Executive Summary
福原正大氏(以下、福原):Institution for a Global Society株式会社代表取締役会長の福原です。お忙しい中、お越しいただきありがとうございます。それではさっそく、2025年3月期通期決算について資料に沿ってご説明します。
まずは全体のサマリーです。昨年度2025年3月期は、全体として、株主のみなさま含め、多くのみなさまにご心配おかけしてしまいました。以前ご報告したとおり、想定と異なるプロダクト開発上の課題、市場環境の変動により、当初の目標には到達できませんでした。
一方で、2025年2月に修正した業績予想に関しては予定どおり到達し、今、足元では非常に堅調なスタートを切っており、今年度の2026年3月期においては、HR事業および教育事業では、非常に堅調なマーケットであるため、予定どおり進むものと予測しています。
昨年度、非常に苦戦したプラットフォーム/Web3事業領域については、ご存じのとおり、トランプ大統領が暗号資産に対して、非常にプラスになる強い政策を打ち出していることもあり、国際的な市場環境で今、追い風が吹いています。
当社は、これまでのサービスを大きく切り替えてはいるのですが、市場環境も良いこともあり、成長に向けて非常に大きな可能性を持っていると考えています。したがって2026年3月期においては、売上はV字回復を果たすと同時に、着実な黒字化も目指すというのが大きな方向性となっています。
そのために、まず大きな部分としては、プロダクトの安定供給があります。これは昨年度の反省を踏まえたものですが、昨年度はHR事業領域において、当初予定していたサービスの提供ができませんでした。これが業績にも非常に大きなマイナスとして効いてしまいましたので、これを大きな反省点として、今年は基本的に内製化を図ります。
実は昨年度は海外に外注していたのですが、ここが正直なところ、当初予定していたプロダクトにならず、サービスを提供できなかったという事態につながりました。これを反省し、内製化を行い、プロダクトの安定供給を図ります。
さらに、昨年度はHR事業のほか、特にプラットフォーム/Web3事業において、当初期待していたかたちになりませんでした。その要因の1つに、転職支援サービスの不振があります。ここを改善するために、特にプラットフォーム/Web3事業のチームを中心に、コストの見直しを徹底し、経営の効率化を図ります。
また、私どものHR事業のお客さまは大手の優良顧客のみなさまであり、教育事業のお客さまも学校の現場の先生方であることから、求められる営業のレベルが非常に高いという状況にあります。そのため、人的資本の強化にも注力します。
そして、資本増強の実施を検討しています。私どもが安定的なサービスを提供するためにも、財務基盤をより充実させようというのが、今後の大きな方針となっています。
2025年3月期通期連結実績(計画比較)
2025年3月期通期連結実績です。スライドの通期連結計画は、2月の修正以降の数字です。修正予算は着実に達成し、売上高が6億200万円とほぼ予想の水準に、当期純損失は計画比で若干プラスの900万円の着地となりました。
今、足元においてはプロダクトがしっかりと安定してきて、売上の方向性が十分に見え、サービスの安定供給体制も戻ってきています。
ご心配をおかけしていましたプラットフォーム/Web3事業も、ほぼ計画に沿って推移していることから、今後に向けて大きな可能性を持っていると考えています。
セグメント別通期実績(計画比較)
セグメント別の計画比較です。こちらも修正予算に対しては、HR事業および教育事業ともに若干上乗せした結果となっています。プラットフォーム/Web3事業は300万円のマイナスとなっていますが、基本的には予定どおりで着地しています。
このマイナスの部分は為替の動きによるものだと捉えていただければと思います。各セグメントについてもう少し詳しくご説明します。
HR事業ハイライト
HR事業について、私どもにとって昨年度最大のチャレンジは、新しく出すプロダクトの品質をいかに維持するのかという課題でした。これは、インドに外注していました。
そこの品質と、納期が守られませんでした。私どもがコントロールできなかったということですが、加えて、運営支援している「人的資本理論の実証化研究会」において、当初予定していた参画企業数に至らなかったことによる売上減少が、HR事業の不振の要因としてあります。
一方で、修正予算の時にもお伝えしましたが、足元では、それまで私どもが得意としていたDX関連分野において、特に強みである生成AIを活用した人の能力評価や、あるいはブロックチェーン技術を活用した研修、コンサルティングなどが、まさに営業の現場では功を奏してきている状況であり、今年度にかけて非常に良いスタートを切ることができています。
HR事業の実績自体は、2025年3月期は売上が大きく落ちてしまっていますが、新しいサービスが予定どおりうまく起ち上がらなかった中で、継続率は61パーセントから66パーセントと上がっています。
これは、お客さまがサービスから離れていっているわけではなく、私どもがその既存顧客に対して、アップセルのかたちで付加価値の高いサービスを予想どおり提供することができなかったということです。これが、売上のマイナスの大きな要因の1つとなっています。
したがって、売上が下がっているように見えますが、継続率は逆に上がり始めていることを踏まえて、今年度はまず私どものもともとの強みである、組織内の社員の能力を360度見える化するサービスをしっかり行っていきます。
あわせて、多くの企業にとっては新しい、生成AIやブロックチェーンなどの技術領域に関するディレクションサービスの提案によって、企業のデジタルリスキリングの需要を積極的に取り込んでいきたいと考えています。
足元ではプロダクトの内製化を着実に進めてきています。継続率が高いということがありますので、今後はアップセルを積極的に行い、顧客単価については特にHR領域で以前の水準に戻せるよう、進めていきたいと考えています。
教育事業ハイライト
教育事業については、2025年3月期は、基本的には私どもが当初予想していたとおりに進んだかたちになっています。
当初の計画より若干下回ったところもありますが、それは政府の補助金が一部入ってこなかったことによります。それ以外は、非常に順調に推移しています。
今、教育の現場では、急速にAI技術が進んできている中、どのようにして子どもたちの非認知能力を伸ばすかということへの問題意識が非常に強くなってきています。私どもの事業は、その先生方のニーズに対して、しっかりと支援を行うツール「Ai GROW」を使って応えていくものです。
昨年末に放映された『カンブリア宮殿』の「JTB特集」の時にも、JTBとの共同開発による「J‘s GROW」が出てきましたが、この「J‘s GROW」の導入校数も現在広がっています。
これは、どのようなかたちで使うものかというと、例えば、修学旅行に行く事前、事後で、子どもたちの能力がどのように伸びるのかということを測定するものです。
これからのAI時代においては、「経験」が重要な価値を生むという認識が広がる中で、その経験というものの価値を可視化させるという当社のこのサービスに対する評価が、非常に可能性を持ったかたちで伸びています。
また、私たちが展開する教育事業については、私も今年に入ってインドやベトナムに行ってきましたが、海外においても引き合いが非常に強くなっています。
というのも、世界で子どもたち向けに360度評価を行っている企業はほぼないため、そのような意味においても当社は注目されており、ADB(アジア開発銀行)やERIA(東アジアASEAN経済研究センター)との連携で、国際比較プロジェクトを行っています。
最近の政策はエビデンスベースとよく言われますが、当社は教育領域においてエビデンスを取るお手伝いをしたり、音楽教育ではヤマハと、コロンビアをはじめとした国外市場における「Ai GROW」の海外展開を一緒に行うという取り組みを進めています。
また、昨年末に、経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業」の案件を受託しました。これは、日本国として今後の未来を見据えた時に、日本企業、日本人に寄与する、まさに国益を生むようなグローバルサウス領域の事業です。具体的には、私どもはインドのネットワーク整備において、フィジビリティスタディを受託し、着実に進めています。
さらに、経済産業省の「探究・校務改革支援補助金2025」の交付が決定しました。これにより、顧客数は非常に順調に増加しており、昨年度の「Ai GROW」導入の学校数は463校となりました。かつ、おかげさまで47都道府県すべてでの採択に至りました。
教育現場では、周りが取り組んでいるかどうかが非常に重要となっています。したがって、すべての県に「Ai GROW」が入ったということは、私どもの教育事業においても非常に強いベースができた1年であったと考えています。
プラットフォーム/Web3事業ハイライト
昨年度のプラットフォーム/Web3事業については、転職支援サービスが私どもが予測していたかたちでは進まなかったという実態があります。
今、社会全体がリスキリング補助金というかたちで、転職支援サービスに対して国がお金を出す流れがある中で、この領域がレッドオーシャン化してしまっているという背景があります。
当社のプラットフォーム/Web3事業は、無償で学んだ人たちが転職するという流れだったのですが、国が補助金制度を打ち出したことで、市場の動きが当初の予測から変わってしまい、計画通り進めることができませんでした。
私どものメインの取り組みとして、「ONGAESHI」というブロックチェーンを使ったサービスがありますが、個人のお金の問題や能力データといったさまざまな可能性を可視化させてポータルに持っていくという、そのような新しいサービス領域について、多くの知見を蓄積できるようになってきました。
例えば、私自身がイーサリアム財団の日本人唯一のフェローであるため、グローバルにおける暗号資産領域での人脈や技術ネットワークはすでに構築できています。また、私どもはこれまでの数年間で、ブロックチェーン領域においてさまざまな仕組みを作っており、社内におけるナレッジの体系化や先端領域への知見も多く蓄積しています。
さらに、私どもはブロックチェーン技術に関する特許もいろいろと取得を検討しており、今後コンサルテーションをしていくにあたり、他社にはない独自の知見を有していることが強みになると考えています。足元においても大きなコンサルテーションの案件をご依頼いただきました。
ゼロ知識証明や秘密計算といった先端技術に関する特許を取得していく予定であるため、それをベースに外部研究機関や大学、企業との連携を加速させていきます。コンサルティング領域に重きを置き、確実に利益を生むサービスに特化することで事業の再構築を進めます。
また、将来に向けてグローバルにはシンガポールのBE社と連携していきます。イニシャルエクスチェンジオファリングに関する権利は私どもが持っているため、引き続きそれを維持しつつ事業を動かしていきます。
2026年3月期通期連結業績予想
2026年3月期通期の売上高は8億3,000万円、前期比プラス37.7パーセントと、V字回復を目指します。当期純利益も6,300万円の黒字を見込んでいます。
昨年度は、HR事業においてプロダクトの不具合がありサービスを提供できないということがありましたが、現在は回復したため、HR事業、教育事業といった既存事業については安定的な成長を目指します。
新規事業であるプラットフォーム/Web3事業に関しては事業転換を行い、コンサルテーション領域で確実な収益化を図ることで、売上高についても前期比で大幅な増加を見込んでいます。
また、コスト構造を大きく見直し、より利益を生みやすい体制を整えたことから、黒字化を見込んでいます。
セグメント別計画
セグメント別計画です。HR事業は昨年度の落ち込みが特殊要因となり、売上高は前期比プラス55.3パーセントの3億7,000万円となります。
教育事業は着実に推移しています。教育領域の特性上、1回導入いただくとそう簡単に切り替わらず、教育現場も頻繁に変わるものではないため、非常に安定しています。とはいえ、急成長することもあまりない事業領域ですが、その中でも売上高は前期比プラス13.4パーセントの3億5,000万円を見込んでいます。
そしてプラットフォーム/Web3事業については、先ほどご説明したとおり、私どもはいろいろなアセットを蓄積しています。それをベースにコンサルテーション領域に注力し、着実に1億1,000万円を目指すという売上計画を立てています。
3事業を組み合わせたグローバル展開
成長計画として、私どもが現在どのような課題に取り組んでいるかについてご説明します。先ほどもご説明しましたが、国も非認知教育に力を入れているため、探究型教育などいろいろな教育制度を導入しています。そのような教育を支援するための環境作りに取り組んでいますが、私どもの仕組みを導入いただいている学校の先生方からは、「今こそ進めるべきことだ」とご評価いただいています。
また、私どもは「次世代の子どもたちにどのような能力が必要なのか」について考えています。これまでのようにペーパー試験でいい大学に入ればいいという時代は、特に生成AIの全盛時代ということもあり、すでに終わっています。私どもは、自ら答えや問題を作り出せる子どもたちの育成に力を入れています。
企業においても、人件費(コスト)ではなく、人的資本(資本)として人を捉える考え方がようやくこの2年から3年で広がりつつあります。私どもは一橋大学との連携を含め、大きくリードしていることもあり、人的資本を蓄積する支援を行うことで、IGSに持続的な利益を生み出そうと考えています。
そしてパートナーである国際機関とともに、人的資本をアジアにおける大きな可能性として捉え、その標準化を目指していきます。
また現在、私どもは内田洋行やJTBと連携していますが、引き続き教育会社とも連携していきます。
さらに、国際的に人的投資を実施する民間企業等とも連携し、新しいエコシステムを構築することで、この3事業を組み合わせたグローバル展開をしていきたいと考えています。
成長戦略ロードマップ
「GROW」を提供するHR事業、教育事業、先端技術を利用したコンサルテーションを行うプラットフォーム/Web事業の3つを組み合わせ、世界の先生や学生の非認知能力を向上させ、企業の人的資本からの収益性を高めることで大きな成長を生むために、企業の経営や人事、学校における先生方の問題解決に取り組みつつ、大きな拡大を目指します。
そのために、グローバルサウスでの展開を考えています。例えば、18歳人口は日本では80万人前後であるのに対し、インドには約2,700万人いるように、世界には日本とはまったく違うマーケットが存在しているため、ビジネス拡大の可能性があると考えています。
また、ブロックチェーン領域や秘密計算、ゼロ知識証明を取り扱っている会社は日本でほとんど存在しませんので、技術的な優位性や信頼を武器に、事業を拡大させていきます。
顧客基盤の拡充としては、既存顧客に対して、例えば企業の人的資本をより高めていただくなど、新しいものを取り入れていただくことでアップセルを図ります。
また、JTBや内田洋行、ヤマハといった戦略的なパートナーと連携しながら可能性を広げていきたいと考えています。
中期計画(HR事業) -ストックとフローの融合で人的資本市場に新たな価値を創出
中期計画です。私どもは、下は保育園から上は大企業の社長まで、また日本だけではなく海外も含めた非常に多くの方々のデータを蓄積しています。
これまでは、フロー型である課題解決型コンサルテーションを中心に行っていますが、徐々に個人能力データをコアにしたグローバルビジネス開発へ、つまりフロー型からストック型へ移行できる段階に入りつつあります。今後は、フロービジネスだけではなく、ストックビジネスもベースに、さらなる成長を図っていきたいと考えています。
中期計画(教育事業) -既存基盤を活かし、新技術と新市場で収益を多様化・拡大
教育事業としては、現在、小学校から大学向けのアセスメントを行っています。今後、新興国への展開や就学前の保育園や幼稚園でのサービス提供、また昨年度も省庁からご依頼いただいた、学校の先生方向けの生成AIを利用した学習指導サポートなどをしっかりと行い、収益を広げていきたいと考えています。
中期計画(プラットフォーム/Web3事業) -利益率の高いコンサルティングによる着実な収益増を目指す
プラットフォーム/Web3事業です。特許やこれまで蓄積した戦略資産、シンガポール法人であるBE社との連携を背景に、意思決定支援やデジタルインセンティブ設計のトークンエコノミクスなど、ブロックチェーン領域のコンサルティングに取り組みます。
特にブロックチェーン領域のコンサルティングにおいては、日本の企業、特に上場企業で行える企業はほとんどいないため、差別化を図りながら進めていきたいと考えています。
中期計画(グローバル展開) -非認知能力データを核とした、次世代人材・教育モデルの国際展開
グローバル展開です。非認知能力データをコアとした次世代人材教育モデルの国際展開に取り組みます。足元においては、私どもは経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業」のフィジビリティスタディを受託していますので、インドへの可能性を感じています。
また、私どもは上場前にベトナムに子会社を持っており、ベトナムにはネットワークがありますので、ベトナムにも可能性があります。両国とも、若者人口は日本よりも圧倒的に多い市場ですので、このようなところでの可能性を広げていきたいと考えています。
昨年度は全体としてご心配をおかけしてしまいましたが、足元においては、しっかりと堅調にHR事業、教育事業を展開し、そしてプラットフォーム/Web3事業を事業転換していきます。これまでの蓄積をもとに、今年度はみなさまのご期待に添えるよう利益を出していきたいと考えています。
私からの説明は以上です。
質疑応答:資本増強の具体策について
質問者:今期の重点施策の1つに「資本増強の実施」が挙げられていますが、具体的な内容について教えてください。
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