【N高グループ投資部】投資部員とファンドマネージャー 藤野英人氏のQ&A【後編】
不安定な世界で資産をどう守るか レオス・藤野英人氏が語る地政学リスクと投資判断
2026年3月、レオス・キャピタルワークス創業者の藤野英人氏による特別講義が開催されました。N高グループの生徒から寄せられた質問に対し、企業分析で重視する視点や長期投資の考え方、トランプ関税や地政学リスクが市場に与える影響、不安定な世界情勢の中での資産防衛などをテーマに回答。相場の先行きが見えにくい時代に、投資家が何を見て、どのように守るべきかを語りました。3回に分けてお伝えします。
【前編はこちら】
「勝つためのルールは無限にある」レオス創業者・藤野英人氏が語る投資スタイルと資産形成
【中編はこちら】
AI時代、投資家はどう生き残るのか?レオス・藤野英人氏が語る勝ち筋とキャリアの変化

長期投資家がいま最も意識すべき変化とは?
質問者:現在の日本市場において、長期投資家が意識すべき最大の構造変化は何ですか?
藤野英人氏(以下、藤野):AIですね。
企業分析と地政学リスクの読み解き方
質問者:決算で最もよく見る項目は何ですか? また、高市政権の政策や投資についてどのように考えていますか? さらに、世界情勢の悪化についてはどう見ていますか?
藤野:決算で最もよく見る項目については、売上高、利益、バランスシートの状況、借入金の状況など、ひととおり見ています。全部見てはいますが、そのような指標も、今後は以前ほど絶対的なものではなくなるかもしれません。
それよりも、AI時代において非常に重要なのは、アセットそのものを持っていることだという気がしています。資産や有形のものは、AIによって代替しにくい面があると思うので、「場」の価値は今後さらに高まっていくのではないかと考えています。
高市政権の政策や投資については、戦争の影響によって状況が大きく変わったと思います。とくに今回のイラン情勢は、世界に対して非常に大きな影響を及ぼす可能性があり、今後さらに波及していくのではないかと見ています。
その中で私が強く感じているのは、ドローンやAIの軍事利用によって、戦争のあり方そのものが大きく変わってきているということです。
例えば、イラン製の低コストドローン「シャヘド」は、400万円から500万円くらいで作ることができ、GPSを積み、ロケットみたいな速さではなく、時速100キロ台くらいで比較的ゆっくり飛んでいく。それでも実戦では大きな役割を持っていて、中東でも使われ、ウクライナ戦争ではロシア側も活用してきました。
さらに、そうした兵器を分析して、AIに加え、パランティア・テクノロジーズのような企業が提供するシステムも活用しながら、新しい戦い方が生まれつつある。安全保障の分野でも、これまでとはまったく違う時代に入ってきたのだと思います
従来の常識では捉えきれないような戦い方が現実のものになりつつあり、台湾有事を含め、あらゆる意味でゲームのルールが変わってしまったような状況になっているのだと思います。そうした視点で見ると、今回米国は極めて恐ろしいことをしているとも言えます。
ただ問題なのは、AIを使って正確に攻撃することができたとしても、そのあとに国をどう立て直すのか、どのような秩序を作るのかということまでは解決できません。トランプ氏自身は、とりあえず敵国を打ち滅ぼすという発想で動いたように見えますが、その先にどのような国を作りたいのかという明確なビジョンがないようで、最終的にどのように収拾するのか、皆目見当がつかない状況だと思います。
市場が大きく動揺するのも無理はありませんし、どのように世界情勢の悪化が止まるのか、現時点では極めて見えにくいと思います。私自身にもわかりませんし、誰にもわからない局面に入っているのではないでしょうか。
もちろん、世の中が一方向にまっすぐ墜落し続けることはないと思うので、どこかで反転する局面は来るはずです。ただ、過去の歴史をそのまま参照して判断できないようなことが起きているのが、今の状況なのだと思います。
投資家が向き合うべき最大のリスク
質問者:運用で一番怖いリスクは何ですか? また、そのようなリスクにどのように向き合っていますか?
藤野:怖いリスクはたくさんあります。急落、流動性、テーマの逆回転、信用不安など、さまざまなものが挙げられます。
ただ、今が最大のピンチなのではないかと思います。AIへの対応と、グローバルな情勢悪化の中でどのようにしていくのかという問題があるからです。
その中で私が持っている考え方が、コミュニティ化です。例えば、投資信託そのものを単なる商品として売るというよりも、つながりを重視して届けていくことが重要になってきているのではないかと思っています。
日経平均の上昇理由
質問者:日経平均は2024年頃から上昇基調が続いていますが、その背景をどのように見ていますか?
藤野:デフレからインフレへの転換の影響が大きいと思います。
定量情報だけでは勝てない時代
質問者:投資判断において、定量情報と定性情報のバランスをどのように取っていますか?
藤野:定量情報は非常に重要です。ただ、AI時代を前提にすると、定量情報だけでは差がつきにくくなっていくと思います。その意味では、今後は定性情報をどのように見ていくのかが、より重要になってくるのだと思います。
長期投資で重視すること
質問者:長期投資を行う際に、何を大事にしていますか?
藤野:会社の本質的な価値を見極めることが重要だと思います。
損切り・利確の考え方
質問者:投資をする際に心がけていることや、損切り・利確ラインの考え方を教えてください。
藤野:損切りや利確のラインは特に設けていません。本質的によくないと判断すれば売りますし、よいと思うのであれば買うことが大事なのだと思います。
投資活動での喜びと悩み
質問者:投資活動をしてきた中で、うれしかったことや悩んだことについて教えてください。
藤野:毎日うれしいですし、毎日悩んでもいます(笑)。今日のような日は、めちゃくちゃに悩みます(注:収録日は2026年3月9日で、日経平均株価が急落した直後の発言)。ただ、悩んだからといって何かができるわけではないので、難しいですよね。
トランプ関税は市場に何をもたらすのか?
質問者:米国の最高裁がトランプ関税は違憲と判決した後、米国側は新たなトランプ関税を発動すると表明しました。このことは市場にどのような影響を及ぼすでしょうか?
藤野:本当に、いろいろなことが起きていますね。今、私たちは極めて不透明で、不確実な時代の中にいるのだと思います。
トランプ氏は、従来の合理的な民主主義の枠組みの中では読み切れない部分を持つ政治家です。だからこそ、今後どうなるのかが非常に見えにくい状態になっているのだと思います。
最高裁がトランプ関税について違法だという判断を示したことについては、いろいろな意味で驚きがありました。最高裁は保守的な構成でもあり、かなりの確率でトランプ氏寄りの判断になるのではないかと見ていた人もいたと思いますが、実際にはIEEPAを根拠にした関税措置の権限が否定された。そのような意味では、やはり米国は法治国家として機能しているのだと感じます。
ただ、その一方で、トランプ氏はその後も新たな関税措置を打ち出す姿勢を示しており、政策の先行きはなお不透明です。
今回、任天堂の米国法人も、トランプ関税で支払った分の返還を求めて米政府を提訴していますし、返還を求める訴訟自体は他の企業にも広がっています。これが最終的にどのように決着するのかは、まだ見通しにくいところがあります。
その意味では、これは経済の問題というより、政治そのものが極めて不安定な状態に陥っているということなのだと思います。
短中期売買は長期投資より劣るのか?
質問者:投資部での活動のような短中期的な売買は、長期投資とは異なり、短期的なキャピタルゲインを重視する投資になりがちですが、どのようにお考えですか?
藤野:短期的なキャピタルゲインを求めること自体に、良し悪しはないと思います。短期で利益を上げられるのであれば、それはそれでよいのだと思います。
ただ、短期的なアイデアだけで売買して勝てるほど、相場は甘くありません。その意味では、比較的中期から長期のサイクルで投資をしたほうが、勝てる要素は出てきます。時間軸を長く取れるのであれば、中長期の投資のほうが勝ちやすい傾向がある、ということです。
もっとも、そのような原則があるからといって、中長期で投資をすれば必ず儲かるというわけではありません。短期目線だからだめだとか、よいとか、そのように単純に言えるものではないので、ご自身の判断で、自分がよいと思うやり方を選べばよいと思います。
不安定な世界で資産を守るには?
質問者:世界情勢が安定しない中、どのように資産を守っていけばいいですか?
藤野:やはり、資産の分散は重要だと思います。それに加えて、いかにマーケットに連動しない勝ち筋を見つけるかということも、重要なのではないかと思います。
実際、今日は金も下がっていますよね。本来であれば、このような局面では金は上がってもおかしくないのですが、今日は金も下がっている。私は、本当のパニックが来れば金も売られるだろうと思います。
なぜかというと、金がここまで大きく上昇しているので、あらゆるものが売られる局面では、どこかで現金を確保するために金も売られることになるからです。そう考えると、どの資産を持っていても下がる局面はあり得るのだと思います。
これまでは、円やドルの現金はインフレの中で相対的に不利になりやすかったと思います。ただ、このような局面になってくると、逆に円やドルが強みを持つ可能性もあります。
したがって、株式や不動産に加え、現金も含めて、資産を一定のバランスで持つことが重要なのだと思います。
投資では弱点克服より強みを優先
質問者:投資を続ける中で、自分自身の弱点に向き合って克服すべきか、強みを活かしていくべきか、どのように考えますか?
藤野:私は、自分の強みを活かしていくほうがよいと思います。一般的に言っても、弱点を伸ばすより、長所を伸ばすほうが簡単です。
弱点は、伸びにくいからこそ弱点なのだと思います。そのようなことに時間を使うよりも、自分の強みに集中したほうがよいのではないでしょうか。
藤野氏はなぜ投資家であり続けるのか?
質問者:藤野さんは高校時代は陸上部で、将棋もかなりの実力だったとうかがいました。そのようにさまざまな趣味を持つ中で、なぜ投資の道を歩もうと思ったのですか?
藤野:もともと私は法律家になりたかったのですが、たまたま運用の世界に入り、それがおもしろかったので、結果として今も投資家でいるのだと思います。
ただ、投資家になること自体を目的にしていなかったことが、結果的に投資家として長く生き残れた理由の1つだったのかもしれません。結局のところ、良くも悪くも他の人とやり方や考え方が違っていたことが、自分なりの付加価値につながったのだと思います。
そのような意味では、経験の幅を広げることが非常に重要なのではないでしょうか。旅に出ることや、さまざまなことに挑戦することは大事ですし、失敗体験の豊富さも価値になり得ると思います。
私は、「好き」を大切にすることをずっと心がけています。嫌いなことや弱点を克服するのはなかなか難しいので、やはり「好き」を大事にすることが重要なのだと思います。
まとめ
藤野:本日のお話が、みなさんの参考になれば幸いです。この1年で世の中は大きく変わるはずです。もし来年もこのような機会があれば、その激変の中で自分がどのように向き合ってきたのかをお伝えできればと思います。
司会者:本日はためになるお話をありがとうございました。


