当社の社名の由来と企業理念
横川拓哉(以下、横川):株式会社ペルセウスプロテオミクス代表取締役社長の横川です。よろしくお願いします。
櫻井英明(以下、櫻井):横川社長、よろしくお願いします。御社とはご縁が深く、IPOの時のストックボイスのインタビュアーが私だったことを鮮明に覚えています。おもしろい会社だと思い、名刺を交換しました。
横川:そうですね。
櫻井:本日、社長には小田原から来ていただきました。小田原といいますと、新幹線から見て一番目立つのは、私のイメージでは富士フイルムの工場です。社長のもともとの経歴は富士フイルムでしたね。
横川:おっしゃるとおりです。私は富士フイルムで20年間、写真に取り組みました。そのあと、写真が事業としてなくなっていったため、ライフサイエンスに転じて医薬品に取り組んでいます。この世界はもう15年くらいになります。
櫻井:したがって、新幹線で小田原を通過するたびに思い出すのは、富士フイルムよりは御社なのですね。私もだいたい毎週、思い出しています。それはさておき、まずは御社の概要を教えてください。難しい社名ですね。
横川:社名はペルセウスプロテオミクスと大変長いのですが、プロテオミクスとはタンパク質の研究のことです。よくある言葉ですので、プロテオミクスは横において、シンプルにペルセウスと覚えてください。
ペルセウスは、ギリシャ神話の英雄の名前です。スライドに記載した絵画にあるように、エチオピア王女のアンドロメダが怪物に食べられそうになったところを、英雄ペルセウスが武器を持って怪物を倒し、助けました。この神話になぞらえて、抗体という武器でがんを治すという当社の使命を込めて創業者が社名をつけました。
会社概要
横川:会社概要です。設立は2001年です。拠点は東京に加えて、ラボが名古屋にもあります。従業員は25名です。
医薬品事業の詳細
横川:当社の事業は、スライド中央にあるとおり創薬です。抗体医薬品の新薬を作り、製薬会社に導出して、最終的に患者さんに届ける事業をメインにしています。
そのほかに、スライド左側にあるとおり、当社の抗体の技術を使い、さまざまな研究機関の研究をサポートしています。また、スライド右側にあるとおり、世界中に研究用抗体試薬を販売しています。
抗体医薬品について
櫻井:抗体という言葉について、ついわかったふりをしてしまいますが、あらためてわかりやすく教えていただけますか?
横川:抗体とは、もともと私たちの体に備わっている防御機能です。病気やウイルスに感染した時、あるいは体の中に期せずしてがんができてしまった時などに、異物・悪いものを体から排除するために大昔から備わっているものです。
抗体は、ある特定のタンパク質にだけ反応する特徴があります。したがって、抗体医薬品は原因物質、例えばがんならがん細胞にだけ結合してがん細胞を殺します。ほかの正常な細胞には影響しませんので、副作用の少ない有効な抗がん剤が提供できると考えています。
櫻井:抗体は「ものすごくいいやつ」なのですね。
横川:おっしゃるとおりです。
抗体医薬品市場
櫻井:その中で、御社の強みをどのように考えればよいですか?
横川:強みをご紹介するために、まず、抗体についてもう少しご説明したいと思います。スライド右上の円グラフは、2026年の世界の抗体医薬品市場を示しています。
これを見ると、オレンジ色で示したバイオの部分が半分くらいあります。生物の細胞や生体が作る薬をバイオ医薬品といいます。その半分ですから、全体の約4分の1が2026年には抗体医薬品になると考えられます。
スライド下の表は、2023年度の世界の医薬品売上高トップ10を示しています。1位の「キイトルーダ」、3位の「ヒュミラ」をはじめ、6位、7位、9位、10位と、トップ10のうち6品目が抗体医薬品です。
ジェネリックが出る前の新薬はかなり薬価が高いため、トップ10の売上を占めていることもありますが、ご覧のように、新薬の世界ではすでに半分以上を抗体が占めており、重要な技術だと考えています。我々はその抗体の専門の会社ですので、あらゆる方法で抗体を作っています。
当社の抗体作製技術
横川:当社の抗体作製技術です。マウス免疫の方法や、アミノ酸を組み合わせて人工的に作るファージディスプレイ法、さらに、細胞を持ってきて、どのような抗体を作るか調べる方法があります。当社の強みは、このファージディスプレイなのですが、後ほど詳しくご説明したいと思います。
当社の強み:抗体ライブラリ
横川:ファージディスプレイでは、ライブラリという約1,000億個の人工的な抗体を作ります。これは生け簀(いけす)のようなもので、そこに結合したいものを入れて取るのです。したがって、その生け簀の中に、どれだけいろいろな種類の抗体が入っているかが勝負になります。
数はどの会社でもだいたい同じです。20リットルのバケツが満タンになる量を作ると、約1,000億個になります。それ以上作ってもドラム缶になってしまい運べませんので、どこの会社も約1,000億個なのです。
その多様性が勝負であり、我々は独特の方法で他社の100倍以上の多様性を持っています。例えば、結合活性の強いものや、非常に珍しいものも100倍以上見つかる確率があることが、当社の強みだと思っています。
櫻井:生け簀の中にいろいろな抗体がいることが、強みの1つでもあるのですね。
横川:おっしゃるとおりです。
当社の強み:がん細胞を使って目的の抗体を直接取得
横川:加えて、抗体の数が多くなると、中には使えない抗体もたくさん出てきてしまいますが、本物だけをどのようにして選ぶかがポイントになります。
例えば釣りでも生きた餌が一番パワフルですので、我々は生きた細胞を使います。ライブラリというフラスコ内の約1,000億個の抗体の中に入れて、結合するものを取るのですが、無関係な抗体もたくさん付着しています。
それを除くために、有機溶剤を混ぜた独自の特許技術であるICOS法というスクリーニング法があります。表面に付着している抗体は、有機溶剤の中で剥がれます。したがって、洗うと本物だけが残ります。我々はこのスーパー技術で抗体を取っています。
櫻井:本物を選び出すスーパー技術なのですね。
横川:おっしゃるとおりです。
パイプラインの状況
櫻井:そこから生まれてきたものがパイプラインになっていると思いますが、パイプラインのご説明をお願いします。
横川:当社のパイプラインは現在3つあります。1つ目が「PPMX-T003」で、今2つのインディケーションで治験中です。1つは真性多血症(PV)、もう1つがANKLという特別ながんです。PVについては、つい先日P1が終了しました。「PPMX-T003」については、今期中の導出を目指しています。後ほどもう少し詳しくご説明します。
2つ目の「PPMX-T002」は、放射性医薬品のついた抗体です。3つ目の「PPMX-004」はADCと呼ばれる、抗体業界で今最も注目されている医薬品です。
PPMX-T003 TfR1(細胞への鉄の取り込み口)にフタをする
櫻井:それでは、「期待の星」である「PPMX-003」からご説明をお願いします。
横川:今日の私の話は技術の話が多くて恐縮ですが、ぜひこのスライドだけでも覚えていただきたいと考えています。「PPMX-T003」は、細胞が鉄を取り込むための取り込み口(TfR1)に、フタをしてしまいます。これが重要なポイントです。
細胞は、生きるために必ず鉄が必要です。鉄が欲しくなると、スライド左上の図のように取り込み口が出てきます。そこに、血液に流れているトランスフェリン(Tf)というタンパク質が結合し、細胞はそれを取り込んで食べます。
トランスフェリンには鉄が2粒ずつ付着していています。鉄を取り込んだ細胞は2倍、4倍、8倍と分裂していき、その鉄を分けながらどんどん成長していく性質があります。
スライド下段中央の図のように、取り込み口が出たところに我々の抗体「PPMX-T003」がちょうどはまり、ワインの瓶のコルク栓のように取り込み口に強い力でフタをしてしまいます。
このフタによりトランスフェリンは細胞内に入ることができず、つまり鉄も入ることができません。スライド下段右側の図のように、鉄不足で兵糧攻めにあった細胞は、分裂できずに死んでしまいます。
人間の体の中で鉄を大量に取り込むのは、赤血球のもとになる細胞と、がん細胞です。赤血球は赤い血球と書きますが、赤色はヘモグロビンの色で、ヘモグロビンは鉄でできています。
赤血球を減らすか、がん細胞を減らすかです。がん細胞は、ほかの細胞より何倍も速く増殖し大きくなります。そのようながん細胞に対して、鉄の取り込み口にフタをするのが「PPMX-T003」の本質です。
櫻井:細胞は鉄を取り込むことによって成長するため、がん細胞ができると血管も増えて、血をたくさん入れようとすると思います。そうした取り込み口をすべて閉じて兵糧攻めにすることで、がんが成長しないという発想から研究しているということでしょうか?
横川:そのとおりです。実は20年以上前からこの発想はあったのですが、これまでは良い抗体がありませんでした。中途半端な結合では、少しでも横から入ってきてしまうときちんとフタができないのです。そのような意味で最強の抗体ができたと思っています。
櫻井:がんの兵糧攻めでがんをつぶすということで、楽しみですね。早く完成してほしいです。
横川:ありがとうございます。
PPMX-T003 PV第I相試験が6月末に終了、導出活動中
横川:PVの治験は、先日までに健常人40名、PV患者さん6名の治験が終了し、今はデータ固定の作業中です。これが間もなく終わりますが、終わった後に今期の導出を目指して活動を本格化します。
中間的な報告はすでに学会等で行っており、昨年アメリカで開催されたASHという世界最大の血液学会でも中間報告を行っています。
櫻井:スライドにもありますが、安全性と有効性は確認できたと見てよいですか?
横川:はい。正式にはもう少し後ですが、かなり良い感触を得ています。
櫻井:スライドには患者さん5名で確認と書いてありますし、ASHの年次総会で発表できることもすごいと思います。そのように理解してよいですか?
横川:はい。申し込んでも発表できない場合が多いため、我々はラッキーでした。この病気も注目されていると思っています。
PPMX-T003の市場性:PV競合薬に対するポジション・優位性
横川:「PPMX-T003」がPVで薬になった場合のポジションについてご説明します。PVは、赤血球が異常に増えて血液がドロドロになってしまい、血栓を起こすという病気ですので、治し方は赤血球を減らすことです。
赤血球を減らす方法の1つは、赤血球は鉄でできているため、赤血球内のヘモグロビンの鉄を減らすことです。スライド中央の①瀉血は「しゃけつ」と読みます。血を抜くという意味で、献血とほとんど同じような意味合いです。例えば、月に1回400ccの血を抜くと、血液と一緒に鉄も出てきて体の中の鉄が減り、結果として赤血球も減ります。しかし、これは全身が貧血になり、副作用が強い方法です。
もう1つは、原料の鉄を減らすのではなく、赤血球のもとを作る骨髄の細胞そのものを抑制する治療方法です。重い病気になってくると、スライド左側の②DNA合成阻害薬・JAK2阻害薬、③インターフェロンの薬が使えますが、白血球が減るなどさまざまな副作用があります。
それに対し、最近は瀉血に代わる方法として④「PTG-300」が開発され、注目されています。この薬には、体内を巡る血液量を減らす作用があります。
しかし、これらよりもさらに有効性が見込めるのが、⑤「PPMX-T003」です。先ほどご説明した原理を思い出していただきたいのですが、赤血球の鉄の取り込みだけが止まり、ほかの細胞には影響しないことで、鉄欠乏症にならずに赤血球のみを減らし、副作用がほとんどないと期待される治療法です。この薬を患者さんに早く届けなければならないと思っています。
櫻井:確かに、PVにしてもがんにしても、鉄を取り除いてしまえば兵糧攻めにはなりますが、鉄は生きていく上でも必要なものですので、鉄がないと体はきついですよね?
横川:はい。
櫻井:その副作用をなくし、QOLを維持しながら治療していくということでしょうか?
横川:そのとおりです。ものすごい勢いで鉄を食べている細胞だけをたたきつぶし、そうではない通常の細胞にはほとんど影響しないという仕組みです。
櫻井:健康診断に行くと、鉄が少なかった場合は再検診になることもありますよね?
横川:はい。貧血ですからね。
櫻井:きちんとしなければいけませんよね。
PPMX-T003の市場性:PV治療薬の導出事例
横川:スライドは、世界中で開発されているPV薬にどのようなディールが行われるかを示しています。スライド右側の「PTG-300」は前のスライドの④の薬ですが、最近、武田薬品がProtagonistというベンチャーから441億円で導入した薬です。
また、スライド中央の薬はまだP1のものですが、アップフロントで15億円、全体で621億円という大きなディールが行われています。「PTG-300」はすでにP3ですので、上市が近く、非常にいいお値段がついていると思います。
櫻井:数百億円単位なのですね。
横川:そうなのです。その薬や治験の結果、開発の進捗次第のためなんともいえませんが、我々はこのような事例を見ながら取り組んでいる状況です。
PPMX-T003 対象疾患 ②アグレッシブNK細胞白血病(ANKL)
横川:先ほど、PV以外にがんの話をしましたが、ANKLという血液がんでも医師主導治験を行っています。ANKLはほとんどの方が知らないと思いますが、この病気になるとだいたい2ヶ月で亡くなるという非常に悲惨な病気で、2020年の日本の発症例はわずか13例の希少疾患です。アジアにもありますが、欧米では患者さんが少ないため、研究も進んでいません。
また、15歳から39歳ぐらいのヤングアダルト世代でもけっこう発症します。この病気を発症してしまうと、有効な治療薬がなく、亡くなる人が多いです。
この細胞の最大の特徴は、ほかのがん細胞と比べて非常に鉄を食うことです。鉄が欲しくて仕方がないため、ほとんど肝臓に集まります。貧血の時に「レバーを食べなさい」と言いますが、人間も動物も一緒で、鉄はほとんどレバーにたまっています。
櫻井:レバーを食べるのは、そのような理由からなのですね。
横川:この肝臓にたまったANKL細胞に先ほどのフタをつけると、がん細胞がまとまって死ぬことが期待できるため、今、治験をしています。
櫻井:2020年は国内発症13例と、非常にケースが少ないと思います。これに効果があるとすると、ほかにも応用が利くと考えてよいのですか?
横川:そのとおりです。後ほどご説明します。
PPMX-T003:ANKL 医師主導治験(P1/2、n=7)実施中
横川:この治験は患者さんが少ないため、全国7ヶ所の中核病院でネットワークを作り、患者さんが見つかったらすぐに治験に参加できるように手配しています。もし7症例がうまく終わりいくつか有効例が出てきたら、オーファンの申請をするとP1/2で承認が取れる場合がありますので、すぐに承認を取って患者さんに届けたいと思っています。
櫻井:患者さんは待っていますよね。
横川:そうなのです。いつも先生方から「早くやってくれ」と言われています。
PPMX-T003:ANKL がん領域での効果認定で対象疾患も拡大へ
横川:「PPMX-T003」がさまざまな病気にどのように効くかをまとめたスライドです。先ほどのPVは患者さんが約30万人います。
ANKLはほとんどいませんが、AML(急性骨髄性白血病)が18万人、リンパ腫は世界で62万人います。がん細胞の鉄の取り込みを止めたら死ぬという仕組みからすると、このような血液がんのいろいろな病気に効く可能性が出てきました。
さらに、血液がん以外の肺がんや胃がんなどはすべて固形がんと呼ばれ、とんでもない数があります。そのすべてに効くかどうかはわかりませんが、我々はそれぞれの関係のアカデミアの先生と一緒に、この薬がどうやったら効くかを基礎研究しています。
櫻井:これは、時間的にはPVが一番早いのですね?
横川:はい。
櫻井:導出が2025年3月目標ということで、今、喫緊の課題としてがんばっているということでしょうか?
横川:そのとおりです。
PPMX-T002 放射性同位体(RI)標識抗体 導出活動中
横川:「PPMX-T002」と「PPMX-T004」も簡単にご説明します。「PPMX-T002」には放射性同位体が付いています。例えば、がんのところまで抗体を運ぶと、抗体にぶら下がっている放射性同位体が放射線を出し、がん細胞を焼き殺します。
昔、この薬は富士フイルムに導出していました。富士フイルムからは返ってきたのですが、返ってきたものをそのまま使うのではつまらないので、今はアルファ線の出すアクチニウムという最も活性の高いもので行っています。理化学研究所と一緒にアルファ線を研究していたのですが、非常に効果が大きく驚きました。
櫻井:これは、放射性同位体ががん細胞を殺す効果が期待できるのでしょうか?
横川:はい。肺がんや胃がんなどで、体の外側から放射線を当てる放射線療法があります。それに対し、こちらは内部放射線と呼ばれ、がん細胞のところまで薬を運んで殺します。したがって、全身に飛び散ったがんにも効くことが期待できます。まだ非臨床ですが、以前、違うβ線の時にも臨床を行っているため、こちらも今期中に導出したいと思っています。
櫻井:外から放射線を当てるのではなく、体内に入れた薬ががんのところへ行って放射線を出してくれるのですね。
横川:今、世界で非常に注目されており、開発競争の厳しいところです。
PPMX-T004 抗体薬物複合体(ADC)
横川:最後に「PPMX-T004」です。これはADC(抗体薬物複合体)という抗がん剤が抗体についたものです。「エンハーツ」という第一三共のすごいビッグドラックをきっかけに、世界の抗体業界はどこもADCの開発をしています。
我々も、富士フイルムにいったん出して戻ってきた非常に良いものがあるため、最適な「リンカー」と「ペイロード」という抗がん剤を組み合わせて、現在開発している状況です。
2024年3月期 業績
横川:2024年3月期の業績です。売上高はようやく1億円に達しました。ところが、販管費が9億8,200万円、そのうち研究開発費は6億円で、トータルでは純利益がマイナス11億円です。今のところ赤字が先行していますが、研究開発をがんばっています。
櫻井:治験が進んでいるからお金がかかっているのですよね?
横川:そのとおりです。
櫻井:1つ、2つ、3つと進んでくると、取り返せますよね?
横川:十分取り返せると思っています。
2024年3月期 財務状況
横川:B/Sです。2024年3月末時点でのキャッシュは15億4,100万円でした。その後、7月1日までに資金調達を行い、約9億5,000万円を調達したため、15億円足す9億円程度が、現状のキャッシュです。
櫻井:このキャッシュで、先までの研究開発費用は賄えると考えてよろしいですか?
横川:はい。前のスライドを見ても11億円や8億円ですから、今までと同じであれば2年程度はあります。
櫻井:「研究開発は進んできたけどお金がない」ということが一番困るため、そちらが十分かどうかが心配なだけですが、大丈夫ですね。
横川:はい。
構築中の新技術:難病などに対する抗体を素早く取得
櫻井:「目指す姿と取り組み」、ここが一番聞きたいところです。
横川:これからも抗体の創薬のトップメーカーとして、いろいろな技術を高めていきたいと考えています。新しい抗体はまだまだあるのですが、なかなか取れません。難しいものばかりです。
例えば、イオンチャネルと呼ばれる、痛みなど、さまざまな厳しい病気の抗体はめったに取れません。今までの方法だけでは時間がかかりすぎるため、最近の我々の取り組みとしては、AIとウェットな実験のハイブリッドでいこうということになりました。
今、一つひとつの抗体の配列は、調べればだいたいがすぐにわかります。その配列に対し、いろいろなスクリーニングを行った時に、これはどのぐらい結合したか、もしくは結合しなかったなど、いろいろな情報をすべてデータベースに入れて、我々独自のバイオインフォマティクスで「これに対する抗体は、このあたりがよいのではないか」という計算を行います。
しかし、それ一発ではまったく当たらないので、そのように導き出した推定値をまた自分たちで合成し、抗体を作ってまた評価します。そうやって回していくのですが、ウェットな実験だけでは遅すぎるため、そのハイブリッドで、抗体医薬作りを加速したいと思っています。
櫻井:いろいろな抗体を探し出し、検証、計算しますよね。御社の技術でスピードは速くなっていると思いますが、量子コンピューターなどが出てきたら、御社の技術を足せばさらにスピードが速くなりますよね?
横川:そうですね。in silicoも、コンピューターがどんどん速くなるとともに、安くもなってきました。我々の会社でもけっこう買えます。あとはアイデアだけ、という感じになってきました。
櫻井:単に量子コンピューターが出てくればなんでもできるようになるわけではなく、使いこなすための技術が必要です。それを御社は今がんばっているということですよね?
横川:そのとおりです。今、AI創薬は非常に流行っています。世界を見ると、すごいコンピューターだけで行うベンチャーも多いですが、生物の仕組みはそこまで単純ではないため、思いどおりにならないのです。トライアンドエラーを重ねて、駄目であればもっとどうかと、我々はまさにリアルな実験を行い、1つずつ作って評価します。このようなAIとウェットな実験のハイブリッドで、この先を突破したいと思っています。
櫻井:これまでの蓄積と、これから積み重ねる蓄積が合わされば、さまざまなスピードが早まるということですね。そこに技術やコンピューターがさらに進化すれば、それだけ早まるという理解でよろしいですか?
横川:そのとおりです。
成長戦略実現のための施策
横川:スライド左側は過去の成果、スライド右側の特に上部分は今期および今期以降のスコープです。まず、今ご説明したように、「PPMX-T002」と「PPMX-T003」の2つのパイプラインは、今期中に製薬会社へ導出したいという考えで進めています。
また、「PPMX-T004」は、世界で最も注目されているADCについての開発を、より一歩、二歩と進め、早く臨床に持っていきたいと考えています。
加えて、その他のADCやその他のモダリティと抗体の組み合わせです。今、抗体は放射線や低分子の化合物だけではなく、細胞や核酸などさまざまなものを運んでいます。
さらに、まだ残っている新たな標的に対し、アカデミアの先生方と研究していきます。
これらを通じて、なんとかナンバー1の抗体カンパニーになりたいと思っています。ぜひ、みなさまのご支援をお願いします。
櫻井:御社のことは、ナンバー1の抗体カンパニーを目指す会社と覚えれば良いですね。
横川:そのとおりです。
横川氏からのご挨拶
横川:先ほどご説明しましたように、赤字が先行していますが、研究開発は進んでいます。引き続き、みなさまのご支援、ご期待をお願いします。ありがとうございました。