1. TAM、SAM、SOMとは?それぞれの意味と違い

TAM、SAM、SOMは、市場規模を測る際に用いられる指標で、それぞれが異なる視点から市場を捉えており、事業計画策定や投資判断に活用されます。

1-1. TAM(Total Addressable Market)とは?

TAMは「タム」と読み、ある製品やサービスが理論上到達可能な最大の市場規模を表します。これは、地理的制約や競合他社の存在を考慮せず、全ての潜在的顧客が自社の製品やサービスを購入した場合の総売上高を意味します。

TAMは市場全体のポテンシャルを示す指標であり、企業が新規事業を検討する際に事業の成長可能性を測る上で良い手がかりとなります。

1-2. SAM(Serviceable Available Market)とは?

SAMは「サム」と読み、企業が現実的にアプローチできる市場規模を指します。TAMから、自社の製品やサービスが対応できない顧客セグメントや地理的な制約などを差し引いた残りの市場がSAMです。TAMよりも具体的な数値であり、自社の事業規模をより現実的に把握することができます。

SAMの算出には、TAMの数値を基に、下記のような制約要因を詳細に分析し、現実的にアプローチ可能な市場規模を絞り込む作業が必要です。

・地理的制約:自社が実際に製品やサービスを提供できる地域
・技術的制約:自社の技術力で対応可能な顧客セグメント
・法的規制:事業展開が許可されている地域や業界
・価格帯:自社の価格設定で対応可能な顧客層
・言語や文化の障壁:自社が対応可能な言語圏や文化圏

TAMが理想的な市場規模を示すのに対し、SAMはより現実的な事業機会を表すため、短期から中期的な事業戦略の立案に役立ちます。

1-3. SOM(Serviceable Obtainable Market)とは?

SOMは「ソム」と読み、企業が実際に獲得可能な市場規模を指します。SAMから、競合との競争状況や自社の市場シェアなどを考慮して、実際に獲得できる見込みのある部分を切り出したものがSOMです。SOMは、最も具体的な数値であり、事業計画やマーケティング戦略策定の際に最も重要な指標となります。

SOMは、SAMから更に絞り込まれた市場規模を示し、以下のような要因を考慮して算出されます。

・競合状況:市場における競合他社の数と強さ
・自社の市場シェア:現在の市場占有率と将来の成長予測
・営業力:自社の販売チームの規模と能力
・マーケティング予算:顧客獲得のために投入可能な資金
・製品・サービスの差別化:競合他社に対する優位性
・ブランド認知度:市場における自社ブランドの知名度と評判
・顧客獲得コスト:新規顧客を獲得するためのコスト効率

SOMは事業計画やマーケティング戦略の策定において以下のような用途に使われます。

・売上予測:短期から中期的な売上目標の設定
・資源配分:営業やマーケティングへの投資判断
・KPI設定:具体的な成果指標の設定
・投資判断:ベンチャーキャピタルや投資家への説得材料
・事業の実現可能性評価:新規事業や新製品のポテンシャル評価

SOMは定期的に見直しと更新が必要です。市場環境の変化、競合他社の動向、企業の成長などにより、SOMは常に変動する可能性があるためです。 また、SOMを増大させるための戦略立案も大切です。例えば、新規市場への進出、製品ラインの拡大、マーケティング施策の強化などが考えられます。

1-4. TAM、SAM、SOMの関係性

TAM、SAM、SOMは、包含関係にあります。一般的に、SOM ⊆ SAM ⊆ TAM の関係が成り立ちます。つまり、TAMが最も広く、SOMが最も狭い範囲を示します。

これらの指標を理解することで、事業がどの程度の規模の市場で戦っているのかを正確に把握することができます。また、それぞれの指標を比較することで、自社の成長ポテンシャルや課題を明確にすることができます。

2. 市場規模を正確に把握する重要性

市場規模を正確に把握することは、事業の成功だけでなく、投資家にとっての投資判断の根拠としても役立ちます。投資家は、TAM、SAM、SOMといった指標で、企業や事業の成長性・収益性を評価することができるのです。

2-1. 事業計画策定における重要性

TAM、SAM、SOMは、事業計画を策定する上で以下の点において活用されます。

・目標設定: 各指標に基づいて、具体的な売上目標や市場シェア目標を設定することができます。
・リソース配分: 各指標の分析結果に基づいて、マーケティング予算や人材配置などのリソースを最適化することができます。
・リスク評価: 市場規模が過小評価されていた場合、事業が失敗するリスクが高まります。逆に、市場規模が過大評価されていた場合、過剰な投資をしてしまうリスクがあります。

2-2. 投資家への説明資料作成における重要性

投資家への説明資料を作成する際、TAM、SAM、SOMは、事業の成長性や収益性を視覚的に示すことができるため有効です。

2-3. 投資家がTAM、SAM、SOMに期待できること

上の事例からも分かるように、投資家は、TAM、SAM、SOMを通じて、以下の情報を期待することができます。決算説明会資料や決算説明会書き起こしでそれを公開している企業を見てみると良いでしょう。

・事業の成長性: 市場が拡大しているか、それとも縮小しているか。
・市場シェア獲得可能性: 競合との比較で、どの程度の市場シェアを獲得できるか。
・投資回収期間: 投資額に対して、いつ回収できるのか。

2-4. 競合分析における重要性

競合他社のTAM、SAM、SOMを比較することで、企業の競争優位性を評価することができます。例えば、ある企業のSOMが競合他社よりも大きい場合、市場における優位性を確立していると言えるでしょう。

3. TAM、SAM、SOMの計算方法

TAM、SAM、SOMを正確に計算することは、事業シミュレーションの精度を大きく左右します。ここでは、それぞれの指標の計算方法について、具体的な例を交えて解説します。

3-1. 各指標の計算式の例


TAMは「トップダウンアプローチ」とも言われるマクロな視点から市場規模を把握しようとする分析方法で算出します。
TAMの計算式:
市場全体の潜在的な需要を金額で表します


<例>
ある国のスマートフォン市場のTAM
= その国の人口 × スマートフォン普及率 × 平均購入単価

SAMとSOMはミクロな視点、つまり企業や事業の実績や顧客調査などから計算することから「ボトムアップアプローチ」の分析方法を用います。

SAMの計算式:
企業がターゲットとする市場の規模を金額で表します


<例>
ある企業がターゲットとするハイエンドスマートフォン市場のSAM
= スマートフォン市場のTAM × ハイエンドスマートフォン市場のシェア

SOMの計算式:
企業が実際に獲得できる見込みのある市場の規模を金額で表します


<例>
ある企業のSOM
= SAM × その企業の市場シェア

3-2. 計算に必要なデータ

これらの指標を計算するためには、以下のデータが必要となります。

・市場規模に関するデータ: 業界団体や政府機関が発表している市場調査データ、経済センサスデータなど
・企業のデータ: 製品価格、販売数量、顧客属性、競合分析データなど

注意:
・計算結果の精度には、使用するデータの正確性が大きく影響します。
・市場は常に変化しているため、定期的に計算し直しましょう。

4. 各指標の活用シーンと事例

TAM、SAM、SOMは、さまざまなビジネスシーンで活用されています。ここでは、具体的な事例を交えながら、各指標がどのように活用されているのかを解説します。

4-1. 新規事業の立ち上げ

新規事業を立ち上げる際、TAM、SAM、SOMは、事業の成功確率を測る指標となります。

・TAMの活用: 新規事業の市場全体のポテンシャルを把握し、事業の規模感を把握することができます。
・SAMの活用: 自社がターゲットとする市場の規模を特定し、競合との競争優位性を評価することができます。
・SOMの活用: 初期段階での売上目標を設定し、事業計画を策定することができます。

事例: 新型EV(電気自動車)の開発を検討している企業の場合、世界のEV市場のTAMを算出し、自社がターゲットとする高級EV市場のSAMを算出することで、事業の規模感と成長性を評価することができます。

4-2. M&A

M&Aにおいて、TAM、SAM、SOMは、買収先の企業価値評価にも活用することができます。買収先のTAM、SAM、SOMを分析することで、買収後のシナジー効果を予測し、適切な買収価格を決定することができます。

・TAMの活用: 買収先の市場全体の成長性を評価することができます。
・SAMの活用: 買収先の市場シェアや競争優位性を評価することができます。
・SOMの活用: シナジー効果を最大化するための買収価格を設定することができます。

4-3. マーケティング戦略策定

マーケティング戦略を策定する際、TAM、SAM、SOMは、ターゲット顧客の選定やマーケティング予算の配分を決定する上で重要な指標となります。

・TAMの活用: 広告媒体の選定やプロモーション活動の規模を決定することができます。
・SAMの活用: ターゲット顧客へのアプローチ方法を検討することができます。
・SOMの活用: マーケティングKPIを設定し、効果測定を行うことができます。

事例: 新しいスマートフォンアプリを開発した企業の場合、アプリのターゲットユーザーのSAMを分析し、その層に合わせた広告媒体を選定することで、効果的なプロモーション活動を行うことができます。

5. 検討内容に最適な指標を選ぶポイント

TAM、SAM、SOMは、どれも市場規模を測る指標ですが、どの指標を重点的に活用すべきかは、事業フェーズや目的によって異なります。ここでは、検討内容に最適な指標を選ぶ際のポイントを解説します。

5-1. 事業フェーズ

・スタートアップ: まずはTAMを把握し、市場全体のポテンシャルを評価しましょう。その後、SAM、SOMを算出することで、具体的な事業計画を策定することができます。
・成長期: SAM、SOMを重点的に分析し、市場シェア拡大のための戦略を立案します。
・成熟期: 競合との差別化が難しくなるため、SOMを細かく分析し、ニッチな市場を開拓する戦略を検討しましょう。

5-2. 業界特性

・成長産業: TAMが大きく変動するため、定期的に見直しを行う必要があります。
・成熟産業: TAMが安定しているため、SAM、SOMを重点的に分析することができます。
・規制産業: 政府の規制によって市場が制限されるため、SAMを慎重に算出する必要があります。

どの指標を重視すべきかは、事業フェーズや業界特性、分析の目的によって異なります。 複数の指標を組み合わせることで、より深い洞察を得ることができます。

6. TAM、SAM、SOMを誤って解釈してしまうリスク

TAM、SAM、SOMは事業の成長性を見極めるのに便利な指標ですが、誤った解釈や使い方をしてしまうと、事業判断を誤ってしまう可能性があります。

・定義の混同: 各指標の定義を正確に理解していないと、指標間の関係性を誤解してしまう可能性があります。
・データの質: 不正確なデータに基づいて計算すると、誤った結果が出てしまいます。
・外部環境の変化: 市場環境は常に変化しているため、過去のデータに固執せず、定期的に見直す必要があります。
・目標の設定: TAMを売上目標と混同してしまうと、非現実的な目標を設定してしまう可能性があります。

これらのリスクを避けるためには、各指標の定義をしっかりと理解し、正確なデータに基づいて計算を行うことが大切です。また、定期的に市場環境の変化を監視し、必要に応じて指標の見直しを行いましょう。

7. TAM、SAM、SOMを採用している企業の決算説明会書き起こしを読んでみよう

ここからは、決算説明会やIRセミナーで企業の成長戦略を投資家に伝えるためにTAM、SAM、SOMを使っている事例を紹介します。企業がどのような成長を思い描いているのか、詳しくは書き起こし記事も読んでみてください。

7-1. 事例:株式会社デジタルホールディングス(2389)

デジタルHD(東証プライム サービス業)は、そのグループ企業である株式会社バンカブルが提供する広告費の4分割・後払いサービス「AD YELL(アドエール)」と、仕入費の4分割・後払い(BNPL)サービス「STOCK YELL(ストックエール)」を軸に、金融事業の中長期ポテンシャルをTAM、SAM、SOMで説明しています。

▼決算説明会書き起こし▼
【QAあり】デジタルHD、グループアセット集約により顧客基盤が拡大 Marketing事業は収益性が大幅改善、新規顧客開拓が順調|2024年12月期第2四半期決算説明より

以前「YELL」シリーズのSOMとしてお伝えしていた6,700億円に加え、請求書カード払いのSOMは4,100億円と試算しています。 サービスを拡張することにより、我々が戦っていく市場のTAM・SAM・SOMを拡大していきます。ここは今後も慎重に拡大していきたいと思っています。


7-2. 事例:株式会社INFORICH (933)

INFORICH(東証グロース サービス業)はモバイルバッテリーシェアリングサービス「ChargeSPOT」を運営していますが、2024年8月にイギリスで子会社を設立することを発表し、イギリスやフランスなど、ヨーロッパでの「ChargeSPOT」の展開をSOMで説明しています。

▼決算説明会書き起こし▼
【QAあり】INFORICH、2Q営業利益がYoY+214% Ezycharge社連結で海外売上が増加、国内レンタルも好調|2024年12月期第2半期決算説明より

ヨーロッパのSOMは1億2,000万人と想定される、非常に大きい市場です。また、陸続きで電車で移動できることなどから、親和性が非常に高いと考えられます。日本のSOMが2,500万人、すでに一部展開しているASEANのSOMが7,000万人ですので、ヨーロッパのSOMがいかに大きいかがわかるかと思います。


7-3. 事例:and factory株式会社(7035)

and factory(東証スタンダード サービス業)は「マンガUP!」「マンガPark」「マンガMee」「サンデーうぇぶり」「ヤンジャン!」など大手出版社と共同でマンガアプリを開発・運営していますが、TAM、SAM、SOMを使った長期経営方針を公開しています。

▼IRセミナー書き起こし▼
【QAあり】and factory、出版社とのマンガアプリ運営をさらに強化 AIによる読み方変革や海外展開に向けた子会社化などを推進|2024年5月18日開催ログミーFinance 第77回 個人投資家向けIRセミナー 第3部・and factory株式会社より

その後、TAM領域は海外市場、もしくは我々がコンテンツごと作っていくところまで進出していきたいと考えています。TAM領域にまでしっかりと手を伸ばしていくことによって、会社が見たこともない成長を遂げていくと考えており、非常に楽しみにしているフェーズに突入したと感じています。


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