個人投資家向けIRセミナー・講演会

稲室昌也氏(以下、稲室):三井物産の稲室でございます。自己紹介をさせていただきますと、私は1991年入社で、入社以来、当社の鉄鋼原料、その中でも石炭を担当してきまして、ほぼ一貫して金属資源の畑を歩いてきました。途中で少し気候変動に関わる環境ビジネスにも携わり、現在はIR部長を務めています。本日はよろしくお願いいたします。

それでは、個人投資家様向けの会社説明会を開始したいと思います。個人株主の方々に関してですが、当社には約30万人の個人株主がおり、保有株式の割合は22パーセントと大変重要な存在です。個人投資家の期待に応えられるよう説明させていただきますので、今後の当社の活動についてご理解いただければと思います。

本日は4点、ご説明します。会社概要、5月に公表した新中期経営計画、2021年3月期第1四半期実績、最後に株主還元に関してご説明したいと思います。

挑戦と創造のDNA

会社概要に関してです。当社の先輩たちの言葉を紹介しています。三井物産を起こし、育て上げた方々の言葉で、当社社員に脈々と流れるのは、挑戦と創造のDNAです。現在も社員一人ひとりに受け継がれ、変わらず価値創造に挑戦している状況です。

数字で⾒る三井物産

数字で見る三井物産についてです。三井物産の前身である第一物産は1947年に設立されました。三井物産は戦前も存在していましたが、第2次世界大戦後にGHQの財閥解体で解散しました。その後、1959年に旧・三井物産系の各社の大合同により、現在の三井物産が誕生しました。全世界65ヶ国・地域、連結従業員数4万5,000人を超える大所帯になっています。

三井物産が⽬指すもの(マテリアリティ)

三井物産が目指すもの、マテリアリティについてです。最近、よくお聞きになられると思いますが、ESGやSDGsなど、世界的にサステナビリティの重要性が高まっていることから、2015年にマテリアリティを定めました。昨年に見直しを行ない、幅広いステークホルダーの視点と事業インパクトの双方を考慮し、新たに5つのマテリアリティとして特定しました。

世界のさまざまな国や地域の持続可能な経済と、社会の発展と気候変動をはじめとする地球規模の課題解決の両方において、グローバルで幅広い事業活動を通じて貢献していくことを追求していきます。

事業分野(資源、社会インフラ)

7つの商品別事業分野について紹介したいと思います。まず、資源と社会インフラ関連です。

スライドの左側が鉄鉱石事業などが入っている金属資源分野です。写真は西豪州の鉄鉱石事業やモザンビークの石炭事業で、上流の資源開発や物流などがあります。

その下がエネルギー分野で、石油、天然ガス、石油製品、次世代環境エネルギーの開発に携わっています。写真はサハリンⅡのLNGプロジェクトを掲載しています。

右上は機械・インフラ分野ですが、写真は自動車リース・レンタル事業です。こちらでは電力、海洋エネルギー、ガス配給、社会インフラなど幅広いビジネスに携わっています。

事業分野(素材、⽣活産業、次世代・機能推進)

素材、生活産業、次世代・機能推進についてです。

化学品分野は、石油化学・無機・合成樹脂等からはじまり、タンクターミナルなど幅広い事業を推進しています。

鉄鋼製品分野では、スペインのGestampでの自動車のプレス部品事業に出資して事業展開しています。それから、アメリカのSteel Technologiesを通して、鋼材やインフラ向けの鉄の供給を行なっています。

生活産業分野では、食料、流通、ヘルスケアといった事業を、また次世代・機能推進分野では、ICTや不動産系といった事業を幅広く展開しています。

ビジネスモデル

ビジネスモデルについてですが、商社の活動がどういったものかを説明させてもらいたいと思います。商社という名前からして、祖業はトレーディング、商品の売買です。これを通じて培ったお客さまの嗜好、そしてパートナーとの協働によるネットワークから得られた情報を用いて、どういった事業を開発すべきかを検討し、投資先の事業経営に関わって事業価値を向上するという役目を負っています。

これらを展開する際には3つのポイントがあると思っています。1つ目が、当社に内在する多様なプロ人材です。2つ目が、パートナーとの関係や顧客基盤といったネットワークです。3つ目が総合力となりますが、これらは決してバランスシートに表れることがない、他社は容易に真似できない当社の強みだと考えています。

右側に事例を記載しています。化学品分野のメタノール事業ですが、石油化学品のトレーディングで長い実績を有しており、そこから得た顧客の嗜好等を糧にして、メタノール製品の販売力をテコに、アメリカの化学品メーカーであるCelaneseをパートナーとして、2015年に北米のメタノール事業に参画しました。サウジアラビアに続く2つ目のメタノール製造事業ということで、こちらの生産を通じて既存事業の規模の拡大を推進している状況です。

三井物産の総合⼒

総合力についてですが、図示するとスライドのようなかたちになります。「商品軸」と「地域軸」でそれぞれの軸があり、それに基づいた活動を展開します。また「機能軸」を加え、新たな事業を作り上げていくという図式です。

スライドの右側に「企業価値の向上」とあり、その下に「ポートフォリオ良質化」「リサイクル」と記載しています。実際に事業投資を行ない、事業投資先の価値を上げ、それを売却してキャッシュ・フロー並びに収益を上げるといったモデルになっています。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):総合力についてお伺いしたいと思います。総合商社がいろいろなビジネスを行なっているのはみなさまもご存知だと思うのですが、このビジネスを行なうためには社員の個々の能力が必要になり、この能力をいかに活用できるかが重要だと思っています。

最近、新社屋に移られたというお話も聞いていますが、人材を含めた活用が非常に大事になってきますので、御社が力を入れていることや他社との違いを教えていただけますか?

稲室:先ほどお伝えした3つの軸のうち、当社の場合は「地域軸」、すなわち日本の外にある海外の「地域本部」の人材層が厚いと思います。そこから得られるアンテナ機能、地場のパートナーとの協業、またこのような部分からの案件発掘力、そしてトレーディング力の部分には力を入れているところがあり、こちらから得られた知見等が社内に蓄積されていくかたちになっています。

また新社屋についてですが、5月に移転が完了しました。コロナ禍ではありましたが、現在は50パーセント超の出社率になっています。こちらの新社屋の作り方も、いわゆる横の連携による総合力発揮という観点から、随所で連携しやすいような建て付けになっています。この部分も活用して、人の中に内在する発掘力を掘り下げています。

坂本:規模が大きく時間が必要なビジネスをたくさん手掛けられていますので、やはり人が重要で、そこのノウハウをうまく活用しているのも総合力の1つということですね。

アフリカでの取り組み事例

稲室:総合力のもう1つの例をこちらのスライドでご説明します。アフリカにETC Group Limitedという会社があります。東アフリカを中心に200万戸以上の農家とのネットワークを有しており、農産物、肥料、農薬といった農業資材の販売を行なう企業です。

こちらには3つのセグメントが関与しています。化学品セグメントは農薬、肥料の調達と販売を行ない、穀物トレーディングネットワークを有する生活産業セグメントが売る側に回っています。またインフラが必要なため、その部分は機械・インフラセグメントが携わっています。

生産性向上、また事業多角化によって、アフリカが抱える食料問題に寄与していくということを、ETC Group Limitedへの関与を通じて実現しています。

変革と成長

新中期経営計画の説明に入ります。5月に公表したものですが、「変革と成長」というスローガンを掲げています。中長期的に持続可能な成長の実現には既存事業の一層の収益性向上と、当社の強みを発揮できる次の収益の柱の確立が必要だという認識です。

また、先ほど坂本様が触れましたが、社員一人ひとりが自らを変革させて、激変する事業環境とニーズに機敏に対応し、社会の発展に貢献していくことを目指すということで、「Corporate Strategy」という6つのStrategyを定めました。

Corporate Strategy①②

1つ目は「事業経営力強化」です。とくにコロナ禍において不透明な事業環境で成長軌道へ早期に回復するためには、既存事業の収益性向上が重要であると考えています。また、当社が主体的に価値向上を図ることができる事業に経営資源を優先配分することを目指しています。

2つ目は「財務戦略・ポートフォリオ経営の進化」です。投資機会と事業環境を勘案して、成長投資と追加還元の柔軟で戦略的な資金配分を実行しています。また、厳しい事業環境も踏まえ、投資決定済案件であってもコスト削減などによって徹底的なキャッシュ・フロー経営を実践していくことを目指しています。

Corporate Strategy③

3つ目が「Strategic Focus」です。かねてより「環境と健康」と称して、成長を実現していこうと取り組んできましたが、今般、フォーカスする3つの分野を絞り込みました。

1つ目がエネルギーソリューションで、LNG開発、再生可能エネルギーを軸として気候変動に資する事業を進めるというものです。2つ目がヘルスケア・ニュートリションです。一昨年、筆頭株主になったIHH Healthcare Berhadを中心に、医療データ・統合型ファシリティマネジメント、ニュートリションに関わる事業の成長を加速するというものです。

3つ目がマーケット・アジアです。アジアを中心とした消費者へのパワーシフトを捉え、成長プラットフォームの構築、ビジネスモデルの進化に取り組むというものです。

Corporate Strategy④

4つ目です。基盤事業と記載していますが、いわゆる当社の中核分野である金属資源、エネルギー、機械・インフラ、化学品に関して着実な成長を実現していきたいと考えています。

金属資源が最大の収益源で、鉄鉱石事業の基盤拡充、そして原料炭ポートフォリオの良質化を目指しています。またエネルギーでは、LNG事業の開発について現在「FID(最終投資決定)」を行なった事業が2つあり、こちらを着実に立ち上げるということです。

機械・インフラと化学品については、発電、さらには洋上での石油ガスの生産、貯蓄、積み出しが可能な設備「FPSO」を拡張していくビジネスであったり、農薬、農業資材など、市況に左右されにくい安定収益を生み出す基盤の拡充を進めることが挙げられます。

Corporate Strategy⑤

5つ目が人材戦略です。グローバル・グループでの多様な「プロ人材」の活躍推進と人材の総戦力化、そして事業経営人材の育成と活用、さらにポストコロナも見据えた次世代の「働き方改革」を実現したいと考えています。

具体的な取り組みとして、まずはデジタル化、つまり業務効率化による管理部門のスリム化、そして人材を営業現場へシフトして収益強化を図ります。また、女性の管理職比率は2025年に10パーセント以上を目標としています。そして、グローバルベースでの人材発掘ですが、「Change Leader Program」ということで、地場での管理職登用を行ない、幹部として育成することを目指しています。

Corporate Strategy⑥

6つ目が「サステナビリティ経営」です。今回の中経の発表では、2050年の「Net-zero emissions」を掲げており、そこに至る道筋として、2020年比較で2030年には温室効果ガスインパクトの半減を目指します。

ではここで、「『環境』への取り組み」と題して映像をご紹介します。

坂本:映像にもありましたが、ESGについて質問させてください。いろいろな企業がESGの推進を掲げて盛り上がっているところですが、個人投資家としては、短期的には直接利益につながるのかがなかなか見えにくいということで、あまり関心のない方がいると思います。

一方で、こちらのファンドがあったりもするため、機関投資家にとっては非常に関心が高いところであり、一部ではESGを推進している会社ほど業績がよいというデータもあるため、興味があるところです。その中で、LNGや再生可能エネルギーは御社のビジネスと直結する部分が多いと思いますので、今後の推進に注目しています。

そこで、ESGに取り組む部分に関してですが、会社として一元化して取り組まれているのか、1つのビジョンの下に事業ごとに取り組まれているのかをお伺いしたいと思います。

稲室:このESGの取り組みは、民間企業が取り組むにあたってハードルが高いというのが事実であり、いかにコストをカバーしながら進めるかがポイントとして挙げられます。

坂本様からのご質問ですが、両方から関わっていると思っています。事業からという観点では、例えばブラジルの水力発電所では排出権を生んでおり、実際に火力発電所の代替となって温室効果ガス削減に寄与しています。このようなプロジェクト単位のものもありますし、4月1日に設立したエネルギーソリューション本部では、エネルギーとインフラ、モビリティといった3つのセグメントが1つの本部を形成して一元的に取り組む体制となっています。

すなわち、両方で追いかけることによって実際に何が見えてくるかを見定めていこうとしています。まだルールが定まっていないこともあり、やや時間がかかるのですが、しっかりと地に足をつけて活動することに尽きると考えています。

定量⽬標

稲室:定量目標についてお話しします。スライドは、2020年3月期の実績と、今回発表した2021年3月期の事業計画、そして2023年3月期の中期経営計画のところです。

前年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で原油価格が下落して、それに伴い減損損失を計上したため事業計画を達成できなかったのですが、それでも非資源分野の収益基盤拡充や資源分野のキャッシュ創出力は堅持できたと考えています。

2021年3月期は新型コロナウイルス感染拡大の影響で減益となり、当期利益は1,800億円を見込みますが、「変革と成長」によって早期回復を目指したいと考えています。

2023年3月期の目標ですが、当期利益は4,000億円、基礎営業キャッシュ・フローは5,500億円、ROEは10パーセントを目標としています。こちらの目標設定は新型コロナウイルスによるロックダウンの真最中だったため、新型コロナウイルス感染拡大の影響をあまり精緻には入れ込めていませんので、引き続き精緻なレビューを行なって、改める必要があると判断すれば、そちらを公表したいと考えています。

坂本:成長戦略についてイメージが湧いたところで、率直にお伺いしたいと思います。13ページで、成長投資と追加還元の戦略的な資金配分を実行というお話がありました。

質問もたくさん来ているのですが、他社との成長戦略の違いについて教えてください。

また冒頭にお話のあった御社の総合力を生かすためには、事業の取捨選択も機動的に行なっていく必要があると考えています。採算性が低い事業の撤退要因について、過去に撤退した例でも構いませんので教えていただければと思います。

稲室:他社との違いについては、他社の部分を当社が触れるのはなかなか難しいのですが、先ほどお伝えしたとおり、当社は「地域軸」の部分を前面に押し出しているところがあります。また、いわゆる成長に資する中核分野である金属資源、エネルギー、機械・インフラ、化学品といった、すでにしっかりした事業基盤があるものについては、そこからつなげることによって、強いものをより強くしていくという戦略をもって、収益力を着実に伸ばそうという動きを取っています。

採算性の低い事業については、稟議申請当時の目標としているリターンが達成できない要因はいろいろあるのですが、当社が撤退の意思決定をする最大の要因としては、その事業に対して自分たちの影響力、すなわち貢献できる部分が薄まる、ないしはなくなることが見込まれることです。これまでの撤退案件では、おそらくそれが一番大きな要因となっているかと思います。

新型コロナウイルス感染拡⼤の影響

稲室:第1四半期の実績です。新型コロナウイルス感染拡大の影響について、各セグメントでどういう影響が出てきたかをまとめています。

資源エネルギーではいろいろと動きがあったのですが、鉄鉱石価格は高止まりし、一方で原油価格は低迷しています。

そして、とくにモビリティまわりでは、自動車事業そのものも影響を受けていますが、自動車に素材を提供している化学品や鉄鋼製品などの稼働率も低下しています。

一方で、次世代・機能推進では、例えばICTは巣ごもり需要が取り込めています。

生活産業でも、いわゆる食品の内需の拡大を取り込めていますが、ファッション事業、外食産業は厳しい状況が見られました。

経営成績サマリー

経営成績サマリーです。第1四半期の実績ですが、基礎営業キャッシュ・フローは4,000億円の計画に対して進捗率は28パーセントです。また純利益は1,800億円の計画に対して626億円で進捗率は35パーセントです。進捗率が25パーセント以上となっている最大の理由は、商品価格、とくに鉄鉱石価格が高止まりしたことが主因です。

今後については、新型コロナウイルスの感染拡大の影響がどうなっていくかによります。当社の第1四半期の連結決算では、当社の子会社群の中での期ズレがありました。4月から6月の期ではなく、もっと前の期の活動を反映している会社がありますので、この4月から6月期、すなわちロックダウン時の影響が当社の第2四半期以降の決算にどのように出てくるのかは注意を要すると考えています。

Strategic Focus

経営成績サマリーに続いては、「Strategic Focus」です。先ほど少し触れましたが、エネルギーソリューション、ヘルスケア・ニュートリション、マーケット・アジアの各分野で進捗があった部分を写真付きで掲載しています。

エネルギーソリューションでは、福島ガス発電所の商業運転を開始しました。また、アメリカ最大手の水素ステーションの開発・運営会社に出資を行ないました。

ヘルスケア・ニュートリションでは、巣ごもりの流れを受けてオンライン診療サービスを展開していますし、マーケット・アジアでは、二輪車の販売金融でAIを活用するといった取り組みを進めています。

株主還元⽅針

株主還元についてですが、スライドの図表に沿ってご説明します。まず、中長期的な株主還元方針として、基礎営業キャッシュ・フローの向上を通じた配当の安定的向上と、自社株買いを含む株主還元の引き上げを図ることを目指しています。


配当は、安定性と継続性を踏まえ、中経期間中は1株あたり80円を年間配当額の下限に設定しました。自社株買いも、事業環境や市場動向を総合的に勘案して、前中経と同様に機動的に推進します。

坂本:株主還元について質問させてください。御社は株主の22パーセントが個人投資家ということで、個人投資家からの注目が非常に高い会社ですが、その中で、配当に注目して投資されている方も結構いらっしゃると思います。

コロナ禍において、御社は中経期間中の配当は1株あたり80円が年間配当下限と設定されていますが、「下限を設定します」という会社は結構少ないため、その意味では長期投資をされる方にとっては配当に関して安心できてよいと思います。そこで、アップサイドと言いますか、上限、上振れの部分について教えていただきたいと思います。基礎営業キャッシュ・フローの向上を見ておけばよいのか、それとも純粋に配当性向をイメージしておけばよいのかを教えてください。

加えて自社株買いについて、御社は過去に自社株買いをされたことが何回かありますが、そのトリガーは株価なのでしょうか? 株価が安くなったため株主還元として自社株買いをするのか、それとも還元余力でしょうか? 過去のパターンを踏まえ、方針等々も含めて、配当と自社株買いによる株主還元について教えていただきたいと思います。

2.財務戦略・ポートフォリオ経営の進化

稲室:こちらのスライドを用いてご説明します。キャッシュ・フロー・アロケーションの表を示していますが、今後の株主還元での配当において、どういう指標を見ればよいのかについてのご質問ということで、基礎営業キャッシュ・フローが伸びる部分を見ればよいのか、もしくは配当性向から考えればよいのかに関しては、当社はP/L、すなわち税後利益に対しての配当性向といったかたちではお示ししておらず、あくまでキャッシュ・フロー・アロケーションというかたちを取っています。

最上段が基礎営業キャッシュ・フローですが、3年間で1兆5,000億円を計画していますが、当社へのキャッシュ・インはこれに加えて、先ほど少し触れた資産リサイクルから得られるものも3年間で9,000億円を計画しています。この2つの合計、2兆4,000億円がキャッシュ・インとなります。

相対するキャッシュ・アウトは、投資決定済み案件や既存事業維持のためのもので、1兆5,000億円から1兆7,000億円を想定しています。それに加えて、出ていくお金としては配当がありますが、今回お伝えした下限で見ると80円ですので、4,000億円となります。この差し引きで、3,000億円から5,000億円が、いわゆる余資となるのですが、この部分のお金の使い方をどうしていくかが今後の還元施策につながっていきます。

当社が経営の中で着目しているのが資本効率です。資金を成長投資に回すか、追加の株主還元ということで自社株買いや配当に回すかですが、どちらが資本効率の向上に資するかを見て判断します。

坂本:このグラフは非常にわかりやすいです。成長する可能性がある事業があればそちらに資金を入れて、それがなかった場合は自社株買い等の株主還元に振るということだと思いますが、これは非常におもしろいと思っています。この方法は、成長株でよくあるパターンですよね。成長株は配当を出すよりも投資を優先ということで、成長株は配当がないことはみなさまもご存知だと思います。

御社のような規模でもそのように考えているということは、資本政策、そして株主還元についての意欲もあるということで、非常に興味を持ちました。

稲室:自社株買いの部分で1点補足します。前期に2回、500億円の自社株買いを行ないました。増配ではなく自社株買いという選択肢を取ったわけですが、背景として、その資金の出方が一時的なものなのか、もしくは恒常的なものなのかというところがあります。例えば、前期の場合、資源価格が上がったことによって一時的に出た資金ということで、中長期的な増配よりも一時的な観点で「buy back」、すなわち自社株買いを実施しました。そういった考え方を導入しています。

基礎営業キャッシュ・フローと商品価格の推移

稲室:基礎営業キャッシュ・フローと商品価格の推移です。当社はよく「資源商社」と揶揄されることがあります。スライドでは、鉄鉱石価格の推移と原油価格の推移、そして基礎営業キャッシュ・フローの相関関係を示していますが、2013年、2014年あたりから、「デカップリング」と言っている、資源価格の上下に必ずしも基礎営業キャッシュ・フローが左右されていないことがわかると思います。これが近年続いています。

トータルリターン推移

トータルリターン推移です。TOPIX対比のグラフをお示ししていますが、TOPIXよりも上で推移しています。

新経営理念

経営理念を本年度改定しました。前回は2004年に制定しましたが、16年の間に事業環境が大きく変化し、人材の多様化が進むとともに仕事の現場が一層世界中、関係会社の現場へ移っていったことから経営理念を変更しました。

とくに「Values」で掲げている4つのところ、「変革を行動で」から「真摯に誠実に」までが社員一人ひとりの頭の中に入っており、日々活動しています。以上で、プレゼンテーションを終わりたいと思います。

質疑応答:バークシャー・ハサウェイによる日本の商社株取得について

坂本:一番多かった質問です。バークシャー・ハサウェイが日本の商社株を取得したというニュースが飛び込んで来ましたが、こちらについて御社の見解について教えてください。

稲室:実際にいろいろなメディアで報道されていますが、バークシャー・ハサウェイとしての狙い目が日本、そして商社となったわけです。そこで言われているのが、バークシャー・ハサウェイと同じような事業形態、ポートフォリオを運営している会社という観点で着目されたと見ていますが、実際には「パッシブに持つ」というかたちでリリースされました。すなわち長期保有ということですので、この観点から、我々に対する見方が今後どうなっていくのかについて、非常に関心を持って見ています。

ただし、我々として行なうことは、先ほどお伝えした「変革と成長」です。変革すべきところは変革して、しっかり成長していくところに尽きると考えています。

質疑応答:コロナ禍における商社ならではの強みについて

坂本:新型コロナウイルスに関する質問も多くいただきました。「ポストコロナ」「ウィズコロナ」と言われている中で、それを見据えた事業戦略について、今後も新型コロナウイルスと共存していく社会になっていくと思うのですが、その時に商社ならではの強さがあると思いますので、そちらを教えていただけたらと思います。

稲室:事例とともにご説明します。「ウィズコロナ」の世界の中で着目されるべきところは今後の技術発展だと思っていますが、その部分でよく言われるのがデジタルの分野で、いわゆる在宅勤務を可能にする部分だと思います。

当社はスムーズに進められましたが、「デジタルの素地」を兼ね備えているところが大事であり、今後はそれをビジネスにしていく必要があると思っています。実際に、デジタルをビジネスにするにはどういったところがあるのかについてご説明します。

先ほどお伝えした総合力での「つなぐ」という事例として、先ほどご説明した「FPSO」、ブラジル沖の深海油田を採掘して、汲み上げて、貯蔵して、積み出すという設備は遠い海洋上にあります。この巨大な設備のメンテナンスは、その都度現場まで行ってチェックしていると、当然ながらコストも時間もかかります。そこで、「プリベンティブ」と言っていますが、デジタルを使って随所にセンサーを配置して、おかしくなりそうなものを事前に察知することが可能になっていますので、そこにかかる人やコストを削減できます。

事例として海洋事業のお話をしましたが、鉱山やモビリティの現場など、機械を使うところでは活用できると思います。

新型コロナウイルスによって、デジタルの世界がさらに背中を押された状態にあると考えています。それゆえ競争も激しくなると思うのですが、「つなぐ」という観点から、商社としてはこの部分で事業展開できると考えています。

質疑応答:個人向けのビジネスについて

坂本:みなさまも、御社は総合力を生かして大きなビジネスを展開しているというイメージを持っており、私もそう思っているのですが、個人向けのビジネスについて教えていただきたいと思います。

最近の他社事例ではコンビニに出資したといったものもありますが、そのようなかたちで、御社が個人向けのビジネスで力を入れていることや、どの分野に一番力を入れているのかについて教えてください。

稲室:当社では、他社のようにコンビニ事業そのものの上流に入っているといった状況ではありませんし、その観点からBtoCの部分はよく聞かれるところではありますが、この部分も結局は技術改革によると考えています。

先ほど、事例としてデジタルの話題を挙げましたが、今後はますます個々人、一人ひとりのスタイルや生活様式がそれぞれ異なる状態になると思います。そこを察知するような事業をどのようにして持ち込むかというところで、AIもそうですが、そこを予測しながらより大きな器で需要動向をおさえて、おさえた需要動向に合致する供給システムを作れるかといったことも考えられます。

私の頭の中には、「例えばこの分野」といった具体的なところはないにしても、そのようなかたちで技術を物の流れにつなげていくことは、さまざまな商品に手を付けている商社ならではの部分として開拓できると考えています。

坂本:本日はありがとうございました。商社というビジネスにおいて御社が何を展開しているのかのイメージが湧き、御社の中でも力を入れているポイントをみなさまと共有できたと思います。最後に、稲室様から一言いただきたいと思います。

稲室:本日はご参加いただきまして、誠にありがとうございます。当社が目指している姿、また事業や活動内容をご理解いただくのに少しでもお役に立てたと考えています。

現在も引き続き新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大している中で、当社としては社員ならびにステークホルダーの安全を第一に考え、今後とも社会に貢献していくことを考えています。今後ともよろしくお願いいたします。