2024年3月期第2四半期 個別累計実績
福原正大氏(以下、福原):Institution for a Global Society株式会社代表の福原正大です。本日は大変お忙しい中、お越しいただきありがとうございます。
それではさっそく、2024年3月期第1四半期と第2四半期についてご説明します。第2四半期累計の売上高は、当初計画の2億5,700万円に対し2億5,800万円となり、予定どおりに着地しました。
個別計画の詳細は後ほどご説明しますが、プラットフォーム/Web3事業への投資を前提として、四半期純損失は個別計画でマイナス2億1,400万円、個別実績でマイナス1億6,600万円、計画比でプラス4,700万円となりました。
コア事業累計実績
私どものコア事業には、既存事業のHR事業と教育事業があります。HR事業の第2四半期累計の売上高は、前年同期比17.9パーセント増の1億3,000万円となりました。セグメント利益は3,600万円です。
教育事業の売上高は前年同期比8.8パーセント増の1億2,500万円、セグメント利益は2,900万円となりました。
コア事業KPIハイライト
コア事業のKPIハイライトです。後ほどご説明しますが、HR事業に関しては企業の人的資本に対して多くの市場からの注目度が高まっており、人的資本理論の実証化研究会の会員数が増えています。
教育事業においても、日本の小学校・中学校・高校で非認知領域が伸びていることから、顧客数は311校となりました。企業数と学校数は過去最大となっています。
私どものビジネスは特に教育事業のストック事業が非常に安定しています。一度学校に導入すると非認知能力を測り続けていただけるということで、ストック収益率は69パーセントとなりました。
HR事業も人的資本に関する売上が増加したことでストック収益率が26パーセントとなり、昨年度比で大きく上昇しました。このように、ストックビジネスを着実に増やしてきています。
新規事業ハイライト
私どもがより大きな社会インフラになるために、既存事業に加えて新規事業にも積極的に投資しています。将来的に個人の能力データを個人が持ち歩き、それをさまざまな領域で利用できるモデル作りが今後の持続的成長の鍵になると考えています。
就職などのさまざまなタイミングで使えるようにするための一環として「ONGAESHIプロジェクト」を10月にローンチしました。先ほどお伝えしたとおり、現在は完全に投資期間となっています。
いくつかの最新技術を使っており、今年度はデジタル庁の「Trusted Webの実現に向けたユースケース実証事業」に採択されました。みなさまもご存知のように、現在「プラットフォーマーが個人情報を持っていてよいのか」という議論が出てきています。
今、ASEANにおいては国家で個人データの外への持ち出しが許容されなくなってきています。私どもの今年の実証においては「秘密計算」という新たな技術を使い、ベトナムの学生たちがさまざまに学んだことなどの個人データを暗号化し、最終的に暗号化をかけたまま日本の企業とマッチングさせる取り組みを行っています。
また今年、経済産業省で人への投資を高めようと新たにスタートされた「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」にも採択されました。例えば、文系でもデータサイエンス事業に関わることができるように教育を受けて転職するなど、このような支援事業も受託しています。
これらの2つの事業も将来的な収益化に対してプラスに働くと考え、注力しています。
2024年3月期 通期個別業績予想
通期個別業績予想です。私どもは既存事業も新規事業も売上が下期に大きく寄るという特徴がありますが、通期計画の9億1,300万円は据え置いています。当期純利益も、当初の計画どおり1,400万円を見込んでいます。
コア事業である既存事業に関しては、ここまで業績予想どおりに進捗しています。通期予算の6億9,200万円に対し、現時点での確度が非常に高いと予測している案件込みの達成率は、すでに80パーセントまで来ています。
今後、既存事業は着実に進んでいくと見込んでいますので、プラットフォーム/Web3事業の「ONGAESHIプロジェクト」を、考えている方向にしっかりと進めていくことが重要になってくると考えています。
全体像をまとめますと、まず上期における売上高は当初の予想どおりとなりました。既存事業の顧客数が過去最高を維持する一方で、新規事業にも積極的に投資しています。第3四半期以降も投資に一部振り分けていますが、全体の損失額は一定量の新規投資でとどめている状況です。
HR事業ハイライト
事業別にご説明します。まずはHR事業です。先ほどお伝えしたとおり、顧客数は過去最高の71社と急速に伸びてきています。今年は私も『日本経済新聞』に掲載されるなど、足元では人的資本経営の流れが強まっています。多くの投資家が人的資本に注目することにより、企業は人的資本を可視化させ、企業価値との関係性を示すことが必要になってきます。
こちらに関しては、一橋大学の小野浩教授と私が共同議長となり、人的資本理論の実証化研究会を立ち上げました。この領域において非常に先駆的である、味の素や伊藤忠商事などにも入っていただき、顧客数が増えています。
研究会に入っていただくだけではなく、入会後には人的資本のデータを取るという作業をスタートしています。さらにアップセルという意味においては、一部のデータを取るだけではなく、全従業員に対して人的資本を計測する方向で、現在多くのお客さまとお話ししているところです。
足元では新規顧客が非常に増えていますが、その半分以上が既存企業からの紹介です。これは、私どもの人的資本の捉え方を、既存企業のみなさまに納得していただいているからだと考えています。
教育事業ハイライト
教育事業のハイライトです。「Ai GROW」の導入学校数は311校となり、着実に増えてきています。
以前もお伝えしましたが、「ChatGPT」などの生成AIが出てくる中で、これまでの日本のペーパーテストで点数を取るだけの教育に加え、人との関係性やリーダーシップ、課題を見つける力などの重要度が高まってきています。実際に、指導要領にもそのような「非認知」と呼ばれる領域を高めていくことが書かれています。
私どもはこの領域のパイオニアとして、経済産業省の「未来の教室」を含めたさまざまなかたちでコラボレーションさせていただき、現時点で311校まで増やすことができました。日本の学校はまだまだたくさんありますので、現在はこの数字をしっかりと伸ばしていくフェーズに入っています。
スライド右側のグラフをご覧ください。「Ai GROW」の継続導入により、1校当たりの単価も増えてきています。つまり「一部の学年だけで使っていたが、他の学年にも導入しよう」という学校が増えてきているということです。
このように、既存のコア事業は着実に右肩上がりとなっています。
能力データの活用モデル
新規事業についてです。新規事業は完全な投資フェーズにあると考えています。私どもはHR事業と教育事業においても着実に成長していますが、グロース銘柄として社会の大きな基盤となるように成長していくことを、上場時から多くの投資家のみなさまに約束しています。
スライドには、当社の未来像をまとめています。現時点では、教育事業であれば基本的に小学生、中学生、高校生、高等教育、大学生まで、HR事業であれば社会人である企業の人材の非認知能力や人的資本を可視化させ、それらのデータを企業、学校、各生徒、従業員の方々とシェアし、能力を伸ばす支援を行っています。
こちらが足元で私どもが生み出している価値で、BtoBtoCあるいはBtoS(School)toCの事業に取り組んでいます。
しかし今は、さまざまな国で個人情報保護の規制が強化されてきており、世界的にも「これから10年でデータを持つことは『資産』から『負債』に変わる」「大きな変革が起こる」と言われています。
その中で、私どもは自らの能力を個人が管理・活用するという未来像を描こうとしています。これは「Trusted Web」の基本的な考え方で、国が目指している方向でもあります。それには「秘密計算」や「ゼロ知識証明」と言われる領域のテクノロジーが必要になります。私どもは、そのベースを作り、個人にデータを蓄積し、個人がそのデータをさまざまなところで活用する未来を作ろうと考えています。
そのためのコアとして必要になるのが、ブロックチェーンという分散型の技術です。通常のサーバーにデータを置いてしまうと、サーバーがプラットフォーマーになってしまいます。現在、日本企業の大半はNTTやAmazonの「AWS」などの大きなサーバーにデータを置き、理論的には彼らがデータの最終所有者になっています。
データをさらに分散し、個人が持つというテクノロジーがブロックチェーンです。個人が自律的に自分の未来を一生涯かけて作っていくことに対しての方向性を示すために、私どもはプラットフォーム/Web3事業の「ONGAESHI」を進め、投資を続けています。
新規事業ハイライト及び収益化
「ONGAESHI」についてです。みなさまには、人生の重要な局面でさまざまなサポートをしてくれた恩師などがいらっしゃると思います。このサポートを受けられた方々はある意味幸せで、今の日本や世界では教育に投資できない人が非常に増えてきています。
さらに、日本のいくつかの統計データによると、教育ローンを受けたがゆえに不幸せだと感じる人たちの割合は51パーセントであり、その後金融的に苦しい生活を送っていると言われています。
このような状況を変える方法として、1946年にミルトン・フリードマンが提唱した「本人が教育ローンを受けるのではなく、さまざまな人たちからの支援で行えれば、人的投資はあらゆる資産クラスの中で最大の投資ツールになる」という考え方があります。この考え方を現実化させるためのモデルが「ONGAESHI」です。
具体的には、NFTを使ってブロックチェーン上で能力や教育を受ける権利を販売し、購入した方々がその人に対して投資するかたちになっています。つまり、スポンサーがNFTを購入し、学びたい人に貸し出しているということです。
そして、その人が学びにより転職した時には、最終的にスポンサーへ一定割合が戻る仕組みとなっています。例えば、人材紹介会社では、年収1,000万円であれば300万円から400万円を取りますが、そのうちの一定割合が戻ります。この仕組みは、世界でも非常に新しいと言われています。
今回、世界最大のブロックチェーンであるイーサリアム財団から、日本人で初めてフェローに選んでいただき、昨夜までトルコのイスタンブールに行ってきました。このように、世界でも画期的な仕組みとして取り上げられているモデルへの投資を進めています。
投資家のみなさまとしては「IGSはどのように儲けられるのか」が大きなポイントだと思います。1つ目は、NFTを販売する時に売上が上がります。2つ目は、人材紹介会社がこれまで取っていた紹介手数料の一部が、私どもに戻されます。
3つ目は、今年度しっかり考えなければいけないこととして、システムをIGSが持つだけではなく、世界のインフラにしていくために他社に売却する方向で進めています。この3つが、IGSの売上・利益につながる導線です。
NFTはまだ売り始めたばかりで、紹介手数料が戻るのはこれからですので、まだ事業として始まっていません。システム売却は今年3月末を目指して行っていますので、上期は一切売上が立っていないというのが、新規ビジネスの全体像です。
政府の先駆的な政策と合致し、2つの実証事業に採択
新規事業「ONGAESHI」は非常に先駆的であり、オープンAI、データを活用した個人情報保護についてどのように捉えるかは、世界的に大きなアジェンダです。今年のデジタル・技術大臣会合における閣僚宣言でも言及されています。
デジタル庁のTrusted Webの実現に向けたユースケース実証事業と、令和4年度補正予算のリスキリングを通じたキャリアアップ支援事業の2つが、新規事業関連で今年度または次年度以降の売上等に上がるかたちになります。
このように、上期は下期に向けてコア事業である既存事業をしっかりと伸ばすとともに、将来的な未来像に向けて投資を続けていきます。
HR事業
私どものビジネスの強みについてご説明します。HR事業は、人的資本が大きなテーマになっています。国内の人材管理の市場予測は、2025年までに15.4パーセント程度の成長が見込まれています。人材アセスメントグローバル市場では9.4パーセントの成長が見込まれており、今後もしっかりと成長していく予想です。
人的資本とは人の能力です。これまでの世の中は、人の能力を学歴でしか判断していませんでした。しかし、私どものモデルでは、さまざまな非認知領域を含めて人の能力を評価します。そのため、人材アセスメントが人的資本に結びつき、今後の成長性につながることになります。
人的資本経営の取り組み状況
人的資本経営の取り組みについては、多くの企業がさまざまなかたちで統合報告書等を出しています。スライド上のグラフは「人的資本経営」の重要度調査の結果を、2022年と2023年で比較したものです。1番左側の紺色が重要だと認識している方々ですが、昨年度の8パーセントから36パーセントに一気に広がっています。
私どもの顧客数が一気に広がり、人的資本が重要だという認識が着実に上がっていることがわかります。また、まったく重要だと認識していない方々が、昨年の19パーセントから5パーセントまで落ちてきていることも、人的資本領域における可能性を表していると思います。
加えて、人事資本経営の取り組みに最も興味を持っているのが大手企業だという点も、私どものHR事業における可能性だと考えています。
HR事業:マーケットポテンシャル
HR事業のマーケットポテンシャルについてです。スライドはIPO時に開示したマーケットであり、市場が非常に大きいことを示しています。
教育事業
教育事業についてです。先ほど、人の評価には認知領域と非認知領域があるとお伝えしました。認知領域とは、子どもの時に通信簿の成績で5科目につけられていたテスト結果のようなものです。しかし今は、医学的な試験でさえも「ChatGPT-4」などを使えば容易にクリアできてしまいます。
車が開発されたことで人間の足で車より早く着くことを考えなくなったように、特に記憶や計算に関する認知の領域では、答えがある問いに対して人間がAIに勝てる可能性は今後5年から10年でほぼなくなると言われています。
認知領域に意味がないというわけではなく、さまざまな非認知領域の基礎になることは間違いありません。しかし、今のように認知領域に偏りすぎている教育から、人との関係性を作る教育を取り入れる必要があると考えています。
人との議論によって起こる対立から新たな学びが生まれることは、歴史的にも実学でも証明されていますが、子どもの頃から人との関係性をしっかりと計る機会はなかなかありませんでした。
他者に対してどれぐらい優しいか、リーダーシップを発揮しているかなどに対するアセスメントは、これまで先生方の定性評価でなんとなく書かれていました。しかし、昨今は先生方が忙しくなりすぎて、書く時間が取れなくなってしまっています。
このように、認知に偏っている教育を変化させていこうという動きが、日本だけでなく世界的に行われています。アセスメントツールとして私どもがさまざまなかたちで可能性を示しているため、先月もアジア開発銀行のスピーカーとして私を呼んでいただいたように、非認知能力はとても注目されています。
数年前は「非認知能力は大学入試で使われないため、結局意味がないのではないか」と言われていましたが、今は変わってきています。スライド右側の図は、すでにセンター試験を受ける大学の数がどんどん減り続けていることを示しています。推薦入試やAO入試の比率が大きく伸びており、これらの試験では人との協働性やリーダーシップ力などを評価します。
つまり、認知能力に加えて、子どもの頃から一人ひとりのさまざまな強みを発見し、非認知能力を適切に測って伸ばしていくことが重要なのです。世界の大きなイノベーションは、強みからしか生まれません。今までの認知領域に加えて、早い段階からしっかりと非認知領域を入れて支援していこうと取り組んでいるのが、私どもの教育事業です。
この事業が非常に伸びているのは、「自分ではなく他者からどう見られているか」という世界でも非常にユニークな非認知能力のアセスメントを行う存在であるからだと認識しています。
非認知能力に対する関心の高まり
私どもがニュースや「Googleトレンド」から取得したデータでは、「非認知能力」という言葉が使われる数が着実に増えてきています。非認知能力のグローバル市場予測では成長率34.6パーセントと、非常に大きな成長領域にあることが読み取れます。
教育事業:マーケットポテンシャル
スライドに記載しているのは、IPOの時にも開示した数値です。マーケット的に非常に大きな可能性があることを示しています。
ブロックチェーン × 人材領域:マーケットポテンシャル
ブロックチェーン事業についてです。先ほどお話ししたように、個人情報を扱う「プライバシーテック」と呼ばれる領域は、86.6パーセントという驚異的な成長が見込まれています。
当社では、プラットフォーマーがどんどん横暴になってきている状況を変えるための技術とツールを提供しようとしています。足元では初期投資がかさみますが、マーケットの持っている可能性は非常に大きいと言えるのではないかと考えています。
ブロックチェーン領域は、この2年から3年は一時的に、アメリカの監査機関にいくつか問題点があったためマイナスでした。しかし、私も以前いたブラックロックがイーサリアムとビットコインのETF化を進めていることと、ビットコインのETFが最終的な金融許可が取れる寸前であると言われていることにより、アメリカのマーケットで急速にイーサリアムとビットコインが上がってきています。
暗号資産が全体的に大きく伸びようとしていることも、もう1つの大きな可能性につながってくると考えています。
HR事業における当社の強み
競合優位性について詳しくお話しします。繰り返しになりますが、HR領域については、人的資本をしっかりと測ることができることが強みになります。
ノーベル経済学賞受賞者のゲーリー・ベッカーが明確に述べているように、人的資本とは人の能力です。エンゲージメントは人的資本ではありません。人的資本を活用するためには重要なファクターになり得ますが、あくまでも能力がコアになります。
よく「タレントマネジメントと何が違うのですか?」「人材コンサルティング会社とはどう違うのですか?」と聞かれます。私どもはタレントマネジメントとも、人材コンサルティング会社とも協働できます。
どのようなことかというと、基本的にはタレントマネジメントのツールの中には、人的資本を詳しく測るためのツールが入っているわけではないからです。人的資本は管理するものであって、投資をしていくための発想です。ヒューマンキャピタル、つまり資産であるということは、マネジメントが決して直接的ではないということです。
このようなタレントマネジメントという分野において、いろいろなシステムを使っている会社が、実際に私どものサービスを利用しています。なぜかと言うと、それらは他の業界や会社の状況について、しっかりとした人的資本のフレームワークを持っているわけではなく、あくまでも管理ツールだからです。他のものに頼っていかなければならない時に、私どもが協働ができる可能性があるということが、1つのコラボレーションになります。
また、人材コンサルティングでは、大手の外資系の人材コンサルティング会社が、さまざまな企業と人的資本についてのプロジェクトを展開しています。ご存じのとおり、コンサルはフロービジネスですので、一定期間「このような方法があるのではないでしょうか」とコンサルティングをしておしまいです。データをずっと取り続けるようなファンクションは、基本的にありません。
したがって、そのようなデータを統合できるという意味で、私どもは人材コンサルティング会社と組む、あるいは人材コンサルティング会社からIGSを選んでいただいてデータを構築することができます。もちろん、私どもが人事コンサルティングに近しい支援をすることもありますが、どちらかと言うと、そのような企業と協働できることが大きな強みとなっています。
私どもが選ばれる理由としては、まず1つに早い段階でバイアスを縮めるためのAIを開発し始めた、世界でも先駆的な会社であることが挙げられます。やはり人の評価はどうしてもバイアスにまみれます。さまざまなバイアスがあるからこそ、男女の賃金格差が生まれているとも言えます。私どもは、このような部分もしっかりと補正できるツールを持っています。
もう1つは、国内だけではなく世界で通じる標準を取っていることで、グローバル比較ができる点が挙げられます。
加えて、私が一橋大学の小野浩教授とともに議長を務めているように、大学発ベンチャーと言われる私どもは「議論」をベースにしています。データはデータマイニングと言うように、いくらでも遊びでできてしまいます。単にデータだけの遊びではなく、理論をベースにしたデータ構築をしているところが、他社との明確な差別化になり得ると考えています。
教育事業における当社の強み
教育事業についてです。私どもは企業も学校も同様に、25のコンピテンシーと5つの気質についてのデータを取っています。実は、子どもから大人までのデータを同じ規格で取っている企業は、あるようでありません。例えば、課題設定力や想像力などの能力の伸びについて、子どもの頃からデータを取り続けて標準化できている会社は、日本だけではなく世界にもなかなかありません。
そのため、国際機関や研究機関からはこのような部分で私どもを選んでいただいており、これをベースにしているところが非常に強みとなっています。
また、データでしっかりとアセスメントをすることで学習コンテンツや学習支援システムにつなげることもできます。逆に、学習支援システムに対して学習コンテンツと協働することもできます。
さまざまなものと柔軟に組み合わせられることが、教育ビジネスでの非常に大きな強みになっていると考えています。
質疑応答:非認知能力定量化に関するガイドラインについて
質問者:具体的に業績が絡むかどうかは別として、今の人的資本開示で1つの課題感として出ているのが、非認知能力のKPIです。ガイドラインはあるにしてもKPIが設定されておらず、最終的な横軸の評価ができません。
縦軸については、例えば発行体毎で、同じ軸で10年スパンで評価をするというところはわかります。それでは、仮にA社とB社を比較した時、つまり横軸の比較ができないことが大きな課題になっています。
人的資本開示の中でも、おそらく早急にガイドラインをまとめられるものの1つだと思います。この非認知能力というものに対して、グローバルなところも含め、御社のシステムとしてタイムライン的に動いている評価のガイドラインはあるのでしょうか?
福原:非常に重要なご質問をありがとうございます。まず、私どものフレームワークはもともとOECDがキーコンピテンシーとして定めたものです。このキーコンピテンシーがどのようなものから構成されるかというと、もちろん認知能力も入っていますし、認知能力の前の最低限の知識も入っています。
また、認知能力と知識に加えて、考えているだけではなく自分でなにか行動を起こすということや、人との1対1の横における関係性、コミュニティをどのように引っ張っていくことができるのかなどの能力が、どのように構成されるのかについても、OECDがキーコンピテンシーとして定めています。
私どもの「GROW」「Ai GROW」「GROW360」は、このOECDのキーコンピテンシーをベースにしています。加えて、最近はスキルに関しても、世界的にはもともとはEUがESCO基準というものを作っています。これはもともとEUを成立させるために必要だった基準です。
どのようなことかと言うと、ヨーロッパでは労働移動の自由化を進めていかなければなりません。例えば、フランスにおいてはグランゼコールが一番上にきて、大学がその下にきます。しかし、ドイツではまた違う制度で、学歴を見ても横比較ができないという歴史があります。そのため、スキルにおいて統合したフレームワークが必要だということで、EUのフレームワークがありました。
ところが、フレームワークとしてはあったものの、まさに先ほどのご質問にもあったように、スキルを非認知能力も含めてどのように定量化するのかには課題もありました。その後、コーン・フェリーなども含めて徐々に定量化させていく道筋ができました。足元においては「ChatGPT」等の汎用型AIが出てくると、そのようなスキルに関してもある程度整理がしやすくなってきています。
今は、世界の標準的な基準であるヨーロッパのESCOをベースにしながら、このようなものを少しずつ作っていこうという流れがあります。例えばISOもISOで独自のものを作ろうとしていたり、中東やASEANなどでもみられます。
特にASEANの場合は、国ごとで労働の緩やかな自由化を目指していますので、そのようなものを作ろうという流れがあります。スライドにも一部記載していますが、私どももそれに準じるかたちで、ESCO基準等によるスキルの再評価を行おうとしています。
私はもともとブラックロックにいましたので非常によくわかるのですが、そうなってくると、実際に投資家の立場から見ると、業界をニュートラルにするとどこに一番よい人材がいるのかを当然ご覧になりたいと思います。ですから、私どもはそのようなところに訴求できるような仕組みにしていくべく対応を図っています。
先日、スチュワードシップ研究会というところでお話をしました。これは日本を代表する運用会社のうち、人的資本等にご興味をお持ちの方々が出席している会で、いろいろな議論を交わしました。その中でも、人的資本をどう定量化し、業界内でどう比較をし、どの業界が世界の中において競争力を持っているのかを測りたいというお話がありました。
標準化することによって、企業とともにそのためのツールを作ろうとしています。言い方は悪いですが、今の時点では企業が勝手にKPIを設定している状況です。そのため、例えば業界Aの1という企業と2という競合企業では、まったく横比較ができない状況にあります。
すべては難しいかもしれませんが、少しずつ横比較ができるような指標を作っていこうというのが研究会の目的にもなっており、私どもも鋭意進めているところです。
これに関しては結局、投資ができるかたちにまで人的資本が上がっていかなければ何の意味も持ちません。男女の賃金格差や男性の育休取得率などの数値だけでは、人的資本に直接的に関係がないわけです。ですので、私自身も国とさまざまなかたちで議論をしていきながら、その方向に進めるだけのベースのインフラを提供すべく準備を進めています。
現時点では完成していませんが、私どもは日本を代表する33の企業と研究会を行っていますので、まずはその中の一部の幹部のみなさまの横比較ができる数値を作り始めています。開示できるかどうかは各企業の方向性にもよりますが、それを今年度の研究会の目的にしながら進めていくかたちになります。
質疑応答:国がガイドラインを統一する可能性について
質問者:今のお話はおそらく、いろいろな団体がガイドラインを作ろうとしている中でのことだと思います。投資という議論に限って言うと、例えば金融庁や経産省などが、ガイドラインを1つに統一するという動きは現在あるのでしょうか?
福原:金融庁は、最終的にこれをしなければいけないというところまでは出していません。しかし、経済産業省からは「こうあるべき」という絵が出されており、企業価値と人的資本がどのように関係性を持っているのかは、企業としてしっかり理解しましょうと言っています。
しかし、企業価値は財務データですでに揃っていますが、人的資本がデータ化されていないと関係性を見たくても見ることができません。ですから、その前段となる人的資本をどのように定量化しているのかを見なければなりません。大きく言えば、この2段階を経済産業省が方向性として出しています。
今回、私どもは経済産業省の方向性に従い、日経ヴェリタスと一緒に人的資本研究会で日経225に入っているすべての企業のレーティングを出しています。日経ヴェリタスの一面トップの記事にもなりました。
中の細かいところまではともかくとしても、今年度はそのようなかたちで、緩やかではありますが「人的資本をきちんと定量化しましょう」「定量化した上で財務データとの関係性を見ていきましょう」という、国が出している方向に進み始めていると考えていただいてよいと思っています。
ただ、国は「人的資本は能力だから、この方向からは見ないといけませんよね」とは言えますが、「このアセスメントでなければ駄目だ」とは言えません。国にしてみると、企業価値は通常であれば当期利益や売上、生産性にしっかりとつなげていかなければならないというところまでの方向性を出すのが精一杯ではないかと思っています。