特別講演「銘柄分析を投資ツールで効率化する方法」

上原 聡氏:上原と申します、よろしくお願いします。今日は「銘柄分析ツールの徹底活用セミナー」というテーマで、いろんな投資ツールの活用法や使い分けをお話ししていければと思っています。

最初に、簡単に私の自己紹介をします。もともとは外資系証券会社で日本株のアナリストをしていました。そのあと外資系のファンドで、日本株のファンドマネージャーをするかたちで、いわゆる機関投資家として働いていた人間です。

今は投資家バー「STOCK PICKERS」という、銀座にある「投資家同士のネットワークが広がるお店」のオーナーをさせてもらっています。

本日は投資プロセス(についての講演)ということで。投資アイデアを発掘して、発掘してきたアイデアを深掘り分析して、それを元に最終的に投資判断する。(そのためには)「おおまかな投資のプロセスそれぞれで、どんなツールがあるのか?」とか「どういうふうにツールを活用したらいいのか?」といったことについて解説していこうと思います。

ちなみに「投資アイデアの発掘」とは、例えば銘柄スクリーニングで企業を探してきたりとか、適時開示をひたすら読んだりとか、あるいは証券会社のアナリストレポートを読んだりといったことが考えられます。そのあとに投資アイデアを発掘してきて「良さそうだな」という企業が見つかったら、深掘り分析に移ります。

そして「深掘り分析はどういうツールを使ったらいいのか?」という解説をして、最後に「株価のバリュエーションやチャートのツールはどういうものがあるのか?」という話をしていきます。

スクリーニングにおける、オススメツール3選

ではまず最初に、投資アイデアの発掘に使える便利ツールについて。(スライドを指して)この部分になりますので、順番に解説していきます。

まずはスクリーニングにおけるオススメのツールを3つ紹介したいと思います。スクリーニング(ツール)というのは、例えば「売上高が何億円以上」とか「PERが何倍以下」とか、そういった条件を設定して、条件に当てはまる企業を上場企業の中から出してくれるツールになります。

僕がオススメしているのは「バフェット・コード」と「マネックス証券」と「FISCO」です。この3つが特にオススメで、いろんなスクリーニングツールがあるのでたくさん試したんですけど、最終的にはこの3つに行き着いた感じです。

それぞれ特徴がありまして。まずバフェット・コードに関しては、スクリーニングできる項目数が一番多く、ダントツだと思います。

そして(日本企業だけでなく)米国企業を同時にスクリーニングできるのも強みだと思ってます。プラスアルファで表示項目も選べるんですけど……つまりスクリーニングして出てきた結果で、その会社の時価総額を表示するとか、PERを表示するとか。そういったデータの比較もしやすいと思います。

一方でデメリットは、項目が多すぎること。これは強みなんですけど、逆に初心者の方は混乱してしまう。あとは、コンセンサス予想のスクリーニングがまだできない。たぶんこれからできるようになると思うんですけど、そういったデメリットがあります。

続いて、マネックスの銘柄スカウターです。これには「10年スクリーニング」という機能があるんですけど、証券会社のアナリストレーティングや目標株価みたいな、そういった他のスクリーニングツールにはない、検索機能があるのが便利なところです。

あとは、長期の業績のスクリーニング。「10年間の成長率」とか「10年間で何回増収したか?」みたいな。そういう長期の業績でスクリーニングできるのもマネックスの特徴かなと思います。バフェットコードにない点でいうと、コンセンサス予想のスクリーニングができるのも強みです。

デメリットは、スクリーニングの項目数がそんなに多くないので「これ、検索したいな」と思った時に「マネックスにはないな」といったこともよくあると思います。

3つ目のおススメは、FISCOのスクリーニングツールです。このツールで一番おもしろいなと思うのは、有名投資家のスクリーニングを実践できることです。例えば、今日(のIRセミナーに)ご登壇されているBコミさんが「こんなスクリーニングでやってますよ」みたいなのを紹介されていて。それを、そのまま自分でも実践できるんですよ。

「アナリストスクリーニング」というところをクリックすると、有名な投資家さんがどういうスクリーニング条件を設定しているのかを見ることができて、しかもその考え方もいろいろと詳しく書かれているので、けっこう勉強になると思います。

あと、検索できる項目数もFISCOはそれなりに多くて。検索結果の中に業績のコメントが簡単に載っているので「どんな会社なのか?」みたいな把握(ができるの)は、けっこう便利かなと思います。デメリットは、広告表示がちょっと多いのと「長期の業績スクリーニングは銘柄スカウターのほうがやりやすいかな?」という感じです。

適時開示=機関投資家は必ず見ている“投資アイデアの宝庫”

続いて、投資アイデアの発掘でよく使われているのが適時開示です。適時開示というのは、決算の内容とか業績の修正とか、大事な情報として会社が東証に出している「会社からの公式なニュースリリース」みたいな感じです。

適時開示をちゃんと見ている人はあまり多くないと思うんですけど、例えば「適時開示を全件チェックして、会社ごとの状況とかを確認している。世の中がどういうふうに動いているかを見ている」という人もいるくらい、けっこう大事な情報です。機関投資家なんかは必ず見ているような情報になっていて「投資アイデアの宝庫」ともいえる場所かなと思います。

適時開示を見るツールは群雄割拠で、いろんなものがあるんですけど。なんだかんだで一番よく使われているのは「TDnet」という東証の公式ツールです。東証の公式ツールなので、データが完全に網羅されていますし、最初に表示されるという意味でデータの速報性も優れています。

ただ、けっこう見にくくて。例えば「定款の変更」とか、あまり重要性のない開示も全部表示されてしまうので、決算の忙しい日だと全部チェックするのが大変です。

ちょっと(スライドが)飛んじゃいますけど......。「大事なデータだけを見たい」、例えば「決算のデータだけを見たい」とか「月次データだけを見たい」といった時は「BRiSK適時開示」というツールが便利です。

これはまだ開発中なので「完成版」という感じではないんですけど。(スライドを指して)「タグ」というところがあって、それをクリックすると「決算」とか「月次」とか、適時開示の種類ごとに表示項目を選ぶことができるので、自分にとってあまり大事じゃない情報は、チェックを外すことで適時開示のチェックを効率化することができます。

あとは、時価総額とか業種とかでもスクリーニングできるので、例えば「時価総額300億円以上の会社だけを適時開示で表示したい」といったかたちで、適時開示チェックの効率化をすることができます。

ちなみにこれには速報性もかなりあって、TDnetが表示されてから1~2秒後には、こちらにも表示されています。

あとは、先ほども紹介したバフェット・コードにも適時開示ツールがあります。こちらもBRiSK適時開示と同じように、(スライドを指して)「決算」とか「月次」とか、こういうタグがあるので、大事な情報だけを拾うことができます。

デメリットは、速報性がないことです。適時開示が出てから、最長でも1時間以内には出るんですけど、数十分単位で遅れて表示されるので。例えば「3時になって決算が出て、すぐチェックしたい人」にとっては、ちょっと使いにくいツールかなと思います。

あとは時価総額とか業種とかの絞り込みもできないので、BRiSK適時開示に比べると、できることは限られています。ただ、これもTDnetに比べると使いやすいのかなと思います。

(スライドを戻して)順番が前後しちゃいましたけど、よく使われているのが「iMarket(適時開示ネット)」というものです。これはとにかく便利で「ちょっと四半期の業績を確認したい」とか「ちょっと業績を確認したい」という時は、これを最初に使うことが多いです。

(スライドを指して)こんな感じで、その日に出た決算短信や業績予想の修正が、数字でバーッて出ているんですよ。なので本文を読まなくても「とりあえず数字だけ確認したい」という人は、特に使いやすいのかなと思います。

あとは、証券コードとかを入力すると個別企業のページにいって、個別企業のページでは、その会社の四半期の業績の推移とか、PERとかPBRみたいな株価バリュエーションのチャートも載っているので「ちょっと業績を知りたい」「ちょっと株価バリュエーションを知りたい」という人にとっては、かなり使いやすいツールかなと思います。

「アクティビストの保有銘柄」は要チェック

では「投資アイデアの発掘方法その3」です。次は「アクティビスト銘柄を探してみよう」という、いきなりコアな感じになっちゃうんですけど。

今までスクリーニング、適時開示という一般的な話をしてきて、急に「アクティビスト銘柄」というと、ちょっと飛んじゃう感じがしますけど、これはけっこうおもしろい投資アイデアの発掘法だと思っていて。バフェット・コードに大株主情報があるんですね。(スライドを指して)「シティインデックスサード」って何か? というと、旧村上系のファンドで、いわゆるアクティビストです。

アクティビストというのは、その会社に対して「株主還元こうしたほうがいい」とか、いろいろ積極的な働きかけをするファンドです。

アクティビストが(株を)保有すると、その会社に対して何かしらの働きかけを行って、そのあと株主還元を拡大するとか、改善するとか、不採算事業を切るとか。投資家にとって、良いアクションを会社がしてくる可能性があるので、アクティビストの保有銘柄はけっこう注目して見ています。

(スライドを指して)バフェット・コードだとこういうかたちで、シティインデックスサードというアクティビストが保有している銘柄の一覧と、保有している金額の推移までわかるのですごく便利なんですよね。

例えば(スライドを指して)個別銘柄のところ、たくさんあってわかりにくい場合は、いらない会社とかをクリックすると表示が消せるので、自分が見たい会社だけを表示させることもできたりします。

例えば、シティインデックスサードが保有した銘柄で過去に話題になったのが、西松建設というゼネコンなんですけど。(スライドのグラフを辿りながら)こんな感じでシティインデックスサードの保有金額は推移してきました。2020年の11月頃から買い始めて、そのあと200億円近くまで保有して、2021年の後半に全部売却した感じです。

実際に2020年10月、11月頃に買い始めているんですけど、買い始めた時期と株価を比べてみると、(スライドを指して)こんな感じです。村上ファンドが買い始めてから、株価はキレイに右肩上がりになっていて。何が起きたかというと、株主還元がすごく大きく改善したんですよね。

まず最初に村上ファンドが(株を)保有して「このあと会社が何か変わるんじゃないか?」という思惑で、他のイナゴ投資家もついてきて、株価が上がっていって。そのあと会社側と村上ファンド側で、実際にいろいろ対話が行われて、株主還元が大きく改善しました。会社が変化して、たぶん(スライドのグラフを指して)ここらへんとかがそうだと思うんですけど、株価が大きく上昇した感じです。

こういうかたちでアクティビストが保有すると、そのあと会社が変化して、株価が大きく上がることが多いので、アクティビストの保有銘柄、特に保有し始めの銘柄に注目していくと、おもしろいんじゃないかなと思います。(スライドを指して)保有の推移はこういう感じで、バフェット・コードで見ることができます。

無料で読める「アナリストレポート」の存在

あとは、投資アイデアの発掘でよく使うのがアナリストレポートです。これは無料で読めるので、登録しない理由がないというか、登録しておいて損はないです。

基本的に証券会社というと、みなさんマネックスとか楽天とか、ネット証券を使っている人が多いんじゃないかなと思うんですけど、実は日系の大手証券会社って、口座開設するだけでアナリストレポートが読めたりします。

すでに僕が確認済みのところでいうと、SMBC日興、みずほ、大和、SBIはネット証券ですけど、このあたりは口座開設するとアナリストレポートを無料で読むことができます。あと、マネックス証券は珍しくて。JPモルガンという外資系の証券会社のアナリストレポートを読めるのが特徴的ですね。

野村証券は完全無料ではないんですけど「FINTOS!」という投資情報アプリを出していて。月5,000円くらい払うと、野村(證券)のアナリストレポートを月50本まで読むことができる感じです。

機関投資家の人たちって、アナリストレポートを読むのに年間数千万円というお金をかけているので、それが無料で読めるのはすごいことだなと思います。

三菱UFJモルガンとか岡三証券、いちよし証券あたりは確認できていないんですけど、たぶん何かしらアナリストレポートは見られるんじゃないかなと思います。

日系大手のアナリストレポートはけっこう大型株が中心なんですけど、いちよし証券とかSBIとかは、小型株のアナリストレポートも多いので、個人投資家さんの興味・関心のあるところが多いんじゃないかなと思います。

アナリストレポートは、あくまでも情報収集の1つの手段

ちなみにアナリストレポートって、こういう証券会社のアナリストレポートだけじゃなくて、無料のアナリストレポートもたくさんあります。

(スライドを指して)ここに書かれているみたいに、Shared ResearhさんとかFISCOとかリンクスリサーチさんとか。けっこういろんなところが無料のアナリストレポートを出しているので、自分の気になる会社があったら「会社名 アナリストレポート」とかで、まずググってみるといいと思います。Shared ResearhさんやFISCOは、もしアナリストレポートが出ていたら上位に出てくるので、投資情報として参考になるんじゃないかなと思います。

アナリストレポートを読む時の注意点なんですけど、アナリストの目標株価とか投資判断は、基本的にあまり信用しないほうがいいです。実際にアナリストレポートを書いていた人間が言うのは、アレなんですけど(笑)。

「投資判断はあくまでもご自身で」ということで。アナリストレポートは、あくまでも情報収集の1つの手段として活用すべきで「アナリストレポートに書かれている投資判断どおりにやったら勝てるか?」というと、けっしてそんなことはないと思います。

ただ、小型株でカバレッジしているアナリストの数が少ない場合、例えば「アナリストが1人しかカバーしていない」みたいな小型株の場合は、そのアナリストの投資判断によって相場を形成することがあるので、「小型株でアナリストのカバレッジが少ない時」は、その投資判断を信用してもいいのかなと思います。

あとは、みんなが強気の銘柄に強気のアナリストレポートを出してもあまり価値はないんですけど、他の人とは違う意見。例えば「みんなが弱気の会社に対して、急に強気のレポートを出してきた」みたいな、いわゆる「アンチコンセンサス」のアナリストレポートは見る価値があるというか、投資アイデアとして特におもしろいんじゃないかなと思います。

「IR動画サイト」と「文字起こしサイト」の活用

先ほど「適時開示で決算資料や短信をチェックしましょう」という話をしました。どうしても文字情報だと大変なので、説明会の情報収集に関しては、例えば「IR動画サイト」というのがあるんですけど、ここみたいに決算説明会の動画が集約されて紹介されているサイトを活用すると、情報収集が効率化します。

IR動画サイトはけっこうすごくて。決算説明会の動画が集まっているサイトは、けっこうたくさんあるんですよ。会社のホームページにしか載せていないところもあれば、「野村IR」や「日興アイ・アール」みたいに、証券会社のIRページ、IRサポートの会社のページに載せている場合もあります。

いろんなところに情報が分散されちゃってるんですけど、このIR動画サイトはいろんなところから説明会の動画を集めてきているので、網羅性がすごくて。とりあえずこのサイトを週次でチェックしておくと、決算説明会動画がだいたいカバーできるかなと思います。メールアドレスを登録すると「その週に更新された動画」とかが毎週メールで届くので、それも便利ですね。

あとは、今日僕も登壇させてもらっているログミーさんは、決算説明会の......これは動画じゃないですけど、内容がすべて文字起こしされているので。文字起こしだと簡単に検索もできるので「情報収集」という意味ではすごく便利ですね。

「日常生活から得られる投資アイデア」にこそ、価値がある?

あとは、なんだかんだ、これはツールでも何でもないんですけど、「投資アイデアを探す」といった時、結局は日常生活から得られる投資アイデアが一番勝ちやすいというか、価値があるのかなと思います。

自分がよく行っているお店とか、自分が働いている業界とか、あるいは自分の趣味とか。そういった、自分の身近なところで感じる「変化」が投資アイデアにつながると思っていて。

これはデスクワークで働いている機関投資家・金融プロの人たちが、なかなか気づけないところなので、こういったところは「投資アイデアの発掘」としてすごく(いいと思います)。日常生活というのは「情報の宝庫」というか、「アイデアの宝庫」になっているのかなと思います。

例えば、ワークマンが流行り始めているのを最初に感じたのって、たぶんワークマンのユーザーの人たちだと思うんですよね。そういう感じで、実は自分がユーザーとして使っているものが情報としては一番早いので、日常生活でも投資アイデアを探す。日頃からそういうのを意識して、日常生活の変化を見ていくとおもしろいんじゃないかなと思います。

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