IRセミナー徹底攻略! セミナーを読み解くhow to 伝授#2
荒井沙織(以下、荒井):みなさま、こんにちは。荒井沙織です。この動画では、普段IRセミナーをあまり見ないという方や、見てもどう投資判断に使えばいいのかわからないという方に、実際のIRセミナーの映像を一緒に見ながら、どこに注目すべきか、そしてどのように活用すればいいかを、凄腕投資家が丁寧に解説していきます。
ゲストは前回に引き続き1UP投資部屋Kenさんです。よろしくお願いします。
1UP投資部屋Ken氏(以下、Ken):よろしくお願いします。
荒井:前回は「なぜIRセミナーを見たほうがいいのか」についてポイントを教えていただき、非常に勉強になりました。今回はKenさん自身が「見てよかった」と思うIRセミナーを一緒に見ながら、気になった発言などについてお話しいただければと思います。
今回お話しいただけるのは、どのIRセミナーについてですか?
Ken:今回はランドコンピュータの実例でお話しします。
バリュエーションの調整が起こると、投資妙味が上がる
荒井:なぜランドコンピュータのセミナーを選ばれたのですか?
Ken:ランドコンピュータは非常に優秀な企業で、基本的に増収増益できています。ところが、2025年3月期に入ってから減益がけっこう目立つようになりました。この理由は不採算案件の影響だったのですが、優秀な企業がいきなり減益を出してきたため、マーケットはかなり驚いて株価が落ちたのです。
株価を見ると、高いところでは2024年1月は900円前後でした。その後、上期の下方修正の発表があった8月に大きく落ちています。そして11月にまた落ちていますが、ここでも通期の下方修正がありました。
優秀な企業が下方修正するとなるとバリュエーションの調整が起こります。それはある意味、投資妙味が上がるということなのです。この株価の下落が一時的だと判断できれば、投資できた事例なのではないかと思い、今回の事例として選びました。
荒井:ここからは、2025年2月22日のログミーのIRセミナーを一緒に見ながら、進めていきたいと思います。
Ken:今から見るのは、前半の不採算案件のご説明部分です。
(動画始まる)
株式会社ランドコンピュータ 代表取締役社長 福島嘉章氏(以下、福島):こちらは11月に発表しましたが、大型の不採算プロジェクトというのが発生しました。1プロジェクトなのですが、過去最大の赤字プロジェクトということで、それが大変大きな影響に結びついたということです。
第3四半期の実績累計ですが、利益としては26パーセントから27パーセント、昨年度に比べると利益が減ってしまったということです。大変残念な結果になりました。
これは後ほどまた機会があれば、私からご説明したいと思います。年末に稼働して、3月に引き渡すわけですが、しっかりとお客さまと協議をした上で、今はまったく業績に問題なく進んでいる状況です。
(動画終わる)
Ken:いくつかキーポイントがあったと思っています。まず「大型の赤字プロジェクトが出てしまった」というところです。小型であれば他でリカバリーできたと思うのですが、それが大型だったため下方修正せざるを得なかったというニュアンスです。
また、「3月に引き渡しで、お客さまと協議している」というところで「まったく業績に問題なく進んでいます」という発言もあります。3月に引き渡すということは、来期はこの不採算プロジェクトの案件はなく、来期までは引きずらないだろうということがわかります。
今回の動画を見る上で「来期がどうなるか」が非常に重要です。マーケットが「来期も大変な状態になる」と予想していたものは、なくなる可能性がかなり高いのです。20秒から30秒ほどの発言ですが、これがわかったことは大きいと思います。
数字の裏にある理由を語ることで好印象に
Ken:それでは続きを見ていきます。
(動画始まる)
福島:98億円、99億円の売上が上がってきたということで、1年前と同じぐらいの売上高が立っているように見て取れると思います。本来でしたら、リニアにもっと売上を上げたかったと思うのですが、先ほどご説明したように、不採算プロジェクトが発生したということです。
「火消し」と我々は言っていますが、時間との勝負なので、いろいろな他の事業部やプロジェクトマネージャー、事業部長などのメンバーを導入して、けっこう新規で立ち上がるような売上も捨てて、その不採算プロジェクトをしっかり押さえ込むということを行いました。
(動画終わる)
Ken:ここが非常に重要かと思っています。ここでは、ある意味で前回の動画でお話しした「数字の裏の理由」のような話をしています。今回、不採算プロジェクトの火消しを行う上で「他の事業の事業部長やプロジェクトマネージャーを不採算案件の対応に回らせたことで、新規で立ち上がる売上も捨てました」という発言があります。
逆に、不採算案件の対応が収まって来期を迎えることができれば、その方たちも普通に稼動できるため、他の新規の売上も来期は立つのではないかと予想できるかと思います。
荒井:数字的には大きく減益で、暗い感じで登壇されるのかと思ったのですが、社長の当日の印象は意外とニュートラルで、途中で笑顔もあったのが印象的でした。
やはりそのあたりは、数字に表れていない「火消しは済んだ」というところと、「したがって来期以降は通常の業務に安心して向かえる」というような気持ちが表れているのかと思いました。
Ken:おっしゃるとおりで、おそらく火消しの最中が一番きついです。不採算案件が収まらず、どんどん人員が必要になってくると、さらに下方修正が必要となるかもしれないからです。このセミナーのタイミングとしてはある程度収まった後で、業績は芳しくないものの、少し明るく見えたというところはあります。
荒井:ようやく収束して「お疲れさまでした」というタイミングでしたね。
Ken:また、社長の印象について「人柄もわかるのがいい」という話もありました。やはり素直に「なぜ減益になったか」をしっかりと話しているのは好感が持てると思います。
私は、業績が悪い時に曖昧に説明する人は危険だと思います。投資家は悪い理由がわからないと投資できませんし、そこが曖昧だとなかなか一歩を踏み出せません。そのような意味で、今回のランドコンピュータに関しては、どのような理由で下方修正になったのか、その裏の背景も話しており、印象が良かったと思います。
迷いのない社長の発言が安心感につながる
Ken:続いて、私が不採算プロジェクトについて質問をぶつけたところを見ていきます。
(動画始まる)
Ken:まず1つ目なのですが、2025年の3月期、先ほどお話しいただいたように、1つ大きなプロジェクトで不採算案件が発生したということなのですが、こちらの影響というのは、来期以降はもうないということでしょうか?
福島:ないです。完全に12月に稼働しており、お客さまにお納めするタイミングが3月末になっています。そのようなお話もして、今、プロジェクトが見えるようなかたちですので、その影響はもうないと考えています。
(動画終わる)
Ken:このようなお話でした。私が「いかがですか?」と聞いた時に、食い気味なくらいすぐに「ないです」と答えていただきました。
荒井:即答でしたね。
Ken:もし心の中に迷いや言いづらい部分がある場合は、これをすぐに言うことは難しいと思っています。しかし、完全に「ないです」と言い切ったということは、本当に来期以降の影響はないのではないかと読み取れます。
荒井:さらにその後、もう一段のご説明を含めて「ないです」という言葉を重ねていますので、安心感がありますね。
Ken:そうですね。今回、動画をいくつか振り返りましたが、あらためて、不採算案件の来期以降への影響は基本的にないと考えています。また、どれくらいの増収増益幅になるかはわかりませんが、少なくとも決算が悪かった2025年3月期よりは、2026年3月期の数字は良くなるのではないかと思いました。
配当に対する姿勢も投資判断のポイント
Ken:続いて、配当についての言及を見ていきます。
ランドコンピュータは配当利回りがかなり高く、この時も5パーセントを超えていたと思います。もし来期に減配がないのであれば、仮に業績が思っていたより悪くても、配当がクッションになってくれるため、株価の下値が限られるのではないかと考え、私は配当について注目していました。
それでは、見ていきましょう。
(動画始まる)
福島:株主さまへの還元の中身としては、これまで配当性向40パーセント以上を利益還元していく方針にしていましたが、中期経営計画で「VISION2025」を策定して、連結の配当性向50パーセント以上を還元していくと定めました。このように、しっかりこれを守って今後も進めていきたいと考えています。
これが配当性向の折れ線グラフになります。これは12期分あるかと思いますが、右肩上がりになっており、株主のみなさまにしっかり還元する姿勢がおわかりになるのではないかと考えています。今期は77パーセントということで、非常に高い還元性向になりました。
利益について失敗プロジェクトがありましたが、絶対に減配はしません。
(動画終わる)
Ken:「絶対に減配はしません」という発言が出てきました。ログミーFinanceの書き起こし記事にも同じ発言が掲載されていますが、減配に対してすごく抵抗がある社長や、減配をしたくないという社長は一定数います。福島社長も減配をすごく嫌う方なのではないかと思いました。
もう少し見ていきましょう。
(動画始まる)
福島:株主さま重視で行くという姿勢は崩したくないということで、今期77パーセントの配当性向をしっかり出すと決めました。
このようなかたちで、50パーセント以上還元をしていくとお約束したことを、今後もしっかり守っていきたいと考えています。
(動画終わる)
Ken:この動画でわかるのが、「配当性向50パーセントは死守していくこと」と「減配は絶対にしない」というニュアンスの発言をされているということです。
何が言いたいかというと、来期、ある程度業績が戻ってくるのであれば、おそらく増配される可能性もありますし、仮に業績が戻らなかったとしても、減配にならないのであれば、株価の下値は限られるのではないかということです。
以上の2点を組み合わせて総合的に考えると、まず業績については不採算案件がなくなることで来期以降に良くなりそうですし、なおかつ、その確度がけっこう高いと思います。
私がそう判断したのは、他の事業部長クラスの方も不採算プロジェクトのほうにリソースを割いていたため、それが正常化すると絶対に売上は上がってくるだろうと考えたからです。そのため、業績が改善する確度は高いと思います。
配当に関しても、「絶対に減配しない」という発言を社長がするということは、例えば来期予想を出した時に「減配します」となった場合、絶対に突っ込まれるポイントです。今期の話と来期の話で少し内容は異なるものの、そのような意味で、福島社長の場合は減配を出してこないのではないかと思います。
株価位置などもいろいろあると思いますが、総合的に見て今のバリュエーションであれば、本決算はアップサイドの可能性のほうが高いのではないかと思いました。
その後、実際の株価はどのように変化したのか?
Ken:実際の株価がどうなったかを見ていくと、4月7日に暴落があったため少しわかりづらいのですが、決算を終えて、けっこう高く寄り付いています。今は少し下がっていますが、マーケットはポジティブに反応しているということです。
中身を見ると、想定どおり不採算案件がなくなったことで増収増益となり、増益幅もかなり大きめだということがガイダンスで発表されました。さらに2円の増配もあり、それによってマーケットは好感して、一時的にけっこう高くなりました。
もし安い時に株を買えていたら、だいたい10パーセントから15パーセントくらいは取れた可能性があるパターンだったかと思っています。
荒井:前回のIRセミナーで、今回の高値チャートのヒントはたくさんありましたよね。
Ken:そうなのです。マーケットは来期の業績も悪くなることを一番警戒していたのですが、福島社長のいろいろな発言や私の質問への回答内容から、おそらく弱い数字は出してこなさそうだとわかったのが大きなポイントだったかと思います。
荒井:福島社長が株主のほうへ向いている気持ちもすごく強く感じましたね。
Ken:「株主重視」や「還元を重視する」というニュアンスの発言が何回も出ていたため、その中で減配するのは、ある意味で株主を裏切るような行為にもなります。福島社長はそのようなことはしないだろうと思います。
もちろん、100パーセントと思い込んでしまう投資家は駄目だと思いますが、今回は80パーセントから90パーセントくらいは信用して大丈夫だったと思っています。なおかつ、当時の株価のバリュエーションもかなり安かったため、それなりの期待値はあったパターンだったということです。
荒井:IRセミナーの映像で見るべきポイントをたくさん教えていただきました。ありがとうございました。
過去の業績などを事前確認することで、重要ポイントを聞き逃さない
荒井:さて、みなさま、いかがでしたでしょうか? 私も大変勉強になりました。
Ken:ありがとうございます。よかったです。
荒井:今回教えていただいたことで、重要なポイントの聞き逃しが少なくなるのではないかと思いました。
Ken:みなさまもセミナーを見ていただく時に、少しでも構いませんので、過去の業績なども事前に確認しながら、「今回はここがポイントだな」という部分を見つけられたら、聞き逃しは少なくなるのかと思います。
荒井:また「社長はこのような方だな」ということを知るために、前回・前々回の書き起こし記事を読むこともよいのですが、アーカイブ動画を見るのもよいかもしれないですね。
Ken:やはり人となりは映像でしか伝わらないものだと思います。文字だけではわからない部分ですので、見返していただくとよりよいかと思います。
荒井:Kenさん、本日はありがとうございました。
Ken:ありがとうございました。
荒井:それでは、また次回をお楽しみに!