原油安で日本株は一番買いやすい時期に

白水美樹氏(以下、白水):続いての時間からは、事前にみなさまからいただいたご質問を、3名の講師にお答えいただきます。まず、みなさまからいただいたご質問の中でとても多かった質問は「今年のマーケット、どのようになっていくんでしょうか」というご質問でした。

今年のマーケット、「申年は騒ぐ」という言葉の通り、本当に年初から乱高下を世界的に続けていて、日本のマーケットも5日連続で下落をしています。みなさん、とても心配になっていらっしゃるかと思います。

今年のマーケット、一体どうなるんでしょうかというところを、講師に聞いてみたいと思います。川元さん、いかがでしょうか?

川元由嬉子氏(以下、川元):ありがとう投信は、一応、国際分散投資ということで、世界のマーケットを見ているわけですけれども。日本に関していえば、年初はいきなり下げましたけれども、世界的に見ると、比較的、日本は買いやすい投資環境にありますね。

大きく下がっているものは割高になっていた銘柄だと、私は理解しておりますけれども。たとえばユニクロがすごく下がりましたけど、ユニクロはものすごく高い株だったんです。ものすごく下がるものは、高いということなんですね。ですから、高いときには下がります。

アメリカも、ここへきてちょっと調子悪いんですけれども、去年のはじめくらいまで、話ができすぎているくらい、調子が良かったんですね。去年、だいぶ悪い話が出てきたのにあまり下がらず、ここへきて、金利引き上げをきっかけに、一気に下げがきたと。そんな流れで、アメリカのことを見ています。

日本に関しては、なぜ世界的に見ると投資環境が比較的良いかというと、一番大きいのは原油価格ですね。原油価格、資源価格。世界のグローバルな投資家のメンタルとしましては、これだけ資源が下がって、一番買いやすいのは日本株であると、みんなが思っていると思います。

しかも、日本はあまり金利を上げる要素がない。その内、賃金などが上がってきて金利を上げなきゃいけない日がくるかもしれませんけれど、今のところ、金利が上がるという予測もない。

しかも、世界はけっこう不安定なイメージなので、円は買いやすいというところで、グローバルなアセットアロケーションをなさっている投資家たちは、日本は比較的買いやすいと思っているはずです。ですから、相対的に日本はそんなに悪くないんじゃないかなと。世界の中では、そう思ってます。

アメリカに関しましては、ちょっと良くない話がありますよね。やはり、金利を引き上げている張本人です。私はアメリカの経済はとても体力があると思っていて、長期的には非常に楽観していますけれども。当分、世界のトップであり続けると思いますけれども。今、目先、今年ということであれば、まだちょっとアメリカは厳しいかなっていう感じがしています。

ヨーロッパは日本と同じで、可もなく不可もなく、低成長な経済なんですけれども、一般的に考えられているよりは、ヨーロッパの経済は案外しっかりしているんじゃないかというのが、私のヨーロッパの経済に関する解釈です。難民がたくさん押し寄せてますね。あれくらい大量に難民が入ってくると、社会や政治的にはいろんな問題が起きます。

でも、経済一般に関しては、実は下支えになっていると。南ドイツは、建設の受注がさばききれなくて大変だ、というニュースをこの間見ましたけれども。誰がお金を負担するのかという社会問題・政治問題はあっても、案外、ヨーロッパの経済については、みんなが感じているよりは、強いのではないかと思っています。

いろんな意味で、中国は震源地であり続ける

川元:最後に、中国ですよね。一番注意して見ているのは、みなさん、中国だと思うんですよ。注意して見ていてもよくわからないというのが大きな問題なんですが、いろんな意味で、中国は震源地であり続けると思います。いろんなことにみんなが驚くわけですよね。今、構造改革の最中ですと。中国は構造改革らしいことを始めてもう3年目くらいですけれども、いろんなことを改革しています。

去年から起きているのは、人民元ですよね。人民元をマーケットに乗せていこうと。管理通貨から普通の通貨にしていこうということを去年から始めていて、それで、人民元が動くたびにみんながびっくりして、マーケットが上がったり下がったりするんですね。

そのことが直接経済を悪くしているわけではないということは、ちゃんと肝に銘じておかなければいけないことですよね。マーケットがぶれると、何かパニックが起きるのではないかと。もちろん、非常に警戒するべきことはいろいろありますけれども、マーケットが動いていること自体が中国のマーケットを悪化させているわけではないですよね。

そんなことで、人民元がちょっと上がったり下がったりするということに、だんだんマーケットが慣れていくのじゃないかなと。そういう意味では、楽観しております。国際的に気の早い投資家(の中に)は、新興国はすでに十分安くなったから、今年は買い場ではないかと言っている投資家も、けっこういます。

ということで、中国は、実態はよくわかりませんが、向かっている方向は正しいと思います。ただ、いろんな構造改革をしているので、今年いっぱい、震源地になり続けると思っています。

白水:ありがとうございます。日本に関しては、原油安で一番買いやすいということ。あと、金利の問題。そして円も買われやすいというようなことを挙げていただいて、あまり日本のマーケット悪くないんじゃないかというご意見をいただきましたけれども。

一方で、藤野さん、日本株に関して見ていくと、今年は選挙の年ですよね。そういったイベントも含めて、どのようにご覧になっていらっしゃいますか?

日本は変化しない老人国

藤野英人氏(以下、藤野):そうですね。日本株は2015年の1年間を通じて、世界的に見ると悪くなかったですね。新興国、ブラジルとかロシアですね、あと、中国、それから欧州、アメリカ等々見ても、日本株というのは相対的に強かった。

特に、日本株はチャイナショックで下げたというイメージがありますけれども、わりと去年1年間通じて、下げに強かったマーケットだと思います。今回も、年初からの下げでいうと、世界的には、あんまり下がってないほう。すごく下げてびっくりしているってことなんですけど、下げ率では、すごく小さかったっていうことになります。

それは何でかというと、良い面でも悪い面でも、日本というのは、変化しない老人国というイメージなんですね。現金をたくさん抱えていて、すぐには潰れない国というイメージなので。短期的に何かあると、退避的にお金が動いていくというようなことがあります。

あと今、インバウンド。旅行客が日本に増えているのも、けっこうグローバルにテロが起きているということが背景のもうひとつにあって。日本そのものが安全だっていうところは、かなり大きな評価になっているんじゃないかと思います。

そういう面で見ると、政治的にも経済的にも安心な国というところで評価されているので。全体的にというと、変動率が高いときには安定性が高いところが評価されるというような面で、どっちかというと日本が消極的に選ばれているというような感じはします。

積極的に選ばれるためにはいくつかの要件が必要で、私もすごく期待している、期待していた、両方、半分くらいの気持ちなんですけれども、コーポレート・ガバナンス改革ですね。伊藤レポートが出て、スチュワードシップ・コード、コーポレート・ガバナンス・コードが出て、もっと成長を軸としたコーポレート・ガバナンスを叶えようと。

お金を抱えているだけの経営者は価値がない

藤野:要するに、コーポレート・ガバナンスっていうと、ミスをしないっていう方向で考えられると思うんですが、伊藤レポートに書かれているのはそうではなくて。「ちゃんと持っているお金を使って有効に活用してますか?」「お金を抱えているだけで何もしていない経営者はいませんか?」と。

そういう人は経営者としての価値がないということを書いたのが、伊藤レポートなんですね。だから、安定・安全王国というところの日本から、今あるお金を、より成長に投下していきましょうというところに方向を変えていきましょうというのが、今の政府の方針です。

そもそも、アベノミクスの意味合いというのは、リスクをとって挑戦した人に報いる社会にしようというのが本質なんですね。そのために、どういう手段をとっているかということなので、それに合致した方向性に示すところということなんです。

実際に、アベノミクスの方向性は3年間正しかったし、為替を円安にしてそれで株価も上げて。輸出、ハイテクの会社を中心に大型株が、ほとんど何もしなくても利益が出たところがあります。

それで、安倍政権は民間の経団連企業に対して、「これだけ俺たち財政も犠牲にして、君たちの企業の業績を回復させたんだから、もっとリスクをとって設備投資をして、それから従業員の給料上げてくれ」と。

そういう話をしたら、それぞれの社長が、「安倍さん、ありがとう。それしてくれて。やってくれたことは感謝するけれども、でも、もしこれから景気が悪化したときに、銀行が貸し渋りをしたら、どうなるんですか? そのときは政府がお金を貸してくれるんですか? そこで僕らが持っているなけなしの現金を使ってしまったら、だめなんだよ。だから、僕らは、儲かったけれども、現金を貯めさせてもらいます」という話を、わりとほぼ同じ趣旨で、政府と話をしたんですね。

それに対して、今、官邸とか官庁の人たちがけっこう怒っていて。「何だ、あいつらは」と。結局、自分たちの自己利益ばっかり考えていて。

さらに突っ込んでいくと、国益のためではなくて、会社の成長の面で見ても、リスクをとってリターンを上げるというのが資本市場の務めなんだけれども、結局、潰されるときのこと考えて、自己保身に走っているじゃないかというのが、今の安倍政権のムードなんですね。

そうすると、黒田バズーカを撃って、さらに円安誘導して、大きな会社の利益が上がったとしても、さらに物価が上昇したりすると、普通の消費の人が苦しむだけだと。

2015年から出始めている円高メリット

藤野:結局、自分たちがアベノミクスを仕掛けたのは、それをやることでお金が世の中に回ることを期待した。トリクルダウンというんですけれども。大企業のお金が回ったらそれが下に降りてくるという話なんだけど、その目論見がどうも外れたという。それは、企業側のほうがより設備投資しない、給料上げないというようなことをしていると。

そんなことするんだったら、(政府が)これ以上円安にすることに対してインセンティブがないと。参議院選があるから、参議院選のときにこの格差とかの話をされると、困るというところがあると。どっちかというと、円高還元の部分は去年の年末くらいからあるんですよ。

そうすると、少なくとも今年の前半、参議院選くらいまでは、黒田バズーカ第3弾を円安方向に撃つことはないと読んでいたというところが、私自身あります。ただ、これで株価が16,000円とか15,000円とか切ってしまうと、アベノミクスの成果そのものが問われるので、黒田バズーカの第3弾を撃つかもしれません。

だから、今どういう状況にいるかというと、もし株価が今の水準を維持してくれるんだったら、たぶん、黒田バズーカ第3弾は撃たれません。というようなことになる。どっちかというと、一般の人たちの物価が高くなったというところに対して、痛みをケアする方向に行くでしょう。だから、株価は上がりにくい状態になると。

16,000円を切ってくると、アベノミクスの成果を問われるので、黒田バズーカ第3弾はまた株価を上げる方向にあると思っているので。どっちかというと、上げにくいけど、ここから20,000円とか20,500円とかになるような状況ではないけれども、下に突っ込んでいったときには、わりと安心して買えるんじゃないかなと。でも、アップサイドはものすごくある状態にはなるというような感じ。

では、その中でどうするかというと、この環境の中でちゃんと収益を上げなくちゃいけない。先ほど仲木さんが話したように、このEPS×PER=株価だという話をしました。その中でいうと、ちゃんと収益を上げられる会社にフォーカスして投資ができるかどうかというところが大事なのかなと思います。

白水:ありがとうございます。