「楽天金融カンファレンス」立ち上げの経緯

関口和一氏(以下、関口):三木谷さんはこういった公式な場において、日本語を話さないということですので、このセッションは英語でやらせていただきたいと思います。こうしてアメリカと日本の若い起業家であるお2人と参加でき、とても嬉しく思います。

それでは金融技術の話だけではなく、「どうすればもっと日本、あるいは他の国で起業ができるのか」ということについてもお話したいと思います。まず三木谷さんに伺いたいのですが、なぜこのような新しいカンファレンスを始めようと思ったのですか? まずそれをお願いできますでしょうか?

三木谷浩史氏(以下、三木谷):聞こえますでしょうか? その前に、今日1つ悩んだのは、ネクタイをしてくるかどうかだったんです(笑)。

インターネットカンファレンスではこういうネクタイをしませんので、―きっとピーター氏もネクタイしませんよね?―今日はファイナンスだけどテクノロジーでもあるし、どっちだろうと思って。結局ピーター氏がネクタイをするということで、私もしてきました。

ピーター・ティール氏(以下、ピーター):こちらも同じですよ。

三木谷:楽天はeコマースのサービスを1997年からやっておりまして、それこそこのサービスを最初に始めた企業の1社だと思っております。トランザクションと金融サービスをマッチングした、初期の企業だと思っております。

時がたち、その中でファイナンシャルテクノロジーや、ファイナンシャルビジネスの大きな機会が、このインターネット上にあるということを確信しました。そしてオンライン取引はそこで終わったりはせず、オフラインの取引にも繋がっていきます。

そして決済の機会があり、持っているビッグデータを活用して様々な金融サービスができるのではないかと考えました。また同時に、日本は素晴らしい銀行制度、そして金融業界を持っています。

とは言ったものの、我々の責任のもと情報提供というのはちょっと違うかもしれませんけれども、他の世界ではファイナンシャルテクノロジーとファイナンシャルビジネスを、どのようにマッチングしているのかを共有する責任があると思ったんです。

関口:ありがとうございます。大変興味深いですね。と言うのも、初めて三木谷さんにお会いしたのは97年ですね。ちょうどこの会社を起ち上げた直後だったと思うんですけれども。お会いした理由は、サイバーキャッシュのCEOの方とお会いするインタビューでした。

三木谷:それがきっかけでしたよね。

関口:もうそこは破綻していますけれども、インターネットの初期の頃の決済会社です。三木谷さんが「楽天市場」という名前の会社を立ち上げられて、それこそサイバーキャッシュの事業の1社でお会いしたわけですよね。ですので、それを思い出していたんですけれども。

起業家ピーター・ティール氏の自己紹介

関口:そしてピーターさん。ピーターさんから自己紹介をしていただけますか? ショーンさんの方から簡単に紹介はありましたけれども、なぜここにいらっしゃるのか? これまでどんなことをしていらしたのか? それをご説明いただけますでしょうか。

ピーター:私は起業家であり、投資家でもあります。そして1998年、PayPalの共同創業者になったわけです。2002年にeBayに買収されまして、以降はベンチャーキャピタル、投資をしてきました。

Facebookやその他シリコンバレーの会社に対しても投資をしてきましたので、若い起業家に対して指導をしたり、いろいろな人たちと仕事をすることを楽しんでおります。また、2012年にはスタンフォード大学で教鞭をとり、様々なビジネスや起業について教えてまいりました。

また、昨年の秋に『ZERO to ONE』という著書を出版しました。米国でも日本でも出ています。アジアで何週間か時間をかけまして、そのプロモーションをいたしました。その中でいろいろな方にお会いして―三木谷さんもそのうちの1人だったわけですけれども―インターネットの話もさせていただきました。こうしてまた戻ってきて、日本がどんな様子なのかを見に来たわけです。

関口:日本でも大変売れている本だと伺っております。本につきましてはあとでお話したいと思いまが、まず今日のカンファレンスというのはファイナンシャルテクノロジー、金融系の技術について話をする会議なんですけれども、そこの話から始めたいと思います。

IT×金融サービスの課題は、規制の壁を越えること

関口:楽天は様々なサービスを始めていますけれども、SquareやUber、それからeBayなどこういったところ、シリコンバレーやサンフランシスコの企業が、新しいビジネスを決済のスキームで始めているわけです。

私もサンフランシスコのSquareを訪ねたことがあります。これが新しいトレンドで、世界を変えつつあるということを学びました。破壊的で革新的な技術が、いわゆる昔からある環境に対して変化をもたらしているということだったと思うんですけれども。

まずはピーターさんから、この新しいトレンドをどう見ているのか。ファイナンシャルテクノロジーについてお知らせいただけますか?

ピーター:恐らく大きなポテンシャルをはらんだトレンドだと思います。金融とコンピューターが自然に重なるところ、すなわちビットコインであったりとか情報であったりとかですね。お金というのも実は仮想の産物です。ですので、インターネットやITビジネスが金融テクノロジー周りで進展していくというのは、自然な展開だと思います。

これは多くのことができる分野だと思います。ただ課題としては、他の人たちがまだ行っていないことを見つけるということだと思います。ユニークな会社を作って、他者から真似されないような会社を作る必要があるでしょう。

特にファイナンシャルテクノロジーに関する課題としては、やはり規制の強い環境ですから、例えば「規制の壁を超えられるのか?」ということを考えなくてはいけないというのが、インターネットの、他のセクターとは異なるところだと思います。

モバイルプラットフォームの整備によって開けた可能性

関口:ピーターさんは17年前に会社を起ち上げていらっしゃるんですが、その時と比較して何か変わったことはありますか? 今のファイナンシャルテクノロジーに照らしてみると、どうでしょうか?

ピーター:もちろんプラットフォームが変わりました。それにPayPalを開始した1998年、あるいは1999年初頭において、最初のモバイルバンキング、モバイル決済の会社になろうとしていました。

最初にノキアベンチャーというところが1999年の6月に投資をしてくれました。その1カ月後にボードミーティングを行ったんですが、その時は「まだモバイルインターネットは遠い未来のものだ」と。「まだモバイル決済の企業は作れない」と言われまして、通常のオンライン決済の会社ということになったんです。

すなわちeメールベースでした。携帯電話ではなかったんです。ただ10年後くらいになると、今度はモバイルプラットフォームができていました。それによって多くの道が開けたのです。これは90年代後半にはなかったものです。

近い将来、通貨は再定義される

関口:ファイナンシャルテクノロジーに関して、三木谷さんはどう考えていらっしゃるんですか?

三木谷:うちの父はエコノミストだったんです。通貨の定義を考えると、通貨というのは平等かつ測定可能で、交換可能でなくてはいけないと。私たちは、いわゆるクレイジーな起業家だったと思います。合法的に通貨を発行することができる機関は限られているけれども、それをデジタルで発行する、唯一の企業になったらどうだろうと。

eマネーとしての楽天、eBay、Edy、ビットコイン。こうしたものが可能性としては、未来に向けて主要な通貨になっていけるのではないかと考えました。スケールとしては小さいかもしれませんが、インパクトはとても大きいのではないでしょうか?

通貨、それからビジネスモデルというのは、金融業界において、恐らく再定義されていくというのが、近未来の姿なのではないかと思います。

すでに上質なものから完璧を目指すことの難しさ

三木谷:ピーターさんみたいに、どこの国がメリットを持つのか、どこで1番最初に起こるのかなんていうふうに考えると、日本は恐らく妥当なレベルの、既存のプラットフォームインフラを持っているはずです。

ただ新興諸国が、ゼロからそのプラットフォームを構築しているわけで、そこにはもっとオープンなコンセプトが入り込む余地があるように思います。例えばPayPalもそうだと思うんですが、恐らく日本では少々苦労されているのではないでしょうか? あるいはそういう時期があったと思います。

なぜならインターネットバンキングの送金サービスというのが、もう既にインターネット上において、かなりのレベルでできてしまっていたからです。ただこれは、国内に限られます。

そこでひょっとすると、決済企業として十分に大きなアドバンテージを持っているところは、ないのかもしれないとも思われるんです。ピーターさんにお聞きしたいんですが、この成熟した国における成熟したプレーヤーのほうが、メリットが大きいのか? あるいは新興市場におけるプレーヤーのほうが、アドバンテージが大きいのか? いかがでしょうか?

ピーター:それは重要な質問だと思います。多くのテクノロジーのビジネスにおいて、「良いもの、そしてとても良いものというのは、完璧の敵である」という言い方があるんです。ですから、パーフェクトなものを見つけるというのは非常に難しいわけです。

システムの持っている感性を変えることなく、消費者が新しい製品を購入したり、企業が採用したりということは可能だと思います。歴史的に特定の道を早い段階で決めてしまうと、新しい道に進みにくくなってしまうというきらいが、どうしてもあります。

それほど絶対ではないにしても、システムのどこかの部分が十分に悪いので、そこでイノベーションが生まれる余地というのは、どこまで進んでもあるというふうに思います。ただ過去のイノベーションを見ると、今の段階で上手くいっていないので大きく変えようとか、あるいはちょっとだけ変えようということで、そういう要素がないとなかなか採用は進まないと思います。