事業内容:産業用コンピュータの設計・製造
上村和人氏(以下、上村):事業内容については、スライドに表示のとおり、通信・電力・鉄道・医療などの社会インフラ系設備、および半導体製造装置や生産自動化など、産業インフラ系設備のコントローラーとして使用される産業用コンピュータの受託設計と受託生産となります。
コンピュータそのものというより、コンピュータの中のキーとなる1部分(バックプレーンやシャーシ)を作っています。ただし、そのキーとなる部分はお客さまごとにカスタマイズが必要になるため、標準品では要求と合わず、それぞれオーダーメイドで作っていると捉えてください。
主契約者は主に大手の装置メーカーであり、社会インフラや産業インフラに使用され、ひとたび量産が始まると、中長期的に安定して製品供給が求められるビジネスモデルです。
製品区分(1) ボードコンピュータ
産業用コンピュータに関する製品展開についてご説明します。まず、ボードコンピュータです。スライド左側のバックプレーンシステム用ボードコンピュータは、どちらかといいますと単機能で、例えば、通信用、制御用、メモリ用、CPUなど、それぞれのボードによって機能が分類されており、ボード1枚では動かないものが多く、後ほどご説明するバックプレーンでそれぞれをつなぎます。大きいシステムとして作るために、このような括りで作られることになります。
スライド右側のIoT・Edgeシステム用ワンボードコンピュータは、1つのボードで完結するものです。1つのボードにCPUやメモリ、通信機能などが搭載されているものが多いです。IoT・Edgeシステムと記載しているとおり、比較的小規模なシステムに対して使われるものになります。
IoT・Edgeシステム用ワンボードコンピュータは、バックプレーンを使用せず、ワンボードコンピュータ単体で使用します。我々は両方とも手掛けており、バックプレーン用ボードコンピュータは受託範囲の拡大、IoT・Edgeシステム用ワンボードコンピュータは新たな事業拡大へつなげていきたいと考えています。
製品区分(2) バックプレーン
ボードコンピュータを複数接続して1つのシステムとする役割がバックプレーンです。バックプレーンシステム用ボードコンピュータは単機能のものが多いですが、必要な機能を持つボードを複数接続して1つの大きいシステムとすることができます。
スライド右側に「バックプレーンはコンピュータの脊髄」と記載していますが、バックプレーンの重要な役割は、脊髄同様ボードコンピュータ間の信号伝達となります。
スライド下部に図で示していますが、バックプレーンとボードコンピュータは剥き出しでは扱いが悪いため、実際には筐体に入れ、上部にファンを取り付けたり、電源を取り付けたりして使われることが多いです。
製品区分(3) コンピューターシャーシ
先ほど、バックプレーンとボードコンピュータは剥き出しだと使いづらいため、筐体に入れることが多いとお話ししましたが、この筐体をコンピューターシャーシと呼んでいます。当社が出荷する大半はシャーシを含んだ形態であり、シャーシにバックプレーンを取り付けた形態のものをバスラック、バスラックに冷却ファンや電源を搭載したものをシステムラックと呼びます。最近は最終的にボードコンピュータを挿して電源を入れれば使える状態のシステムラックまで仕上げるように求められることが多くなっています。
スライド右側のワンボード型シャーシは、1枚である程度完結できるIoT・Edgeシステム用ワンボードコンピュータ用の筐体です。ワンボードコンピュータも剝き出しでは扱いづらいため、用途に合わせた筐体を作るということも行っています。
製品区分(4) 制御用コンピュータ
制御用コンピュータについてご説明します。先ほどより筐体を作るとお話ししていますが、バックプレーンとシャーシだけでは、CPUなどが入っていないため、本当に「ただの箱」の状態です。そのままでは何も機能がないため、バックプレーンに、通信機能や制御機能、メモリ機能などを持ったボードコンピュータを差し込み、コンピュータとしての機能を持たせます。そのようにして出来上がったものが、最終的には半導体製造装置の動作制御などで使われます。
エブレン製品の用途(応用分野)
応用分野についてです。我々が作っているものは、先ほどお話ししたバックプレーンやシャーシがほとんどです。我々の場合は作っているものは同じであるため、セグメントを分けていません。その代わりに、バックプレーンやシャーシがどのような用途で使われているのかおおよその分野で割り振りをしています。
スライド右の円グラフを見ていただくとわかるとおり、連結売上高構成比において一番大きい割合を占めるのは、計測・制御です。スライド左側の画像だと、FAや半導体製造装置と記載されているところにあたります。
現状は、半導体製造装置が非常に幅を利かせていますが、通信・放送や、医療器等が含まれる電子応用が非常に勢力を伸ばしていた時代もあり、それぞれの時代や社会の状況によって必要なものが変わってきているということです。
その時々のトレンドによって割合が変わっていきますが、我々としては社会インフラ・産業インフラの全方位に対して製品を提供しており、今半導体が低迷すれば売上は落ちてしまいますが、ほかの分野が伸びていればそちらでカバーできるような体制となっています。
我々としては、決して半導体製造装置関連に全精力を集中しているわけではなく、通信・放送、電子応用、交通関連なども手を抜くことはありません。
主要納入先 (直接納入,間接納入を含む)
我々のお客さまは、社会インフラや産業インフラを提供するメーカーが多いです。スライドにあるとおり、大手のお客さまに多く使用していただいています。
直近10年間の業績推移
直近10年間の業績推移についてご説明します。近年の伸びは半導体製造装置関連の貢献が大きいと思っています。2018年はスーパーコンピュータ関連の売上が伸びました。凹凸はあるものの、トレンドとしては利益も右肩上がりに伸びています。
当面の目標
現在は、半導体製造装置が牽引役となっており、今後も中長期的に成長は見込めると考えています。
もちろん、仮に半導体製造装置関係が凹んできても、他の分野でフォローできるように成長していけばよいと考えています。我々は半導体製造装置一本足ではなく、社会全体が成長していくことによって売上が伸びていくことを目指しています。
バックプレーン方式が産業用に多用される理由
市場環境や当社の優位性についてご説明いたします。バックプレーン方式が産業用に多用される理由についてはスライドに記載のとおりです。逆にバックプレーン方式が採用されなくなる要素として考えられるのは、コンピュータの機能が高性能になり、ワンボードやパソコンで機能が満たせるようになることです。
しかし、ワンボードに集約した場合、その中の1箇所が壊れると、すべてを取り換えなければなりません。そのため、保守性を考えると、機能を分割して交換できるバックプレーン方式のほうがメリットがあります。また、パソコンを使用する場合、10年や20年といった長期間にわたって同一機種を供給し続けることは難しいです。ただし、安さを追求してワンボードでパソコンやシステムを作っていく考え方もあります。そこはメーカーの考え方によるところであり、高密度なワンボードを活用するところもあればバックプレーンを活用するところもあります。
ワンボード化へのシフトについては以前から検討されてきましたし、いずれはワンボード化されると言われていた時期もありました。しかし、バックプレーン方式が依然主流として残っていることを考えると、社会インフラや産業インフラにおいてどのように使われるか、どうすれば使いやすいかが関係していると考えます。
また、「お客さまがバックプレーンやボードコンピュータを内製化することもありますか?」というご質問をいただくことがありますが、内製化しているところもあると認識しています。
ただしバックプレーンには規格があるため、その規格に沿って作らなければなりません。したがって、簡単に回路図を書けばできるというものではなく、規格を勉強して技術を蓄積しなければ難しいところがあります。
バックプレーンを作ったとしても、簡単には動きません。必ずトラブルがあり、それを直してまた動かしてという繰り返しが発生します。そのような手間と工数がかかります。
それに対して、我々は長年バックプレーン製作に取り組んできました。日頃から作っているため、ノウハウもあります。また、これまでの実績があるため、信頼性が高いものを安く提供できると考えています。
「バックプレーンに関してはエブレンに任せたほうがいいのではないか」と我々に頼っていただいたほうが、安くて高品質なものが提供できると考えています。
生産拠点の分散
神田淳司氏(以下、神田):スライド左上にプレスフィットマシンが3台並んでいる写真があります。これは自社製の機械で、上野事業所を除く各拠点に置いてあります。このプレスフィットマシンがなければ品質確保ができず、我々の商売はおそらく成り立ちません。なかなか表には出てこないのですが、このマシンがキーとなっています。
独自の機械を使用して多種少中量生産で量産効果を生み出す「マスカスタム・プロダクション」
「プレスフィット」というのは、例えば、基板にスルーホールという1ミリメートルの穴が空いており、そこに圧力を掛けて1ミリメートルよりも少し太いピンを押し込むことによって、電気的に安定した接触を保つものです。こちらは非常に繊細なバランスの上に成り立っています。
穴が少しでも大きいとグラグラして物理的にも電気的にも安定せず、きつすぎるといくら力を入れてもピンが入らず、折れてしまうことがあります。しかもこれら異常が外観上では、ほぼ見分けることができません。したがって、ここの圧力監視が非常に大事になってきます。
力任せに押し込めば入るのですが、何キログラムの力で入ったのかは、感覚的なものでしかわからないため、品質管理には使えませんでした。そこをデジタルによって、何キログラムの力で入ったのかが記録できるように改良されたのが、我々のプレスフィットマシンです。
その時に、何ミリメートルの高さから何ミリメートルまで押し込まれたのかなど、その高さもコントロールできるようにしてあるため、品質管理の観点から安定したものを作ることができます。
特に、我々のお客さまの多くは大手電機メーカーのため、生産段階で工場監査などが行われます。そのような時にも、高い評価を得る要因になっています。
では、なぜこのような機械が必要なのかについてお話しします。スライド6ページ、左上の図を見ていただくと、基板にコネクター(緑の基板の上の白い部分)がたくさん付いているのがわかると思います。ボードコンピュータはそのコネクターに挿して使用します。
バックプレーン製造時、基板へのコネクターの取り付けは、例えばはんだ付けなどを用いて電気的に取り付けるのですが、隣のピンとショートすることなどがあり、製造過程において品質確保が難しいところがあります。
そこで、はんだ付けに代わる、より確実で簡単に取り付けられる方法がプレスフィットと呼ばれる手法です。
プレスフィットで使用するコネクターは特殊な形状をしています。それを上から圧力で押し込むと、基板にしっかりと取り付けられます。コネクターのピンに細工がされており、はんだ付けしなくても取り付けられます。
このプレスフィットという手法はショートも起こりませんので、はんだ付けよりも品質がよいです。押し込むだけでしっかりと取り付けられます。しかし、押し込めばいいと言っても、その力が強くても基板が折れてしまい、弱ければしっかりと刺さりません。
ここからが最初の説明につながるのですが、要するに強さを一定に保って押し込むことができる機械が必要になるわけです。
もともとはてこの原理を応用したハンドプレスと呼ばれる工具を使って、手動で行っていましたが、それでは力が一定ではないため品質が保てません。強さや圧力を測りながら一定の力で押し込むものがあると、品質が非常に安定するのですが、そのようなものは世の中にありませんでした。あったとしても、圧力規模や作業できる大きさなどの面からあまり役に立たないものばかりでした。
プレスフィットという工法自体は他社でも行っているところがありますが、ハンドプレスでの作業が主流になっています。しかし、ハンドプレスでは品質が安定しません。そのために、例えばバックプレーンを内製しているメーカーが10枚程度を作るために大掛かりな機械を導入するかといえば、コストパフォーマンスの観点から行いません。我々は専業メーカーで、少量多品種とはいえ同じ工程をたどるものが大量にあるため、このようなマシンを導入することができます。
バックプレーン方式が産業用に多用される理由
バックプレーンは、普通のボードコンピュータに比べるとあまり数が出ないのです。ただし、我々はバックプレーン一筋で展開しており、ありとあらゆるところからバックプレーンを持ってきていますが、基板にコネクタ-をプレスフィットするという部分は共通しています。そこで、同じものや、似たようなものを集めてきて、量産効果を出そうという思想のもとに作られたのが、この機械です。
2024年3月期(第51期)第1四半期決算実績
上村:業績についてです。第1四半期の決算を先日発表しましたが、ほぼ予算どおりとなりました。前期の第1四半期と比べてもだいたい同じような数字になっていると思います。
2024年3月期 (第51期)第1四半期応用分野別売上
売上高はほとんど変わっていないものの、中身の構成が若干変わっています。計測・制御という灰色の部分の割合が、前期は69.3パーセントでしたが、今期は62.7パーセントと、少し下がってきています。昨今、半導体製造装置において、メモリなどの一部の半導体がやや生産過剰気味で、生産調整が行われている状況です。
ただし、その代わりに他のところが伸びています。例えば黄色で示した交通関連などは3パーセントほど伸びており、電子応用や通信・放送なども伸びているため、半導体が多少伸び悩んでも、他のところでカバーできている状況がわかります。
2024年3月期 (第51期)第1四半期応用分野別概況-1
それぞれの分野についてご説明します。計測・制御に関しては、パワー半導体などは堅調に推移しているものの、データセンターやスマホ向けに関しては縮小しています。先ほども少し触れましたが、メモリ向け半導体製造装置は、投資凍結などがあり、一時期よりはやや落ち着き、若干減っているかたちになります。
交通関連に関しては、一番上に「顧客の電子部品入荷状況の改善」と記載していますが、今まで半導体製造装置が追いついておらず、半導体がいろいろなところに出回らなかったため、例えば交通関連や電子応用・医療関連などではものがまったく作れませんでした。
一番わかりやすいところは自動車です。なかなか半導体が回ってこず、新車をお願いしても、今までは1年などの長い待ちが発生していたのですが、徐々に改善してきています。
その関係で、自動車だけではなくほかの交通関連のお客さまに関しても、電子機器が入ってくるようになってきました。これまでは受注をいただいていたものの、部品がないためになかなか納入できなかったのですが、部品が作れるようになったことで納入もできるようになりましたので、昨年に比べて非常に伸びました。
2024年3月期 (第51期)第1四半期応用分野別概況-2
他の分野も基本的には同じような傾向です。調達部品が手に入るようになり、今までストップしていた動きが改善してきたという流れで、通信・放送や電子応用などもだいたいそのような状態にあります。
防衛・その他に関しては、お客さまから詳細な事情を聞くことができないため、我々もわかりません。お客さまから言われたものを納入しているという感じですので、単純にお客さまからの受注が少なければ少ないというかたちになります。
そのため、今回は、半導体製造装置の関係はやや落ち込んだものの、そのぶんをなんとか他の分野でカバーしている状況です。
2024年3月期 (第51期) 通期予想
通期予想に関しては、5月に発表している値から変更していません。上期よりも下期のほうが売上が伸びるのではないかという計画を立てており、今のところは見通しがなかなか難しいところがあるものの、現状は据え置きとしています。
2024年3月期 (第51期) 見通し
半導体製造装置に関しては、現状、第4四半期頃に回復すると予想しているものの、なかなか先が読めないところもあり、このあたりはかなり流動的になると予測しています。
「ChatGPT」に関連してデータセンター投資には期待が持てる一方で、マイナス面ではウクライナ問題の長期化や中国向けの半導体の輸出規制など、いろいろな不確定要素があるため、先を読みづらいところがあります。そのため、現状としては、解消するのではないかと予測して予算を組んでいる状態です。
交通関連に関しては、鉄道関連を中心に設備投資は再開してきており、少し滞っていたものも再開しています。交通関連も徐々に明るい兆しが見えています。
2024年3月期 (第51期) 見通し
通信・放送に関しては、電力分野で新しいものの芽が出てきているため、今後そのあたりが伸びていくことを期待しています。電子応用に関しては、欧州向けの先行き不透明感とありますが、これはMRIなどの医療関係に関するものです。それほど悪くはないと思っているものの、今後どうなるかがわからないために、一応「曇り」としています。
防衛・その他に関しては、これも率直に言って不透明なところはあるものの、前期は、その前の期からの期ずれがあったために少し売上が伸びました。しかし今期はそのようなものがないため、平年並みになる見通しです。
利益率に関しては、売上が伸びるともう少し伸びていく余地はあると思っています。特に半導体製造装置分野が伸びると、他の分野に比べて生産台数が極めて大きいため、量産効果が上がり、利益の割合も伸びてくると考えています。
成長戦略
スライドに、今後の成長分野を示しています。こちらの中で目を引くのが3番の「ボードコンピュータ事業強化」ではないかと思いますので、ご説明します。
(3)ボードコンピュータ事業強化
バックプレーンやシャーシは我々が長らく展開してきたところであり、売上や利益の大半を占めているのですが、その中でこのボードコンピュータに関しても、いろいろと試行錯誤しています。
ボードコンピュータについても、先ほどご説明したとおり、試作から始めて量産に持っていくため、いろいろな企画があったとしても、それがきちんと量産の日の目を見るかどうかはまた違う話です。
そのため、スライドに記載しているようなさまざまなことに挑戦しています。これらはお客さまからの要望があり、協力しているところなのですが、この中で量産化のように非常に大きく伸びていってくれる分野があると、今後エブレンを支えていく柱になっていくと考えています。
今のところ、大黒柱になるものはないのですが、けっこう有望なものはありますので、今後の成長戦略という意味ではそのあたりも怠ることなく進めていきます。
お取引先の規模はさまざまであり、一番上に記載した高電圧・大容量直流遮断器(洋上風力発電向送電用途)は、本当に大きい会社との案件ですが、下から2番目のAI画像処理システムなどはベンチャー企業からお声がけいただいたものです。
相手のベンチャー企業が、画像処理システムのICを設計する会社なのですが、ICだけがあっても動くものにはなりません。ICをボードコンピュータに搭載するなど、環境を整えないとシステムとして成り立たないのです。
ベンチャー企業はボードコンピュータを作るためのノウハウを持っていませんが、我々は持っていますので、そのような部分で協力し、システムを作り上げていくというような協力体制を取っています。そのシステムが大きく世の中に広がれば、我々としても、そのベンチャー企業としても非常によいことになると考えています。
(2)受託範囲の拡大
ボードコンピュータを付けた製品については、受注拡大を目指してはいるものの、まだ売上としてはわずかです。しかし、ボードコンピュータを含めてシステム全体を営業として提案できることを目指しています。