WeWork、DiDiが構築するプラットフォーム論

質問者1:日経コンピュータのオオワダと申します。1つ目ですが、プレゼンの中で、WeWorkやDiDiなどの配車サービスの話のときに、「プラットフォームとそうでないものはまったく違う」「わかる人にはわかる、わからない人にはわからない」と(お話しされていました)。

プラットフォームとそうでないものの違いについて、あらためて、くわしくご説明いただけますでしょうか。

孫正義氏(以下、孫):プラットフォームというのは、言ってみれば胴元みたいなもの・OSのような存在です。

その上にいろいろなアプリケーションが乗るように、1つの共通基盤として多くのパートナーが、その上に乗っかってくる。そういう共通基盤を提供しており、単なる1アプリケーションではないということです。

そのプラットフォームとは、やはり圧倒的マーケットシェアをもって、その業界の基盤を作らなければいけない。

自らがアプリケーションと競合するのではなくて、多くのアプリケーションを提供する事業者を、自分たちのプラットフォームの上に抱える、場を提供する。

言ってみれば、アリババが多くのマーチャントを、そのプラットフォームの上に乗せて、それぞれのマーチャントは一般消費者に物を売る。課金のプラットフォームを提供するのが、アリババグループであり、商品を検索したり、やり取りをする場を提供したりするわけです。

同じように、例えばDiDiの場合でいうと、自らが運転手を抱えて、自らが運転業務を担当するのではありません。そのプラットフォームの上に、ある種の個人事業主のような立場の、多くの運転手のみなさん(を乗せる)。

運転手が個人事業主のような立場で、たくさんそのプラットフォームの上に乗っかる。DiDiは、顧客をどの運転手に配分するのか、ヒートマップを作って、個人事業主である運転手のみなさんが、どこに行けば今お客さんが手を挙げるであろうか、ということを事前に予測する。

課金のプラットフォームもそこに提供し、全体を俯瞰して多くのお客さまに、サービスを提供する。これはプラットフォームです。

WeWorkも同じように、自分で不動産・ビルをもっているわけではありません。多くのビルを所有している不動産事業者から、ビルのフロア、あるいはビルを丸ごと預かる。その上に、個人の多くのオフィスをもちたい人々に、個人の働くオフィスの場を共有スペースとして提供する。

あるいは、中小企業・スタートアップの会社(だけではなく)、最近はAmazon、ゴールドマン・サックスのような大企業も、続々とWeWorkのプラットフォームの上に乗る。

WeWorkのプラットフォームの上に乗ったほうが、オフィスのコストも下がるし、かつコミュニティの増大によって、仕事の効率も上がるということを、大企業も認識し始めたということです。

プラットフォームというのは、一般的には、その分野の30パーセント・50パーセント・80パーセントというマーケットシェアをもって、多くのプレイヤーをその上に集める。そのような生業のことを言っています。我々の好む投資先の多くは、そういう立場の会社が多いです。

質問者1:ありがとうございます。もう1つですが、スプリント再編の行方について教えてください。

3ヶ月前の決算会見のときに、「一番の本命は、T‐Mobile USだ」とおっしゃっていました。現状でも、その考えにお変わりないでしょうか。あと、いつごろ話がまとまりそうかも含めて、可能な範囲で教えてください。

:冒頭に言ったとおり、1人1問ということで、できるだけ多くの人に質問の機会を提供したいと思いますが、今の質問は多くの人が聞きたい質問だと思いますので、あえて代表してお答えします。

基本的にスプリントについては、今、複数の事業統合の相手先を想定し、また交渉を行っております。

これについては、近い将来ということで我々は考えております。我々なりに「近い将来」だと思っておりますので、なおさらのこと、コメントは控えさせていただきたいと、申し上げたいと思います。

他、なにかあるでしょうか。よろしいですか。では、その隣の隣の方。

国内競合他社の新料金プランについて

質問者2:フリーランスのイシノと申します。(質問は)1人2問まで(ではなく)、1人1問? わかりました。

株式会社NTTドコモさんとKDDI株式会社さんが、いわゆる分離プランと呼ばれる、料金が1,500円安かったり、5段階に料金が変わっていったりするような料金プランを導入しました。今回ソフトバンクは、とくに国内通信事業として対抗策を打ち出していないように思います。

なにか、そこに対してお考えがあるのかということと、Y!mobileは好調だからそのままでいいのか。どのように考えたのか、お聞かせいただければと思います。

:では、その件は宮内(ソフトバンク株式会社 代表取締役社長 兼 CEOの宮内 謙氏)から回答いたします。

宮内謙氏:お答えします。我々は常に、世の中の状況によっていろんなプランを考えるのですが、現在のところはまったく考えておりません。

なぜかというと、先ほど孫がプレゼンしたように、Y!mobileも順調ですし、ソフトバンクブランドのモバイルもデビュー割等で、スマートフォンの数字がどんどん伸びている状況です。

そのような意味で、ここ1ヶ月ほど様子を見ておりましたけれども、まったく影響がないということです。

それと同時に、我々が従来からいっておりますように、3ブランド作戦といいますか。Y!mobileのブランドと、ソフトバンクモバイルブランド。この2つの差別性がうまく演出できていると思います。ユーザーにもフィットしているのではないかということで、今のところ、まったく変える方向性はありません。

:ご質問の中にもありましたように、分離プランということで、特段大きな値下げだという実態にはなっていないのではないか。そういうことで、ユーザーからの特段、そちらにお客さんが多く流れ込んでいるというようには、認識しておりません。

したがって、我々は今のところ必要ないのではないかと考えているという状況です。他にいかがでしょうか。では、そこの女性の方。

5G実現に向けた取り組み

質問者3:日経コンピュータのタナカと申します。5Gという技術につきまして、今の御社の取り組みの状況と、社長の技術に対する期待の言葉をいただけたら幸いです。

:5G(が求められる流れ)は必ずやってくる、重要な技術だと認識しています。技術が2Gから3Gになって、3Gから4Gになって。4Gから5Gになるというのは、大きな流れとして間違いなくやってくると思っています。

5Gになると、なにがよくなるのかというと、通信速度が速くなれば、通信のレイテンシが短くなると。IoTのいろいろな接続に、より適したネットワークができる。利点はたくさんあります。

(5Gは)いつごろの時期かというと、2020年以降だと思います。しかしソフトバンクは、5Gのスタンダードが完全に固まる前に、すでに5Gの中核的技術の1つであるMassive MIMOが、世界でもっとも早く、商用サービスに入っています。

ですから、ソフトバンクは5Gの主要機能を、実はもう先取りしてやりはじめてる。それは、我々の2.5GHzを使ったTBLTでより早く実現できるということで、やり始めている。

5Gの時代になると、2.5GHzは5Gの時代のプラチナバンドになると我々は認識しております。それをたくさん持っている、またその技術を蓄積してきたソフトバンクグループには、そのメリットがたくさんやってくると考えています。

「SoftBank Vision Fund」と従来のVCとの違い

質問者3:すみません、もう1点。先ほど御社のビジネスモデルは日本の財閥とも、従来のベンチャーキャピタルとも違うというお話がありました。その御社の組織論につきましても、もう少しお話を伺えませんでしょうか。

:(ご質問は)お1人1問ですけれど(笑)。

先ほどから、少ししつこいかなと思ったぐらいご説明したつもりなのですが、「SoftBank Vision Fund」というのは、必ずしも(株式)51パーセントを取りにいくのではなく、我々のブランドで染めるわけでもなく、我々が送り込む経営陣によって、子会社としてマネージするわけでもないのです。

しかし、だいたいのケースにおいて、20パーセントから40パーセント近い株式を持ち、筆頭株主あるいはそれに近い立場で、その会社の経営に影響を与えるレベルのグループを構築していく。

単なる事業提携であれば、3年や5年で事業提携が終わってしまう可能性があるわけですね。やはり資本を持っている、血の繋がりがあるということは大きいと思っています。

ベンチャーキャピタルのように、(株式を)3パーセント・5パーセント持って、上場したらすぐ売るような、短期的取引でもない。従来の銀行のような貸付をしているという相手でもない。

血のつながりを持った資本的提携であり、もっと重要なのは、情報革命という志・ビジョンを共有している起業家集団だということですね。

そのため、いろいろな業界にただ跨る、儲かればいい、金銭的つながりだけだということとは、また違うわけです。また、我々のブランドやコントロールで染め上げるというものでもない。

これは、「同士的結合」というソフトバンクなりの新しい概念の在り方で、群戦略をやろうとしております。情報革命のシナジーを出し合う、戦略的シナジー集団だと、我々は捉えています。

よろしいでしょうか。他にいかがでしょう。それでは、そちらの方。

スプリントの事業統合について

質問者4:ウォール・ストリート・ジャーナルのネギシと申します。先週、クラウレ社長が会見で、「自由に統合相手を選べたら、やはり携帯電話事業者が理想」と言っていましたが、孫社長も同じお考えでしょうか。そしてやはり、今もT-Mobileが本命で、T-Mobileとの交渉が生き続いていると理解していいでしょうか。

:先ほどから言っておりますように、統合の時期、少なくとも我々が意思決定する時期は近いと思っています。だからなおさら、1社ではなくて複数を考えていますので、ヒントになるようなことは、残念ながら言えない。ごめんなさいね(笑)。

言いたいのですよ、私も。言うとスカッとするだろうと思います。それでも、やはりそこはグッとこらえて、我慢しているところでございます。よろしくお願いします。

米画像処理半導体メーカー「NVIDIA」の将来性

質問者5:野村証券のマスノです。1点だけお尋ねしたいのですが、プラットフォーム論についてです。DiDiなども、我々はトランスポーテーションだと思っているのですが、将来的には中国ですから。

EVを自動運転で送る、みたいなモデルもあります。ロボットであと、今出資したところを全部合わせると、動作機能が高いものにクラウドベースで操作して、なおかつ自動運転もする。そうすると、スマートロボットになる。

このぐらいはわかるのですが、そのNVIDIAのところ。今回1,000億円の構成革新の上昇が出ていて、上場している株の投資1,000億円は出ているのですが、それだと金融投資と同じです。このarmとNVIDIAを合わせると、どういうプラットフォームになっていくのでしょうか。

商品的には、今は自動運転などもあると思うのですが、やはりそれは、その自動運転を核とした新しいプラットフォームを、半導体ベースで構築していこうとしているのか。そのあたりをお伺いしたいです。

:NVIDIAのジェンセンは、もう何年も前から尊敬している友人として付き合っております。とくにこの数年間、彼らがGPGPU(GPUによる汎用計算)として、その先見の明と、そこにかけた先進テクノロジーは、非常に賞賛に値すると思っています。

本当はもっと前、まだ彼らの時価総額が5,000億円ぐらいの2、3年前から、もっとたくさん買いたいという思いがあったのです。

しかし、上場したうえに金額も大きいので、我々としては大きな株を買うに至っておりませんでした。しかし、ビジョンや思いは非常に共有する部分が多いので、事業提携については、我々のグループにarmも持っております。

また、彼らはarmのライセンス先の有力な会社の1社でもあります。ですから、事業提携としては、これからお互いにいろいろな機会をもって、やっていくことができればいいなという思いであります。まだ具体的に、何をいつどうしようということがあるわけではありません。

それでは次に、後ろの方。

「孫正義育英財団」の狙い

質問者6:LEADERSのハシモトです。先日、育英財団を発表されましたけれども、それの反響みたいなもの(はありますか)。あと、今日お話しされている群戦略にも影響するようなものが、もしあればお聞かせいただければと思います。

:育英財団は、僕が将来、自分の生命が尽き果てたあとも、多くの若者、とくに異能を持った若者たちに挑戦し続けて欲しい。そういう思いで、社会貢献の一環として、設立したものであります。

そのため、直接的にソフトバンクの事業にメリットがあるものではありません。ただ、我々もたくさんグループ会社を今続々と作っておりますので、異能をもった彼らが将来目指す、夢の実現の手助け(ができればと思います)。

直接あるいは関節的に、我々の投資先も含めたグループ会社や、そこの知人や教授、学者。いろいろなみなさんから、彼らの成長をさらに促進することができればいいなと思っております。

よろしいでしょうか。はい、それではこちらの方。

アメリカズカップへの挑戦

質問者7:フリーライターのナカヤマです。アメリカズカップについてお聞きします。残念ながら、セミファイナルで敗退ということになりましたが、活動2年間についての評価と、次回大会についてなにかお考えがありましたらお聞かせください。

:やってよかったのではないかなと思います。やはりスポーツは、多くの人々にとって関心の高いものですから、我々のブランディングにも貢献したのではないかと思います。次回大会以降については、その成果を我々のかかる費用などと照らし合わせて、どうするか、これから話し合うところです。

それでは、後ろの方。

60歳を迎えて「後悔だらけ」

質問者8:フリーランスのオオカワラと申します。冒頭、孫さんが60歳を数日後に控えているというお話をされました。あらためて60歳ということを直前に迎えて、やり遂げたこと、あるいは一方でやり残したこと。

これは経営か人生かわかりませんが、ちょっと自己採点をしていただいて、60歳までを100点満点中で、何点ぐらいの自己評価をされるのか。そのあたりをお聞かせいただけますでしょうか。

:自分の自己評価でいくと、しまったなあと。28点。この間育英財団で、8歳の子どもたちを何人か見て、「もう一度戻りたい」と(思いました)。そうしたらもうちょっと、とことんやれたのだけど、と思いますね。後悔することだらけですし、自分の不甲斐なさに地団駄を踏む思いであります。

ただ、まだ人生が終わったわけではないので。まだまだ、とくにソフトバンクという組織体・生命体としてのそれは、少なくとも300年ぐらい伸び続けていく組織体であってほしい。そういう思いで、我々の群戦略・組織体系を作っていっているつもりであります。

先ほどから、組織体系についてこだわって、ビジョンファンドのことも話をしておりますが、まさに今、300年に向けた体系が始まったばかりです。300年の中の30年。このように位置づけていくと、まだ1合目だという思いであります。

そのため、いろいろやり残したことだらけで、後悔がいっぱいありますけれども、先は明るい。先は楽しみだ、これからまだまだ攻めていくぞと、こういう思いであります。

よろしいでしょうか。はい、それではそちらの方。

「Uber」「Lyft」への出資の可能性

質問者9:ファイナンシャルタイムスのペイターと申します。実際に事業統合となったとき、事業再編となった場合の、ソフトバンクの役割はどのようなものになるでしょうか。

:ご存じのとおり、我々は、DiDi、Ola Cabs、Grabなどの筆頭株主ですが、うわさによれば「(我々が)Uberに関心がある」というような記事もある。Uberとの議論、Lyftとの議論については関心がありますが、どちらに、ということは何も決まっていません。

アメリカは非常に大きな市場でございますし、もっとも重要な市場でもあります。そのため、アメリカ市場について関心は非常に高いということは、間違いございません。ただ、Uberとパートナーを結ぶのか、投資をするのか。(相手が)Lyftなのか。それはまったくわかりません。

ただ、関心はあるということだけ申し上げておきます。また、現在そのアイディアについていろいろと模索・検討はしておりますし、両社と議論は続けたいと考えています。

これはシェアエコノミーということで、非常に重要な業界の1つであると考えています。交通の利用のしかた、それからその生活様式というのは、今日と30年後、50年後はまったく違うものになると考えています。

自動運転も間違いなくやってくるでしょう。また、その段階がくれば、このライドシェアというビジネスがより、重要性を増してくると考えております。

他にはご質問、いかがでしょうか。よろしいですか。それでは、だいぶ時間が経ちましたので、締めくくりとさせていただきたいと思います。ありがとうございました。