はじめに

今回から15回にわたって「株式投資をはじめよう! 基礎から学ぶ「決算書・株価チャート」の読み方ガイド」を連載していきます。本連載では、個別株に興味がある方・個別株への投資を検討している方に対し、投資先企業選定において重要となる決算書および株価チャートの読み方の解説を中心に、株式投資の基本知識や売買の心構えなどに関しても紹介していきます。

そもそも「株」とは何か

株式投資において売買対象となる株とは、何でしょうか? 会社が発行する株式のことを略して「株」といいます。株式を発行している会社だから、株式会社といいます。

株式会社は、事業資金を集めるために「株式」を発行します。最初は会社を設立した時です。会社を設立するために創業者たちがお金を持ち寄って会社に出資し、会社は株式を発行します。そして事業を成長させる重要な局面で、株式を発行して資金調達を行い、その資金を活用して事業を拡大していきます。そうして上場まで漕ぎつけた会社が、私たち個人投資家の売買対象となっている上場会社なのです。

株式を購入した人は、その会社の「株主」となります。日本で株主数が最も多いのがNTTで、株主数は268万人(2025年3月末)とのことです。株式は基本的に100株単位で購入するのですが、NTTの株式は1株150円ほどなので、100株でも1万5,000円ほどです。200万人以上の人が持っていて1万5,000千円で始められるなら、株式投資の初心者でも「ちょっと買ってみるか」と挑戦しやすい金額ですよね。

株主になるとは、どういうことでしょうか? 株主は、その会社の「(部分的な)オーナー」です。オーナーというと、たった1人の大株主をイメージしてしまいますが、それは上場していない中小企業のイメージです。上場企業は、たくさんの個人投資家や機関投資家、そして経営陣など、たくさんの人たちが株主であり、それぞれが「(部分的な)オーナー」なのです。オーナーですから、会社の利益の一部を配当金として受け取る権利や、経営に関わる議決権を持っています。

例えば、あなたがトヨタ自動車の株式を持っているとしたら、トヨタの部分的なオーナーということになります。もちろん、自動車の設計に口を出したり、工場に指示を出したりするわけではありませんが、配当金をもらえますし、株主総会での議決に参加できるなどの権利があります。

「株を買う」とはどういうことか

「株を買う」とは、株主になり、会社の部分的なオーナーになる、ということでした。 なぜ株式を買うのでしょうか? 株式を買う、すなわち株式投資をする目的は、主に次の3つだと私は考えています。

(1) 資産形成としての株式投資

多くの人が株式投資に興味を持つきっかけは、やはり「資産を増やしたい」という想いからでしょう。インフレに対して自分の資産価値を守る手段として株式投資は注目されています。

投資した企業が利益を伸ばし、配当を増やせば、株価の上昇や配当金の受取というかたちで、株主の資産は増加します。

もちろん、価格が下がれば損をするリスクもありますが、自分で企業を選び、長期的に保有することで資産を育てることが可能です。毎月少しずつ積み立てる「積立投資」や、NISA・iDeCoなどの制度も整っており、誰でも資産形成に参加しやすい時代になっています。

(2) 情報収集と学びとしての株式投資

株式投資を始めると、不思議なことに世の中のニュースが身近になります。為替、金利、半導体、物流、海外情勢、そして経営者の発言──どれもが株価に影響し、企業の未来とつながっているからです。

例えば、「自分が持っている企業の決算が良かった」だけで終わらず、「なぜ良かったのか?」「この企業の強みは何か?」「競合と何が違うのか?」といった視点で、自然と企業分析が習慣になっていきます。

つまり株式投資は、情報に敏感になるチャンスであり、経済・社会・企業活動を深く理解する場でもあります。「生涯学習」といえます。

(3) 応援(社会参加)としての株式投資

私が最も大切にしている投資の目的は、この「応援=社会参加」という側面です。株式を買うというのは、「この企業に未来を託したい」「この経営者を信じてみたい」と自らの価値観をもって社会に関わる行為ともいえます。

企業が社会で果たす役割は、単なる売上や利益だけではありません。働く人の生活、地域経済、環境対応、技術革新など、未来の社会そのものに関わっています。そこに対して、「ありがとう」「がんばって」とメッセージを込めて投資することが、「社会参加」といえます。

株式投資のやり方・流れ

株式投資を始めるためには、まず証券会社に口座を開設します。現在はネット証券が主流となっており、スマートフォンやパソコンから簡単に申し込むことができます。口座を開設したら、銀行口座から証券口座に資金を入金し、気になる企業を選んで購入するという流れです。具体的なステップは次の通りです。

  1. 証券会社の選定
  2. 口座開設の申込・本人確認
  3. 証券口座への入金
  4. 投資する企業の選定
  5. 購入(成行注文や指値注文など)

最近では、1株から購入できるサービスも増えており、数千円程度から投資を始められます。特に初心者の方は、自分がよく知っている会社、日常的に使っている商品・サービスを提供している会社など、身近なところから始めると良いでしょう。

株式投資は「やってみなくちゃ分からない」ことが多いですが、実際にやってみると「な~んだ、こんなシンプルなことだったのか」と感じると思います。株式投資の奥は深いですが、売買することだけに関していえば、とてもシンプルです。まずは少額でも実際に体験してみましょう。徐々に理解が深まっていきます。

株式投資のメリット

株式投資の主なメリットを3つ説明します。

  1. 株価の値上がり(売買差益)で利益が得られる可能性がある
  2. 株主優待・配当金を得られることがある
  3. 投資した会社の経営に関与する権利(議決権)を得られる

(1)株価の値上がり(売買差益)で利益が得られる

株式投資の代表的なメリットのひとつが「値上がり益(キャピタルゲイン)」です。これは、株を安く買って高く売ることで生まれる売買差益を意味します。

例えば、1株1,000円で買った株が1,500円まで上昇し、その時点で売却できれば、500円の利益となります。

値上がり益を得るためには、将来株価が上がる可能性のある企業を見つける必要があります。そのためには、業績、成長性、社会的なニーズとの一致、経営者のビジョンなど、さまざまな要素を見極めていく力が求められます。

短期での売買を繰り返すことも可能ですが、初心者の方には、長期で企業の成長を見守る中長期投資がおすすめです。企業の未来に共感し、その成長とともに利益を得ていく──これが株式投資の醍醐味です。

(2)株主優待・配当金を得られることがある

会社は利益を株主に還元するため、配当金や株主優待を提供することがあります。配当金とは、会社が得た利益の一部を現金で分配するもので、年に1〜2回支払われることが一般的です。

株主優待は会社によって特色があり、例えば外食チェーンでは食事券、鉄道会社では乗車券、製菓メーカーでは自社商品詰め合わせなど、実用的でうれしい特典が受け取れます。中には、株主限定イベントや特別なグッズの提供など、非売品を受け取れるケースもあります。

これらのメリットは、株価の値上がり益とは別の「もう1つのリターン」として、大きな魅力です。特に日本企業は株主優待が充実しているため、楽しみながら株式投資を続けられるきっかけにもなります。

(3)投資した会社の経営に関与する権利(議決権)を得られる

株主には「議決権」という大切な権利があります。これは、会社が開催する株主総会に出席し、重要な経営方針や取締役人事案などについて「賛成」「反対」の意思を示すことができる権利です。

株式の保有割合に応じて議決権の数は変わりますが、100株保有していれば、会社から株主総会の招集通知が届き、出席あるいは書面・インターネットでの議決権行使が可能になります。株主総会に出席して議案に投票するほか、経営者に対して経営方針などについての質問をすることも可能です。

株式投資のデメリット

株式投資のデメリットについても見ていきましょう。

  1. 元本が保証されていないため損をする可能性がある
  2. 海外の株式の場合は為替の影響を受ける

の2つを紹介します。

(1)元本が保証されず損をする可能性がある

株式投資にはリスクも存在します。最大のデメリットは「元本が保証されないこと」。つまり、株価が下落すれば、購入価格を下回って損失が出る可能性があるということです。

例えば、1株1,000円で買った株が業績悪化などで700円まで下がってしまえば、1株あたり300円の損失となります。このように、株式投資では値上がりの期待とともに、値下がりリスクも常に意識しておく必要があります。

しかし、リスクを正しく理解し、分散投資や損切りルールを取り入れれば、大きな失敗は避けられます。短期の利益を狙わず、長期的な視点で共感できる企業に投資することで、リスクを抑えつつ資産形成することが可能です。

(2)海外の株式の場合は為替の影響を受ける

米国株や欧州株など、海外企業に投資する場合には「為替リスク」も考慮しなければなりません。株価が上昇していても、円高が進んでしまえば、円に換算した際に利益が目減りしてしまう可能性があります。

例えば、1ドル=150円の時に1,000ドルの株を買ったとします。この時150円×1,000ドル=15万円の時価となります。その後、株価が変わらず1,000ドルのままだとしても、為替が1ドル=140円になってしまえば、時価は140円×1,000ドル=14万円となります。為替の変動により時価は15万円から14万円に減少してしまいました。

このような為替の影響は、個人ではコントロールできない要素です。ただし、長期的な視点で分散投資を行い、為替変動にも備えることができれば、海外株投資の魅力──成長性や高配当など──も十分楽しむことができます。

株式投資の始め方

株式投資を始めるための最初のステップは、「証券口座の開設」です。現在はSBI証券、楽天証券、マネックス証券といったネット証券が主流で、スマートフォンひとつで手続きが完了するようになっています。必要なのは、本人確認書類とマイナンバー。口座の開設費用や維持手数料は基本的にかかりません。

ネット証券間で提供ツールや画面の使いやすさに多少の違いはありますが、初心者のうちは大きな差を感じることは少ないでしょう。どこか1社に決めるよりも、まずは複数の証券会社に口座を開設してみて、実際に使いながら比較することをおすすめします。

また、もし「IPO(新規上場株)に当たりたい」という希望があるなら、野村証券、SMBC日興証券、大和証券といった対面型の証券会社も候補に入れておくと良いでしょう。IPOの主幹事になることが多く、割り当ての可能性が広がります。

一方で、セキュリティ面の備えも忘れてはいけません。ネット証券を利用する場合は、必ず2段階認証を設定し、不正ログイン対策を徹底しましょう。安心して資産を預けるためには、小さな備えがとても大切です。

こうして証券口座を開設し資金を入金して、企業を選べば、いよいよ投資がスタートします。最近では、1株から買える「単元未満株」の仕組みも普及しており、数千円から気軽に始められます。

最初の企業選びに迷ったら、「よく知っている企業」や「好きなブランド」の企業を選ぶのもひとつの方法です。企業の姿勢や理念に共感できるかどうか、自分の応援したい気持ちを重ね合わせると、数字だけでない投資の魅力を実感できるでしょう。

株式投資は、資産形成だけでなく、社会への参加でもあります。まずは一歩踏み出して、自分の手で未来に関わる実感を得てみましょう。

著者:日根野健(@hineken_al
YouTube「公認会計士ひねけんの株式投資チャンネル」
著書「世界一やさしいファンダメンタル株投資バイブル」
公認会計士の個人投資家。京都大学を卒業後、2003年、監査法人トーマツに入所、世界的な上場企業を担当する。2007年、独立。公認会計士事務所を開業。一方でアクションラーニング社を立ち上げる。同社では初心者投資家向けに、決算書をいかに株式投資に活用するかを中心に講義を行い、多くの個人投資家に実践的な知識を提供。「どんなに難しいことも、わかりやすく」の授業コンセプトは絶大な支持を得る。投資スタイルは、「決算書・IRなどから良い企業を見抜き、安く買って、持ち続ける」というファンダメンタルズ分析に基づく長期投資。