曲がったりしており、そして断層があります。そこに石油や天然ガスが溜まる場所が必要です。もしかすると、石油や天然ガスが、地下に水溜りがあるように溜まっていると思っている方がいるかもしれません。
実はそうではなく、天然ガスが砂の中に圧力がかかった状態で入っているのです。そこに穴を開けると圧力が解放されて、地上に石油・天然ガスが噴出してきます。そのような地層の砂の形状や、断層の所在地、さらに天然ガスが上に上がってこないようにする「シール」という、上にある岩石などの有無が非常に重要になってきます。
それを物理探査などを行いながら、一生懸命探していきます。このように、地層を見ているように思われますが、表面ではなく3,000メートル、あるいは5,000メートル下を見ています。これが「探す」ということです。
しかし、これはなかなか当たりません。よく「千三つ」と言われますが、本当に大変で、実際に簡単ではありません。
我々が「山屋」と言われる理由をお話しします。このような井戸を1本掘るのに、例えば陸上では50億円から60億円、さらに海の上から海底を掘っていく場合には1本100億円から200億円の費用がかかります。しかも、当たれば大きいものの、当たらないとゼロになってしまいます。掘って何の意味もなかった時には「パーでした」「残念でしたね」と会社でよく言ったりしています。
でもこれが我々の原点です。毎年何百億円というお金を使って探し、うまくいったら「良かった」、うまくいかなければ「残念だった」「次はがんばろう」となるわけですが、実際にはうまくいかないことのほうが多いです。これが「探す」という行為です。他の産業にはなかなかない、独特のものです。
探してうまく当たった時は、「02. 掘る」という作業になります。100億円、200億円のお金をかけて「リグ」を海の上に設置し、通常はまず海底まで200メートルほど行き、そこからさらに3,000メートルぐらい掘り進むという作業です。早いものでは1ヶ月、時間がかかるものでも数ヶ月で掘ることができます。
我々はそこを「井戸」と呼んでおり、うまくいけば井戸から油なり天然ガスを生産します。ここで「03. 生産」という作業になります。そして「04. 運ぶ」作業になります。スライド右下の写真は天然ガスを運ぶ船です。本日はLNG(液化天然ガス)タンカーの模型を持ってきました。LNGは天然ガスを液化したものですが、内部は何度かご存じですか?
馬渕:マイナス100度ぐらいですか?
上田:よくご存じですね。天然ガスはマイナス162度になると液化します。掘った天然ガスを冷やしてマイナス162度になったところでようやく液体になります。液化したものがまた蒸発したら大変ですので、その液体を魔法瓶のような丸いタンクに詰めて輸送します。これらが我々の事業の中核になっています。
イクシスLNGプロジェクト(オーストラリア)
馬渕:今お話しいただいたように、御社はLNGが非常に強いわけですが、現在オーストラリアで開発を進めておられます。こちらのお話を詳しくお聞かせください。
上田:当社はオーストラリアで「イクシスLNGプロジェクト」を行っています。利益の約7割がここからきており、INPEXにとっては最大のプロジェクトです。
生産量では、スライド左側に記載したとおり、日本のLNGの輸入量の1割強に相当する年間890万トンを生産しています。これは純利益の7割を創出していることになります。
我々は日本企業として初めて操業主体を務めることになりました。LNGのプラントは巨大なため、これを世界で操業主体として行うことは簡単ではありません。日本で大型LNGプロジェクトの操業主体を務めているのは、おそらくINPEXだけだと思います。
スライド右側の写真は、オーストラリアの沖合にある海上の生産施設です。そこに従業員を集めて、INPEXの戦略などを説明している時の写真です。このように現地の従業員と一緒になって働いています。
馬渕:以前はLNGはそれほど使えないと言われていましたが、このようにプロジェクトが進むことによって普及していったとうかがっています。
上田:そうですね。昔は天然ガスをマイナス160度にすることは簡単ではなく、液化するのに多額のお金がかかるため、値段がかなり高くなっていました。しかし、LNGは環境に優しいエネルギーと言われており、日本にはLNG基地がたくさんあって、このようなプロジェクトが非常によく進んできているということだと思います。
イクシスLNGプロジェクト(オーストラリア)
上田:記載した写真は、イクシスで使っている海上にある生産施設です。スライド左側が沖合生産・処理施設で、我々はCPFと呼んでいます。海面下の、さらにここから地下数千メートルの所に、現在井戸が15本ぐらいあり、そこで生産したものがCPFに入ります。生産した天然ガスには、水やいろいろな不純物が入っているため、それを取り除くための施設です。
そこから不純物を取り除いたものをスライド右側の、我々がFPSOと呼んでいるところに持ってきます。これはタンカーのような機能を持っており、油の部分だけをここに溜めます。ここにタンカーを横付けして、日本などに油を輸出したりしています。天然ガスはさらに陸上まで持ってきています。
ちなみに、この大きさがなかなかわからないかと思い数字を記載しました。CPFという施設は東京ドームと同じぐらいの大きさです。右側のFPSOという施設は336メートル✕68メートルと、サッカーコートで約3面分、ゴルフでいうとパー4のゴルフコース程度のもので、かなり広いです。
海上にこのような施設を持っています。ちなみにどこの海上にあるかと言いますと、オーストラリアの西側のほうにブルームという都市があり、観光都市ですが、そこからヘリコプターで2時間行くと、ここに到達します。
このヘリコプターも大変なもので、大きなヘリコプターで、我々が乗る時には、もちろん事故が起こった時のために救命胴衣を着るのですが、その中に酸素ボンベがついています。もし海に落ちた時には、その酸素ボンベでしばらく生きながらえてくださいということです。
馬渕:命がけですね。
上田:このようなヘリコプターを毎日何機も飛ばして、専用のヘリポートを持って、ブルームから写真のようなところに従業員を送っています。100人ぐらいの規模の人たちが毎日ここで生活をしながら天然ガスの生産をしています。
ちなみに、私が未だにわからないのは、オーストラリアの海にはワニがいるのですが、「酸素はあってもワニに食われたらどうするのだ」ということです。
馬渕:サメもいますね。
上田:サメとワニがいるのです。「酸素ボンベがあってもそこにワニがいたらどうするのだ」と聞くと、「それは神さまに祈ってください」という答えでした。
このように、海の中の地下から天然ガスを生産しています。右側の写真にヘリポートがついていますが、ここに1日何機もヘリコプターが発着しています。
イクシスLNGプロジェクト(オーストラリア)
上田:スライドの写真は地上の生産施設になります。写真の奥に映っているダーウィンという都市にLNGの液化施設、つまり天然ガスをマイナス162度に冷やす施設があり、そこに持ってきます。海の上の船のような施設からここまで、海底のパイプラインでガスを送ります。このパイプラインの長さは890キロメートルにもおよびます。
890キロメートルがどれくらいか、東京から札幌までが850キロメートルぐらいです。つまり、東京・札幌間以上に長い海底パイプラインで天然ガスを持ってきているのです。
馬渕:これも御社が行っているのですか?
上田:もちろん、そこも行っています。マイナス162度に冷やして液体にして、手前にあるLNGの船で日本をはじめ各国に送っていきます。これがオーストラリアで行っているイクシスという巨大なプロジェクトで、世界のLNGプロジェクトの中で、最大ではないかもしれませんが、非常に巨大なプロジェクトの1つです。
馬渕:なるほど。まさに世界のエネルギー、電力を支えていらっしゃるのですね。
新潟県の掘削現場
馬渕:新潟県でも開発を進めていらっしゃるそうですが、現場に行かれているお写真もありますね。
上田:スライドはまさに新潟の生産現場の写真です。左側の写真は一生懸命掘っているところです。このようなところで、先端にビットをつけて掘ったりしています。
天然ガス事業のバリューチェーン(日本)
上田:堀ったものをどうするのかというと、まず、1つはオーストラリアで掘っているわけです。
スライド右側の写真に記載したとおり、我々は新潟の直江津というところにLNGの基地を持っており、オーストラリアからここまで約1週間かけてLNGを持ってきて、直江津に陸揚げしてそこに溜めておきます。そして左側の写真が南長岡ガス田、こちらも新潟ですが、国産の天然ガス田です。
これらを混ぜたかたちにして届けています。写真の下に記載したとおり、関東甲信越・北陸まで総延長1,500キロメートルの天然ガスパイプライン、つまり新潟から東京までパイプラインを引いています。我々の直接のお客さまは、例えば東京なら東京ガス、あるいは静岡では静岡ガスです。そのようなお客さまに届けていて、そこからさらにご家庭に届けているということになります。
したがって、これを聞いているみなさまが、ご家庭で使用しているガスの一部は、オーストラリアや長岡で掘られた天然ガスかもしれません。
馬渕:非常に大きなスケールの話ですね。
上田:そうですね。実際に工場に行かれるとわかりますが、あまり日本では見ることのないくらいの大きな規模です。
主な石油・天然ガス分野のプロジェクト
馬渕:世界中で石油・天然ガス開発のプロジェクトを進めていますが、それについて1つずつ聞いていきたいと思います。
上田:我々がコアエリアとして指定しているのは世界に5つあります。1つは日本、続いてオーストラリアです。そして先週、私が訪問した、COP開催中のUAEのアブダビがあります。陸上でも海上でも常に油を生産しているところです。
また、ノルウェー沖合でも油と天然ガスを生産しています。近年のノルウェーは、環境問題に大変熱心で、左上の写真には小さく風力発電施設が写っています。つまり油を掘る施設ではありますが、掘るための電力は風力発電で、クリーンなエネルギーで石油を生産していることになります。
スライド右側の写真には「東南アジア アバディLNG」とありますが、実は、我々がイクシスの次に考えている大型プロジェクトです。インドネシアの沖合にあるアバディにマセラというところがあり、そこでイクシスと同規模のLNGを開発する予定です。
手当たり次第に開発するのではなく、選択と集中が大変重要ですので、この5つのコアエリアで日々一生懸命、石油や天然ガスを掘っています。
馬渕:このあたりは、これまでの知見から、よいエネルギーがある地域とお考えですか?
上田:そうですね。地下3,000mを必死に探査し、その中でありそうなところを掘っているのですが、残念ながら日本ではなかなかその場所が見つかりません。一部、新潟にはありますが、日本の原油や天然ガスの生産量に占める国産の割合は1パーセント程度ということもあり、我々はグローバルで展開しているというわけです。
世界をまたにかけたビジネスの展開
馬渕:世界をまたにかけて展開されているビジネスについてもお聞かせください。
上田:スライドの写真は今年になってから訪問した国です。我々のビジネスの約9割は海外で行っているため、交渉相手が海外にいるケースが大半です。そのためヨーロッパ、オーストラリア、アメリカなど各国を飛び回り、忙しい時には月に数回も海外に行くことがあります。
馬渕:現地の企業、あるいは国の政府の方と話されるのですか?
上田:ケースによります。エネルギーの場合、どの国でも政府が関与しており、例えばインドネシアを訪問したら、同国のエネルギー大臣には必ず会いますし、アブダビならUAEの皇太子や総裁と会ったりします。
また、共同事業を展開する企業もあれば、エネルギーの買い手となる企業もありますので、そのようなところを回ったりしています。必然的に我々は、世界をまたにかけて仕事をすることになります。私の仕事も年の3分の1から4分の1は海外での仕事で、政府の方々と話したり、情報交換や交渉したりすべきことはたくさんあります。
馬渕:ご多忙を極めていらっしゃいます。現地の方は、現地企業を優遇することはありますか?
上田:例えばオーストラリアは我々にとって、イクシスという巨大プロジェクトがありますので、私にとっては第二の故郷みたいなものです。
オーストラリアのパースにある事務所で働いている従業員は、赤坂の本社にいる人の数よりも多いくらいです。オーストラリア政府の方と会ったら、「INPEXは日本の会社ですが、我々の第二の故郷はオーストラリアです」とよく言います。
オーストラリアで働いている、あるいはパースで働いている人は、東京の赤坂で働いている人よりも多いと言うと、大変喜んでいただけます。
我々は地域に根ざし、現地の企業にならなければなかなか相手にしてもらえません。特にオーストラリアの場合、アボリジニなど原住民の方もいらっしゃいますので、政府だけでなく、地域の方とも仲よくする必要があるのです。
少し前に、大変うれしいことがありました。オーストラリアのダーウィンにあるLNGプラントを訪ねた時のことですが、現地の商工会議所が、私のために朝食会を開いてくれました。売店やレストランで働いている面識のない方も駆けつけてくれて、全員で朝食を食べたのです。「あなたたちのおかげでダーウィンが繁栄しました」という言葉を伝えるために、わざわざ参加してくれたのです。
グローバルに活躍している企業というのは、地元に対してドライといったイメージを持たれがちですが、我々はそのようなことはなく、地域密着型で仕事をしています。
各国、各地域でいかに密着していくかというのがINPEXにとって重要なことであり、ビジネスを進めるコツでもあります。
現地社員との交流
馬渕:そのような姿勢が、世界のいろいろなところで開発を進められている理由なのだと思います。現地社員との交流についてはいかがですか?
上田:外国人の従業員比率は約4割で、大変高い数字です。オーストラリアに行けばオーストラリア人、インドネシアに行けばインドネシア人、アブダビに行けばUAEの人たちがいます。スライドには、現地の人たちと交流している写真がありますが、私の大切な仕事の1つとして、世界中の従業員に対し、我々がどのような会社であり、どこに向かい、どこで協力してほしいのかというビジョンを語る必要があります。
日本語には「集会」という言葉がありますが、海外でも「シューカイ」として現場を訪ね、集会を行っています。オーストラリアは人が多いため、シアターのようなところを借り切ったら、2階席までオーストラリアの人で埋まってしまいました。壇上で私は、会社についての話と協力をお願いするようにしています。各国の現場において会社としての統一性やインテグリティを再確認することは、大変重要なことだと考えています。
外国人の従業員は、我々にとってローカルスタッフではありません。日本の多くの会社は、ローカルスタッフとして外国人を雇用するのですが、我々は少し異なります。
オーストラリアで行ったLNGプロジェクトを、今度はインドネシアでも展開するのですが、オーストラリアでの経験を活かすことは大変重要ですので、オーストラリアのプロジェクトに携わった人たちに、インドネシアに移ってもらってその仕事をしてもらう予定です。
当社にとって人材として重要なことは、外国人と日本人とを融合させていきながら、外国人の力と経験、日本人の力と経験、それぞれのよさを融合して新しいものを追求することです。それが我々の人材面での強みであり、特徴でもあります。我々は、それをより大きな強みにするために、常に交流するようにしています。
馬渕:国や企業との連携、さらには現地の従業員と交流されているとなると、お1人では身がもたないような気がします。
上田:そのようなことはなく、むしろ楽しいとさえ感じています。例えばインドネシアの場合、写真を撮らせていただくと喜んでもらえます。まるでスターになったような気持ちで、楽しく仕事ができることもあります。また、オスロの写真は、ムンク美術館で社員と交流した時のものです。もちろん忙しくて大変なこともありますが、楽しい面もたくさんあるのです。
馬渕:従業員がグローバルに活躍しているのに、理念も方向性も共有しているというのは組織として大きな強みだと思います。
上田:それを維持するためには継続が大切です。海外の従業員に対して、「私たちはこのような方向で、あなたにこのような仕事を頼みたい。我々のために働いてくれませんか?」と呼びかけると、意気に感じてくれて、「それならばジャカルタに行こう、アブダビに行こう」ということになるのです。このような強みを活かし、グローバル展開をさらに加速させたいと考えています。
今後の展望 アバディLNGプロジェクト(インドネシア)
馬渕:今後の展望としてインドネシアのお話がありましたが、少し詳しく聞かせてください。
上田:写真はインドネシアにおけるアバディのLNGプロジェクトで、奥に立っているのは現在のジョコ大統領です。大統領宮殿の中で、アバディに対する開発許可証をいただきました。大統領の右側にいるのは当時のインドネシアのエネルギー大臣で、そのような方々の前で、開発を許可してもらえました。ちなみに着ている服はバティックというインドネシアの伝統的な民族衣装です。
右の写真はアバディで、井戸を掘っているところですので、現時点で大きな施設があるわけではありませんが、このような施設を持っています。
会社にとって重要なことは、イクシスの生産量約890万トンに匹敵するくらいの規模である年間950万トンくらいのLNGを生産することです。
我々の強みはイクシスでの利益が上がっていることですが、反対に弱みとしては、イクシスだけの一本足打法になっていることです。イクシスが潰れたらどうなるのか、あるいはプラントが故障したらどうなるのかということです。したがって一本足打法ではなく、将来的にはできれば二本足にしたいと考えています。
イクシスとほぼ同じような規模のLNGプラントをもし作ることができれば、会社の利益も上がりますし、供給の安定にも貢献できますので、ぜひプロジェクトを実現させたいと思っています。
馬渕:御社の業績や未来の成長の鍵になりそうですね。
上田:天然ガスの需要が続く限り、INPEXの次の大きな成長ドライバーになってくると思います。
石油・天然ガスだけでいいのか?
馬渕:石油・天然ガスだけでなく、クリーンな分野にも力を入れていらっしゃいます。
上田:スライドに「石油・天然ガスだけでいいのか?」と記載していますが、これは多くの方が疑問を持っていることだと思います。
我々だけでなく投資家にとって最も大切なことは「会社の未来」です。もちろん配当や株価も重要な要素です。しかしそれ以上に「その会社に未来があるのかどうか」が、投資家にとって1つのポイントになると思っています。
石油・天然ガスは、伝統的に我々の成長ドライバーです。しかしながら現在の気候変動やトランジションという流れの中で、「本当に石油・天然ガスだけの会社でよいのか?」という考えがあります。これは投資家のみなさまも疑問を抱かれていると思いますが、実は我々も、ほぼ日々議論していることでもあります。
未来を見据えた時、我々にとって「どれくらいの割合で石油・天然ガスを使うか? またいつまで使うのか? それだけでよいのか?」というのが大きな問題となっています。
2050年ネットゼロカーボン社会に向けて
馬渕:具体的にはどのような目標に向かって議論が行われているのでしょうか?
上田:我々は石油・天然ガスが中心の会社ではありますが、気候変動は大変重要です。我々も2050年に会社として、絶対量でネットゼロにしようと取り組んでいます。また、2030年の中間目標として、CO2の原単位30パーセント以上の低減を掲げています。
したがって、Scope3低減のために関連するバス会社をはじめ、ユーザーと協力し、カーボンニュートラルLNGという、LNGでありながらもScope3までCO2を削減しました。これはクレジットで削減するのですが、このようなかたちでLNGも販売しています。結果として、Scope3の削減に取り組む目標を掲げ、実行していこうというところです。
ネットゼロ5分野
馬渕:それを実現させるために、いろいろなエネルギー分野がありますが、5つの分野について少し詳しく聞かせてください。
上田:我々は「ネットゼロ5分野」と呼んでいますが、スライド右側から「水素・アンモニア」、その左側は「CCS/CCUS」で、左側は「地熱発電・風力発電」いわゆる再生可能エネルギーです。右側の「メタネーション・人工光合成新分野」とは人工の天然ガスとも言える人造ガス、あるいはeメタンと呼ばれるものや人工光合成といった分野を追求しています。そしてもう1つは「森林保全」です。
これらをネットゼロ5分野と呼び、それぞれの分野でいろいろなプロジェクトを推進しながら、トランジションに対応していきたいと考えています。
馬渕:森林の保全もされているのですね。
上田:我々はオーストラリアで森林を保全するためのプロジェクトを進めています。オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)とオーストラリアの国営航空会社であるカンタス航空と組み、ユーカリを植えています。ユーカリは5年で育ちますので、このユーカリからバイオジェット燃料を作り、カンタス航空に供給しようと考えています。取り組んでいる森林保全のプロジェクトは、それ以外にも幾つかあります。
主なネットゼロ5分野のプロジェクト
馬渕:世界地図を見ていきましょう。ネットゼロ5分野で進行中のプロジェクトについてそれぞれうかがいます。
CCS・CCUSとは
上田:「ネットゼロ5分野」プロジェクトの内容は多岐にわたり、世界各地で取り組んでいます。まずCCS・CCUSの取り組みです。CCSはCO2を地下に埋める技術です。我々は井戸を掘る技術がありますし、地下がどのような状態かについてもわかります。CO2を埋めるためには、何千メートルの井戸を掘らなくてはなりません。
もう1つ重要なことは、埋めたCO2が出てこないようにすることです。CO2のモニタリングに関しては、CO2が地下3,000メートルの地層でどのように動いていくのかについて、シミュレーションできます。
例えば100年後、あるいは1万年後にどのようになっているのかをシミュレーションします。あくまでもシミュレーションですので100パーセントではありませんが、「この地層であればCO2を入れても大丈夫だ」と、地層を十分見極めた上で、CO2に大きな圧力をかけ、地下に埋めていきます。
これは陸上だけでなく海上でも可能です。イクシスやアバディ、それぞれオーストラリアとインドネシアでのプロジェクトですが、すでにCCSを検討または開始しています。イクシスではダーウィンのそばで来年から井戸を掘りますし、アバディは全体のプロジェクトですが、生産する最初の段階からCCSを行います。アバディで生産する過程で、CO2がたくさん出てくるため、そのCO2を最初から埋めてしまおうというわけです。
これはおそらく、世界初の大規模なLNGプロジェクトにおけるCCSの実施です。CO2をゼロにすることは難しいですが、天然ガス掘る時に大量に発生するネイティブCO2を集めて地下に埋め戻すことは可能です。
このCCSの技術を、オーストラリアやアバディ、そして日本でも使用します。例として首都圏CCS事業があり、これは経済産業省の公募で採択されています。CO2を集め、それをパイプラインで持っていき、水深数千メートルの海底に埋めるというものです。このような取り組みも積極的に実施しています。
馬渕:日本企業である我々が生産する時にCO2を出してしまうと、ユーロ圏で不利になってしまいますが、CCSの実施により優位に立てる可能性はありますか?
上田:鉄鋼業などでは、鉄の生産時に発生するCO2を埋めることができれば、その部分についてはCO2低減に貢献したことになります。クリーンな鉄、クリーンなセメントの生産に寄与する技術だと考えています。
馬渕:この技術は御社だけではなく日本のいろいろな企業にとっても非常に有益な技術ですね。
上田:おっしゃるとおりです。我々はCO2を排出するいろいろな企業とプロジェクトを組んでいます。当社は、掘って埋めるところを得意としていますし、パイプラインを引くこともできるため、集める部分を他の企業と連携して共同で行っています。
このような事業が日本全国で行えるようになると、かなり日本のCO2対策も現実的に進んでくると思います。
馬渕:おっしゃるとおりです。日本には、まだ伸びしろがありますよね。
上田:INPEXとして、当面のあいだは天然ガスの生産などで排出されるCO2を埋めるところから始めています。世界でも「CCS as a Business」と言われていて、将来的には、これ自体がビジネスになると考えています。
CO2を産業廃棄物のようにみなさまから集めて一定の場所に運び地下に埋める事業です。持っていく場所は、日本のこのような場所や場合によってはCO2を船で海外に運んで埋めることも可能です。このような流れを将来の新しいビジネスとして育てていきたいと考えています。
馬渕:多くの企業はこれを利用したいと依頼することが想定できますね。
上田:そのようになればいいと思っています。
再生可能エネルギー事業
馬渕:再生可能エネルギーのところもおうかがいします。こちらもさまざまなものを手がけていますね。
上田:国内よりも海外で行っています。スライドにあるインドネシアの地熱発電は、当社の井戸を掘る技術とシナジーがあります。オーストラリアでは再エネバリューチェーンとして太陽光発電を行っています。スライド右側にあるのはヨーロッパで行っている洋上風力発電です。
現在、当社の再生可能エネルギーを用いた発電容量は、全体で約630メガワットです。これは国内ではまだ十分行えていませんが、かなり大規模だと思います。
最近のトピックとして、ヨーロッパ最大級の再生可能エネルギー会社であるEnelと50パーセントずつ出資して、ジョイントベンチャーの設立に合意しました。Enelがもつ株式の50パーセントを当社が買う形式です。オーストラリアにあるジョイントベンチャーで、風力発電と太陽光発電を行います。
ご存じのとおり、再生可能エネルギーは、発電量にぶれがあります。例えば太陽光の場合、太陽が出ていないと発電しませんし、夜も発電しません。そこで、電力の安定化のために蓄電池があるのです。
再生可能エネルギーと蓄電池を組み合わせたビジネスについて、まずはこの分野では世界最大のEnelとオーストラリアで事業を行い、可能であれば将来日本に持ち込みたいと思っています。そのような意味で、現在は再生可能エネルギーにも一生懸命取り組んでいるところです。
馬渕:蓄電池技術の現在地はどのあたりなのでしょうか?
上田:技術はあるもののコストが非常に高いので、コストを下げることが重要です。
しかし、ご存じのとおり24時間操業している工場などは、24時間安定した電気が欲しいわけです。一方、太陽光発電で太陽が陰ってくもりになると発電量が落ちる、夜に発電できない、風が止まると風力発電が発電しない、という状況ではプラスになりません。
そこで現在は、LNG発電が安定した電気を作る役割を果たしています。つまり火力発電が、再生可能エネルギーのぶれを調節して補っている状況です。
しかし、将来は蓄電池が将来非常に重要なものになると思います。当社はこのようなビジネスについて海外で実績を作り、ヨーロッパ企業と組んでノウハウを吸収し、日本を含めた世界に事業を展開していきたいと考えています。
水素・アンモニア事業の展開
馬渕:水素・アンモニアの事業ですが、日本が強いところかと思います。
上田:スライド左側の画像にあるように、当社は新潟県でブルー水素というクリーン水素の製造の実証プラントを建設中で、2025年夏頃完成予定です。
ここでは先ほどご説明したイクシスLNGプロジェクトや国産の天然ガスを用いて水素を生産します。その時に排出されるCO2は、新潟のCCUSで地下に埋める計画です。
ブルー水素では、クリーンな水素を作って水素発電を行ったり、ブルーアンモニアを製造したりする比較的大きな実証プラントを建設中です。
現在は土地の整備が終わって、これからまさにプラントの建設作業が開始する段階です。実証プラントのため年間700トン程度ではありますが、日本に限らず、おそらくアジアでも初めての最大規模のブルー水素のプラントができます。
ここで水素についてご説明します。水素は扱い方が非常に難しく、水素のカロリーは、天然ガスの3分の1から4分の1しかありません。そのため、お湯を沸かすためには天然ガスの約4倍の水素を燃やす必要があります。
また、水素は運搬も簡単ではありません。LNGの場合は液化すると比較的簡単に運べます。水素が液化できるのかというと、実は水素も液体にできるのです。
ただし温度が異なります。LNGの液化温度はマイナス162度ですが、水素の液化温度はマイナス253度です。LNGよりさらに100度ほど低く、ほぼ絶対零度です。そのようなところを技術開発する必要があります。しかし、当社は将来必要だろうと、液体水素関連のプロジェクトにも参加しているのです。
このように水素は非常に扱い方が難しいものです。ただ、水素の一番のメリットは、燃やしたら水(H2O)になるだけであり、CO2が排出されない点です。そのため、未来のエネルギーになるだろうと考えています。
もちろん、これがすぐに商用化できるわけではありません。ただ2030年頃にはこの実証プラントの次のステップとして商用プラントを作ることを目指しています。まずは水素について十分に学びそのノウハウを積み重ねていくために、このプラントを建設しているのです。
完成した暁には、ぜひ見に来ていただきたいと思いますし、投資家のみなさまにも見学会などを行えればよいと考えています。
今期の株主還元
馬渕:株主還元のお話です。
上田:今期の株主還元の配当は、1株当たり74円の予定です。これもイクシスLNGプロジェクトが始まる前の配当はずっと18円程度だったため、この数年間で約4倍になっています。来期も、今期の配当を下回らないことをお約束します。
今年は自己株式の取得が約1,000億円ありました。昨年の分と合わせて償却する予定です。その結果還元性向は、配当性向で3割程度、総還元性向で57パーセント程度で、それなりかなと思います。
馬渕:株主還元やROEなど、着実にいろいろな面を意識している動きが、こちらからも確認できます。
上田:総還元性向が57パーセントとありますが、実は日本企業としてはかなり高い数字なのです。そのため、投資家からは時々「これは本当に続けられるのか?」と質問されています。当社は、できる限り続けることが可能だと考えています。
なぜなら、ご存じのとおり配当とは、1年間で生じた会社の利益の配分のことです。そして還元性向とは、1年間に得られた利益に対して何パーセント還元するかという数字です。しかし、配当はキャッシュから出されています。
そうすると、実際は利益ではなくキャッシュが重要なのです。INPEXのキャッシュを見ると、営業キャッシュフローで約1兆円あり、その中から投資を引くと約4,000億円から5,000億円がフリーキャッシュフローです。
当社は配当金として約1,000億円、そして自己株式の取得で1,000億円と、合計2,000億円程度が株主還元の総額です。利益から見ると総還元性向が57パーセントということですが、キャッシュで見ると4,000億円から5,000億円の中の2,000億円ですから、十分余裕があると思っています。
当然ながら配当は利益から行われます。しかし当社では、配当を考える時に利益だけではなくキャッシュをどのように配分するかについても検討しています。以上のことから、還元を充実させる体力が十分にあるとお伝えしているのです。
馬渕:これまでの積み重ねによるキャッシュリッチな部分があり、そこを一部還元に回すというのは、資本市場からも非常に評価される考え方ですね。
上田:当社の場合は、利益とキャッシュとで大きく異なる傾向があります。利益に比べてフリーキャッシュフローが非常に多い状況にあるため、それらを活用しながら引き続き株主還元にも力を入れていきたいと考えています。
業績の推移
馬渕:業績の推移です。スライドは売上と親会社株主に帰属する当期純利益の推移になっています。
上田:2022年の親会社株主に帰属する当期純利益は4,610億円です。昨年の油価は戦争もあって非常に高くなりました。昨年は年間ブレントベースで100ドル程度でしたが、今年は恐らく85ドル程度になる見込みです。
その関係で利益が少し減少し、現在の見通しは3,400億円程度です。3,400億円と言っても、過去の利益から見ると昨年に次ぐ過去2番目の水準のため、当社からすれば十分な利益が確保できると思っています。
2023年12月期の業績予想
馬渕:通期の見通しです。
上田:当社では、ブレント原油価格を82.7ドルと予想しています。為替は138.6円を予想しており、もう少し円安に振れると思います。親会社株主に帰属する当期純利益は3,400億円、ROE8.7パーセント程度と考えています。
馬渕:為替が円安の場合、ダメージを受けますか?
上田:当社の場合は逆です。海外で活動しているため、ほとんどの取引がドルです。シンガポールに金融子会社を持っていて、ドル全体の運用を行っています。そのため、円安になればなるほど、会社としてはドルで為替益が出ます。
日本基準で決算をすると、そのドルを為替で換算することになるため、油価が上がり円が安くなるほど、当社は利益が出る構造です。
馬渕:昨年は原油が高く為替が円安だったため、特に今期は影響があったのですね。
上田:おっしゃるとおりです。原油高と円安は当社にとってはありがたいことです。もちろん今の円安水準は、日本経済にとって必ずしも正しいとは思っていません。しかし会社の利益という面からはそのようになります。
馬渕:日本企業にとって、138円程度が一番温度感が良さそうだと思います。
上田:そう思います。
質疑応答:PBR1倍割れに対する対策について
馬渕:「PBR1倍割れに対する対策をどのようにお考えでしょうか?」というご質問です。
上田:残念ながら当社はPBRが低く、現在は0.7程度だと思います。この議論を行った時は0.6や0.5でした。最初に考えたのは「なぜPBRがこれほど低いのか?」ということです。いろいろ分析した結果、3つの理由がありそうだとわかりました。
1つ目の要因です。海外のスーパーメジャーと言われるエクソンモービルやシェル、トタルエナジーズなど、他の会社はもう少し経済効率性にこだわった経営を行っています。そのため、もう少し利益や経済効率性にこだわった経営を行わないと、スーパーメジャーと同じように利益率が高い構造にはならないと考えています。
2つ目の要因です。当社は石油と天然ガスの会社のため、みなさまには「なぜ石油・天然ガスなのか? 未来がないのではないか?」と思われていると思います。先ほどお伝えしたように、当社は水素や再生可能エネルギーの事業を進めているため、エネルギートランジションが進めば進むほど良い会社になっていくと思っています。
そのようなことを、十分に市場へ説明する必要があると考えています。単なる化石燃料の会社ではなく、未来に向かって新しいことを行っている会社だと投資家に理解していただくことが、非常に重要であると思っています。
3つ目の要因は、還元のレベルの話です。後ほど詳しくお伝えします。
上田:1つ目の要因に関連して、もう少し経済効率性を追求するために、最近よく用いられているROICという指標を新たに導入しました。
最近、ROIC経営と言って、ROICを上回るようにIRRの高いプロジェクトに投資を行うという経営方針があります。ROICという指標を会社の経営に取り入れて効率性の高い経営を行っていこうという試みです。
2つ目にご紹介した化石燃料の未来についての話への対応は、先ほどお伝えしたように水素やアンモニア、再生可能エネルギーのプロジェクトと会社の方向性を、みなさまに説明することが重要です。その結果、「INPEXは未来のある会社であり、トランジションにおいて利益が膨らんでいく会社である」と理解してもらうために説明する必要があります。
上田:3つめの株主還元についてです。配当や自社株買いに加え、今年初めて「Investor Day」を開催して、投資家のみなさまに当社の実情をよく理解してもらう機会を設けました。
PBRの低さの改善として社内で重要だと見ているのは、今お伝えした3つのことです。効率性にこだわったROIC経営を行うこと、市場に当社の未来に関して信認を抱いてもらうこと、還元を適切に行っていくことです。この3つを一体的に推進していこうとしています。
例えばROIC経営だけを行って、効率が上がっても「この会社には未来がない」と思われていたら誰も投資をしてくれません。
十分に未来のある会社であることと、会社の経営効率を上げていくこと、還元として投資家との対話などを都度進めていくこと、これら3つを一体的に行うことが、当社の企業価値向上策に対する答えです。
馬渕:今お話しいただきました「Investor Day」などの施策を受けて、株式市場も一時評価を受けた株価の動きになりました。「Investor Day」はホームページにも掲載されています。中を見ると、セグメントごとのROICの数字を開示したのはかなり先鋭的だと感じました。そこもぜひ投資家のみなさまにご覧いただきたいです。
上田:これはぜひご覧いただきたいと思います。
質疑応答:地政学リスクと資源安定供給への影響について
馬渕:「昨今の地政学リスクを考えて、資源安定供給をどう思いますか?」というご質問です。御社のポジショニングに対する重要性が非常に高まってきていると思いますが、この地政学リスクについてどうお考えでしょうか?
上田:事実関係の認識として、世界を見るとロシアのウクライナ紛争をはじめ、ガザにおけるイスラエルとの衝突の問題、米中対立等々、世界の地政学的リスクは増しています。
そのような状況であるものの、当社の基本的な役目は石油・天然ガスを着実にユーザーに届けるということのため、地政学的リスクがある中でも事業を行う必要があります。
当社は先ほどお話しした場所の5ヶ所で操業しています。社内では、日本、オーストラリア、アブダビ、欧州、インドネシアをコアエリアと呼んでいます。地政学的リスクがゼロではありませんが、このコアエリアに人材や資金などいろいろなものを集中して事業を行っています。
そうすると、世界5ヶ所にあるため、分散しているとも言えるし、5ヶ所に集中しているとも言えるのです。会社としては、このような体制で地政学的リスクに対応することを基本方針としています。
馬渕:国内の目線から言うと、みなさま自国でエネルギーを確保したいという思いもあると思います。
上田:はい、ありますね。
馬渕:それぞれが各地域に根ざしているため難しいかもしれませんが、御社がグローバル展開されているため、日本国内から見て資源を獲得できるという意味合いがありますか?
上田:はい、あります。自主開発原油や自主開発天然ガスという言葉があります。例えば、当社がオーストラリアで天然ガスの権益を持っていることは、日本企業が持っているということになるため、いざとなったら相当程度日本に持ってくることが可能です。
当社のような会社が、世界のいろいろな場所でビジネスを行い「上流の権益」を持っていることは、日本の安全保障に資するものだと思います。
さらに言えば、国内も重要だと思っているため、国内でも、天然ガスの開発や先ほどの水素プロジェクトなど、できるだけ国内の投資を一生懸命行っていきたいと思っています。