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サステナビリティ経営

恩田ちさと氏(以下、恩田):サステナビリティ経営推進部長の恩田です。お忙しい中、説明会にご参加いただきありがとうございます。またオンラインからも多数の方にご参加いただいており、感謝申し上げます。

本日は私より、当社のサステナビリティ経営についてご説明させていただきます。

外部環境認識

まず、外部環境を簡単に整理します。ポイントは、「複雑化する社会課題への対応」と「現実解への期待」です。

昨年の説明会では、「変容の時代」とお話ししましたが、国・地域やテーマごとの揺れ動きは継続、常態化しています。また、気候変動と自然資本、人権等の課題は、相互に関連し、複雑さを増しており、それらを統合的に捉え、課題解決を進める統合的アプローチや、幅広いステークホルダーとの共創が取組みの鍵になると考えています。

また近年、気候変動ビジネスでは、政策や市場環境の変化を背景に、プレミアムや収益性の確保が難しい局面も見られます。このような環境下、企業は「変容」をビジネスの前提としつつ、多様なニーズに応える現実解として、幅広い選択肢を提供しながらも、中長期目線で着実に取組みを進捗させることが求められていると認識しています。

さらに、直近の中東情勢を始めとする地政学的リスクは一層高まっており、世界のエネルギー需給の不確実性が増しています。経済や社会の持続性の観点から安定供給の重要性が高まる中、当社は、天然ガスやLNGを、低炭素社会実現に向けた移行過程における現実解と位置づけており、その安定供給を担うことは、当社の重要な責務と考えています。

このような点も踏まえながら、本日はこれまでお示ししてきた取組みのアップデートに加え、ステークホルダーのみなさまのご関心の高まりを感じている「ビジネスと人権」や、当社が推進する「統合的アプローチ」についてご説明します。

中期経営計画2026の進捗

こちらでは、「中期経営計画2026」における重点テーマを示しています。現中経では「気候変動」と「自然資本」「ビジネスと人権」を掲げ、環境変化に対応しながら、着実に取組みを進めてきました。

これらの進捗について、これまでサステナビリティ説明会や統合報告書での開示を実施し、また投資家のみなさまを始めとするステークホルダーとの対話を通じて継続的にブラッシュアップしています。

サステナビリティは企業経営の基盤であり、中長期視点での取組みが重要です。次期中経においても引き続き、本3テーマを中心に取組みを推進していきます。

マテリアリティの再見直しと事業活動推進

当社はMissionである「世界中の未来をつくる」の実現に向け、重要な経営課題としてマテリアリティを特定し、事業活動を進めています。マテリアリティは中長期でリスクや機会となる事項であり、中期経営計画や事業計画の基軸となるものです。

当社は、2015年にマテリアリティを特定し、2019年に最初の見直しを行いました。そして2025年にはダブルマテリアリティの視点を取り入れて再見直しを行い、「人権を尊重した社会をつくる」を新たに独立したマテリアリティとして設定しました。

また、マテリアリティごとに毎年アクションプランを設定し、進捗管理を行うことで、マテリアリティと連動した事業活動をより力強く実行しています。あわせて、社長やCSOメッセージに加え、全事業本部長参加のマテリアリティ座談会を全4回開催し、その内容を社内に広く共有することで、事業現場への浸透を進めています。

気候変動関連2030年中間目標

ここからは、個別テーマについてご説明します。まず、気候変動です。

当社は2050年ネットゼロに向けた4つの中間目標を設定しています。そのうち、削減貢献量を考慮しないGHG総排出量は、投資家のみなさまとの対話を踏まえ、昨年、新たに設定したものです。

気候変動関連2030年中間目標の進捗

こちらは、中間目標に対する2025年3月期の進捗を示しています。

GHG総排出量は、発電資産の売却等により2020年3月期比で34パーセント減、GHGインパクトは、各国再エネ事業等の削減貢献案件の積み上げにより26パーセント減となりました。単体・連結子会社「Scope1+2」は、「Scope2」を中心とした削減により23パーセント減、発電事業における再エネ比率は35パーセントと、着実に取組みを進めています。

なお、当社は撤退・売却に加え新規投資も含めたアセットの入れ替えを反映し、中間目標までのトラッキングを行っています。GHG総排出量と再エネ比率は2025年3月期時点ですでに中間目標値を達成していますが、サステナビリティを取り巻く政策動向や技術進展等の外部環境の不確実性や、次期中経での事業成長によるポートフォリオの変動を踏まえ、現行の中間目標に向けて、取組みを継続的に推進していきます。

また、当社は2027年3月期の法定開示に向けた準備として、GHG排出量の算定範囲見直しにも着手しています。2026年3月期実績では、一部算定範囲の追加等が見込まれますが、目標は継続性の観点から現行範囲を継続し、進捗を管理していきます。

気候変動関連2030年中間目標に向けた削減施策

ここでは、中間目標に向けた主な施策をご紹介します。

当社は排出量削減や削減貢献につながる事業領域において、いち早く取組みを進めてきたと認識しています。次世代燃料や再エネの分野では、長年にわたりパートナーと共にトライ&エラーを重ねながら、事業を創り、育ててきました。現在ではこれまでの経験で得た学びを踏まえつつ、複眼的に取組みを進めています。

GHG総排出量では、bpと進めるLNGプロジェクトでのCCUSの導入や、Rio Tintoと共同で進める包括的な脱炭素取組みを推進していきます。GHGインパクトでは、FID済の複数の削減貢献案件が、2030年3月期に向けて立ち上がる見込みです。

一例として、世界最大のアンモニア生産者CF Industriesおよび本邦最大発電事業者JERAと進めるBlue Pointは、2029年より世界最大規模での低炭素アンモニア製造を開始する予定です。CCUSを用いることで一般的なアンモニア製造方法に比べ60パーセント以上のCO2排出削減を見込んでいます。

単体・連結子会社「Scope1+2」は、GHG可視化と削減提案に強みを持つ当社グループ会社「e-dash」のサービスを展開することで、さらなる削減余地の検証を進めていきます。

低炭素社会の実現に向けた貢献

次に、低炭素社会の実現に向けた貢献についてご説明します。当社はこれまで、発電資産の売却や再エネ投資を通じて事業ポートフォリオの転換を進め、カーボンインテンシティの低減に取り組んできました。

一方で、これらの取組みだけでは排出量が十分に減らない領域が残ることも認識しています。低炭素社会の実現にはバリューチェーン全体で、現実的かつ実行性のある手段で取り組むことが重要です。当社の強みである「産業横断的なパートナーやお客さまとの連携」を活かし、新技術の開発や社会実装を進め、社会全体の低炭素化に貢献していきます。

一例として、各種イニシアチブや業界団体への加盟を通じた取組みをご紹介します。世界のメタン排出の約25パーセントを占めると言われている石油ガス採掘事業では、OGDC(The Oil & Gas Decarbonization Charter)において、メタン排出削減に向けて50社以上の上流事業者と連携しています。

また、世界のGHG排出の約3パーセントを占めると言われている海運業界では、マースクゼロカーボンシッピング研究所(Mærsk Mc-Kinney Møller Center for Zero Carbon Shipping)に、戦略的パートナーとして参画し、低炭素燃料を用いた海上輸送の推進に取り組んでいます。

これら産業界との連携を通じ、幅広い産業および社会全体のGHG排出削減に貢献していきます。

シナリオ分析の実施(移行リスク/物理的リスク)

当社はサステナビリティ観点でポートフォリオの良質化を図るため、移行リスクおよび物理的リスクのシナリオ分析を実施しています。従来実施していた気候変動観点の分析に加え、自然資本の観点も取り入れた統合的な視点で、中長期のリスク・機会への対応策の検討・強化につなげていきます。

自然資本は気候変動と比較し、対象領域や指標が多様で、地域や事業ごとに影響がある要素も異なります。今回の分析を通じて、新たな価値創造につながる事業創出に向けて、社内管理指標の検討を進めていきたいと考えています。

なお、分析対象は当社事業のうち財務的重要性の高い事業を選定し、特に気候の激甚化や規制強化等の影響を受ける事業の定性および定量分析を実施しています。現在は原料炭を始めとする鉄、E&P・LNG、再エネ等の事業の分析を進めており、分析結果は、後日開示することを検討しています。

ビジネスと人権:取組み方針

続いて、ビジネスと人権についてご説明します。まずはこちらで取組みの全体像をご説明します。

当社は、2020年に人権方針を定め、事業活動と一体となった取組みを推進しています。取組みの1つ目の柱は、人権方針の策定・公表と、経営システムへの組込みです。経営レベルでのコミットメントのもと、進捗を取締役会が監督する体制を構築しています。

2つ目は、人権デューデリジェンスの実施です。サプライヤーや事業会社の人権に関するリスクを把握し適切に対処すべく、方針の周知、特定、調査、開示・改善のプロセスを継続的に実施しています。

3つ目は、是正・救済措置、いわゆるグリーバンスへの対応です。万が一、人権問題が疑われる場合に適切な是正・救済を行う仕組みを整え、課題の早期把握と解決につなげています。

また当社は、投資家のみなさまやサプライヤー、地域社会等のステークホルダーとの対話を重視し、取組みの改善に努めています。

ビジネスと人権:取組みロードマップ

こちらのページでは、当社がどのように人権に関する取組みを進めてきたか、そして今後の方向性をロードマップでお示ししています。

ポイントは、継続的・体系的に取組みを拡充してきた点です。人権方針の制定を起点に、人権デューデリジェンスの実施や是正・救済措置の運用、基盤強化等、段階的に拡充を行ってきました。

近年は、対象の拡充に加え、実効性向上にも注力しています。特に、活動の柱である人権デューデリジェンスの実効性を高めていくためには、役職員やステークホルダーへの意識浸透が不可欠です。次のページでは、人権デューデリジェンスの継続的な取組みと、それを支える人権研修についてご説明します。

ビジネスと人権:これまでの取組み事例

人権に関する取組みも、気候変動同様、バリューチェーン全体で取組むことが重要です。そのため、人権デューデリジェンスでは、新規サプライヤーに対し、当社方針の100パーセント周知を徹底した上で、アンケートや現地訪問調査を通じた実態把握と対話を継続しています。これにより、人権リスクの把握に加え、ステークホルダーとの相互理解やコミュニケーションが進んでいます。

具体例として、マレーシアのパーム油事業では2025年3月期の現地訪問にて、人権課題の可能性を示唆する情報が得られたことから、2026年3月期に追加現地訪問調査を実施しました。調査では、国際認証団体や現地政府認証制度の関係者、現地に精通したNGO等と連携しながら、精製工場や農園での移民労働者の就労環境や、その家族の教育環境等について、現地確認と関係者へのヒアリングを行いました。

その結果、強制労働や児童労働を含む人権侵害に該当する事実は確認されず、人権に関するリスクは適切に管理されていることを確認しました。

当社は、人権に関するリスクの適切な管理には、継続的な取組みが不可欠であると認識しており、今後も認証機関やパートナー、サプライヤーとの対話を通じて、持続可能なサプライチェーンの構築を進めていきます。

また意識浸透・向上を目指し、研修の充実にも注力しています。当社役職員向けの役職・テーマ別研修に加え、サプライヤー等の社外の方も招いた外部有識者による研修も実施しています。役職や各自の業務に応じたきめ細やかな理解促進を図ることで、社内では人権を自分事として捉える意識の醸成と共に、バリューチェーン全体での取組みの必要性の理解が着実に進んでいます。

ビジネスと人権:取組みロードマップ

ここでは、先ほどのロードマップの右側に示している次期中経のポイントをご説明します。

1つ目は、「事業活動との統合」です。人権を個別課題として切り出すのではなく、事業活動の前提となる信用リスクマネジメントの枠組みに人権に関するリスク管理の仕組みを統合・連携し、リスク管理を強化していきます。

2つ目のポイントは「人権デューデリジェンスの拡充」です。人権デューデリジェンスの対象を主要サプライヤーに留めず、事業会社やサプライチェーン全体に拡大すると共に、人権に関するリスクへの対応が事業運営上不可欠であるとの認識をグループ全体で共有し、より強固なリスク管理体制の構築を目指していきます。

3つ目は「是正・救済措置の拡充」です。JaCERへの加盟で、公平性および実効性のさらなる向上を目指します。

ビジネスと人権:具体的な取組み事例

先ほどお話ししたポイントが、実際の事業活動の中でどのように運用されているかをご紹介します。

「事業会社・サプライチェーン全体でのサステナビリティ関連リスク管理」として、人権尊重の取組みや環境リスク対応等の全事業共通チェック項目に加え、事業特性に応じたチェック項目を設定することで、網羅性と深度の両面でリスク管理を実施しています。例えば水産事業では、当社策定のサステナビリティデューデリジェンスチェックリストに基づき、関係会社の生物多様性や水資源等のリスク管理状況を確認しています。

今後も、事業会社・サプライチェーン全体でのサステナビリティ関連リスクの可視化と管理レベルの向上を図り、実効性の高い体制構築を進めていきます。

あわせて、人権問題が生じた場合に備え、「是正・救済措置の拡充」も進めています。従来の当社ウェブサイト上での苦情受付窓口に加え、2026年4月より国際指導原則に準拠したJaCERのプラットフォームへ加盟し、多言語対応を含む、より公平で実効性の高い外部の枠組みも導入します。

このように当社では、人権を事業活動に組み込み、日常のリスク管理として着実に現場に浸透させることを重視しています。実際に、マテリアリティ再見直しにおける当社役職員を含むステークホルダーへのアンケートでも、人権が主要なリスクとして認識されており、取組みが着実に定着していると受け止めています。

三井物産らしいサステナビリティの取組み -統合的アプローチ-

ここでは、三井物産らしいサステナビリティの取組みとして、統合的アプローチについてご説明します。

当社のサステナビリティの考え方の中核にあるのが、気候変動、自然資本、ビジネスと人権の3テーマを個別に扱うのではなく、相互の関係性を意識しながら事業活動を行う「統合的アプローチ」です。この考え方は、昨年の統合報告書でもお示ししています。

社会課題が複雑化する中、それぞれのテーマを切り出して対応するだけでは、中長期でビジネスが成り立たないリスクも増えています。当社は統合的アプローチを「リスクの低減」と「事業機会の創出」の両面で捉え、社会課題への対応はコストではなく、将来の競争力や成長機会につながるものと考えています。

また、事業活動の1つである投資判断において、この考えを全社的な案件審査やフォローアップの仕組みに組み込んでいる点も特徴です。例えばRhodes Ridge鉄鉱石事業の投資判断では、事業性や収益性に加え、地域社会とのパートナーシップや文化遺産の保護、隣接する自然環境の保全等の観点からも検討を重ねてきました。当社の本件参画には、このようなサステナビリティへの取組み・意識が評価された側面もあります。

当社がこのようなプロジェクトを進められる背景には、各産業で長年にわたり、パートナーと共に現場で試行錯誤を重ねて培ってきた経験・ノウハウがあります。サステナビリティを事業活動の前提に組み込むことで、外部環境の変動に左右されにくい、強固な事業基盤の構築を目指します。

統合的アプローチで目指す姿

最後に、統合的アプローチを通じて目指す姿についてご紹介します。

当社は、さまざまな事業において複眼的にサステナビリティに関するリスクや機会を捉え、統合的アプローチを推進しています。本アプローチをバリューチェーンの各フェーズ、例えば原材料調達から、製造・加工、物流・流通、リサイクル等の段階に織り込み、パートナーやお客さまと連携していくこと、これこそがまさに三井物産らしい取組みであると考えています。

これまでお話ししてきた気候変動、自然資本、ビジネスと人権、そして統合的アプローチの取組みはいずれも、事業活動の中に組み込み、継続的に運用する仕組みとして設計しています。サステナビリティにはさまざまなテーマがありますが、当社は事業を中長期にわたり盤石なものとし、ステークホルダーからの信頼を獲得するために「本当に当社が重視すべきテーマは何か」を見極めた上で、取組みを進めています。

さまざまなステークホルダーが存在する中で、常にただ1つの正解があるわけではありません。だからこそ、短期的な視点に留まらず、複眼的かつ中・長期の視点で「サステナビリティ」を経営の柱の1つとして位置づけ、ぶれることなく実行することが、外部環境が揺れ動く中において、最も重要な当社の基本姿勢だと考えています。

今後も、社会課題に対する産業横断的な現実解を提供し続けることで、ステークホルダーのみなさまから信頼を積み重ね、持続的な企業価値向上の実現を目指していきます。ご清聴ありがとうございました。

質疑応答:2030年GHG中間目標について

質問者:2030年GHG中間目標(スライド6ページ)のうち、現時点ですでに達成水準の目標もありますが、今後外部環境の不確実性や事業ポートフォリオの変化も踏まえて引き続き取り組まれるというご説明でした。すでに投資決定している新規案件や将来案件の影響について教えてください。

恩田:当社は毎年の事業計画策定時に、2050年までを見越した既存案件および新規案件のGHG排出量を集計しています。これを踏まえて各目標それぞれの達成度合いも確認しながら取組みを進めています。

質疑応答:投資判断におけるサステナビリティについて

質問者:新規投資の案件選定において、サステナビリティは投資規律にどのように反映されているのでしょうか? 例えば、気候変動におけるGHG排出量やビジネスと人権等を、どのように考慮して投資決定をしているのか教えてください。

恩田: 投資決定にあたっては案件を審査する会議体があり、サステナビリティ経営推進部長である私も参加しています。収益性や各種リスクと同様に、サステナビリティのリスク審査も行い、適切な対応策を取っているか確認した上で、適切と認められた案件が進むかたちとなっています。

金額規模に応じて、経営会議や取締役会に意思決定が諮られ、サステナビリティの観点も意思決定の材料として提供されます。この点は、気候変動のみならず、自然資本やビジネスと人権においても同様です。

質疑応答:人権デューデリジェンスのカバー率について

質問者:人権デューデリジェンスの取組みについて、パーム油の事例は丁寧に調査されていることを今回の説明会であらためて確認できましたがその調査内容について教えてください。

一方で、御社の幅広いバリューチェーンを考えると、丁寧な調査を続けているとカバー率を上げることが難しいのではと考えており、この点のバランスをどのように考えているか教えてください。

恩田: 2025年3月期のパーム油の現地訪問は、事前に設定したチェック項目に基づいたインタビューでは特に問題と考えられる事項はありませんでしたが、現地訪問時に第三者より、人権侵害の可能性についてお話をいただく機会がありました。これを踏まえ、事業本部や専門家とも協議の上、2026年3月期に再び訪問、調査を行い、最終的には人権侵害を犯しているという事例は認識されませんでした。

カバー率について、当社は昨年から人権デューデリジェンスの実施主体を、サステナビリティ経営推進部から事業本部に切り替えています。これによって、全社で見るとサプライヤー数が多くても、事業本部ごとに対応することでカバー率の低下は懸念されないものと感じています。

質疑応答:中長期目標と直近の課題とのバランスについて

質問者:昨今エネルギーの安定供給にもさまざまな課題が生じる中、カーボンニュートラルという中長期の目標と、データセンター等のエネルギー需要の拡大といった直近の課題について、御社としてどのようにバランスを取る考えか教えてください。

恩田:エネルギーの安定供給はマテリアリティで定めているように当社の重要な経営課題です。脱炭素化は最近さまざまな動きがありますが、大きな流れとしては逆戻りするものではないと考えています。

案件によっては立ち上がりの遅れといった課題はありますが、当社としては中長期を見据え着実に脱・低炭素ビジネスの開発に取り組んでいきます。既存のエネルギーに次世代エネルギーを追加的に加え、当社が提供するエネルギー・ソースを多様化させることが、エネルギーセキュリティにもつながると考えています。

質疑応答:低炭素事業の収益性について

質問者:御社はGHG削減を機会として捉え、すでに低炭素アンモニア、SAF、CCS、再エネ等さまざまに取り組まれていますが、採算面で難易度が上がっている中で、特に事業機会や収益性で有望と考えている領域はありますか? 米国低炭素アンモニア事業Blue Pointは国の価格差支援もついたと認識していますが、どのように見られているか教えてください。

また、Mainstreamは苦戦している状況もある中で、再エネ比率の足元35パーセントが2050年に向かってどうなっていくのかイメージはお持ちでしょうか?

小西秀明氏(以下、小西):個別案件についてお伝えしにくいものの、この3年間でMainstreamのような一部の案件で苦労している点はご認識のとおりです。また、収益化のタイミングが当初想定よりも少し先になるといった案件も中には出てきています。

Blue Pointは、日本政府から価格差支援を取得していますが、手前で着手している案件は政府のサポートをいただける前提で取り組んでいます。再エネは、案件によって条件が異なるため、経済性が得られる案件をしっかり見極めることがより一層求められると思いますし、米国では太陽光発電に電力トレーディングを絡めて採算性を向上させており、このようなコンビネーションで取り組んでいくことを考えています。

恩田:個別案件の採算性に関して言えば、採算が取れない案件は投資しないという点は、案件を審議する会議体の中で共通理解として、採算性も確認した上で進めています。また、当社として強みを発揮できる地域や領域で取組みを進め、その中でリスクリターンをより厳密に見極めることは当社の基本方針です。目標の観点では、2030年の中間目標に向けて再エネ比率は引き続き重要と考えていますが、2050年に向けてどのような位置づけであるべきかについては、その時点での外部環境の影響も考慮する必要があり、継続的に社内で議論していきます。

質疑応答:2050年カーボンニュートラル戦略について

質問者:脱炭素が世界的に少し逆風の流れもありますが、2030年以降の2050年カーボンのニュートラルに向けた戦略見直しの可能性や方向性について教えてください。極端かもしれませんが、石炭火力発電の需要も鑑みて、売却済の一般炭権益を再検討するといったこともあり得るのでしょうか?

恩田:米国や一部の欧州地域でエネルギーセキュリティのために化石燃料に回帰する動きもありますが、当社としてはLNGや天然ガスといった今必要なエネルギーをしっかり持ちながらも、中長期では脱炭素社会に向かうことに疑いを持っていません。

この観点から引き続き、よりGHG排出の少ないエネルギー開発や次世代燃料の取組みは進めていきたいと考えていますが、事業の観点では需要構造やグリーンプレミアムの顕在化の動き、マーケットの成長・後退の動きはしっかり見極め、タイミングを適切に判断しながら取り組みます。

質疑応答:マイノリティ出資における統合的アプローチについて

質問者:統合的アプローチについて、御社はマイノリティ出資のビジネスも資源関係を中心に多いと認識しています。このような領域で、オペレーターシップを持つパートナーやより出資比率が高いパートナーと、どのように統合的アプローチについてすり合わせをされているのか、出資比率が低い立場として何か課題感や対応策があれば教えてください。

恩田:当社がマイノリティであったとしても、当社が重要と考える論点についてパートナーとしっかり話し合い、目線を合わせて事業に参入するよう、案件審査時には各事業本部に対してサステナビリティ経営推進部として働きかけています。サステナビリティに関する目線合わせは、契約締結までに完結しないこともありますので、5年から10年の期間という投資決定後のフォローアップを行う仕組みを2年ほど前から導入しています。このように、時間がかかってもパートナーと同じ目線で事業を進めていくことが大事だと考えています。

質疑応答:統合的アプローチにおける自然資本について

質問者:統合的アプローチの中で、自然資本の取組みがどの程度GHG削減の効果につながるのかという点を、今後試算・算出の上、計画に織り込まれる予定でしょうか? GHG削減だけではない自然資本とも組み合わさった統合的アプローチの進捗について、アップデートがあれば教えてください。

恩田:現段階では、例えば森林資源は除去・吸収量としてカウントしています。ただ、それで十分とは考えていませんので、自然資本ではまず重要な領域を特定した上で、各事業・各アセットでどのような依存と影響があるか分析をしています。その中で認識したのは、事業や地域によって見るべき指標はそれぞれ異なるという点です。この意味においてGHGがすべてのアセットで常に最重要な指標であるとは限らないと考えています。

ご質問いただいたような統合的な取組みの中では、今後、自然資本にポジティブに寄与するアセットのうち、GHG削減にも寄与するアセットに関しては、その両面を見て取り組んでいくものはあると思います。

質疑応答:自然資本と人権について

質問者:統合的アプローチのうち、自然資本と人権について、現地訪問調査といった手法も含め、自然資本と人権に重なりがある部分に優先的に取り組めば、より統合的かつ効率的に進められるのではと考えています。このような体制は考えられているのでしょうか? 例えば、森林破壊があるようなエリアでの人権侵害といったケースでは重なりがあると思います。

恩田:現時点での人権デューデリジェンスでは、より人権リスクが高いと思われる領域で実施することが重要と考え、対象領域の選定において「人権×自然資本」といった判断基準は適用していません。他方で、人権デューデリジェンスのアンケートの中では、自然資本観点の設問も含めていますので、人権において高リスクと判断したサプライヤーに対しては自然資本についても確認する仕組みになっています。森林破壊については、当社は個別調達方針を策定しており、対象となったものは随時調査を進めています。

小西:人権デューデリジェンスに絡めてのご質問でしたが、個別の新規投資案件に対しては、当然ですが気候変動、自然資本、人権も含めて案件に入る段階で総合的にリスク分析と対応策の検討を行っているという点も補足させていただきます。

質疑応答:Scope3開示内容の拡充について

質問者:GHGインパクト目標に含む削減貢献量はCCSや森林等が対象となった総合商社ならではの独自のプロトコルと理解をしています。一方で、今後顧客の業界でScope3の開示や、削減計画の策定義務化が進んでいく中、GHGインパクトは削減貢献量以外にも、例えばScope3カテゴリー1,4,11等、顧客の業界への貢献を広く捉えて御社独自の取組みやビジネスチャンスをアピールするような考え方があってもいいと考えています。このような取り組みは現実的なのかどうかも含めて、ご解説いただけないでしょうか?

恩田:当社のGHGインパクトは、ご認識のとおり削減貢献量とScope3ではカテゴリー15のみを対象にしています。当社は2023年3月期から、投資家やパートナーからのご要望を受け、Scope3の全カテゴリーを開示しています。

一方で、Scope3の算定方法は法定開示に向けてプロトコルの改定がなされていると認識しています。現在、算定方法が標準化されておらず他社比較が難しい状況のため、目標に組み込むのは時期尚早と考えており、当社の収益にも影響が大きいScope3カテゴリー15に限定したかたちをしばらくは維持していこうと考えています。

ただし、総合商社である当社として、Scope3の削減につながるバリューチェーンにおけるさまざまな事業の取組みを、去年のサステナビリティ説明会でお示ししたように、今後も取組みの開示を継続していきたいと考えています。

質疑応答:カーボンインテンシティのKPI化について

質問者:御社のScope3排出量が大きい中、カーボンインテンシティなどを用いることで、御社が利益に対してどの程度GHG排出量を減らしていくか可視化ができると思います。今後Scope3のルール化が見えてくる段階において、カーボンインテンシティを1つのKPIとして使用することも検討をお願いします。

恩田:Scope3のルール化が検討されている中で、カーボンインテンシティは将来的な取組みと考えています。また、幅広い事業領域を持つ当社からすると、カーボンインテンシティを見ることが正しいのか、その場合何を分母・分子にするのか、KPI化するのか等、現時点ではまだ課題があると認識しています。

質疑応答:インターナルカーボンプライシングの運用状況について

質問者:インターナルカーボンプライシング(ICP)について、現状御社は事業本部での運用になっていると思いますが、出資先や関連会社での運用状況はいかがでしょうか?

恩田:ICPは、投融資案件の検討や審議を行う中での収益性分析の1つとしてシミュレーションに使用しています。事業本部が策定したベースケースの事業計画に対し、ICPを適用することで、将来の環境変化によるインパクトを測定しています。一例として、気候変動インパクトが大きい領域では、収益性低下リスクへの対応策等を深掘りして議論するために活用しています。

三井物産の人的資本

渡辺徹氏(以下、渡辺):本日はお忙しい中、お集りいただきありがとうございます。三井物産株式会社人事総務第一部長の渡辺です。よろしくお願いします。

Agenda

こちらが本日の内容となります。当社では2023年より人的資本レポートを発行しており、すでに開示している内容も多く含まれますが、本日は当社人的資本に関する特に重要な考え方についてご説明します。

「挑戦と創造」と自由な組織風土

最初に、三井物産の人材マネジメントについてです。

三井物産では、設立以来「人」が持続的な価値向上の源泉と考え、人材主義や人材投資を重視してきました。旧三井物産初代社長・益田孝による「すべては人からはじまる」という言葉を原点に、歴代経営者も「人」に重きを置いた言葉を発しています。

法的には旧三井物産と現在の三井物産に継続性はなく、全く別の企業体ではありますが、旧三井物産創立時の「挑戦と創造」の精神と、自由闊達な組織風土は、現在も貫く理念であり、DNAとして社員の中にも深く根付いているのが当社の強みです。

ビジネスモデルの変遷と人材戦略

こちらは、当社の取組みの軌跡となります。当社は貿易を祖業としていますが、環境の変化に合わせて自らを柔軟に変化させてきました。

戦後直後の設立時は、貿易や資源の安定的確保をベースに戦後日本の「国造り」をミッションとして取り組んでいましたが、時代の変遷と共にその時々の社会の課題を踏まえ、自らの機能や役割を再考しながら成長を続け、現在のビジネスモデルである「創る・育てる・展(ひろ)げる」につながっています。

人材戦略においても、設立間もない1952年に海外修業生制度が発足すると共に、1975年には海外採用社員の日本への転勤も始まり、現在の人材戦略の基礎となっています。

当社人材戦略は「強い『個』の育成」「インクルージョン」「戦略的適材配置」の3つを柱としていますが、次期中期経営計画の期間もこれをベースに、変化に即応し未来の戦略をつくる人材を育て、それぞれの力を引き出していく取組みを継続していきます。

人材戦略と企業価値向上の相関

人的資本は持続的な価値を生み出す重要な経営資本の1つであり、三井物産グループの競争力の源泉である事業ポートフォリオの絶え間ない変革を続ける力を支えています。

人的資本への投資は、一定の継続性と連続性をもった複数年の取組みを経て成果が現れてくるものですが、この人的資本の取組みをできる限り定量のかたちで可視化しながら、社員の挑戦・経験・学びを後押しする施策と、持続的価値創造を支える環境整備に向けた投資を加速しています。

人的資本投資による成果

人的資本投資の代表的な定量指標と、それによって見えてきた成果を定量的なインパクトで示したものです。定量で可視化できるものには限界があり、多くの場合では施策の実行そのものが投資、ということになりますが、その中でも可視化できる代表的なものを整理しました。

例えば、グローバルに活躍できる環境整備の投資は、転勤の選択制度や海外転勤時の両立支援の導入となる訳ですが、その結果として女性社員の転勤者数の増加や、社員の定着率向上、採用力の強化といった成果につながってきています。

人的資本投資は先行投資でもありますので、2023年3月期、2025年3月期の投資が、必ずしもすぐに定量で見える成果として表れる訳ではありませんが、従前より人的資本投資を実行してきた結果が着実に表れていることはおわかりいただけるかと思います。

社員エンゲージメント

こちらのスライドは、人的資本投資の総合的な成果を測る重要な経営指標の社員エンゲージメントについてです。当社ではMitsui Engagement Surveyという名称で、毎年1回実施しています。

その結果は、スライド右下に示した複数の原因系カテゴリーと、その上の「社員エンゲージメント」「社員を活かす環境」の肯定的回答率として示されます。

原因系カテゴリーは、「社員エンゲージメント」と「活かす環境」に強い影響があるため、原因系カテゴリーを中心に、組織開発や施策の改善・見直しにつなげていくサイクルを、しっかりと回していくことが重要と考えています。

また「社員エンゲージメント」と「社員を活かす環境」の結果の前期対比の増減は、取締役を対象とした報酬制度の一要素となっています。

持続的に価値を生み出す「人」と「場」

ここからは、人材の力を引き出すための取組みをご説明します。

人材の力を引き出すためには、社員への動機付けと育成が大切であることは言うまでもありませんが、会社として、社員の成長を支援する場の提供や仕掛けも重要だと考えています。

それがスライド右の図にある3つの場のイメージです。

まず一番下、「強い『個』を育成する場」です。いわゆるOJTに代表される多様な現場経験と、そこでの成長を支援する研修がこれにあたります。

そこで育った強い個は、多様な価値観、異なる意見を認め合う企業風土のもとでお互いに協働して業務に取り組みますが、このインクルーシブな風土が2つ目の場です。

この2つの場をベースに、社員の自律的キャリア形成と、組織や地域の壁を越えた適材配置の異動を実現する仕組みがあります。これが3つ目の場となります。

会社が提供するこれらの場を通じて、社員がさらに成長し、なりたい姿に近づき、会社はその社員の力を梃に持続的な企業価値の向上を実現していきます。

当社には「人が仕事を創り、仕事が人を磨く」という言葉がありますが、社員と会社のこの関係が、社員一人ひとりのキャリアの実現と当社グループの価値向上の好循環となり、持続します。これが三井物産グループの価値創造モデルだと考えています。

持続的に価値を生み出す基盤

こちらでは、価値創造モデルを実現するための基盤をご説明します。

当社はMissionとして「世界中の未来をつくる」を掲げており、実現するために社員と会社の双方が目指す姿を示したGlobal Talent Management Policyと、それを実現するための行動基準がMitsui Leadership in Actionです。この2つを基本とした人材戦略を、グローバルタレントマネジメントプラットフォームであるBloomの人材データを活用しながら実現します。

HR Strategy Meetingは、人材戦略実行の進捗確認の場として、人材に関する重要なテーマを事業本部単位で深く掘り下げ、年に1度経営メンバーが議論を行う場です。

これらの基盤を通じて、人的資本の継続的強化を図っていきます。

グローバルタレントマネジメントポリシー

Global Talent Management Policyは、グローバル共通の基本方針であり、これまで脈々と受け継がれてきた当社のタレントマネジメントの考え方や人材戦略、企業風土、育成、機会等について、2024年7月に明文化したものです。

これにより、持続的な価値創造の担い手であるグローバルで多様な社員のさらなる活躍を後押しするものとなっています。

目指す人材の姿

こちらは、Global Talent Management Policyで示している「目指す人材の姿」です。

1つ目の目指す人材の姿は、プロフェッショナルとして、多様な商品や領域にチャレンジし、高みを目指すことにより新たな価値を生み出す力をもった人材です。当社ではこのような人材を「強い『個』」と定義しています。

2つ目は、当社の企業風土である「自由闊達」を体現し、多様性を受け入れ、インクルーシブな環境で仲間と共にイノベーションを引き出す人材です。

3つ目は、自律的に成長を続ける意思を持つ人材です。仕事を通じて実現したいことを明確にし、必要な経験・スキルを自律的に積み重ねる意欲、これが最も大切だと考えています。

われわれ人事担当部署としてもこの3つの素養を体現できる人材の育成に力を入れています。

グローバル共通の行動基準(Mitsui Leadership in Action)

今お伝えした目指す人材の姿を実現するための社員の行動基準として、Mitsui Leadership in Actionを策定しています。

当社経営理念のMission、Vision、Valuesのうち、「挑戦と創造」を支える価値観であるValuesを、当社社員に共通して求められる行動基準として具体的に示したものです。

グローバルでの人材の採用、育成、評価、任用といった一連のプロセスで活用することを通じて、社員による実践を促しています。

HR Strategy Meeting

戦略的適材配置の実践として、先ほどお伝えしたHR Strategy Meetingを毎年開催し、三井物産グループの多様で幅広い人材の把握と共に、重要なポジションについては、求められるスキル・能力などを勘案した、後継者育成のプランニングを行っています。

グローバルマトリクス体制での人材把握

グローバルマトリクス体制における人事体制です。当社の人材マネジメントは、事業本部と地域軸からなるグローバルマトリクス体制と連動しています。

各事業本部においては事業本部長のもと、人事管理担当者が事業本部の人材を把握していますが、海外においてはRegional CHROがその役割を担い、事業本部と相互に連携しながら、社員の育成や活用推進の施策・環境整備に取り組んでいます。

グローバルでのHRコード設定

このグローバルマトリクス体制での人材育成や各取組みを実現するために、世界中の全社員にHRコードを設定しています。

HRコードとは、社員が活躍する主たる事業・機能分野を示したもので、各社員の雇用会社と共に、タレントマネジメントを推進する事業本部・コーポレートスタッフ部門を表す情報です。

このHRコードを通じ、雇用地によらないグローバルでの適所適材の実現と、社員の中長期でのキャリア形成を促進し、グローバルタレントマネジメントの深化を図ります。

グローバル・タレントマネジメントシステム(Bloom)

グローバルタレントマネジメントの深化に重要となるタレントマネジメントのデータプラットフォームBloomです。

2024年12月に稼働を開始し、それにより、これまでは各国・地域のグループ会社で個別に持っていたタレントマネジメントデータを統合し、約9,000人の社員の知識・経験・能力と各自のキャリア志向等を可視化するツールとなっています。

1つ前のスライドでご説明したHRコードとこのプラットフォームが連動して、より機動的なグローバル人材戦略の実行が可能となりました。

Bloomの活用事例

また、グローバルでのポジションマッチングでは、社員のキャリア志向を関係者がしっかりと把握することが重要となります。

当社では、人材開発・活用調査を年1回行っていますが、その内容は社員本人が記載する項目とそれに基づき上司が今後の育成・活用計画を記載する項目があり、本人のキャリアと会社の適材配置の方向性を確認するデータとなっています。

昨年からこの活用調査をBloom上で実施し、雇用会社とHRコードの事業本部双方の人事担当者が適材配置を進めるためのデータとして活用していきます。

強い「個」の育成 〜自律的キャリア形成のプロセス〜

これ以降は人材戦略の3つの柱についてご説明しますが、本日はお時間の関係もありますので、特に重要な取組みについてご紹介します。

まずは「強い『個』の育成」です。その実現において、当社では、社員が自律的にキャリアを築く姿勢も必要不可欠と考えています。

当社における自律的なキャリア形成とは、顧客・パートナーから高く評価される「自分ならではの強みを主体的につくる」ことと定義しています。

その行動を力強く後押しするためのプロセスがこちらになります。

まず目の前の仕事で必要なスキル・能力を深化させ、次に自らの強みを広げるために、選り好みすることなく、さまざまな領域・業界を経験します。さらに、常に自律的に学び続けることで、どのような環境においても成果を出すプロフェッショナルを目指すことです。

当社では、社員自らが、ゴールの実現に向けた具体的なロードマップを描き、それに向けて努力することを最大限尊重することはもちろんですが、同時に、周囲や仲間のために何をすべきなのかを考えて自らの担当職務を完遂することをキャリア形成の重要な要素としています。

インクルージョン 〜多用な人材の活躍推進〜

第二の柱であるインクルージョンでは、多様な人材の活躍推進のため、特に海外採用社員と三井物産単体の女性社員の活躍推進に力を入れています。

海外採用社員については、Change Leader Programです。世界各国・地域に根を深く張ったビジネスを展開していくために、変革を積極的に推し進める先導者を育成する選抜型プログラムです。

単体においては、2031年3月期の女性管理職比率20パーセント達成に向けた取組みの1つとして、次世代リーダー育成の選抜型プログラムであるWomen Leadership Initiativeを実施しています。

どちらも半年から1年と長期のプログラムですが、終了後も人事担当部署によるフォローアップ等を通じ、関係会社への出向や、各地でのライン長や重要ポジションへの任用など、最適人材の配置強化の推進につながっています。

戦略的適材配置①

3つ目となるグローバルでの適材配置では、転勤も重要な要素となります。

海外採用社員は異動・転勤に関する考え方が、三井物産単体の社員とは異なる場合もあるため、転勤プロセスやルールの標準化としてGlobal Mobility Programを策定・導入し、国を越えた異動に対するハードルを低くしています。

三井物産単体の社員についても、2024年7月の新人事制度により、3年ごとに転勤有無を選択する制度を導入しました。

各自のライフプラン・ライフステージを踏まえて自らが選択することで、社員は自律的にキャリアプランを考えることにつながり、会社は、一定期間のサクセッションの確実性が高まることで適材配置の実現を可能としています。

戦略的適材配置②

最後に、社員の能力やスキル、専門性に応じた適材配置のための取組みをご説明します。

人事ブリテンボードは、意欲ある社員が自らの意思で、その能力・スキル・専門性を最大限に発揮できる職務に挑戦できる制度です。本部を越えた募集ポジションへの応募のほか、自身のスキルや経験を提示し求職することも可能です。上司を経由せずに応募が可能で、組織の壁を越えた「会社のニーズ」と「社員の意思」のマッチングのプラットフォームとなっています。

Expertバンドは、部長・室長といったライン・マネジメントのキャリアパスとは別に、特定領域の専門性を極めた人材のためのキャリアプランです。

高次元の専門性を持ち、特定領域のキャリア深化を志向する社員が対象で、それに応じた柔軟な評価・処遇体系を導入しています。

どちらの制度も、社員の自発的な意思を尊重しつつも、会社として社員の適正やポジションとのマッチングをしっかりと見定めた運用を行っています。

持続的に価値を生み出す基盤

私からのご説明は以上となりますが、三井物産では、人的資本を持続的な価値創造の源泉と位置付け、人材戦略に基づく取組み・投資を継続しています。

その成果を定量面も含めしっかりと把握し、改善を重ねながら、社員の成長と、企業価値向上につなげていきます。ご清聴ありがとうございました。

質疑応答:女性管理職比率について

質問者:女性の管理職比率の2030年度の目標達成に向けた具体的な施策について教えていただきたいです。現在総合職の単体での女性比率が30パーセント程度、女性管理職比率が11パーセントに留まっている理由は女性の人材プールの不足が課題と認識しています。他社も同様の課題が聞かれる中、具体的な施策があれば教えていただきたいです。

渡辺:ご認識のとおり、単体女性管理職比率の目標20パーセントに対して現状の総合職女性比率が30パーセント程度ですが、世代別ではばらつきがあります。本年4月入社の新卒採用男女比率は約50パーセントを予定しており、時間は要しますが確実にプールは拡大しています。

管理職登用においても、一定の年数と経験等、さまざまな条件はありますが、実力と活躍に基づいて、従来よりも男女問わず早期の登用を可能にしています。このような仕組みを通じて、目標達成に向けた効果が表れることを期待しています。

また、転勤の選択性制度を導入してから日は浅いですが、転勤を理由に総合商社への応募を躊躇していた女性の方々においても、当社で働いてみようと考える方が増えてきている手応えを新卒・キャリア採用の双方で感じています。

質疑応答:人的資本のグローバルでの開示対応方針について

質問者:人的資本の取組みにおけるグローバルな開示枠組みの対応方針について教えていただきたいです。不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(TISFD)のような新しい取組みも始まると聞いていますが、新たな国際的な開示枠組みや社会的な潮流を踏まえた施策などがありましたらお聞かせください。

渡辺:当社グローバルベースでの人的資本開示については、項目によってグローバルで開示する意義のあるものと、そうでないものがあると考えています。当社は連結社員約5万人でグローバルに多様な事業を営んでいますが、日本の雇用市場は国際的に見るとユニークであり、一足飛びで一律の定義に基づく指標をグローバルで開示することが必ずしも意味を持たない項目もあると考えています。

当社の単体社員約6,000人と現地法人の社員約3,000人、合計約9,000人いますので、まずは単体・現地法人合算での指標の中で意味があるものを見極めながら、今後策定されていく国際的な開示基準の中から適切なものを選択していきたいと考えています。

質疑応答:多様な人材の採用への投資の増加理由について

質問者:多様な人材の採用への投資(スライド7ページ)が2025年3月期と2023年3月期を比べると2倍以上に増えていますが、増加した背景を教えてください。

渡辺:多様な人材の採用への投資については、新卒採用とキャリア採用の両面で、説明会や採用広報、当社ホームページでの情報発信等、非常に力を入れています。コンテンツの充実や当社に触れていただく機会を増やすといった取組みに加え、以前から実施している海外留学中の日本人学生へのアプローチなども行っています。このような施策一つひとつの取組みの積み重ねによるものとご理解いただければと思います。

質疑応答:男女間賃金格差の改善策について

質問者:成果に対する適切な評価報酬制度(スライド7ページ)の項目の中の男女間の賃金格差が2025年3月期では60.4パーセントと2023年3月期比では改善はしていますが、まだ差があるように見えます。その要因としては、管理職比率の男女間での差やライフステージによるものと理解しますが、今後の改善策をお聞かせください。

渡辺:男女賃金格差については、ご指摘のとおり管理職比率の影響が大きく、年齢構成による男女比の違いが背景にあります。当社は年功序列ではありませんが、報酬水準の高い上位層は年齢層が高く、現状では男性が多くを占めています。一方で、非管理職では同じ資格・同じ業務における男女差はなく、管理職の1つ下の層でも差はほぼ見られません。そのため、この指標は今後着実に改善していくと考えています。

質疑応答:海外採用社員の転勤について

質問者:海外では異動や転勤に関して、本店の社員の方とは考え方が違うというご説明がありましたが、具体的にどのように違うのかご説明いただけますでしょうか? また、実際には海外の方が日本に異動するケースも増えていると思いますが、どのような取組みによるものなのか、具体的に取っている施策があればご説明をお願いします。

渡辺:海外で採用した社員のモビリティに対する考え方には2つの要素があります。1つ目は、従来、本店が主導する事業の現地展開のために、現地に根差した社員の採用を行っていたため、国を跨いで異動することを前提とせずに当社に入社した方々が多くいることです。2つ目は、さまざまな仕事・部門での経験を通じて、ある領域におけるプロでありながらもジェネラリストとしてその領域に留まらない事業も開拓していく当社のキャリア像が、あまり一般的ではない国や地域がある点だと思います。

人材マーケットにおいても、化学品なら化学品、エネルギーならエネルギーなど、ある分野のプロフェッショナルといった人材が圧倒的に多く、そのようなマインドセットを持つ人材に、当社だと特定領域を超えた広がりがあることを理解してもらうのには一定の時間がかかると考えています。

ただ、本部や国を跨いで異動をすることで、よりエキサイティングな経験と活躍ができそうだと感じてくれている海外採用社員が確実に増えており、そのような実感をさらに高めてもらうべく日本への転勤も増やしています。日本転勤においては、日本語が話せずに生活することはハードルが低くはありませんが、当社の取組みとして、複数人を1つの部署に固めて配置、本店勤務の海外採用社員同士が定期的に集まって相談できる場をつくるなど、人事総務部が主導して取組んでいます。

最近では、テクノロジーの進化も活用して言語の障壁を排除する取組みも進めています。

質疑応答:グローバルタレントマネジメントの課題および取組みについて

質問者:かねてより適所適材に取り組んできたと思うのですが、グローバルタレントマネジメントのBloomの導入による可視化で見えてきた課題や気づきはありますか? その上で、人事施策で重点的に取り組まれていることがあれば教えてください。

渡辺:Bloomの全世界導入は2024年末ですが、一年超経過して見えてきている課題は、Bloomの社員一人ひとりによる活用です。Bloomは自身の経験やスキルを自ら入力しますが、社員にそのメリットを十分に伝える必要性を感じています。

本店では、人数規模も大きく社員同士の会話を通じて、「このプロジェクトに関わって欲しい」といった話が出る場合もあるため、Bloomを活用した適材配置のメリットを想像しやすいですが、グローバルではこれまで必ずしも日常的に起きて来ませんでした。日常に浸透させるためには、Bloomに経験を入力した結果、あるプロジェクトで声がかかったなどの例が積み重なると、加速度的に活用が促進されると思っています。

活用の実例としては、海外で採用された社員が、国を超えた異動の際に自分のメンターになってくれる人をBloomで探し、そのメンターをロールモデルとして自分のキャリアを考えるといった効果も出てきています。ただ、Bloomを通じて適材配置がしっかりとできているかを統計的に分析できるようになるには、もう少し時間がかかると考えています。

質疑応答:エンゲージメントとパフォーマンスの関係について

質問者:人材戦略と企業価値との関係性についてご説明いただきましたが、例えば社員エンゲージメントを上げるための原因カテゴリーの特定とそのための施策について言及がありました。エンゲージメント向上と社員のパフォーマンス向上の観点について分析されていることがあれば教えてください。

例えば、エンゲージメントの高いチームのほうがパフォーマンスが高いといった、エンゲージメントが上がっていくことが最終的に企業価値と結びついていくような可能性が見えてきているのかについても、あわせて教えてください。

渡辺:エンゲージメントとパフォーマンスの相関性は、大変難しいお題です。

一般論として、多くの企業がエンゲージメントサーベイのような取組みを行っており、そのプログラムを提供している会社のデータを見る限り、好業績企業はエンゲージメントが高い傾向があります。エンゲージメントは低いものの、業績は非常に良い状態が継続している例はあまり聞いたことがありません。

一方で社内の組織別のエンゲージメントはばらつきがありますが、エンゲージメントの高い組織のほうが、経営のメッセージが組織の隅々まで行き渡っており、結果的にいいパフォーマンスが生まれると考えています。

質疑応答:人材戦略について

質問者:人材戦略と事業戦略に関連してお聞きします。総合商社は背番号制のようなかたちで、ある本部に配属され続けることが多いですが、以前は本部を跨いだ異動を積極的に行っていたと思います。今はどのような戦略をとっているのでしょうか? また、自らキャリアを選ぶことができる場合、他本部に異動したい人の場合でも、事業運営上は専門性が高い人は長くその組織に在籍して欲しい考え方なのか、色々な部門を経験するほうが、組織および人材としても成長につながるという考え方なのかを教えてください。

渡辺:HRコードは、昔から巷間言われる商社の背番号、サイロ型の人事ではなく、本人のキャリア・育成をHRコードの本部が責任を持って考え、その前提で多種多様な業務の経験を通じて成長させています。

スライド17ページに異動を示すさまざまな方向の矢印が出ていますが、部門・セグメント間の異動を促す際に、現地法人まで含めた9,000人近い社員を1ヶ所で管理するのも限界があります。異動を含めた個々のキャリアディベロップメントに関して、誰が責任を持つのかを決めたものがHRコードです。当社では事業本部の垣根を超えた仕事が当たり前になっており、その中で横の流動性は非常に奨励されています。

一方で、その専門性と汎用性のバランスに関しては、自分の専門性を活かしたいと考える人材もおり、人材マーケットに照らしても優れた専門性を持っている場合には、その専門性とは関係のない部署に異動させる意義は限定的と考えています。

ただし、その専門性を活かせる場所は必ずしもその時の所属本部に限らず、本部を跨って専門性を発揮できる人材が重要と考えています。

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