エグゼクティブ・サマリー
羽生満寿夫氏(以下、羽生):本日はご多用のところ、当社決算説明会にご出席いただき、厚く御礼申し上げます。代表取締役社長の羽生満寿夫でございます。それでは、2023年3月期決算説明会を開催します。
はじめに、エグゼクティブ・サマリーをご説明します。当社を取り巻く事業環境についてですが、依然として資材価格やランニングコストの高騰が続き、今期も同様の状況が続くと見込んでいます。
また、半導体を含む電子部品や原材料などの調達難も解消されておらず、一部のお客さまから納入調整の要求が発生しています。このような状況の下、サプライヤーからの値上げの要求も強く、変化が激しい情勢に対してスピード感を持った機動的な修正を常に求められる経営環境が続いています。
2023年3月期の業績実績は、先ほどの事業環境に加えて、生産能力と組織力の拡大に向けた設備投資や、人材増強によるコストの負担が増加しました。また、販売状況は、主力部門の安定と成長分野である医療・ヘルスケア部門が通期で順調に推移しました。
トータルでは、円安によるプラス効果もあり、販売価格の見直しを順次実施してコスト増加分を概ねカバーした結果、売上高は164億円、営業利益は16億円とほぼ当初の計画どおりに着地することができました。
2024年3月期の予想は、厳しい環境が継続することから売上高165億円、営業利益15億円を計画しました。
中期経営計画の具体的な取り組み状況についてですが、2024年3月期は前期と同様に今後の生産ラインと生産キャパシティの拡大によって企業としての土台強化を図り、サステナビリティへの対応を踏まえて、事業環境の整備ならびに生産技術や製品開発力に注力し、新たな事業機会の創出を目指していきます。
現状では中期経営計画を上回る実績を確保していますが、事業ポートフォリオの見極めと投資計画を再検証した上で、利益率の改善が課題だと認識しています。併せて、財務戦略や資本戦略を踏まえた資本コストの低減を図り企業価値向上に取り組むことが必要だと考え、計画の立案、具体化を進めていきます。
目次
目次にしたがい、2023年3月期の業績実績と2024年3月期の業績予想、資本政策やサステナビリティへの対応を含めた中期経営計画の具体的な取り組みをご説明します。
過去業績と24/3期予想(累計ベース)
連結売上高と連結営業利益の実績と、今期の予想です。詳細は後ほどご説明しますが、2023年3月期は、売上高が164億9,300万円、営業利益が16億100万円、営業利益率は9.7パーセントと、ほぼ当初の計画どおりに着地しました。
2024年3月期の予想については、前期に比べて業界としては低く想定されていますが、売上高が165億円、営業利益が15億円、営業利益率が9.1パーセントと、今期も中期経営計画の目標を上回る予定です。
23/3期の利益増減要因分析(前年同期比較)
2023年3月期の利益増減要因分析です。上期は、地政学リスクや円安によるマイナス面の影響があり、さらに資材価格の高騰やランニングコストの上昇に納期調整が加わったことで苦戦しました。
第3四半期に入ってからは受注を持ち直し、生産稼働率も改善しました。第4四半期では引き続き納期調整がありましたが、販売価格の見直しによる効果が現れてきたことや、業務の効率化による利益の捻出により、上期は売上高、営業利益ともに前期を上回る実績となりました。
また、通期を通した円安によるプラス効果もあり、トータルでは、売上高は前年同期比で13億8,400万円増加、営業利益は前年同期比で9,700万円減少しました。経常利益は為替差益があり、前年同期比で1億6,900万円増加と、ほぼ計画どおりに着地しました。
24/3期の利益増減要因予想(通期前年比較)
2024年3月期の利益増減要因の予想です。前提となる為替レートは1USドル130円を想定しています。
人件費の増加、資材価格の高騰、ランニングコストの増加は引き続き利益を圧迫する要因となっています。ランニングコストのうち、特に電気料金の高騰が激しく、前期比で約3割の増加を見込んでいるため、早急な対策が必要となります。
当社としては販売価格の見直しの継続、付加価値の高い商品の提供、不採算品目の見直しを図るとともに、工場設備の自動化、省人化、仕入調整、物流の見直しなどに注力することで、利益の落ち込みをカバーする方針です。
これにより、トータルの売上高は横ばいとなり、営業利益は前年同期比でマイナス1億100万円を予想しています。また、経常利益は為替差益の影響が減少することから、前年同期比でマイナス4億9,200万円を予想しています。
市場別売上高の23/3期実績と24/3期予想
続いて、売上販売計画についてご説明します。まずは市場別連結売上高の実績と予想についてです。
結論からお話しすると、中期経営計画の目標とリンクするかたちで、主力事業の自動車、家電、アミューズメントが順調に推移し、成長分野である医療・ヘルスケア部門もようやく成果が見え始めました。
産業機器は、当社側の商品の見直しもあり、売上高は減少してはいますが、10億円前後の売上高を維持する予定です。また、医療・ヘルスケア部門は15億円から20億円規模への成長を見込んでおり、中期経営計画最終年度には両部門合算で目標の規模を達成する予定です。
製品別売上高の23/3期実績と24/3期予想
製品別連結売上高の実績と今期予想です。こちらも中期経営計画どおり、抵抗器からセンサーの流れが加速し、機構部品も安定してきています。部門的には可変抵抗器の落ち込みがあるものの、AV機器や産業機器の減少が要因であり、不採算商品の見極めによる影響もあります。
中期経営計画事業目標(修正版中期経営計画)
続いて、中期経営計画の進捗についてご説明します。
事業目標に対する進捗です。円安のプラス影響もありますが、付加価値の高い製品の販売と生産効率の改善等による利益率の改善効果により、2022年度までの売上高と営業利益は、ともに目標をクリアしています。今後も中期経営計画最終年度に向けて、さらなる市場の拡大と技術革新による業務効率化を実施し、計画完了を目指していきます。
投資計画(設備・研究開発・事業提携等)
投資計画です。前年度は営業キャッシュ・フロー16億円を予定どおり確保しましたが、設備投資と研究開発費の合計で計画を4.5億円下回りました。
要因としては、設備関係の各種資材価格の高騰やランニングコストの上昇があります。さらに、環境に配慮したランニングコストを下げる建物等を含むインフラ整備の必要性をあらためて見直した結果、今年度以降の持ち越しとなりました。
今年度も設備更新やインフラ整備に加え、自動化・省人化、新製品・新技術にかかわる投資を積極的に行い、資産を圧縮してキャッシュ・フローを捻出する予定です。また、今年度中にBCPや投資効果等の観点から、2024年度以降の投資計画を事業戦略とあわせて具体化していく予定です。
主な経営指標の実績推移・計画
主な経営指標の実績推移と計画です。営業収益、営業キャッシュ・フローの改善から適切な投資と株主への安定的な利益還元、さらに社員への還元と自己資本の蓄積への好循環を実践したことにより、経営目標については、前期はおおむね想定どおりの着地となりました。
ROE8パーセントから10パーセント、ROIC6パーセントから8パーセントへの向上を目指すべく、先ほどご説明した投資計画と事業戦略の具体化とあわせ、資本コストと収益性の見直しをベースに再検討する方針です。
生産技術⾰新への取組み①(IoT技術の活⽤による⾃動化・省⼈化)
当社の事業を支える部門についてご説明します。当社はBtoBのメーカーであり、製造業にとって生産技術の革新は重要な取り組みです。特に、品質を維持し生産稼働率を上げ、自動化・省人化によるコストを削減する取り組みは必須です。
今回ご紹介する取り組みの1点目は、IoT技術を活用した品質管理と生産設備の予兆保全です。当社の生産ラインには、さまざまな加工工程があります。その一例として、プレス加工時の荷重や検査工程の電圧をモニタリングすることで、設備の生産稼働率の状況や品質管理を見える化して、信頼性の高いモノ作りを実現しています。
さらに、収集したデータは品質保証に対するエビデンスとして保存しています。また、生産設備の異常停止におけるアラーム内容や動作タイミングの監視により、設備の異常停止から復旧に向けた原因の対処や、素早い改善策の対応を可能にしています。
このように事前に予防措置を講じることで、工場の生産稼働率を維持・向上させ、製造コストの削減を図ります。同時に、品質を維持することにより大切なお客さまからの信頼を確保しています。
生産技術⾰新への取組み②(IoT技術の活⽤による⾃動化・省⼈化)
2点目として、製造工程における自動化・省人化の取り組み事例です。当社製品は、自動車をはじめ、アミューズメント、産業機器、医療・ヘルスケアまで多くのお客さまとの取引がありますので、一つひとつの製品の品質やコスト管理が重要となります。
人が介在する作業が多い製造ラインも存在しますが、この製造ラインをいかに自動化・省人化し、多品種に対応するシステムを構築できるかがカギとなっています。
生産ラインの製品の移動を自動化するために、画像処理とロボットを組み合わせたビジュアルトラッキングシステムを導入しています。これは人の目に代わり画像処理装置で行い、頭脳にあたるPLCで判断処理し、手や腕となるロボットを動かして製品を自動でピックアップし、製品ラインを完全自動化している事例です。
こちらの導入により、人件費は約1,800万円の削減効果があり、ラインの増設や稼働率改善でさらなるコスト削減が見込まれるため、積極的に投資を進める方針です。
また、当社の強みの1つである社内の生産技術部門により、自前で自動化ラインの立案から設計製作を行うことで、日々の「改善」「改良」「改革」により業績を下支えしていると自負しています。
医療・ヘルスケア部門の開発(成⻑事業)
今後の成長が期待される事業について、開発部門の具体的な取り組みを取締役専務執行役員営業統括開発統括の水野よりご説明します。
水野伸二氏:ただいまご紹介にあずかりました、水野でございます。私から、実際に行われている製品開発の状況について、ポイントを絞ってご説明します。
まず、昨年から順調に伸びてきた医療・ヘルスケア部門の開発についてです。最初にご説明するのは生体信号を測定する生体電極シートで、最近は特に筋電用の需要が増えて増産体制を構築しています。
数年前に、全身麻酔の際には麻酔の深度を測る筋弛緩モニターを強く推奨するということが麻酔学会から発表されました。手術中はこの電極を張ることで、電気信号の反応によって麻酔の深さをリアルタイムでモニターするようになったため、需要が増えてきました。
生体電極シートは脳波測定にも応用され、最近では乳幼児から成人まで検査対象が拡大し、需要の増加が見込まれています。また、昨年末には第3種医療機器製造販売業許可証の認可も取得しました。
これらの生体センサー技術の応用や他社との積極的な協業を展開しており、生体電極だけではなく、最近では唾液や尿による生化学検査の分野にも力を入れており、将来は第5の柱に成長させることを展望しています。
新領域の開発(チャレンジ分野)
次に、新領域の開発、チャレンジ分野の取り組みをご紹介します。ご説明するのは、中間決算説明会でもお話ししたセンサー電極水漏れ検知についてです。水族館施設と共同開発のかたちを取り、当社の商品を提供する代わりに商品モニターとしてデータを取得しながら、水族館の課題解決に貢献している取り組みです。
具体的には、神戸で話題のデジタルアートが融合した次世代型水族館 「átoa(アトア)」において、神戸デジタル・ラボさまと開発した、水漏れをリアルタイムで職員にLINEで通知するシステムを設置しました。スライドに記載の内容は神戸デジタル・ラボさまのプレスリリースより一部抜粋したもので、漏水予防の実証実験結果において一定の成果が期待できるものと確認したと記載されています。
また、昨年より各種展示会にも積極的に出展しています。実証実験の結果を受けて、全国の水族館をはじめ、水に関わる業界の方々から引き合いをいただき、今後のビジネスモデルにつながるヒントとなっています。
まだ新領域で市場形成を展開できるレベルではありませんが、他社と協業することで、今まで当社単体では考えが及ばなかったアイデアが生まれています。今後も新領域の確立に向けて取り組んでいきます。
中期経営計画の進捗 サステナビリティへの対応(気候変動)
サステナビリティへの対応です。TCFD提言への対応や、気候変動分野への取り組みについては、ホームページに開示しています。CDPに対しても、前期は簡易版でしたが、今期は通常版で開示する予定です。
目標に対する具体的な取り組みです。機械設備の更新等によるカーボンニュートラルの取り組みだけでなく、本社や工場の躯体工事や空調工事に合わせたランニングコストの削減とクリーンエネルギーの導入を検討しています。さらに、当社はメーカーとして、素材や工法への環境対応において、他社との差別化や事業機会の創出を図るべく、取り組みを進めています。
スライド下部にはICカードの事例を記載しています。ベース素材は脱プラスチックを目指し、工法では廃液を出さない水資源への対応を図り、実装では脱炭素を実現することを検討しています。
中期経営計画の進捗 資本政策(利益還元⽅針)
羽生:続いて、資本政策についてご説明します。前期にあたる2023年3月期は、期初の予定どおり営業キャッシュ・フロー16億円を捻出し、通期配当金を60円としましたが、一部を今期に繰り越し、2024年3月期通期では10円上乗せした70円の配当金とします。
また、2025年3月期から2026年3月期における中期経営計画期間中においての配当金下限60円の変更はありませんが、2025年3月期は当社の創立80周年となりますので、記念配当分を上乗せする予定です。
株価流動性対策としては個人投資家向け説明会を引き続き実施します。当社の認知度や理解度の向上に努め、政策保有株式の持ち合いを順次解消し、流動比率を維持、改善していく方針です。
株価の安定と引き上げについては、自社株を取得し、戦略投資や社内活性化の手段と合わせて検討していく所存です。さらに、本件に加えて利益率の改善と資産のスリム化を実現し、企業価値向上に努める方針です。なお、具体的な対応や開示手法については決定次第、順次ご説明していく所存です。
中期経営計画の進捗 プライム市場区分適合状況
プライム市場区分への適合状況です。不適合となっていた流通株式時価総額と売買代金については、各々の判定基準日にて東証より正式に適合と判定されましたが、いまだ予断を許さない状況です。今後とも各種IR活動を通じて、投資家のみなさまにご納得いただける経営に尽力していきますので、よろしくお願いいたします。
中期経営計画の進捗 IR戦略①
IR戦略についてご説明します。前期は、中期経営計画修正版の開示や英文開示を実施し、各種メディアへの露出の増加や、展示会や個人投資家説明会を積極的に行うなど、当社の知名度や理解度向上に努めました。当然のことながら、このような取り組みは即効性を期待できるものではないため、今後も継続していく方針です。
加えて、投資家や学生のみなさま、お取引先や社員に至るまで、あらゆる方へ当社を語る際に、わかりにくさや伝えにくさがあることをあらためて認識しました。
来年2024年に、当社は創立80周年の節目を迎えます。当社の企業価値を見直し、社員一丸となってIR活動を行うため、「帝国通信工業はどのような会社なのか」「ひと言で言えないのか」「会社をワード化できないか」と考えました。あらゆるステークホルダーのみなさまに当社をご理解いただきたいという気持ちで、今回、新スローガンによる企業価値の理解促進プロジェクトを立ち上げました。
中期経営計画の進捗 IR戦略②
新スローガンは「さぁ、NOBLEと実現しよう。Together, we make good sense.」としました。
スローガンの背景として、私たち帝国通信工業は78年間にわたり、多数の企業のみなさまとともに、たくさんのイノベーションを実現してきました。そのイノベーションの多くは、人々がテクノロジーと接する際の心地良さ、good senseを感じるものでした。
人々が触れるテクノロジーがどんどん広がっている今、私たちがご提供するgood sense technologyは、より一層ニーズが高まっています。人が技術に触れるあらゆる接点で、good senseを提供するという使命を、社員全員があらためて自覚し、多くのステークホルダーのみなさまに帝国通信工業の価値を再認識していただくためのスローガンとなっています。
中期経営計画の進捗 IR戦略③
企業価値の理解促進プロジェクトの取り組みについてです。本日は投資家のみなさま向けの説明会ですので、IR戦略の枠組みでお話ししますが、取り組みとしては、IRを含めたあらゆるステークホルダーのみなさまへ発信するものとなっています。
まずは、社内に向けた発信です。新プロジェクトを立ち上げ、社員の意識向上と改革に取り組みました。資本施策において、計上した利益の一部を社員へ還元する人的投資を実践しましたが、その投資効果をさらに高めるべく、組織改革に取り組んでいます。
具体的には、ワークショップを実施し、私たち自身が当社を振り返り、分析し、未来へつなげる企業活動をイメージすることで、新スローガンをともに作り上げ、発信方法等の検討を重ねてきました。
今後もさらなるgood senseをみなさまにご提供できるよう、社内活性化に向けて断続的に活動していきます。
次に、社外のステークホルダーのみなさまへの発信です。ホームページなどのさまざまなツールや、メディア、IR活動、採用活動などを通じて、私どもの価値をご理解いただくよう、積極的に活動していきます。
補足資料 財務データ 各種指標
最後に補足資料として、財務データや当社グループの概要、非財務面の取り組みである人材採用や育成、社内環境整備やSDGsの取り組みについての資料を添付しています。お時間のあるときにご覧ください
中期経営計画の着実な実行を継続することで、持続的な売上拡大、利益の確保に努めます。今後ともご支援のほどよろしくお願い申し上げます。