円高が進んでいる理由
司会者:今日はやはりドル円、為替に関するご質問がかなり来ていると見受けられました。私からも為替について聞きたいなと思っています。今日は、ドル安が進み、円相場がおよそ7カ月ぶりに一時1ドル140円台まで進みました。
もちろんこの「Monday Night Live」でも、円高が進んでいるという話はしましたし、前々からアメリカがドル高の是正をしてくるんじゃないか、トランプ大統領がいろいろ言ってくるんじゃないかという思惑はありました。今日また円高が進んだ背景について、おうかがいできますか?
広木隆氏(以下、広木):今日140円台になった理由は2つあります。1つは円安の是正が求められるんじゃないかということです。
今、調整中とは言っていますが、24日に日米の財務相会談があります。加藤財務大臣が、そこでベッセント財務長官と会うんです。前回の赤沢氏(赤澤亮正氏)が行った時には「為替の話は出なかった」とされていますが、実際には話題に出すのを避けるよう要請されたとも言われています。結局為替の話は財務大臣とやってくれということで、今度は加藤さんが行くので、そこではやるのだと思います。
結論から言うと、私はアメリカがこのタイミングで円安是正を突きつけてくることはないと思います。今、そういうことばかりが言われていて、それを見込んで円高に来ていますが、それはないと思います。全部わからないのでこんなこと言ってもしょうがないのですが、私はないと思っています。
なぜかというと、今日円高が進んだ2つ目の理由があるからです。トランプ政権がFRBのパウエル議長の解任を画策しているという話があります。もしそうだとすれば、金融市場が混乱し、ドル不信でなおさら売られるという連想から、ドル安円高に進んだというのが2つ目の理由なんです。
トランプ政権が「利下げしろ、利下げしろ」と圧力をかけているのに対し、パウエル氏は「インフレへの懸念がある」として、慎重なスタンスを崩していません。この姿勢に政権側は不満を抱いているわけです。もし仮にパウエル氏が解任され、後任が指名されるような事態になれば、FRBの運営方針自体が利下げ方向に傾くとの見方が強まり、結果としてドル売り・円買いの流れが続いているんです。
こうした状況の中で、仮にアメリカ政府との協議によって円安是正のためにドル安誘導が行われることになれば、ただでさえFRBへの政府介入によって金融市場が混乱し、ドルへの信認が揺らいでいる中ですから、そんな政策が本当に実行可能なのかという疑問が出てきます。
いわゆる悪いドル安みたいなかたちになっちゃうじゃないですか。みんなしょっちゅう、為替操作はいけないと言うでしょう? アメリカの為替報告書というものがあって、日本が為替操作国に認定されるかどうかみたいな緊張感を持っているのですが、そんなことを逆にアメリカ側に言える立場なのか。
プラザ合意の時から思いきり政府が介入してコントロールしてきているので、めちゃくちゃやってきているのはアメリカ側じゃないかという話です。ここでドル安誘導に持っていったら止まらなくなります。
日本時間の4月9日、追加関税が発動された日もトリプル安になりました。この時、米国債が売られて金利が一気に上がり、慌てて90日間の猶予期間を設ける方針が出されたんですね。でも当然、米国債が売られるとドルも急落するので、それが今の状況につながっているというわけです。
アメリカ全部売り、アメリカ不信、トリプル安みたいな状況にすぐなってしまう状況下で、ドル安誘導なんて言ったら、もう止まらなくなりますから。
そもそもトランプ政権の政策は全部経済合理性から矛盾したことばかりやっていて、それはしょうがないと私はずっと言っています。経済合理性で動いておらず、本当に政治的な心情とイデオロギーと自分の政権支持者への公約ということで、政治マターでやっている政権なんです。
経済合理性無視なんです。経済合理性から言ったら、ドル安誘導なんかしたら大変なことになるわけです。いくら経済合理性無視とはいえ、ベッセント氏がいる以上は、いくらなんでもそんな危ないことはやらないと思います。
そもそも今回の関税政策には理論なんてないのですが、一応理論的な支柱とされているのは、アメリカの経済委員長をやっているスティーブン・ミラン氏です。どこの何者かもまったくわからないポッと出の人で、関税の理論や筋書きをやっていて、一応トランプの経済ブレーンとされているのですが、まったくまともな経済学者じゃないんです。
経済学者に聞くと、誰それ? みたいな人です。言っていることもめちゃくちゃです。何度も言いますが、トランプ政策は経済理論に則っておらず、それはしょうがないので置いておくとしても、めちゃくちゃなことを言っているんです。
スティーブン・ミランの論文では関税かけてドル安誘導と言っているのですが、それはどう考えても成り立たないです。シンプルな話、困るのはアメリカの国民です。関税をかけるということは、そのかかった関税が全部アメリカ政府に入るわけで、国民は逆にその関税を課された高いもの買わされるわけです。高いものを買わされて、買う通貨のドルがさらに安くなったら、より高く買わされちゃうわけです。
こんなひどい話はありません。そこでドルが急落して止まらなくなったら、もうお話にならないです。日本だってようやくインフレになってきましたが、エネルギーにしろ、食料品にしろ、海外への依存度が高いので、海外のインフレが日本に波及して、日本もようやくインフレになってきたというだけの話で、そこで今度円安になったら、やはりそのダブルの効果で輸入物価が高くなります。
つまり逆に輸入物価が高くなって購買力が落ちている。それで国民の不満がどんと出て、日銀はなんとかしろという話になっているわけじゃないですか。それと同じことがアメリカでも起きるわけです。
関税でも自動的に物価が高くなるので、諸々の影響でさらにインフレがもう1回加速していって通貨安までになったら、国民の不満が爆発するどころの騒ぎじゃなくて、アメリカの経済がガタガタになると思うんです。ドルの信用が落ちます。
ベッセント財務長官としては、「強いドルはアメリカの国益にかなう」と本音では言いたいのでしょうが、まだ慎重になっていて、そこまでは言い切れていないのだと思います。そうした中で、ドル安誘導に動く可能性はもはやほとんどないと見ています。加藤財務大臣との会談でも、その方向にはならないでしょう。
だとすると、本当はドル安だけど、円高で日本株が売られているという局面は、短期的には買いだと思うんです。つまり24日の財務相会談でその話が出なかったとなると、週末ギリギリで戻す可能性があるので、短期目線で見れば円高で突っ込んだところは買いだと思います。
為替の適正について
司会者:皆さんから来ている質問をまとめると、どれくらいまで円高が進みそうなのかという点と、結局こうやって円高が進むと日本株東京市場にはどれくらい影響があるのかという、この2点だと思います。
例えば「140円台が定着し、さらに130円台になるかもしれませんが、どのくらいが広木さんは適正だと思いますか」「今回この円高が進行すると日本株は怒涛の売りを食らうことになるんでしょうか」「円高と関税で企業の今年度の見込み相当下振れしそうです。実際はそれほどでもないと確認するまで株価は上がらないと考えておくべきなんでしょうか」など質問が来てます。
広木さん、ドル円は、本来どれくらいが適正だと今見ていますか?
広木:為替の適正というのはないんです。為替レートは、その場その場で、直前の諸要因から判断するしかなくて、今で言うと、やはり130円台もあり得ると思います。
ただ、人間は忘れっぽい動物です。120円なんてついこの間ですよね。要はコロナ禍の後も120ぐらいからガーンと安く進んでいったので、その時に戻るだけなんです。
120円台に行った時に株が上がらなかったかというと、ぜんぜんそんなことはなくて、企業業績は120円でもやってきているんですね。そもそも日本の企業はもうずっと円高に苦しめられてきたので、130円だろうが120円だろうが、実はそれほど深刻な話じゃないんです。
ただ、やはり円高イコール株売りという刷り込まれている条件反射的なものとか、プログラム売りとか、いろいろなのがあって、円高は日本株にとってネガティブな要因であるということはイエスなのですが、企業業績をボロボロにするから日本株売りですというわけではないんです。
単純に円高だから日本株ダメという図式になっているからダメというだけであって、過去にも何度も言っていますが、円高で企業業績が赤字になるのは50/50ですよね。その他の要因があって円高の時に経営業績が膨らまなかったこともあれば、円高でも増益を保った時もあります。
企業の業績は為替レートだけじゃないので、結局、増益や赤字が、前の期と比べてどうですかという話なんです。いろいろな要因で決まってくるので、適正な為替レートはいくらというのはないんです。
購買力平価とかいろいろありますが、インフレ率に何を使うかによっては、それだって本当にバラバラなんです。なので、前の数値の参照ポイントからのことを考えなきゃいけないんです。140円を真ん中にして、上は160円、下は120円。
その20円幅が、大きいレンジとして考えられる目処で、イメージとして置いておくところなんじゃないかなと思います。直近に比べれば140円台はぐっと円高に見えますが、140円が真ん中だと思っていれば、ある意味、2023年という中期的なレンジで見た時に真ん中かなということでいいんじゃないかなと思います。
そう考えると、それだけで日本株のファンダメンタルズがそれほど悪化するということではないとは思います。むしろそれ以外の要素が大きいんです。円高は株安なんです。それはそのとおりなのですが、円高で企業業績がもうダメになって株安だということではないんです。
業績予想「未定」にどう向き合う?
佐々木:他の方からは「もはや業績予想を未定にするリスクも浮上しているようだ」というコメントが来ています。「こういう企業が出てくると、やはりこれもまた株価の上値を抑えられる要因になるんでしょうか」と来ていますね。
広木:そうなんです。それも本当のこと言えばおかしな話です。でもしょうがないよねという話で、企業側が発表してくるガイダンスを手がかりに、どのぐらいの利益が見込めるのかを投資家が判断していく時に、企業が今年度の見込みが出せませんと言ってしまうと、もう手がかりがないんだから評価の仕様がないよ、じゃあいったん手を引こうと思う人たちがやはり増えるのは仕方ないし、実際コロナ禍の時はそういうことが続出したわけです。
ただ、あえて言えば、企業の多くがガイダンスを未定としたのは、3月決算のタイミングでは見通しを出しにくかったからです。そこで、発表を後回しにする企業が相次ぎました。当時、プライム市場の約7割の企業がそうした対応を取っていた状況でした。
それで、実際株価が重くなったわけですが、ただそれが原因だったかどうか、その因果関係はわからないんです。
単純にコロナ禍という、未曾有の状況に直面していたわけで、それだって当然センチメントになるわけじゃないですか。だから、実際企業が出さなかったからどうだというのは、明確には因果関係がないんです。
今回も、トランプ関税の影響が読み切れないからと未定にする企業が続出するかもしれません。それで、株価が重くなったとしても、実際どういう直接的な影響関係があるかはわからないんです。
そもそも、アメリカの政策自体が世界経済にとってあまりにもネガティブな影響を及ぼしているため、「業績見通しは未定です」の一言で済ませてしまうケースもあるんです。日本企業の業績が読みづらくなっているのも、そうした要因の一部にすぎないのかもしれません。ですから、今回はそれほど深刻に受け止める必要はないのではないかと思います。 だいたい企業側が出してきたことを鵜呑みにするというのは、その段階で思考が停止しています。企業は保守的な見通しを出すけれども、実際はそうじゃないよねと言われるところに、アナリストやファンドマネージャーや投資家のスキルがあるわけで、企業業績向上だ、安定だと出されて、それを鵜呑みにして、はい、じゃあ買いますだったら、アナリストの役割って何なのという話です。
企業が出さなかったとしても、周りの環境から独自の判断で利益予想をするのがアナリストの力だと私は思うんです。だとすれば、投資家はそういうマーケットや業界などを頼りにすればいいわけで、何も企業側がガイダンスを出さないから何にも手がかりがありませんと言ったら、それは思考停止です。
ビットコインの展望
佐々木:為替以外の質問も来ているので、残りのお時間取り上げられたらと思ってます。
「ビットコインについて、ここ最近は株式相場と連動してるようにも見えますが、展望、見方をうかがえますか」という質問です。
広木:結局、リスクオフかリスクオンかというのが今すごく市場を左右しているんですね。
トランプがやっている政策があまりにも不確実なので、みんなとりあえずリスク性のものから手を引くか、あるいはほっとしてまた戻るかという、リスクオン、リスクオフの振子が揺れているんです。その中でやはり代表的なリスキーなアセットクラスとして暗号資産は捉えらているから、もうリスクオフだとなれば売られちゃうわけです。
一方でこの場面の中で買われているのが何かというと金(ゴールド)じゃないですか。安全資産だということで、みんな金に逃げているんです。米国債やドルでさえ、もはや買えない。結局金を買うというのは、いわゆる無国籍なアセットで、どこの国にも属していないというところが最大のキーワードになっているんだと思います。
国際情勢に無縁で、カントリーリスクが何もない安全資産だという認識があるので、みんなゴールドに逃げ込んでいる。それで言えば、デジタルゴールドであるビットコインは本来はまったく同じなんですよ。
無国籍という特徴から最終的にはビットコインはまたいい投資先になると僕は思います。ただ今は、リスクオフディスカウントが強いので、リスキーなビットコインにはなかなか行かず金に行っているという状況ですね。
アメリカでの規制緩和の動きで、機関投資家がもうだいぶ入ってきていることを考えると、今はこんな状況ですが、もう少し落ち着いてくると、やはり金と同じロジックでビットコインにお金が流れてくると思います。
上場廃止の株はどうなる?
佐々木:「東証の上場維持基準を満たさない銘柄が上場廃止になった場合、その株を持っていたらどうなるんでしょうか」という質問です。最近、時価総額低い株が上場廃止になるんじゃないかという話も出ていますけれども。
広木:要はこれまでだってだいたいが猶予期間だったわけでしょ? 猶予期間がいよいよ終わったら、上場廃止になるんですかというと、そこじゃないんだよね。 2026年の10月だから1年半とかあるわけだよね? 猶予期間のまた猶予期間みたいな、今まで何だったんですかみたいな感じですが。
それで本当にダメだったら上場廃止という話ですよね。それで上場廃止になる場合、それを持っていたらどうなるんですかという話ですよね。別にどうにもならないです。ただ市場で売れなくなるだけです。
市場で売れないということは、個人投資家であれば換金する術がないということですね。株式投資の哲学的な命題というわけではないと思いますが、いつか利益を確定したいと思うのであれば、その機会を失うということですよね。
そうなると証券としての価値も当然下がるし、上場廃止ということは上場のプレミアムも失っています。ただ、企業が潰れず株式会社で維持されていけば、株式の価値自体はある。
その企業はその後も稼ぎ続けると思うんです。それが内部留保でずっと入っていったら、結局そのエクイティの株式の価値は高まり続けていくわけです。
その企業ががんばってそういうことになっていったとすると、エクイティの価値自体は高まっているわけだから、エグジットの機会、例えば、どこかの会社に買収されるとか、いくらでもあるのですが、ただ個人投資家がそれを監視する術はもうほとんどないです。
いくらでも売り出して買い出してという流動性があればいいですけどね。その機会がないわけです。これは本当にもう難しいです。
ただ不可能ではないですよ。誰かに売ればいい。当たり前ですが、相対で売る、買ってくれる相手がいれば市場を通さずに売買できますから。
だから企業が潰れずに存続し、企業価値を維持している場合、市場を通さずに買ってくれる相手を見つけてくればいいんです。例えば、こういう会社があって、上場廃止しちゃったんだけど、すごくいい企業だよ。もしかしたらまた上場するかもしれないしと言った時に、すごく既得な人がいて、「いいね、じゃあ買うよ」と、個人感で売買する方がいないことはないですよ。
まあ、難しそうですけどね。だから普通のお答えとしては、換金する術を失うので、実質紙切れ……とは言いませんけど。まあ、今は紙でもないからね。でも、その理屈を言えば換金する手がないことはないですよ。