第3四半期累計実績ハイライト

橋本宗之氏:本日は当社の決算説明会にご参加いただきまして、ありがとうございます。CFOの橋本でございます。本日は私より、第3四半期実績などの3つの章についてご説明いたします。まず、2022年5月期第3四半期実績についてです。

第3四半期累計実績のハイライトは3点です。1点目は、連結売上高は前年同期比で25.1パーセント増、ARRは23.0パーセント増の約188億3,100万円となりました。

2点目は、通期業績見通しに対する第3四半期の累計実績は、レンジに沿った進捗となりました。営業利益は第2四半期までマイナスを計上していましたが、第3四半期累計実績では黒字を計上しています。

3点目は、クラウド請求書受領サービス「Bill One」についてです。「Bill One」の2022年2月におけるMRRは、前年同期比で約10倍の約9,200万円、ARRは約11億900万円となり、2022年5月末目標のARR10億円以上を前倒しで達成しました。

リリースから約1年9ヶ月でARR10億円を突破した実績は、国内SaaSの中でも類を見ない圧倒的な成長スピードだと自負しています。

連結実績の概況

第3四半期の3ヶ月実績です。主に「Sansan」において長引くコロナ渦のマイナス影響を受けつつも、営業体制の強化やサービスの機能拡充などに取り組みました。その結果、売上高は前年同期比で24.6パーセント増の約51億2,800万円と堅調に推移しました。

営業利益は、前年同期比で170.2パーセント増の約3億6,800万円となりました。経常利益は持分法投資損失等を計上した結果、約1億700万円です。親会社株主に帰属する四半期純利益は、前年同期と比較して法人税などが増加したことから約100万円となりました。

連結営業利益の増減要因

連結営業利益の増減要因についてご説明します。連結売上高は、前年同期比で約10億1,100万円増加しました。前年同期ほどの大型のマーケティング活動を行わなかったため、広告宣伝費が約1億8,100万円減少した結果、営業利益は170.2パーセントの増益です。

なお、人件費が前年同期比で約4億8,900万円増加しているのは、採用強化によるものです。連結従業員数は前年同期末比で268名増の1,118名となりました。

セグメント別実績の概況

セグメント別の概況です。Sansan/Bill One事業、Eight事業ともに増収増益となりました。なお、調整額のマイナスが拡大していますが、人員増に伴う各種コストの増加が主な要因です。

Sansan/Bill One事業の概況

セグメント別の実績についてご説明します。まず、Sansan/Bill One事業の実績についてです。売上高は「Sansan」の堅調な成長および「Bill One」の急成長を背景に、前年同期比で23.8パーセント増の約46億5,000万円となりました。

「Sansan」においては、前年同期比で17.0パーセントの増収となりました。前四半期比では成長率が鈍化していますが、2021年の緊急事態宣言や2022年の蔓延防止等重点措置を含む新型コロナウイルス感染症の長期化によるマイナス影響が要因です。

なお、決算で開示している売上高実績とは異なりますが、単月ごとの受注状況で見た場合、12月はコロナ渦のマイナス影響を受け苦戦したものの、2月は今期最大の受注状況となっています。そのため、第4四半期以降の成長に寄与するものと捉えています。

「Bill One」の売上高は前年同期比で約11倍となり、高成長が継続しました。なお、その他の売上高の成長率が大きく伸びていますが、これは「Contract One」などによるものです。

営業利益は、売上高の増加および前年同期ほどの大型のマーケティング活動を行わなかったことなどから広告宣伝費が減少し、前年同期比で35.6パーセント増の約16億6,200万円となりました。

Sansan/Bill One事業:「Sansan」ストック売上高・契約件数・契約当たり月次ストック売上高

「Sansan」のストック売上高は、前年同期比16.8パーセント増となりました。契約件数は前年同期末比10.5パーセント増の8,314件となり、契約あたり月次ストック売上高は前年同期比で5.0パーセント増となりました。

なお、契約件数の伸びの鈍化は、昨年12月に営業体制を一部見直し、スモール規模の顧客からミドル・エンタープライズ領域への顧客へ、営業リソースのシフトを進めたことも影響しています。

Sansan/Bill One事業:「Sansan」直近12か月平均解約率

「Sansan」の直近12ヶ月平均の月次解約率です。各種取り組みを行うことで、引き続き1パーセント以下の低水準を維持しています。

Sansan/Bill One事業:「Bill One」MRR・有料契約件数・有料契約当たり月次売上高

「Bill One」の実績についてご説明します。スライドの表は「Bill One」のMRRと有料契約件数を示しています。中堅・大手企業の新規契約獲得などが進んだことから、2022年2月末における「Bill One」のMRRは、前年同期比で約10倍の約9,200万円となりました。

その結果、ARRは約11億900万円となり、2022年5月末の目標としていたARR10億円以上を前倒しで達成しました。

「Bill One」の有料契約件数は前年同期比で約5倍の707件となり、有料契約当たり月次売上高は約2倍の約13万円となりました。なお、前四半期比で有料契約の純増件数が鈍化していますが、前四半期に2022年1月から施行された電子帳簿保存法の改正による駆け込み需要があったためです。

Sansan/Bill One事業:「Bill One」導入顧客と潜在市場規模

「Bill One」の導入顧客および潜在市場規模についてです。スライド左側に掲載している企業ロゴのとおり、大手金融機関、食品会社なども含めて、さまざまな業種・業態で利用してされています。直近では、三井住友フィナンシャルグループに「Bill One」を新たに導入していただきました。

金融業界の顧客からは、特性上、導入するサービスに対して高いセキュリティレベルを求められますが、同グループには5年前から「Sansan」を採用していただいており、当社のセキュリティレベルを評価していただいています。

スライド右側のTAMの考え方についてです。濃い青色の四角は当四半期末の「Bill One」の有料契約件数、水色の四角は請求書を送付する企業を含むネットワーク参加企業数、薄いグレーの大きな四角はターゲットとなる日本国内の企業数を表しています。

ネットワーク参加企業数は、利用ユーザー1社に対して送付元が複数存在することから、「Bill One」利用件数の増加以上に拡大するモデルとなっています。2022年2月末に有料契約件数707件と新規導入が進んだことで、ネットワーク参加企業数は日本国内の企業の2パーセント弱に当たる約3.2万社となりました。

ネットワーク参加企業間でやり取りされる請求金額の合計額は、2022年2月単月で6,000億円を超えており、年間に置き換えると7兆円以上の規模になります。

Eight事業の概況

Eight事業の概況です。売上高は、BtoBサービスのマネタイズ強化により、前年同期比で26.1パーセント増の約4億5,400万円となりました。営業利益は売上高の増加に伴い赤字額が約8,000万円減少し、マイナス約1億500万円です。「Eight Team」の契約件数は、前年同期末比22.9パーセント増の2,621件です。

Eight事業:売上高・「Eight」ユーザー数

売上高の推移および「Eight」ユーザー数についてです。BtoBサービス売上高は、プロフェッショナル採用サービス「Eight Career Design」などにおいて堅調な成長が継続した結果、前年同期比33.5パーセントの増収となりました。

なお、前四半期比で売上高が減少していますが、第3四半期に大型のビジネスイベントなどを実施しなかったためです。第4四半期では実施を予定しています。「Eight」のユーザー数は、前年同期と比較して約19万人増え、約305万人となりました。

プロダクト刷新の背景(企業の営業活動における課題)

「Sansan」の成長戦略についてです。今後の中長期的な売上高成長に向けて、「Sansan」のプロダクトコンセプトを刷新しましたので、具体的な施策や取り組みをご説明します。プロダクト刷新の背景には、企業の営業活動における2つの課題があります。

1つ目は、新規営業における普遍的な課題です。新規顧客を開拓する際は、既存顧客の属性などを参照した上で、サービスへのニーズが高いと思われる対象を選出し、さまざまな条件に合わせて戦略的にアプローチを取ることが効率的です。しかし、これには企業の売上規模や業種、地域といったさまざまな情報が必要です。

仮に企業の連絡先が手に入ったとして、その企業とのこれまでの接点有無がわからないまま代表電話に連絡しても、その後の営業機会につなげることは大変難しく、生産性が低くなってしまいます。

このように、戦略的な営業活動には詳細な企業情報や接点の有無がわかることが非常に重要です。しかし、「Sansan」で確認できる企業情報は名刺交換をした企業を前提としていたため、接点のない企業の詳細情報については参照することができませんでした。

2つ目は、コロナ禍による新たな課題です。一般的な事業環境・営業活動という観点では、新型コロナウイルスの影響により直接的な対面での顧客獲得の機会が減少し、実際の商談シーンではオンラインを始めとした非接触型の機会が増加しました。

その結果、名刺交換の機会が減少し、面談はしたものの「相手の連絡先や役職などの正しい情報がわからない」「複数人のオンラインミーティングで誰がキーパーソンかわからない」という状況が生まれていました。

正しい顧客情報が得られないために、商談機会を有効活用することができず、次の営業活動にもつながらなくなるなど、コロナ禍で営業機会の喪失が起きているという声が多く聞かれます。

また、当社サービスという観点では、「Sansan」は名刺情報をデータ化し、それらを有効活用する仕様だったため、名刺交換機会の減少は新規契約獲得の難易度を上げ、結果として「Sansan」の売上高成長率の鈍化をもたらす要因となっていました。

プロダクト刷新の狙い

そこで、プロダクトを刷新しました。さきほどご説明した2つの課題に対応し、プロダクトのマーケットフィットを高め、再び「Sansan」の力強い成長を図っていくのが狙いです。これらの狙いを実現するため、大きく整理するとプロダクトの刷新内容には2つのポイントがあります。

1つ目は、企業データベースとしての充実を図るという点です。接点のなかった企業の詳細情報が参照できなかったことや、事業活動の過程で正確な顧客情報の取得難易度が上がっていることに対応するべく、さまざまな企業情報の閲覧が可能なデータベースの提供を行います。

2つ目は、接点データベースとしての強化を図るという点です。名刺交換機会の減少に対応し、メールのやり取りやWebサイトでの問い合わせといった接点情報もデータベースに蓄積し、可視化できるようにします。

サービス概要(営業DXサービス「Sansan」)

具体的な機能について、もう少し踏み込んでご説明します。まずは、企業データベースについてです。今回、帝国データバンク社との連携を強化し、彼らが保有する100万件を超える企業情報を「Sansan」上で閲覧できるようにします。

これまではデータ化された名刺情報があることを前提に、接点がある企業の業種や地域などの情報のみ閲覧できました。これからは接点の有無に関わらず、売上高、従業員数、資本金などの情報が閲覧できるようになるため、営業やマーケティング活動により活用しやすくなります。

次に、接点データベースについてです。従来は接点情報という意味では、紙やオンラインでの名刺情報のみをデータ化し、「Sansan」上に蓄積・可視化していました。しかし、昨年12月にメールでやり取りをしている相手の署名や差出人情報などを自動で識別・補完し、「Sansan」上へ蓄積することを可能にしました。

今後はWebサイト上の問い合わせフォームからもたらされる情報も、接点情報として「Sansan」へ登録できる機能を追加します。

これらにより、名刺のみならず、あらゆる顧客との接点情報が蓄積・可視化されることになり、企業データベースと組み合わせることで、接点のない企業の情報も含めた顧客企業ならではのデータベースを「Sansan」上に構築することができるようになります。

冒頭で営業活動における課題をご説明しましたが、企業情報と接点情報を組み合わせて活用できることが非常に重要です。片方だけでは十分な効果は期待できないため、今後「Sansan」ならではの強みになっていくと考えています。

具体的な例を1つ挙げます。営業で訪問した企業において、なんらかの好感触を得たとします。すると、同業種・同規模の他の会社でも商談がうまくいくのではないかと仮定し「Sansan」上で必要な情報を検索します。

候補としてA社、B社、C社があった場合、A社は「隣の部署の同僚がすでにメールでやり取りしている」B社は「ホームページからの問い合わせを受けたことがある」C社は「これまでにまったく接点がない」など、さまざまな気づきを得て、新たな営業機会の創出につなげていくことができます。

代表的な機能をあらためてご説明します。これまでどおり、「Sansan」では人事異動情報やニュースの取得、メール配信や営業案件の管理、取引先のリスクチェックなどさまざまな機能を契約に応じて利用できます。また、外部のCRMやマーケティングオートメーションツールとの連携・統合機能などもあり、これらのリッチ化されたデータベースをより効果的にマーケティング活動などに活用することが可能です。

今後のスケジュール

今後のスケジュールです。プロダクト刷新における主要な機能は、来期の2023年5月期第1四半期中に出そろう予定です。具体的には、企業データベースの重要なパートナーである帝国データバンク社との連携強化を予定しているほか、Webサイトのお問い合わせ等の接点を可視化する機能の追加を予定しています。

新しいコンセプトをベースとした販売活動は2022年3月よりすでに開始しており、既存顧客のみならず新規企業からもよいフィードバックを得ています。

今回、これまでのクラウド名刺管理サービス「Sansan」から営業DXサービス「Sansan」へとコンセプトを刷新し、「営業を強くするデータベース」として機能強化を行います。これまでも当社は、提供するプロダクトのコンセプトを重視し、幾度かブラッシュアップしながら事業成長を実現してきましたが、コンセプトに「名刺管理」というキーワードを入れていないのは、創業以来初めての大きな試みです。

今回のプロダクト刷新をきっかけに、名刺管理にとどまらない価値を訴求し、来期以降の「Sansan」の売上高成長につなげていきたいと考えています。

連結業績の見通し

業績見通しについてご説明します。第3四半期までの実績はレンジに沿って推移しており、期初に公表した通期業績見通しに変更はありません。

以上でプレゼンテーションを終了します。ご清聴ありがとうございました。

質疑応答:月次トレンドやコロナ禍の影響、プロダクト刷新について

質問者:2点質問があります。1つ目ですが、月次のトレンドや新型コロナウイルス感染拡大の影響について、確認したいというのが大きな趣旨です。例えば「12月が少し弱かった」「2月のほうは強かった」というお話がありましたが、緊急事態宣言が明けていたり感染者数が少なかったりした10月から12月の状況と、直近の2月あたりの状況はどうだったのかについて知りたいです。

感染者数が多いと厳しいのか、コロナ禍が継続していること自体が「Sansan」の新規契約などにマイナスな影響を与えるのか、そのあたりを理解したいと考えており、新年度は今年度に比べて成長率が回復するのか、今よりも低くなってしまうのかという見方のヒントになればと思っています。主に「Sansan」に関して、新型コロナウイルス感染拡大の影響と月次の動向について教えてください。

2つ目に「Sansan」のサービスを刷新することについて、帝国データバンク社の情報などを取り込んで顧客企業の社内データの幅が増えるところが肝だと思っています。こちらはどのような企業向けのものになるのでしょうか?

端的に中小企業、大企業などという規模感はどうなのか、営業部門が採用するのかなど、どのあたりが狙いになっているのか、また、結果としてARPUが上がるものなのか、御社にとっての契約企業数、件数が増えるということなのか、御社の目指していることについても教えてください。

橋本:1点目のコアサービスの「Sansan」に対する新型コロナウイルス感染拡大の影響ですが、トレンドと言いますか、影響としては第2四半期の時点とあまり変わっていないと思っています。

我々は「Sansan」の成長率を最大化させるために、小規模な企業への営業活動から、ミッドマーケット、エンタープライズへと12月時点でリソースをシフトしています。その前から、大きな受注案件を取りにいくという体制に徐々に移行してきているのですが、やはり大きな企業であればあるほどリードタイムが長く、受注を取るまでの期間が相対的に長いということがあります。

昨年、2021年の1年間を振り返ると、東京オリンピックを挟んで年間の3分の2くらいが緊急事態宣言期間で、残りの3分の1のうち半分くらいがまん延防止等重点措置期間であり、ほとんどがイレギュラーな期間になっていたと思います。

その期間中に「Sansan」を名刺管理サービスとして売りにいったとしても、「今はなかなか名刺交換しないんだよね」という会話が頻繁に行われていたと想像でき、その間のセールスについて、特に大企業・中堅規模向けのパイプラインが弱っていたと考えられます。

その部分が徐々に回復の兆しを見せ始めたのが2月、3月くらいだと思っています。2月の数字は良かったですし、3月は例年、お客さまの契約期間の更新にあたることが多く、解約も多いのですが、グロースの受注についてはかなり好調に推移しています。2月、3月の業績は第4四半期と来期に反映されればよいと思っており、プロダクト刷新と合わせて期待感を持っています。

名刺の取り込み枚数も、昨対比ではほぼフラットな状況になっています。2年前の3月は、コロナ禍が始まっていた時期に重なるところがありますが、そこから見るとフラット、もしくはややマイナスではあるものの、回復傾向というトレンドにあることは間違いないと考えています。

2点目のプロダクトの刷新については、名刺の取り込み枚数やコロナ禍の状況に左右されずに「Sansan」をあらゆるユーザーの方々に届けたいという背景があります。

新型コロナウイルス感染拡大の影響がないようにプロダクト刷新を行ったということも1つの背景としてありますが、今のところ、既存のお客さまには値上げを適用しない予定です。実際に営業活動した上で変更されることがあるかもしれませんが、基本的には値上げを行わないものとして考えています。

しかし我々は、今回刷新する価値を非常に強く感じていただけるのではないかと自信を持っています。そのようなお客さまに限って言いますと、例えば「Sansan」の有用性、価値が上がったということで利用を拡大してもらえたり、今まで特定の部門だけで使っていたところを広げてもらえたりと、そのようなことでARPUを上げられるのではと思っています。

同時に新規のお客さまで、「名刺管理サービスは使っていない」「最近は名刺交換していない」という方々についても、他のサービスなどに活用できるという価値があれば、「Sansan」のサービスを導入しようというモチベーションが湧くかと思います。既存顧客や新規顧客の解約、既存顧客のARPUの上昇も含め、あらゆるところに訴求できるのではないかと考えています。

今回追加した機能は、基本的には営業のみなさま向けです。これまでは「全社で使ってください」と訴求しており、これからは若干売り方が異なり、もう少しチューニングが必要な部分ではありますが、全社で使うことの価値は決して減ることがないようにしています。

今までと同じような価値を提供しつつ、営業のフロントにいるみなさま、特にBtoB営業を担う方々により価値を感じていただけるような刷新になっていると思います。

質問者:1点目について確認させてください。2月に改善してきたというお話は事実だと思いますが、2月はオミクロン株の感染者数が増えている頃だと思います。なぜその時期から改善傾向が見られたのか、認識されている背景があれば教えていただけますか?

橋本:2022年の年初から、東京ではまん延防止等重点措置が敷かれて営業活動を行いにくくなったのですが、昨年末時点は一定の経過措置期間になっていたため、営業活動しやすい側面もありました。また、世の中全体としてコロナ禍の収束が見えてきたことで、企業活動が行われやすくなっているとも思います。

感染者数と我々の事業活動が非常にリンクしているということはなく、世の中のセンチメントや企業活動、また、どのくらい商談ができているかなどという点とかなり連動していると思っており、感染者数は必ずしも重要なパラメータではないと考えています。

もちろん感染者数が増えると、世の中の企業のみなさまが心配になって商談を行わない、従業員を会社に来させないなどということもあると思いますが、基本的には感染者数よりも、センチメントや事業環境によるところが大きいと考えています。

質疑応答:プロダクトの付加価値・優位性について

質問者:サービス刷新に関して、御社にしかできない付加価値や優位性などについて、より具体的に教えていただけますか? 先ほど例で挙げていただいたことについては、すでに「Salesforce」等を使って顧客管理している企業であればできると考えています。

「名刺発」の会社があらためて営業向けのツールに進化することについて、おそらく御社にしかできないことはたくさんあると思っており、もう少し具体的な価値や雰囲気など含めて教えていただきたいです。

橋本:「Salesforce」単体との対比はなかなか難しいのですが、世の中のBtoB営業に関わるみなさまがどのように活動しているかというリサーチを参照すると、実際に商談に使っている時間というものは実はあまり多くないのです。

何に時間を使っているかと言いますと、商談の準備を行うのに全体の半分以上の時間を費やしているという実態があります。

準備の内容としては、例えば商談をした結果、お客さまの希望とマッチして案件が成立して「次にどこのお客さまに当たろうかな」という時に、お客さまの業種や規模、売上のサイズ、地域を含め、営業先を見つける作業には非常に時間がかかります。

そのようなデータベースを提供している会社もありますが、世の中の多くの営業のみなさまは「Google検索」でひたすらリサーチして「この会社は合っているかな」「ちょっと違うな」などという過程を繰り返し、なんとか営業先の候補を見つけてくるということがあります。

さらに、その候補について「うちの会社はこの会社と接点があっただろうか?」と社内に聞き回る作業も非常に負荷が高いものです。このような準備によって、営業のみなさまの膨大なリソース、時間が使われているという実態があり、これを補填できるのが我々のサービスだと思っています。

通常のCRM、SFA(セールスフォースオートメーション)だけではないということです。通常のCRMにおいては、名刺管理も同様ですが、接点がある顧客の情報しか存在しませんが、今まで接点がなかったお客さま、いわば潜在的なお客さまも含めてデータがあるということで、「このような会社にも売れるのではないか」という営業のシナリオや仮説ができます。

一方で、これも通常のCRMと同じですが、名刺管理サービスであれば、接点の有無は名刺交換したかどうかにより判別されるものでしたが、名刺交換していなくても、例えば「ホームページから問い合わせがあった」「過去に資料をダウンロードしていた」「セミナーに参加していた」「電話やメールでやり取りした」などあらゆる接点を可視化することで、候補となる企業に対して「どの部署の誰がこの企業を知っている」という情報を社内で収集することが容易になります。

そのような商談以外の活動、下準備を極めて効率的に「DXする」というものが今回のプロダクト刷新の意義であり、価値であり、訴求ポイントになるものと思っています。

質疑応答:「Sansan」の営業体制について

質問者:「Sansan」の売り方に関する質問です。来年度は3割くらいの増収に回帰したいというフェーズだと思います。

サービス刷新に伴って、今までとは営業体制が異なってくると思うのですが、そのトランジションには時間がかかりそうですか? あるいは、あくまで既存の延長という捉え方で、スムーズに新サービスを売っていける体制になるのでしょうか?

橋本:やはりプロダクトの中身が変わると、営業の人員がそれに慣れなければいけないため、一定の時間はかかると思っています。また、対顧客の意味でも、今まで以上に価値を感じてもらうためには、より丁寧に説明しなければいけないと思っています。

世の中の潜在的なお客さまにとっては、「Sansan」といえば名刺管理というイメージがかなり染みついていると思います。そのため、そこをいかに変えていけるかが重要です。例えば、名刺管理ではなくて、「営業全体の困りごとを『Sansan』を使って解決できますよ」というような説明ができるかどうかが鍵になってきます。

このあたりをいろいろ試しながら進めているため、やはり一定の時間はかかると見ています。第4四半期の間にものすごく大きな成果を出すのはなかなか難しいと思いますが、機能拡充は第4四半期中に終わらせて、来期からは効果がフルで出てくるような体制に持っていきたいと思っています。

質疑応答:「Bill One」における請求書発行サービスのメリットと競争環境について

質問者:「Bill One」についてお伺いします。今までは請求書の受領サービスのみでしたが、発行サービスも始めるということで、あらためて、受領側だけでなく発行側もサービス展開することによって、どのようなメリットがあるのでしょうか? また、発行サービスは競合が増えてきていますが、御社の競争環境はどのように変化していくのでしょうか?

橋本:今年の年明けからほどなく、請求書送付機能をリリースし、今後は発行機能の追加も予定しています。これは、お客さまからの「受領もできるのだから発行機能もほしい」という純粋なニーズに応えて設計されたものです。

競争環境が激しいのは十分理解していますし、何も武器がなく戦っていくのは大変だと思っています。しかし、受領側のサービスも展開しているからこそできることもあるのではないかと考えています。

今はかなりシンプルな機能しか携えていませんが、機能拡充を図っていくことで、受領・発行どちらのサービスもあることが競争優位になるようにしていきたいと思っています。まだまだこれからの領域ですので、これからどのような方向性でどのような開発をしていくべきかを詰めていく必要があると思います。

質疑応答:ポジショニングと競合優位性について

質問者:すでに存在する競合のプロダクト、例えば「ユーザベース」「Baseconnect」「QuickWork」などが類似サービスだと思いますが、これらに比べて帝国データバンクの情報があることが御社の強みだとと理解しています。御社のポジショニングと競合の強みを考える時、この理解で合っているでしょうか?

橋本:正確なデータがあるわけではありませんが、世の中に存在している営業マンのうち、ほとんどの方がそのようなデータベースを使っていない現状があります。そのため、データベースを使っていない方に対してサービスを提供するという意味では、競合はほとんどいないと言っても過言ではないと思っています。

名前が挙がった企業とは、データを使って営業活動をするという意味においては競合する部分もあるのですが、我々のプロダクト刷新の強みは、未接触の企業のデータとそれらの会社と過去にどのような接点があったかというデータをどちらも提供できることです。この組み合わせがとても大事だと思っています。

片方のデータだけでは、営業マンが日頃感じるペインをなかなか解消することができません。どちらのデータも提供することが、我々として1つの競合優位性だと思っています。

質疑応答:他社のMAツールとの連携について

質問者:他社のツールとの連携についてです。御社のプロダクトの位置づけですと、CRMだけでもないしSFAだけでもない、どちらかと言うとMAに相当する部分の強化という表現が近いと思っています。先ほどのご説明の中でも「Marketo」の名前を挙げていましたが、他のMAツールとの連携も考えていますか?

橋本:今回の取り組みによって、新しく連携できる部分もあるのではないかと思っています。まずは社内で機能提供できるように開発を急いでいるところですが、MAとは非常に噛み合わせがよいと思っているため、連携についても前向きに考えていきたいと思っています。

質疑応答:「Sansan」のプロダクト刷新に伴う広告宣伝費について

質問者:「Sansan」のプロダクト刷新に伴う広告宣伝費の増加は見込んだほうがよいのでしょうか?

橋本:今期は特に想定していません。来期以降は検討中ですが、今期は年間で約35億円の広告宣伝費で着地すると思います。来期は「Bill One」もありますし、「Sansan」のプロダクト刷新もあるため、それによって増えると想定していますが、P/Lにものすごく影響があるような増加を示すわけではないと思っています。

質疑応答:「Bill One」の今後のARPUの増加傾向

質問者:「Bill One」について、この四半期のARPUが強かった印象なのですが、この先を考えた時も毎四半期でARPUが増加するボラティリティが出てきているのでしょうか? あるいは、大型のお客さまを獲得し続けられるなど、今後のARPUの増加傾向に関して教えてください。

橋本:「Bill One」のARPUのトレンドについて、お答えするのが非常に難しいのですが、受注はかなり好調で、規模を問わずいろいろなお客さまにご利用いただいています。

請求書の枚数制限を設けて無料でサービス提供しているお客さまもいるのですが、そのようなお客さまの中にも電帳法対応で有料プランに切り替える方もいます。ただし、そのようなお客さまはサイズがあまり大きくないので、ARPUを下げる要因になってしまいます。

一方、会社としては当然、売上成長のためにミドル・エンタープライズに攻めていきたいという思いもあります。そのため、受注金額、つまり「件数×受注単価」を最大化するという取り組みを引き続き行っていきます。

ARPUを上げるための明確な施策は存在しないと思いますし、そこに大きな意志は反映されていないと感じています。結果として、ARPUが上下する可能性もありますし、エンタープライズにフォーカスしている以上は、上昇傾向はもう少し続くのではないかと期待はしていますが、そのトレンドをもって大きな戦略を語る状況でもないと思っています。

質疑応答:次年度の売上成長率について

質問者:次年度の売上成長率について、現時点ではどのようにお考えですか? 今年度を少し超えるようなレベルなのか、あるいは売上規模が200億円超という中ではどうしても鈍化を懸念しておくべきなのか教えてください。

橋本:まさに来期の予算を策定する作業に入っているところですが、少なくとも2022年5月期は新型コロナウイルスの影響が一定程度あったと思っています。それがどれくらい払拭されるか見通しを立てるには早いですが、世の中のセンチメントを考えると経済活動は回復する前提でいますし、そこに我々のプロダクトの刷新が乗ってくるため、期待感は非常に高いです。

営業活動している中でも非常に感触がよいですし、その分が来期初めから寄与するのではないかと期待しています。成長率を今の水準から一気に上げていくのは難しいですが、少なくとも今期と同水準かそれ以上は達成したいと思っていますし、高みを目指して予算を策定しています。鍵となるポイントは、やはりプロダクトの刷新による「Sansan」の再加速と、「Bill One」の高成長の維持ですので、そこの精査を行っている状況です。

質疑応答:「Bill One」の潜在市場規模について

質問者:スライド13ページを見ると、有料契約件数707件に対してネットワーク参加企業が約3.2万社とのことですが、これは同じように増えていくのでしょうか? つまり、有料契約件数が60倍くらいになれば日本国内の企業全体にリーチするようなイメージなのでしょうか? 有料契約件数と無料ユーザーの総合的なネットワーク参加企業が約3.2万社ということなのか、市場規模の広がり方をつかみたいと思っての質問です。

橋本:ご質問の趣旨は理解しているのですが、感覚的な回答になってしまうかもしれません。現在の有料契約件数は707件ですが、それよりはるかに多くのお客さまに無料で使っていただいています。ただし、「そのお客さまがどれくらいの頻度で利用しているか判断するのは難しい」という注意書き付きで、そのようなサイズ感になります。

また、ネットワーク参加企業数については、実は裏側で名寄せしています。例えば、同じ人がA社とB社に請求書を送った場合、送付側の参加企業数は1社としてカウントしています。ネットワークの数が増えれば増えるほど重複する参加企業が出てくるため、リニアに増えていくことはあまりないと思っています。

質疑応答:帝国データバンクのデータについて

質問者:帝国データバンクのデータは一時的に買っているのですか? それとも、従量によって支払うのでしょうか? 原価への影響についても教えてください。

橋本:帝国データバンクとの取り組みについては詳細はお伝えできませんが、売上原価に関わってきます。そうは言っても、売上原価に数パーセントの影響があるような水準ではなく、インパクトとしては小さいため、会社全体のP/L、「Bill One」事業のP/L、「Sansan」プロダクトのP/Lを左右するような規模にはならないと思っています。

質疑応答:「Bill One」と「Sansan」の連携について

質問者:「Bill One」は請求書の発行側も受領側もサービス展開し、「Sansan」は営業DXを刷新をするとのことで、請求書の発行と販売管理などの営業管理のシステムは親和性がかなり高いと思っています。そのため、この2つの取り組みがうまくいくと、「Bill One」と「Sansan」は別のサービスではなくて、つながってくるのではないかと感じました。このあたりについて、いかがお考えですか?

橋本:おっしゃるとおり、我々は接点データベースを作っています。その接点の1つが請求書であり、あるいは「Contract One」というサービスで扱っている契約書です。Webから問い合わせがあり、メールで返信し、営業活動や商談をするという接点のみならず、そこから契約や請求が生まれるまで、企業と企業が出会うライフサイクルを一貫して「Sansan」で管理できる世界を構築できたらよいと中長期的には考えています。

質疑応答:来期のSansan事業の営業利益について

司会者:「第3四半期で達成したSansan事業の営業利益率について、来期も安定的に達成できるのでしょうか?」というご質問をいただきました。

橋本:「Sansan」プロダクト単体で見ると、かなり高いセグメント利益率を達成しています。そのため、広告費が少し増えたくらいでは毀損することはないと考えており、引き続き高い利益率を達成できると思っています。

「Bill One」については、今かなり投資しているため、営業利益ベースで言うとまだまだ赤字です。来期もその傾向は続くと思いますが「Sansan」と組み合わせて見ると、黒字は維持できるというのが今の見立てです。