2025年12月期 第2四半期(中間期)ハイライト

上田隆之氏(以下、上田):株式会社INPEX代表取締役社長の上田です。本日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます。私から、事業活動についてご説明します。

上期の総括です。当期利益は前年同期比で109億円増加し、2,235億円となりました。ボラタイルな外部環境でしたが、増益を達成しました。これは、イクシスLNGが安定操業を継続できたことが大きかったと考えています。

2025年5月から7月の3ヶ月間は、月に12カーゴを出荷できました。このペースが3ヶ月続いたのは、当社の歴史上初めてのことだと思います。

下期も原油価格(以下、油価)や為替が非常にボラタイルで、予測は難しい状況ですが、安定操業をベースとして、通期見通しを3,700億円に上方修正しました。イクシスLNGは、下期にシャットダウンメンテナンスを実施する予定です。また、大きなマイルストーンとして、アバディのFEED作業開始を決定しました。

「米国や中東等における地政学リスクをどのように考えるか」ですが、スライド下段に記載のとおり、当社は現在、米国では操業や輸出を行っていません。したがって、直接的な影響は非常に限定的です。当社ポートフォリオはオセアニア・アジアを中心としているため、それほど大きな影響はないと考えています。中東のアブダビ事業も安定生産を継続しており、これまで大きな問題は発生していません。

油価は依然としてボラタイルな状況が続いていますが、上期を振り返ると、不安定な中にも一定の安定感がありました。上期が終わった時点で、平均油価はブレントベースで約70ドルと、予想以上に安定的で、高値を維持しました。今後の見通しについては、不確定要素が多い状況です。よく言われるように、米国のトランプ関税が世界経済に与える影響や、OPEC+による減産緩和の発表が油価の下押し要因になる可能性があります。

アジアの景気は依然として強いとの声がある一方で、ウクライナ戦争といった地政学リスクなど、不安定要素は続きます。ただし、先物市場では油価が大きく下落しているわけではありません。今後は緩やかに下がり、年末には65ドル程度になると想定しています。

このような条件下でも、当社は非常に安定した利益を見込んでいます。その背景には、中長期に財務構造を大きく変える要因がありますので、次にご説明します。

油価・為替調整後当期利益は着実に増加

当期利益の見方です。スライド左側には過去の最終利益を示しています。過去最高は2022年度の約4,600億円、次いで2024年度の約4,200億円、そして2025年度見通しは3,700億円ですが、油価高騰や為替の円安など、さまざまな状況がありました。

スライド右側をご覧ください。上期の油価は70ドル、下期は65ドルまで下がる見込みで、年平均はブレントベースで69ドルを想定しています。為替は年平均147円を想定しています。油価69ドル、為替147円を前提に、感応度を用いて過去の利益を簡易的に試算した結果、2025年度は過去最高の利益水準となる見通しです。

2023年度の利益が2,600億円と低かったのは、プレリュードや再エネの一過性の減損があったためです。ただし、基本的には右肩上がりの傾向です。2025年度の3,700億円も、油価・為替を調整すれば、非常に高いレベルであることがおわかりいただけるかと思います。

“Profit Booster 500” 中期的・構造的な利益基盤の強化

この背景として、「Profit Booster 500」があります。これは中期的・構造的な利益基盤の強化で、年間500億円程度、10年間で5,000億円程度の利益貢献を見込んでいます。

その要因は2つです。1つ目は、イクシスの有償減資に伴う為替差益です。ご存じのとおり、イクシスは現在、安定操業を実現しており、過去に豪州法人に投資した出資金が回収段階に入りました。さらには、アバディのFEED開始を予定しており、2年後の投資の可能性が高まったことから、準備資金を積み上げておきたいと考えました。そのため、豪州法人への出資の一部を東京法人に移す有償減資を行うことにしました。

この資金移動は連結キャッシュ・フローには影響しませんが、これに伴い、過去の投資により生じた為替差益がP/L上で実現します。金額は為替等により変動するものの、年間200億円を想定しており、長期的に実施していく予定です。

2つ目は、欧州・中東事業を中心としたインセンティブ効果です。先方との契約により詳細はお伝えできませんが、年間300億円程度のインセンティブ効果を想定しています。イクシスの有償減資に関する件は、今年になってようやく監査法人との調整が完了したため、中期経営計画等には含んでいません。一方、欧州・中東地域を中心としたインセンティブ効果については、一部が含まれています。

これら2つを合わせ、年間約500億円の利益増を想定し、それが今後10年ほど続くと見ています。今年は3,700億円のうち580億円がこれらから発生する利益となる見込みです。

“Profit Booster 500” 低油価・円高局面への耐性強化

別の角度からご説明すると、当社の稼ぐ力、つまり油価や為替変動に対する耐性は向上しています。

スライド左側のグラフは、為替を一定とし油価を変動させた場合、最終利益3,000億円を稼ぐために必要な油価を示したものです。昨年までは、為替147円で3,000億円を稼ぐには油価69ドルが必要でした。しかし現在は、年平均油価が56ドルでも約3,000億円の利益に達するということです。

スライド右側は、油価を一定とし為替を変動させた場合のグラフです。油価69ドルを前提にすると、昨年までは147円が必要でしたが、今後は122円でも3,000億円を稼げます。仮に低油価や円高であったとしても、油価や為替に依存せず、それなりに稼ぐ力がついてきたことが見て取れます。この力は一時的なものではなく、長期的に続いていくと考えています。

資金配分及びNet D/Eの見通し

資金配分についてです。中期経営計画では、株主還元や成長投資を中心とするとお伝えしていましたが、こちらのスライドでは油価69ドル、為替147円を前提に、今後3年間の当社のキャッシュイン・キャッシュアウトを想定しています。

探鉱前営業キャッシュ・フローは、中期経営計画では油価70ドル、為替135円で2兆2,000億円としていました。しかし、今年の平均油価・為替で換算すると、2兆5,000億円程度になる見込みです。加えて、約4,000億円の借入を想定すると、今後3年間のキャッシュ・インは2兆9,000億円程度になります。

これを何に使うかの内訳として、まず成長投資に1兆9,000億円を充てる予定です。中期経営計画では、「年間6,000億円×3年間」で1兆8,000億円を見込んでいましたが、現時点では1兆9,000億円程度になると考えています。株主還元は、中期経営計画時点の4,000億円以上から、現時点では5,625億円以上が可能と見ています。

また、アバディの待機資金は、FEEDとの関係から非常に重要と位置付けています。FIDを視野に入れ、4,000億円から6,000億円程度を準備していきたいと思っています。現時点の見通しでは、今年末までに、3ヶ月超の有価証券の残高が4,000億円程度となる見通しです。

なお、スライド右側に記載しているとおり、この運用を行っても、ネットD/Eレシオは0.4弱を維持する見込みです。この3年間でネットD/Eレシオが大きく悪化することは想定していません。

スライドには記載がありませんが、この待機資金は、アバディの開発が開始された際に投入することを想定しています。借入額は、アバディにどのくらいのコストがかかるかによって変わるため、明確にはお伝えできませんが、相当程度の借入の圧縮が可能と見込んでいます。

このように、当社は中長期的な財務構造に十分な自信を持っています。安定した成長、株主還元ができる体質になりつつあります。

株主還元

株主還元についてです。先ほどお話ししたとおり、2025年度は累進配当を前提に、中期経営計画で示した90円から100円に引き上げます。また、自社株買いは800億円規模で実施します。

投資家のみなさまからの配当に対する期待が特に高いと判断し、今年は配当に重きを置いた還元施策を採用しています。

事業活動トピックス/石油・天然ガス分野

事業活動のトピックスです。みなさまご承知のとおり、イクシスは現在、非常に順調です。シャットダウンメンテナンスは8月中旬から約1ヶ月半かけて、すべての機器を停止し、中を開けて点検を行う予定です。また、周辺探鉱はAC/RL7鉱区 (Cash Maple)をはじめとし、開発コンセプトの検討や解釈作業を継続しています。

アバディについて、中間期における最大のトピックはFEEDフェーズに移行したことです。FEEDとは基本設計であり、この作業は膨大な規模になります。全体にかかるコストは管理費等を含めてプロジェクト100パーセントベースで約10億ドル、日本円では1,400億円から1,500億円を想定しています。

設計作業ではありますが、大きな資金を投入し、4つの分野で進める予定です。1つ目は陸上(Onshore)LNG施設、2つ目は海底パイプライン(GEP)、3つ目はFPSO、4つ目は海底の井戸等のSURFと呼ばれる領域です。

このFPSOと陸上LNG施設は、デュアルFEEDという方式で、2つのコンソーシアムを競争させます。FEEDで優れた成果を示したほうに、引き続きEPC(建設作業)も担当してもらう想定です。そのため、陸上LNGとFPSOは2つのFEED、SURFとGEPは1つのFEEDを行い、合計6つを並行して進めます。先ほどお伝えしたとおり、費用は10億ドルと非常に大きな額で、当社だけでも日本円で約1,000億円程度を負担する膨大な設計作業になります。

このFEED作業と並行して、大きく2つの作業を進めていきます。1つはマーケティングで、我々はすでにさまざまなお客さまと話を進めています。アバディはアジアにある大規模LNGとして関心を集めており、Non-bindingながら、生産量を超える期待をいただいています。今後はFEEDの進行に合わせ、Non-bindingな購入契約をBindingな長期契約に移行させていきたいと考えています。

もう1つはファイナンスです。上流・下流とありますが、下流の陸上LNG施設は借入で、上流は出資で対応する予定です。銀行等からも、非常に良い評価を得ています。

先週、私はジャカルタを訪問し、FEEDの開始についてインドネシアのエネルギー大臣からコストリカバリー制度の合意を得ました。また、FEEDを進めるためにインドネシア政府の協力も得ることができました。インドネシアでは将来のエネルギー不足が見込まれており、アバディへの期待が非常に高まっています。むしろ「早く実施してほしい」との要望をいただいています。

今後は約2年かけて設計作業を本格的に実施し、マーケティングやファイナンスのストラクチャーを検討します。経済性を一定程度確保することを前提に、2年後の最終投資決定に向けて進める計画です。

アブダビに関しても、すでに生産能力の拡大計画が発表されています。当社もこれにアラインしており、当社としても中期的な投資が必要ですが、増産による収益が見込まれるため、大きな収益源になると考えています。

当面の話としては、ノルウェーでアセットを取得しました。また、インドネシアでも鉱区を取得しました。一言で言えば、このような取り組みを進めながら、中期的な基盤を確保していきます。

事業活動トピックス/低炭素化ソリューション、 エネルギー・資源分野での新たな挑戦

低炭素化ソリューション、エネルギー・資源分野での挑戦において、いくつかの大きな動きがありました。

1つは水素に関する取り組みです。当社は新潟県柏崎市で、ブルー水素・アンモニア製造の実証プラント建設を進めています。すでに試運転の段階に入っており、今年の秋からプラントの稼働を開始したいと考えています。

CCS関連では、首都圏CCSプロジェクトもあります。こちらはもともと先進的CCSプロジェクトに選定されていたものです。当社は関東天然瓦斯開発株式会社とともに「首都圏CCS株式会社」を設立し、この事業を進めます。本プロジェクトは国の資金100パーセントで実施され、今後1年かけてPre-FEED、FEEDを進め、井戸の掘削を行う予定です。

また、豪州のイクシス近郊では、ボナパルトCCSというCCSプロジェクトを進めています。これは、イクシスのCO2を埋めることを主な目的としていますが、井戸の掘削結果を踏まえると、将来的にワールドクラスのCCSになる可能性があると期待しています。

先日、このプロジェクトが豪州政府から重要プロジェクト(Major Project Status)に認定されました。これにより、豪州経済の発展にとっても非常に重要であると認識されたことになります。CCSは豪州国内だけでも約140の許認可が必要ですが、そのプロセスが非常にスムーズになると見ています。

電力関連分野(再エネ/電力周辺)では、豪州のPotentia Energy社を設立し、非常に順調に事業を拡大しています。先日、新たなアセットも取得し、当社が保有する総容量は約800メガワットに達しました。

以上がプロジェクトの進展です。

当社の収益基盤はかなり改善され、稼ぐ力がついてきたと感じています。中間期における大きなマイルストーンはアバディのFEEDです。これは今後2年間のプロセスを経て、2年後にFIDを目指します。

「アバディは理解できたが、その間の収益をどのように発展させるのか」という質問をいただくことがあります。その答えの1つは、先ほどお伝えした「Profit Booster 500」です。もう1つは、アブダビの生産能力拡大計画に沿った投資により、アブダビ事業の利益を向上させることです。さらに、インドネシア、マレーシア、ノルウェーなどの拠点でも増産を繰り返します。

このような構造により、中期経営計画の3年間においても安定した収益拡大を実現します。そしてアバディが生産を開始すれば、大きなブースターとしてさらなる成長を促します。これが、現時点での成長ストーリーです。本日は、この点をみなさまにご理解いただきたいと思います。私からのご説明は以上です。

決算ハイライト

山田大介氏(以下、山田):社長の上田がお話ししたとおり、我々は収益基盤を中長期的に強化できたと自信を持っています。

本日は足元のお話が中心です。上期の決算は、ご覧のとおり油価が前年同期比で12ドル下がりました。また、為替が円高だったにもかかわらず、当期利益は2,235億円となり、前年同期比で約100億円の増益でした。

この数値自体は、2022年が最も高い水準でした。しかし上期としては2番目の数値であり、それなりの決算だったと考えています。

主要な製品別売上収益

売上収益です。売上収益は減収となりました。原因は、原油が8,921億円から7,801億円、天然ガスが2,813億円から2,514億円と、いずれも減収だったためです。

販売量はあまり変わりませんでしたが、油価とガス価格の下落による販売単価の低下、さらに為替の円高も影響しました。その結果、売上収益は減収となりました。

親会社の所有者に帰属する中間利益 実績分析 (2024年12月期中間期 vs. 2025年12月期中間期)

ウォーターフォールチャートの左側をご覧ください。2024年12月期の2,125億円が、2025年12月期には2,235億円となっています。売上収益の減少は、先ほどお伝えしたとおりです。原価については、ロイヤリティがやや減少しました。

特に大きかったのは、探鉱費です。昨年、Bassett Deep(バセットディープ)でドライホールが発生しました。その分が戻りました。また、持分法損益では販売単価が下がったことにより、イクシス下流事業で若干のマイナスとなりました。

なお、法人税の戻りは935億円です。このうち利益に連動した分は約700億円でした。例えば留保金課税や外税控除の活用など、利益に連動しないものが200億円ほどありました。

税率の高い国での減収が大きかったことが影響しました。そのため、法人税の戻りが大きくなりました。

2025年12月期 業績予想

業績予想についてご説明します。社長の上田からもお話ししましたが、油価は69ドル、為替は1ドル147円と見ています。

売上高は約2兆円、営業利益は1兆円を超える見込みです。当期利益は3,700億円としています。5月予想の3,000億円に対し、700億円の上積みで、23.3パーセント増となります。この数値は、先ほどスライドで示したように、油価と為替を調整した後では過去最高です。これは、我々のコンフィデンスを裏付けるものです。

また、ROICは7.1パーセントでWACCを上回る水準です。ROEについても、中期経営計画で「株主資本コストを上回る」とお約束したとおり、初年度は8.2パーセントを達成する見込みです。

親会社の所有者に帰属する当期利益 増減要因分析 (5月発表予想vs. 今回発表予想)

こちらのスライドは当期利益予想の増減要因分析です。外部環境要因はプラス239億円で、油価と為替を5月時点から上方向に見込んでいます。

イクシスには、好調な生産による販売量増や有償減資に伴う為替差益が含まれます。先ほど有償減資に伴う為替差益は年間で約300億円とお伝えしましたが、こちらでは5月見通し時点の230億円との差分(デルタ)を含んでいます。さらに投資インセンティブ効果についても、5月と8月の見通しの差分が事業要因に含まれています。

研究開発費は若干減少しました。スライドの一番右側に「G内ストラクチャー最適化等にかかる税金・税効果」と記載がありますが、豪州の探鉱会社を分社化し、撤退予定の鉱区を1つの会社が保有するようにしました。

日本法人がその会社に100パーセント出資しているため、解散時には本邦税務上の損が認識されます。つまり税負担減の効果を得られるということです。昨年は探鉱事業の失敗によって豪州税務上の損を認識し、本年は日本での損を認識しようとしています。その分がこの243億円に含まれています。

キャッシュ・フロー内訳

キャッシュ・フローの内訳です。探鉱前営業キャッシュ・フローは8,750億円です。投資キャッシュ・フローは7,030億円で、このうち4,670億円を成長投資に充てます。残りの2,360億円は3ヶ月超の有価証券に回し、将来のアバディの待機資金とします。

財務キャッシュ・フローは2,770億円です。このうち、株主還元に1,920億円を充てています。

成長投資内訳

成長投資4,670億円の内訳をご説明します。成長軸①はLNG事業を中心とした石油・天然ガス分野の維持拡大です。探鉱に560億円、新規案件取得(ノルウェーにおける油ガス田の取得等)に660億円を投資します。一番大きいのは既存施設の維持・更新・拡張で、イクシス・アブダビ等のプロジェクトに3,160億円程度を充てます。

成長軸②は、CCS・水素をコアとした低炭素化ソリューションで、CCS事業に40億円を投資します。また成長軸③として、再エネ・電力分野に約250億円を投資します。

中期経営計画で掲げているとおり、成長投資は投資規律を順守し、セレクティブに実施します。石油・天然ガス分野では、EIRR(Equity IRR)10パーセント台半ば、CCS及び再エネ分野では、EIRR10パーセント程度を投資基準とし、この基準を満たさない案件には投資をしない方針です。

セグメント別ROIC

ROICについて、連結の7.1パーセントは、WACCを超えた水準です。5月発表の予想からは約1パーセント上昇しました。

最終的にはイクシスのROICに連結のROICが影響を受けますが、ROICに関してはこのような数値を開示しています。私からのご説明は以上です。

質疑応答:アバディプロジェクトの進捗について

質問者:アバディプロジェクトの進捗についてです。現在、FEEDの開始と並行して、ファイナンスとマーケティングの検討も進めているとのことでした。重要なポイントとして、投資家も気にしているのがインドネシア政府とのコミュニケーションの状況です。この点がアバディを検討する上での大きな論点であると考えています。

これからの約2年間でFIDを目指す中で、マーケティング、ファイナンス、リターン確保のための枠組みを含めた政府とのコミュニケーション、この3点に絞った場合、プロジェクトを実現する上で、最大のハードルは何だとお考えでしょうか? 現時点で、タフな交渉が必要になるものについて、お聞かせください。

上田:最大の課題は、インドネシア政府及び地方政府との関係維持だと考えています。アバディプロジェクトは、リモートエリアに位置するグリーンフィールドのプロジェクトであり、それなりにリスクが高いことを踏まえて、それに相応する高いEIRR(10パーセント台半ば)を求めています。

今後の懸念としては、最近の市場環境の中で、アバディのコストが上昇する可能性がある点です。どの程度上昇するかは実際に進めてみなければわかりませんが、上昇すること自体は間違いないと思います。

IRRが低下した場合には、経済性についてインドネシア政府と再協議し、必要に応じて追加のインセンティブを受けるプロセスを取り決めています。具体的な受け方は、今後の協議次第ですが、経済性を調整するプロセスは、かなりタフな交渉になると見ています。

一方、インドネシア政府からは、「アバディをとにかく早く進めてほしい」という要望をいただいています。これは、国内のエネルギー需要が大きく伸びている中で、タングー等の他のガス田の生産減少が見込まれ、アバディの天然ガスが必要とされているためです。

このような課題はありますが、私は基本的に楽観的に捉えています。アバディの天然ガスは、非常に多くの方から必要とされています。アジアのガスは地政学リスクが少なく、距離的にも近いことから、中東や米国のガスと比較して非常に魅力が高いと言えますし、インドネシアにとっても重要な資源です。

ガスを必要とする人々、生産したい人々がいる以上、そこには必ず妥協点があると考えていますので、最終的にはなんとかできると考えています。

質疑応答:資金配分の考え方について

質問者:「Profit Booster 500」を経たキャッシュ・フローの配分についてです。使途は「成長投資」「株主還元」「アバディ開発準備資金」と整理されており、非常にわかりやすいと感じています。

この中で、アバディ開発準備資金として設定されている4,000億円から6,000億円のレンジについて、今期にも4,000億円が見えてきているとのことでしたが、このレンジ設定の背景や意図について教えてください。どの程度の投資を計画しているのか、可能な範囲でお聞かせいただけますか?

また関連して、成長投資は1兆9,000億円、株主還元は5,625億円以上を目指すかたちで記載されています。成長投資はこの範囲内に収めつつ、株主還元については収益次第でさらに上を目指すという理解でよいでしょうか?

上田:2018年時点で、アバディのコストは約200億ドル(20ビリオンドル)等の報道がありましたが、CCSの追加やコストアップを考慮すると、数十パーセントの増加が見込まれます。

アバディのファイナンスは、大きく上流と下流に分かれます。上流は我々を含む参画企業からの出資で賄い、プロジェクトに必要な金額の半分弱を占めるイメージです。一方、下流はLNGの基地(液化設備)を指しており、全体の半分強を占めます。この下流設備に関して、当社では「トラスティー・ボローイング」と呼ばれる、借入による資金調達方式を採用予定です。

現在の当社の権益比率は65パーセントですが、インドネシア政府との取り決めから、10パーセントを政府が指定するインドネシア国内企業に譲渡することが決まっています。そのため、最終的には50パーセント程度になると考えています。

これらを踏まえて全体の金額を考えると、当社が必要とするキャッシュは限定されます。そのうちの一部を賄う金額として、4,000億円から6,000億円というレンジを設定しています。

質疑応答:「Profit Booster 500」について

質問者:「Profit Booster 500」についてお聞きします。この中で、イクシスの有償減資に伴う為替差益200億円というお話がありました。金額は変動すると思いますが、今後10年間の累積が5,000億円とのことでした。これは少なくとも10年は続くという理解でよいでしょうか? それとも、10年以上継続する予定があるのでしょうか?

また、投資によるインセンティブ効果が300億円とかなり大きいため、もう少し具体的にご説明いただければと思います。

山田:有償減資については、昨年からご説明してきたとおり、会計処理について監査法人との合意が得られたため、正式に織り込んだかたちです。昨年までゼロだったものが、今年から計上されるということです。

会計処理が可能となった要因は2つあります。1つ目は、イクシスが投資回収段階に入ったことです。これが監査法人との協議で認められたため、資本金を東京に移動できるようになりました。

2つ目は、アバディのFEED開始により、本格的にアバディプロジェクトがスタートしたことです。アバディへの投資資金を豪州から日本に移す必要が生じたため、豪州から東京への有償減資を実施し、資金を振り替えることになりました。

イクシスへの投資は約85円(注:IFRS任意適用時に115円に変更)の為替レートで計上されています。現在の為替との差額が為替差益としてP/Lに計上され、今年は約310億円を見込んでいます。

ただし、無制限に可能なわけではありません。まず、為替と油価が一定の水準にあることが前提です。特に為替が重要でありますが、油価についても重要です。これは、上流会社と下流会社のフリーキャッシュ・フローを中間持株会社に移し、そこから有償減資を行う仕組みのため、そのフリーキャッシュ・フロー額が上限となるためです。

したがって、例えば年間3,000億円規模で実施しようとしても、不可能です。あくまでフリーキャッシュ・フローの範囲内でしか有償減資は行えません。それに伴う為替差益も、その範囲内となります。

為替換算調整勘定の残高と中間持株会社の資本金を見ると、10年間は問題ないかと思います。油価や為替の動向、フリーキャッシュ・フローの状況によっては、さらに継続する可能性もありますが、概ね10年間は有償減資に伴う為替差益を得られる見込みです。そのため、この10年間で2,000億円を見込んでおり、これが中期的な利益基盤の強化につながっています。

インセンティブ効果については、欧州・中東地域への投資を行う場合、一定のインセンティブが存在します。この効果は以前から発生していましたが、今後は前中計期間と比較した際の差分(デルタ)が増加すると見ており、それを年間約300億円と見込んでいるということです。詳細については、ご説明するのが難しいため、ご了承いただければと思います。

実際のキャッシュ・フローや投資計画などと掛け合わせると、今後10年間は続くと予測しています。結果として、年間約300億円、10年間累計で3,000億円となる見込みです。

質疑応答:ネット生産量の増加要因について

質問者:足元でネット生産量が増加しているように見受けられます。ベースの生産量が増えたのか、油価が下がったことで引取量が増加しただけなのか、状況を教えてください。

滝本俊明氏(以下、滝本):第2四半期(中間期)の生産量は67万3,000バレル oil equivalent per dayとなり、これまでで最も高い水準です。また、第2四半期だけでは69万バレル以上になります。年平均見通しは64万2,000バレルと、前年と比べておよそ1万バレルの増加となります。

これは油価下落に伴う引取量の増加によるものではありません。イクシスの生産量が第2四半期まで非常に好調だったこと、加えてアブダビが国全体として増産したことが主な要因です。年間でおよそ1万バレルの増加ではありますが、生産能力が向上しているとご理解ください。

質疑応答:有償減資と税金に関する議論について

質問者:イクシス有償減資について、我々投資家にとっては利益が増えるという意味で、好ましいと思います。しかし、有償減資を行うということは、利益が発生し、それに伴い税金も発生するのではないでしょうか? その税金に関する議論について、教えてください。

山田:おっしゃるとおり、為替差益が発生すると、それに伴い税金も発生します。両者をネットして最終的に約300億円の利益が見込まれます。

今後についてですが、当社の税務構造は、非常に複雑です。外税控除の関係があり、国内の損失がどの程度生じるかは見通しが立てにくい状況ですが、発生する為替差益に対するタックスマネジメントとして、税務上の損失を取れる箇所がいくつか存在します。

ただし外税控除の関係上、損失を取るタイミングを誤ると、期待したほどの効果が得られない場合があります。したがって、税務上の損失を効果的に活用しつつ、為替差益をできるだけ最大化することが求められます。

これは外部環境によって大きく変動するため、事前に詳細な計画を立てて実行することは難しく、やや自転車操業的な部分もあるのが実情です。今後も状況を見ながら、どの程度利益が出るのか検討し、それをマネジメントすることで、可能な限り税流出を避ける方向に持っていきたいと考えています。

質疑応答:「Profit Booster 500」と今後の運用方針について

質問者:「Profit Booster 500」についてです。油価や為替の状況によって成果は変動するため、500億円をコミットしたわけではないと思いますが、「Profit Booster 500」という名称は、500億円を意識しているのでしょうか?

また、有償減資による為替差益を考える際、為替水準や豪州からの資金の引き上げ額調整で毎年200億円の着地を狙う運用にするのか、今年の為替水準で考えた際に円換算で200億円相当となるようなドル金額での運用にするのかによって、日本円ベースでP/Lに反映される額は異なると思います。今後の運用方針として、どのあたりを意識していくのか、可能な範囲で教えてください。

山田:「Profit Booster 500」の名称について、「Booster(ブースター)」はロケットエンジンを指し、段階的に点火していく意味を込めています。「500」は、やはり500億円を意識したものです。

今期は580億円を見込んでいるものの、為替の影響や税務上の損失処理といった課題があります。ただし、今後10年程度を展望し、為替や油価が現在の水準に近い状況であれば、500億円は実現可能と見込んでいます。

有償減資に関して、豪州から日本に資金を移す方法として大きく3つあります。1つ目は、シンガポール経由で融資している借入金の返済に、フリーキャッシュ・フローを充てる方法です。

2つ目は配当、そして3つ目は有償減資になります。これら3つをどのように組み合わせるかによって、収益の額は変動します。例えば、返済や配当を緩やかにし、有償減資を中心に進める選択肢もあります。

この方法は、その時々の外部環境、為替、イクシスからのフリーキャッシュ・フローの額、東京で必要となる資金の状況などを考慮しながら行うことが可能です。500億円を目標に掲げている以上、その達成を目指しつつ、柔軟に対応していきます。

上限については、油価や為替、イクシスのフリーキャッシュ・フローが途絶えると資金移動ができないという制約があります。ただし、これらの条件を維持できていれば、収益規模は一定の裁量で調整可能です。今年の分を来年に持ち越す、または来年の計画をどう組むかについても、資金繰りを踏まえて調整できると考えています。

質疑応答:配当100円の意図について

質問者:配当100円に込めた思いについて教えてください。先ほど社長が「配当のほうが投資家からの評価が高く、配当の比率を意識した」とおっしゃっていましたが、「Profit Booster 500」の水準を意識されたのか、あるいは3,700億円という数字を意識されたのか、それとも総還元の中での比率を考慮されたのでしょうか?

「総合的に考えています」という回答になるかもしれませんが、御社が累進配当を宣言している中で、配当を100円にまで引き上げるのは、非常に勇気ある判断だと感じています。この100円に込めた思い、今後どのように配当を想定すればよいのか、その考え方をぜひお聞かせください。

上田:「なぜ100円にしたのか?」ということですが、おっしゃるとおり、最終的には総合的な判断となります。これまで当社は、自社株買いや配当について、いろいろな施策を行ってきましたが、1つ言えるのは、自社株買いを好む方が多い一方、実施してもその効果は限定的だということです。

現在、当社は個人株主が大幅に増加しており、安定的かつ累進的な配当を約束しているため、配当を増やすことへの関心が非常に高い状況です。こうした個人株主層を意識して、進めたいと考えています。

機関投資家についても、自社株買いを支持する理由の1つとして、税金負担がない点が挙げられますが、一方で配当を重視する投資家も少なくありません。これらを総合的に勘案し、今回は配当にさまざまなメッセージを込める意味で、当初の選択肢の1つであった「90円から95円」ではなく、10円増額の100円としました。累進配当方針により、少なくとも中期経営計画期間中は配当を下げることはしません。

当社の利益構造を踏まえると、この方針を実行しても、十分に賄えると判断し、今回はやや配当に重点を置くかたちとしました。なお、自社株買いも800億円規模で実施しており、まったく行わないわけではありません。全体のバランスを見つつ、今回の配当には一定のメッセージを込めています。

質問者:累進配当で減配できないというプレッシャーを感じつつも、自社株買いと配当の優先順位として、なるべく配当を重視していきたいという理解でよいでしょうか?

上田:当社は配当を還元の基本に据えています。ただし、配当は減額が難しいため、配当をベースとし、余裕がある時には補完的に自社株買いを行うというのが基本方針です。この方針は、今後も継続していく考えです。

質疑応答:アバディ権益比率に関する考え方について

質問者:アバディの出資比率や権益比率について、御社の考えをお聞かせください。イクシスの際には、マジョリティを保ちつつも分散させたいということで、トタール社も含めて権益比率を下げていった経緯がありました。

今回のアバディについて、地元側の10パーセントを除く権益比率に関して、イクシス時代と同様の考え方があれば、教えてください。

上田:アバディの子会社への出資比率について、直近までは当社とJOGMECがそれぞれ約50パーセントを出資していました。ただし、今後FEEDには多額の資金が必要であり、FIDにも費用がかかるため、出資比率のあり方は大きな課題です。

この件は、現在協議中のため詳細はお話しできませんが、FIDでは生産段階に近づくため、探鉱リスクとは異なります。したがって、当社として必要なリスクは、積極的に取っていく方針です。おそらく当社の出資比率は、50パーセントから大幅に増加すると見込んでいます。

権益比率については、現在は当社が65パーセント、プルタミナ及びペトロナスが合わせて35パーセントを保有しています。ただし、インドネシアの法律により、10パーセント分は「インドネシア・パーティシパント」と呼ばれる、インドネシア政府が指定する国内企業に譲渡することが決まっています。この10パーセントは、当社・プルタミナ・ペトロナスがプロラタ方式で譲渡する想定です。

さらに、イクシスと同様、ポテンシャルバイヤーから上流権益への関与の意向が示される場合があります。そのため、0.数パーセントから数パーセントの範囲内で、一部を譲渡する可能性もあります。

これらJOGMECとの関係、「インドネシア・パーティシパント」への譲渡、バイヤーの意向などを勘案した上で、最終的な権益比率が決まります。当社の権益比率は、最終的には半分(50パーセント)程度になると考えています。

質疑応答:成長投資の増額と単年度の期ずれについて

質問者:成長投資の考え方についてお聞きします。今回の3ヶ年見通しでは、従来の1兆8,000億円から1兆9,000億円へと増額されています。一方で、今年度のキャッシュ・フローを見ると、成長投資は1,000億円ほど減少している状況です。

成長投資の累計金額が3ヶ年で増額となっているのは、御社の投資規律に合ったプロジェクトがしっかりと積み上がった結果だと思います。ただし単年度で見ると、期ずれによる減少があるように見受けられます。現時点での成長投資に向けた方針について、フォローアップをお願いします。

滝本:成長投資を増額した主な理由は、為替換算の変更です。135円から147円に換算したことで、同じ投資額でも日本円換算では増加するため、その結果が数字に表れています。

期ずれについてですが、今年実施予定だった案件が来年に繰り越される見通しで、1,000億円弱が該当します。全体としては、年間約6,000億円の成長投資を見込んでいますが、新規の油ガス田の取得が遅れており、その分が来年に期ずれします。

トータル3年間では、中期経営計画の目標どおり、1兆8,000億円から1兆9,000億円の成長投資を実施していく考えです。今年の成長投資がやや少ないのは、この期ずれ分のためだとご理解ください。