2030年のありたい姿

野崎明氏:社長の野崎明です。本日は当社、住友金属鉱山が新たに策定した「2030年のありたい姿」についてご説明いたします。

当社グループは、経営理念に「地球および社会との共存」を掲げ、多様なステークホルダーとのコミュニケーションを図り、事業を通じた社会課題の解決に取り組んでまいりました。

当社の価値創造の方向性を示す「2020年のありたい姿」が目標年度を迎えるなか、次の指標となる「2030年のありたい姿」の策定に向け、1年がかりで取り組んでまいりました。

このほど、取りまとめができましたので、本日発表いたします。本日ご説明する内容は、5部構成となっております。

SMMグループ経営理念/グループ経営ビジョン

まずはじめに、「2030年のありたい姿」の策定にあたっての前提についてお話しいたします。

当社グループは経営理念のなかで、「地球および社会との共存」と「人間尊重」を重要なテーマに位置づけています。

さらに経営ビジョンでは、「技術力」と「ものづくり企業としての社会的使命と責任」を重視し、資源の乏しい日本において、資源を確保し、非鉄金属、機能性材料などの高品質な材料の提供を通じて、持続可能な社会形成に貢献することで、企業価値の最大化を実現することを目指しています。

住友の事業精神 ~住友のDNA~

住友の源流事業である銅製錬事業を受け継ぐ当社は、住友グループのなかでも長い歴史を持つ会社です。創業は1590年、今から430年前になります。

住友のDNAを色濃く受け継いできた当社グループは、住友の事業精神に基づき、「事業を通じて社会課題を解決する」ことを目指し、事業と一体となったCSR活動を展開しています。

住友のDNAの体現①

その「住友のDNA」を体現する事例をいくつかご紹介します。まず、およそ400年前に、当時輸出されていた銅地金から銀を分離する革新的な技術、「南蛮吹き」を開発したことが挙げられます。

特筆すべきは、この技術を自社で独占することなく、同業者へ公開することで日本の利益流出の防止と国内銅産業の発展に貢献したことです。また、地域社会に対しては、283年にわたる別子銅山の経営を通じ、地域社会との信頼関係を築きました。

さらに、明治期に直面した煙害問題では、47年という歳月は要しましたが、この問題を世界に先がけて技術力で抜本解決した歴史があります。

住友のDNAの体現②

また、環境保全にも積極的に取り組んできました。鉱山、製錬所では、坑道で使用する坑木、燃料である木炭として木材が大量に使用されました。明治期の別子銅山は、この左の写真のように荒廃していました。

第2代総理事であった伊庭貞剛は、荒れ果てた別子の山々をもとの自然の状態に戻すことを決意し、それまで毎年6万本に満たなかった植林本数を一気に年間100万本台へ、ピーク時には年間200万本へと増やしていき、別子銅山を青々とした森林に復元しました。

現代においても当社が受け継ぐDNA①

当社グループにおいても、このDNAは大切に受け継がれています。ものづくり企業としての根幹である技術力は、長年にわたる資源開発、非鉄金属製錬、材料製造の各事業で発揮されています。

低品位酸化鉱は、かつては資源化されていませんでした。世界に先駆けて商業化に成功したHPAL技術では、低品位鉱からのニッケル、コバルト回収を可能にしました。

また、高い安全性と高容量が求められる車載用二次電池の正極材料を開発し、これを安定的に生産しています。これらは、世界のトップレベルの技術力を示す一例です。

現代においても当社が受け継ぐDNA②

地域貢献は、社会との共存を重視してきた当社にとって極めて自然な活動です。

当社が2つのHPAL工場を操業するフィリピンでは、学校や病院の運営、インフラ整備といったさまざまな地域発展への貢献を継続的に行っています。

また、1987年から続けているモレンシー鉱山周辺の中高生向けの奨学金の運営に加え、昨年は新たに21万米ドルの寄付を行い、当社の菱刈鉱山のある鹿児島県伊佐市とモレンシーの交流の懸け橋となりました。

現代においても当社が受け継ぐDNA③

環境保全の例としては、日々の拠点での活動に加え、HPALプラントで発生し無害化された残渣をためるテーリングダム、およびその周辺の緑化があります。

この緑化活動は環境保全の側面だけではなく、緑化に関するさまざまな作業に関して、周辺地域の多くの住民の方々を雇用することから、地域経済の活性化への貢献という側面もあります。

見直しの背景

次に、「2020年のありたい姿」の見直しの経緯と内容についてお話しいたします。

当社グループでは、2008年に自社への影響と社会的要請を考慮し、重点的に取り組む分野と「2020年のありたい姿」を決定し、公表いたしました。

2015年には、持続可能な社会への影響を考慮し、サステナビリティ課題をあらためて洗い出したうえで重要課題を特定し、ありたい姿の修正と具体的な目標やKPIを定め、活動を再スタートしています。

目標年の2020年を迎えるにあたり、現在の事業課題や今後の事業展望を踏まえ、また新たな社会課題を見据えて、「ありたい姿」を見直すこととしました。

「2020年のありたい姿」の主な取り組みの達成度評価①

ここで、「2020年のありたい姿」の振り返りとして、主な取り組みの達成状況をご説明します。

「資源の有効活用」の施策の1つとして、リサイクル資源の有効利用を上げていましたが、リチウム廃バッテリーに対して、「バッテリー to バッテリー」のリサイクルプロセスの開発と運用を開始しました。

「環境保全」では、車載用電池材料、インク材料といった低炭素負荷製品の売り上げをKPIとして上げており、目標値を達成できました。

「地域貢献」に関しては、フィリピンなどで多岐にわたる活動を実施しました。

「2020年のありたい姿」の主な取り組みの達成度評価②

「人権・人材の尊重」に関しては、ターゲットを従業員、地域住民、サプライヤーとして人権デューディリジェンスの定期実施を挙げました。それぞれ、計画に沿って実施できました。

「安全・衛生の確保」では、残念ながら件数、度数率ともに目標を達成できなかったこと、また重篤な災害の発生もあり、まだまだ我々は努力しなければならないとの評価となりました。

見直しにおける視点

「2020年のありたい姿」の見直し、「2030年のありたい姿」の策定においては、次の2点を重要な視点としました。

1つ目は、社会のデジタル化の急速な進展です。特にIoTや自動車のCASE化、5Gに代表される通信の高速化や、脱炭素社会実現へ向けた技術革新やエネルギー転換が進んでいます。この潮流のなかで、銅、ニッケルといった金属素材や機能性材料は、より重要な役割を果たすようになってきました。

2つ目は、鉱物調達における人権課題や、サプライチェーンを通じた人権侵害への加担の回避などの社会的な要請です。資源産業に身を置く当社グループは、これらの課題に積極的に取り組む責務があるという点です。

さらに、脱炭素社会への要請が進むなかで、SDGsなどさまざまな社会課題に、CSRやTCFDに基づく情報開示などを通じて積極的に取り組むことが、資源・製錬事業の成長戦略には不可欠と考えました。

2030年のありたい姿の位置付け

このような前提を踏まえ、「2030年のありたい姿」を策定いたしました。次は、この概要についてご説明いたします。

はじめに、「2030年のありたい姿」の位置付けについてお話しいたします。「2030年のありたい姿」は、今後の社会的要請の変化も予測しながら、経営目標である長期ビジョンの「世界の非鉄リーダー」を実現するための2030年時点のマイルストーンとして設定しました。

従って、今回の見直しの重要課題は、「2020年のありたい姿」とは異なり、サステナビリティ課題だけではなく、経営課題としての観点も含め、抽出、評価、選定しました。この点で、フルモデルチェンジであると言えます。

達成イメージ

この図は「2030年のありたい姿」を、長期ビジョンからバックキャスティングで表現したものです。

SMMグループ経営理念、また経営ビジョンで示される企業姿勢を堅持しつつ、「2030年のありたい姿」を実現し、事業を通じた社会課題の解決によって成長性と持続性の2つの基盤を拡大させ、企業価値を高めてまいります。

課題の抽出とSDGsとの紐付け

次に、具体的な策定プロセスをご説明します。なお、これからご説明する「2030年のありたい姿」の策定は、CSR6部会および各事業本部、本社各部室で取りまとめた案をもとに、全執行役員、監査役による15時間におよぶ全体討議、ならびにCSR委員会での議論を経て策定され、取締役会で審議、決議されました。当社グループ一丸となって検討を進めたものであるとご理解ください。

それでは、策定のプロセスをご説明します。まずはじめに、ICMMやGRIスタンダードなどのガイドラインや、足元の事業環境や将来予測などから、89の課題を抽出したうえで、各課題と関係が深いSDGsのターゲットを紐付けました。

課題の評価と重要課題の特定

次に、これら89の課題から重要課題を特定するにあたって、社会的視点と事業の視点の2軸で評価を行いました。

評価にあたっては、「社会へ与えるインパクトの程度」「積極的に取り組まないことで増大するリスク」「積極的に取り組むことで得られる機会」の3つのポイントから、それぞれ5段階で行いました。数字が高いほど、インパクト、リスク、機会の程度が高いことになります。

この結果、社会、事業の両方の視点で評価が5となった11の課題を、重要課題として特定しました。

11の重要課題へのアプローチ

これは、その特定した11の重要課題とそれぞれの課題を評価する際に、当社グループのビジネスモデルや事業を考慮して定めたアプローチとなります。

重要課題については、「非鉄金属資源の有効活用」「気候変動」「重大環境事故」「生物多様性」「従業員の安全・衛生」「多様な人材」「人材の育成と活躍」「ステークホルダーとの対話」「地域社会との共存共栄」「先住民の権利」「サプライチェーンにおける人権」が特定されました。

次にアプローチですが、例えば「非鉄金属資源の有効活用」という重要課題に対しては、優良な非鉄金属資源の鉱山を探索、開発することにより資源を確保することに加え、資源を取り扱う企業の責務として、できるだけ有効に活用するといった観点から、リサイクルや今まで技術的に困難であった難処理資源についても資源として活用するための技術開発などに取り組むといったことになります。

また「気候変動」では、工場や製錬所での省エネや、よりCO2排出量の少ない燃料源への転換などに加え、車載用二次電池正極材料や日射遮蔽インクといったCO2排出量削減につながる製品の供給を通じた貢献があげられます。

11の重要課題とありたい姿①

「2030年のありたい姿」としては、各重要課題の解決へ向けた当社グループの取り組みについての目指す姿、社会にそのように認知していただける姿としての「ありたい姿」と、その達成度を測るためのKPIを定めています。

まず、ここに11の重要課題ごとに定めた「ありたい姿」を示します。「非鉄金属資源の有効活用」では、大きな目標を、高い技術で資源を生み出す企業とし、そのなかに4項目の目標を定めています。

「気候変動」については、温室効果ガス排出量ゼロに向け、排出量削減とともに、低炭素負荷製品の安定供給を含めた気候変動対策に積極的に取り組んでいる企業、「重大環境事故」と「生物多様性」では、水資源や生物多様性を大切にして、海や陸の豊かさを守っている企業と定めています。

11の重要課題とありたい姿②

「従業員の安全・衛生」に関しては、快適な職場環境、安全化された設備と作業のもと、すべての従業員が、ともに安全を最優先して仕事をしている企業、「多様な人材」「人材の育成と活躍」については、すべての従業員が活き活きと働く企業を大目標とし、「ステークホルダーとの対話」については、「世界の非鉄リーダー」であると理解され、共感される企業、「地域社会との共存共栄」については、地域社会の一員として地域の発展に貢献し、信頼を得る企業、「先住民の権利」については、先住民の伝統と文化を理解し、尊重する企業、最後に「サプライチェーンにおける人権」については、サプライチェーン全体でCSR調達に取り組んでいる企業と定めました。

課題別主要施策①

次に、これらのありたい姿を実現するための代表的な施策とKPIをご説明します。

すべての重要課題についての施策とKPIは、説明資料の巻末に資料編として添付していますのでご確認ください。

「非鉄金属資源の有効活用」に関する施策としては、JV銅鉱山の生産体制強化やニッケル低品位鉱石のさらなる活用などを挙げています。

「環境保全、気候変動対応」においては、第3HPALの建設によるCO2排出量の増加を相殺する施策を打ちつつ、今世紀後半に向けた排出量ゼロの計画を策定します。加えて、CO2排出抑制の効果が期待される車載用二次電池正極材やインク材料といった低炭素負荷製品の事業拡大などを挙げています。

また、気候関連財務情報開示タスクフォースであるTCFDへの賛同を、本年2月に行いました。今後は、経済産業省が定めたTCFDガイダンスなども参考にしながら、気候変動に関わる情報開示を行います。

課題別主要施策②

「安全・衛生の推進」については、IoTやAIを活用し、新電池工場などの工場や菱刈鉱山坑内作業のリモート化・重機の自動化といったスマート化への転換を進めていきます。

「人権の尊重」では、特にフィリピンにおける先住民へのサポートや紛争鉱物に挙げられる人権侵害に、当社のみならずサプライチェーンを介しても加担しないといったことをKPIとして挙げました。

「多様な人材の活躍、人材育成」においては、インフラの整備とあわせ、デジタルテクノロジーの活用を進め、人材育成や働きがい、自己実現の達成に向けた支援を進めていきます。

重要課題とSDGs①

次に、重要課題とSDGsとの関係についてお話しいたします。

国連で採択されたSDGsは、「誰一人取り残さない」という理念のもと、持続可能な社会の実現を目指すものです。この理念、考え方は当社グループの経営理念、ビジョン、また430年の歴史のなかで当社グループが取り組んできたことと親和性が高いことから、我々はこの理念に共感し、SDGsと同じ目標年を持つ「2030年のありたい姿」を考えることとしました。

策定プロセスのご説明の際にお話ししたとおり、各課題とSDGsのターゲットを紐付け、評価した結果、重要課題ごとのゴールはこのようになりますが、 各課題へ共通する当社グループのアプローチであること、また経営ビジョンと直結する課題であることから、SDGsの「つくる責任つかう責任」を最重要のゴールと定めました。

重要課題とSDGs②

これは、SDGsのゴールと長期ビジョンの関係を表した図になります。

SDGsの「つくる責任つかう責任」を中核に、特に当社グループの事業と結びつきの深い9項目への取り組みを通じて、「2030年のありたい姿」を実現し、長期ビジョンの達成に向け取り組んでいきます。

重要課題とSDGs③

次に、さらに詳しくそれぞれのSDGsゴールと戦略の関係をご説明します。

それぞれのゴールは、当社グループのビジネスモデルから、地域社会との信頼関係構築や環境保全といった基盤となる課題への取り組みを持続性へのアプローチとしました。

また、資源の確保、人材の活用、気候変動への材料供給を通じた貢献を当社グループの成長性へのアプローチとしてとらえました。

まとめ

最後に、当発表のまとめをお話ししたいと思います。

まず、今回の見直しは、「2020年のありたい姿」の焼き直しではなく、大きく変化する社会環境を踏まえたうえでの「ありたい姿」のフルモデルチェンジであること。次に、これらの目標は、長期ビジョン「世界の非鉄リーダー」を目指す当社グループとして、高い目標と決意を示したものであるということ。

最後に、脱炭素社会の実現などの社会課題の解決や、デジタルテクノロジーの進化・発展を背景とした社会ニーズへの対応を通じて、持続可能な社会形成へ向けての取り組みをコミットするものである、ということをお話しして、私の説明を終わります。