目次

柴田周氏(以下、柴田):取締役執行役常務の柴田です。よろしくお願いします。

それでは、ものづくり・研究開発戦略、DX戦略、IT戦略の概要と、現在の進捗状況についてご説明します。

マテリアリティ

まず、ものづくり・研究開発戦略です。統合報告書でも示しているマテリアリティの中で、ものづくり・研究開発戦略がどのような位置づけにあるかを示したものとなります。

ものづくり・研究開発としては主に「新しい価値創造への取り組み」について重点的に取り組んでいます。

重点テーマとしては、「イノベーションの創出」「社会的価値の探求と創出」「ものづくりの追求」を掲げています。

ものづくり・R&D戦略部組織および戦略推進体制

戦略推進体制についてです。ものづくり・R&D戦略部では、ものづくりの出口だけではなく、入口の新規事業のアイデアから、研究開発、知的財産の構成、ものづくりまでを一気通貫で行える組織として運用しています。

新規事業戦略、知的財産戦略、研究開発戦略、ものづくり戦略をそれぞれ統括する、本社の戦略部門があります。

実行部隊として、イノベーションセンターにものづくり領域と研究開発領域を置いています。

新規事業を育てるインキュベーションセンターには現在、絶縁放熱基板を主に取り扱っている富士小山製作所と、それ以外の新しい事業を取り扱う新規事業推進部を設置しています。

なお、一部の組織については、2024年4月1日の組織改編を先取りして表現しています。そのため、現在の組織構成と若干異なるところがあることにご留意ください。

ものづくり戦略

ものづくり戦略についてです。中経2030に基づいた各工場のビジョンを策定し、工場の実力評価と課題を確認した上で、その解決を追求していきます。

その中で、ボトムアップ活動、ものづくりの基盤強化、技術開発・改善により、最終的にはものづくり力を別格化していくことを目標として掲げています。

ものづくり技術強化の取組状況

技術開発・技術強化の取り組みについてです。スマート化、自動化、ヒューマンサポートに関わる大きな技術の獲得を狙っています。

当社では以前より、これらのデジタル技術を中心に、ものづくりに活用していく活動を続けていますが、中経2030では、それをさらに強化していきます。

最終的には、工場として、プロダクト型・プロセス型ともにデジタルツインのかたちを作り上げていきたいと思っています。仮想空間の中で、工程や機械をシミュレーションするかたちで生産計画等に織り込みながら、安定的かつ効率的な操業をデジタルの力で成し遂げていくことを目指しています。

ものづくり基盤強化(やりきりプロジェクト)の取組状況

基盤強化についてです。この取り組みを当社グループでは「やりきりプロジェクト」と呼んでいます。2022年度から開始し、2024年度を最終年度とした3ヵ年のプロジェクトとして実行しています。

各職場における自律的改善を促す仕組みと、それを支える人材の育成が目標です。主に生産管理の強化と品質の安定化に取り組んでおり、各モデル拠点でフェーズ1からフェーズ4のステップで進めています。

拠点によって進捗度合いは異なりますが、現在は、フェーズ2からフェーズ3に移行しているところです。2024年度はフェーズ3からフェーズ4へ、最終的には改善の定着までもっていきたいと考え、進めています。

ものづくり体質強化(DXチャレンジ)の取組状況

体質強化についてです。全従業員に「学びと実践」の場を提供する全社活動を通じ、最終的にはデジタルを活用したものづくりや業務改善を実行できる人材を育てていきたいと思っています。

その中でも「DXチャレンジ制度」として、ものづくり領域に限らず、DXのメンバーも加えながらボトムアップ活動を進めています。

この活動は、各拠点・製造現場のみならず、営業拠点や補助管理部門も含めて、各々の業務を改善する時にデジタルの力を使いたいというアイデアを持つ方に応募していただいています。また、初期ステージの費用を負担することでハードルを下げ、全員がデジタルを活用する業務を行っていくことを促進するチャレンジ制度です。

第1期の応募テーマは19件でした。そのうち、すでに一定の成果までたどり着いているテーマは7件です。また、第2期の応募テーマは8件で、現在、実行方法等を検討しながら進めているところです。

このようなDXチャレンジ制度に限らず、各従業員が自分の意思をもってDXやものづくりの改善を進めるために、課題支援、DX教育・研修プログラムの充実、ツール類の整備も並行して進めています。

研究開発戦略~中経2030「研究開発戦略」~

ここからは、研究開発領域の戦略についてです。

未来を見据えた素材・材料開発、コーポレートとディビジョン・ラボが一体となって事業競争力強化に向けた新製品・新技術の創出を基本方針に掲げています。

さらに、内にこもるのではなく、開かれたかたちで産・官・学の連携を行うことで、早期の製品化・事業化を実現していきます。

重点方針は、新素材・部材の創出と資源循環の強化を目指しています。そのために、GHGの削減に加え、アイデアから事業化まで一気通貫で運営していくことに取り組んでいきます。

それらを支えるリソースとして、人員や資金を柔軟に配置することで、事業化までなるべく短い期間で進めていくことも方針に掲げています。

これらの重点方針に注力していく分野として、資源循環、脱炭素に加え、半導体関連、あるいはモビリティ領域を定めています。

研究開発戦略~目指す姿とメガトレンド~

研究開発戦略の内容を、図で示しています。最終的な私たちの目指す姿として、「人と社会と地球のために、循環をデザインし、持続可能な社会を実現する」ことに貢献していくことを、ものづくり・研究開発の中で進めていきたいと思っています。

そのために、2030年から2050年までにどのような社会課題があり、それに対して我々はどのように貢献できるかを考えました。中経では、「循環をデザインするサステナブルなマテリアルの提供」を掲げています。4つの注力分野の中で個別のテーマを定め、研究開発を促進しています。

研究開発戦略~テーマ設定方針(資源循環・GHG削減を強く意識したテーマ設定)~

循環という観点で、当社の事業や研究開発として取り組んでいく内容を示した図です。我々の大きなテーマである資源の循環やGHGの削減を意識し、テーマを決めています。

ブルーの背景色で示した部分は資源循環の静脈部分です。稀少元素や廃棄物を有価物化するリサイクル技術の開発を行っていきます。象徴的なところとしては、リチウムイオンバッテリー(LIB)のリサイクルなどに取り組んでいくことを考えています。

一方、資源循環の中でも、製品を再度世の中に出していく動脈部分においては、付加価値の高い素材・機能材料・製品を供給していきます。

脱炭素については、当社の特徴である自社電源を持つ活動に加え、お客さまのGHG削減に貢献できるような機能製品を開発し、供給していきます。さらに、CO2からカーボンを取り出し、リサイクルしていく仕組みにも注力していきます。

研究開発トピックス~資源循環の取り組み/LiBリサイクル~

具体的な取り組みについてご説明します。

リチウムイオンバッテリーのリサイクルには、3つの領域があります。

1つ目は、廃自動車等の製品からリチウムイオンバッテリーを回収する領域です。2つ目は、ブラックマスから最終的に炭酸リチウム、硫酸コバルト、硫酸ニッケルのような元素を取り出す領域です。3つ目は、そのような元素をもとに再度バッテリーとして使えるように、前駆体や正極材そのものを製造する領域です。

当社は全体の領域に関わっていきますが、2つ目の「ブラックマスから炭酸リチウム等を取り出す領域」について、現在パイロットプラントの建設を進めています。稼働時期は2025年以降を考えていますが、最終的には2030年度に向けて、ブラックマスの処理量を段階的に引き上げていく計画としています。

研究開発トピックス~資源循環の取り組み/高強度・高耐熱性無酸素銅「MOFC-HR」~

資源循環に貢献できる部材として、高強度・高耐熱性を持つ無酸素銅「MOFC-HR」についてご説明します。

「MOFC-HR」は従来の製品に比べてリサイクル性に優れ、従来の無酸素銅と同等の導電率と熱伝導率を持ちながら、非常に高い強度を実現している製品です。

今後伸びていくEV、あるいは次世代エネルギーの分野において、過酷な環境条件で、大電流・高放熱が求められる機器の部材として活用していただきたいと考え、現在拡販に努めています。

研究開発トピックス~GHG削減の取り組み/車載用小型端子向け銅合金「MSP5」~

「MOFC-HR」と同様の製品として、「MSP」シリーズの銅合金があります。ここでは、車載用小型端子向け銅合金の「MSP5」をご紹介します。

先ほどの「MOFC-HR」は純銅系の材料ですが、「MSP5」は合金系です。銅を主体としながらも、マグネシウムを固溶強化型で取り込んだ銅合金となっています。高い強度、導電性、耐応力緩和特性に加え、成形時に割れや破断が生じにくい成形性を有する合金として開発しています。

さらに、原理的にはCO2排出量を低く抑えることが可能です。GHG削減のほか、我々の工程としても貢献できると考えています。

研究開発トピックス~GHG削減の取り組み/新開発のチタン製水電解用電極~

チタン製の水電解用電極についてです。当社が持っている3Dプリンタ技術、あるいは3Dプリンタに使う粉末焼結技術を用いて、2層構造を持つ新しい電極を開発しました。

横浜国立大学の研究者の方々と一緒に、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の先導研究開発事業として応募し、現在進めているところです。「開発概要と今後」に記載のとおり、水を分解する電極部分と、酸素を排出する拡散部分が一体となった2層構造として、ユニークな特性を持っていると自負しています。

研究開発トピックス~カーボンリサイクルの取り組み/CO2再資源化~

カーボンリサイクルの取り組みです。こちらもNEDOに応募し、現在進めているものになります。当社では、CO2を分解して炭素材料としてリサイクルする技術の研究開発を、2017年頃から始めていました。

NEDOの委託事業は2021年度から2025年度までの5年間の予定で進めており、2030年頃の実用化を目標としています。CO2の分解、炭素の分離、水素の製造の後、還元剤を活性化し、またCO2を分解していくというサイクルを回していくことで、効率的にカーボンリサイクルを実現できると考え、進めています。

研究開発戦略~外部との連携/全体像~

外部との連携による研究開発機能の強化についてです。

図は、横軸が事業化の時期、縦軸がチャレンジの難易度を表しています。

従来の共同研究は、図の左下の領域に偏る傾向があります。これを解消するために、CVC、いわゆるスタートアップとの連携による事業化や育成の早期化にも取り組んでいます。また、公募制度によって従来の共同研究の枠組みにとらわれず、チャレンジ度の高い研究開発を、一緒に進めていく制度も立ち上げています。

加えて、長期にわたって難易度の高いものに取り組むため、大学との包括連携を行い、技術の開発に取り組む共同研究拠点も設置しています。

研究開発トピックス~外部連携/東京工業大学に研究拠点設置~

東京工業大学に設置した研究拠点についてです。持続可能な社会に貢献する革新的な材料やプロセスを研究していく拠点として、2026年3月31日までを設置期間と定めています。

初年度は、8件のテーマを進捗させました。加えて、長期にわたる難易度の高いテーマとして、「これから当社にはどのようなものが必要か」を大学の先生方と議論するためのワーキンググループを設けました。そこでの議論から、2024年度のテーマを決定し、現在走り始めているところです。

テーマの掘り起こしが十分とはいえない部分もあります。ワーキンググループの中で、当社や社会にどのような技術が必要かを、東京工業大学と常に話しながら、新たなテーマの設定も行っていきたいと思っています。

研究開発トピックス~外部連携/CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)~

外部連携としてベンチャーとの協業を目指すCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の状況についてです。表には、すでに投資している5つの企業を記載しています。

研究開発トピックス~クリーンエネルギーの取り組み/ペロブスカイト太陽電池材料~

エネコートテクノロジーズとのペロブスカイト太陽電池材料の取り組みについてです。いろいろな企業がペロブスカイト太陽電池、あるいはそれに類する薄膜型の太陽電池の開発に取り組んでいます。

エネコートテクノロジーズは、京都大学発祥の技術をベースに、ベンチャーとして独立した会社で、当社が出資し、共同で開発を進めています。

当社は、エネコートテクノロジーズが使う電子輸送層の材料開発などで貢献しています。今後、薄膜太陽電池の活躍が期待される分野で、この製品の伸びを後押ししていきたいと思っています。

研究開発トピックス~外部連携/MI(マテリアルズインフォマティックス)~

材料開発領域における外部との連携についてです。国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)と設立した、「NIMS-三菱マテリアル情報統合型材料開発センター」についてご説明します。

NIMSは、情報統合型の材料開発基盤を有しており、そこに当社が培った実験データや解析モデル、あるいはさまざまな実験に基づく経験則を融合させることで、複数の素材・プロセスの組み合わせで作られる実用材料の性能・寿命等を予測できるシステムを構築しています。現在、2025年までに作り上げることを目標に進めているところです。

従来、なかなか手がつけられていなかったデジタル活用を、研究開発領域において進めていくための非常に大きな取り組みだと思っています。

研究開発トピックス~外部連携/MI(マテリアルズインフォマティックス)~

具体例として、「MSP」シリーズが、特性予測モデルの中でも優位性が確認できたことを示しています。

図は、機械特性と電気特性が各元素を組み合わせた場合にどのようになるかをプロットしたものです。

この図の中で、当社が進めているマグネシウムを添加した銅合金について、特性・コスト・安全性を総合的に評価した結果、最適であることが導き出されています。

これからは、従来のものがどのような位置づけにあるかという確認の作業だけではなく、新たな合金を探索する際にも、NIMSとの共同活動を続けていきたいと思っています。

知的財産戦略~中経2030で目指す姿と重要施策~

知的財産戦略です。中経2030で目指す姿は3つとなります。

1つ目は、最適な知的財産ポートフォリオの形成です。2つ目は、高度な知的財産の分析・調査技術(IPランドスケープ)などを用いて、新規事業の創出や既存事業の強化に貢献していくことです。そして3つ目には、グループ全体の知的財産を戦略的に活用することを掲げています。

知的財産戦略~ガバナンス体制と取り組み~

このような知的財産については、執行役会や取締役会の監督のもと、ガバナンスを効かせながら、非財務的な資本として作り上げていくことを考えています。

図の中央に記載している「戦略対話」を中心として、事業部門と知的財産部門が共同で戦略的な知財形成を目指しながら、役員層あるいは取締役会の監督のもと、PDCAを進めていく体制となっています。

戦略対話の進め方

具体的な戦略対話の進め方を図で示しています。一般情報や専門情報をもとに事業戦略・ロードマップを理解し、その情報をもとに分析を行って仮説を立て、さらにその仮説を再び検証していきます。最終的には事業戦略・ロードマップの中に知財方針を組み込み、骨太のロードマップを仕上げていきます。

さらには、自社だけではなく、M&Aも加えながら事業戦略を作り上げていくことを、各テーマにおいて事業部門と進めています。

新規事業戦略~取り組み全体像~

新規事業の取り組みとなります。新規事業は、成功するもの、失敗するものなど、さまざまなものが出てきますので、より多くのアイデアからよいものを見極め、出口をしっかりと設けて世の中に出していくサイクルを継続的に行っていくことを目指しています。

したがって、テーマ数を増やすことに対しては、社内ベンチャー(公募)制度等を活用します。また、事業を強力に推進するためには、リーンスタートアップを実行できるようなシステムを構築しながら、人材を供給していきます。

最終的には事業を大きくしていくために、出てきたアイデアのみでなく、社外のリソースも加えるM&Aなども含めて、大きな事業に育てていくことを目指しています。

新規事業戦略~社外リソース活用~

新規事業の中で社外リソースを活用する例として、我々が「Wild Wind」と呼んでいるアクセラレーションプログラムをご説明します。

当社では、新規事業として立ち上げたいテーマについて、ベンチャー等に広く紹介し、「協業したい」という方々に応募していただいています。そして現在、応募された方とのマッチングを実施中です。

このように、中に閉じこもるのではなく、外に開かれた新規事業として加速させていきたいと思っています。

新規事業戦略~ライフヘルスケア関連/トピックス~

新規事業として具体的に取り組んでいるものを、2件ご説明します。1件目は、歯科検診サービスです。クラウド型の歯科検診サービスを提供するデンタルドアを設立しました。

集団で行う歯科検診を対象に口の中をデジタルデータ化するサービスで、受診した方がそのデジタルデータをスマートフォン上で確認できることが特徴になります。できる限り早く、年間50億円規模の売上に到達できるよう、協業している日本歯科衛生協会とともに進めていきたいと思っています。

新規事業戦略~金属材料関連/トピックス~

新規事業の2件目は、「金属ゴム」の開発です。従来、金属や有機材料がさまざまな分野で使われていますが、図のとおり、柔軟性・接着力ではゴムに優位性があり、使用できる温度領域は金属に優位性があります。このように、トレードオフの関係の中でお客さまに選択していただいていました。

当社が開発した「金属ゴム」は、ゴムと金属の利点をあわせ持ち、高温の領域でも柔軟性を一定程度保ちながら使用できる製品として、現在事業化を進めています。

もともとは、生物の開発テーマの中から出てきたものですが、接着・仮固定の用途で、特に要求の厳しい航空宇宙、半導体、医療などの分野で使っていただくことを考えています。現在は、さまざまなパートナーやお客さま候補との協議を進めています。

マテリアリティ

DX戦略についてご説明します。

ものづくり・研究開発と同じく、マテリアリティの中でのDXの位置づけを示しています。

当社グループでは「DXの深化」を1つのマテリアリティとして捉えています。重点テーマとしては、「業務プロセスの変革」「オペレーション強化」「新たな付加価値の獲得」に取り組んでいます。

4つの経営改革

DXには、「X(X-formation/Transformation)」の部分が示しているとおり、さまざまな業務改革も含まれています。したがって、CX、HRX、業務効率化など、当社が進める経営改革の1つとしても、DXを位置づけています。

デジタル技術を使って業務プロセスやオペレーションを変えていき、最終的には経営スピードを上げていくことを目標として、DXに取り組んでいます。

DX戦略(MMDX)

DXの取り組みは、2020年度から始めました。DX戦略のフェーズを、左下に載せています。2020年度から2022年度の前中経期間では、180億円程度の投資を行いました。2023年度から2025年度の中経2030のフェーズ1においては、280億円程度の投資を計画しています。

投資を進めることで、最終的には今を強くし、明日を作り、さらには人を育てることを目標として活動しています。

さらに、2022年度の10月からは、「MMDX2.0」として、テーマの再編成、体制強化を行っています。

製造業DXとして、お客さまとの接点を中心とした「事業系DX」、製造業の根幹である「ものづくり系DX」、さらにはそれを支える「研究開発DX」を大きな柱として進めています。それらを「全社共通DX」で支えながら、基幹業務の刷新としてERP導入なども進めるというかたちに再編しています。

このように、お客さまとの接点を強化するだけではなく、ものづくりを根本から強化していくため、「MMDX2.0」として再スタートしています。この「MMDX2.0」で目指すものは、再編の目的と同じく、ものづくり領域の強化を第一としています。

次に、実行体制をしっかりと整え、各テーマを推進していきます。さらには、ボトムアップ活動を活性化し、DXを根付かせていくことを目指しています。

推進体制

体制についてです。CDOをトップに「DX推進本部」というバーチャル組織が設置されました。全体の進捗、課題、コスト、リソース配分等、「MMDX2.0」全体を把握しながら進めています。

個々のDXテーマについては、事業系DXでは各カンパニーや事業部門がオーナーとなり、共通の安全安心・保全などは機能領域の部門がオーナーとなって進める体制を取っています。それらをDX推進部、システム戦略部、そしてグループ会社の三菱マテリアルITソリューションズが支えていきます。

本社部門や共通部門、三菱マテリアルITソリューションズは、全体最適の視点を忘れずに、テーマ・システムの横展開・共通化を進めます。また、初期ステージにおける現場発のテーマや新規テーマに対し、人的あるいは技術的なバックアップを行い、全体のDXを進めていきます。

MMDXのマスタスケジュール

2024年度までの全体スケジュールを示しています。2020年度から正式にDXをスタートし、現在は2023年度の下期が終わるところです。また、2022年度の下期、10月からは新たに「MMDX2.0」として、取り組みを進めています。

具体的なテーマ別の進捗は、赤字の星マークで示しています。さまざまなソリューション・サービスがすでに立ち上がっています。

【DX取り組み事例①】加工C DX|マーケットインテリジェンス(MI)

加工事業カンパニーのマーケットインテリジェンスについてです。

マーケットインテリジェンスは、お客さまをより深く理解し、その理解に基づいたサービスの提供と自分の業務を効率化・高度化していくことを目的に進めています。

具体的なソリューション・サービスは、インターネットで工具販売を行うEC、Webサイトの充実による情報発信の強化、顧客情報の収集・分析を通じて高度な対話を進めていくCRM、マーケティングの自動化・効率化を進めるMA、そして加工事業カンパニーの主力製品である切削工具等をお客さまに提案していくDTO(デジタルツールオーガナイザー)などがあります。

このようなサービスは、最終的にはお客さまにすべてつながります。営業部門が主体に見えますが、実際には開発部や製作所の製造部門が支えており、開発の最適化や需要予測の精度の向上に貢献しています。

製造部門・開発部門もマーケットインテリジェンスに加わることで、カンパニー一丸となってサービスの高度化を図り、お客さまに「より良いものを、より早く届けること」を目指しています。

【DX 取り組み事例②】 高機能 C DX|顧客接点強化

高機能製品カンパニーにおける顧客接点強化の取り組みです。加工事業カンパニーと同様、お客さまを起点に当社内のさまざまな機能の統合を行っています。

営業統合プラットフォームにデータを集めて分析することで、当社の業務を改善します。コンセプトも加工事業カンパニーと同様で、「より良いものを、より早く届けること」を目指しています。

一つひとつのシステムについて進行中で、すでにCRM・ワークフロー・BIツールなどの導入が完了しています。具体的な活用については、状況を見ながら改善を進め、お客さまへのアプローチをさらに高度化していく取り組みを続けています。

【DX取り組み事例③】金属C DX|E-Scrapプラットフォーム

金属事業カンパニーの取り組みです。金属事業カンパニーは、E-Scrap(金銀滓)を取り扱うことで成長を図っており、それを支えるプラットフォームとして「MEX」を実現しています。こちらは、2021年の12月から稼動しており、お客さまからの要望や当社として強化したい部分などを順次実現しながら、大きく成長させています。

「MEX」は、安全・安心な取引の場として、リサイクラーや商社と当社をつなぎ、信頼性を高めながら、E-Scrapビジネスを全世界的に拡大させていきたいと考えています。

最終的には、2030年度末に24万トンのE-Scrapを処理していくという事業部門の目標に向けて、積極的に貢献していきたいと思っています。

【DX取り組み事例④】 組織風土と人材育成 (1/2) デジタル教育の全体像

DXの活動を支えるための組織風土と人材育成の状況について、デジタル教育の全体像を示しています。「共通デジタルリテラシー教育」を土台とし、「高度デジタル教育」を展開しています。目標は、職域における高度なデジタル人材と、そのような職域でビジネスとしてのDXを進めていく人材の両方を育てることです。

【DX取り組み事例④】 組織風土と人材育成 (2/2) デジタル専門人材の育成目標

どのような人材をどのくらい確保していくのかを示しています。中間地点の2025年度には、グループ全体で1,000名規模のデジタル専門人材を確保することを目標としています。最終的には、2030年度に2,500名規模のデジタル専門人材を確保したいと考えています。

現在、2023年度の時点では、上級で30名、中級で300名という目標に対し、大幅に上回る育成実績が出る見込みです。

また、1番下に位置する「初級」では、「共通デジタルリテラシー教育」を全社員に受けてもらう取り組みを進めています。なお、当社単体では2022年度に、約1,000名の従業員に対して初級の教育を終わらせています。

現在は、このような全員参加の教育に加え、中級・上級のレベルの高いデジタル人材の育成にも取り組んでいます。

IT領域の位置づけ

IT戦略についてです。昨今、ITとDXの境界が曖昧になってきています。当社でも、ITとDXを一緒に進めている部分が多くあります。その中でも、「従来型のITをどのように活用し、高度化していくか」という課題が残っているため、「IT領域として何をすべきか」を明確にしています。

まず、ICTツールを充実させ、その基盤となるIT基盤を整備していくことが大切です。この基盤ツールを使えるメンバーやそれを教育できるメンバーを確保することで、IT人材を確保しています。

そのようなものを活用し、これまでの古いシステムや古い言語で作られているシステムをモダナイゼーションし、組織のITを最適化します。これと同時に、セキュリティも守りながら、当社のIT環境を構築していきたいと思っています。

IT戦略

具体的には、データ活用・働き方・セキュリティの観点から、事業を支えるITモダナイゼーションを推進するために、100億円規模の投資を行います。最終的には2030年度までに、ITコストを売上高比率で1パーセント以下に抑えつつ、効率的なIT基盤を作り上げていきます。

その際に注意すべきことは、情報セキュリティを中心としたガバナンスと、グループ全体における共通化・標準化を進めるシナジーを着実に実行していくことです。また、古いシステムからグローバル標準の基盤へ移行し、適切なセキュリティ対策を施します。

さらに、それらを支える人材を着実に育成し、最適な組織を構築することをITにおける取り組み方針として掲げています。

IT領域における基本原則

基本原則は、セキュリティを中心としたガバナンスと、共通化・標準化を中心とするシナジーを、両輪として着実に回していくことです。当社はこれを「三菱マテリアルグループのIT WAY」として進めていきたいと考えています。

モノ領域:新しいIT環境の整備(1/2)

IT環境の整備についてです。グローバルなビジネスを支えるITインフラとして、効率的・安全にクラウドを活用するための共通基盤を整備しています。

図のとおり、さまざまな基盤やソリューションを提供しながら、セキュアな状態で、グローバルなネットワーク上でこれらを使えるように整備しています。これにより、当社の工場や海外の子会社のほか、従業員がオフィスのみでなく、自分が選んだ場所で勤務できるような体制を整えているところです。

さらに、お客さまや取引先とも情報を連携できるよう、セキュアでグローバルなネットワークを構築することを目指しています。

モノ領域:新しいIT環境の整備(2/2)

ワークプレイスのモダナイゼーションという意味では、昨今、働き方改革の1つとしてリモートワークが進められています。当社もコロナ禍を契機に、リモートワークを進め、現在、本社地区においては、出社率は2割から3割程度で、効率的に業務が進められる体制への移行を実現できています。

これは、適切なICTツールをコロナ禍の前から整備していたおかげだと思っています。これからも、そのような基盤・ツールの整備を着実に続けていく予定です。

そのために、当社では工場の従業員も含めた全社員に、スマートフォンを配布して情報の連携を強化したほか、これまでプログラミングの経験のない従業員でも、ローコード・ノーコードでデジタルツールを自分で作れる環境を整えています。

加えて、最近たいへん活況な生成AIについても、セキュリティを担保しながら活用することを、当社グループ内でPoCを加えながら進めています。このような取り組みによって、業務システムやプロセスを更新していきたいと思っています。

セキュリティ領域:安全確保の取り組み

IT分野には、切っても切れないセキュリティの部分についてご説明します。

セキュリティは非常に大事な問題であるとともに、無限にお金やリソースをかけ続けることができる領域です。そのため、当社としては、適切なセキュリティを担保し、適切なコストの範囲でセキュリティを確保していきたいと思っています。

当社のネットワークの中だけを守るという従来型の境界防御ではなく、ゼロトラストのセキュリティに転換を図り、セキュアなアクセスをサプライチェーン全体で確保していきたいと思っています。さらに、グローバルな視点でのネットワークなども展開していきたいと思います。

ここで特別にご説明したいことは、スライド右側の図中にある「OTセキュリティ」と「インシデント対応体制」です。ほとんどの場合、従来型のオフィスにおけるITのセキュリティのみになりがちですが、当社では製造拠点や営業拠点にさまざまなシステムが展開されています。そのため、OT領域のセキュリティにも着実に取り組みたいと思っており、現在も各拠点でセキュリティの向上に努めています。

加えて、いろいろな防御策を取ったとしても、万が一は起こり得るため、そのようなことが起きた時に迅速に対応し、影響を極小化できるようなインシデント対応体制についても整備を進めており、一定のレベルまで構築できていると自負しています。

カネ・ヒト領域:役割分担の見直しによるリソース分配最適化

最終的にどのような役割分担でIT戦略を進めるのかを示しています。三菱マテリアルITソリューションズというグループ会社を最近設立しました。当社のIT戦略を具体化するための専門技術と実行力を持つ、力強いグループ会社として育てていきたいと考えています。

本社あるいはカンパニーが、それぞれシナジーやガバナンスを追求したIT戦略、あるいは事業成果を追求したIT戦略を立案し推進するという役割は変わりませんが、それを実行していくところは、三菱マテリアルITソリューションズに集中させることで、効率的かつ強力な推進体制となるよう活用したいと思っています。

現在、三菱マテリアルITソリューションズは100名程度の規模ですが、これからも機能や人員の強化を図り、グループ全体のデジタルを支えるグループ企業として育成していきます。

質疑応答(要旨):投資がコア事業に与える具体的な影響について

質問者:資本市場では、投資した内容とエグゼキューションしたところが大事になるが、一方で、どのようなリターンが出てきたかも非常に重視する。

おそらく、数年はこの形式のプレゼンテーションが続くと思うが、可能であれば、得られた成果についても、経過報告として具体的な数字があるとありがたい。

例えば、「営業でこの効率が上がりました」「生産性がこのぐらい上がりました」といったものや、ESGの「S」に関して言えば、「ホワイトカラーの生産性がこれだけ高まりました」という結果が聞けるとうれしい。これは、質問というよりもお願いになる。

質問だが、今後、数年間で行う投資が、コアとなる事業にどのような良い影響を与えるのか? 

例えば、「MEX」を始めてから時間が経っているが、どのような成果が出てきているのか、具体的な事例を教えていただきたい。

柴田:「成果を数値で」というところは、次回以降のプレゼンテーションで取り組んでいきたいと思います。

具体的な成果として、ご質問のあった「MEX」については、新規または既存の顧客から当社に出していただく金銀滓の処理量が増えていることが、定量的に確認できており、確かに成果が出ています。

ただし、金銀滓の取引は、グローバルな競合他社を含めて、かなり苛烈な状況になっており、取引条件が悪化しています。この悪化部分を「MEX」を通じて顧客数あるいは処理量を増やすことで相殺し、最終的な利益を高めている状態です。

今後は、このようなDXによる利益貢献や売上に対する貢献、研究開発の新製品による増量効果などについて、研究開発やDXのみで成し遂げたかどうかは、曖昧ではあるものの「このようなテーマで結果はこうなりました」とお伝えしていきたいと思います。

それは、ご指摘があったホワイトカラーの生産性の部分などについても同様です。例えば「業務効率化でどのくらいの時間が削減できたか」など、社内で定量的に把握しているデータを、今後はみなさまにも開示していきます。

質疑応答(要旨):デジタル専門人材の育成がビジネスに与える良い影響について

質問者:人材育成等については、ただアウトソーシングするだけではなく、社内の人がシステムを理解していなければ、うまく機能しないと思う。

社内でスペシャリストを育成していくことに関して、KPI以外でも、今後の情報のアップデートをお願いしたい。

今一番知りたいことは、このような取り組みを始めた中で、実際のビジネスにどのような好影響が出てきているか。この1点に絞って、なにか事例を教えていただきたい。

柴田:DX人員を確保する目標として、1,000名、2,500名を設定したのは、もともと当社グループの規模を考えると、他社の事例を見てもこのぐらいの人数は必要だろうと思ったためです。

2023年度までの実績では、当社が上級認定している特定の高度な資格を持つ人が30名以上確保できました。また、中級レベルでは講習を受けただけの人がいるものの、Pythonの技術を持つ人やBIツールを使える人、データサイエンスが一定程度使えるレベルの人が300名以上確保できています。この実績についてはご理解いただきたいと思います。

ただし、当社ではこの人数をトラッキングする指標としては必要かつ重要なものだと思っているものの、そのような素養を持つ人たちに、実際にそのような職場でデジタルを活用し、成果を出してもらうことのほうが、さらに大事だと考えています。

そのような意味でも、「DXチャレンジ制度」などを使って、DXを理解し、能力も持った人が、それを実践できるところへ着実につなげていきたいと思っています。そのような取り組みについても、次回以降はみなさまになんらかのかたちで実績をお伝えできるようにしたいと思います。

質疑応答(要旨):新規事業やR&Dの将来性見極め・評価・時間管理について

質問者:新規事業や研究開発について、御社ではその将来性をどのように判断しているのか? 開発の途中にも、評価方法やKPIなどの物差しがあるのか? あわせて、時間の管理をどのように行っているのかについて教えていただきたい。

柴田:新規事業やR&Dについて、将来性を見極め、そのテーマを中断するか、続けるかという判断を行うのは、非常に難しいことです。

R&Dは長期にわたるものも多く、一方で新規事業はスモールスタートを行い、多死多産を積み重ねています。「失敗も勉強の1つ」と捉え、良いものとして繰り返していくことを考え、ゲートを設けて進めています。

長友義幸氏:新規事業やR&Dでも、かなり新規事業に近いものを扱う場合は、ステージゲートを設定しています。

最初の段階では、新規事業はリスクのあるアイデアが多いため、最初の仮説段階では蓋然性を高める検証期間をある程度設けています。そして、検証を重ねながら蓋然性を高めていき、蓋然性の高いものを残していくことで、筋の良さを見極めて選抜していく仕組みを取り入れています。

なるべく数多くのアイデアを出したいため、蓋然性の低い段階では開発の経費を抑え、できる限り多くの数を取り扱いつつ、徐々に蓋然性が高まり具体的なビジネスが見えてきたところでは、アクセルを踏むためにある程度の費用投下も行いながら、事業に仕立てていくというステージゲートになっています。

つまり、まずはスモールスタートでしっかりと事業を出していくという設えのステージゲートとやり方で行っています。

磯部毅氏:R&Dは長期になるため見極めが非常に難しいですが、R&Dでもゲートを設けています。そのゲートごとに、状態や「今後どのように続けていくのか」という見極めを行っています。時代とともに見極める視点も変わるため、多くの人の意見を聞きながら判断しています。

ただし、一度諦めたり、中止してしまったプロジェクトや知見も、そのまま眠らせるのではなく、可能性があれば細々とでも続けていくことが大事だと思っています。

柴田:今まで取り組んできた中で、お蔵入りしているテーマがあります。その中には、社内では技術レポートのように、ノウハウ化してとどめているものもあります。

現在、研究開発のDXでは、そのような過去の蓄積内容をデジタル化した上で、新たなテーマを進めていく時に、「過去に何があったか」「どこまで利用できるのか」などを簡易に参照することも考え、社内の研究開発情報システムのようなものを作り上げているところです。そのような問題意識を持って取り組んでいます。

質疑応答(要旨):安定的な生産に対する考え方や取り組みについて

質問者:一般的に、ものづくりでは「安定的な生産」が大切だと感じている。決算説明会では、時折トラブルの話が出ることがある。このあたりについて、どのような問題意識で取り組まれているのか教えていただきたい。

柴田:安定的な生産に関する取り組みとして、例えば「やりきりプロジェクト」では生産管理の強化を行っています。「正常な状況とは何か。今まで考えていた正常が本当に正しいのか」「もっとレベルアップすることはできないのか」ということを見極めながら、それを維持するための方法を着実に定めて、磨いていこうとしています。

これまでIRなどで、このようなことをお伝えしていなかったのはご指摘のとおりです。

特に事業成績を中心としたご紹介の中では、やはり「トラブルがあった、なかった」ということの財務インパクトが大きいため、ご紹介していることが多かったと思います。

一方で、今回ご紹介しているように、「事業活動を支える研究開発やデジタルがきちんと機能するか」ということは、安定的な操業ができていることが大きなポイントになります。

基本的に、直島製錬所のようなプロセス型では、24時間365日動き続けることが前提となります。その中で、いかに修繕コストや人が関わるコストを下げながら、高収益な体質に変えていくかということが至上命題になります。

また、切削加工の工場のように、ディスクリートな生産工程を持つ拠点では、一つひとつの工程の効率化や段取りの縮小化、待ち時間の削減、一気通貫で見た時の最適な生産方法の確立によるリードタイムの削減などが、個々のテーマとして挙がってきます。そのため、具体的にはものづくりやDXの領域で、テーマ化して進めています。

したがって、ご質問にあった「安定的な操業に向けた取り組み」については、しっかりと実施しています。まだ説明が足りていない部分があるかもしれませんが、そこがやはり製造業としての根幹であり、私、柴田以下、組織の人間の至上命題であると理解しています。

質疑応答(要旨):DX・IT戦略への投下資金について

質問者:IT戦略の「100億円規模の投資を行い、2030年度におけるITコストは売上高比率1.0パーセント以下」という記述について、今後、年度ごとにDXやIT戦略に対し、どのくらいの資金が投じられるのか? 

また、それを投資・コストのどちらとして捉えているのか。もし投資と捉えるのであれば、どの程度のリターンを見込んでいるのかなど、経済的な動きについての考え方を教えていただきたい。

柴田:DXの初期段階において、全体的な検討をしているものや、検討のみで終わり、次のシステム構築に移らなかったものは、コストとして処理しています。

一方で、現在はDXも含めて、基本的に最終的な成果に結びつく検討のみが残っている状態のため、多くのものは投資になっていくと捉えています。

ITに関しても同様で、もちろんPOCのようなものについては、経費として処理を行っているものも一部あります。

ITの「100億円規模の投資」と「売上高比率1.0パーセント以下」の具体的な内訳については、板野よりご説明します。

板野則弘氏:IT戦略の100億円は、2030年度までの投資金額を示しています。ただ、投資も最終的には減価償却に回るため、経費ベースで考えた時に「売上高の1.0パーセントをシーリングとしておきましょう」ということです。

この「1.0パーセント」の理由は、いろいろな会社を見た中で、製造業の一般的なIT投資の指標として、売上高のIT投資比率が一番よく使われていたためです。

特に当社の場合は、DXが始まる前の段階で、0.5パーセントというITへの投資規模であり、世の中で今進んでいる内製化を先取りしている状態でした。したがって、非常に効率的にITの投資費用を使っていました。

問題はその中身であり、DXへの取り組みが始まり、新しくモダナイゼーションを掲げていますが、このように中身をさらに高めたり、オンプレミスからクラウドに変更したりすると、その分コストは上がっていきます。

そのようなことを踏まえると、シーリングとして1.0パーセントという数値は、製造業として標準的ではないかと思います。ただし、事業をプロセス型とプロダクト型に分けてみると、当然ながらプロダクト型のほうが高くなるため、本来はさらに数値が大きくなっても問題ないと思っています。

もう1点、ポイントとなるのは、当社は、完全カンパニー制を敷いていることです。この100億円のうち約65パーセントは、カンパニーの中にある、主に事業を直結的に支えているような仕組みへの投資になります。

残りの35パーセントが、セキュリティを含めた共通のところで、ここにいろいろな共通基盤への投資が入っています。

加えて、2024年4月からERPを経理・会計領域で動かし始めることがあります。これもモダナイゼーションの1つですが、こちらのお金に関してはDX側に入っています。

このように中身は入り組んでいるものの、大枠としてITコストは売上高比率1.0パーセントとなっています。いわゆる競争力を最低限確保するための投資として、2030年度までにいろいろな施策を考えています。

柴田:IT部門については、ご説明のとおりです。DXについては、3年・5年のタームでの投資規模を示しています。

具体的に、各テーマでどのくらい投資するかは、社内で管理しています。その効果をROIとし、良い数字が出るかどうかを把握しながら、それをKPI化し、トラッキングしています。

ただし、先ほどの新規事業・新製品・R&Dの中での議論と同様に、「DX投資がその数字にすべて貢献できているのか」あるいは「DXのみを切り出すとどうなのか」というところは、なかなか明確にするのが難しいところがあります。

このように、クリアカットできてない部分もありますが、「求める効果に対し、現在どのような水準になっているのか」というトラッキングは、すでに実施しながら確認しています。

基盤などについては、当然ながら投資に対してのリターンが見合わないものも出てきます。ERPも投資額に対し、人員削減効果などでカバーできるかというと、とてもカバーできるものではありません。

これは老朽化した設備を更新していく場合と同じような感覚です。そのような意味で、「トータルのP/L上でのインパクトとして、1.0パーセントぐらいが適切であろう」という考えで、リターンがダイレクトには出てこない基盤系の整備についても取り扱っていることを、ご理解いただければと思います。

質問者:確認だが、まずIT投資は、年間100億円規模で行われて、それが最終的には減価償却費にも反映されるため、売上高比率で1パーセントぐらいのシーリングだということか?

もしくは、DX投資が別にあり、2023年度から2025年度の3年間で、約280億円を投下するということか? いずれも年間100億円弱のペースで、全体では200億円弱の投資規模になっていくという理解でいいのか?

柴田:ITのほうは、2030年度までの間での投資額になります。

質問者:これから7年ぐらいで100億円ということか?

柴田:そのとおりです。したがって、現在の中経期間において、DXとITの総額を足し合わせていただくと、年平均で100億円ぐらいになります。

質疑応答(要旨):取り組みに関する具体的な成果について

質問者:今回、説明いただいた取り組みの中で「具体的な成果について説明してほしい」という指摘について「加工カンパニーのマーケットインテリジェンス」を具体例として、最終的にどのようなKPIや成果を考えているのかについて教えていただきたい。

柴田:「具体的に、どのように成果を把握しながら進めているのか」について、ご指摘のあった加工事業カンパニーを例にご説明します。

当社では、新規顧客の獲得数や、新製品の売上高などをKPI化しながら、トラッキングを行っています。

端山敦久氏(以下、端山):加工事業や高機能製品において、顧客接点の強化を始めてまだ1年から2年です。したがって、「実際の顧客数がどのくらい増えたか」というよりも、まずは「CRM・SFAのシステムをどのくらい使いこなしているか」というところに、大まかなKPIを置いています。

現状では、かなり使いこなせるようになってきており、今後は売上高、新規顧客、シェアなどの具体的な効果につなげる活動を進めていきたいと考えています。

まだ見込みの部分が大きいものの、2020年度から開始したDXについて、2030年度までにDX全体で約600億円を計画しています。

この600億円をすべて使うかどうかは別として、それに対するリターンは、当然それ以上の数値を見込んでいます。

ただ、なかなかビジネスの効果に直結しないテーマもあります。例えば、データ基盤などにはかなり力を入れており、基盤やデータ収集、見える化等を進めています。しかし、それがビジネスにどのように貢献するのか、具体的な数値としてあらわれてくるのは、少し先になるだろうと思っています。

質疑応答(要旨):推進体制について

質問者:推進体制について、DX関連のプロ人材を育てていくことを目的に、かなりアグレッシブな人数の計画を示している。一方で、組織的な推進体制は、事業系DX領域では各カンパニーに配分しつつ、残りの部分では、それぞれで見ていくのか?

説明があった、三菱マテリアルITソリューションズの組織も、コスト・投資・人材の配分などは、基本的にコーポレート部門が集中して管理・進捗するのか?

また、例えばKPIの管理など、目に見える部分も見えない部分も合わせて、成果を進めていく計画になっているのか? 各カンパニーはそれに対してどのような責任、効果の刈り取りを負うのか?

例えば、私たちが各部門の業績を予想する際に、人員や投資コストの織り込み方については、今後、今までと違う割り振りを意識した上で、利益率などを考えていくことができるのか? プラスとマイナスの面があると思うが、推進の仕方をもう一度、確認させてほしい。

柴田:まず、デジタル専門人材の育成に関しては、この人数が現有勢力に対し、その年ごとに足されていくという意味ではなく、現在、当社の中で、現業部門である工場、製作所で働いている人や、本社地区で働いている人も含めて、このような教育や資格を取得することで、デジタル人材として認定していくという取り組みです。したがって、これがコストアップにつながることはありません。

全体的にこれぐらいの人数が必要になると思います。また、育成は全社側でDX推進部が主体となって設定しており、現在、フォローも行っている実態があります。

さらに、「2023年度は上級30名・中級300名という目標を超えそうだ」とお伝えしましたが、人員を確保できたのであれば、「その人たちが実際に活躍できる場が用意できているのか」または「各事業部門から考えた時に、中級者をどのくらい必要としているのか」ということを再確認した上で、すでに中級・上級の資格を持っている人たちの配分が正しいのかを、本社側で確認し、必要なローテーションや補強について、カンパニーと協議していくステージに今後は入っていくと思っています。

そして、DX戦略の推進体制で示したかったことの1つは、全社としてDXを推進しているということです。

もう1つは、「これはバーチャルである」ということです。人を本社に動かしたり、カンパニーに動かしたりという部分も一部ありますが、基本はバーチャルに組織化し、プロジェクトとして各テーマを組成し、必要な人員が必要なところにいる状態を構築しています。

事業系DXについては、必要な人員は基本的にカンパニーや拠点にいるとご理解いただければと思います。

質問者:コストや成果の負担を部門ごとに見ていくと、どのようになるのかについても教えていただきたい。

端山:DXテーマに関しては、すべてのテーマをDX推進部のほうで、進捗も含めてプロジェクトという建て付けとして見ています。当社は、受益者負担を基本原則としているため、できあがったデジタル施策は各事業のものであれば、その事業がコストを担うことになっています。もちろん、効果を享受するのもその事業になります。

質問者:そのような点では、例えばコスト削減や売上の進捗などの計画についても、受益者である各カンパニーが主体的に取り込みつつ、成果をモニターしていくため、私たちもそれを踏まえた上で外部から見ていけばよいという理解でいいか?

端山:おっしゃるとおりです。もちろん「KPIの設定の仕方が甘いのではないか」というご指摘もあるかと思います。共通的な指標で、例えば、加工事業カンパニーと高機能製品カンパニーで、お客さまの接点を中心として、似たようなシステムを作っている部分もあります。そのため、そのようなところは「横串を通して、同じような指標で見たほうがよいのではないか」ということは、本社側がコメントし、ある時は指示することもあります。

しかし、基本的にはやはり受益者であるカンパニーが、自社の利益・効果を最大化するために、追うべき指標を定め、トラックしていくことになります。

質疑応答(要旨):新製品・新技術・新事業の企業価値向上への貢献度が低い要因について

質問者:研究開発基本方針について、新製品・新技術・新事業創出に関して、中経2030のビジョンの狙いや重点方針はよくわかったが、一方で、過去を振り返ってみると、新製品・新技術・新事業が、一定程度の収益の塊となって企業価値の向上につながったかは、外部からはあまり見えてこなかった。

見えてこなかった背景として、ボトルネックは、ものづくりにあったのか、それともマーケティング等のものづくり以外にあったのかなど、これまでの課題に関して評価してほしい。

柴田:「過去に新製品・新規事業ができていないではないか」というご指摘は、なかなか耳の痛いところですが、そのような事情もあって、足元の成果ではないものの、以前の成果として「MOFC-HR」や「MSP5」をご紹介させていただきました。

あまり取り上げられていないのですが、例えば「MSP5」は、2021年に日本伸銅協会の技術賞を受賞しており、業界の中では一定程度評価をいただいています。また、最近は「MOFC-HR」を含めてお客さまからの問い合わせが増えており、新製品の中の1つの大きな柱となっていることを、当社としてもお伝えする必要があると思っています。

2026年に向けて、銅加工事業が堺工場、三宝製作所、若松製作所と増産起業している中で売っていきたいのは、「MSP5」「MSP1」「MSP8」あるいは「MOFC-HR」です。このような製品がどれぐらい貢献していくか、または実際に貢献したかということを、今後はお示ししていきたいと思います。

また、「研究成果が事業になっていない」というのは、たしかにそのとおりですが、例えば高機能製品カンパニーのグループ会社である三菱マテリアル電子化成社で取り扱っている製品などは、ほとんどが研究所発のものです。

そこに集約しているものもあるため、当社の技術力がどこで実現したかについては、別途、成果集のようなかたちでお示しするなど工夫をしていきたいと思います。

ただし、課題はあります。ご指摘いただいたマーケティングについて、「お客さまとの接点の中で、お客さまが必要としているものを必要なタイミングで、これまできちんと出せたのか」ということに関しては、課題は残っていると思います。

したがって、研究開発領域の中で製品化をしっかりと行っていき、量産技術とともに移管していくために、今回のような組織再編を行っています。一般企業ではしないと思いますが、「ものづくり・R&D戦略部」と、R&Dとものづくりを一体化する組織にしたのは、そのような意思によるものです。小さなテーマを早く育てて、優劣を決めていきつつ、多産多死で進めていこうと考えています。

研究開発についても、一定程度でゲートを設けて、「やるもの・やらないもの」を決めながら、早く成果に結びつけられるよう、これからも改善していく必要があると思っています。

質疑応答(要旨):ブラックマスの見通し・強みについて

質問者:ブラックマスからの高効率回収について、2027年度に3,000トン、2030年度に6,000トンのブラックマスを処理する意欲的な計画だと思うが、まだリサイクルに使うLIBが出てきていないため、マーケット確立はこれからで、本当にこれだけできるのかという不透明感が強いと思う。計画を達成した時の収益について、外部からはどのように想像しておけばよいのか、数字のヒントがもしあれば、教えていただきたい。

また、このようなブラックマスの処理事業は、他の非鉄の会社も各々取り組もうとしていると思うが、御社の強みはどこにあるのか? 例えば、現在持っている設備において技術が併用できる、もしくは御社は上工程から下工程までいろいろなことを行っているため、サプライチェーン上での強みがあるなど、あれば教えていただきたい。

柴田:ブラックマスについては、ご説明している内容として、「100億円規模、利益率は10パーセント以上」という、一般的な製造業の目標に近いものは持っています。

しかし、「いつ立ち上がるか」「その時にどのくらいの集荷量が確保できるか」「損益分岐点をどのくらい超えるため、これぐらいの収益規模になる」といった部分の把握は、難しいところがあります。最終的にはそこを目指していますが、中間点で損益がどれぐらいになるかというのは、今の段階で、はっきりと申し上げられないのが事実です。

強み・弱みについては、当社は一部後発であるため、「当社が圧倒的に強い」とは、さすがに言い切れません。ただし当社は、ブラックマスからリチウム・コバルト・ニッケルを回収する際に、溶媒抽出なども活用しており、ここに一定の強みがあると思っています。

もちろん、製錬会社はもともと溶媒抽出ができる会社がほとんどです。住友金属鉱山社、JX金属社、DOWAホールディングス社も同様ですが、当社はそのような製錬技術も活かしながら、さらに原子力・レアアース分野でも、溶媒抽出を使った活動をこれまで続けています。

したがって、技術だけではなく、技術者も確保できており、このようなところをしっかりと活用することが、1つの強みになっていると思います。

ただ、それだけでは足りないため、原料として使っていただいたり、原料を自社で作ったりすることによって、その前の段階へのフィードバックなどにも積極的に取り組む必要があると思っています。他社と共同して作っていき、当社だけではない強みを加えることが必要になってくると思っています。

質疑応答(要旨):ブラックマス事業で「MEX」を活用する可能性について

質問者:「MEX」をLIBの回収にも使うなどの工夫が出てくる可能性はあるか?

柴田:それは当然あります。これからのリサイクルは、プラットフォームを整備することが、集荷という意味で非常に大事になってきます。そのため、「MEX」のノウハウは当然活きてくると思います。

一方で、このような電池系のものは、発生する元がある程度押さえられています。したがって、発生元といかにつながるかというところが、プラットフォーム以上に重要だと思っています。