2022年3月期決算説明会
楠元健一郎氏(以下、楠元):株式会社ヴィア・ホールディングス代表取締役社長の楠元健一郎でございます。本日は大変お忙しい中、決算説明会にご参加いただきまして誠にありがとうございます。
開催に先立ちましてみなさまからアンケートをいただいたのですが、4月以降、大変多くのみなさまに新しい株主として参画していただくようになった結果、「事業や会社の生い立ちなどからしっかり教えてほしい」という声を多数いただきましたので、まずは簡単に弊社の成り立ちと会社の概要についてご説明します。
会社概要
会社概要です。弊社の創業は1934年と大変古く、もともとは暁印刷という印刷会社としてスタートしました。
会社概要
平成に入って印刷業界が構造不況に陥ったこともあり、弊社のもともとのオーナーで、すかいらーくの創業者である横川紀夫が暁印刷の資本に参加し、会社経営の再建に臨んだことがヴィア・ホールディングスができたもともとのきっかけです。
沿革のとおり、1999年7月にあかつきビーピーという会社に商号変更した時に、印刷業のプロではないため、印刷業の再生の中で少しでもキャッシュフローと利益をよくしていくために得意な外食業を兼業すべく、2001年にやきとり居酒屋チェーン「備長扇屋」のフランチャイズ1号店を開店しました。今は弊社の中核業態の1つです。
その3年後に扇屋コーポレーションの株式を取得して買収を行い、「扇屋」のすべてを直営の傘下に収めました。その後、自分たちで業態を作るというよりも、数々の業態をM&Aで仲間に入れ、今の外食事業会社の基礎を作りました。
2005年に株式会社ヴィア・ホールディングスに商号変更を行い、2013年に印刷事業を共立印刷に株式譲渡して売却したことによって、外食専業業態になったというのが我が社の歴史です。
店舗展開
現在、FCを含めて335店舗を展開しています。残念ながら全国ではありませんが、36都道府県で29ブランドを展開しているところです。
業態の俯瞰図
業態ごとにいくつかの店舗ブランドを記載しています。やきとり屋の「備長扇屋」「やきとりの扇屋」の店舗数が一番多いです。「日本橋紅とん」はやきとん屋で、都心部を中心に展開しています。「魚や一丁」はいわゆる海鮮居酒屋で、非常に大型です。北海道が発祥の業態で、海鮮料理やお寿司を中心に展開しています。
「いちげん」はいわゆるファミリーレストラン型の大衆居酒屋です。家族連れなど食事を中心に来る方や、お酒を飲むビジネスマンの方にも多く来ていただいており、和洋中すべての料理が取り揃えられています。
「FR」はファミリーレストラン型です。洋食型と中華系を展開しています。こちらはフードリームという会社が経営しており、森永製菓のレストラン部分を買収したのがルーツになっています。
「カジュアル・ダイニング(バル)」は、どちらかと言いますと洋風居酒屋に近い業態です。こちらも森永レストランの流れを汲んでいるのと、ご存知の方も多いと思いますが「なめらかプリン」で有名な「パステル」という業態を買収し、そのレストランがいわゆるカジュアル・ダイニング分野に入っています。
最後に「ぼちぼち」は鉄板居酒屋で、いわゆるお好み焼き屋です。これらが我々が持っている業態の主なところです。
ブランド紹介(やきとりの扇屋)
業態のイメージをつかんでいただこうと思います。まずは335店舗のうち180店舗を展開している「やきとりの扇屋」「備長扇屋」についてです。スライドの写真のとおり、郊外のロードサイドで居酒屋を経営している非常に特異な事業です。
コロナ禍になる前、ファミリーレストランがお酒を飲む動機としてお酒を飲まれる方々に向けてちょい飲み需要ということでサービスを展開し始めていましたが、我々は20年前から郊外のロードサイドで家族連れに使っていいただけるファミリーレストランのような居酒屋を展開してきました。
店舗40坪で駐車場20台が基本で、ディナータイムの客単価は約2,500円という業態です。基本的にはすべて炭火のやきとりという強みを持っており、「焼き師」という社内の資格認定制度を設けるなど、技術と提供品質に非常にこだわっています。
一方で、お客さまがお酒を飲まれることもあるため、強みとして、決して飲酒運転をさせないというオペレーションがしっかりあります。ドライバーの方には間違ってもお酒を出さないことをかなり徹底しており、各地方の警察の方々から非常によくお褒めいただくようなオペレーションを行っています。
ブランド紹介(やきとりの扇屋)
ご承知の方もいるかもしれませんが、名古屋には「世界の山ちゃん」という全国で有名な手羽先屋があり、手羽先が大好きな方々が多いということで、名古屋で「手羽先サミット」というコンテストが開催されています。
今年は第8回だったのですが、最高賞のグランプリを受賞させていただきました。コロナ禍で2020年の開催はありませんでしたが、金賞が2回続いており、ずっとグランプリが欲しかったのですが、今回ついにグランプリを取ることができました。
来年もグランプリを取ると「世界の山ちゃん」に並んで殿堂入りできるということで、「バリテバと言えば扇屋」、あるいは名古屋に行くと「やきとりと言えば扇屋」と言っていただけるくらい非常に強みのある業態です。
ブランド紹介(パステル)
先ほどお伝えしたカジュアル・ダイニング業態の中に「パステル」があります。「なめらかプリン」で非常に有名になりましたが、だいぶ時代を変遷し、最近スライドの中央の写真のようなクラシックなオールドスタイルのプリンも出しました。
10代や20代の若い方々は昔の焼きプリンにあまり触れたことがなく、「なめらかプリン」や少し前に人気だった「プッチンプリン」に慣れています。50代の私にとっては非常に懐かしい味ですが、若い方々には非常に斬新なものに感じていただいており、非常に好評です。
1週間くらい前にフジテレビの「めざましテレビ」で紹介されたのが、このフレンチトーストのプレートです。
ブランド紹介(紅とん/一丁)
「日本橋紅とん」は焼きとん屋です。「働くお父さんのエネルギー源!」がコンセプトで、山手線内のビルイン、つまり都心23区に集中的に出店している、我々にとって珍しい店舗です。「扇屋」は郊外のロードサイドに出店していますが、こちらは大都心の駅前に出店しています。
「働くお父さんのエネルギー源!」とお伝えしましたが、実は男女問わず多くの方々に仕事後の1杯として来ていただいています。豚ホルモンはコラーゲンなどが入っておりヘルシーだということもあり、今非常に大人気です。後ほどご説明しますが、今年に入ってからは急回復しています。
続いて「魚や一丁」です。先ほど「北海道発祥の海鮮居酒屋」とお伝えしました。新鮮なお刺身が非常に評判で、これから成長を遂げるであろう業態の1つとして期待しています。
このような複数の業態を展開しており、今後も基本的には居酒屋を中心として、再び成長を遂げていくことを思考しながら取り組んでいきたいと思っています。詳しくは後半部分でご説明させていただきます。
2022年3月期通期 連結決算について
羽根英臣氏:2022年3月期の通期の決算実績について、経営推進室の羽根よりご説明させていただきます。2022年3月期の当社グループは、新型コロナウイルスの影響が非常に長期化しており、消費の落ち込みが続く中で、居酒屋業態を中心に200店舗規模での臨時休業などの対応を実施しています。
新型コロナウイルス蔓延による自粛生活により、お客さまの消費行動やライフスタイルの変化が進み、忘年会などの大型宴会や2次会での利用などの需要は激減しており、当社グループの主力業態である居酒屋業態においては、売上高の確保が非常に厳しい経営環境になりました。
その結果、売上高は前期比19億900万円減の102億5,800万円となっています。一方で、営業利益は前期に実施した大規模な収益構造改革の結果により、前期比15億800万円増のマイナス11億2,300万円となっています。
また、行政からの休業・時短営業の要請を遵守したことにより、時短協力金などの特別利益を計上した結果、当期純利益は前期比61億4,900万円増のプラス5億4,300万円と黒字を確保しています。
2022年3月期通期 連結決算(前期比)
前期と当期の連結損益計算書について比較しています。スライドの表に記載のとおり、売上高は前期比19億900万円減少した一方で、営業利益は前期比15億800万円増と、利益の額が改善しています。こちらは先ほどお伝えしたとおり、前期に行った大規模な収益改革によるものです。
具体的には、黒字化の見込めない不採算店舗や黒字化に非常に長期の時間を要することが見込まれる店舗を閉店したことに加え、早期退職者制度を実施しました。
また、事業会社がそれぞれに保有していた本社機能をヴィア・ホールディングスに一本化することにより、売上規模に合わせたコンパクトな本部体制を実現し、徹底的な合理化を進めたことでコスト削減が実現しています。
この結果に加え、当期純利益が前年より大幅に増加した要因は、休業・時短営業の要請に対する時短協力金や雇用調整助成金などを特別利益に計上したことが挙げられます。
2022年3月期通期 連結決算(組み替え損益)
スライドの表には、当期の損益計算書をベースに、通常営業が年間を通じてできた場合の参考値としての組み替え損益計算書を記載しています。
組み替えの内容として、特別利益に計上した「休業時短営業の要請に対する時短協力金」は売上高の補填としました。また、特別利益に計上した「雇用調整助成金」は人件費の補填として販売管理費の戻入の処理をしています。一方、特別損失に計上した「時短協力金等に対する期間中に発生した固定費」は販管費の費用として計上しています。
この組み替えを行った結果として、2022年3月期の損益計算書の売上高は約102億円の実績から34億円増加して約136億円となり、営業利益はマイナス約11億円から18億円増加してプラス約7億円となり営業赤字が営業黒字へ反転しました。一方、同じ条件で2021年3月期の損益計算書で組み替えを行った場合、額は減少しているものの営業赤字のまま留まっています。
以上により、前期に大規模な収益構造改革を行っていなければ、当期の組み替え後の営業利益はまだ赤字であったと見込まれています。当社グループは利益を出しやすい体質への改善が順調に進められていると考えていますが、現在においても新型コロナウイルスの第7波が警戒されている状況であり、それによる影響は払拭しきれない状況が続いていますが、経営環境が戻った場合には黒字化ができる兆しは見えてきていると感じています。
2022年3月期通期 連結決算(純資産)
当社グループは前期末時点では債務超過の状況でしたが、昨年4月に成立した事業再生ADR手続きにより債務超過を解消し、財政状態の健全化がなされています。その内容をご説明します。
前述のとおり当社グループは前期において、大規模な収益構造改革を実施したことで多額の特別損失を計上し、前期末時点で約44億円の債務超過となっていました。これを解消することと、コロナ禍においても再成長するための資金確保に向け、昨年4月に産業競争力強化法にもとづく事業再生ADRの手続きを成立させています。
昨年5月には取引金融機関による45億円の「D種優先株式」の発行、またRKDエンカレッジファンドによる15億円の「C種優先株式」の発行、5億円のニューマネーの調達を行い、3億円の新株予約権に転換されたことにより、総額63億円の資本と23億円のニューマネーの調達を行っています。さらに、当期純利益を5億円計上したことにより、当期末時点では約25億円の純資産残高となり、財政状態が大幅に改善するとともに資金繰りの安定化も図ることができました。
この事業再生ADR手続きでご同意いただいた事業計画にもとづき、当社グループでは事業の再生を着実に実施していくため、事業の仕組みの抜本的見直しを行うとともに、コア事業の進化による再成長の施策を実施しています。
後ほど社長の楠元より事業の方針の詳細な説明がありますが、具体的には食動機の強化を狙ったうな丼が看板メニューの「名代 宇奈とと」、台湾まぜそば業態の「麺屋はなび」との二毛作業態、また宴会や深夜事業に依存していた「いちげん」や「魚や一丁」では次世代都市型居酒屋の実験を開始しています。
さらに、アフターコロナのニーズを想定して特徴のある専門店とし、高付加価値業態の開発とアップデートを進めている最中です。以上をもちまして、2022年3月期の通期の決算実績のご説明を終わらせていただきたいと思います。続きまして今後の事業方針を社長の楠元よりご説明します。ご清聴いただきまして、ありがとうございました。
事業方針_既存店舗売上高前年比推移
楠元:今後の事業方針をご説明します。羽根からご説明があったとおり、やや特殊な手続きである事業再生ADRのもとで、財務基盤、つまり今後安定的に再び成長を遂げるために必要な資本と資金調達ができ、あとはしっかり事業を行っていくだけという状態になんとか持っていくことができました。
今後は再生事業計画をベースに、物事を考えていかなければなりません。一方、このあとご説明しますが、いろいろな状況の変化、特に円安などが起きています。それに対して今後、我々はどのように取り組んでいくかを中心にご説明したいと思います。
まず、コロナ禍の2年間を簡単に振り返らせていただきます。スライドの折れ線グラフの一番右下にオレンジ色の線があります。これはコロナ禍前の2019年度、つまりこの表では2020年3月期との対比であり、「今、どの程度コロナ禍前の状態に回復しているか」を表しています。
端的に言いますと、一番右端である今期の5月は81.1パーセントです。第1四半期の決算をしっかり精査しないといけないため今は概算であり、第1四半期の決算発表の時にしっかりとご説明できると思いますが、コロナ禍前を100パーセントとした時、5月時点で81.1パーセントまで回復しているということです。
6月はもう少し右肩に上がっている印象で手応えを感じています。もちろん、会社連結で合計しているため、業態によってはコロナ禍前の100パーセントまで到達している店舗もあれば、まだ75パーセントくらいで悩んで足踏みをしている店舗や業態もあります。そのあたりを今後どうしていくのかという取り組みにも、触れていきたいと思います。
事業方針_事業再生の3フェーズ
昨年のIR説明会でも一度簡単に触れていますが、今回はよりブラッシュアップしてご説明したいと思っています。我々は大きくいうと、事業再生を3つのフェーズに分けています。実は4フェーズ目がこの後にありますが、そこは新たな成長の局面ということにしています。
スライドには去年度までを第1フェーズとし、「徹底的なスリム化」と書いています。コストを削減しましたが、店舗撤退などの「やや人員を減らしている」ところだけを見ると、いわゆる1つのリストラクチャリングを行ったと思いがちです。しかし、実は大きな変更は本社機能の見直し、原価と営業経費と人件費をしっかりコントロールする仕組みを大きくスリム化した点です。
今まで各事業会社ごとに別々に機能を持っていましたが、これをヴィア・ホールディングスの1つにまとめて横串を刺し、全方位において俯瞰的にコストコントロールする構造を作り変えたところが一番大きいです。この結果として、何ができたかというと、いわゆるコストダウンではなく、コストの再編成によって利益を生み出せる体制に作り変えられました。これを僕は「収益構造体質」と言い、コスト構造そのものを変えることができたことが第1フェーズです。
もちろん、この中には今よく世の中で言われているDXの導入など、いろいろなことがエッセンスとして入っています。そのような意味ではコスト削減だけではなく、コスト構造を変えるための前向きな新しい投資もしっかり行っています。新たなコストをかけてきちんと行うこと、つまり「コストを減らすために、新たなコストをしっかりかけて推進している」が第1フェーズでした。
特に今年度はよりブラッシュアップしつつ、第2フェーズである「短期での黒字化」に入っています。利益を生める体質にコスト構造を作り変えましたが、まだ完成ではありません。もう少しDXを進めながらコスト構造を変えていく必要があり、今は第1フェーズでできたことをベースとし、「利益を生める体質に生まれ変わる」ということに取り組んでいます。
第2フェーズの大きなテーマはスライドに並んでいます。まずは「脱・旧居酒屋」です。「コロナ禍でみんながお酒を酌み交わして、大声で三密を起こす飲み会って、なかなかできないんじゃないの?」「大宴会はないよね」という声が世間であり、「脱・居酒屋」がよく言われていました。
僕らは「脱・居酒屋」はありえないと思っていますが、旧態依然とした居酒屋はおそらくなくなると感じており、スライドにあるように「脱・大型店舗」も同様です。大型のものは今後流行らないとも限りませんが、これからは「大人数での宴会をやる」という発想よりも、専門店化、やや中小型化することであり、みなさまの体験価値がどんどん高まるような業態に変わってくると思います。結果として、二毛作やダブルネームを行う「脱・旧居酒屋」として、先ほど羽根が「名代 宇奈とと」を例に出していました。この二毛作とダブルネームは後ほどご説明します。
次に、「脱・大型店舗」です。小型専門店化への転換を行っており、我々はこれを次世代の新都市型居酒屋と銘打ち、今、一生懸命研究して実験しています。スライドに「業態実験開始」は「第3フェーズへの種まき」と書いていますが、「脱・旧居酒屋」「脱・大型店舗」で小型専門店化し、ダブルネーム型に独立した事業をどのように作っていくかが、第3フェーズの種まき、つまり業態の実験開始に繋がります。そのため、かなり多くの実験に取り組んでいます。
さらに、「組織風土改革」として「変革に挑戦する組織へ」とありますが、これも実はDXの1つです。社内の風土を変えるために、社内コミュニケーションをよりデジタル化し、社長が直接現場の店長と毎日リアルタイムで結びつくようなシステムを導入し、毎日直接対話によって、今の局面ではマイクロマネジメントをしています。このように、経営陣が現場レベルに目線をしっかり合わせて行うことも含め、急速に改革を進めています。
第2フェーズの最後に「経営システム」、つまり「リアルとデジタルの融合」とあります。「現場に行って現場を見ながら、現場のみなさまである従業員と目線を合わせられる」ということをリアルタイムで330店舗で取り組めるように、デジタルをうまく使ってベースを作りはじめています。これを第3フェーズにしっかりつなげていければよいと思っています。
そして、第3フェーズは「新たな価値の創造」です。スライドでは今年度の下期からになっていますが、おそらく来年度になります。再生から再成長への道を明確にしていきたいと思い、いろいろな実験を行っているという話は、第2フェーズでお話ししました。これが第3フェーズの一番上にある「新業態展開」、つまり「新コンセプトの業態展開」です。
併せて、スライドの第3フェーズの下から2番目にある「店舗力強化」では「一軒の力」とありますが、付加価値を高めるとなると、「一軒一軒がまるで個人オーナーのようなお店になっていく」という思考になりますが我々はチェーンストアです。
調達力や、新たな拡大をしていく出店力は、個人店よりチェーン店が圧倒的に強いです。これらの部分を新しい時代に合ったものに作り変えていくことを、もう一度しっかりと第2フェーズで実験、あるいは種まきしながら第3フェーズで完成形にしていくという体制で進んでいます。
事業方針_第2フェーズ(事業展開方針)
以上をもう少し具体的に言うと、どのようなことになるのかをご説明します。まずスライドに3色の四角がありますが、中央の緑色は「短期から中期的な施策」として二毛作とダブルネームがあります。
もともと、我々は8割は居酒屋業態だったため、やはり昼は食事だけの方々になかなか訴求しづらいところがありました。ではアルコール動機と食動機の両方のお客さまにどう来てもらうかと考えたとき、やはり昼には昼の顔が必要であれば、昼の強い顔を持っている方々とコラボレーションし、昼は食動機、夜はアルコール動機の二毛作型、あるいは夜は両方の方々が来られるダブルネーム型に転換することを考えています。
ただ、これは新しい業態の完成形だとは思っておらず、過渡期として新しい付加価値を生むものに変わっていきたいと思っています。それがスライドに赤枠で囲われている「地域に根ざす業態への転換」で、中長期的な施策です。
まずは二毛作型やダブルネーム型を試行し、そこから新しいものを生み出していきたいというのと、もう1つは食動機強化型業態を今後開発していくことです。
先ほど「脱・旧居酒屋」「脱・大型店舗」について説明しましたが、では新しい時代の新しいタイプの居酒屋とは何かということも、非常に重要なテーマです。スライドの右にあるもう1つの中長期的な施策は、ダブルネームや二毛作を経由せず、真っすぐそこに向かっていく施策で、専門店業態の開発と居酒屋業態の小型化を実験として行っています。
これは基本的には、まったく新しいものを生み出すということは考えていません。今ある業態をしっかり磨き上げながら、その先に専門店化や小型化をしていく、あるいはその過程で、何か新しいものを加えていく、新しいエッセンスを導入していくことを試みています。
また、3番目に「中食への進出」とありますが、これはテイクアウトやデリバリー、場合によってはeコマースなどもそのプロセスに当然入ってくると思い、こちらもいくつか実験を行っています。
事業方針_第2フェーズ(事業ポートフォリオ)
より具体的に、先ほどお伝えした業態に落とし込んだグラフがこちらです。縦軸にアルコール動機と食動機で分けてあり、横軸に郊外から都心、これはロードサイドから駅前という見方になると思います。実際はもっと大きな円で、だいぶ重なり合ってくると思います。それゆえ今日は見やすいように少し割り切って整理してみました。
「扇屋」はもともと焼き鳥屋です。これは本気で業態転換していこうとは思っていません。そもそも焼き鳥というジャンルは、日本のマーケットで圧倒的に支持されており、今も新規参入が続いています。それくらい人気のある業界ですが、その裏側で廃業するところもあるということです。
この圧倒的に日本の食文化に根付いた焼き鳥は不滅の業界だと我々は思っており、これをどのようにもう1回、新しい価値をつけてお客さまに勧めていけるかを考えています。
スライドに「やきとりの扇屋+はなび」とありますが、この「はなび」は台湾まぜそばの店で、まぜそばは一部のマニアの方々に非常に人気のある業界です。
「はなび」ができたと聞いて来てみたお客さまが、夜は焼き鳥屋だということに気づいてくれて、今まで興味を持っていなかったお客さまが夜の居酒屋の時間帯に来るという現象が起きています。このようなことを継続し、「本当の焼き鳥」をどのように磨いていくかにつなげていきたいと思っています。
スライドの右のほうにある「紅とん」も同じようなものです。「紅とん」もやはり焼き鳥屋で、非常に人気があります。都心部のビジネスパーソンのみなさまは、帰りに1杯ひっかけていくといったときによく「紅とん」を利用しています。
これも同じように、二毛作やダブルネームにより「夜も来てみようかな」と、あるいは夜に「はなび」に来て、普通であればまぜそばだけを食べて帰るお客さまが、「居酒屋だったらちょっと1杯生ビールをください」「ハイボールをください」と言ってくれます。それだけでも顕著に客単価が上がっています。
「宇奈とと」のうなぎもそうです。うなぎもやはり、夜に食べるとついついお酒も飲みたくなるもので、このように新しい客層を発掘し、新しいお金の使い方を提案しながら、面白い業態に改革し、改造していきたいと思っています。
一方、大型の「いちげん」「魚や一丁」は「脱・大型」です。早い話が「魚や一丁」は小型・専門化して出直そうということです。ただ、先ほどお伝えしたように「いちげん」はファミリーレストラン型の大衆酒場で、宴会場もある大きな店です。そこで、宴会場がなくなった場所に何か新しいものを入れ、ダブルネーム型に転換していきます。
そしてもともと食動機である「フードリーム」です。先ほどファミリー型(FR型)とお伝えした中華と洋食の店で、コロナ下では非常に強い力を発揮してくれました。
ただ一方で、フードコートやショッピングセンターに多く出店しており、競争が激しいです。いろいろなお店が出ている中で競争に勝たなければいけないとなると、今後は非常に大事で難しくなってくるところですが、新しい体験動機をどう提供していくかにかかってくると思っています。
事業方針_第2フェーズ(脱・旧居酒屋)
ここからは、今いろいろとお伝えしたことをビジュアルでいくつか紹介します。まずは二毛作についてです。
左の写真は「紅とん 南新宿店」で、夜になるとこの看板がくるくるっと上がっていき、夜はすっかり焼き鳥屋の「紅とん」の顔に戻ります。右の写真は「ぼちぼち 川崎西口店」だと思いますが、「はなび」が固定的に入っています。懸垂幕をまた夜にくるくるっと上げると、「ぼちぼち」のお好み焼き屋に戻るというかたちです。
事業方針_第2フェーズ(脱・旧居酒屋)
こちらはダブルネームです。左の写真は「紅とん 神田東口店」ですが、最初から看板が「はなび+紅とん」になっています。これは夜に来ても「はなび」を召し上がれます。1日通してどちらもいけるというものです。
同じように、右は「オオギヤと宇奈とと」です。看板に「オオギヤと宇奈とと」と入れてあり、これも昼から夜までどちらも選べます。これは静岡のお店ですが、このようなものをダブルネームと呼んでいます。
事業方針_第2フェーズ(脱・大型店舗_一丁)
「脱・大型店舗」ということで、専門店化・小型店化の例です。スライドの写真は「魚や一丁」です。矢印の左側が改装前で、入り口に大きな水槽があり、後ろにボックス席がどんと300席ほど並んでいました。
こちらを右のように改装しました。水槽を奥に入れて開放型にし、右側に「魚や一丁」の紺ののれんがあるのですが、この裏側には立ち飲みコーナーがあります。スライドの写真に写っているのがちょい飲みコーナーで、その後ろにすしカウンターがあり、奥にボックス席があり、4通りの使い方ができるように変えました。
その結果、夕方4時くらいの早い時間に立ち飲みから飲み始め、ちょい飲みコーナーに入り、夜になると昔から「魚や一丁」に来ているオールドファンのみなさまが奥のボックス席に来るようになりました。4月から6月まで毎日満席の状態が続いているということで、コロナ禍にありながら以前よりも稼いでいるお店です。
手前のちょい飲み、立ち飲みのところ、カウンターのところだけ切り出し、小型化・専門店化することを考えています。これは実験として大成功で、どんどん展開していきたいと思っています。
事業方針_第2フェーズ(脱・大型店舗_いちげん)
「脱・大型店舗」と専門店化・小型化のもう1つの例で、「いちげん」です。宴会場が埋まらないなら従来の「いちげん」に何か加えてはどうかということで、鶏焼肉を展開しています。
焼肉屋の牛肉の焼肉だと高くつきますが、鶏ならばとても安く終われるということで、お客さまに大変好評です。これならば飲まなくても、食事だけでも終われます。
これと「いちげん」とのダブルネームで大型店を埋めていくという考えと、鶏焼肉だけの小型店・専門店も作る考えもあり、両方をにらんだ実験としてうまく進んでいます。
事業方針_第2フェーズ(新業態/新規事業)
そのほか、まったく新しい業態として、上段の左が「鶏のおかげ」というラーメン屋、右が「鶏中華」という町中華です。これをもともと「扇屋」の店と「紅とん」の店で実験しています。我々は鶏に強みを持っており、鶏で新しい業態を始めました。好評ではありますが、展開していくには収益力にもう少し磨きをかけてからと思っています。
そして「将来は中食へ」とお伝えしましたが、我々は大田中央卸市場の水産部に店を1つ持っています。これは仲買人や配送のみなさま、そしてもちろん場外の方も使える食堂です。
ここで「魚や一丁」で使っている魚の加工、例えば焼き魚や刺身、パックになったものなどに加工しており、グループ内のいろいろな店に提供すると同時に、一部の中小のスーパーに食材として提供しています。もう少しブラッシュアップして、より大きな商売に、あるいはeコマースに持っていったらどうかと、こちらも実験しているところです。
この流れを作っていく実験をしっかり落とし込み、先ほどお伝えした第2フェーズに答えを出して、第3フェーズの再成長フェーズに持っていきたいと考えています。これをしっかりと完了することが今年度の経営の目標です。
ご紹介したものはホームページに書いておりますので、ぜひ1度近くの店にお越しになり、忌憚のないご意見をいただければありがたく思います。今後の方針についての私からのご説明は以上です。ご清聴ありがとうございました。