私たちの目指す姿

小野直樹氏:本日は、2月に発表した中経2030の基盤戦略部分のうちの人事戦略、および7月末と8月末にそれぞれ開示した統合報告書・サステナビリティレポートを踏まえて、当社のサステナビリティに関する取り組みをご紹介します。

私からは全体的な概要についてお話しします。中経2030の策定にあたっては、私たちの目指す姿を「人と社会と地球のために、循環をデザインし、持続可能な社会を実現する」と設定し、取り組みを進めています。

スライドの図は、「循環をデザイン」するという私たちの目指す姿そのものをイメージしたものです。

価値創造プロセス

スライドでお示ししているのは、統合報告書の核となる価値創造プロセスになります。スライド左側に投入資本があり、中央が当社のビジネスそのものを表しており、それに当社のマテリアリティ、あるいは当社の強みの部分を合わせて示しています。スライド右側は、その事業活動の結果としてのアウトプット、あるいは経済的・社会的価値といったアウトカムを示しています。

本日ご説明の中心となるのは、スライド中央部分の下にある、事業展開を支える上での経営基盤の部分になります。ものづくり・DXについては、別にご説明する機会を設けたいと考えています。

マテリアリティ

マテリアリティについてです。その選定にあたっては、「ステークホルダーにとっての重要度」と「私たちの目指す姿に照らした重要度」の2軸で整理をして抽出しました。

それにより選定した10項目のマテリアリティのうち、スライド中央のオレンジで示している4項目が、「重点マテリアリティ」として優先順位付けをしているものになります。

重点マテリアリティ毎の取り組み目標

重点マテリアリティに対する、それぞれの目標についてご説明します。1つ目の項目は、循環型社会の実現です。これは当社の事業の中心部分になります。ここには2つの目標があり、1つ目は、リサイクル可能な製品を供給していくということです。

それに合致する目標としては、切削工具におけるリサイクル原料の比率を、2030年度に80パーセント以上にすることです。一方で、廃棄された、あるいは使用済みの製品から素材を取り出して、再資源化するということを象徴的に言えば、「E-Scrap類の処理」ということになりますが、その処理能力を高めていくことが2つ目の目標になります。

2つ目の項目は、地球環境への貢献です。メインになってくるのは、脱炭素への動きです。2045年度のカーボンニュートラルに向けた再エネ電力の自給率アップを目標に掲げています。また、脱炭素のみならず生物多様性への取り組みということで、30by30等の目標も示しています。

3つ目の項目は、持続可能なサプライチェーンマネジメントです。ここでの取り組みの1つがリサイクル関係です。具体的には、これまで取り扱いができていなかった、家電リサイクルや、自動車リサイクルから二次リサイクルに回っているものの処理を増やしていくということと、国内の製錬所の能力を上げて、E-Scrap類の処理能力を上げるということが挙げられます。

このような静脈側の機能の増強と同時に、動脈側の機能として製品の供給能力を高めることも合わせて行っていこうと考えています。また、これらの静脈・動脈、両側を支える機能として、研究開発・技術開発を進めていくことも目標としています。

4つ目の項目は、人権の尊重です。人権デューデリジェンスへの取り組みをすでにスタートさせているため、その対象範囲を広げていくことを目標として掲げています。

サステナビリティ経営体制の変更(2023年7月1日付)

今年の7月にサステナビリティ経営体制について少し変更を加えています。スライドの左側に課題を示しており、中段の「経営体制の強化」が、当社として考えるサステナビリティの1つの側面になります。つまり、当社が企業そのものとしてサステナブルな存在であり続けるという意味で、この経営体制の強化が必要項目になっています。

一方で、事業活動を通じて、環境面あるいは社会のサステナビリティを確保していき、貢献するという意味の課題が、上段に赤文字で記載している「環境・社会への貢献」になります。加えて、「コーポレートガバナンス」についての課題も取り組みを進めています。

そして、これらの課題に即応する体制をスライドの右側にお示ししています。特に、課題の最上部に記載した「資源循環の推進」については、部門横断的な取り組み、かつ中長期的な時間軸を持って取り組む必要があるため、今回、資源循環戦略会議を組織し、スタートさせています。

4つの経営改革の進捗

次に、4つの経営改革の進捗についてご説明します。

2022年度の4月からスタートしたものが多いですが、まず1つ目のコーポレート・トランスフォーメーション(CX)についてです。企業価値向上には、事業を遂行する軸であるカンパニーが「自立」と「自律」を果たしていく必要があるという意味で、完全カンパニー制をスタートさせています。

一方で、完全カンパニー制によって働く遠心力と、全社最適の観点での求心力のバランスを取るためにも、ビジネスレビューを展開しています。具体的には、戦略本社側とカンパニーとの対話の機会を十分に持つことで、事業の遂行あるいは戦略のレビューも含めて行うようにしています。このビジネスレビューは、「疑似取締役会」のようなかたちで機能させていこうとしているものです。

2つ目の、ヒューマン・リソース・トランスフォーメーション(HRX)については、後ほど人的資本に関してご説明しますが、代表的なところでは、昨年度から職務型人事制度への移行を果たしています。

3つ目のデジタル・トランスフォーメーションについては、昨年度から「MMDX2.0」のフェーズに入っており、ものづくり領域の強化を現場と一体的に進める体制に移行しています。

4つ目の業務効率化は常にあるテーマとなりますが、業務プロセス変革推進室を中心にペーパーレス化・印鑑レス化を進めており、そのベースとなる情報へのアクセスを容易にするため、全従業員へのスマートフォンの配布を実施しています。

取締役による議論の活性化

ガバナンスに関する取り組みについては、コーポレートガバナンスを中心にご説明します。

まずは、取締役会の議論の活性化が必要となるため、さまざまな取り組みを進めています。そのうちの1つとして、取締役説明会があります。いわゆる定例の取締役会だけではカバーできない内容や、より踏み込んだ議論をするために、月に1回、定例取締役会とは別の日に取締役説明会を設けるようにしています。

そのために各取締役の日程を確保しています。社外取締役とCEOとの1-on-1も2ヶ月に1回、1回あたり1時間のペースで実施しています。また、投資家のみなさまと社外取締役の対話も継続的に実施しています。

他には、社外取締役の意見交換会や取締役によるフリーディスカッションを開催しており、折々の課題をピックアップして即応できるような体制を取っています。

取締役会実効性評価

取締役会の実効性評価についてです。これは年に1回、アンケートが主体になりますが、3年に1回は第三者機関を利用した評価をするということで、さまざまな課題を定期的にピックアップして、それ以降の運営に活かしています。

指名/サステナビリティ委員会の構成の見直し

取締役会傘下にある委員会についてご説明します。指名委員会に関して、従前は社外取締役4名とCEO1名の5名の体制でしたが、今年度からは5名の委員全員を社外取締役に変更しました。

理由については、この指名委員会の決議として重要なものが取締役候補者や執行役候補者の選任であり、そこにはCEOの後継者計画等も含まれているため、社外取締役のみによって行われるのがふさわしいだろうと考えたからです。

もちろん、実効性を担保するためには、委員会の要請に応じて執行側、CEOなどが、さまざまな課題に対する執行側の考えをインプットすることも必要であると考えています。

役員報酬制度の見直し

役員報酬制度についてです。大きな枠組みが決まっている中で、昨年度から執行役賞与制度の評価指標に相対TSRを導入し、かつ非財務評価にサステナビリティ課題を加える見直しをしています。

そのサステナビリティ課題についての詳細は、スライド下段の表にお示ししています。CEOを除く執行役8名分の例を記載していますが、さまざまな項目を執行役が担う役割に応じて選んでいます。その中でも、今年度はD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の推進、とりわけ女性管理職比率に関する目標設定はどの執行役に対しても義務付けています。

政策保有株式について

政策保有株式についてです。こちらは基本的な方針に基づいて縮減を進めており、一番端的にその状況を表しているのが、スライド右下のグラフになります。昨年度末には、連結純資産に占める政策保有株式の割合が4パーセントと、目標としていた5パーセント以下を達成できている状況になります。

労働安全衛生に関する取り組み

田中徹也氏:SCQに関する取り組みについてご説明します。当社グループでは、2014年4月から「ゼロ災プロジェクト」を立ち上げ、安全衛生基盤の強化に取り組んでいます。「ゼロ災プロジェクト」の目標は、「休業4日以上の重篤な災害発生ゼロ」「火災爆発等事故の撲滅」としています。

災害の発生状況は、スライド右側のグラフにあるとおり、今年は1月から6月までの半年で6件、年に換算すると2倍の12件ということになり、残念ながら昨年並みのペースとなっています。

一方、火災爆発等事故に関しては、2022年に大変多くの小規模な火災が発生し、それに対する原因・対策の周知を各拠点に徹底して行った成果も出て、今年は、件数としては昨年を下回るペースになっています。

また、「ゼロ災プロジェクト」を推進していくための取り組みについては、左側の①から③に記載しています。

②のGYR制度について補足します。GYRというのは、グリーンカード・イエローカード・レッドカードの意味になります。安全衛生に関して、良い取り組みをした場合はグリーンカードを出して褒めます。ルール違反が起きた場合には、その程度によってイエローカード、もしくはレッドカードによって警告を発するという仕組みになります。

労働安全衛生に関する取り組み

安全衛生活動に関する取り組みの事例についてです。当社は、さいたまオフィスの敷地内に、「安全衛生教育センター緑館」を保有しており、危険体感教育や安全衛生教育を行っています。

危険体感教育については、スライド右側のグラフにあるとおり、累計で4,000名を超える受講者数となっており、VRを用いた危険体感教育は、累計で5,000名を超える受講者数となっています。

労働安全衛生に関する取り組み

スライドには、「緑館」の危険体感装置とプログラムメニューについて記載しています。右側にある、さまざまな設備・ハードを準備して、疑似的に危険な状態を作り出し、それを従業員に体感してもらいます。プログラムメニューは順次拡大しており、現在はスライド左側に示している10項目をそろえています。

労働安全衛生に関する取り組み

こちらのスライドは、VRを用いた危険体感装置です。右側にあるように、ベルトコンベアへの巻き込まれ災害や、天井クレーンからの墜落・転落災害のようなシナリオが用意されています。それを視覚からの情報だけではなく、左側に載せているような手や足を刺激する装置を装着することで、バーチャルリアリティとして体感してもらいます。また、床がエアによって上下動し、落下などをよりリアルに体感できる仕様になっています。

これらの装置は、「緑館」に3台あり、各拠点への貸し出しを積極的に行っています。

コンプライアンスに関する取り組み

コンプライアンスに関する取り組みについてご説明します。まずは「研修」についてです。全従業員、コンプライアンス・リスクマネジメント管理者、役員というように、対象者を分けて各階層別に研修を行っています。

その成果を測る施策が「サーベイ」です。アンケート調査を行い、実際にコンプライアンスの意識がどのように変わっているのかを毎年チェックしています。

「その他」については、今年度は内部通報・社員相談窓口周知に関するキャンペーンを展開しています。また、意識調査から得られた結果については、翌年の研修内容の改善にも盛り込んで、取り組みを進めています。

コンプライアンスに関する取り組み

コンプライアンスに関する取り組みの事例の1つです。意識調査を行った結果、内部通報窓口を利用すると、「自分が相談したことが周囲にわかってしまう」「会社から不利益な取り扱いをうけそう」などといった不安を感じている方が一定数いることがわかりました。

そのため、今年度はスライドに記載した対策に取り組んでいます。イントラネットへのクイズ形式での情報提供や、ポスターの掲示、各種研修での再度徹底周知、動画配信、特設サイトの開設など、さまざまな取り組みを通じて安心感の醸成に努めています。

品質に関する取り組み

品質に関する取り組みについてです。当社グループは、2017年に品質コンプライアンス問題を起こしています。それ以降、グループ全体で品質問題を共有し、スライドにお示しした①から⑥の各施策の実行・強化に取り組んできました。

これにより、不適合品を決して流出させない、いわゆる「守りの品質」の体制作りを進めてきました。これらの施策は、ISO9001等の品質マネジメントシステムの中に組み込み、継続的に実行・改善を行っています。

当社は、現段階で「守りの品質」に対しては一定レベルに到達したと判断しています。今年度は、製造工程で不良品を作らない、あるいは仮に不良品が出てしまっても、それを次工程に流さないという「攻めの品質」に取り組んでいます。

品質に関する取り組み

品質に関する取り組みの事例です。品質問題発生以降の5年間で、年間約100人から150人、5年間累計で700名程度の内部監査員を育成しています。

人権に関する取り組み

人権に対する取り組みについてご説明します。大きな柱として、「方針によるコミットメント」「人権デューデリジェンスの実施」「救済措置」の3つがあります。

2021年度に、当社は人権方針の策定・開示をしています。そして2022年度には、人権デューデリジェンスを、グループ会社へパイロット実施、あるいは調達領域への展開を始めました。今年度は、人権デューデリジェンスの実施計画をさらに拡大して進めています。

人権デューデリジェンス(人権DD)について①

人権デューデリジェンスのPDCAサイクルについてです。

①の「特定・評価」では、人権に関わる潜在的なリスク・顕在的なリスクをしっかり洗い出していきます。②の「統合及び行動」では、そのリスクに対する是正措置を行います。③の「取組み効果の追跡」では、行った対策の追跡・モニタリングをします。④の「パフォーマンスの周知」では、ステークホルダーとの情報共有を進めていきます。

この4つを回しながら、人権に対するレベルを上げていくことを目標にしています。当社は現在、最初の「特定・評価」の段階になります。

人権デューデリジェンス(人権DD)について② グループ会社パイロット版人権DDの流れ

スライドは、2022年度にグループ会社に対してパイロット的に行った人権デューデリジェンスの結果になります。グループ会社約100社の中から、人権リスクが高いと思われる上位34社を抽出して、質問票によるリスク評価をしています。

その結果を右側にまとめています。Aが最もローリスク、Eが最もハイリスクというかたちで5段階に分類しており、Bが7社、Cが16社、Dが7社、Eが4社という結果になっています。

今後の対応については、これらの会社を少なくとも1ランクアップさせることを目指して、計画の策定・実行・改善に取り組んでいく計画です。

人権デューデリジェンス(人権DD)について③ グループ会社パイロット版人権DDの分析結果

スライドでは、人権リスクが高いと評価された会社が、どのような点で高リスクと評価されたのかについて記載しています。

「過去5年以内にハラスメントあるいはハラスメント類の事案があった」と回答したところは、リスクが高いと判断しています。

「サプライヤー含め調達方針に関する取り組みが不足している」「方針の周知徹底がされていない」「サプライヤーから方針に対する同意書を取っていない」という回答をしたところについても、リスクが高いと判断しています。

「報酬、昇進等も含め雇用機会・雇用上の差別をしないこと」について、コミットメントとして外部に公表していない場合には、リスクが高いと判断をしています。

また、「社外に対しての苦情処理メカニズム整備不足」の会社についても、リスクが高いという評価をしました。

このような点が、高リスク評価の主な理由です。今後は、当社の拠点と残りのグループ会社、ならびにサプライヤーに対して、人権デューデリジェンスの実施範囲を拡大して、展開していく予定です。

人的資本に関する取り組み

野川真木子氏:人的資本に関する取り組みについてご説明します。スライド上段の図は、冒頭の価値創造プロセスでもお示ししたものです。

金属資源の循環を構築し、その対象範囲と展開地域、規模の拡大によってバリューチェーン全体での成長を実現するという事業戦略を実行に移す際に、その中心となるのは当社グループの社員一人ひとりです。

その考えに基づき、中経2030における人事戦略を策定しています。ここに掲げていることはすべて、当社グループにおける人的資本の考え方そのものとご認識いただきたいと思います。

人的資本に関する取り組み

人事戦略は2つの柱から成り立っています。1本目の柱は、「人材の価値最大化と『勝ち』にこだわる組織づくり」です。

スライド上部のボックスには「事業成長を実現する人材の育成・確保」と掲げています。事業戦略を実行するにあたっては、事業成長を実現していく人材の採用から始まり、育成そして確保といったものが我々の成長の源泉になるという考えのもと、それを牽引する経営リーダーおよび経営リーダー候補の育成と確保に注力していきます。

加えて、各事業の成長や戦略の実行フェーズに合わせた人材の確保も必要です。そのためには、採用チャネルや雇用形態の戦略的選択が必要になると考えています。

また、当社グループで働く社員や、将来当社を職場として選んでくれる方々から選ばれる続ける会社であるために、働きがいを感じる職務と職場を提供していきたいという考え方のもと、左側のボックスに掲げたとおり「柔軟な雇用と働き方の実現」を目指していきます。

さらに、右側のボックスには「個の力の最大化と自律的成長の支援」を掲げています。中経2030の人事戦略においては「勝ち」にこだわることを前面に打ち出していますが、これは従来の当社グループにおいては、結果にこだわってやり抜く姿勢に物足りなさがあったという反省によるものです。

今後は目標に向かってやり抜く力を追求していきたいと考え、パフォーマンスマネジメントをしっかりと実践していきます。さらには、社員一人ひとりの自律的な成長を促進できるよう、学習支援も行っていきます。

人事戦略の2本目の柱は、「共創と成長を生み出す基盤の構築」です。共創という言葉には、社員一人ひとりが、そして社員と会社が「共に創る」という意味が込められています。

当社においては、その事業構成からさまざまな専門性を有する社員が多くいますが、属性という意味ではまだ多様性に欠けています。中経2030の期間中では、組織のさらなる多様性を確保し、価値観の融合によって変革の加速を目指していきます。社員一人ひとりが本来持っている個性を最大限発揮できるような組織風土を作っていきたいと考えています。

さらに、今回の人事戦略では、社員一人ひとりのエンゲージメントの向上や、当社グループの人材情報の可視化などを組織の活性化に活用していくことも掲げています。

人的資本に関する取り組み

各施策の中心的な取り組みをご紹介します。まずは「次世代経営人材育成」です。事業成長を牽引する経営リーダー候補の継続的な育成に取り組んでいきます。

この育成プログラムは2005年から進めてきましたが、昨年にフレームワークを刷新しました。より若年層からも選抜を行い、ポテンシャルのある人材に積極的な投資を行っています。

2030年度には、執行役後継者候補に占める次世代経営人材育成プログラム選抜者の割合が8割に達するよう、KPIとして設定しています。

スライド右側の「エンゲージメントサーベイ」は昨年から始めた取り組みです。組織の活性度合いや社員の働きがいについて、定点的にモニタリングするために導入しました。

設問数は約30問あり、大きく「仕事」「仲間」「組織」「報酬」「成長機会」の5つのカテゴリーに分けられます。昨年度は「成長機会」と「組織」に関して課題が見られたため、強化領域として改善に取り組んできました。

今年度のエンゲージメントサーベイは現在集計中です。昨年から行ってきた取り組みの効果を、これから見ていきたいと考えています。

人的資本に関する取り組み

ダイバーシティ&インクルージョンの推進施策です。属性という意味での組織の多様性については、当社グループにはまだ課題が多いと認識しています。

とりわけ、意思決定に大きな影響力を持つ管理職層の属性の多様化をKPIの1つとして設定しています。加えて、女性管理職の比率をより上げていきたいと考えており、一昨年からは執行役をスポンサーとする育成プログラムを実施し、女性社員の成長の加速を図っています。

スライド右上のグラフは、男性社員の育児休業の取得状況をまとめたものです。毎年、順調に取得率が増加しています。

右下に記載しているのは健康経営に関する取り組みです。CEOをトップとした体制で、健康経営の推進を図っています。

人的資本に関する取り組み

各施策の推進体制についてご説明します。スライド上部の「人材委員会」とは、執行役とHRビジネスパートナー(HRBP)で構成される会議体で、2022年度から設置しています。

委員会は年に複数回開催され、人事施策の実効性や次世代経営人材の選抜と選抜者の育成状況の検証など、人的資本に関する取り組みについて具体的なディスカッションを繰り広げています。

さらに、HRBPは各事業に配置されており、戦略実行のための人事施策をリードする役割を担っています。「勝ちにこだわる」組織づくりを事業レベルで徹底するため、足元ではパフォーマンスマネジメントの確実な実行に注力しています。

加えて、今年度からはCHROを設置しています。CHROをはじめとするコーポレートの人事機能としては、事業側の支援や、人的資本への取り組み課題について、CEOをはじめとする執行役との議論をファシリテートすることなどが挙げられます。

人的資本に関する取り組み

スライドでは、経営陣自らが率先垂範で人的資本に関する取り組みに積極的に関与し、実行を担っている例をご紹介しています。

前頁で触れた人材委員会のほか、取締役への人的資本に関する取り組みの説明会や、次世代経営人材の選抜者と取締役との面談等を行っています。また、執行役の年次賞与にダイバーシティ&インクルージョンに関する目標を盛り込んでいます。

さらに、CHROの設置や、社長をトップとする健康経営推進体制に加えて、各拠点・グループ会社も含めた執行役と従業員との対話機会の設定にも注力しています。

気候変動に関する取り組み

髙柳喜弘氏:気候変動に関する取り組みについてご説明します。本年2月10日に中経2030を発表した際に、併せて新しい温室効果ガスの削減目標を開示しました。その後、3月末のダイヤソルト社の株式譲渡を経て、7月26日に目標数値の再計算を実施し現在の数字に変更しました。

下段の表に主な施策をまとめています。Scope1では、2030年度までに設備更新、燃料転換、電化等に105億円ほど投資していきます。Scope2では、再生可能エネルギー由来電源への切り替えに伴うコストアップを、2030年度ベースで12億円ほどと試算しています。これらは中経2030の財務計画に織り込まれています。

これらの投資によって、Scope1では7万8,000トン、Scope2では42万9,000トンの温室効果ガス削減を実現し、2030年度までに合計45パーセントの削減を見込んでいます。

なお、使用電力についてスライドに記載していませんが、2030年度には再生可能エネルギー利用率80パーセント、2035年には100パーセントを目指しています。

一方で、再生可能エネルギー事業の拡大として、2030年度までに300億円の投資を計画しています。2050年度には当社の消費電力に匹敵する再生可能エネルギー発電量を実現し、実質的な再生可能エネルギー電力の自給率100パーセントを目指しています。

Scope3については、UBE三菱セメント社が4月に削減計画を公表しています。これを踏まえて、排出量の中で大きな割合を占める銅鉱石サプライヤーとのエンゲージメントを進め、排出量22パーセントの削減を目指しています。

これらの目標について、本年3月にSBT認定を取得しました。

気候変動に関する取り組み

気候変動が当社事業に及ぼすリスクと機会について、TCFDの提言に基づいたシナリオ分析を実施しています。詳細は統合報告書にも記載していますが、リスク低減あるいは機会獲得に向けた戦略について、スライド下段の表にまとめています。

重点マテリアリティの取り組みとオーバーラップしていますが、これは中経2030の戦略とこちらのシナリオ分析による目標設定が整合していることを意味しています。

気候変動に関する取り組み

カーボンフットプリント(CFP)の取り組みの進捗についてお話しします。まずは、「展開」についてです。当社の主たる製品においてCFPの算定を順次進めていきたいと考えています。同時に、データの信頼性確保に向けた仕組みの構築も進めていきます。

次の「検証・開示」の段階では、算定が完了した製品について、必要に応じて第三者保証の検証を受け、開示を進めていきます。特に電気銅においては、本年度中を目途に第三者検証の完了を目指しています。なお、開示方法について、顧客への個別開示とするか一般公表とするか、現在検討中です。

最後の「削減」は、中経2030の設備投資計画に沿って粛々と進めていきます。サプライヤーとのエンゲージメントについては、特に銅精鉱のサプライヤーはこちらのカテゴリーに入りますが、Scope3カテゴリー1(購入した製品・サービス)に関して40パーセント相当のエンゲージメントを進めているところです。

気候変動に関する取り組み

CFPの算定は、スライドの茶色の枠でお示ししたプロセスを通じて行われます。資源循環の拡大に加えて、鉱石サプライヤーを含めた工程間連携の強化が極めて重要になっていきます。

リサイクルとGHGの排出削減は、必ずしも相乗効果を生むものではありませんが、この関係性を分析して、循環型社会と脱炭素社会の実現を目指していきたいと考えています。

気候変動に関する取り組み

インターナルカーボンプライシング(ICP)制度の検討状況です。こちらはTCFDにおいても、低炭素の投資指標として活用することが推奨されています。

我が国においても、通常国会で制定されたGX推進法に、2028年度からの炭素に対する賦課金の導入が織り込まれています。そのような意味からも、炭素排出コストを重視する必要性が非常に高まっていると認識しています。

まだ詳細をご説明できる段階ではありませんが、現在このICPに関する社内調査を進めています。ICP制度に向けてどのような設備投資や事業投資を行うのか、価格レベルはどのように設定するのかなど、具体的な論点や運用方針を整理している状況です。

気候変動に関する取り組み

最後に、生物多様性保全への取り組みについてご紹介します。

昨年12月のCOP15において、昆明・モントリオール生物多様性枠組が策定されました。生物多様性の損失を食い止め、自然を回復させるネイチャーポジティブな世界への社会変革を求める声が、グローバルなレベルで高まっています。同時に、2030年までに陸と海の30パーセント以上を保全する新たな世界目標として「30by30」も設定されました。

日本では環境省が自然共生サイトの登録を募ることで、「30by30」の達成を目指しています。当社では「マテリアルの森 手稲山林」を自然共生サイトに申請し、現在審査中です。

生物多様性の保全に関連しては、経団連自然保護協議会にも入会し、今後もこのような活動を一層強化していきたいと考えています。

質疑応答(要旨)①

質問者:本日の説明は統合報告書の内容が肉付けされ、新たな話も付け加えられていて、よかった。

資料の6ページ、7ページに記載されている重点マテリアリティに対する目標については、中経と非常に親和性が高い一方、これを進めることで収益化され、それが数字として見えてくるタイミングを待っているのが、投資家の立ち位置である。

小野:いろいろなサステナビリティ課題に取り組むだけの、経済的な価値を生まなければいけないというのは、そのとおりです。

社会貢献を持続的に行うためには、それを実行できるだけの経済的価値を上げていかなければいけません。社会的価値と経済的価値の両方がそろっていかなければいけないと思います。

今後、具体的な実績として示していけるようにします。

質疑応答(要旨)②

質問者:鉄鋼・非鉄のメーカーで、役員報酬制度を明確に開示している会社は少ない。ぜひ、これを見える化して出していただきたい。また非財務評価項目を導入したことで、どのような効果を生んでいるかを教えていただきたい。

小野:役員報酬制度に非財務評価項目を導入して3年目ぐらいになりますが、それぞれの執行役が果たしていくべき役割として以前から設定していたものを、報酬制度と結びつけた結果として、その取り組みがどのように変化したかを測ることは難しいというのが正直なところです。

一方、これまでは「非財務評価項目の中身はわからない」というご意見がありましたので、個別の具体的な項目をお示しして「こういうところに当社としては力を入れている。それは執行役のそれぞれの役割によって違いがある」ということを明確にしました。

報酬制度に紐づけていることによって、どのような効果をもたらしているのかを表現できるように、工夫していきたいと思っています。

質疑応答(要旨)③

質問者:国内人口が減ってきている中で、人権や人的資本に関する取り組みは非常に大事であるが、エンゲージメントサーベイについて開示している会社は、鉄鋼・非鉄のメーカーではあまりない。

多くのいい人材を採用できるかどうかに関して、今後どのように、私たちにフィードバックをいただけるのか、教えていただきたい。

野川:エンゲージメントサーベイに関しまして、少し説明を付け加えさせていただきたいと思います。

先ほど申し上げたとおり、昨年度の結果は、「仕事」と「仲間」に関する肯定的な回答が非常に高く、これは当社の良い面の表れだと思います。

一方で、「成長機会」や「組織」に関しては、昇進機会についての実感や、自分が自律的なキャリアをどのように作るべきなのかなどの設問に対する肯定的な回答が比較的低い結果でした。

「成長機会」に関しては、社内公募を積極的に展開し、自律的に学習をする仕組みを2022年度から拡充しています。

どのような学習をして、どのような学びを得たかを、好事例として社内のイントラネットで展開をする、あるいは、「自分はこういう学習をしています」というようなことを社員同士がチャットで紹介をし合う仕組みも拡充をしています。

「組織」に関しては、昨年度から四半期に1度、決算発表後に社員向けにタウンホールミーティングを行い、CEO、CFO自ら社員とライブで接点を持ちながら、決算発表の内容や株式市場からの反応を共有し、社員に理解を深めてもらう場も創設しています。

そのような取り組みを通して、社員自身に、当社が働きがいのある職場、仕事であるということを実感してもらうことが大事だと考えています。

それが浸透してきたその先には、社外に対して、当社を職場として選んでいただく方に対しての発信も充実させていきたいと考えています。

質疑応答(要旨)④

質問者:人的資本に関する取り組みについて、御社の取り組まれている方針や施策は非常によく理解できたが、そもそもどのような問題意識があって、このような考えに至ったのかを教えていただきたい。

野川:人的資本の取り組みについては、いろいろな課題がある一方で、当社の本来持っている強みもあります。

例えば、多岐に渡る職種、多様な専門性、結束するチーム力や相互信頼などは当社の長く続く歴史の中で醸成されてきた強みです。

これらをもとに、競争スピードが激しくなりつつある中でより成長していくためには、同業他社だけではなく、いろいろな市場の中からより良い人材、当社ですぐに活躍いただける人材に対して、魅力的な職場を提供する準備ができているのかどうかというところに、課題があると考えています。

このような問題意識、背景があり、昨年度から管理職に対して導入をしました職務型人事制度で、市場のマーケットレベルをベンチマークにして報酬制度を組み直したり、社内公募によって、自分の意志で自分のやりたい仕事にチャレンジをしていく組織風土作りを推進することなどの人的資本への取り組みに着手をしています。

質疑応答(要旨)⑤

質問者:カーボンフットプリントの取り組みについて、例えば電気銅の話があったが、これは世界的にどのくらい珍しい取り組みなのか。これによってビジネス上の、プラス面があるかどうか教えていただきたい。

髙柳:サステナブルカッパーやグリーンカッパーなどを、競合他社も打ち出しており、そのベースにCFPがあります。

そういった意味では、これは珍しい試みではなく、これからスタンダードになっていく取り組みと考えています。

ビジネス上のプラス面については、まさに今、試算しているところですが、当社の三菱連続製銅法のプロセスに優位性があるだろうと我々は考えています。銅製錬の場合は投入するスクラップの量によって、カーボンフットプリントが変わってきますので、一概には言えませんが、試算結果を見て、優位性をアピールしていくことは、事業性格上はプラスに効いてくると考えています。

質疑応答(要旨)⑥

質問者:労働安全衛生に関する取り組みについて、労働災害の発生状況として類似事象が続いているということだが、セグメントや工場ごとの傾向があるのかどうか、また原因をある程度把握していて、改善が見えているのかどうかを教えていただきたい。

田中: 2023年1月から6月までに発生した6件について、カンパニー別に多い少ないというのは若干あります。

しかし、発生原因は、共通した理由です。 例えば「動いている設備に手を出して巻き込まれる」という災害がある拠点で起こり、周知をしていますが、それがまた別の拠点で繰り返し起こるということがあります。

また、工場内を歩いていて、ちょっとした段差につまずいて転んでけがをするなどの基本行動型災害は、拠点によらず、起きている状況です。

対策のひとつとして、ルールを守らないで事故が起きるということに関してはGYR制度を活用します。また、リスクアセスメントにより、回転中の設備に手を出せるようになっているというリスクを拾い上げ対策をするなど、全社に広げて対策をしています。

また、4日以上の休業災害ではないですが、今年は、屋外で蜂に刺されるということが6月から8月にかけて多く発生しておりまして、これも注意喚起を行っているところです。

質疑応答(要旨)⑦

質問者:非財務評価を役員報酬制度に組み入れる取り組みを始めた企業が増えてきていると思うが、実際にこれが達成できているかどうかを定量的に測定するのは難しいと感じている。

例えば、安全と健康最優先の労働環境整備であれば、労働災害の発生率などが指標になると思うが、それぞれの項目をどのように達成の判断としているかを教えていただきたい。

小野:項目によって、数値など定量的な目標にできるものと、仕組みを構築するなどの定性的にならざるを得ないものに分かれております。

例えば、女性管理職比率の目標設定を今年度は全執行役に入れていますが、部門ごとに目標とする数字が決まっていますので、設定した目標が達成できたかどうかジャッジするということになります。

他方で、人権の尊重では、人権を尊重するための仕組みを「2023年度はここまで構築します」というように、定性的なものもあります。

また、安全のところでは、災害率や、災害件数、度数率など測定する指標はありますので、前年度に対しての改善を具体的な数値目標としています。

このように、数値で定めているものと、仕組みの構築などを、どこまでをやり切るか、その進捗具合を測るものとに大別されます。

質疑応答(要旨)⑧

質問者:気候変動のScope3の削減計画について、今後、Scope3については、上場企業に対してデータの開示を義務づけるような流れがあり、全体の排出量に占める割合が大きい企業では削減目標の設定を義務づけるような流れが出てきている。

説明の中では、サプライヤーとエンゲージメントを行っていること、公表されたUBE三菱セメント社のGHG排出削減計画を踏まえて御社としての、具体的な削減目標が数字も設定されているという点では、他社に先んじている印象である。どのように積極的にScope3と関わっていくのか、御社自身の努力というよりはサプライチェーンの中でのコミットをどう示していくかということが大事になってくると思うが 取り組みを教えていただきたい。

髙柳:当社としては、UBE三菱セメント社も含めてScope3に積極的に関わろうと考えています。

ご指摘のとおり、Scope3の比率は大きいですし、その中におけるUBE三菱セメント社の比率も大きいため、当社としても積極的に管理していきます。

一方で、UBE三菱セメント社自体が、積極的に動いていますので、現時点ではその動きを見守っていくことが適切だと考えています。

質疑応答(要旨)⑨

質問者:2030年度のGHG削減目標については、既存の技術や準備されている資本などですべて対応できるという考えか、それとも技術的なチャレンジを伴う部分、今後技術開発が必要な部分があるのか。

削減目標を達成に向けてチャレンジが必要な部分がどの程度あるのかを解説いただきたい。

髙柳:2030年度までのGHG削減につきましては、新規の技術開発が必要なものは基本的にはありません。したがいまして、Scope1については、105億円の投資により、主に設備改善や、熱効率の改善などを粛々と行っていき、Scope2については、非化石由来の証書の電力に変えていく。

これら2つの施策で削減を達成することを考えており、新規の技術開発がない分、達成の蓋然性は高いと考えています。

質疑応答(要旨)⑩

質問者:サステナビリティ委員会に関して、2022年度に外部有識者の講演を3回行い、その講演を踏まえて、今後の取り組みの方向性について審議する場が設けられたと統合報告書に書かれていた。

具体的にどのようなテーマについて、どのような人を招いて講演を行ったか、今後の取り組みの方向性について、どのようなことが話し合われて、今後の御社の経営にどのようなポジティブな影響があるか、またどのような課題が認識されたかについて教えていただきたい。

小野:基本的には、中経2030の議論の時期と重なっていたこともあり、サーキュラ―エコノミーやその世界的・地域的な動向など、資源循環に関わるテーマが多くありました。

今年度も引き続き外部講師の方にお話をうかがうことは進めています。社外取締役の方々はいろいろなチャネルを持っているため、それらを活用することで、執行側のチャネルだけでは実現できない幅広い知見を得ていくことが目的の1つになっています。

今年度は資源循環だけではなく、人的資本、特にD&Iにも幅を広げていこうとしています。

加えて、資源循環に関して言えば、執行側は金属資源の循環を事業の中核として置いていますが、サステナビリティ委員会として取り組んでいることは、より視野を広げ、循環の仕組みを作ることに成功している企業等へアクセスし、そのような知見を当社の資源循環の仕組みに取り入れることはできないかなどの視点でいろいろな活動を展開しているところです。

具体的には、衣料品も1つの資源として捉えられます。この循環の仕組みを構築することに成功している企業や団体へアクセスし、参考になる知見を得ていく活動を展開しているところです。

質疑応答(要旨)⑪

質問者:インターナルカーボンプライシング(ICP)制度の導入検討に関して、GHGの排出量は、セグメントによって濃淡があると思うが、ICPを導入することによって、御社の中経2030の投資計画や、経営方針に影響が出てくるのか。それとも、循環型社会の実現に向けた投資に注力するという点には変わりないのか、今後の取り組みの方向性を教えていただきたい。

髙柳:GHGの排出量は中経2030の中でもしっかりとした数値として入れており、それに対するScope1の設備投資も見えているところです。

ICP制度を導入したとしても、基本的には事業を進めていく方向性や流れは変わらないと考えていますが、中経2030の中には炭素税を負担する部分はまだ織り込んでいません。

したがいまして、中経2030で考えている成長投資については、炭素税が付加された場合の負担までは、精査できていない部分があり、ICP制度の導入を加速させる意味合いは非常に大きいと思っています。

それにより、炭素税が付加された場合にかかってくるコストをどのようにカバーしていくかということをシミュレーションする意味でも、ICP制度を入れることは非常に有効であると考えています。