日経CNBC「トップに聞く」

守田正樹氏(以下、守田):本日は、東亞合成株式会社の小淵秀範社長にお越しいただいています。小淵社長、よろしくお願いします。

小淵秀範氏(以下、小淵):代表取締役社長COOの小淵です。よろしくお願いします。私は2025年1月に社長に就任しました。

これから、ますますメガトレンドに即した高付加価値テーマの開発が重要となってきますが、まさに世界のメーカーとの生き残りをかけた競争となります。これまでの開発経験を活かして、世界で戦える高機能製品を開発し、企業価値向上を果たしていきたいと考えています。

自己紹介(代表取締役社長COO 小淵秀範)

守田:東亞合成にとっては9年ぶりの社長交代となります。投資家・視聴者の方も「小淵さんはどのような方なのだろう?」と気になっていると思いますが、キャリアなどを教えていただけますか?

小淵:スライドに記載していますが、1988年に研究所からスタートして、その後、営業や事業企画でキャリアを積んできました。その間、一貫してポリマー・オリゴマー事業、接着材料事業などの機能製品分野に携わってきました。

同時に、唯一無二の技術で社会課題を解決するテーマの立ち上げの推進に対応してきました。成果の1つとして、現在の成長ドライバーの一角を占めているリチウムイオン電池用バインダーを当時のプロジェクトメンバーとともに立ち上げ、事業化しました。

守田:最近、我々も取材していて感じますが、例えば株式会社フジクラの岡田直樹社長や、味の素株式会社の中村茂雄社長など、成長ドライバーになる部分を開発から経験し、社長になる方がいますが、小淵さんもそのようなキャリアなのですね。

小淵:おっしゃるとおりです。

成長ドライバー

守田:東亞合成は本当に幅広い事業ポートフォリオを持っていますが、その中で今、成長ドライバーに位置付けているものを簡単に教えてください。

小淵:成長ドライバーはモビリティと半導体の2分野で、それぞれ世界で高いシェアを誇っている製品群で占められています。モビリティに関しては、リチウムイオン電池用バインダーと車載電池用接着剤です。半導体に関しては、半導体製造用の各種薬剤です。

5つの事業セグメント(川上から川下へ)

守田:事業構成についてうかがいたいのですが、東亞合成はサプライチェーンの上流から下流まで、幅広い事業ポートフォリオを持っています。例えば「アロンアルフア」のような消費者に近い製品もありますが、5つの事業セグメントを川上からご説明いただけますか?

小淵:まず、基幹化学品事業は、塩の電気分解により作られたカセイソーダ・塩酸のような無機化学品と、アクリルモノマーで構成されています。高機能材料事業では、塩酸などを高純度化した製品が、現在半導体製造用薬剤として拡大しています。

ポリマー・オリゴマー事業では、リチウムイオン電池や化粧品用のアクリルポリマー、電子材料用の光硬化性樹脂などのアクリルチェーン全体の強化につながっています。いずれにしても、川上から川下へと、このような展開をこれからも強化していく予定です。

5つの事業セグメント(川上から川下へ)

守田:さらに一般消費者や生活の中で身近なところにも、いろいろと展開していますよね。こちらについてもご説明いただけますか?

小淵:まさに接着材料事業になりますが、1つは、成長ドライバーの一角を占めている車載電池用接着剤で、もう1つはBtoCの「アロンアルフア」です。

「アロンアルフア」は、さまざまなニーズに対応するために数年おきに新製品を出しています。最近では「アロンアルフア光」という、光で高速接着する商品を上市しました。瞬間接着剤は白化する現象がよく起きるのですが、それが起きないため、プラモデル愛好者から非常に好評です。

樹脂加工製品事業は、グループ会社のアロン化成が担っています。介護用品でトップブランドを占めている「安寿」や、下水道管等の老朽化に対応して効率的に交換できる各種製品などを有しており、こちらで示した製品群で展開しています。

守田:アロン化成もそうですし、「アロンアルフア」も圧倒的なシェアを持っています。

当社グループの収益構造(2024年)

守田:業績の状況についてご説明いただけますか?

小淵:こちらのスライドは、2024年の売上高と営業利益です。2024年は数量が堅調に出荷され、売上高は過去最高となりました。前年比で見ても増収増益という結果です。

営業利益にフォーカスして見ると、基幹化学品事業が過半数を生み出しています。そして、ポリマー・オリゴマー事業、接着材料事業、高機能材料事業などが残りの半分を生み出しています。非常にバランスが取れた内容で、基幹化学品事業の好調が高機能製品のチャレンジをアシストするかたちになっています。

守田:そのような意味では、キャッシュカウ(※)としての役割はしっかりと果たしながらも、成長の投資も進められるかたちになってきています。
※安定して利益を上げることができる事業を指します。

小淵:2025年についても、高機能製品の販売が順調なため、前年比で増益となる見込みです。

中計基本方針・PBR改善施策

守田:中期経営計画についての話に移っていきます。中期経営計画は毎年ローリングしていますが、どのような基本的な考え方・内容をもって進めているのか、教えていただけますか?

小淵:中期経営計画は、3つの基本方針について取り組んでいます。1つ目は、研究開発力の強化、海外売上の拡大、成長投資の収益化を軸とする「成長戦略」です。

2つ目は、株主還元強化を中心とした「財務戦略」です。3つ目は、持続可能な社会への貢献を目指す「非財務戦略」です。

この3つの基本方針・基本戦略をもとに対応を行いながら、ROE8パーセントとPBR1倍超えを目指すかたちで、取り組みを進めています。

成長へ向けた研究開発、設備投資

守田:資本効率の向上については後ほどゆっくりうかがえると思います。まずは「成長戦略」の柱になる、研究開発を軸にした成長戦略をご説明いただけますか? ある意味では、小淵さんが現在社長を務めているのも、その考え方がはっきり表れているように思います。

小淵:先ほどの成長戦略の要は、まさに研究開発と設備投資です。研究開発については既存のものも含めますが、主に新しいものに対して投資を行います。設備投資については、特にモビリティ・半導体などの成長ドライバーに対するものがメインになります。

スライド下段は、過去の中期経営計画3年間ごとの推移をグラフにしたものですが、記載のとおり、過去最大の研究開発投資を予定しています。設備投資に関しても過去最大の投資額になっています。中期経営計画の目標に対しても上回っており、攻めの準備はできたと捉えています。

研究開発においてテーマ化したものが迅速に設備投資に回るような、良い循環にもなっていると考えています。

守田:研究開発に注力することで、先ほどお話にあった「アロンアルフア光」や歯科向けの止血材などでも、さまざまな成果が上がってきています。このようなものが循環していくような、川崎フロンティエンスR&Dセンターなどの対応も進んでいるようですね。

小淵:おっしゃるとおりです。

成長ドライバー(モビリティ)

守田:成長戦略の柱として、モビリティと半導体という2つの成長ドライバーについて先ほどご説明いただきましたが、これらについてもう少し深掘りしてお話しいただけますでしょうか? まずは、モビリティについてお願いします。

小淵:モビリティにおいては、負極の膨潤抑制という顧客ニーズをいち早く獲得しました。

守田:リチウムイオン電池用バインダーですか?

小淵:1つは、2017年に立ち上げたリチウムイオン電池用バインダーです。

守田:こちらは、小淵さん自身が開発に携わったものですよね?

小淵:まさにそうです。順調に拡大しており、特に2026年には名古屋工場の増強も計画しています。こちらは世界でシェアが獲得できる商品ということで、経済産業省、愛知県名古屋市のそれぞれから補助金を受領する予定です。

もう1つは、ハイブリッド車・燃料電池車に搭載される車載電池用接着剤です。こちらも搭載車種の拡大によって順調に販売を伸ばしています。

守田:スライドには「クラウン」の写真が掲載されていますが、「MIRAI」などにも使われているのですね。車載電池用接着剤には、「アロンアルフア」の強みも活かせるということですか?

小淵:おっしゃるとおりです。補足すると、秘密保持の関係で内容はなかなか明かせませんが、ガソリン車向けに特殊部品用の機能性ポリマーもけっこうな量を販売しています。

そのような意味では、まさにリチウムイオン電池は電気自動車用のため、現状では電気自動車やハイブリッド車、燃料電池車、そしてガソリン車と全方位で対応しています。

守田:どこかが伸びていない時はほかのところで伸びるように、バランスが取れる格好になっていますね。

成長ドライバー(半導体)

守田:もう1つの成長ドライバーである半導体の現況、あるいは成長戦略を教えてください。

小淵:半導体分野について、高品位ウエハ製造用の高純度液化塩化水素は世界シェアNo.1です。スライドに記載したグラフのとおり、順調に拡大しています。それに合わせた設備投資にも、しっかりと取り組んでいる状況です。

また、ウエハ研磨用の薬剤については、高純度カセイカリや高機能CMP用アクリルポリマーという製品群が順調に拡大し、順次、製造設備の対応を行っています。

守田:世界シェアNo.1の高純度液化塩化水素は、言ってみれば製造の前工程となる、シリコンにフォトレジストを通す前の薄膜を形成する段階で欠かせないものですか?

小淵:「高品位ウエハ」と言われているエピタキシャルウエハの製造には、欠かせない材料となります。

守田:ここで非常に大きなシェアを持っているのですね。

小淵:まさに世界のデファクトスタンダードということで、世界シェアは非常に高いです。

注力製品「ガラス代替樹脂」

守田:ここからは、新製品や期待できる分野、どのようなところに力を入れているのかについて、トピックをご紹介いただけますか?

小淵:当社にはさまざまな商品がありますが、今回は2つほどに絞り、時流に乗ったものをご紹介したいと思います。まず、LiDAR用カバーシートへの採用が始まった、ガラス代替樹脂「アロニックスシート」です。こちらは、私どもが光硬化性樹脂「アロニックス」で培ったさまざまな技術を駆使して作った商品となります。

スライドに記載のとおり、このような用途では一般的にガラスが使われますが、ガラスの長所である光学特性・耐熱性に加え、短所である割れやすさや重さを克服した、世界初の材料です。自動車の自動運転への搭載が期待されており、将来的に非常に楽しみな商品であると理解しています。

守田:LiDARとは、レーザー光を当てて距離を測ったり、あるいは対象物が何かを見たりといった、要するに自動運転だけでなく、今後はドローンなどさまざまな場面に使われていく技術ですよね?

小淵:おそらく自動車が一番難しく、将来大きく期待されていますが、すでにさまざまなロボットや農工具などには採用され始めています。いずれにしてもLiDARとは、近赤外線を通して距離と対象物の元の形を把握する機器です。そのような意味では、非常に高品位かつ高精度な測定ができると考えています。

注力製品「下水道老朽化対策製品」

守田:現在の社会的な課題であるインフラの老朽化への対応についても、取り組みをご紹介ください。

小淵:先日、埼玉県で下水道管の破損による痛ましい事故が発生しました。実は、日本での陥没事故は年間2,600件あり、道路陥没の70パーセントは下水道の主管に届くまでの取付管という場所で起きています。そのため、ここの補修対策が急務であると言われています。

現在、グループ会社のアロン化成では、このような取付管の補修を効率的に行う各種製品を揃えており、これらの製品を開発・販売していくことに力を入れています。今後はこのような下水道管の老朽化対策に取り組みながら、国土強靱化に貢献していきたいと考えています。

株主還元の強化

守田:ここからは市場との向き合い方についてうかがいたいのですが、まずは株価を見ておきましょう。本日の株価は0.5円安と、下げてきました。

また、現在の株価純資産倍率は0.71倍程度とまだ1倍に届かない数値ですが、ここから市場にどのように向き合い、そして市場にどのように評価されていくのでしょうか? 考え方をお聞かせください。

小淵:まず、企業価値向上にはPBRの改善、すなわちROEとPERをいかに上昇させるかが重要だと考えています。先ほどご説明したとおり、ここでは成長戦略と財務戦略の深化と加速が基本となります。これに加えて、既存事業の強化やポートフォリオの見直しをしっかり進めていきたいと思っています。

また、財務戦略については、過去の中期経営計画3年間の推移を見ると、配当金と自社株買いは毎年増加しています。総還元性向も100パーセントを超える見通しです。今後も株主重視の方針を続けていきます。

守田:このように市場と向き合いながら、評価を高めていこうとお考えなのですね。

小淵氏からのご挨拶

守田:最後に、視聴者に向けてメッセージをお願いできますか?

小淵:新型コロナウイルスはようやく収束しましたが、今度はアメリカ新政権による関税が世界を翻弄しています。現時点では、私どもに直接の影響はあまりありませんが、今後、間接的な影響を受ける可能性はあります。これから情報を精査し、柔軟に対応していきたいと思っています。

なお、このような時だからこそ新規開発の手は緩めず、むしろ強化していきたいと考えています。成長ドライバーであるモビリティ、半導体はテーマの宝庫です。そのような意味では、横展開をしっかり進めていくこと、そして次期成長ドライバーとして位置付けるセルロースナノファイバーやメディカルなども、次期中期経営計画での立ち上げを確実に実現していきます。

リスクをチャンスと捉え、健全な危機感を持ち、社員全員で企業価値向上を目指していきたいと思います。これからの東亞合成にぜひご期待ください。