事業の概要と特徴について

インタビュアー:はじめに、シナネンホールディングスの事業内容と特徴を教えてください。

山﨑正毅氏(以下、山﨑):当社は、プロパンガスを中心としたエネルギー事業を行っている専門商社という位置付けです。エネルギー業界における全体のパイがどんどん縮小していく中で、今後どのようにして既存の事業をベースにほかの事業を展開していくかが大きな課題だと考えています。

主要な事業について

山﨑:リテール、一般の消費者にプロパンガスをメインにして売っていくのが我々のBtoC事業です。また、シナネンを中心に、灯油や軽油を販売しているのがBtoB事業です。それ以外のセグメントとしては、建物維持管理事業やシェアサイクル事業、抗菌事業があります。

我々はバラエティのある事業展開を行っているのですが、6年前にホールディングス化しました。「もっと権限を委譲して、スピーディーに経営を行っていきましょう」という目的でホールディングス化しましたが、この最初の目的は達成できていると思います。ただ、弊害も出てきていると考えています。

その弊害は何かと言うと、個社の利益だけが中心になっていることです。当たり前の話なのですが、グループ全体の利益よりも個社の利益のプライオリティが高くなってしまい、グループの全体最適ができなくなっているということがあります。もっと横串を刺し、積極的にグループ間、各社で連携していこうと思い、来年度からグループ連携推進室を発足します。

シナネンホールディングスに選任された経緯について

インタビュアー:シナネンホールディングスに選任された時のことを教えてください。

山﨑:大学時代のラグビー部の先輩が、私の前の社長である﨑村さんでした。私は外資を4社経験しましたが、早い段階から「60歳になったらサラリーマン生活をやめよう」と思っていました。その時に﨑村さんから「こっちに来ないか」というオファーがあり、この会社に来ました。

ただ、その時、﨑村社長に、「私は自分の思ったことや、このようにすべきだと思ったことは忖度なく言いますが、それでもよいですか? 言わせていただけるのならばこの会社に来ます」という条件付きでお話ししました。すると、﨑村社長から「そのような人材を求めているからあなたに声をかけたのだ」というお話をいただき、社外取締役として選任させていただきました。

最初に会社に抱いた第一印象は?

山﨑:日系の会社ですから、年功序列型、ピラミッド型でヒエラルキーのしっかりとした会社だと思っていました。なおかつ、エネルギー業界は川上にある会社ですので、IT業界などとは違い、日本の会社の中でも純日本的な経営をしています。よい意味ではしっかりとした会社ですが、悪い意味では古い体制の会社だと考えていました。

外資系とのギャップを感じたエピソード

山﨑:外資系では、例えば会議に出て黙っていると「次の会議から出てこなくてもよいよ」と言われます。しかし、この会社がそうではないことに一番カルチャーショックを受けました。例えば、社外取締役として経営会議や取締役会に出席しますが、取締役以外の方もけっこう多く出ています。

その時に、取締役は別として、取締役以外の方々は経営会議に出ているだけで何も話さないのです。「なぜ話さないのか」と思っていたのですが、ある方が発言を求められた時に、上司に断ってから発言していました。私はそれを聞いた時に、「やはり日本の会社だな」と思いました。外資系ではあり得ません。

上の人が言ったことは絶対であり、それに対して下の人が違う意見を持っていても反対意見を言うことがなかなかありませんので、上意下達の組織であると思います。昔はこのような組織でもよかったかもしれませんが、これからは変えていかなければいけないとすごく強く感じました。

したがって、今、私は風土改革を始めています。活発に意見が言える風通しのよい組織をつくっていかなければ、この会社は大きく成長できません。

冒頭の話に戻りますが、エネルギー業界は全体のパイが落ちていきますので、その中で会社を大きくしていくためには、ほかの会社を吸収するか、新規事業に進出していくかしなければなりません。

私はその2つに同時に取り組んでいくべきだと思っているのですが、そのような中で社員の意識を変えていかなければ、吸収される側になってしまいますし、新規事業も創出できないと思い、この風土改革を始めました。

社内の風土改革について

山﨑:私が目指している風土改革として、「社員一人ひとりが人として成長してください」とお話ししています。会社のために成長するのではありません。「個人個人が他責の念を持つのではなく、自責の念を持って人として成長していきましょう」と話しています。

「自責ってなんですか」というお話ですが、ある物事に対して「なぜこのような問題が起きているのか」となったときに、やはり人間は他人や外部環境のせいにして、「しょうがないよね」と諦めてしまいます。しかし、そうではなく、「もっと自分自身で積極的に関わり、この問題を解決するためにはどう向き合なくてはいけないかを考えて行動しましょう。それが人としての成長につながりますよ」と話しています。

私は「自分自身として成長してください」とよく言っています。例えばサラリーマンだったら、「成長してマーケットバリューを持つような社員になってください」と言います。それが会社の成長につながると考えています。

ですので、繰り返しになりますが、社員一人ひとりに「マーケットバリューを持つような人になってください」と言っています。マーケットバリューを持っていただければ、もっともっとチャレンジングな仕事ができると思っていますので、とにかく社員には「マーケットバリューを持った社員になってください」と言っています。

それと同時に、経営層の方には、「社員がこの会社で働いていて成長を実感できるような、この会社で働いていれば成長できると思えるような会社にしていきましょう」と言っています。それは我々経営層に与えられた課題です。

もちろん、「経営層も一人の人間として成長してください」とも言っています。その上で、経営陣には「社員の成長がさらに加速できるような経営をしていきましょう」とお願いしています。

この風土改革については、やはり社員の考え方や行動様式を変えなければいけないと思っています。それを「第二次中期経営計画で取り組んでいきます」とアナウンスしました。

山﨑:その時に、三田ビルにいる事業会社の若手社員を中心とした数人の方から、「このようにして風土改革を推進していきたい」という提案がありました。私はそれがすごくうれしかったのです。

山﨑:そのあとにその方たちと数回のミーティングを行いながら、「このようにして風土改革を推進していきましょう」というかたちで今の風土改革を進めています。私の目指す風土改革は社員が自ら考えて行動するかたちでしたから、これは非常に嬉しかったです。

人材への投資について

山﨑:この会社に来た時、人材に対する投資が非常に少ないと思いました。そこで、いろいろな研修制度を立ち上げました。例えば、次期経営者を育てるサクセッションプランやCFOを育てるCFO研修、次世代経営者研修などです。今年からはさらにもう一段下げて、チーム長研修や管理職研修にまで手を広げています。

研修にかける費用としては、私が選任された頃と比べて4倍くらいのお金を投資しています。やはり会社にとって一番重要なのは人材だと考えていますので、今後も人に対する投資は積極的に行い、この会社で働きながら成長していく人材を育てていきたいと思っています。

ダイバーシティの推進について

山﨑:年功序列制度は取っ払い、昨年の4月1日に大幅な人事改革を行いました。人事戦略については、今後は多様性を重視していきたいと思っています。その中には、男性、女性、プロパー社員、中途入社の方などは全然関係ありません。多様性を重視しながら、やりたい方、意思のある方にもっともっと権限を与えていきたいと思っています。

そのよい例がシェアサイクルの事業です。社長は女性ですが、彼女は社長になる前は人事部の1チームのチームリーダーでした。その方をいきなり社長に抜擢しています。広報もそうですが、社外からチーム長として女性をリクルーティングしてきました。

今はどんどん女性のチーム長が増えてきていますし、30代前半という若い方がチーム長になることもあります。どんどんそのような方たちを入れて、組織を活性化していきたいと思っています。

第二次中期経営計画で掲げた3つの柱

インタビュアー:これからのシナネンホールディングスについて教えてください。

山﨑:第二次中期経営計画では3つの大きな目標を掲げています。1番目は社員の風土改革による行動様式の変革です。2番目は、エネルギー事業が中心となっている事業構造を転換し、新しい事業を展開していくことです。そして3番目は資本効率の改善です。この3つを第二次中期経営計画の柱としています。

先ほどから言っていますように、人口の減少や単位消費量の低減などにより、エネルギー業界全体のマーケットはどんどん小さくなっています。そこでさらに自由化競争となったものですから、このような業界は今後変わらざるを得ません。

山﨑:そのような中で、今までの発想や経験が足かせになる場合もあります。「とにかく大胆な発想で今のこの世界の事業構造を大きく転換していきましょう」ということで、「大胆な発想で新しい世界への挑戦」というスローガンを掲げました。

新規事業について

山﨑:我々の一番の中心はエネルギー業界ですので、そこから外れたところで新規事業を行うと非常にリスクが高いのですね。したがって、今のこのエネルギーの大きな軸を中心に、それをもっともっと広げていくことを考えています。

現在はいろいろな会社で再生可能エネルギーやCO2のゼロエミッション、SDGsなどが行われていますので、我々もこの流れに乗っています。まだお話しできない部分も含めて、新規事業はかなりのところで芽が出てきています。もちろん種を見つけるのも非常に大変なのですが、そのいくつかの種は見つかってきています。そのうちのいくつかは芽を出してきたところです。

山﨑:発表しているものとしては、海外における風力発電や新型マイクロ風車発電などが出てきています。

新規事業を推進するキードライバー

山﨑:社是があるのですが、その中で一番好きなのは「楽業」という言葉です。「楽業」とは何かというと、「社外の人と交わって、会社全体、社会全体を広げていきましょう。推進していきましょう」ということです。

新規事業はとにかく新しい発想でいろいろな方と話をしながら推進していきますので、1つの組織の上意下達のヒエラルキーの中で整っているのではなく、もっと自分の殻を打ち破って社外の人と話をしながら、いろいろな発想を持ってほしいと思います。

パズルみたいに組み合わせていくような事業なのですよね。今までの垂直型の事業ではなく、水平型の事業ですので、そのような意味で、人材交流をもっともっと深めていってほしいと思っています。

そのような中で若い人の発想をどんどん取り入れないと、今の社会環境には追いついていきません。若い人たちの自由な発想やいろいろな経験をもっともっと入れながら、全員で一丸となって、この事業、会社を推進していきたいと思っています。

求めている人材の獲得に向けて

山﨑:従業員の方が「この会社で働いて楽しい」「成長できるな」と思うためには、やはりそれなりの利益が必要だと思っています。利益の出ない会社では、いくら言葉で言ってもそれに対する投資もできません。そのような意味では、まずは利益の額を上げることが必要だと思っています。そのような中、第二次中期経営計画は積極的に人材への投資、新規事業への投資を行っていきたいと思っています。

創立100周年に向けて

山﨑:この業界の中で生き残っていくためには、今の会社の規模ではまだまだ難しいと思っています。したがって、再来年から始まる第三次中期経営計画とその次の2027年の100周年に向けて企業価値をどんどん上げていきます。企業価値を上げることによってできる投資もありますし、もっと人材も集まってきますので、第二次中期経営計画は、第三次中期経営計画と2027年の創業100周年に向けての基盤構築の期間だと捉えています。よって、第二次中期経営計画では、先ほどお伝えした人への投資も含めて、いろいろな投資を積極的に行っています。

株主のみなさまには申し訳ないのですが、第二次中期経営計画の数字については、具体的な目標は掲げていません。例えば、営業利益がいくらになるかは掲げていないということです。

なぜ、具体的な目標を掲げていないかと言うと、次の第三次中期経営計画とその後の100周年に向けて大きく伸びるために、今の事業の「選択と集中」を行う必要があるからです。

例えば、撤退する事業もありますし、売却する事業も出てくると思います。その時に、営業利益がいくらかを固めてしまうと、その数字を達成するために、その事業からの撤退や売却ができなくなってしまいます。そうすると、第三次中期経営計画や創業100周年に向けて大きく飛躍する際の足かせになってしまうため、私は具体的な営業利益の数字を掲げていません。

山﨑:そうは言っても、我々は株主さまに対して責任がありますので、営業利益ではなくROEを高めていくという目標設定を掲げています。したがって、株主さまに対しては、不稼働資産、遊休資産の売却等も行い、「最低限ROEだけは高めていきましょう」ということでコミットメントしています。