Amazonの財務・投資戦略

武田純人氏(以下、武田):ここからは、パネルディスカッションに移らせていただきます。3社とも上場マーケットにデビューしてから、というところでいうとまだ若い会社です。

なので、どんな会社の背中を見て、今の財務戦略・投資戦略があるのか。あるいはCFOとして、投資担当としてどんな会社さんをリスペクトをしているのかをおうかがいしたいと思います。では、寺田さんからお願いします。

寺田修輔氏(以下、寺田):ベンチマークしている会社は、事業と財務でそれぞれあります。事業に関して、Amazonがたどってきた、またはたどろうとしている道筋に当社の戦略は似ていると思っています。

Amazonはもとは本屋のアグリゲーターだったわけで、書籍情報をいろんなところから集めて、その書籍というのは、ユーザーの属性を知ることができる。

書籍を買う人の属性分析をして、家電も売ってみよう、日用品も売ってみようということをやって、どんどんユーザー情報がたまっていくので、そこから逆算して利幅が高い商品や売れ筋の商品を展開している。

最近では、PB(プライベート・ブランド)化して自分たちで商品を作ったり、(高級食料品店大手)Whole Foodsを買収したり、物流を買いにいったりということをやっています。

ユーザーが一番川下だとすると、そこから上って情報の網羅性や対象となる事業の幅を広げていくというのは、当社の事業展開の順序と類似性があるのではないかなと思っています。

当社のアグリゲーションメディアも、まずはいろんなメディアの方と連携してコンテンツ・情報をお借りして、それに引き寄せられてくるユーザーとのタッチポイントを高速で構築してきました。そして、そこで培ったユーザーを動かすテクノロジーやノウハウを活用して他の事業に進出しています。

AmazonはEC、我々はメディアですけれど、そこに何かしらのアナロジーを利かせられればなと思っています。

一方で、財務や投資に関しては、Amazonはキャッシュ・フロー経営で、会計上の利益にはあまりこだわらなくて、株主からもそれを許されている稀有な企業だと思いますけれど、実績の少ない当社には真似をしづらい戦略です。

私はもともとセルサイドのアナリストで、不動産業界を担当していたのですが、個人的に財務戦略のベンチマークにしているのは、上場REIT(不動産投資信託)のファイナンスです。

REITというのは、エクイティファイナンスをして、だいたいは調達した直後にその金額を使い切って稼働物件を買って、即時にキャッシュフローを増加させるので、エクイティファイナンスで新株を発行してもEPS(1株あたり純利益)やDPS(1株あたり配当)がダイリューション(希薄化)しないような仕組みになっています。

これを事業会社でやるのはなかなか難しくて、調達時のダイリューションと、そこから投資をして、リターンが生まれて、というところにどうしてもタイムラグがあるので、株主の方もたまたまダイリューションの時に株式を持っていたら株価が下がって運用パフォーマンスが悪くなった、といったことがあります。

REITの場合はあまりそういうことがないので、なるべく調達と投資と回収とにタイムラグが生まれないようなやり方をしたいなと思って、冒頭でご説明差し上げたような新株予約権のスキームを発案して実行しました。

武田:ありがとうございます。いきなりAmazonというすごい名前が出てきてしまったので、ほかの2人がすごくやりにくいのではないかと思いますけど(笑)。では、久保さんお願いします。

マイネットが意識する“弱者”としての戦い方

久保宗大氏(以下、久保):投資の観点で2社あげさせてください。1つは星野リゾートで、もう1つが日本電産です。正直なところマイネットという会社はまだまだ米粒みたいな会社でして、強者の戦い方ができるかというと、ぜんぜんできない状態にあります。

そのようななかで、弱者として、選択と集中、単一商材をひたすら掘っていく、その単一セグメントでNo.1を取るということを会社の方針として掲げています。

我々はM&Aという大きな言葉を使うよりも、ゲームを1つの商材として、どんどん仕入れた上でそれをバリューアップしていくと。

星野リゾートさんは、買い取った中古のホテルや旅館を、ユーザーにとって価値のあるものに仕立て直して、リノベーションした上で、適切にブランディングして、新たなユーザーを取り込んでいく。

こういった考えで、我々もゲームをどんどん仕入れて成長させていくことが基本路線にあります。

とはいえ並行して、大きいものも狙っています。そこで、どういったものを狙うかというときに、モーターを軸にして垂直統合を果たしていく日本電産さんのように、我々もゲームサービスを軸に垂直統合を図っていくとか、事業の撤退ニーズに合わせて、「我々と合流しませんか」というかたちで強者をどんどん吸収して、合従連衡を図っていくと。このようなことを意識してやっています。

武田:ありがとうございます。Amazonのあとは日本電産と星野リゾートというかたちで、おもしろいですね。柴田さんのお話にいく前に、財務というところで、ぜひ村兼さんにおうかがいしたいと思います。

マイネットの取締役として、ベンチマークというか、「この会社はすごいな」と思っていらっしゃる会社はありますか?

村兼躍氏(以下、村兼):マイネットの取締役 コーポレート本部長をしている村兼と申します。業態はぜんぜん違いますが、財務の観点から見ると丸井グループですね。実際にバランスシートを、規律をもって開示して、そこにコミットをして、経営を進めていくという方針を取っています。個人的に、丸井グループのやり方からは大変学んでいます。

武田:僕は丸井グループのバランスシートをあまり見たことがないので、これから勉強したいと思います。ありがとうございました。では、柴田さんお願いします。

世界最大のホテル料金比較サイト「トリバゴ」のPR戦略

柴田裕亮氏(以下、柴田):「これを参考にしています」というのはなかなか難しいのですが、「これはすごいな」という会社はいくつかあります。財務の観点でいうと、同じ旅行業界で、エクスペディア・グループのトリバゴさんが本当にすごいなと思っています。

当社も「AirTrip」というブランドを新しく掲げて、「誰もが知るブランド・サービスを作る」というのが経営陣の一番やりたいことなのですが、トリバゴさんは創業以来ずっとやってこられていて、5年前ぐらいにエクスペディア・グループさんに入られて、オーナーの方が60パーセントの株を手放されたと。

エクスペディアさんのグループに入って、ガンガンマスに広告を打たれ始めて、足元も今200億ぐらい赤字が残っていらっしゃいますが、昨年末に赤字のまま上場しています。

今、日本でCMを見ない日はないぐらい流れていると思いますけど、ここまでアグレッシブに展開できるというのは本当にすごいなと思います。

投資の観点でいうと、当社も大規模のM&Aはまだ経験がなくて、やはり一番難しいのはグローバルのM&Aかなと思っています。日本企業ですごく成功しているなと思っているのは、リクルートさんのIndeedの案件とか、サントリーさんの案件とか。

このあたりはカリスマの方がしっかりPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)も入っていらっしゃって、一方で、現場も経営も尊重しながらうまくバリューアップしていらっしゃって、非常に参考にしたい事例だと思っています。

武田:ありがとうございます。今、お三方からお話をいただきましたけど、今のお話を聞くと、「各社がやってることはこういうことなんだ」とすごくイメージしやすくなりました。

僕は事前に答えを聞いてなかったんですけど、すごくリアリティがあるというか、各社がやっていることが、解像度が上がって理解できました。みなさんもそうじゃないかなと思います。

逆に、ただ客観的に話を聞いていると、みなさんのビジネスの打ち出しや財務戦略はなかなかわからない気がします。

とくに株式市場というのは対話が必要ななかで、「わかってもらえない」という辛さがあるのではないかと思うのですが、そのあたりのストレスはありませんか? また、そこの溝を埋めるための努力はどのようなことをやっていらっしゃいますか? 何かお話ししたいことがある方からでいいのですが、いかがですか?

株式市場・投資家との対話は「数値で愚直に」

寺田:財務・投資に関しては、対資本市場では、数値で愚直にお話をするしかないと思います。

例えば、当社の場合2017年3月期末で約50億円の借入金がありますが、「なんで50億円も借りてるの?」と言われると、「調達コストが低いので、機動的に投資に動けるようにしています」という回答になります。

では、どれぐらい調達コストが低いのかというのは、開示資料をご覧いただければわかるのですが、例えば、「支払い利息が年間900万円弱しかない。それぐらいコストが低いです」と数字でお話します。

エクイティに関しても、「新株予約権はこういうスキームで」と細かく説明していけば、資本市場の方々とはある程度お互いに共通言語で話せるので、ご理解はいただけるかなと思います。

一方で事業に関しては、公表している資料には書けるものと書けないものがありますのでさらに丁寧な説明が必要です。

「人材だけやっていればいいのに、何で不動産や自動車をやっているんですか?」とか「最初はアグリゲーションメディアの会社だったのに、何でいつの間にか特化型メディアをやっているんですか?」と辛めに言われることがあるのですが、当社も軸を持って事業を展開しています。

例えば、人材、不動産、自動車というのは、それぞれに直接の連動性はありませんが、マーケットが巨大な既存産業だが、いわゆるピカピカの成長市場ではない。人材領域は最近構造的な成長市場に変わってきたような印象もありますが、不動産や自動車などはそういう産業です。

なので、逆に新規の参入者はそんなにいない。とくにテクノロジープレイヤーが多くないので、当社のようなテクノロジー企業が付加価値を提供できる白地が多く残っていると言う点で、人材、不動産、自動車という領域には共通項があると考えています。

「アグリゲーションメディアだけではなく特化型メディアも」という話も、事業展開の順序の問題です。

2社さんも含めて、多くのインターネットの会社や新興企業というのは、いろんなことをやっていても最終地点は同じで、インターネットや自分たちのサービスを通じて、「世の中をよりよく便利に」というところだと思うのですが、そのよりよく便利にいくための道筋が重要なのかなと思っています。

実績のない会社がいきなり「メディアをやります」と言っても、顧客もついてこないし、ユーザーもついてこないと思いますが、小さく始めてだんだんとポジティブなスパイラルを回していくことが一番勝ち筋だろうと思っているので、そこに関しては、説明を尽くしていくしかないのかなと思います。

その説明に対して、飛んだことをやらないというか、いきなり「ゲームやります」などと言い出すと話が変わってくるので、そういうことをせずに、信用残高を積み上げていくということに尽きるのかなと思います。

武田:ありがとうございます。ほかのお二人はどうでしょう?

個人投資家向けIRと機関投資家向けIRの違い

柴田:当社は上場してまだ1年強と間もないので、IRの経験もやりながらということにはなりますが、やはり当社のような上場間もない会社に対しては個人投資家の方々が圧倒的に多くて、そういった方々に対するIRと、機関投資家の方でも短期的に見ていらっしゃる方と、中長期的に見ていらっしゃる方とで、リアクションもぜんぜん違ったりするので、そのあたりの難しさは非常に感じています。

当社もIRのやり方として、2年後、3年後、5年後の姿というのをもう少し発信していく必要があるのかなと思っています。

単純に「足元こういうことをしたいので、じゃあ赤字に振ります」そういったことを言っても、「じゃあそのあとどうなるの?」というところが見えないと、みなさま投資家にとっては厳しいと思いますので、そういった将来の姿を、経営陣としてコンセンサスをとりながら、しっかりとIRに結びつけていくということをすごく考えています。

武田:久保さんはどうですか?

久保:私自身、マーケット向けに対応することはあまりないのですが、当社としても機関投資家の方々と積極的に会話をしていきたいということで、とくに本日のようなイベントを企画するといったフォローを積極的にやっています。

武田:なるほど。ありがとうございます。

M&Aの失敗事例

武田:では、次の質問をおうかがいしたいと思います。

いろんなものに投資されて、いろんなものを買われている3社ですが、調達したお金や稼いだお金を、意味のあるかたちで使うことはやはり難しいと思います。

ただ調達しただけで使わないというのは本当にもったいないし、そんなことはやめたほうがいいしと思うのですが、使っていくなかで失敗は必ずあることだと思います。

たくさんのM&Aをやられているなかで、学びになった失敗事例があればぜひ教えていただきたいのですが、何かありますか?

久保:2パターンほどありまして、1つは単純にデューデリジェンスに関するもので、事前の調査で現状の価値を適切に見極められなくて、仕入れ後に不測のものが出てくることが過去にありました。

もう1つは、我々はインターネット系ということで、結局無形資産になるんですよね。これといった固定資産がないなかで事業を買ってくるとなると、その価値を生み出す源泉はどこなのかというと、当然ユーザーであったり、システムでもあるのですが、それをオペレーションしていく人材に非常に価値の源泉があります。

買収自体は資本集約型で買収をしていくのですが、その後のオペレーション、PMIに入ったときには基本的に労働集約型で、1人当たりいくらぐらいの収益を生み出していけるのか。それが知識集約型になっていくことでより高い付加価値を生み出します。

39タイトルの知見が1つに集約して、どう展開できるかというところになるんですけれど、その「人」といったところを大事にしないと、サービス自体がガタガタになっていきます。

なので、一番大事なのはオペレーションをやっていくメンバーのケアであったり、メンバーが運営に誇りを持って気持ちよく事業をやっていけるということについては、一番失敗しないように気をつけてやっているところです。

武田:今の例はこのビジネスを始めて、けっこう早い段階で経験したことなんですか?

久保:人のところは、とくに早い段階でありました。というのも、単純な受託運営会社みたいになってしまうと、「どうしても上の人間に対して逆らえない」とか「こうやったほうがいいのにできない」とか、メンバーがどんどん疲れていきます。

そこを買収であったり、パートナーというかたちで入ることによって、我々もしっかり「こうあるべきだ」ということを主張してゲームサービスをやっています。

武田:ありがとうございます。柴田さん、寺田さんはそういった経験はありますか?

M&A後に重要な「責任の所在」と「管理体制」

柴田:いずれも過去からの学びなんですけど、今、当社がM&Aで気をつけていることが2つあります。

1点目は、当たり前ですけど「誰が責任を取るのか」を決めることですね。M&Aをして、親会社・子会社という関係性ではなくて、親会社でその事業を誰が主導的にやるのかを決めるということをかなり意識してやっています。

今、経営陣は執行役員を含めるとけっこう人数がいるのですが、そのなかで「これは誰が所管するの?」ということをちゃんと決めることが大事だと思います。

やはり経営陣が3人くらいで所管しながらやったりすると、責任の所在が曖昧になってしまうので、そこをしっかり決めた上で、KPI管理を含めてやっていくことが大事かなと思っています。

もう1点は少しミクロ的な話なんですけど、管理体制の構築が大事かなと思っています。やはり顔が見えないところにあると、経理・財務含めてルーズなことが起こりがちなので、今は親会社の見えるところで、数字や稟議状態などの細かいところを含めて見ていくということをやらせていただいています。

武田:ありがとうございます。寺田さんは何かありますか?

寺田:当社の代表的なアグリゲーションメディアは「アルバイトEX」という媒体で、「アルバイトEX」のお客さまの数は全部で30社ぐらいなのですが、リジョブが2014年9月に仲間入りした時に、いきなり数千社といったお客さまが入ってこられました。

我々も顧客資産がほしくてM&Aをしたのですが、そのあたりの管理のところ、売上債権の管理であったり、リジョブは採用課金ビジネスをやっているのですが、そこの採用から収益認識、資金回収までのオペレーションの回し方ですね。

数千社のお客さまに対するオペレーショナル・エクセレンスを利かせていくというところは、これまでのアグリゲーションメディアで主にユーザーを向いて、彼らを集めて動かすことに特化していたところからすると、だいぶ違っていて、勝手がわかりづらい部分もありました。

そのあとも個別の企業を数百社、数千社単位でお客さまとして抱えている会社をM&Aしていますので、「M&A前にどこを見ておくべきか」ということを意識したり、我々は「100日プラン」というものを必ずやっているのですが、100日間の中ですべきことを構造化・仕組み化して、リジョブで経験したようなオペレーションの改善プロセスが属人的にならないようにしています。

激化するM&Aマーケットへの備え

武田:ありがとうございます。セッションも後半戦になりました。 僕は先ほども申し上げたように、この3社が特別なことをやっているのではなく、M&A・財務戦略はもうトレンドだと思っています。

自分がいま見ているインターネット産業を中心に、この3社のようなストラテジーを実行してくる・真剣に考えてくる会社は、これから増えていくと考えるべきだと思っています。

だから今回、このようなセミナーをみなさんにぜひご紹介したいという思いがありました。

そう考えると、自分の中で不安に思うことが1つ出てきます。“ものを買う”ということが、1つの大きなコンテクストです。“ものを買う”と考えたとき、そこには当然、需給が存在します。

この3社がやっていることを知って、「あ、これだ!」と思いました。インターネット産業では、M&A・財務戦略が不可避的に行われていくと思っています。そのため、こういうビジネスストラテジーを走らせる会社が増えてくると、M&Aマーケットの需給関係が変わってくることを想定しなければいけないと思っています。

買いたい会社の値段が上がる可能性や、各社でやりたいこと・買いたいものがあるなかで、そのリスクに対してどう備えるのか。そこについてお尋ねしたいです。

あと、僕がよく思うことは、M&Aは金額だけでベットできるものではないということ。買いたい側もあれば、買われたい側もあります。自分たちが買収しているM&Aマーケットのなかで、「ぜひこの会社に買われたい!」と思われること。そういうブランディングが早く作れるのか? ということは、すごく大事な部分だと思います。

自分たちが今アドレスしているM&Aマーケットで、需給関係が競争激化することを考えるなかで、どのような備えをされているのか。あるいは、自分たちがどういうポジショニングを取って、選ばれる側になっているのか。

ここについて、ぜひ3社の考えを聞いてみたいと思います。なにかそういうところを感じていらっしゃる方、ぜひご意見をお願いします。

三光アドのM&Aに見る、じげんの強み

寺田:1つは、他の買い手候補と競合しないような強みをちゃんと持てるかどうか、というところだと思っています。

我々は、広い意味では「インターネット上にある広告サービス」です。多くの広告サービスは、いわゆるCPC(クリック単価)型。1クリックに対していくら、というものです。GoogleもFacebookも、CPC型が中心です。

それに対して当社は、応募、問い合わせ、採用といった、リアルなアクションに対してコミットをしています。それをレバレッジすると……先ほどから申し上げているような、顧客資産のところは、そのリソースを最も活かせる会社の1つであると思います。シナジーをちゃんと出せることが、1つの強みです。

もう1つはやはり、売主への口説き方といいますか。当社が過去にM&Aした8社は、すべて未上場の会社です。その売主の多くが創業オーナーの方々でした。そのオーナーの方々がご自身のお子さんのように育て上げた会社に、「ご一緒させてください」と言いにいくんです。

その時に、お金を積んでお願いする、というわけではありません。どうやったら、我々と一緒になったあとに業績を伸ばせるのか。また、リジョブやブレイン・ラボなど、過去に我々がM&Aしてきた会社が、どういうプロセスで伸びていったのか。そして、それが再現性があることなのか、構造化されていることなのか。このようなことを、誠意を持ってお伝えする。

直近では1月に、東海地方で一番大きい求人広告の、三光アドという会社をM&Aしています。社長の平尾と私と事業部の何名かで名古屋へ行き、そこのオーナーさんとお話ししました。我々は株式を取得する側ですが、分厚い資料を持参してプレゼンさせていただきました。「ぜひご一緒させてください!」と。

競合がいくつかありました。当社より高いプライスを提示していた会社もありましたが、オーナーの方に我々を選んでいただけました。

今後の方針も、やはり戦略性ですね。会社を手放そうと思っている方には、なにか理由があって。理由の多くは、戦略の行き詰まりです。「これ以上、自分たちだけでは成長できない」という問題意識を抱えていらっしゃる方が多い。

そこを解消できる提案ができれば、マーケットが過熱したとしても、必ずしもクレイジーなバリュエーションで買わないといけないというところに、追い込まれることはないと思っています。

武田:三光アドのケースはすごくシンボリックなM&Aのケースだと思っています。三光アドのもともとのオーナーの方が、「じげんさんにお願いしたい!」と一番思ってくれたところは、「じげんさんと一緒にやったら再成長できる」「なにか新しい成長のステージがありそうだ」というところ。そこが、ガチッとはまったわけですよね。

寺田:おっしゃるとおりですね。2つありまして、1つは事業のところです。三光アドは、折込チラシの媒体ですので、誰がどう見ても成長市場ではないなかで、彼らは独自の戦略でエリアを広げています。

実は、ここ5年間ぐらいで見ると、すばらしい業績を残しています。直近の売上高は20億円、営業利益は5億円くらいです。しかし、そこから先が見えないところだったので、我々がインターネットメディアで培ったノウハウを通じて再成長させる。

もう1つは、組織のところです。当社の過去のM&Aの中で、組織も含めて、だいぶ手を入れて変えてきた実績がありますので。引き継ぎ体制を含めてM&A後の組織体制を明示できたのは良かったのかなと思います。

武田:ありがとうございます。どうでしょう、ほかのお二人は? 今後競争が厳しくなるかもしれないという前提のなかで、あるいは競争しないという戦略も1つあるのかもしれないですが、どのようなことを考えていらっしゃいますか?

「旅行×M&A」で築いた独自のポジション

柴田:当社からは、旅行業界のお話をします。「旅行×M&A」と先ほど書いておりました。実は旅行というのは、我々のようなITを軸にしたデジタル的な要素と、一方でかなりアナログ的な要素があります。今でもお客さんがツアーに行かれる際は、デスクでface to faceでお客さんと話しながら旅行を選びます。

あとは、当社が行っている航空券の世界は、実は仕入れ面でけっこうアナログな世界です。航空会社さんと1つひとつ時間をかけて、リレーションを築いていく。そういった、けっこう手間暇がかかるものです。

そういう、手間暇がかかる地味・アナログ的側面と、一方でITソリューション部分。両方ともしっかり地道にやっていくことが、一番大事かなと思っています。

おそらく「買えばそこが単純に伸びる」というものではなくて。それをどうやって融合していくかが、一番大事かなと思ってます。それを1個1個積み重ねていくことが、当社の強みになってくると思っています。

足元でも、M&Aをやらせていただく・検討させていただく会社さんには、もう創業以来30年、40年という旅行会社さんがけっこうあります。平均年齢はだいたい50代ぐらいですね。

当社は平均年齢30代前半です。ジェネレーションが違う方々に対して、どうやって当社の魅力を伝えていけるかとか、どうやったら統合したあとにうまくいくかとか。そのあたりのコミュニケーションが、一番鍵になってくるかなと思っています。

武田:ちなみにエボラブルアジアさんの場合だと、そういうものを買いに行く現場で、どこかの競合とすごくぶつかることってありますか? あまりないですか?

柴田:意外とないかもしれないですね。旅行に関していうと、けっこう業界は狭いので。経営者同士が知り合いというケースが圧倒的に多いです。

何年前に会った吉村君(代表取締役社長・吉村英毅氏)とか大石君(取締役会長・大石崇徳氏)とか……そういう感じで出会うケースも多くあります。なので、最後は相対でいくケースも多い。競合しているケースは、今のところないですね。

トラディショナルな企業・世代の口説き方

武田:ありがとうございます。久保さんのところは、ジェネレーションの違いという観点で、先輩から買うより、同世代の人たちから買っているということが他社との違いかなと思いますが、どのような感じでしょうか?

久保:そうです。大きく分けて2つのお客さんがいると思っています。1つが、旧ゲーム会社系。要はコンシューマー出身の、昔からのゲーム会社さま。もう1つが、Web系出身の会社さまです。

Web系の出身会社さまは、わりとドライに意思決定をしてくれるので、経済合理性を軸に交渉がすごくスムーズに進みます。しかしコンシューマー出身のゲーム会社さまだと、「ゲーム愛があるか?」「ユーザーのことをどれだけ愛しているんだ?」「このコンテンツの魅力はわかっているのか?」という会話が多くなると、相当な理解や愛がなければ四苦八苦するところがありますね。そういうコンテンツ愛についても、我々は積極的に理解し、話をしている現状です。

武田:それは……マイネットさんは、ゲーム愛の露出の仕方・発露の仕方が半端ではない、ということでいいですか?

久保:えーと、コンシューマー系のゲーム会社さま向けには、ゲーム愛の露出の仕方が半端ではないです。

武田:(笑)。

久保:どうしても、事業的には左脳よりになってしまいますが、そこをいかに右脳的な部分を重視し、理解し、そして伝えていくかが、今の課題だと考えています。

武田:お三方に共通しておうかがいしたいことがあります。ベンチャーマーケットでリサーチしたり、成長企業を見ているなかで、表現として「ジジキラー」という言葉がありますよね。先輩経営者から、どれだけ引き上げてもらえるのかというところです。例えば、成長のドライバーにする。

久保さんのお話にもあったと思いますが、世代的にトラディショナルなゲームの大先輩から、いい意味で「お前に任せるよ」と言ってもらえる存在になるか。

寺田さんと柴田さんのお話でも、やはりその熱意に(後押しされたのかと)。右脳の部分と左脳の部分ではそうなのかもしれませんが、(経営を任せてもらえる)最後のところは、やはりそういう「この新しい世代に任せたい」という部分を、取ってこれるかどうかだと思います。

これは、例えばじげんの場合だと、やはり平尾さんのパーソナリティの部分が強烈だということ。それは当然、価値にするべきだと思います。このように、どの会社も属人的になりませんか? と聞きたいですね。

組織的に、事業を継続していくために乗り越えなければいけないことって、きっとあると思います。そのあたりはいかがでしょうか? ちょっと厳しい聞き方ですが……。

社内にカリスマ経営者を持つ優位性とリスク

寺田:おっしゃるとおり、やはり平尾という、オーナー兼社長だからこそ口説けたという点もあると思います。ただし、そこだけを競争優位としていると、再現性がありません。

先ほど申し上げた、ユーザーを集めて動かすテクノロジーは、個人に依存しているものではなく、当社が組織として持っているところです。

それと、例えば左脳的なところで申し上げると、追加で2つあります。1つは、バランスシートをしっかり見せること。先ほど、50億円の長期借入金によって投資の機動力を確保しているというお話を致しました。

エボラブルアジアさんも、借入のプレスリリースをされていたと思います。我々も新株予約権を発行したときに、行使額を全部合わせて100億円を超えるということにこだわりがありました。「キャッシュがこれだけあります」と、数字でしっかりお見せすることは、構造的に強いバイヤーとなるために重要なことだと思います。

もう1つは、多領域でビジネスを展開していることです。当社には大きく分けて、人材・不動産・自動車の3つの領域があります。また、ほかの領域でも小さい事業をやっているので、あらゆる業界に根を張っている。これを仕組みとして、案件数が多くなってきやすいのだと思います。

分母をできるだけ多く持っておくことは、属人的にならずにやれている点かなと思います。

武田:ありがとうございます。お二人とも……エボラブルアジアさんの場合、自分たちしか買う人がいないことと、世代的に勝ち残っているということで、もうリスクではないかもしれませんね。そういうことは、リスクになりませんか?

柴田:そうですね。そういう側面はあるかなと思います。タレントを、どれだけ会社内に持てるか。やはり(当社の)吉村・大石は創業以来、圧倒的なカリスマです。

この数年、当社にもいろいろなメンバーがジョインしてきています。(例えば)ベトナム法人を立ち上げた際には、薛(薛悠司氏)という代表がおります。この数年、例えば旅行業界などいろいろな業界から、経営陣に入っていただいています。そういうネットワークをどうやって作っていくのかは、けっこう大事かなと思っています。

先ほどIndeedの例ですと、リクルートに出木場さん(出木場久征氏)という、すさまじい方がいらっしゃる。その方が自ら買収の責任者となって、PMI(買収後の統合プロセス)に入られたということだと思います。

そのようにグループ全体として、タレントを外から取り入れたり、中で育てたりする。そういった(ネットワークの)育成も含めて、今後5年後10年後を見据えて取り組めるかが、今の課題であり、おもしろいところでもあると思っています。

構造化した組織・チームを作ることの重要性

武田:ありがとうございます。久保さんにもおうかがいします。久保さんがゲーム愛を語る現場をすごく見てみたいのですが、久保さんではなくても、ゲーム愛を語ることはできるのですか?

久保:担当者が同品質で語れるように、構造化を図っています。構造化や(特定のパーソナリティによらない)再現性の高いチームを作ることが大切だと思うのですが、今のところわりと属人的に、職人芸的になってしまう部分もあります。

我々はバイヤーですが、どちらかというとセールスマンという感覚の下で(交渉しています)。売却することに対する説得や、それにともなう交渉を、いかにきっちりとしたスピードを持ってやっていくか。

とくに相手の会社さんは、そういう経験を持っていないことが多いです。そこで、不安とか考える必要がないことをどんどん減らしてあげて、我々から推進していくところが、一番大事かなと考えています。

その上で、人間的に魅力的になる。ゲームのことも愛しているときっちり伝えることが、大事かなと考えて、今は交渉しております。

武田:ありがとうございます。ここまで、いろいろお話をおうかがいしてきました。今のところでまとめると、(競合に)勝っている会社には、やはり理由がある。

それも、まだ構造化できないやわらかいところに、この3社の強みがものすごくある。なんとなくみなさんにも、それを感じ取っていただけたのではと思います。

一方で先ほど、少しいじわるな質問をしました。「属人的になるかもしれないリスクについて、どう考えているのか?」についてです。実は、これも仕込みの質問ではなく、今いきなり聞きました。

それに関しても、やはりしっかりと意識されていて、それぞれ考え、なんらかの手を打とうとされている。構造化しようとされている。このあたりはやはり、もう新しい世代の経営だなと思いました。自分もかなり年を取った分、そう思います。

もう時間が数分しかないので、今日ご登壇いただいた3人のスピーカーに、最後にもう一言ずついただきたいと思います。せっかくなのでマーケット向けに、「俺らはこういう会社です」とアピールしていただきたいです。

可能な範囲でけっこうですが、「こういうことをコミットします」という思いをひと言ずついただいて、クロージングしたいと思います。それでは、寺田さんからお願いします。

さらなる成長を目指す3社のメッセージ

寺田:意図的にしつこく申し上げておりましたが、我々は構造化・再現性に、非常に強いこだわりがあります。

M&Aと事業のそれぞれを独立して行うのではなく、すべてを関連させて構造化する。また、再現性を持たせてやっていく。そうすることで、連続的な増収増益を過去も達成してきましたし、これからもやっていきたいと考えています。

武田:ありがとうございます。久保さん、お願いします。

久保:マイネットは、2年前は80名ぐらいの会社でした。しかし今は、600名を超える規模まで成長しております。この2年間、相当走り続けて、急激な成長をしてきました。

成長にともなって、売上や利益が拡大してきました。今まさに、1つの組織としてきっちりとした利益を出せる体制に、生まれ変わろうとしております。

ここから、さらに会社・組織として、どんどん拡大していくこと。ここに、我々はコミットしてやっております。引き続きこれからも、どうぞよろしくお願いします。

武田:ありがとうございます。それでは最後に、柴田さん。

柴田:当社の主要な事業はそれぞれ、今日なかなかお話ししきれませんでしたが……非常にいい事業環境にあります。そして、当社の強みになるビジネスモデルで、これまで数字をずっと伸ばしてきたと考えております。

今日私がお話しさせていただいた投資や財務の部分に関しても、今日お二方から聞かせていただいたお話も参考にしながら、よりブラッシュアップをして、しっかり成長に結びつけていければと思っています。

当社の共通のキーワードは「growth」、成長です。しっかり利益を成長するかたちで、投資家の方の期待に応えるように、やらせていただければと思っております。

今日は本当に貴重な機会をいただきました。お話しする機会を、ぜひまたいただければ幸いでございます。ありがとうございます。

武田:ありがとうございました。本当に長い時間、1時間半のセミナーでした。ランチのあとなので、普通ならけっこう眠くなる時間帯ですが、今日はまったく眠くならなかったと思います。僕、本当はあと1時間半とか2時間ぐらい、いろんなことを聞きたいなと思っています。

先ほど申し上げたように、いろいろな会社が、彼らを追いかけてくる。そこで、彼らが先を走る。自分が見ているこのインターネット周辺が、もっとリアルと融合・実装されていくフェーズに入ってくるのかなと思っています。

そのあたりにフラグやアンテナを立てて、産業を一緒に見ていただけたら幸いでございます。

今日はみなさん、本当にありがとうございました。3人のスピーカーの方にぜひ拍手をお願いいたします。

(会場拍手)