客観的な視点がなければ、いい会社を発見できない

藤野英人氏(以下、藤野):ちょっと経営理念の話で脱線しましたが、このビジネスモデルと経営理念、業績資本効率と、この3つの三権分立。このそれぞれが大事ですね。

その真ん中にあるのがコーポレートガバナンスです。経営理念、業績資本効率、ビジネスモデルを統合するものがコーポレートガバナンスになります。

コーポレートガバナンスですごく大事なのは何かというと、会社を統制することだから、してはいけないこととか、会社を縛るルールだと思っている人が多いけれど、そうではなくて、会社としてどういう行動をすべきなのかの中心だということです。

コーポレートガバナンスは、決してコンプライアンスと同じ意味では無いことは、ここで確認したいことだと思います。

その中で特に私が会社を選ぶときに大事にしていることは何かですけど、まずはファンダメンタル分析。株式の価値や、時価総額の価値を見ていくことになります。それは会社の業績を見ることです。

当然それは美人投票という側面がありまして。自分がいい会社だと思う会社を投資をしても、儲かるとは限らないです。多くの人が、将来いい会社になるだろうと予想する会社に投資をするんですね。

これは有名な経済学者のケインズが言った言葉でもあります。投資というのは美人投票なんですよ。だからすごく大切な事は、自分の主観ですよね。この会社がいい会社かどうかを判断することが大事なんだけれども、それが自分の独善的な解釈であれば株価は上がらないです。

要するに、いい会社だと思うと同時に、この会社は多くの人がいい会社だと発見するだろうなということに確信が持てないと、株価は上がらないことになります。

多くの人は、自分の主観で、「いい会社、悪い会社」と言っているんだけれども、そこに他人の目を据える。「多くの日本人や外国人の投資家がこの会社を良いと判断するだろうか?」っていうような観点がないと、いい会社を発見できない。少なくとも株価が上がることにはならないということになります。

だから他者の目を獲得することができるかというのは、非常に重要なことなんです。これはとても難しい話です。なんでかっていうと、自分は自分だから。主観から離れることはできないんですね。

自分を通り越して他所の人の考えていることを知るのは、もとより不可能な話なんです。そうすると私がいつも意識していることは何かということですが、他人の考え方をより知るということが大事なんですね。

TwitterやFacebookでは発信すること以上に読むことが大事

来ていただいている方で私のFacebookか、Twitterをフォローしてくれている方、いっぱいいらっしゃると思うんです。

皆さん、私が発信が多い人だっていうことをみんな知っていると思いますけど、皆さんが思っている以上に、私は読んでるんですよ。たくさんのFacebookやTwitterの人の発言とか文章を読んでいるんですね。だからシェアが多いんです。いろんなシェアが多くて何かおもしろいものが出ているなっていうのは、いっぱい読んでいるからです。

特にTwitterとかだと2万人ぐらいフォローしているんですね。もちろん2万人全部逐一読んでたら仕事する時間がなくなりますが(笑)。2万人全部読むことはないですが、2万人フォローしているので、必ず10分から15分ぐらいザァーって流れて来るツイートをバラバラと読むんです。

特に昨晩から本日というのは、Twitterを読むには素晴らしい環境でした。なぜならば、安保法案が結果的に採決されましたよね。そうするとやっぱりそれが大きな懸案事項なので、多くの人たちがそのことについて書いてます。

大事なのは何かっていうと、もちろん自分にはこうした方が良い、ああした方がいいという意見がありますけど、それは自分の意見じゃないですか。大事なのは、多くの人がどう考えているかっていうことなんですよ。それも、有名人がどう考えているかっていうことだけではなくて、普通の人がどう考えているのかっていうのがすごく大事なんですね。

だから私は有名人のフォローよりも、主婦とか、サラリーマン、おじいさんおばあさんの一般人をめちゃくちゃフォローしてるんですよ。それを読んでます。それで今回イベントに対して、多くの人がどう反応して、どういうふうに書いているのかってザァーって読むんです。それはすごく重要視してます。

TwitterとかFacebookって素晴らしいのは、タダなんですね。タダでサンプリング調査ができるようなものなんです。だからFacebookやTwitterでは、発信すること以上に読むことが大事だなと思っているので、多くの人がどういうことでどういうふうに感じるのかというところをなるべくたくさん読みます。

マーケットはあらゆる人が参加する

正しいか正しくないかじゃないんです。多くの人が、どのように感じているのか。この安保法案に対しては、恐怖だと思っている人が多いんですね。なぜかよくわからないけど恐怖だと思って、恐怖感からいろんな言葉が出ていると思います。もちろん冷静で合理的なことを言っている人もいるし、非合理的な反応もあります。

でもこれがマーケットなんですね。これは正しいか間違っているかじゃないんです。多くの人の感情が集まって、多くの人の意見があって、物事が成立していく。

株価っていうのも、必ずしも賢い人ではない。あらゆる人が参加するんですよ。あらゆる人が参加して株価というものを形成していくわけです。

だからあらゆる人の感覚とか感じ方を、主観を曲げるわけにはいかないんだけれども、なるべく多く感じることができるかっていうのが、僕は結構投資家として、もしくはビジネスマンとしても重要なことではないかなと。

顧客に対して商品を出して行く時に、この商品が一般的にどのように扱われるんだろうかっていうことを、自分の主観だけでなく感じることができるのかをとても気にしています。

だから、いろいろいるんです。帯広で農業をやっている人の35歳くらいの男性のTwitterとか読んでますし、山梨県で最近離婚したシングルマザーの人のツイートとかも読んでます。定点的にいろんな立場、いろんな階層の人のものを読んでいるんですね。

結構有名な原子力処理施設、福島で働いている作業員の方とか、あらゆるものを読んでいます。なるべく自分と環境の違う人のをたくさん読むことによって、マーケットの目を作っていくことになります。

それがおもしろいのは、マーケットは見えざる神の手があると言われます。それで結果的に合理的に動くという話なんですけど。そういうありとあらゆる人、必ずしも優秀とは言えない、もちろん優秀な人もいる、非常に知恵のある人もいる、知恵の回らない人もいる、欲望で目がくらむ人もいるし、抑制されている人もいる。いろんな人が参加して、それで多角形成されるから、結果的に神様になるんですね。

だから、いわゆる知恵が足りない人であったり、思慮が足りない人も、神様の一部なんです。これはすごい大切な視点で、どの人も神様なんですね。なぜかっていうと、最終的にはそういう人が集まると不思議と合理的に、長期的には正しい結論に導き出すというのがマーケットのおもしろいところなんです。

だから風が吹けば桶屋の儲かる世界だったり、イケメンと美女はどこにいるんだとか、そういうところが美人投票の世界観だと思ってください。

その中でカタリストっていう、これは何かというと、株価、業績が変化するポイントがありますので、それを探していくということをしています。

株価と企業価値はイコールではない

株価と価値はイコールではない。企業価値と時価総額という話でね。企業価値が時価総額を下回っている時もあれば、企業価値が時価総額を上回っている時もあります。必ずしも株価と価値はイコールではないと。だから私のような仕事が存在するんですね。おもしろいのは株価というのは2つのメッセージがあるんです。

それは何かと言うと、株価というのは常に正しいというメッセージと、株価は常に間違っているという2つの矛盾したメッセージがあるんです。それはどういうことかというと、株式市場で値段がついている以上は、それは正式な値段です。でも一方で株式市場についている値段が常に正しかったら、僕らは儲けることができないんです。

それは価値よりも高いか、低いかなんです。企業価値とぴったり一致している瞬間はほとんど無いわけです。だから株価は常に間違っているという意見も正しいんですね。

でも、(値段が)ついている以上は、株価は正しいというのも合ってるんです。だからある意味矛盾する2つのものを、1つの株価の中で見ることができるかが投資家としてすごい重要なことなんです。

要は、ついている値段に対してちゃんと敬意を払う。でも一方で、ついている値段というものは、結構間違っていて、割高になっているのか、割安になっているのか、どっちかであるというような目線。株価からその2つのメッセージに読み取ることができるのかっていうのが投資家として非常に重要な観点になります。

だから株価と価値はイコールでは無い。常に株価と価値は変化していることになります。この差が一体何なのかということですね。

「いい企業」は本当に「いい投資先」なのか

「いい企業」は本当に「いい投資先」なのかということですけれども、企業価値と市場の成長性という2つから、時価総額が形成されます。

企業価値というのはビジネスモデルだったり、ガバナンスの在り方というところに企業価値が出てきますし、市場の成長性は競争・競合関係、それから市場ニーズなどで形成されているわけです。こういうものが時価総額、会社の価値として反映されることになります。

実際の株価と想定される時価総額は、必ずしもイコールでは無い。何がそうさせているのかを見ていくことがすごく大事なことです。

その中で時価総額は「利益×PER(株価収益率)」という数字で表すことができます。「利益×人気」ということもできます。会社の価値というのは、利益と一定の人気度で表されるんですね。

利益というのは現実的なもので、数字で表すことができます。PERというのは理想、夢、妄想、思い込み、場合によっては恐怖ですよね。中国でマーケットが下がりました。日本株が下がります。これは合理的なのか。合理的です。なぜならば世界のマーケットと繋がっているから。だから中国の株価が下がって、日本の株価が下がる事は合理的なんです。

でも一方で、この利益がどうなるのかがすごく大事で、中国の株が下がりました、中国の景気が悪化します、それによって打撃を受ける会社がありますね。でも打撃を受けない会社もいっぱいあるわけです。でも短期的には、中国の株が下がることによって日本の企業の株価が下がることは合理的なんです。

でもその利益に傷が付かなかったら、長期的に言うと株が下がったことは合理的ではないですよね。なぜかと言うと、マーケットは繋がっているから短期的な影響を受けるけれども、長期的に見ると中国の株が下がる、もしくは中国の業績や悪くなることによって影響を受けないならば、この会社の株は買いになるわけです。冷静に見ると。

そういうことを判断できるかどうかっていうことが、すごく大事な事ではないかなと思うんです。だから中国のマーケットが下がりました、日本の株が下がりました。このことに対しては怒ることでもなんでもなく、これは世界とマーケットは繋がっているので、まずは受け入れることです。

もちろんそのことに対して残念な気持ちとか、株が下がって資産を失って辛い思いはあるけれども、まずは何が起きているのか、その現実を受け止めて、それを消化することがすごく大切です。

PERの数字に惑わされるな

だから2つに分かれていて、利益と人気。マーケットはこれ(PER)に反映されますね。例えばアメリカで利上げがおきます。株が下がります。これはPERが下がるから。では利下げが行われませんでした。安心しました。これが株価が上がるということなんです。

多くの人がこれ(PER)が気になっています。PERという人気度ですね。でもこれを計ることは難しいです。私の本で繰り返し言っていること過去の本で言っていることは、これに惑わされるなってことを言ってるんです。

日経平均がバブルではないって言っているのは、どういうことなのかというと、この数字を気にするのなということが一番伝えたいメッセージだからです。

最終的にはここの利益の水準がどうなのか、というところを見て投資を行っていきましょうというのが、私の伝えたい本当の話です。

利益はクリアにロジカルに見ること。夢と野望は見ないということです。これに夢と野望が乗っていくことは必ずしも悪いことではないです。

人気企業はPERが高いです。そのことがバブルなのかというと、もともと株は夢とか理想を乗せるものだから、そのことはそのことで合理的なんですね。

「何が起きるのか」という流れを見る

実際に私はどうしているかですが、世界景気、日本とかアメリカとか欧州とかどうなっているかを一応見ます。何が起きそうか? 金融緩和があるか? 消費税の上昇があります、そういうのを見ます。風が吹けば桶屋が儲かるということがありますが、実際に何が起きてどういうことが起きるのかっていうことの流れをきちっと見ましょうと。

それで業種とか銘柄、どの会社にどういう投資をするかっていうことを考えて、実際に組み入れるかどうかを考えるというのが、いつも行っていることになります。

特に重要なのは経営者の「ビジョン」と企業の「ビジネスモデル」の理解になります。先程のワコールの「女性を綺麗にする」というようなことは短期的にいえばあまり効かないです。

今期の業績とか、四半期の業績に「女性を綺麗にする」というビジネスモデルが非常に有効なのかっていうと、たぶんそれほど重要なことではないでしょう。

でも永続企業として3年、5年、10年という目で見ると、そのような考え方を持っているか持っていないか、それを社員全体で共有しているかどうかっていうところが、会社の業績にはかなり大きく影響が出てくると思います。

これはよくある実験で、皆さんどちらが長く見えますか? 皆さん答えを知っていると思いますが、これは両方とも中の線の長さが同じだけれども、下の方が大きく見えるっていうのがありますね。こういうことが起きがちなんですね。

僕らは企業を評価するときに、必ずバイアスをかけて見てしまうということがあります。下の線が長く見えるけれども、上下の線の長さが同じということになります。

だから僕らは、いい企業、いい投資先を見つけるときに、こういう羽の部分に惑わされないことがすごく大切なことなのではないかと思います。

多くの視野、視点を確保することが、投資家として非常に重要

投資は投影法であるということで、これも同じ円柱でも、上から見るのと横から見るのと形が違いますよね。どこから見るかによって形が変わってくるわけです。だから見る角度を変えて形を見ていきます。

先ほど、マーケットはあらゆる人が参加していると言いました。あらゆる人が参加して、なぜ正しいことがやれるのかというと、ひねくれた人がいるけど、ひねくれた人がひねくれた角度で見てくれたら、それは1つの見方なので、あらゆる人が見ることによって、価格はより正しい円柱の形に見えるってことですよね。

だから多くの視野、視点を確保することが、投資家として非常に重要なポイントではないかと思います。見るアングルによって見え方が異なるということです。

だから常に疑うことが大事ですね。自分の見え方が合っているかどうか? 自分の見え方が正しいかどうか? これを常に疑うことがとても重要なことだと思います。

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