サイボウズ株式会社 株主会議2021「サイボウズと語る一日」

大谷イビサ氏(以下、大谷):みなさま、こんにちは。角川アスキー総合研究所の大谷イビサと申します。「サイボウズのこれまでとこれからを語る」ということで、私と青野社長で1時間、これまでのお話とこれからのお話をしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

青野慶久氏(以下、青野):よろしくお願いします。

大谷:普通、このような事業計画的なものはプレゼンテーション形式で株主さまにご説明しますが、そもそもなぜ今回のような形式なのですか?

青野:毎年、1年が終わった時に「前期の決算がいくらでした」「今年は売上、利益がこうなります」というのは正直飽きたのです。

大谷:毎年行っていますものね。

青野:そうなのです。しかも、最近のサイボウズは何もおもしろくないのですよ。売上も、グラフで言うとだいたい延長線上になりますし、おそらく来年も同じことをしているだろうと思うと、全然おもしろくないのです。結局、事業は短期で切るとその数字を説明して終わりで、聞く方もおそらく「へぇ」くらいです。しかし、そうではなく、きちんとストーリーにしてほしいと思います。もっともっと先に見えている未来があるわけですから、その未来のために過去を語りながらこのようなかたちでご説明したほうが、株主にとってもよいのだと思います。

大谷:わかりやすい、ということですね。

青野:おっしゃるとおりです。そのほうが株主にもよろこんでもらえるだろうということです。そこで今日は、サイボウズの創業時を知る、数少ない方の1人である大谷イビサさんにお越しいただいているといういきさつです。

大谷:お呼びいただき、ありがとうございます。正直、今まで話したことがない秘話だらけになると思いますので、よろしくお願いします。

青野:初期から知っていますよね。

サイボウズ創業当時

大谷:そうなのです。次の写真をご覧ください。サイボウズ創業当時の写真です。簡単に自己紹介しますが、私は「Windows95」が出た次の年の1996年に、アルバイトで株式会社アスキーに入っています。そこから記者や編集者という立場でずっと紙の雑誌を作っていました。当時、一番初めに入った雑誌が『月刊アスキーDOS/Vイシュー』という自作のパソコン雑誌です。

青野:懐かしいですね。

大谷:その後、『月刊インターネットアスキー』というインターネット雑誌に行きました。サイボウズの青野さんと出会ったのは、おそらくちょうどこの時期です。

青野:そうですね。

大谷:かなり若いというか古いというか、あふれるシリコンバレー感がありますが、これは創業当時ですよね?

青野:おっしゃるとおりです。最初に借りていた2DKのマンションです。愛媛県松山市ですから、雑誌に書いてもらおうと思ったら東京に行かないといけないのですよ。松山空港から羽田まで飛んで、そこからアスキーへ行っていました。当時は新宿でしたか?

大谷:当時は初台にありました。

青野:初台でしたか。

大谷:そうなのですよ。たしか、青野さんが出張で松山市から来ているから、いろいろなメディアを回らなければいけないということで私のところにメールが来たため、会うことになりました。当時は私もいろいろ回っていたため、「外でごはんを食べながら話しましょう」というお話になり、最初に行ったのが目黒の「とんき」というとんかつ屋でした。

青野:覚えています。

大谷:「東京の人だから、おいしいところを紹介しようか」くらいの感覚で行って食べました。グループウェアを行おうと思っていて、「サイボウズ Office」を作ろうと思っていると言っていたのが、おそらく1996年、1997年くらいですよね。

青野:そうですね。

大谷:当時を思い出します。青野さんは決して背が高いほうではないですよね?

青野:小さいですね。

大谷:ノートパソコンを抱えていましたが、すごく大きい鞄を持っていて、1台で全部グループウェアを再現しなければいけませんし、「大変だな」と思っていました。

青野:そうでした。当時はノートパソコンも重かったですね。

24年前のメールやり取り①

大谷:はい。4キロくらいあるため、「大変だな」と思っていました。実は、24年前のメールのやりとりを出動しました。

青野:よく残っていますね。

大谷:なぜか送信メールをずっと残していたらしく、それを掘り返したのです。私と青野さんのメールのやりとりなのですが、グループウェアを使用できますというお話になり、使用することにしたのです。「編集部の許可も得て、がんばって建ててみます」とメールしたら、ここに赤字で書いてありますが、「だめだと感じたら弊社のプライドにかけて改善します」ということでした。熱いですよね。

青野:弊社と言っても3人しかいませんよ。

大谷:3人しかいませんが、熱いです。「おお、強気」という印象でした。

24年前のメールやり取り②

大谷:その後、実際に使用したメールがこちらです。これは私の感想ですが、あまりネットワークに詳しくないため心配でした。しかし、インストールしたところですぐにサービスを始めることができ、設定いらずでした。ほかのユーザーも非常にびっくりしていたという話をしています。

そして、「サイボウズ Office」を最初に使ってびっくりしたのは、とにかく簡単だということです。当時はクラウドなどなかったため、社内にサーバーを建ててインストールしなければいけませんでした。私はUNIXの知識がなかったのですが、「『Windows』レベルなら建ててみよう」と、ポチポチしていたらサーバーが建ったのです。また、ブラウザでアクセスするとカレンダーやアドレス帳などが出てきて、「これは使えそう。すごい」と思いました。しかも、ほかの人に使ってもらうと、まず「軽い」と言うのです。サクサク動きます。

青野:このあたりは開発者の畑さんの力でもあるのですが、機能が少ないため、サクサク動くのですよね。

大谷:サーバーを建てる側、グループウェアを作る側はIT管理者の立場なのですが、そのときは、サーバーを建ててシステムを提供できるようになり、何かを乗り越えた感覚がありました。

青野:なるほど。いきなりシステム管理者になり、「俺でもできるかも」ということですね。

大谷:はい、「できるかも」という感覚が非常にあり、すごく気に入りました。レビューを書いてもらい、その後、青野さんに何回か「グループウェアって何?」という連載を書いてもらいました。

青野:あれはつらかったです。

大谷:つらかったですね。実は毎回書いてもらっていました。

青野:記者には向いていないと思いました。

大谷:しかし、グループウェアがどのようなものなのかや、サイボウズがどのような会社なのかがわかった人はけっこういるのではないかと思います。

サイボウズ Office1の実際画⾯

大谷:「サイボウズ Office 1」はこのようなかたちでしたね。先ほどお話ししたように、機能は非常にシンプルで、スケジュールや掲示板もすごくシンプルでしたが、とにかく軽く、サクサク動くため、とてもおもしろいと思っていました。スライドに現在の画面も出ていますが、今はこのようなリッチなアプリケーションにどんどん進化しています。

青野:機能が増えましたよね。

大谷:しかも、いまだに売れており、多くの人が使っています。後ほどこのお話もしようと思っています。

先ほど、ずっと見守っていると言いましたが、実は正直なところ、2000年から2010年くらいの間はあまり見ていませんでした。というのも、私は『ネットワークマガジン』という雑誌を担当していたのです。ちょうど2000年から2007年、2008年くらいまで、日本はブロードバンドブームでした。ADSLやFTTHがガーッと入ってきて、インターネット回線が高速化した時期でもあります。そのとき、インフラやネットワークをメインに担当していたため、サイボウズという名前は知っていましたし、ときどき発表会も行っていたのですが、メインで見ているときはあまりなかったです。

青野:では、あの迷走期をあまり知らないということですね?

大谷:おっしゃるとおりです。2000年から2010年は、先ほどお伝えしたブロードバンドや、いわゆるWeb2.0、事件的には2006年にライブドア・ショックがありました。先ほど調べていて、2006年に青野さんが発表開示したときに「MicrosoftやIBMに勝つ」と言っていたという記事を発見したのですが、どうでしたか?

連結売上⾼・営業利益推移

青野:グラフ的に言うと、売上は2001年くらいまでは普通に伸びていたのですが、やはりパッケージでダウンロードで売ることが厳しくなっていきました。そこから「Garoon」という大企業向けの商品を出したのですが、情報システム部門に売らなければいけないため、販路の開拓もゼロからでした。「けっこう大変だ」と思い、えっちらおっちらとがんばっていたのですが、伸びが悪く、上場したお金を使ってM&Aを行いました。それがこのグラフのピンクの部分です。

大谷:2005年からいきなりM&Aのピンクの部分が増えていますよね。

青野:そうなのです。ライブドアもそうですが、グループウェア事業はそこまで伸びないため、ほかの事業を使ってM&Aを行っている時期でした。私たちも行ってみたのですが、あまりうまくはなく、向いていませんでした。

大谷:2005年からキューッと上がり、2007年からキューッと落ちていますね。

青野:そうなのです。9社買収して8社売却するという迷走期がありました。やはり私自身はグループウェアしかできない人間だということを理解し、もう一度グループウェアに絞っていったのが、その後の10年間くらいです。

大谷:もちろんこの後にクラウドのお話も出てくるのですが、2010年あたりから営業利益もガーッと下がり、けっこうつらい時期だったのですよね? その時期は組織、会社としてはどうだったのですか?

青野:もう売却していて混迷期を去ったため、2010年くらいからは社内は「クラウドに行くぞ」となっていました。売上も意外と伸びておらず、利益も減っているのに、なぜか社内が未来に向けて盛り上がっていました。

大谷:そうなのですね。

社員数・離職率推移

青野:ただ、離職率が一番高かったのもM&Aを行っている頃でした。2005年が一番高く、2010年になると10パーセント以下になっていたという、不思議な時期でした。

大谷:青野さんもよくお話ししていますが、2005年の離職率は「高い!」という感覚ですよね。25パーセントを超えており、4人に1人が辞めるイメージでしたが、これがキューッと落ちていきました。しかし、社員数自体はずっと右肩上がりで伸びているのですよね?

青野:おっしゃるとおりです。売上は上がっていないのに社員数が増えていますので、それは利益が減りますよね。今思うと、あのときに「グループウェアでなければだめだ。M&Aは無理だ」と見切りをつけたことで、もちろんグループウェアに反発して辞めていく社員もいましたが、グループウェア好きの社員が残り、ある意味クラウドの切り替えを乗り越えられたのだと思います。利益が減っているわけですから、社員からしたら逃げ出したい船ですよね。

大谷:泥船だということですね。

青野:数字を見れば泥船ですよね。しかし、ここで「グループウェアでクラウドに行くぞ」と思って信じられる人たちがいてくれたからこそ乗り越えられたのだと思います。やはり組織があってのイノベーションだと感じます。

大谷:2011年に「kintone」が出てきますが、そこに至るまでのもがきや、あるいは組織的ないろいろな動きが次につながってくるというイメージだったのですよね。今のところ25年くらいですが、今から振り返って、青野さんが一番きつかった時期はどのあたりですか?

青野:一番きつかったのは、M&Aで失敗したときです。思い出すだけでつらいです。

大谷:笑ってはいけませんね。

青野:創業して、自分の中ではそれなりにうまくいってきた感覚でした。ソフトが早めに売れて上場もでき、そこで売上が伸びなくなりましたが、上場資金を使って売上を急成長させることができていました。しかし、これがうまくマネジメントできず、「ああ、やってしまったな」という感覚であり、そこが一番つらかったです。

その後、「ここからはグループウェア1本でいくぞ」という覚悟が決まったのが2007年くらいです。腹が決まってからは、多少の困難があってもへこたれないようになりました。ある意味、そこで1回死んでいます。自分の中では1回人生が終わっているため、残りの人生はボーナストラックです。おまけで生きさせてもらっている部分があり、腹を決められたのだと思います。

大谷:そこで、2011年からはクラウド、ということですね。

青野:おっしゃるとおりです。

クラウド(国内のみ)直接・間接販売 売上推移

大谷:少し早いですが、後半のお話に移ります。覚悟を決めたということで、これからのお話です。まずはサイボウズの現状として、クラウドの伸びがどうなるのかというお話について、2012年から振り返っていきます。スライドのグラフはきれいに上がっていますが、いかがでしょうか?

青野:これはクラウドのビジネスの特徴ですが、基本は積み上がっていくイメージです。

大谷:もう1つおもしろいのは、赤い部分の間接販売の割合がすごく伸びていることです。

青野:これはおそらくクラウドの、いわゆるSaaS系のベンダーの中ではサイボウズの特徴だと思います。「kintone」があるからということもあるのですが、直販よりもパートナー販売の伸びが大きい状態が続いています。

大谷:これは意図して間接販売を増やそうと変えていったのですか?

青野:おっしゃるとおりです。「kintone」を伸ばしていくには、パートナーを巻き込んでいくことが一番大事なことです。もちろん、直販は直販で伸びているのですが、パートナーにどんどんリソースを配分しました。日本橋にオフィスも出しましたが、とにかくパートナーに集まってもらい、知識を交換して活動するためにはハブオフィスが必要でした。パートナーのためのオフィスという部分があります。

大谷:なるほど。サイボウズはもともと水道橋にオフィスがあり、市ヶ谷の近くだったため、よく行っていました。日本橋オフィスに行って驚くのは、エントランスがどーっと開けており、「どこまでが社員が働くところなの?」というくらいすごく広いことです。会議室もふらっと「こんにちは」という感覚でオープンに入れます。あのようなオフィスを作ったのは、お客さまもそうですが、取引先やパートナーに集ってもらえることを意識しているのですか?

青野:おっしゃるとおりです。それをイメージしていました。しかし、実際にはMicrosoftからの学びが大きいです。もがいていた時期に、Microsoftの「SharePoint」上でグループウェアを作ったことがあり、彼らのパートナーカンファレンスに参加させてもらっていました。毎年アメリカにも行き、「こうしてエコシステムを作っていくのか」と学んでいました。

逆に言うと、本当により多くの人に届けようと思うと、このようなエコシステムをしっかり作っていかなければなりません。自社だけで何とかしようとしても、利益率が高いモデルは作れるかもわかりません。パートナーが儲かっているビジネスモデルにしなければいけないということを学んだのです。

大谷:なるほど。先ほどの、苦しんだからこその学びというところのもう1つの成果物ですよね。

青野:おっしゃるとおりです。

大谷:記者から見て歴史を振り返ると、Microsoftとの協業は何だったのだろうと思いますが、青野さんの中ではそのようなパートナー制度を学んだり、「エコシステムとは何だろう?」という、アメリカの進んでいるITのビジネスモデルをきちんと学んだりする機会になっていたということですね。

青野:そのような機会になっていましたし、たくさん学ばせてもらいました。

グローバル展開

大谷:次に、現状でグローバル展開がどうなっているのかというお話です。中国もそうですが、米国も伸びています。「kintone」のビジネスは基本的にはすごく伸びていますよね?

青野:そうですね。なんとなく「グローバルでもいけるかもしれない」という感覚があります。少なくとも種の時点では腐らず、芽が出始めたくらいです。まだここからどこまでいけるかはまったくわかりませんし、自信もないのですが、とりあえず「kintone」がグローバルに行ける可能性があることの確認ができました。

大谷:これもよく言われているお話ですが、サイボウズは、グローバル進出に一度失敗していますよね?

青野:おっしゃるとおりです。

大谷:アメリカに法人を作ったりしていたと思いますが、そこから学んだことは何ですか?

青野:一番は、何をもってグローバルに進出するかということです。1回目に失敗したときは「サイボウズ Office」を英語版にして持っていきました。したがって、メインの機能はスケジュールの共有や掲示板のような機能、アドレス帳を共有できることでした。

しかし、アメリカへ持っていくと、そのあたりのニーズがありませんでした。アメリカ人のスケジュールは個人管理がベースにあるため、「なぜ人に見せなければならないのか」という会話になるのです。私たちからすると、「みんなでお互いのスケジュールを公開しあったほうが便利に働けませんか?」と思いますよね。1つの会議を設定するときに、お互いのスケジュールが見えていたら楽ではないか、ということです。

大谷:1回ずつメールでやりとりしているとすごく大変ですよね。

青野:おっしゃるとおりです。個人文化が強いと言いますか、日本のような大部屋文化がない国に持っていくと、きついのかと思います。アプリ層で攻めていくのであれば文化依存が強いため、ニーズのある国とない国がはっきりしてしまいます。よって、グローバルで攻めようと思ったら、もう少し下のインフラ寄りに攻めなければいけません。

パソコンで例えると、インテルのCPUを攻めなければいけないということです。パソコンはその国ごとに強いメーカーがあります。日本であればNECや富士通ですし、「アジアであればこの会社」と、たくさんありますよね。しかし、インテルのCPUは世界のどこでも使われているわけです。なぜかというと、彼らは完成品ではないからです。

大谷:プラットフォームなのですよね。

青野:おっしゃるとおりです。コンポーネントですから、どちらかというとインフラ寄りです。完成品を作ろうとすると文化に依存してしまうため、文化には勝てません。完成品の手前の半完成品くらいで攻めないといけない、ということが私の学びでした。そこで「kintone」になるのです。

大谷:「kintone」は、クラウド全体で作られた戦略的なサービスであることは間違いないのですが、国内だけではなく、ある程度グローバルも踏まえて作られているのですよね?

青野:逆にグローバルしか見ていないです。グローバルのために作っています。

大谷:そのお話を聞いて思うのですが、サイボウズは日本ではいまだにグループウェアのシェアが非常に高いですよね。それは、サイボウズが海外のグループウェアには真似できないことを日本できちんと行ってきたからということもあるのかと思います。

青野:それは間違いないです。

大谷:きちんと文化依存しているため、日本人が使いやすいものをきちんと作っているという強みでもあるのかと思っています。最近はいろいろなビジネスクラウド、SaaSのアプリケーションがありますが、いまだに「なぜ、ここにこのスタンプなの?」「なぜ、このような書き方なの?」「なぜ、名字と名前が逆なの?」ということがたくさんあります。

青野:そうですね。あります。

大谷:そのような、グローバルなものをそのまま持ってきたためにローカライズが不十分である、という問題はいまだにあります。そのような意味では、「サイボウズ Office」は日本人にきちんと向き合って作っているため、使いやすく、いまだにシェアを取ることが実現できているのかと思います。

青野:それも間違いないです。

大谷:また、個人的に楽しみなのは、アメリカがAWSを採用し、ある意味「kintone」に特化してクラウド化していくことを発表していることです。個人的にはすごくわくわくしており、どうなるのかと思っています。

青野:そうなのですよね。今までは日本文化に依存していたからこそ、このサイズの売上を立てていたのですが、そこに留まるつもりはまったくありません。ここはここでもちろん続けたいと思っていますが、グローバルにいける商品もきちんと作りたいと思います。そのときには海外の有力なベンダーとも組みますし、うまく共存しながら世界中に行きます。どうしてもこれを実現したいのです。

大谷:ノーコード、ローコードというキーワードがありますが、「kintone」的と言いますか、情報システムではなく、現場の人たちが自分たちで作りたいアプリケーションを自分たちで作る流れは、これから確実にくると思います。そのような中で、アメリカ市場はこれからどんどん広くなりますし、注目度は非常に高いですよね。

青野:そうなのです。日本であれば「『kintone』のライバルは国産で何がありますか?」と言われると、「えっと」と詰まると思います。ところが、すごく残念なのですが、アメリカに行くと感覚的には毎月新しいものが出てきています。「おお、またすごいものが出た」という感覚で、もう慣れています。パンチドランカーのように、1個1個がすごいのです。立ち上げのときから何十億円を集め、スーパーエンジニアを集め、今の最新技術で最高のものを作っているため、大変です。

大谷:ただ、そのような中、以前にアメリカの「kintone」ユーザーから聞いておもしろいと思ったお話があります。この間、「日本企業のような業務改善が大事だ」と考えるアメリカの企業が「kintone」を使っていると青野さんが話していたのです。要するに、カルチャーまで持っていっているということですよね。

青野:そうですね。アメリカにもいろいろな会社があり、私たちが考えるような典型的な会社だけではありません。アメリカのマーケットでは3パーセント取れるか、という話だと思います。100社ある中でどのターゲットに絞って3社を取りにいくかです。これが今、僕たちがイメージしているアメリカの戦略です。改善文化のあるメーカーなどがあると思います。

大谷:ある程度日本企業に近いカルチャーを持っているアメリカの会社ですよね。

青野:おっしゃるとおりです。

大谷:やはりそうですよね。

パッケージ・クラウド 売上推移

大谷:では、次に移ります。パッケージとクラウドの売上推移です。これもおもしろい数字なのですが、2011年以降の「kintone」以来、クラウドの売上がグーッと伸びています。しかし、パッケージの数字は意外と減っていません。

青野:そうなのです。これは予想外ではあるのですが、意外とまだパッケージを買うところも多いです。パッケージからどんどんクラウドにシフトするお客さまもいるのですが、まだ新しくパッケージを買うお客さまも一定層います。

大谷:おもしろいですよね。よく「死の谷」と言われますが、もともとオンプレで売り切りのモデルで行っていた会社がクラウド、サブスクリプションに変えると、売上がいきなりガクッと下がるため、そこに耐えるのがすごく厳しいというお話がよく出てきます。そのような意味では、サイボウズは、パッケージもずっと下がらず、クラウドがグーッと上がっています。株主向けのイベントだから言うわけではありませんが、これは「買い」なのではないですか?

青野:そうなのです。2012年頃は売上がガクッと減るのを覚悟していたのですが、減らないことがわかったため、「アクセル全開で行け」となり、そこから2013年、2014年、2015年と赤字に突入していきます。とにかく、クラウドを立ち上げても売上が減らないという自信を持って投資できる覚悟が決まりました。

主⼒製品の実績(2020年12⽉時点)

大谷:なるほど。このような覚悟のもと、現在はご覧のようになっているのですね。「kintone」が1万8,000社、「サイボウズ Office」が6万9,000社、「Garoon」が5,800社、「Mailwise」が1万400社ということですが、このあたりの実績についてご説明いただけますか?

青野:数としては「サイボウズ Office」が一番多いのですが、これは過去のバージョン1からパッケージで売ってきたお客さまをすべて足しています。クラウドの契約者数で言うと、「kintone」と「サイボウズ Office」が同じくらいであり、金額的には「kintone」が一番です。

各製品 売上推移

大谷:なるほど。これを売上推移にしたのがこちらのスライドです。やはり「kintone」はすごく順調ですね。売上で言うと、前年比で37.5パーセント増になっています。

青野:「サイボウズ Office」もクラウドを積み上げて伸びており、徐々に増えてきている感覚です。そのような意味では、「kintone」は急成長し始めた感覚があります。

大谷:あらためて聞くのですが、競合が非常にたくさんある中で、グループウェア事業を行っていて生き残ってきた理由は何ですか? 先ほどお話ししていた、腹を括ったということももちろんあると思うのですが、他にはどのあたりだと思いますか?

青野:1つは使いやすさです。インストールでつまずくお客さまが多いのですが、パッケージで頭1つ抜けられたのは、インストールの壁を超えたことがあると思います。

大谷:それはあると思います。また、使いやすいというお話だと、細かいところによく気がついていると思います。同じメニューが画面の上下にあるのも本当に使いやすいです。スケジュールがすごく詰まっており、カレンダーが長くなってしまうと、画面の下に行って何かの操作をしようと思った場合、上に戻らないといけないのですよね。そこでメニューが下にあるのは便利だと思います。これに気がついたときはすごいと思いました。そのような細かいところは大切ですよね。

青野:そうですね。その差はあると思います。また、いかにマーケティングに投資できるかということもあります。売上で上がった分を、もう一度広告に投資し、ダウンロードしてもらうということです。最初にアクセル全開で踏み切ったことが、頭1つ抜けてパッケージで何とか生き残った理由です。加えて、「クラウドにシフトするぞ」と言って、もの作りから販売まで思いっきり全部クラウドファーストで取り組んだことが、何とか生き残った要因かと思います。

キントーン初のテレビCM

大谷:こちらは、最近放映している「kintone」のテレビCMです。

青野:木村文乃さんですね。

大谷:「ヒョウケイさんが、重すぎる〜」とありますね。私もテレビCMの発表会に行きましたが、最初に「どクラウド」と聞いたときは、「え、何それ」と思いました。ただ、家に帰ってくると子供があのCMを見て、「どクラウドだ」と言うのです。

青野:覚えてくれているのですね。すごい。

大谷:そうなのですよ。だから、それくらいインパクトのあるCMだと思っています。このCMに込めた思いにはどのようなものがありますか?

青野:「kintone」はアプリ開発のプラットフォームですので、マス向けの広告はそこまで思い切り行っていなかったのですが、1万8,000社になり、そろそろマス向けに行ったらよいのではないかということで企画を練っていました。

そのときに、やはりサイボウズらしさが出ないといけないため、クリエイティブに悩んで、いっぱい作って失敗することを繰り返していました。そのような中、カップヌードルの「hungry?」という広告や伊右衛門のお茶の伝説を作った中島信也さんというクリエイターに出会うことができました。そこで、彼が「オフィスの広告をやめましょう」「オフィスで使うソフトだけど、よくわからない砂漠にしよう」と言ったのです。

大谷:砂漠なのか荒野なのかというところですよね。

青野:そうです。砂漠の荒地です。そこで、「雲で助けに来て、最後に『どクラウドです』で締めたいです」と言われ、「すごいな」と思いました。クリエイターのおかげです。

大谷:なるほど。確かに、オフィスで使うものですが、オフィスが舞台ではないのですね。それでも、オフィスでみんなが考えている悩みや課題などが非常に表現されており、「それそれ」と共感を得るかたちですよね。

青野:おっしゃるとおりです。表計算が重すぎることを、ヒョウケイさんで15秒で表現しています。

大谷:「なんだ、この人」という感覚ですよね。

青野:「なんじゃこりゃ」と思いますが、表計算ソフトっぽい人が重いということです。

大谷:表計算ソフトは重いのですよ。

青野:わかっている人が見ると笑えるのですよね。

大谷:昔はパソコンを使っている人は一部であり、「会社で1台のパソコン」と言われていました。それが90年代になるとだんだん増えてきて、今はみなさまが共有できる悩みなのですよね。表計算が重くて、もっと使いたいのに困っているというところにグサッと刺さったのではないかと思います。

クラウド強化へ

大谷:クラウドをもっとシフトさせるということで、ご覧のような発表がありました。

青野:注目は「Garoon」なのですが、今までのグループウェアのアプリケーションは、用意されたものを使うという発想だったと思います。サイボウズの使いやすいスケジューラーを使っていたと思うのですが、最近はどんどんカスタマイズできるようになっています。今回、プラグインを挿せるようになったということで、「Garoon」の機能拡張をしたかったらプラグインを作って挿すことができます。世界観としては「kintone」に近づいています。

大谷:そうですよね。「kintone」は業務システムを1から作れますが、そのような意味では「Garoon」はある程度プリパッケージと言いますか、パッケージされている機能があるのですが、それに対してプラグインで機能を拡張できるところが非常に今のクラウドサービス風ですよね。

青野:そうなのです。「Mailwise」と「サイボウズ Office」についてはまだだいぶ先ですが、パッケージ版は一応終了を予定しています。

大谷:ついにですね。

青野:はい、ついにです。

大谷:「サイボウズ Office」はユーザー数もけっこう多いですし、パッケージを使っている方も多いです。そう考えると、これがクラウドに移行するというのは、まだ先とはいえ、けっこうなインパクトがあるのではないかと思います。

青野:そうですね。なんとかみなさまに移行していただけるよう、がんばってフォローしていきたいと思います。

「情報伝達」と「情報共有」

大谷:これまでは、プロダクトについてをメインにお話ししてきましたが、次は組織についてのお話に移ろうと思います。クラウドへの戦略や、あるいは各プロダクトの売上など、考えている理念があると思います。

私は記者として、ずっとプロダクトをメインに扱ってきたのですが、やはりこの数年のサイボウズは、働き方改革や働きやすい会社など、制度が尖った会社として認知されていることが非常に多いと感じています。昔はサイボウズと言うと、グループウェアの代名詞と言いますか、「当社はグループウェアのサイボウズを使っています」ということが多かったです。

しかし、業種や業態を問わずサイボウズと言うと、「あの何か変わったCMを放映している会社ね」「働きやすいというイベントによく出てくる会社ね」となるのです。このようなことを肌で感じており、この数年でずいぶん変わってきたと思っています。

そこで、重要なのが「オープン」というキーワードです。これから25分くらいでオープンとチームワークについてお話ししていくことになると思うのですが、なぜオープンである必要があるのでしょうか? これでおそらく「情報伝達」と「情報共有」というお話が出てくるかと思うのですが、いかがですか?

青野:講演の冒頭でよくご説明するのですが、「グループウェアはメールのようなものですか?」と、よく言われます。しかし、私の原体験的に言うと、まったくの別物なのです。メールは宛先を選んで送るため、相手とひそひそ話をしているようなものです。ほかのメンバーにはこのやりとりがわかりません。

それを共有したくてウェブに注目し、もっと共有できるソフトを作ろうと思っていたため、概念的には別物だと思っています。これはサイボウズを創業したときから取り組みたかったことです。サイボウズのスケジューラーは、スケジュールボタンを押して出てくるのが自分のスケジュールだけではありません。ほかの人のスケジュールもガーッと出てくるのです。それがもともと私たちが行いたかったことだというのがあります。ただ、それがなぜよいのかはうまく説明できませんでした。

大谷:そうですよね。例えば、サイボウズは最初からメンバーのスケジュールが出てきますが、スケジュールを知られたくない人もいるわけです。よって、そのような意味では、「できるけど、できたほうがよいのか?」という議論はなかなか難しかったですよね。

青野:そうなのです。そこで働き方の話が出てきたときに、「みんなが働き方を自由にしたら、それで働けますか?」となるわけです。例えば、今日の午前中で帰ってしまう人が出るとなったときに、「では、その人の仕事の引継ぎはどうするの?」「その人は明日は出てくるの?」となってくると、やはりオープンに情報共有していないと、多様な働き方を組み合わせてチームを動かすことができないということで、私たち的には文脈がつながりました。

「私たちが情報共有に徹底的にこだわってきたのは、一人ひとりがもっと自由に楽しく働くためだったのだ」ということです。したがって、そこをセットで訴えていこうと考えました。「多様な働き方を実現したいのであれば、情報共有が必要です」「情報共有をすればこのような多様な働き方もできますよ」と、両輪のように説明していきたいと思ったのです。最近はこれをお話ししています。

大谷:プロダクトと組織論が「がっちゃんこ」してきたイメージですよね。

青野:おっしゃるとおりです。ツールによって組織を変えられますし、組織が変わればツールも変わるというイメージです。

大谷:確かに、「情報伝達」とスライドに書いてありますが、メールやメッセンジャー、ビデオ会議は誰かが誰かにというところで情報が閉じてしまうと思います。私はいろいろなビジネスクラウドを見ていますが、実はビジネスチャットでも、特定のチャンネルに入らないと読めないという、同じことが起こっています。

メールを否定してビジネスチャットに入っているのに、ビジネスチャットでも同じようにグループを作り、「なんだか画面の左側にいっぱいグループがあるぞ」という状況になります。そのような意味では、日本の企業で組織にこだわっている場合、「なぜ、あの部署にこの情報を教えるのか?」という、『半沢直樹』的なことが起こりがちだと思います。しかし、それでもむしろオープンのほうがよいということですよね。

青野:そうですね。これからの時代はオープンなほうがよいのではないですか、というところです。

グループウェアとチームワーク①

大谷:ということで、次のお話に移ります。グループウェアとチームワークはどのように作用するのでしょうか?

青野:これは、みなさまに警告的に書いているところなのですが、ようやく日本もデジタル化が進み、今までアナログだったものをデジタルに変えていこうという流れがあります。いろいろなシステムを作って導入するのだと思いますが、そのときにサイロ化するリスクがある、ということをお話ししています。

例えば、営業支援システムを入れると営業の人は見られます。しかし、ほかの部署の人は見られませんし、営業が今何をしているのかわかりません。また、人事が人事システムを入れれば、人事の人は情報共有ができますが、ほかの人にはわかりません。このようになると、せっかくデジタル化したのに情報が分断されており、チームワーク的に言うといまいちな世界になります。これが私たちが打破したい次の壁です。

大谷:なるほど。われわれが一番初めにお会いしたときは、社内ネットワークでグループウェアを作ることがイントラネットと言われていましたが、ブラウザがあれば特定のアプリケーションやクライアントを入れなくても誰でも情報が見られるという状況ができたわけですよね。これはもう20年から25年前くらいですが、今は、情報のサイロと言いますか、分断が起こっていますし、それはクラウドになっても変わっていません。

青野:そうなのです。むしろイントラネットのほうがある意味では自由でした。ほかの人が入ってこないため、勝手にウェブサーバーを建てて、アクセス権をかけずに自分の部署の配信をしていても怒られなかったのですが、クラウドになったら他社の人も見られますから、守らないといけなません。しかし、守った瞬間に社内なのに見られないということになります。これがクラウド時代に起こり得るであろう、次の人類の壁です。これを変えたいのです。

グループウェアとチームワーク②

大谷:こちらのスライドのように変えていくということですね。

青野:おっしゃるとおりです。いろいろなアプリやシステムを使っているのはよいのですが、基本的にはその情報を「kintone」に載せてもらい、「kintone」の中を見ていれば、どの部署のどの仕事でもすべてそこに情報があるという状態にします。そこにデータもあればワークフローも流れており、コミュニケーション情報も載っているとなると、まさにこれは社内のイントラネットですよね。言うのは簡単ですが、クラウド時代の新しいイントラネットを提供したいというのが、この「kintone」のビジョンです。

大谷:グループウェアを入れるときもそうですし、「kintone」、クラウドもそうだと思うのですが、抵抗勢力は絶対にいると思います。先ほどお話ししていたような、「私のスケジュールをほかの人に見せるのは許せない」と考える上司などは、どのように打破していくのでしょうか? 要するに、どのようにしてオープン化していくかというお話であり、ツールのお話と組織のお話をどのようにしていこうかということです。このあたりはどうお考えですか?

青野:例えば、私のスケジュールは社員が勝手に突っ込めます。見えていますし、それどころか、押さえてよいと言っているため押さえてきます。しかし、これは風土がなければ絶対にしてはいけないらしいです。「私のスケジュールを勝手に押さえるとは何事か。私は聞いていない」と言う会社もあるらしいのです。

1997年に創業した時は変わっていくだろうと思っていたのですが、まあ変わりません。こんなにテクノロジーが進化しているのに、風土はいまだに1997年状態なわけです。よって、こちらにも回しにいかなければいけないと思います。ただ、そこは私たちでもビジョンを謳っていきます。

最近始めたのはメソッド事業というものです。サイボウズで行っている情報共有や組織の作り方が、いかにおもしろくてみなさまにも役に立つかということを、事業として研修したりコンサルしたり、ワークショップを行ったりしながら、ほかの会社にも伝えていこうという取り組みです。両輪で行わなければだめだと思い、このような活動をしています。

大谷:今の気づきを整理すると、25年間取り組んできて、テクノロジーは非常に進化し、プロダクトも洗練されてきましたが、結局、よく言われている「組織」と「文化」と「テクノロジー」という働き方のうち、「組織」と「文化」が変わっていない、ということですよね。

青野:変わっていないのは人類だということです。技術は進化していますが、人類が遅れています。

大谷:そこにしびれを切らした青野さんとしては、先ほどお話ししていたようなメソッド事業として、多少おこがましいかもしれませんが、「当社で成功したメソッドを学んでみませんか?」というかたちでコンサルティングを行っているのですよね。

青野:おっしゃるとおりです。

大谷:反応はどうですか?

青野:すごいです。びっくりしました。こんなに聞きたい人がいるのか、というくらいです。講演や研修依頼はほぼ毎日来ます。

大谷:そうなのですか。

青野:はい。大きいところから小さいところまであります。

大谷:サイボウズからどのようなことを学びたいと思って来ているのですか?

青野:大小あるのですが、「今まではオフィスにガーッと集まって働いていたけれど、集まりにくくなったため、テレワークをしないといけない。しかし、テレワークをするにはデジタル化しないといけない」ということで、去年はテレワークに関することが多かったです。しかし、デジタル化するだけではだめで、それを使いこなすための風土も必要です。

大谷:マネジメントも大変ですよね。

青野:そうなのです。マネジメントができないために学びに来るところもありますし、もう少し視座の高い経営者であれば、ここから会社の風土を変えなければいけないと考えて来るところもあります。イノベーションを起こしていくには、多様な人たちを採用し、多様な働き方をしてもらい、オープンにディスカッションできるようにしなければいけません。旧式的な、忖度しながら働くようなヒエラルキーではだめなのだと気づいた経営者が声をかけてくださっています。

大谷:そのような意味では、コロナ禍ということで、マイナス面もいろいろありますが、働き方や会社、組織を見直す1つのきっかけではありましたよね。

青野:本当にそうですね。

大谷:このようなことが今起こっており、これをグループウェア、テクノロジーと組織の両面で実現していくということですね。

次期取締役候補を社内募集

大谷:そこで、次のお話に移ります。多様性に関するお詫びです。CMもママ動画もそうですが、サイボウズは今まで、世の中の社会課題に対してメスを入れるようなことをいろいろ行ってきました。これもすごく反響があったということですよね。

青野:おっしゃるとおりです。

大谷:なぜ、このようなことになったのか、あらためてご説明していただけますか?

青野:今回、取締役の選任のプロセスを大きく変えようという話になりました。その背景にあるのは、サイボウズの社内の情報共有が相当徹底されてきたことです。取締役だろうが事業戦略会議だろうが、誰でも参加できるようになってきたとき、取締役をどうするか、という話になりました。

畑さんや山田さんも「取締役という役職名にはこだわっていません」と言ったため、「一回公募してみるか」という話になりました。これくらい情報の透明性が高い会社であれば、そもそも悪さをしようがないし、悪さをしてもすぐ見つかります。会社法上、取締役を置かなければいけないのなら、取締役を名乗りたい人が名乗ればよいのではないかということです。

訴えられるリスクなどが一部ありますが、そのリスクを飲んででも「私は取締役を名乗りたい」という人がいるのであれば、それでよいのではないかということで、公募をかけてみました。すると17人集まりました。おもしろいから、社会にメッセージを発信したいと思い、このようなお詫び広告を出しました。また、今日の株主会議の集客をしたかったということもあります。

大谷:これに興味を持って来ている方もおそらくたくさんいるのではないかと思うのですが、何がすごいかというと17人も応募があったことですよね。

青野:私もそう思います。

大谷:「何を言っているのか」と、ネタだと思いますよね。

青野:そうなのです。私たちも手が挙がらないと思っていました。名前が出ますし、株主代表訴訟のリスクもあると言われたらやめる人が多いと思ったのですが、意外とみなさんチャレンジャーだと思います。

大谷:どのような人から応募があったのですか?

青野:いろいろです。

大谷:若手からも応募はありましたか?

青野:若手もありましたし、新人や2年目がいたり、男性、女性、外国人とさまざまでおもしろいです。おじさんを皮肉っている広告ですが、普通におじさんも応募してきてくれています。

大谷:これを募集するところも1つの戦略ですよね。

青野:ほとんどの方は、「サイボウズは変なことをしている」と見ていると思うのです。しかし、私の中では、おそらくほかの会社も同じことを始めるという確信があります。情報を透明にすれば取締役は必要ありません。逆に「ガバナンス。社外取締役を置け」と、1周、2周くらい前の話をしているのですが、ゆくゆくは10年、15年経ったら同じ感覚を持つ組織が増えていると思います。

大谷:そのような意味では、サイボウズがテレワークを開始したのは2010年だと言われていますが、10年以上前からテレワークをしていて、ようやく世の中がサイボウズに追いついたところがあると思います。女性の割合もすごく高いですし。

青野:そうですね。45パーセントくらいです。

大谷:そのような意味では、子育てや出産のときでもきちんと仕事を継続できるように、どのような働き方をするのかの議論をずっと繰り返してきて、今に至っているのですよね。したがって、もしかしたら10年後には、「お宅の会社はまだ社外取締役を募集していないの?」ということがニューノーマルになる可能性すらありますよね。

青野:そうなのですよね。今日、大谷さんとお話ししたいのはそこです。私は少し早いのですよね。1997年創業は正直早かったのです。おそらく、2010年創業がよかったと思います。

大谷:クラウドができてから、ということですね。

青野:情報共有なども、クラウドができてからでもよかったかもしれませんね。

大谷:先ほど、「アメリカでグループウェアが流行らなかったのは個人文化があるからで、自分のスケジュールをほかの人に知らせるのはおかしい」というお話がありました。このお話、実はすごくおもしろいと思います。例えば、今、大手のビジネスクラウドを売っている人たちが言っているのは、コミュニケーションやチームワークなのですよね。

青野:「オープン」と言っていますね。

大谷:そうなのです。彼らは「オープン」と言っているのですよ。外国人という言い方が正しいのかわからないですが、欧米で先進的にITやクラウドを使っている人たちも、やはり一人で働くのではなく、チームワークやコミュニケーションが重要だと言っています。発表会などを聞くと毎回そのお話になるのです。しかし、サイボウズはずいぶん前からこれを言っていました。

青野:おっしゃるとおりです。私たちがチャレンジできる領域が広がっていると思います。

企業理念

大谷:次のテーマに移ります。「チームワークあふれる社会を創る」ということで、チームワークにこだわっているのですよね。先にまとめをお話ししますと、「25年間変わらなかったのはこのチームワークだよね」というお話です。ここで話したいのは、「チームワークあふれる社会を創る」という理想や目的は変わらないのですが、チームワークという言葉の定義がどんどん変わってきている、ということです。青野さんは、「チームワークあふれる社会を創る」ことに対して、どのような理想図を描いて定義していますか?

青野:創業時を思い出します。なぜ、わざわざパナソニックを辞めてまでシンプルなスケジュール共有のソフトを出したかったのかと思うと、やはり情報共有をして、もっと一人ひとりが楽しく働けるようにしたかったのです。

どのようなところが楽しいかというと、ほかの人のスケジュールが見られれば、スケジュールがいっぱいで大変そうな人のところを手伝いに行けますし、自分がスケジュールでいっぱいのときは誰かが助けに来てくれます。情報共有ができていれば、人に貢献することができるのです。貢献すれば、感謝されることもあり、感謝することもできます。「これは楽しいよね。このような社会になればよいね」と思います。

パナソニックにいた当時はそれがなかなかできませんでした。横の席の先輩がとても忙しそうなのですが、何をしているかわからない状態です。このようなことがあったため、ウェブを見れば横の先輩の大変さに気づいてあげることができるようになると思い、これを実現したかったのです。それがなかなか言語化できなかったのですが、ようやくここにきて実現したかったのはこれだったのだと言語化できました。実際に自分たちで取り組みながら、「これは間違いなく楽しい」という感覚がありました。

大谷:そのような意味では、単語1文字1文字に非常に意味がありますよね。結局、チームワークが重要なわけです。助け合ったり褒め合ったりして、社会人がかなり時間を費やしている仕事の時間を楽しいものにしよう、生産性の高いものにしよう、というところがチームワークだと思いますし、それが「チームワークあふれる社会を創る」のだと思います。

社内のネットワークや社内のコミュニケーションをよくすることから、もう少し広い概念へと広がり、もはや会社を超えるのですよね。そのようなものを1から創っていくことを考えると、実は何か意味深い存在意義を感じます。

青野:そうなのですよ。そのような意味ではやはりクラウドがすごいです。基本的には企業に売ってきた会社です。したがって、その企業の働き方を変えていくことをしてきたわけです。しかし、今のクラウドは企業ではないところに売れ始めています。

特に去年は新型コロナウイルスにより、神奈川県が病院とやりとりして、病院でどれくらい検査しているのか、どれくらい感染者が出ているのか、医療の資材では何が足りないのかなど、リアルタイムな情報を集めたいということがありました。しかし、そのための方法がありません。そこで「kintone」を導入します。各病院がポチポチと情報を入力するだけで、すぐに集計してみなさまにシェアされ、「ああ、なるほど」となりました。

大谷:補助金の申請もそうですよね。

青野:おっしゃるとおりです。チームワークは組織だけではないと思います。チームワークは社会の至るところで発生するのです。

大谷:日本では、チームワークがこれからどんどん必要になりますよね。

青野:おっしゃるとおりです。

大谷:少子高齢化で経済も縮小しており、これからグローバルに打って出なければいけない会社もおそらくたくさんあります。そのような会社では、それぞれの関係者がいろいろなかたちでつながっていき、チームがきちんとワークしていかなければいけないということですよね。

青野:そのとおりですね。

大谷:チームワークのかたちが変わり、自治体で「kintone」を使うケースが増えてきたというお話でした。今までは社内で閉じていたものが、取引先や顧客に広がっていき、今度は自治体やその地域という広いところまで変わってきたという意味では、チームワークがどんどん変わってきたということですよね。

青野:そうなのです。自分たちで言っておきながら今さら気づきましたが、これがチームワークあふれる社会だと思います。

大谷:そのためのツールとして、例えば「kintone」であったり、あるいはメソッド事業のようなノウハウがあったりということを理解してもらえるのですよね。

Cultureとしては、「理想への共感」「公明正大」「多様な個性を重視」「自立と議論」の4つがありますが、これに関して何かコメントはありますか?

青野:これは今度の株主総会でも定款に入れようと議題に上がっているため、少し解説します。まず、「チーム」という言葉ですが、人が集まってきているだけではチームとは言いません。何か条件があるからチームと言うのです。そこには共通の理想があります。みんなで甲子園に行こうと言っているからチームなのであり、何となく集まって野球をしているだけではチームっぽくはないですよね。共通で目指すものがあって初めてチームですので、理想があり、みんながそれに共感している状態を創ることがチームとしての第1条件です。

ただ、それだけのチームであればたくさんあります。そこで私たちが大事にしたいのは、集まってくる人たちが多様であってよいということです。まさにSDGsではないですが、いろいろな人が集まってきて、それぞれ制限がある中でも1人も取り残さず、自分の個性を発揮しながら働けるよう、「多様な個性を重視」していくことは、2つ目に私たちがどうしても入れたい条件です。

それを実現しようと思うと、今度は情報がオープンでなければいけません。どこで誰が困っているのかは多様ですから、きちんとオープンに、隠さずにシェアしようということです。これが「公明正大」です。

さらにそこにつけ加えたいのが、そのような環境に置かれたときに、一人ひとりが「私はこう働きたい」「私はここで貢献したい」「私はこう感謝されたい」ということを自立的、主体的に発信して選択できるようにしていかなければいけないということです。結局のところ、選択肢がたくさんあっても選択できなければ不幸な人が生まれてしまうからです。

この4つがポイントなのだと気づいたのです。これは経験則的なものですので、まだまだ変わる可能性もあるのですが、今考えているこの4つのCultureが世界中にあふれれば、相当チームワークあふれる社会になると思います。実現したいのはそのイメージです。

大谷:なるほど。去年からコロナ禍と言われ、このようなところがいろいろと失われています。「分断」というキーワードになってくると思うのですが、このような時代にこそ、あらためてこのCultureをきちんと問うていきたいところですよね。

青野:おっしゃるとおりです。

株主還元

大谷:次は、このようなチームワークの中で、どのような取り組みを行うのかについてお伺いします。今回のイベントのお話になります。株主還元ですが、株主もチームにしてしまおうというところですよね。

青野:そうなのです。ネットの掲示板などでは、「サイボウズは社員重視、株主軽視だよね」とよく書かれますが、確かに思い当たる節があります。今、株主の方は2万5,000人ほどいますが、彼らとどのように接したらよいかというのは難しいです。

大谷:わからないですよね。

青野:いまいち手が打てていなかったのですよね。ただ、サイボウズもそろそろこのあたりを巻き込んで、株主の方々も一緒のチームになっていきたいと思います。しかし、ここで何が起きるかというと、サイボウズの社員数はグローバルすべて含めて所詮1,000人なのですが、株主を巻き込んだ瞬間、いきなりプラス2万5,000人になるのです。これを使わない手はありません。

場合によっては、ファンで口コミを広げてくれる仲間が2万5,000に広がるわけですので、彼らときちんと向き合い、対話をしながら進めていきたいと考えました。還元と書くと少しいやらしいですが、これが株主と一緒のチームになっていきたいという背景にあるのです。

大谷:なるほど。いろいろなイベントを開催しているのですよね?

青野:おっしゃるとおりです。とりあえず接点を増やそうということで、オンラインイベントを開催したり、このようなイベントを開催したりしています。

大谷:ニュースで聞いている株主総会のお話としてはけっこう厳しいイメージがありますが、株主の人はけっこうアクティブに動いてくれるのですか? 「ドラマの見過ぎかよ」と思われるかもしれませんが、いろいろなところから質問されたり、「動議します」と言われたりというイメージとは、何か違うものがあります。スライドの写真を見ている限り、非常にほんわかした雰囲気は何だろう、と思います。

青野:サイボウズが今までがんばってきたおかげかもしれませんが、ファンの株主の方もたくさんいるのですよね。短期的な業績よりも、私たちが目指しているビジョンや大事にしたい風土、文化に共感してくれる人が多いです。このような人たちをうまく巻き込んでいけば、もっともっと株主総会もおもしろくなると思います。共感していない人がいっぱい座っており、攻撃されるかもと思えばこちらもガードを固めて無理やり議案を通そうとするのですが、一緒のチームであればもっと敷居を下げて楽しい会にできると思います。

大谷:先ほどの「理想への共感」というところですよね。

青野:おっしゃるとおりです。

大谷:それを社員だけではなく、株主も巻き込み、チームとして考えて共有していこうということですね。

青野:そうなのです。スライドの右のほうに、配当が増えていることをこっそりアピールして入れていますが、今のところ業績がよいため、少しずつ増やしているところです。

大谷:青野さんは、株主や株主になろうとしている人たちに対して何かメッセージはありますか?

青野:まさに今日見ている人に株主になってほしいです。今日は愚痴を言いますが、今のサイボウズの株主は増えており、2万5,000人います。

大谷:けっこうな人数ですよね。

青野:その2万5,000人に、「株主会議があります」というダイレクトメールを送っているのですが、そこから申し込んでくれた人はわずか500人です。50分の1くらいです。にもかかわらず、株主ではない人がなんと1,000人以上申し込んでくれているのです。株主会議なのに、株主ではないファンの人たちがこれを見てくれているわけです。やはり私は、このような場に出てきてサイボウズを理解して共感してくれる人たちと一緒に歩んでいきたいです。だから、この人たちに株式を持ってほしいと思います。

大谷:だから、みなさまです、ということですね。

青野:おっしゃるとおり、みなさまです。

大谷:1時間バーッとお話ししてきましたが、今日は25年間を振り返ってきていかがでしたか?

青野:あっという間でした。まったく話し足りないです。

大谷:そうですね。

青野:未来のグループウェアについても語りたかったです。引き続き、このような場を作っていきたいと思います。

大谷:「未来のグループウェアはどうなのですか?」と質問すればよいのではないのですか?

青野:そうですね。

大谷:このような感じで関心を持ってもらうことは、一緒にチームになりましょうということだと思います。これからサイボウズがどのようなことを行うのか、何を成し遂げるのか、気になっていると思いますが、今後ともよろしくお願いいたします。これで締めにしたいと思います。本日はありがとうございました。

青野:ありがとうございました。