株式会社I-ne個人投資家向けIRセミナー
大西洋平氏(以下、大西):株式会社I-ne代表取締役の大西洋平です。私は、2007年の大学在学中に個人事業主として起業しました。スマートフォンの前のフィーチャーフォンがはやり始めた時代で、フィーチャーフォンのアパレルモバイル通信販売事業を行いました。
起業当初は学生でお金がなく、アパレルの仕入れなどのために融資を受けなければなりませんでした。国民政策金融公庫で300万円の融資を受けたのですが、その融資を受ける時に、学生ということもあり保証人をつけてくれと言われたのです。
佐田志歩氏(以下、佐田):そうですよね。融資がおりないですよね。
大西:そうなのです。それで父親に保証人になってもらったのですが、その直後に、土地を担保にとは言われませんでしたが、おばあちゃんも保証人に入れてもらえないかというようなことを言われたのです。
私のおばあちゃんが家の土地を持っているから、念のためにおばあちゃんも保証人に入れてもらえないかということでした。
かなり嫌だったのですが、背に腹は代えられないし、それがなければ起業できないこともあり、おばあちゃんに事情を説明して「起業するから、保証人のところに印鑑押してほしいねん」というようなことを話しました。するとおばあちゃんは、とてもうれしそうに、にこにこしながら印鑑を押してくれたのです。
別にだます気はないですが、おばあちゃんの厚意に、何とも言えない気持ちになりました。
佐田:万が一失敗したら、おばあさまのお家が取られてしまいますよね?
大西:そうです。深く考えられていなかったのですが、その時、「絶対に成功させてやろう」という思いが強くありました。
初めはうまくいったものの、アパレルは在庫を抱えなければならないこともあり個人事業では難しかったです。周りの人に「起業した」と言った手前、何とか稼がないといけないということで、昼は広告代理業として個人でさまざまなところに向けて「ホームページを作りませんか」と営業し、受注できたら芸術大学の友だちに作ってもらうということをしていました。また、それだけでは食べていけないため、夜はみんなに内緒で警備員のアルバイトをしました。
その生活を1年、2年くらい続けながら、アパレルのモバイル通信販売の成功事例を何かしらもう1回できないかということで始めたのが美容系のモバイル通信販売で、今のかたちが徐々にできてきました。
佐田:会社の立ち上げ時はそのような苦労話が多々あったのですね。
大西:多々ありました。
At a Glance
佐田:続いて、会社概要についてのご説明をお願いします。
大西:足元の実績でご説明すると、弊社のメインのカテゴリーのヘアケアは、日本で1位、2位を常に競う市場シェアを持っています。
また、美容家電ブランド「SALONIA(サロニア)」においては、ヘアアイロンも国内トップクラスのシェアを誇っています。
2020年に東証マザーズ市場に上場し、2023年に東証プライム市場に移行しました。上場来、高い成長率で増収増益を更新している会社です。
佐田:3年でプライム市場へ移行というのは、かなりのスピード感です。
スライドに掲載されているパッケージは、薬局やドラッグストアなどで目立つところにあるため、見たことがある方がほとんどかと思います。一方で、ヘアケア・美容家電と言えば大手企業が数多くあると思います。ベンチャー企業である御社がこのような実績を出されているのは、本当にすごいことだと思います。
その背景にどのような強みがあるのか、ぜひ後ほど詳しくうかがっていきたいです。
MISSION
佐田:続いて、御社の経営理念について教えてください。
大西:はい。「We are Social Beauty Innovators for Chain of Happiness」「私たちは、美しく革新的な方法で『幸せの連鎖』が溢れる社会の実現に挑戦し続けます」というミッションがあります。
このミッションができた背景についてお話しします。学生で起業したため、最初の経営の目的はと言いますと、大変恥ずかしいのですが、「お金持ちになりたい」「自由な時間が欲しい」というような気持ちでがんばっていました。そして、年商10億円くらいになりそれなりに利益も出て給料が取れるようになった時、自分は幸せだったのかと言いますと、けっこう虚しかったのです。
佐田:これほど成功したにもかかわらずですか?
大西:そうなのです。起業当初に目標としていたことが徐々に叶いだしているのに、自分はなぜこれほどまでに虚しいのかわからず、けっこう悩んだのです。その時から本を読み、さまざまな経営者の会に行くようになりました。
ある経営者の先輩に飲みに連れていってもらった時に、その当時の悩みを話しました。これだけがんばってきた、これだけ稼げるようになったのに、何か虚しくて、と言うと、その先輩は少し笑いながら、「お金を持って何かを買ったり、自由な時間ができたりする以外に、何か胸が熱くなる瞬間はあるやろ?」と言われたのです。
確かにそうだと思って、すぐにお会計を済まして夜のオフィスに帰り、私たちのeコマースの創業からのお客さまのレビューを全部見直したのです。
そこで、「SALONIA」のストレートアイロンを買っていただいた、中学生くらいの娘を持つお母さまからのレビューがありました。
それは、「年頃の娘がくせ毛を気にして学校に行くのを嫌がりだしていた時期に、御社の『SALONIA』のストレートアイロンが楽天のランキングの上位にあり、安かったので試しに買って娘にプレゼントしました。朝の数分でサラサラのストレートヘアになり、その状態が1日もつため、すごく楽しそうに学校に行くようになりました。本当にありがとうございます」というものでした。
そのレビューを見た瞬間に号泣してしまいました。
メーカーとして当たり前のことなのですが、自分たちが作ったプロダクトでお客さまの悩みが解決されたり、お客さまに少しでも幸せな体験をお届けできたと実感できた時、自分はこれほどまでに胸が熱くなるのだということに気づいたのです。
そして、先ほどお伝えしたミッション、「Chain of Happiness『幸せの連鎖』」を世界中に広げていけるような偉大なグローバルビューティーカンパニーを作りたいという思いに至りました。
佐田:そのようなエピソードがあったのですね。
御社は経営理念をかなり大切にされていると事前情報としてうかがっていたのですが、創業社長ならではの具体的なエピソードを聞くと、よりこの経営理念に納得します。そのような背景があったのだと、今、心を打たれました。
大西:ありがとうございます。
カテゴリーについて
佐田:続いて、御社が展開するビジネスについて具体的に教えてください。
大西:弊社は自社の研究開発員はいますが、工場を持たないファブレスメーカーです。
カテゴリーとしてはヘアケア、美容家電、スキンケア他の3つを展開しています。その中で一番大きいのはヘアケアで「BOTANIST(ボタニスト)」「YOLU(ヨル)」というブランドを持っています。
スキンケア他では、スキンケアをメインで伸ばしていっていますが、そのほかにも、「ReWEAR(リウェア)」という柔軟剤ブランドや目薬なども展開しています。このように、さまざまなカテゴリーで商品を展開しています。
佐田:競合が多くいそうなジャンルにも新規参入しているということですね。
大西:おっしゃるとおりです。
佐田:工場を持たないファブレスメーカーでも、研究などに力を入れることができるのですね。
大西:ファブレスのメーカーではありますが、研究開発員は複数名おり、大手企業でかなりの実績を積んだメンバーもたくさんいます。また、さまざまな大学と連携して開発を行っています。
佐田:スライドの画像にもある「TOUT VERT(トゥヴェール)」というブランドの化粧品、私は2年以上前からこちらの化粧水を愛用しており、もう少し大きいボトルの現品を定期購入しています。
2024年10月に「I-neがトゥヴェール社を買収する」というニュースを目にして、その時に私自身、「投資で推し活」という観点を大切にしており、自分の応援したい商品の株を買うというのを大切にしているということもあって、御社の株を買わせていただきました。
買収に至った背景やシナジーについて、後ほどじっくりとおうかがいしたいと思っています。
大西:ありがとうございます。もちろんです。
佐田:その前に、御社の売上の推移などについてご説明いただけますでしょうか?
連結売上高推移
大西:2017年まで急成長して、いったん踊り場を迎え、そこからまた成長していっている会社です。
2015年に「BOTANIST」を発売して今年で10年になりますが、それが大ヒットして、売上が倍々で急成長していきました。
さらに売上を伸ばすために第2の柱、第3の柱を作っていかなければいけないということで、仕組みがない中、大量に人を採用して多くのブランドを一気に作った時期がありましたが、そこで不採算ブランドが乱立してしまいました。
それまでたくさんのヒット商品を作って成長できた会社でしたが、まったくヒット商品が出なかったのです。不採算ブランドがたくさんできて、不良在庫もたくさん出るという、本当に大変な時期でした。
社員数は100名以内から300名ぐらいにまで一気に増え、組織は混乱し、多くの仲間が辞めていってしまいました。そのようなことが2017年、2018年頃にありました。
佐田:そうだったのですね。「BOTANIST」発売当初、バズが起きたのは私も覚えていて、本当にいたるところで紹介されていましたし、欠品で買えない状態も続いていたと思います。
御社は「BOTANIST」の会社と認識している方は多くいらっしゃると思いますが、私は株を買うまで、「YOLU」も同じ会社のものということを知りませんでした。
大西:よく言われます。
佐田:そうなのですね。
しかし、「BOTANIST」の後、さらにそれと同じくらい、もしくはそれ以上にヒットするブランドを作れる会社はとてもすごいと思ったのですが、それがこの数字にも表れていると思います。
2019年から再度成長フェーズに入っているということで、どのように社内を立て直していったのでしょうか?
大西:先ほどお伝えしたように不採算ブランドが多くでき、ヒット商品も出ず、多くの社員が辞めてしまうような状態でしたが、一番初めに実施したことは、当たり前の話なのですが、経営メンバーで猛反省しました。
何か悪いことがあると他責にしてしまいがちなのですが、まず、経営メンバーを集め、「私が悪い」と謝りました。この状況を作ったのは私だから、駄目なところを認めて変えていこうと私から伝えました。そのような中で、経営メンバーも「確かに、この状況を作ったのは自分たちだ」と認めました。
そこから徹底的に振り返りました。2017年までずっと成長してきていたのですが、それを言語化できていませんでした。私たちのヒットの作り方について徹底して振り返り、それを仕組み化していきました。これが1点目です。
2点目は、I-neらしい働き方、I-neらしい人材とはどのような人材かというのをみんなで言語化し、それをフィロソフィー、ミッション、そしてバリューに落とし込みました。
佐田:そうだったのですね。社長創業のベンチャー企業から、プライム上場企業としていろいろな体制をきちんと整備していったのですね。
大西:おっしゃるとおりです。
佐田:それによって、「YOLU」や「SALONIA」のようなヒットブランドを次々と展開されていったと思うのですが、そのような経営危機と社内改革を踏まえて再び成長フェーズに戻り、2020年に上場を迎え、上場来は増収増益を続けられているということで、大変頼もしいと思いました。
大西:ありがとうございます。一度も頭を打ったことのない会社よりも、上場前に一度大きく頭を打ったからこそ、そこから立て直した経験というのは本当に大きな資産だと思っています。だからこそ、例えば未来に投資する大切さ、組織を強くする大切さ、仕組みの大切さのようなことを覚えたため、ここは本当にI-neにとって大きな財産になったと思っています。
佐田:そうだったのですね。ありがとうございます。
ヒットを量産できるI-neの3つの強み
佐田:ここからは、御社がヒット商品を多数展開されている背景についてうかがっていきたいと思います。ずばり、御社の強みはどのようなところにあるのでしょうか?
大西:大きく3つあります。1つ目はブランド創出力です。ブランドを生む力に特徴があります。2つ目は「OMO」、オンラインとオフライン、そして3つ目はIPTOS(イプトス)という私たち独自の仕組みです。1つずつ詳しくご説明します。
強み① ブランド創出力
大西:ブランド創出力です。1つ目に、スライド左側に記載のコンセプト設計の部分です。その中でもまずは、アイデアです。やはり良い商品、ヒット商品を作る部分で言いますと、秀逸なアイデアが非常に大事だと思います。社内で年間1万個以上のさまざまなアイデアが集まってきます。
それをどのように絞っていくかというと、まずサイエンスで絞っていきます。サイエンスはどちらかというと大手的なやり方になりますが、さまざまな調査をして、良いと思ったアイデアをどんどん絞っていくという作業をします。
その中で、特に大手ではサイエンスだけで、例えば調査結果で一番良いものを商品化するパターンが多いのですが、私たちはサイエンスである程度絞った例えば10個のアイデアを、最終的に定性的にアートで判断しています。
創業メンバーや企画メンバーが集まり、「これってI-neらしいかな?」「これって調査結果はよいけど、本当にインターネット上で拡散されるかな? バズるかな?」「本当にお客さまの悩みを解決できるかな?」のようなところで定性的に判断して、アートとサイエンスをミックスして商品を出すところがブランド創出力の特徴になります。
2つ目は、クリエイティブの力です。デザイン力は本当に好評いただいており、「BOTANIST」は「パッケージがかわいいから買いました」というようなインターネットのレビューを多くいただいています。
社員400人強のうち約2割がクリエイターなのです。
佐田:多いですよね。
大西:ファブレスのメーカーで80名から90名のデザイナーがいる会社はかなり珍しいと思います。
だからこそ、例えばデザインのPDCAが大変速かったり、デザインの一貫性というのは非常に大事なのですが、商品のデザイン、広告のデザイン、そして店頭の販促物のデザインの一貫性がとりやすいという特徴があります。
佐田:大西社長のNoteを拝読しましたが、「BOTANIST」発売当初、中身が見えるシャンプーはなかったとありました。
大西:そうなのですよ。
佐田:もっとカラフルな商品ばかりだったというのを見て、そうなんだと思ったのです。
大西:まさにそうです。それもクリエイティブの力です。
佐田:2割いることは大事なのですね。
大西:強みの1つだと思っています。
「BOTANIST」のパッケージについては、社内で話し合ったのですが、透明のほうがすごくきれいに見えるし、おしゃれだし、シンプルで、他のシャンプーと並べた時に逆に目立つことから、「これはいけるのではないか」というのでこのデザインにしました。
佐田:思い返すと、少し前はカラフルで、ビビッドカラーのパッケージが多かったです。それをベンチャー企業である御社が初めて取り入れたというのは、本当にすごいことですよね。
大西:ありがとうございます。
佐田:最近は、AIも活用されていますか?
大西:おっしゃるとおりです。最近すごくAIが取り沙汰されていますが、それよりも2年くらい前から、AI活用によりクリエイティブを作っているため、ほとんどのクリエイターがAIのディレクションのようなかたちで、AIと一緒にデザインを作り続けています。ここは強みだと思っています。
佐田:より効率的にできるようになったということですか?
大西:おっしゃるとおりです。
3つ目は商品開発の部分です。今、OEM工場に外注して作ってもらっているとお伝えしましたが、全国で200社以上のOEMのネットワークがあります。例えば、「このカテゴリーであればこの工場が強い」ということで、それら工場とお話しして、一番パフォーマンスが高くてプライスもあう工場とお付き合いしています。
あとは、冒頭にお伝えしたように、大手企業出身の優秀な研究開発員がおり、OEMにこのようなものを作ってほしいと丸投げするのではなく、レベルの高い研究開発員がOEMと成分レベルでしっかりとディスカッションするため、クオリティの高い商品が作れます。
佐田:なるほど。自社工場を持たないファブレスメーカーでありながら、研究開発にもしっかり力を入れているということですね。
大西:おっしゃるとおりです。
佐田:そこは、まだあまり知られていない部分かもしれないですね。デザインの売りというのはみなさまもよく知っていると思いますが、中身にもしっかりこだわっているということですね。
大西:おっしゃるとおりです。ここはしっかりとPRしていかなければいけないと思っています。大学と共同研究で開発するなど、かなり力を入れて進めています。
強み② OMO(Online Merges with Offline)
大西:次は、OMO(Online Merges with Offline)です。オンラインとオフラインの力があります。
まず、「デジタルマーケティングのちから」については、冒頭にお伝えしたとおり、そもそもI-neはモバイル通信販売の会社で、デジタルマーケティングが非常に得意だったとはいえ、ヘアケアの領域はすでに大手の競合がたくさんいます。大手と広告費の高さで勝負すると、もう絶対に勝つことはできません。
佐田:CMを見れば一目瞭然ですよね。
大西:おっしゃるとおり、絶対に勝つことができないのです。したがって、私たちは限られた予算の中で、いかに効率的に私たちのブランド認知をしてもらえるのかをずっと考え続けてきました。
その中で何をしてきたかと言えば、インターネット上で広告を打つ「デジタルマーケティングのちから」の部分に継続的に投資を行い、力を入れて取り組んできています。
社長の私が言ってよいのだろうかとは思いますが、弊社には日本トップレベルのデジタルマーケッターが82名います。彼らは代理店とも連携しますが、自分たちの中でノウハウをためながらデジタルマーケティングのPDCAを回しながらさらに強くしています。これが「デジタルマーケティングのちから」です。
そしてもう1つが「オフライン配荷のちから」です。実は私が起業した当時は、ECで売れたものは「店頭では売れないよ」という時代がありました。
佐田:「どちらかだよ」ということですか?
大西:おっしゃるとおりです。「市場が違うから」という考え方があったのですが、私たちが「そんなことはないです」とお伝えしながら徐々に営業して置いていただき、「売れましたよね」と次々と実績を作って広げてきました。
創業から広げてきたオフラインの配荷店舗数についても、リーチ可能な店舗数で約6万5,000店舗まで配荷実績ができてきました。
スライドの図のとおり、eコマースだけではリーチしきれないお客さまにはオフラインでもリーチしますので、eコマースとオフラインの両方を混ぜて、多くのお客さまにリーチできることが私たちの強みだと思っています。
佐田:いまやどの店舗でも見かけますが、そこに至るまではかなりの苦労があったのですね。
大西:非常に苦労しました。
佐田:こちらのスライドにもありますが、確かに美容感度の高い美容開拓層の方は、まずSNSなどのインターネット上で情報収集をしますよね。そのようなパイオニア層と、ドラッグストアで実際に目に触れた商品を購入する美容マス層の両方にアプローチできるということですよね?
大西:おっしゃるとおりです。
佐田:これは大きな強みだと思います。
強み③ IPTOS(ブランドマネジメントシステム)
佐田:3つ目の強みは、独自の強みということで非常に気になりました。こちらはどのようなものですか?
大西:Idea、Plan、Test、Online & Offline、Scale、それぞれの頭文字をとって「IPTOS」と名付けた、弊社独自のブランドマネジメントシステムです。スライドに記載のとおり、アイデア、企画、そして、テスト販売、ECスケール・小売拡大などがありますが、この5つの背景にはさらに細かいゲートがあります。
例えば、アイデアであれば「この調査結果でこの点数以上が出たら次のステップに進める」「この会議体でOKが出たら次に進める」といったように、非常に細かくゲートが設定されます。
そのゲートによってどのようなメリットがあるのかというのが、スライド右下の部分です。まず1点目はリスクの抑制です。リスクを少なく、多くの打席に立つことができます。
例えば、eコマースでテストを実施して「このKPIは良くないね」「PDCAを回しても良くないね」となれば、私たちは撤退してしまいます。そのままオフラインに大きく流通させてしまうとリスクが多くなってしまうためです。
佐田:そうですね、在庫を抱えてしまうことになりますね。
大西:テストをしっかりと行うことで、リスクを少なく多くの打席に立つことができるのです。
2点目は、ヒットの再現性の向上です。先ほどご説明したゲートによって、今まで積み重ねてきた成功体験や失敗体験をすべてデータとして蓄積し、改善してきています。そのためどんどん商品が良くなり、ヒット率が上がっていきます。
3点目は、需要予測精度の高度化です。この「需要予測」はあまり使われない言葉かもしれませんが、私たちのようなメーカーでは非常に重要です。
要は、商品を実際にリリースする前、商品企画の段階から、その商品が「実際にドラッグストアに卸すとどれぐらい売れるだろう?」と予測を立てることを需要予測と言います。これを間違えてしまうと、ものすごく在庫が余ってしまったり、欠品が起こってしまったりしますので、非常に重要なのです。
佐田:とても大事なことですね。
大西:需要予測の精度についてもPDCAを回してデータをためてきていますので、精度も上がってきています。
佐田:このような独自のブランドマネジメントシステムがあるからこそ、ヒット商品を量産でき、在庫も抱え過ぎずにしっかりと回していけるのですね。
アイデア文化を大切にしながらも、属人的ではなく、しっかりとしたマネジメントシステムがあることは、投資家目線で見ても非常に頼もしい側面だと思いました。
大西:ありがとうございます。
今後の成長戦略
佐田:ここまでのご説明で、なぜ御社がヒット商品を多数展開されているのか、非常によく理解できたと思います。ぜひ、ここからは御社の成長戦略についてうかがいたいと思います。
大西:私たちのビジョンとして、「Chain of Hapiness」というミッションのもと、その幸せの連鎖が溢れる社会を実現するために、まず国内を代表するビューティメガベンチャーを目指しています。
KPIとしては2028年から2030年を目途に、売上高1,000億円、営業利益110億円、営業利益率11パーセント、EBITDA140億円、EBITDAマージン14パーセントを目標としています。
そして、大きく4つの成長戦略があります。1つ目は、ヘアケア系・美容家電の持続的成長です。得意領域をしっかりと安定的に成長させていきます。
2つ目は、新たな成長の柱となる事業の育成です。さまざまなカテゴリーに投資していますので、先ほどの柔軟剤などのようにさまざまなカテゴリーでヒット商品を作っていきます。
3つ目は、M&Aによる新たな強みの獲得と事業領域拡張です。トゥヴェール社の話もありましたが、M&Aも積極的に実施しながら事業を拡張させていきます。
4つ目はグローバルにおける基盤作りです。現在、台湾、香港、東南アジアで一部展開しています。こちらはまだ投資フェーズですが、今後拡大を続けながら柱にしていきたいと考えています。
佐田:KPIの売上高1,000億円というのは、ほぼ倍になりますよね。
この達成に向けては、かなり大きな売上増が見込める何かがあるのではないかと思います。やはりM&Aは今後も展開が続くということなのでしょうか?
大西:あくまでオーガニックで伸ばすことが一番重要だと思っています。しかし、M&Aは時間を買うという意味でも、私たちの強みをさらに強くする意味でも必要だと思っていますので、積極的に実施していきたいと思っています。
M&A方針とこれまでの実績
佐田:これまでのM&A実績を教えていただけますか?
大西:私たちのM&Aには、売ることと買うことの両方があります。
佐田:売ることもありますか?
大西:比較的たくさんのブランドを作る会社ですので、やはり私たちが伸ばしきれないと思った場合には、セルアウトも実施してきています。例えば「CHILL OUT(チルアウト)」という飲料です。
佐田:御社の製品なのですか?
大西:一番初めは私たちが作ったブランドです。
佐田:そうだったのですね。売れていましたよね。
大西:一部販路で展開していたところ、日本コカ・コーラ社から声がかかって合弁会社を作り、最終的には2023年に弊社の持分を日本コカ・コーラ社へ30億円ほどで売却しています。
佐田:日本コカ・コーラ社に売却というのもすごいことですし、金額のインパクトも大きいですね。
大西:おっしゃるとおり、やはり日本コカ・コーラ社とお仕事をして、私たちも非常に勉強になりましたし、金額としてもかなり大きいものでした。また、選択と集中という意味でも「やっぱり、もっとビューティ領域に絞っていこう」という観点から正しい判断だったと思っています。
佐田:そして、M&Aには買う側になるものもありますよね。
大西:買う側のM&Aとしては、2022年にファンデーションブランド「WrinkFade(リンクフェード)」、2024年にトゥヴェール社、美容家電「SALONIA」の商社機能を担うArtemis社もM&Aを行っています。
Artemis社に関しては、もともと私たちの間に入っていた商社だったことから、この会社を買うことによって中間マージンで年間約8億円の削減効果があるM&Aでした。
佐田:そのようなコスト削減効果としてのM&Aもあるのですね。売上成長のM&Aのみならず、利益改善のためのM&Aも実施されていることが非常に興味深いと思いました。
株式会社トゥヴェール(2024年10月買収)
佐田:トゥヴェール社に関しては、先ほどもお話ししたとおり、私自身が製品の愛用者だということもあり、ぜひ詳細をうかがいたいと思います。
およそ100億円の大型M&Aだったとうかがっていますが、投資家目線で見ても、これはかなり良いお買い物と言ってよいのではないかと思います。こちらのディールについて率直にどのようにお考えでしょうか?
大西:本当にニュースが出てから、たくさんの方に「すばらしいブランドを買ったね」と言われました。過去3年のCAGRも45パーセントとすばらしい実績の会社で、代表は特にスキンケアの研究開発に非常に詳しい方です。
そして、レチノール配合の製品が大ヒットしています。広告費をほとんどかけず、成分に詳しいSNS上のインフルエンサーなどが「この商品すごいですね」と広告してくれることで、自発的にバズが起きている非常に特殊なブランドだと思います。
佐田:私もトゥヴェール社の製品をSNSで知ったのですが、最近、成分特化がトレンドで、みなさんけっこう詳しいですよね。私自身も、パッケージや広告費用を抑える代わりに高品質の成分が入っているところに非常に惹かれました。実際に使用してとても良かったので愛用しています。
その使用感はもちろんなのですが、広告費用を抑えてくださっていることによるお得感のようなものも、使っていてとてもうれしいです。そのようなところもトゥヴェール社の魅力だと思っています。
このM&Aによるシナジーがどのようなところにあるか、あらためて教えてください。
大西:M&Aを実施した背景としては、トゥヴェール社は本当に急成長していましたので、受注や発注、発送など、いわゆるeコマースのオペレーションがなかなか追いついていなかったことがベースにありました。
私たちはeコマースのノウハウをかなり持っていますので、その部分をサポートすることで1つシナジーがあったと考えています。
また、ECチャネルでもトゥヴェール社はまだまだ伸びしろがありましたので、弊社のデジタルマーケティングの力を活かし、今、販売拡大をしています。
さらに、トゥヴェール社ではまったくオフライン配荷を行っていませんでした。私たちはオフラインも非常に得意としていますので、少しずつですがブランドを毀損しないようなリアル店舗への配荷の拡大にも今取り組んでいます。
佐田:それでは、今後リアル店舗でも買えるようになる可能性がありますか?
大西:ロフトなどで一部テスト販売が始まっており、かなり良い実績が出ています。ただし、ブランドを毀損せずに少しずつ広げていきたいと考えています。
佐田:ブランドイメージというのは成分特化の部分ではないかと思います。
トゥヴェールは良い意味で素朴なブランドで、成分特化で知る人ぞ知るというところにも惹かれていました。逆に、御社はドラッグストアなどで本当に一番目立つところで商品を作っています。
M&Aのニュースを見た時に、トゥヴェールファンとしての第一印象では「意外な組み合わせだな」と感じてしまった部分もありました。企業文化という意味では、そのあたりについて実際にどのようにお考えでしょうか?
大西:企業文化は実は非常にマッチしています。M&Aを行ってから社員同士も本当に違和感なく交流しています。トゥヴェール社も売り先としてさまざまな会社を見て、おそらく価格でも私たちよりもさらに高い価格を提示されていた可能性もあると思います。
そのような中でも私たちを選んでいただいた理由を尋ねた時に、やはりミッションの部分で、お客さまを幸せにしてお客さまに喜んでもらうことがベースにある会社だというところに非常に共感いただいたことがありました。
また、私たちはバリューやクレドを作っているのですが、トゥヴェール社では私たちが作ったものをベースに、自社でバリューやクレドを作っていました。実はM&Aを行う前から、かなり企業文化が似通っている部分があったことも、弊社を選んでいただいた理由としてあるのだと思います。
佐田:その部分がマッチしたことによる、「お互い一緒にがんばろう」というM&Aだったのですね。それでは、ファンとしても喜ばしいM&Aだと思っていてよいということですね。
大西:本当に何度も申し上げますが、トゥヴェール社の良いところをつぶさずに、しっかりと成長させていくことが大事だと思っています。
佐田:投資家目線でもユーザー目線としても、大変興味深いお話をうかがうことができました。
2025年12月期第1四半期 カテゴリー別売上高
佐田:続いて、足元の業績についてうかがっていきたいと思います。御社は決算期が12月で、今年5月に第1四半期の決算を発表されました。こちらの進捗はいかがでしたか?
大西:第1四半期は大幅な増収増益を達成しており、通期計画に対しても、特に利益では順調なスタートが切れたと思っています。
主にヘアケア系と美容家電をスライドに記載のとおり堅調に成長させ続けながら、スキンケア他の部分ではトゥヴェール社の貢献もあり、前年同期比でプラス410.9パーセントとなっています。
佐田:これはものすごいことですね。
大西:圧倒的な成長ができていますので、オーガニックでしっかりと成長させながら、M&A成長の両軸で通期計画を達成し、上場来の増収増益の更新を目指していきたいと考えています。
株価推移
佐田:それでは最後に、株価へのお考えと思い、中長期的に目指すビジョンについて教えてください。
大西:上場来、株価は「上がって下がって」を繰り返しており、足元ではかなり割安だと思っています。この部分はもう私自身の責任だと考えていますので、コミットして取り組んでいきたいと思います。
「どのあたりが理由だろう?」と考えた時に、投資家のみなさまとお話しする中で「四半期のボラティリティの大きさがあるよね」とけっこう言われますので、これについてみなさまにもご説明したいと思います。
何が起こっているかというと、例えばドラッグストアのビジネスを展開していますので、春と秋に棚割りがあります。その場合、例えば3月に納品予定の商品は第1四半期に売上利益を計上するのですが、その予定がずれてしまうだけで計上は第2四半期になってしまいます。すると、昨年対比で「割れているじゃないか、大丈夫なの?」と見られてしまうのです。
佐田:年ごとに時期が少しずつ異なるということですか?
大西:おっしゃるとおりです。ここはもう読めない部分もあります。
さらに、やはり中長期で伸ばしていくところが大事ですので、例えば中長期で可能性がある商品があれば、先行投資のアクセルも踏みます。そのような背景から四半期ごとのボラティリティが出てご心配をおかけし、株価が下落していってしまう部分があるかと思っています。
これについてどのように対応していくかと言えば、まず1つにコミュニケーションが非常に大事だと思っています。一時的に下がっているように見えますが、私たちはずっと通期で増収増益している会社です。今ご説明したような理由でずれているだけですので、本日のような機会も含めてここをしっかり説明することが必要だと考えています。
さらに、eコマースの売上を上げるとボラティリティもなくなってきますし、さまざまなカテゴリーで柱を作っていくことでボラティリティも少なくなっていくと思います。この両軸でしっかりと取り組んでいきたいと思っています。
佐田:確かに御社は通期で見ると順調に増収増益なのですが、第1四半期ごとに見るとそのようなボラティリティが生じてしまうのですね。
やはり投資家は第1四半期ごとの変化を見てしまいますので、株価もそれに準じるかたちで上下してしまうのだと思います。だからこそ、割安だとお考えだというところですね。
大西:おっしゃるとおりです。
佐田:ありがとうございます。現時点ですでにかなり大きな会社だと思いますが、今後、投資をさらに実施していくというお話もありました。ベンチャー企業だと捉えて、今後もグロースすると思っていてよいでしょうか?
大西:私たちは永遠にベンチャー企業だと考えていますので、まだまだ成長させていきたいと考えています。
佐田:社長自身が商品開発などにもかなりコミットして参加されているとうかがって、「プライム市場上場の社長さんがそんなところまで」と驚いたのですが、創業社長として今後も成長フェーズは続いていくということですね。
大西:私は本当に商品企画が大好きなのです。「BOTANIST」発売ぐらいまではずっと商品企画に加わっていましたが、その後は一時的に抜けていました。最近は新規カテゴリーなどもあり、昨年ぐらいからまた現場に入りはじめているのですが、もう本当に楽しいのです。どんどんヒット商品を出していきたいと思っています。
佐田:配当や株主還元というよりは、成長フェーズで還元していく方針だと認識してよろしいでしょうか?
大西:両方大事だと思っています。もちろん成長フェーズにありますので、M&Aを含めて成長投資にキャッシュは使っていきたいと考えています。しかし、株主への配当や優待などももちろん大事だと思っていますので、ここも徐々に上げていくようなかたちで、両軸でがんばっていきたいと考えています。
今後のビジョン
佐田:それでは、最後にあらためて、視聴者のみなさまにメッセージをお願いします。
大西:私たちのミッションについては冒頭にもご説明しましたが、あらためてお話しします。本日、1,000億円という数字のお話もしましたが、それはあくまで通過点であり、「さらにその先を見て経営しています」ということになります。
私たちにはスライドでもお示ししているように、グローバルビューティメガベンチャーとして私たちI-neが成功し、この世界における日本の存在感を取り戻したいというビジョンがあります。
仕事柄、よくヨーロッパ出張にも行きますし、さまざまなブランドを見る機会がありますが、海外に行っても日本の化粧品ブランドや消費財のブランドはとても少ないのです。
北米のコスメ市場でトップ100に入る日本のブランドは、実は資生堂のみで、しかも41位です。
佐田:けっこう下ですね。「もっと上かな」と思いましたが。
大西:ただ、それでは「日本の技術ってどうなんだ?」と考えた時に、IFSCCという世界最高峰の化粧品研究機関において、日本の論文採用数は世界最多です。私は世界中のさまざまな工場を見てきましたが、日本の品質管理はおそらく世界一だと思います。
品質管理においてもグローバルトップレベルであり、特許を含めて研究開発もトップレベルであるにもかかわらず、日本のグローバルブランドはありません。それはとても悔しくないでしょうか?
佐田:もの作り大国が化粧品にもしっかりと活かされているのに、ということですね。
大西:おっしゃるとおりです。何が足りないのかというと、現地の方とお話しすると「やっぱりよいものを作るけど、マーケティングがちょっと足りないよね」と言われます。
本日私たちのさまざまな強みについてご説明しましたが、I-neは総じてマーケティングカンパニーなのです。したがって、これからは私たちのマーケティングの力をグローバルに向けて、日本初のビューティメガベンチャーを作ります。
例えば大手がグローバルで成功することもすばらしいことだと思いますが、それではベンチャー企業や中小零細企業は真似しないと思います。
しかし、ベンチャー企業の私たちが、しかも学生起業の私がグローバルでビューティメガベンチャーを作って成功すれば、大手も絶対に真似をしますし、中小零細企業もベンチャー企業もみんな真似します。
そのようになれば、私は世界にチャレンジするのが当たり前の世界が作れると思っています。したがって、ここに人生を懸けて取り組んでいきたいと思っています。
佐田:すばらしいことですね。ベンチャー企業の「メガベンチャーだからこそ大手を引っ張っていくぞ」という気概も感じました。
私自身1人のコスメ好きとして、御社の製品はもちろん、日本のコスメには良いものがたくさんあるにもかかわらず、確かに今は海外のコスメのほうがブームになっているなど、日本人として悔しいですよね。
今の大西社長の意気込みや、これからの目標をとても応援したいと思いました。
大西:がんばります。
佐田:応援しています。非常に力強い、心のこもったメッセージをいただきました。日本を代表するビューティメガベンチャーに向けての今後の御社の活躍に大変期待していますし、応援しています。大西社長、本日はありがとうございました。
大西:ありがとうございました。