セキュリティと利便性のトレードオフを打ち破った国産技術

田口善一氏:ZenmuTech代表取締役社長CEOの田口です。本日はよろしくお願いします。

スライドは少し前の記事広告です。初代デジタル大臣で、現在は自民党デジタル社会推進本部長の平井先生との対談記事です。

セキュリティは「守る」が鉄則ですが、当社は真逆の「守らない」セキュリティといわれるプロダクトを開発・販売しており、セキュリティと利便性のトレードオフを打ち破りました。

これは秘密分散という国産テクノロジーが元で、現在は多種多様な業界に対して数々のオープンイノベーションを起こしており、日本では初めてともいえるエポックメイキングなビジネス展開をしています。

本日は、その事業内容をご説明し、最後にはワクワク感を味わっていただきたいと思いますので、楽しみにしていてください。よろしくお願いします。

INDEX

本日のアジェンダです。会社概要、当社の強み、成長戦略の順にお話しします。

会社概要

会社概要です。今期で11周年を迎えました。従業員は、常勤役員を入れて43名になりました。秘密分散・秘密計算の2つのテクノロジーを活用し、3つの軸でソリューションを展開しています。

第1軸は、情報漏洩対策ソリューションです。データを無意味化することによるPC等のエンドポイントセキュリティになります。

第2軸は、秘密分散テクノロジーの特許を他メーカーにキット化、エンジン化した上でOEM提供するという秘密分散ソリューションです。ここが現在おもしろいところです。

第3軸は、秘密分散の応用で、データを暗号化したまま計算する秘密計算ソリューションです。

第2軸、第3軸は中長期的なビジネスであり、日本のIT業界では、これからのユニークなビジネスの先駆けともいえると思います。

会社概要:業績ハイライト

売上と利益の実績です。前期の着地は売上で6.5億円弱、営業利益で7,600万円です。約80パーセントの収益が第1軸の情報漏洩対策ソリューションで、安定した収益となっています。

マネタイズの基本はサブスクリプションですが、当社はヘッドクォーターであり、基本的に仕入れはありません。社会情勢・お客さまのご要望に応じ、いろいろなかたちでご提案することは可能です。

会社概要:企業プロフィール

当社の株主は、ユニークで多種多様です。純粋なVCは1割強で、3割弱は事業会社(CVC)が占めていました。

トピックとしては、国立研究機関の産業技術総合研究所(以下、産総研)が、子会社の株式会社AIST Solutionsを通じて、初めてスタートアップにご出資いただいています。また、株主として共同通信社、矢野経済研究所等が入っています。さらに、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーが入っています。

なぜ当社なのかという根幹となる、今までとは真逆の「守らない」セキュリティの秘密分散テクノロジーについて、次のスライドでご説明します。

社会課題を解決するコア技術 秘密分散技術

今まで、情報は暗号化した上で、パスワードに変えて守っていました。

そのパスワードを管理しているのが、不確実性の高い「人間」です。すなわち、忘れる・使い回す・教える・盗まれる等、人間にリスクがあるのが今までの情報漏洩対策でした。

まして、いつ解かれるかわからないため、暗号化された情報も盗難・紛失されないように守っていたのが、今までのセキュリティです。

社会課題を解決するコア技術 秘密分散技術

当社のテクノロジーの秘密分散では、暗号化した上で分散して管理します。

パスワードだけでなく暗号化した情報そのものを、例えばシュレッダーをかけた上で複数に分散します。これを分散片といい、分散した片をすべて集めないと複合されません。結果として、パスワードも不要になります。

これによって、各々の分散片は盗難・紛失しても問題ありません。分散片がすべて集まらないと復元できないため、今までの真逆となる「守らない」セキュリティともいえます。

さらに、ユーザーには分散されていることを意識させないよう、UI・UXを工夫しています。この時点では、「意識させない」セキュリティともいえます。

以上のことから、セキュリティと利便性のトレードオフを解消した新たなセキュリティができました。

会社概要:沿革

「セキュリティを意識させないで済む世の中にしたい」と始めた事業ですが、想定外に大変でした。

新しいテクノロジーゆえに独自性・優位性はあるのですが、実績もなく、信用・信頼もなく、将来性も不透明なテクノロジー企業へのプロダクトへの転換で、まして「守る」から「守らない」セキュリティへの転換です。

いわゆる既存のセキュリティを破壊するディスラプト・テクノロジーであり、多くの抵抗・反発があり、いくつもの土壇場・修羅場・正念場をかいくぐってきた次第です。

それが産総研をはじめとする学術界の支援を皮切りに、ファーストペンギンである企業や、国の機関等も含め、産官学のご支援をいただき、導入企業数も増え、販売パートナーのグレードも上がりました。

また、テクノロジーが新製品の素材・部品としての活用へ、OEM提供のかたちで始まりました。コロナ禍というパンデミックが起きたのも、新しいテクノロジーの需要に大きく影響したと実感しています。

データはもっと自由になれる

このテクノロジーでみなさまにご提供したい価値は、「データはもっと自由になれる」ということです。これが、当社のタグラインになります。

秘密分散でのソリューションの1つはセキュリティですが、他にも多数あります。秘密分散を発展させた秘密計算も含め、この2つのテクノロジーは、データを無意味化することにより、安心・安全からオープンイノベーションを多種多様に生み出していきます。

社会課題の解決 テクノロジーを用いてデータと企業や人の活動をセキュリティ上の制約から解放する

当社のテクノロジーがどのような課題を解決するのかについてご説明します。暗号化の課題については、スライド左側の図のとおり、人間にリスクがあります。

また、データの利活用については、スライド右側の図のとおり、情報管理の安全性のガバナンスはもちろん、利用する際は暗号を解かないといけません。

したがって、限られた人・限られた場所と、人的・物理的にも相当なハードルがあり、手間もコストもかかります。

暗号化技術に代わるテクノロジーでセキュリティのパラダイムシフトを実現

このような課題は、当社のテクノロジーだからこそ解決できます。データの無意味化によってすべて解決しています。

データの保存時・転送時・利活用時において、分散された各々のデータは、守らなくてはならないデータから守らなくてもいいデータとなり、それらの課題が解決できます。

利活用時も無意味化された状態で利活用でき、人的・物理的リスクからも解放されます。これからのDXの時代には欠かせないテクノロジーになると確信しています。

秘密分散という真逆のセキュリティについてご説明しましたが、次からは3つの軸ごとにポテンシャルを含めてご説明します。

情報漏洩対策ソリューション 「ZENMU Virtual Drive」(ZVD) 概要

第1軸は、安定したビジネスとなったPCの情報漏洩対策ソリューションです。大企業、特に金融機関では多く使われている、仮想化のVBAからの乗り換え案件です。また、仮想化と同時に使うコラボレーションでの使用が増えており、安定した収入となっています。

データ自体を暗号化した上で、PCとクラウド、PCとスマホ等に分散管理しているため、PCのデータの安全性はいうまでもなく、ネットワークへの依存が低くなります。利用者には分散管理を意識させないようUI・UXを工夫しており、高い利便性と快適な操作環境を実現します。しかも管理が簡単で、低コストになっています。

すなわち、経営にとっても管理するIT部門にとっても、使用するエンドユーザーにとっても、三方良しのソリューションになりました。

また、新しいテクノロジーによるセキュリティとして十分な導入検証を尽くして採用されることから、ご契約いただいた企業のうち、解約に至ったケースは0.5パーセントです。高い顧客満足度を示しています。

なお、サーバー上のデータを分散管理することで、特定のデータセンターが攻撃されても分散された断片データが失われ、情報が一括して漏洩することはなく、マルウェアへのリスクを大幅に低減します。

プロダクトポジショニング①

PC製品の競合についてです。競合は存在しますが、当社は独自の秘密分散技術と特許を核としたアーキテクチャを採用しており、「秘密分散」領域において競合するサービスは存在していません。

機能面・管理面・利便性の面からも、競合に比較して明らかに差別化はできており、優位性もあると思っています。

大手企業 導入事例

事例として、導入企業の1社をご紹介します。会計監査業務、税務業務、コンサルティング業務、M&A業務等を担うBIG4のデロイト トーマツ グループです。現在、2万強のライセンスが稼働中です。

コスト削減・操作性・生産性の課題を解決し、ユーザーアンケートでは実に9割が高評価を獲得しています。この実績は他方面、グローバルにも大きく影響し始めています。

また、導入中の多くの大企業のエンドユーザーからも、「飲み会等にPCを会社に置いていかなければならなかったが今では安心して持ち出せるようになった」との声をいただいています。

ZENMU Virtual Driveの優位性と成長性

PC版のポテンシャルです。当社のソリューションの乗り換えが進んでいるVDIユーザーは、800万人以上もいます。導入実績数で見ても、我々はまだ10万ライセンスです。

この市場を取りにいくために、VDIの乗り換えだけではなく、VDIを使わなければならない導入企業さま向けにも、ほぼ同機能の製品を70パーセント以上値下げした「ZLE(ZENMU Virtual Drive Limited Edition)」という製品を2月に発表しました。

追加で導入していただくために値段を極端に安くしたため、VDIを使い続けたいユーザーをお持ちのパートナー企業にも、追加で販売できると喜ばれています。このように、まずは面を取りにいく戦術です。

また、タイミング的にも、今年10月には「Windows10」の公式サポート終了が決定しており、入れ替え時期に当たるため、そこもチャンスだと考えています。

秘密分散ソフトウェア開発キット「ZENMU Engine」 概要

第2軸は、複数の特許を取得していることから、秘密分散テクノロジーを他メーカーにOEM提供している秘密分散ソリューションの「ZENMU Engine」です。

このエンジンを、例えば暗号化に代わる各分野のメーカー製品に組み込むことで、コスト面に加えて利便性も大幅に向上した、差別化できる製品が完成します。また、実行ファイルを分散することで認証にも使えるため、その応用範囲は非常に多岐にわたります。

例えば、車のエンジンキーの実行ファイルを分散して、自分のスマホに入れます。ここで自分のスマホが車内になければ、エンジンがかからないようにすることも可能です。今、車の盗難が増えていますが、そのような被害を防ぐことも期待できます。

ただし、ここでも既存の利権が多く存在し、サプライヤー等の抵抗勢力も存在していますが、お客さまにとっては良いことずくめであり、そこをひっくり返していくのが非常に楽しみです。

「ZENMU Engine」 適用領域の市場規模

スライドにある車載分野ではPoCを実行中であり、防犯カメラ分野では画像データにおけるプライバシーに関するニーズが大きくなっています。

ドローン分野でも、遠隔点検・防衛用などの用途が期待されています。その一方で墜落時の内部データの保護は必要であり、複数メーカーから問い合わせがきています。実証実験も始まっています。

また、コンシューマーへの展開を目指し、誰もが知るグローバル企業と複数社交渉中であり、今後が非常に楽しみです。

以前、「インテル入ってる?」というCMがありましたが、同様に「ZENMU入っている?」という世界を、グローバルに広げていきたいと思っています。「ZENMU」が入っていれば、セキュリティを意識しなくてもよい世界を目指します。

秘密計算:情報を秘密に(暗号化)したまま計算をする技術

第3軸は、秘密計算ソリューション「QueryAhead」です。これまではデータを利活用する際、データを送る時と保管する時は暗号化で守られていましたが、計算する時には暗号を解かなければなりませんでした。

この秘密計算は、暗号化したまま計算するテクノロジーになります。

秘密計算:秘密分散ベースのMulti Party Computation(MPC)

当社の秘密計算は、情報を2つに分けて別々のノードにした上で、その間を計算します。

このノード間をインターネットで経由でき、一片をA社、もう一片をB社に分けておけば、この2社が結託しないかぎりデータを復号することができないため、データ提供者側も安心して提供できます。

計算した結果も秘密分散して返すため、どこかの経路で分散片が漏洩したとしても、無意味化されているため問題はありません。

秘密計算「QueryAhead」適用領域

このテクノロジーの可能性を広く伝えるために、多様な応用例を作っていきたいと考えています。例えば、「ChatGPT」が出た時に「どのように使うのだろうか?」となったと思いますが、今まさにそのような状況です。そのため、いろいろな分野で応用例を示していきたいと思っています。

まず、金融分野では、各行のデータの共同利用で不正防止を進めます。不動産分野では、各不動産情報を伏せたままのマッチングへの利用を期待しています。材料開発分野では、各社の個別データを秘匿したままデータ連携を行い、精度の向上や開発期間の短縮、コスト削減につなげるなど、応用範囲は多岐にわたります。

製造・物流分野においてはサプライチェーンの最適化、医療分野においてはスライドに記載のような取り組みに期待しています。

データ利活用におけるトランスフォーメーション

スライドでは、これらの3軸について、あらためて事業展開の実績と将来展開を、木をイメージしたグラフィックスにてご紹介します。

我々のテクノロジーの根は、秘密分散テクノロジーです。1軸目として、まずは自社製品であるローカルデータ保護製品、PC版の「ZPC」「ZVD/ZEE」や、サーバーのセキュリティ製品を、充実させていきたいと思っています。

データ利活用におけるトランスフォーメーション

2軸目が、秘密分散テクノロジーのOEM提供です。現在は専属組織を立ち上げて力を入れています。

データ保護では、PCメーカーやスマホメーカー、IoTデバイス等への搭載、また各メーカー製品とのコラボ製品やブロックチェーンへの素材・部品の搭載を行っています。

また、認証においても、車載や家電メーカー等との打ち合わせを開始しています。実績としては、スライド右側に示すとおり、富士通のFMVパソコンをはじめ、日立製作所や日立システムズなど現在約10社に採用されています。現在はグローバル企業を含め、20社以上と打ち合わせを重ねています。

データ利活用におけるトランスフォーメーション

3軸目は長期的な事業になります。秘匿マッチングや秘匿サプライチェーンの最適化、秘匿データ分析等、今までは考えられなかった手法で事例を探索し、実証中です。

早々に日本の産業界の底上げになるよう、エポックメイキングなニュースを発信していけると思います。ぜひご期待ください。

また、スライド右上に太陽を描いていますが、秘密分散テクノロジー・秘密計算テクノロジーは、2018年より産総研とのコラボレーションで進化し続けています。まさに国産の新テクノロジーが、産業界のエコシステムとして回り始めたところです。

2025年12月期 業績予想

成長戦略です。まず今期の数字についてご説明します。

昨年と比べて、IPOを機に市場での信用度・将来性・認知度が上がることもあり、売上高は前期比31パーセント増の8.5億円、営業利益は前期比47パーセント増、経常利益は前期比71パーセント増を見込んでいます。さらに当期純利益は倍以上となる予定です。

現在2軸・3軸の数字はこの中にはほとんど入っていません。1軸が主体の堅めの数字となっています。

3軸の成長戦略

中長期の成長戦略です。3軸それぞれの目的・課題・ソリューションが異なるため、対象となるターゲット顧客が違います。

1軸目はCIO、CISOであり、2軸目は新しい商品を開発するCMO、CTOになります。そして3軸目は経営層になります。それぞれ戦略と施策を考えていかなければなりません。

しかもアクセルは、スタートアップゆえに同時並行で踏んでいます。アクセルを踏みながらブレーキも踏んでいきます。ここしばらくは「ZENMU入っている?」という世界を作る経営に力を入れていきます。

なお今年1月からは、日本のセキュリティ企業を複数集めた「トラストセキュリティコンソーシアム」の発起人としても活動しており、関係省庁からもかなりの注目を集めています。6兆円に迫る日本のIT貿易赤字解消のためにもお役に立てると確信しており、こちらも楽しみです。

事業拡大の経緯と中長期成長イメージ

中長期的な成長イメージです。スライドのグラフのように、3軸のテクノロジーゆえの成長曲線となっています。

IPOを機に、1軸がディスラプト・テクノロジーの実績・信用・将来性の訴求により、羽ばたく自由を得た鳥のように飛躍的な伸びが期待できます。現在の売上高を数百億円にするロジックもすでにできており、あとは実行するまでです。

2軸も、グローバル企業に部品として採用されるだけでかなりの売上が期待されます。数百億円に達した際には、営業利益も6割、7割とテクノロジー会社ゆえの経営体質になっています。

なお、昨年は、東京都からはユニコーンを輩出する「ディープ・エコシステム」にも採択され、グローバルに向けても躍進中です。

海外事業展開に向けた取り組み

グローバル展開については、経済産業省や産総研、グローバル企業を含めてご支援いただいています。

昨年度はシリコンバレー・シンガポール・台湾等にイベント出展し、3軸それぞれにおいてアライアンスおよびパートナーを探索、構築中です。

データはもっと自由になれる

最後にあらためてお伝えしたいのが、当社のテクノロジーの提供価値である「データはもっと自由になれる」です。

「秘密分散」のソリューションで、セキュリティだけではなく、実行ファイルを分散することによる認証など、その応用もさまざまに考えられます。

秘密計算も、まずは国のプロジェクト等で応用ケースを数多く示し、ビジネスへの活用を提案していきたいと思います。そして、将来的にはBtoBだけではなく、世界中の数億人がターゲットになるような、BtoBtoCでの採用につながる案件も推進中です。

ひいては日本のIT業界の発展に寄与し、日本のIT貿易赤字解消にもお役に立てるようがんばりたいと考えており、日々ワクワク、ドキドキしています。みなさまにも、このワクワク感を共有いただけたら幸いです。本日は誠にありがとうございました。