日本の株価が上がらない理由をどのようにお考えですか?

岡藤正広氏:日本の株価は、決して低くありません。米国「S&P500」の時価総額合計は10年間で3倍に伸びていますが、実は、GAFAM(Google・Amazon・Facebook・Apple・Microsoft)と呼ばれるIT大手5社を除けば、2.6倍です。これは、2.8倍の伸び率を示す「TOPIX」合計のほうが高いということです。

日本の課題は、GAFAMのような企業を生み出せていないことです。日本企業は依然としてものづくりにこだわり、ハードからソフトへのシフトが遅れています。すなわち、ものづくり至上主義と言える「良いものさえ作ればそれでいい」という考え方から脱却する必要があります。日本人の頭脳と勤勉さをもってすれば、日本企業の可能性は無限に広がります。

日本と海外の経営の違いについて、どのようにお考えですか?

一言で表すと、日本企業は「技術は一流、商売は二流」と言えます。その例を2つご紹介します。

例えば、岩手県の山奥にある服地メーカーでは1メートル5,000円で生地が売られていますが、シャネルはその生地を使って1着150万円のスーツを作っています。

また、2019年に日本政府は韓国に対して半導体素材3品目の輸出禁止措置をとり、サムスン電子等の韓国企業はパニックに陥りました。半導体に必要不可欠なキープロダクトの日本企業の年間輸出額は900億円ですが、一方で、この3品目をもとに、韓国企業は20兆円を超えるビジネスをしています。

日本企業は世界最高の頭脳や技術力を、素材・部品といった川上、川中に使っています。しかし、川下である消費者に近いほど、ビジネスチャンスは広がり利益は大きくなります。「利は川下にあり」、すなわちプロダクトアウトからマーケットインへ、日本企業の発想の転換が急がれます。

アクティビストの存在意義について、どのようにお考えですか?

楠木建氏:さまざまなアクティビストがいますが、企業経営に対して長期でエンゲージメントを行う株主には、大きな存在意義があると思っています。

人間はどうしても易きに流れますし、これはもはや本能です。したがって、経営には規律が大切です。長期エンゲージメント投資家が経営に対して関与し、声を出すことは、企業経営にとって最も重要な規律の1つだと考えます。

しかも、最近はパッシブな取引が多いため、その中にあって、「誰が経営に対して規律を働かせることができるか」ということに、アクティビストの役割があると考えています。

日本企業はお金を貯めすぎていると思われますか?

一口に日本企業といっても、さまざまな企業があります。僕は、日本企業という主語をなるべく使わずにものを考えるようにしていますが、平均的な傾向として、特に日本の上場企業は、明らかにお金を貯めすぎていると思います。

なぜかと言いますと、将来に向けた投資決断ができていないためだと考えています。僕は、「資金があればこんなことがやりたい、あんなことがやりたい」「もっと投資したいのにな」と思える状態が、経営として健全だと思います。反面、単にキャッシュを貯めこんでいるのは、非常に不健全な状態であると考えます。

日本の株価が上がらない理由をどのようにお考えですか?

エミン・ユルマズ氏:日本の株価が上がらない理由は非常にシンプルで、日本人が日本株を買わないためです。日本人は個人資産が2,000兆円あると報告されていますが、その11パーセント程度しか株で運用されていません。

実はバブル時代に、この割合は30パーセントまで上昇していました。日本人が日本株に投資するようになり、この割合が20パーセント増えれば、それだけで400兆円の資金が日本株に入ることになりますので、大変追い風になると思います。ただし、その時までには少し時間が必要だと考えています。

日本と海外の企業の違いについて、どのようにお考えですか?

昨年の世界的なインフレの中で最も大きな違いがあり、例えばアメリカの場合、企業物価指数(アメリカでは生産者物価指数)と消費者物価指数の間は、それほど開きませんでした。

理由は、アメリカの企業はすぐに価格転嫁するためです。そして、利益が下がってくると、すぐにリストラを発表して、その利益を守ろうとします。アメリカはそのような利益至上主義的な姿勢が強く、なおかつ株主至上主義的な思想もあります。

一方、日本では、例えば企業物価指数が10パーセントを超えた時に、消費者物価指数が2パーセントとなっています。この8パーセントのギャップに対して、企業はなるべくコストを吸収しようとします。

これはいかにも日本的な考え方です。日本企業はそう簡単に従業員をクビにしませんし、なるべく努力して困難・危機を乗り越えようとします。そのような意味では、日本はステークホルダー主義という思想に非常に近いと考えています。

この思想が日本株の低迷につながったという主張もありますが、日本の考え方には良い面もかなりあると考えていますので、アメリカと日本のハイブリッド型がちょうどよいかもしれません。

アクティビストの存在意義について、どのようにお考えですか?

例えば、企業価値の向上を目指すアクティビストは、株式市場にとって必要不可欠だと思います。さらに広い意味では、個人投資家も含めて、ある意味全員がアクティビストにならなくてはいけないと感じています。

私はよく「投資には四次元ある」と言っています。一次元は「誰々からこの銘柄が良いと聞いて投資した」、二次元は「新聞や『会社四季報』を読んで銘柄を選んだ」という段階です。

三次元は、実際にその企業の工場見学をしたり、店舗に行って商品を使ったりします。四次元になると、時間をかけて企業と付き合います。例えば、持ち株100株でも株主総会には行くことができますので、そこで企業の社長に会って直接質問できるのです。

私は、すべての株主がこれらを行うべきだと考えています。それこそが、本当の意味のアクティビズムだと思っていますし、アクティビズムがすべての株主に広がってほしいと思っています。

個人投資家も含めて、すべての株主がそのようなマインドを持って、企業と対話してほしいと考えています。

日本の企業はお金を貯めすぎていると思われますか?

日本企業に限らず、世界的にもお金を貯めこみすぎている企業はあります。日本企業を例にすると、『会社四季報』では借金がゼロで、時価総額以上に現金を持っている企業をたまに見かけます。

これはすなわち、時価総額がマイナスで評価されているということです。これはよく考えると非常に良くない状態です。自分の会社の時価総額が、持っている現金より少ないという状態は本来ありえない話ですので、本当は経営者としても責任が問われるべきです。

そのような状態であれば、その現金を使って何かをすべきです。企業価値を高めるため、もしくはビジネスを拡大するために、何かを行うべきだと考えます。そうしないのであれば、そもそも論として、上場する必要があるのかを問うべきです。

これらの観点で『会社四季報』を見るとそのような企業が見つかりますので、確かに日本企業は現金を貯めこみすぎていると思います。

個人投資家のみなさまへのメッセージ

個人投資家に私が一番伝えたいのは、日本株のことを知って、日本人が主体になって日本株をより動かせるように、日本人が日本株を買っていく必要があるということです。

みなさまには、簡単に入手できるより多くの情報があります。せっかくの機会ですので、本日のアクティビスト・フォーラムではパッシブではなくアクティブに、いろいろな企業を応援する気持ちも加味して銘柄をピックし、投資していったらよいのではないかと考えています。

したがって、まずは日本株のことを勉強して、みなさまが自分でアクティブに「この銘柄がよい」「この企業がよい」という投資判断ができるようになってほしいです。

日本の課題やアクティビストについて、どのようにお考えですか?

藤野英人氏:私はアクティビストという言葉が非常に好きです。日本の株式市場や景気は30年くらい停滞していると思いますが、その理由は明確で、広い意味でアクティビストが足りなかったことが要因です。

アクティビストとは、投資の世界で株主権を発揮し、経営者に対してなんらかの主張を行い、行動変容を起こしてもらう存在です。広義で自ら行動し、社会へ何かしら影響を与え、動かしていく人たちがアクティビストだと思っています。日本は投資の現場でもそうですが、ビジネス・政治の現場において、あらゆる場面でアクティビストが不足しているのではないかと思います。

ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント時代の先輩でもある松本大さんは、自ら起業して、ネット証券の中で確かな地位を築き、最近はアクティビストとして投資活動しています。すばらしいことですし、松本さんを過度に褒めちぎるわけではありませんが、やはりこのような人が増えないといけないだろうと思います。

私たちは「ひふみ」という商品を扱っていますが、「ひふみ」もアクティブ商品です。パッシブな姿勢ではなく、投資によって自ら日本や世界を変えたいという面が大きく表れた商品だと思います。

今後の日本に期待していることは?

私は、最近の日本において本音で話して行動でき、なおかつ発信できる若者が以前より増えてきたという変化を感じ、このような未来のアクティビストが多く輩出されることに大きく期待しています。彼らが未来を変えていくと思います。

また、彼ら自身が新しく会社を作ったり、政治に参加したりして、日本を大きく変えてくれるのではないかと考えています。

そのような面においても、今回のアクティビスト・フォーラムにも大いに期待しています。