材料事業 コアビジネスとしての自立化を目指して
滝澤和紀氏(以下、滝澤):機能性材料事業本部長の滝澤です。それでは、機能性材料事業についてご説明します。
当社材料事業は、資源、金属と並ぶコアビジネスとしての自立化を目指し、2019年4月に電池材料事業と機能性材料事業を分割しました。電池材料事業は成長戦略の遂行スピードアップに注力し、機能性材料事業は既存事業の収益力強化、および新事業の創成、インキュベーション推進にフォーカスすることで持続的な成長を果たしていきます。
機能性材料事業本部を支える3事業
当本部は、粉体材料、結晶材料、パッケージ材料の3事業部から成り立っています。粉体材料は、厚膜材料、熱線遮蔽材料、希土類磁石材料、ニッケル粉、合金材料などを、結晶材料は、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、光アイソレータ、ファラデー回転子などを、パッケージ材料は、銅・ポリイミド二層めっき基板とプリント配線板をそれぞれ製造、販売しています。
暮らしのなかにある機能性材料事業本部の製品
当本部が製造する素材は、スマートフォン、パソコン、通信機器、自動車などの電動部品や、窓ガラス、液晶テレビなど、私たちの暮らしの身近なところに幅広く取り入れられており、素材の面で日常生活、産業活動、社会のインフラ整備などを支えています。なお、このページでは同じ材料事業に属している電池材料の製品も併せて記載しています。
国内拠点
機能性材料事業本部は、住友金属鉱山本社に事業統括機能と営業・原料機能を持っています。国内の製造拠点としては、東京都の青梅事業所と愛媛県新居浜市の磯浦工場の2つの直轄拠点に加え、北は北海道から南は鹿児島県まで日本各地に関係会社を有しています。
これらの拠点の多くは、かつて住友金属鉱山が鉱山、製錬を営んでいたところに立地しており、これらの事業が閉山・閉鎖した後の地域の雇用、地域の活性化に貢献しています。
海外拠点
機能性材料事業の主な海外拠点としては、粉体材料事業が中国および台湾で厚膜ペーストや薄膜材料などの製造販売を展開しています。また、パッケージ材料事業は、韓国に販売会社を保有しています。私たちはこれからもワールドワイドな事業展開を進めていきます。
2020年度事業環境1
次に、本年度の事業環境についてご説明します。厚膜ペーストを生産する中国拠点については、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、当局からの指示により、旧正月明けに1週間ほど操業を一時停止しました。再開後の出荷は順調に回復し、現在はコロナ禍前の水準に復調しています。
車載、産業機械については、8月を底に徐々に回復してきました。スマートフォン関連製品については、年度前半に落ち込みましたが、5G関連市場が本格的に立ち上がり、足元では復調しつつあります。
本部全体で言うと概ねコロナ禍前の状況にまで回復し、出荷については、調整局面であった前年度を上回る水準で現在は推移しています。
スライドの右側に中国製造業購買担当者景気指数(PMI)の推移を示しています。2月には過去最低の値にまで落ち込みましたが、その後は景気拡大を示唆する50パーセントを上回る水準を継続しており、当本部の多くの製品の主たる市場である中国経済がいち早く回復してきたことを読み取ることができます。
2020年度事業環境2
事業部別の事業環境の概要はご覧のとおりです。粉体材料では、中国市場向け、テレワークによるパソコン、ゲーム機、5G基地局向けを中心にMLCC用、抵抗器用ペースト販売が堅調に推移しています。また、車載向け磁性材料、インク材料については、夏場を底に回復基調に転じています。
結晶材料は、5Gの本格化でスマートフォン向けLTLN基板が回復しました。光通信向けファラデー回転子、光アイソレータについては、データセンター、5G基地局向けの販売が堅調に推移しています。
パッケージ材料では、テレビ用液晶パネルの出荷台数が堅調に推移しています。また、スマートフォン市場も回復し、二層めっき基板の出荷も夏場を底に復調しています。また、車載関連が動き始め、産業機械市場も中国の携帯、5G関連が好調です。
5Gと機能性材料事業
続いて、5Gと機能性材料事業の関連についてお伝えします。現在、情報通信の5G化が社会の変革を加速させています。利用される領域も拡大しており、世界の経済成長の推進力の1つになっています。通信インフラの5G化に伴い、電子機器には高密度実装と高信頼性が必要となります。また、材料メーカーには、小型化、高精度化、軽量化、複合化、熱対策などの要素を高いレベルで実現する材料の開発、提供が求められています。
ご覧のとおり、私どもが作る製品は、情報通信、モバイル、車載・産業機械など、多くの成長分野に向けて多くの素材を供給し、5Gがもたらす社会価値創造を素材の面で支えています。私たちは、お客さまとともにニーズを先取りした製品開発で社会の変化の最先端を歩んでいきます。
機能性材料事業が目指す姿
続いて、「機能性材料事業が目指す姿」をご説明します。私たちは、「いつの時代もニーズにこたえる素材技術力を磨き続け、高い収益性とトップクラスのシェアを確保している、それぞれの製品市場におけるトップランナー」を目指しています。
今年7月には、ファラデーローテーターを製造販売する株式会社グラノプトが経済産業省の「新グローバルニッチトップ企業100選」に選出されました。この「新グローバルニッチトップ企業100選」は、ニッチ分野で差別化を行いながら高い実績を上げている企業の中から、「世界シェアと利益の両立」「技術の独自性と自立性」「サプライチェーン上の重要性」などの観点で評価して選出されるものです。グラノプトは5G通信のインフラ構築に対する素材の提供で貢献したことが評価されました。
事業戦略1 事業ポートフォリオの構築
さて、目指す姿を実現させるためには、まず「事業ポートフォリオの構築」が必要になります。常に進化する時代のニーズにこたえていくために、各製品のライフサイクルを見定め、絶え間なく入れ替え、成長が期待できる製品に集中的に経営資源を投下していきます。「2018中期経営計画」では、2017年度から2025年度においてご覧のような製品群を「攻める製品」と位置付けています。
事業戦略1 成⻑する製品群
「2018中期経営計画」で「攻める事業」と位置付けた製品群には、省エネ、クリーンエネルギー、5G、自動車の電動化など、「時代の要請」があります。これらの分野・ニーズに最先端の素材を提供し続けることで、当本部は時代とともに成長を続けていきます。
成⻑する製品群の事例
成長の一例として、燃料電池向け「酸化Ni」と「日射遮蔽インク」の2つの製品をご紹介します。「酸化Ni」は、燃料電池の中でも大容量の工場、オフィスビルでの発電に適する固体酸化物形燃料電池(SOFC)の燃料極用途に期待が高まっています。私どもは、ニッケル鉱石から一貫生産できる強みを活かし、社会に貢献する新製品の実証実験に取り組んでいます。
また、当社が独自に開発した近赤外線遮蔽材料である「日射遮蔽インク」は、太陽光線の中で多くのエネルギーを占める800ナノミリメーターから1,200ナノミリメーター付近の波長の光(近赤外線)を選択的に強く吸収することができます。
例えば、これをフィルムにして窓材に貼り付ければ、明るさを保ちながら近赤外線のエネルギーを効率良くカットすることができます。これにより、室内あるいは車内の温度上昇を大幅に抑制することができます。
事業戦略2 新事業の継続的創成
私たちの目指す姿を実現するための第2点は、新事業・新製品を絶え間なく創成していくことです。そのための仕組みとして、弊社の技術本部、電池材料事業本部、機能性材料事業本部の協働で、新製品の探索から事業化提案までをカバーする「新事業創生システム」を展開しています。
加えて、今年10月には、粉体材料事業の製品情報発信サイト「X-mining」をグランドオープンしました。「X-mining」は、粉体材料事業の既存製品でビジネスチャンスが期待できる新領域に切り込むために、新分野・異業種との協業や融合も視野に入れたオープンイノベーション、共創(共に創る)思考に基づくマーケティングシステムです。
X-MINING(クロスマイニング)①
こちらは、「X-MINING(クロスマイニング)」のホームページトップです。機会がありましたら、みなさまも是非一度「X-MINING」にアクセスしてみてください。
X-MINING(クロスマイニング)②
「X-MINING」では、さまざまなキーワードで多くの採用事例を紹介しています。また、「吸収する」「防ぐ」「高める」などの機能別に検索できる機能も備えています。
2018中期経営計画の進捗1. 貼り合せSiC基板開発①
ここで、「2018中期経営計画」のトピックスについてご説明します。1つ目は「貼り合せSiC基板の開発」です。
SiC基板は、電力制御用、いわゆるパワー半導体の材料になります。特に、電気自動車やハイブリッドカーの駆動制御装置におけるエネルギー損失を低減できる材料として新たな市場の創成が期待されています。私たちの手がけるSiC基板は、単結晶SiC基板を多結晶SiC基板に薄く貼り合せ、多結晶基板を支持基板とすることにより、高額な単結晶の使用量を抑え、大幅なコストダウンを実現するものです。
2018中期経営計画の進捗1. 貼り合せSiC基板開発②
現在、SiC基板は貼り合せ基板のサンプルワーク中です。2021年度には民生向けに、また2025年頃には車載向けでの採用を目指しています。
2018中期経営計画の進捗2. 結晶材料 LT/LN
2つ目は、結晶材料のタンタル酸リチウム(LT)とニオブ酸リチウム(LN)です。これらの結晶材料は、スマートフォンなどの情報通信端末に組み込まれるSAWフィルターに用いられます。スマートフォンの販売台数はこれからも緩やかに成長を続け、さらに5G化によりSAWフィルターの使用数も増加すると見込まれます。
加えて、5G化の進展により、IoTの本格普及でSAWチップの新たな需要を掘り起こすことが期待されています。当社は引き続きLT/LNの主要な供給元として、市場において確固たるポジションを確保していきます。
以上で、機能性材料事業の説明を終了します。
質疑応答1:LT/LN事業における収益拡大について
司会者:最初に、「LN/LTは、積極投資した後に需要が低迷し、当初の狙いどおりにならなかったのですが、まもなく5Gのスマホの拡販で本格的な収益拡大局面に入ると思いますか?」というご質問を頂戴しました。
滝澤:当初の目論見どおりLT/LN事業が収益の拡大時期に入るかどうかというご質問ですが、私どもが2017年以前より増産計画を立てていましたLT/LN基板については、ご存知のとおり思ったような市場拡販に至らず、一時的に大きな損失を与えるような事態となりました。
先ほどご説明したとおり、足元や今後については、スマートフォンの販売台数は伸びていき、5Gという大きな成長エンジンを得ている状況です。5Gそのものは、LT/LN基板が搭載されるSAWフィルターの領域ではない高周波帯を主としたものですが、SAWフィルターの性能の向上により、これまでSAWが活躍できなかった高周波帯でのSAWの展開が伸びています。
加えて、スマホそのものの高機能化により、フィルターが搭載される1個あたりの個数も増えています。さらに、まもなく5GがIoTの浸透を加速させていく時期がやってくるということで、LT/LN基板を取り巻く市場環境は、今まさにこれまでの厳しい状況から立ち上がる局面を迎えていると考えています。
足元では、新型コロナウイルスの混乱状態からどのように立ち上がっていくかを見定める局面ではあると思いますが、底を脱して、出荷台数、出荷数量は伸びています。今は、これがどの程度までどのように伸びていくかを見定めているところです。いずれにしても、LT/LNが収益の大きな源泉になってくる時期はそう遠くないと考えています。
質疑応答2:「2018中期経営計画」で利益貢献する製品について
司会者:続いて、2つ目の質問に移ります。「現在の中期経営計画において、利益成長で貢献が大きいものをいくつか挙げるとしたら、どのような製品群になるでしょうか? また、具体的にどのようなかたちで伸びるかについて教えてください」というご質問をいただいています。
滝澤:「2018中期経営計画」での収益の伸びに寄与する製品群、事業は何か、その規模はどの程度のものか、というご質問ですが、「2018中期経営計画」において、どの事業、製品を伸ばしていくかについては、先ほどのプレゼン資料の中でも記載したとおりです。
個々の製品群、事業の利益の規模等については、申し訳ありませんがお話しすることはできません。ご覧のとおり、SiC基板のような市場のない、ゼロから立ち上げていく事業、あるいは、足元では若干遅れが出ていますが、LT/LN結晶材料事業のような市場の伸びが見込まれる事業を、収益の増幅の源泉と位置付けています。
質疑応答3:SiC基板について
司会者:次のご質問に移ります。SiC基板について3点あります。1点目は「既存のSiC基板と比較した時の優位性はありますか? コスト優位性がありそうですが、どの程度の優位性があるのでしょうか?」。2点目は「民生向けの用途は何を想定しているのですか?」。3点目は「SiC基板のみでエピタキシャル、SAWはどうするのですか?」というご質問です。
滝澤:我々が展開している貼り合わせ基板と、従来の基板とのコスト優位性はどうかというご質問ですが、ご説明したように、構造的に私どもの貼り合わせ基板は高額な単結晶基板の使用量を少なくすることでコスト優位性を持っています。その絶対的な、あるいは相対的な比較はなかなかできないのが現状ですので、この場でのご回答は差し控えます。
2点目の民生向けに関しては、用途はさまざまですが、まず私どもがイメージしているのは、発電などの電気をたくさん使う電力関係の分野です。
3点目のご質問については、現時点では私どものスコープには入っていません。
質疑応答4:SiC基板の一貫生産について
司会者:続いて、「SiC基板について、単結晶、多結晶基板も含めて一貫生産を御社で行うとの認識でよいでしょうか? またその場合、これからどの程度の投資が必要になりそうですか?」というご質問をいただいています。
滝澤:SiC基板の原料である単結晶、多結晶の調達、あるいは内製についてどのような構想かというご質問ですが、現時点では単結晶、多結晶ともに市中からの購入で賄っています。これらの内製化については、コスト削減のために将来的には検討を進めていきたいと考えています。その場合の投資額については、現時点ではまだ見積りが出せるところまでは至っていません。
質疑応答5:製品群ごとに目指す成長率と、投資タイミングの難しさの中での需給マッチングの工夫について
司会者:次の質問に移ります。大きく2つあります。1つ目は「5GやEV需要の拡大によって、製品ニーズなどの事業環境が変わっていくというご説明でしたが、粉体材料、結晶材料、パッケージ材料それぞれのトップラインで目指す成長率イメージを教えてください」というご質問です。成長率の違いということかと思います。
2つ目は「材料事業は投資タイミングが難しく、固定費の先行が収益の重しとなるケースが見られました。製品群は多岐にわたりますが、需要の伸びと供給力の拡充をマッチさせるための工夫や取り組みはありますか?」というご質問です。投資タイミングの難しさの中でのマッチングの工夫についてのご質問かと思います。
滝澤:1つ目の製品群ごとの成長率についてですが、製品ごとの成長率は、ターゲットマーケットの成長や、私どもが直接供給するお客さまのポジションなどもあるため、一概に決められるものではありませんし、見えるものでもありません。しかし、私どもが最低限達成しなければいけない成長率としては、少なくともエンドマーケットの部品の市場成長率以上を維持していくことだと考えています。
2つ目については、ご質問のとおり投資タイミングの見極めは非常に難しいものがあります。過去にも市場の立ち上がり待ち受けのようなかたちで投資し、結局長い間実現しなかったというような事例もありました。
なるべく複数のリソースから情報をとり、マーケットの立ち上がり時期、規模に関する精度を上げていくことは日常的に行っていますが、そのような中でも私どもの立ち上げのスピードが間に合わないような急激な需要の勃興もあります。
今私たちにできることは、設備の有効活用もさることながら、人材の流動的な展開、活用です。先ほどお伝えしましたが、私どもは国内の各所でさまざまな製品を扱っています。それぞれに繁忙度あるいは操業度という意味では濃淡がありますが、そのような中で、需要が急騰している拠点や製品に、比較的余裕のある製品を作っている拠点の人的資源を投入し、トータルとして人の稼働率、設備の稼働率を上げていくことは実践しています。