キャンバスの強み がん免疫に着目したパイプライン戦略
司会:本日はたくさんのご参加ありがとうございます。それでは、株式会社キャンバス2023年6月期決算についてご説明させていただきます。
なお、今回の説明会資料では会社自体のご紹介などを割愛していますのでご了承ください。ウェブサイトに掲載されている「会社プレゼンテーション資料」を併せてご参照くださるようお願いします。
河邊拓己氏:代表取締役の河邊でございます。まず私から、研究開発の状況として臨床開発段階のパイプラインについてご説明します。
キャンバスの強みは、がん免疫に着目したパイプライン戦略です。
「CBP501」は、創薬パイプライン型の展開をしており、第2相試験が終了し、最終試験の準備進行中です。
「CBS9106」は、創薬基盤技術型の展開をしており、前臨床試験終了段階で導出し、導出先が第1相試験を完了した段階です。「CBP501」の次世代型の「CBP-A08」は、まだ前臨床試験の手前にいます。また、NEXTプロジェクトとして免疫系抗がん剤の次のホープである「CBT005」や、静岡県立大学の先生方と共同して「IDO/TDO阻害剤」に取り組んでいます。その他、社内でも新しいプロジェクトに関する研究を活発に行っています。
臨床開発段階にある2つの化合物 サマリー
臨床開発段階にある2つの化合物についてご説明します。
臨床第2相試験(膵臓がん3次治療)対象の免疫着火剤「CBP501」は、主要評価項目を達成したため早期終了を決定し、最終試験に向かっています。
早期終了は、野球のコールドゲームのようなイメージです。早い段階で「結果はもう変わらないだろう」というデータが出ましたので、あらかじめ統計的に決められた基準にしたがって、早期終了を決定しました。3剤併用投与群の両方で9例中4例の3ヶ月無増悪生存が確認され、統計的に決めていた基準を超えたため、早期有効中止となりました。2022年11月28日に公表したとおり、4群ある試験のうち全群でステージ2をスキップし、最終試験へ向かうことを決定しました。
2023年1月には、米国FDAからオーファンドラッグ指定を受けています。また4月にはデータカットオフを実施し、臨床第2相試験のデータ収集を終了しました。臨床試験は試験終了までにたくさんのステップがありますが、その中のとても大きなマイルストーン的ステップになります。
この臨床第2相試験の結果について、10月に欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で発表することが決定しました。
現在、最終試験に向けて米国FDAとの協議が進行しており、同時に開始の準備も進めています。
もう1つのパイプラインである可逆的XPO1阻害剤「CBS9106」は、注目度の高い新しいメカニズムのものです。提携先のStemline社により、米国での臨床第1相試験が2022年2月に完了しています。
XPO1阻害剤の先行薬剤には、Karyopharm社の「Selinexor」があります。「CBS9106」はそれよりも利点があると考えており、ベスト・イン・クラスを目指し、次相試験が計画されています。
各パイプラインの歩み・現状・目標
スライドでは、時間軸を含めた各パイプラインの歩みを記載しています。
「CBP501」は、2000年の創業から継続しているもので、2027年の上市目標に向け、ようやく近づいてきたところです。
「CBS9106」は、前臨床試験終了時点で導出し現在に至っています。2023年中に「CBP-A08」「CBT005」のいずれかを次のステップに進めるべく、日々努力しています。
創薬企業の2つの事業モデル
おさらいになりますが、創薬企業の2つの事業モデルについてご説明します。二者択一ではなく、それぞれに中間的な組み合わせがありますが、両極端で表現すると「創薬基盤技術型」と「創薬パイプライン型」に分かれます。どちらにもよい面(ポジティブ面)と悪い面(ネガティブ面)があります。
創薬基盤技術型のポジティブ面は、莫大な資金調達を含む後期開発リスクを導出先に転嫁できることです。また、一時金やマイルストーンにより早めの収益が実現します。
ネガティブ面は、開発進行の主導権が導出先へ移行するため、自分たちの意見が反映しづらくなることです。さらに、利益配分への発言機会も少なくなります。なお、スライドに赤い点線で示したとおり、キャッシュフローは浅く進んでいきます。
創薬パイプライン型のポジティブ面は、化合物を最も知る自社が開発の主導権を握り、自分たちの思うように進められることです。もちろん、利益分配への発言機会も大きいため、リターンの最大化が図れます。
ネガティブ面としては、資金調達や人手などの後期開発に伴うリスクが挙げられます。また、一時金などの収益実現までの期間が長期化します。キャッシュフローは、スライドにオレンジの線で示したとおり、前半に支出が多くなる代わりに、後半に収益が上がっていきます。
キャンバスの事業モデル
キャンバスは、基礎研究や薬剤のシードの創出から後期臨床開発まで自社で進めてきた実績を活かし、パイプラインの特徴に沿った柔軟な開発方針の分岐が可能となりました。そこで、開発パイプラインごとに開発段階・成功確率・費用などを勘案し、中長期的な企業価値の効果的な最大化を図ることが可能になっていると考えています。
各パイプラインの現状の想定と今後についてです。
「CBP501」は自社で承認まで開発する創薬パイプライン型開発を想定し、進行しています。並行して、適応や地域などを部分的に導出する可能性もありますので、途中でもこのような選択肢を取れるように努力を続けています。もちろん、よいか悪いかをその都度考えて決断することになります。
「CBS9106」は創薬基盤技術型です。現在、我々からの支出がないというよい面があり、将来のマイルストーン収入・ロイヤルティを見込んでいます。後続のパイプライン候補も基礎研究の成果として生み出されており、それぞれの特徴に合った開発方針を検討していきます。
免疫系抗がん剤の効きにくい「免疫コールド」ながん
免疫着⽕剤「CBP501」は、免疫系抗がん剤の効きにくい「免疫コールド」ながんが対象です。スライドには、「CBP501」の効き方のイメージを記載しています。紫色ががん細胞、オレンジ色ががん細胞を実際に殺すCD8T細胞を示しています。
左上の図のとおり、攻撃するためのCD8T細胞がそもそもいない状態は「免疫砂漠」と呼ばれます。そして、左下の図のとおり、CD8T細胞は周りにいるががん組織に入り込めていない状態を「免疫排除」と言います。混ざった状況もたくさんありますが、これら2つが免疫コールドながんの大きな特徴です。
それに対し、CD8T細胞ががん細胞の中に入り攻撃できる状態を「免疫ホット」と言います。治療では、免疫コールドながんを免疫ホットながんにすることが目標とされています。「CBP501」は、この目標を達成することに大きく寄与するのではないかと考えています。
CBP501の3剤併用で免疫系抗がん剤を効きやすくする
スライド左上の図は、膵臓がんなどの免疫コールドながんをイメージしたものです。紫色はがん細胞、黒色はアポトーシスが起きて死んだがん細胞、緑色はマクロファージなどの免疫抑制細胞を示しています。アポトーシスは免疫を活性化せず、むしろ免疫を抑える方向に働きます。したがって、がん細胞が死んでも免疫細胞は寄ってきません。
この免疫コールドながんに「オプジーボ」や「キイトルーダ」などの免疫系抗がん剤を使います。すると、CD8T細胞のブレーキが外されますので、スライド右上の図のように、鈍い色をしていたCD8T細胞が鮮やかなオレンジ色になり、がん細胞を攻撃できる状態になります。
しかし、もともとがん細胞の中に入れない位置にいるものは、ブレーキを外しても役に立ちません。なおかつ、膵臓がんなどではがん細胞の中にいるCD8T細胞がそもそも少ないため、ブレーキを外してもあまり意味がありません。実際に膵臓がんに効果がないことは、すでに臨床で証明されていると言ってもよい状況にあります。
そのような中で、免疫着火剤「CBP501」と従来型の抗がん剤「シスプラチン」を組み合わせます。すると、スライド赤色で示したように、がん細胞を免疫原性細胞死に導き、免疫細胞を呼び込みます。免疫原性細胞死とは、怪我をした時に炎症を起こして赤くなるような、いわば派手な死に方です。
さらに、免疫抑制的なマクロファージを抑制し、免疫抑制を解除する働きがあることが、少なくともマウスまでの実験ではわかっています。その結果、CD8T細胞ががん細胞の中に入ってきます。中に入ってきたCD8T細胞は、がん細胞によってブレーキがかけられ鈍い色の状態になります。
ここに「オプジーボ」や「キイトルーダ」などの免疫系抗がん剤を組み合わせ、3剤併用すると、中に入ったCD8T細胞が鮮やかなオレンジ色になり、がん細胞をしっかりと殺すことができるという流れです。「CBP501」では、このような効果を目指しています。
膵臓がん治療の現状
膵臓がん治療の現状についてご説明します。診断ステージには「ステージ0・1」の早期ステージから、一番進行し転移がある状態の「ステージ4」までがあります。
膵臓がんの場合、長期の生存を得る方法は手術による完全除去しかないと言えます。完全除去ができる可能性があるのは、ステージ0・1と、ステージ2の一部です。残念ながら、過半数の患者は手術後にがんが再発してしまいます。
ステージ3やステージ4になると、そもそも手術ができません。膵臓がんは症状が現れないこともあり、ステージ3やステージ4まで進行した状態で発見される人が過半数です。そのため、抗がん剤の役割は非常に大きいのですが、残念ながら劇的に治癒させる抗がん剤は今のところありません。
1次治療および2次治療ではFDAで承認された薬剤があり、余命を延ばすことが証明されています。しかし、1次治療と2次治療を済ませた患者の3次治療には、承認された薬剤がありません。
また、アメリカのNCCNガイドラインによると、1次治療と2次治療ですら臨床試験が推奨されています。3次治療は臨床試験が推奨であることは言うまでもありません。
CBP501のパイプライン価値
「CBP501」の初期適応(膵臓がん3次治療)領域では、既存先行品は市場に存在しません。そもそも薬剤がなく市場がまだありませんので、効く薬ができると市場が現れる状況です。
スライドに4つの例を挙げているとおり、開発競合では開発中止が続いています。がんの場合は治療が進むにつれ反応が悪くなり、抵抗性が強くなっていきますので、1次治療や2次治療に比べ、3次治療のほうが難易度は高くなります。
免疫着火剤CBP501の開発スケジュール
あらためて「CBP501」の開発スケジュールについてご説明します。
2027年までに上市するという初期の目標シナリオの実現可能性は、現在も堅持していると考えています。運がよければ、より早い段階である2025年に実現できるとお伝えしていましたが、残念ながら、すべてが理想的にうまくいっても2025年に実現できる可能性は薄れてしまいました。しかし、2027年までに上市という目標はまだ堅持しています。
最終試験のスタートに向けた現在の活動としては、FDAと試験内容を協議中です。開始までおよび開始後のスケジュールを加速するために、できることはすべてやろうと準備を進めています。そして、重大な試験完遂までの資金確保もほぼ達成しつつあります。
CBP501臨床第3相試験準備状況
「CBP501」の最終試験の準備状況です。FDAと協議中の内容については、あまりお話しできることがありません。お話しすると逆に悪いほうに働いてしまうケースもあり、明確なことがわかるまでは公表ができません。当局との折衝ですので、どうしても時間がかかるもどかしさはありますが、必要な時間をかけて話を進めています。
関連準備作業は、スライドに記載のとおりです。
CBS9106開発の現状
2つ目のパイプラインである、XPO1阻害剤「CBS9106」についてご説明します。
2022年2月に公表したとおり、臨床第1相試験が完了しています。第1相試験はとてもよく、毒性が少ないために時間がかかりましたが、安全性が高いことが証明されました。
現在は臨床第2相試験を検討している状況です。「CBS9106」と併用薬剤を使った試験を想定しており、固形がんと血液がんの両方を睨みながら準備しています。導出先のStemline社およびMenarini社が、対象癌腫の検討を行っています。現時点での候補は、大腸がん、KRAS変異がん、腎臓がんなどが有力ですが確定はしていません。
基礎研究〜非臨床試験段階のプロジェクトの状況
前臨床試験段階である研究開発の状況です。
2021年11月に適時開示したとおり、「CBT005」は早期のマウス実験段階ではあるものの、これまでの実験を背景にするととても魅力的であり、今もそう思っています。現在は、前臨床試験に進める価値があるかどうか、引き続き検討を行っています。
「CBP-A08」は「CBP501」の後継に属するものですので、「CBP501」の進捗状況によってスタートさせるかどうかを決めます。「IDO/TDO二重阻害剤」は、静岡県立大学の先生と化合物の最適化を着々と行っています。NEXTプロジェクトは中身を公表していませんが、免疫系抗がん剤の種を作っています。
「抗がん剤感受性予測システム」のコンセプトは、ずいぶん前から出来上がっていましたが、最適化作業を継続しています。
2023年6月期の業績 (1)損益計算書
加登住眞氏:取締役CFO加登住です。決算および財務の状況をご報告します。
まずは、2023年6月期の損益計算書についてです。ポイントは「CBP501」の臨床開発で、先行投資のための赤字を計上する時期が続いています。細目はスライドのとおりです。基礎研究費や販管費についての大きな変化はなく、2023年6月期は臨床開発費として4億8,200万円を計上しています。
営業外費用として、資金調達関連費用の一部や社債利息などを計上することで、経常損失の金額が大きくなっています。こちらは2023年6月期特有の数値のため、特段ご心配をおかけすることではないと思っています。また、事業収益については計上がありませんでした。
2023年6月期の業績 (2)事業収益の推移と今後の見通し
事業収益についてご説明します。「CBS9106」のライセンス契約に基づく収益は、2021年6月で終了しています。今後も契約自体は継続しますので、マイルストーンペイメントやロイヤルティ等の収益実現に向け、なんとか進めていきたいと思っていますが、提携先であるStemline社の意思決定に依存する状況です。
「CBP501」については、今回「創薬パイプライン型」開発を志向することを発表しました。しかし、後期開発終盤の提携市場は依然として活発ですので、地域や適応を区切った部分的提携なども引き続き模索していきたいと考えています。2023年6月期もこの取り組みは行ってきましたが、残念ながら収益の計上には至りませんでした。
その他のプロジェクトは以前どおりです。早期アライアンスによる収益獲得を図るものや、自社で開発を進めると判断するものがあるかもしれません。当然ながら、資金調達の状況を見ながら行います。
2023年6月期の業績 (3)貸借対照表の推移
貸借対照表は劇的に変動しました。2022年6月期末にはまだ社債も残っており、固定負債が3億6,700万円、流動負債が1億7,200万円という状況で、純資産は2億5,000万円に過ぎませんでした。
しかし、今期は流動資産が20億6,700万円に大きく上昇しました。大半は現預金の増加によるもので、16億1,700万円の残高で2023年6月期末を終了しています。
また、臨床第3相試験に向けた準備の一環として、CRO(医薬品開発業務受託機関)等への前渡金が3億6,700万円あります。今後は、臨床試験の進行につれて徐々に費用化されていきます。これらを含めた約20億円を流動資産として保有した状態で、2023年6月期末を迎えることができました。固定負債はすべて償還を完了しており、その分純資産が増えています。
その他の重要な後発事象としては、2023年6月期の決算を締めた7月以降も、第19回新株予約権の行使による資金調達が進行しています。
事業費用の過去推移と2024年6月期の業績予想
スライドには、過去10年間の事業費用の推移をグラフで示しています。販管費と基礎研究費については、大きな変化はありません。2023年6月期の販管費には、資金調達関連費用の一部で営業外費用に計上しなかったものが5,000万円から6,000万円ほど含まれています。実態としては、ここ7年から8年の流れどおり、2億円強の販管費で推移しています。
基礎研究費は、2億円弱で推移しています。スライドを見ると、臨床開発費は、その時の臨床開発プロジェクトの有無やピークに応じて変動していることがわかると思います。
引き続き不確定要因が多いため、大変申し訳ありませんが、2024年6月期の業績予想は非公表としています。2023年6月期と同様に、わかり次第公表します。
開発資金確保を図るファイナンスの実行
2023年6月期の大きなトピックは、開発資金の確保を図るファイナンスを実行したことです。7億円を超える第三者割当新株発行に2種類の新株予約権を組み合わせることにより、短期的な株価等の変動に耐え、必要な資金を調達する考えをかたちにしています。
2種類の新株予約権のうち、第19回のほうは行使価額修正条項付きです。第20回のほうは、当初行使価額固定および行使価額プレミアムも付けた内容で、より有利な資金調達を目指すために、時間がかかる可能性があるものを組み合わせました。
これらを踏まえ、「CBP501」は自社で開発を承認まで進めることができる創薬パイプライン型への転換を公表しました。
資金使途及び支出予定時期
資金使途と支出予定時期について若干誤解があったため、あらためてご説明します。
今回の資金調達目標額は、当初の行使価額ベースで58億4,600万円で、そのうち、臨床第3相試験費用として55億円の調達を目指しています。
一方で、最終試験の費用見通しとして55億円から65億円を想定しています。偶然、同じ「55億円」が最終試験の最小費用にあたるため、この金額を調達できなければ試験を完遂できないのではないかとご心配をおかけしました。
しかし、最終試験のための費用のうち、準備費用を含めた約10億円は前回のファイナンスで調達済みです。そのため、想定している費用見通しのうち小さいほうで収まる場合、今回のファイナンスでの必要調達額は最小で45億円です。
繰り返しになりますが、あくまでも費用見通しの最大値である65億円に対応するための差額55億円の調達を目指すファイナンスです。現在、当初の行使価額を割り込んだかたちでの資金調達となっていますが、それだけでただちに心配するような状況ではないとご理解ください。
新株発行、第19回・20回新株予約権発行の概要
新株発行および新株予約権発行の概要については、スライドのとおりです。
キャンバスを知る情報源
今後のキャンバスについての情報源は、Webサイトや公式X(旧Twitter)アカウント、アナリストレポートなどがあります。加えて、テレビやインターネット番組等への出演についても、引き続き注目してもらいたいと考えています。
今後のニュースフロー
今後のニュースフローです。以前公表したニュースフローのうち、完了したものはグレーアウトしています。臨床第2相試験関連では、データカットオフの実施と、2023年10月に欧州臨床腫瘍学会(ESMO)でポスター発表を行うことがされています。ご期待ください。
規制当局との協議関連は、詳細をひとつひとつご報告するわけにはいかず、お約束できることも少ないですが、表からは見えずとも一歩一歩確実に前へ進んでいることをお伝えします。
その他のパイプラインやプロジェクトもニュースフローがありますので、引き続きご注目いただきたいと思っています。