第102回 個人投資家向けIRセミナー
山森郷司氏(以下、山森):バリオセキュア株式会社代表取締役社長の山森です。みなさま、本日はご視聴いただきありがとうございます。
バリオセキュアは「セキュア」という名のとおり、セキュリティの会社です。説明が小難しくなってしまう業界でもあるため、専門用語などはできる限り使わず、みなさまにご理解いただけるよう、お話ししていきたいと思います。よろしくお願いします。
会社概要
山森:会社概要についてご説明します。当社は2001年6月創業で、21世紀とほぼ同じ期間、事業を行っています。セキュリティ業界の中では老舗と言っていいほどの年数が経過しました。
本社は東京都千代田区にあり、大阪府大阪市と福岡県福岡市に営業所を構えています。事業構成はほぼ単一のセグメントで、セキュリティに関するビジネスアウトソーシング事業を行っています。それ以外にも、ネットワークやセキュリティの構築に関連するインテグレーション事業を行っています。
親会社はAI事業を手掛けているHEROZ株式会社であり、持株比率は42パーセントです。
バリオセキュアの事業 = Security BPO(BPaaS)
山森:事業の概要です。先ほどお話ししたとおり、セキュリティビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)サービスというかたちで事業を行っています。セキュリティに関する運用事業だとお考えください。最近では、運用事業も「as a Service」を用いるのが一般的になってきており、「セキュリティBPaaS(BPO as a Service)」と呼ばれています。
当社は創業以来、自社でセキュリティシステムを開発しています。我々の強みとして、まずは国産のセキュリティシステム等を開発し、24時間365日監視・運用する運用体制、また、「モノ売り」ではなくお客さまのさまざまな依頼に応える「WORK」の提供、そして、日本を網羅した「駆けつけ網」があります。「ファイアウォール」といった箱物のセキュリティは、現地に駆けつけなければならないことが多いため、日本全国47都道府県、よほどの離島でない限り、4時間以内に駆けつけられる「駆けつけ網」を持っています。
このように、国産のセキュリティシステムメーカーであることに加え、運用を生業にしていることが、バリオセキュアの強みです。
従来セキュリティは、「ウィルス対策ソフトなどを入れておけば安心」という部分がありました。しかし現在、そのような常識は通用しなくなってきています。そのため、「会社を守る」点にフォーカスし、最適解を提案することがバリオセキュアの事業となります。
坂本慎太郎氏(以下、坂本):質問を挟みながら、進めていきます。
この「駆けつけ網」は、必要な部分かと思います。当然ながら、急いで対応しなければならないこともありますし、そこまでセキュリティに詳しくない方が担当していることもあるため、外部のサポートは必要だと思います。
スライドに、「全国で約8,000拠点にサービスを提供している」とありますが、御社が自社で対応するのではなく、提携先などが駆けつけるということでしょうか?
山森:そのとおりです。ただし、複数の会社に分散してお願いしているわけではありません、全国的な物流網や営業拠点をしっかりと備えている1社にお願いしています。一言で言えば、大きな会社と事業提携しているということです。
坂本:トラブル時に駆けつけることができる陣容がそろっているところが強みということですね。
山森:おっしゃるとおりです。
市場シェア
山森:当社の市場シェアです。主力商材であるファイアウォール等の運用監視サービス市場において、トップシェアを取っています。特に従業員100人未満の企業で40.8パーセントのシェアになります。
ただし、当社の事業の形態として、OEMとしての代理店や再販の代理店など約50社を経由しているため、OEMで提供している場合には、提供先代理店のブランド名になっています。したがって、シェアの大きさに比して、バリオセキュアという社名が前面に出てくることはありません。
坂本:製品などを見れば、御社だとわかるということですね。
御社のターゲットについては、従業員100人未満の企業に対して強みがあると理解しています。従業員1,000人以上の企業はシステム部を持っており、自社で完結できると考えられます。
一方で従業員100人未満の企業は、IT専任の担当者がいたとしても、手が回らないケースが多く、外部に委託したいというニーズが高いため、御社のメインターゲットとなっているのでしょうか?
山森:はい。従業員1,000人以上の企業と1,000人未満の企業ではっきりと色分けされているわけではありませんが、従業員1,000人以上の企業はリソースを持っている可能性が高く、実際に自社で完結している企業もあります。
一方で、当社のような外部業者に委託している企業や、「人材を15名派遣してほしい」と言って、SES(システムエンジニアリングサービス)のようなかたちで外部から人材面でサポートを受けている企業もあります。したがって、従業員1,000人以上の企業においてもニーズはあるということです。
坂本:非常によくわかりました。特に100人未満の企業では、IT専任の担当者が少ないということですか?
山森:そのようにご理解ください。
最近の導入実績
山森:当社は、OEM・再販代理店経由のビジネスモデルが中心となるため、導入実績を出すのが難しいのですが、今回は「旬」ということもあり、大阪・関西万博に協力している事例をご紹介します。こちらは入札案件のため、当社の導入実績としてご紹介しても問題のない案件です。
「中小企業に強いと言いながら、これは大規模イベントではないか」という声もあるかもしれませんが、当社がすべてを担当しているわけではありません。スライド下部に記載しているように、メディアセンターのネットワークセキュリティを担当しています。
大規模イベントの中小拠点という意味では、我々の強みを活かせる案件だったと思っています。また、納期などを含めて失敗できない案件のため、関連する部署やメンバーは、非常に奮闘してくれました。まさにこの瞬間も進行している案件です。こちらは、半年ほど経つと賞味期限が切れてしまうため、今回ご紹介しました。
坂本:大きなイベントにも、このようなかたちで御社のセキュリティが使われているということですね。
山森:はい。BPOならではの強みもあると考えています。6ヶ月間のイベントに人材を常駐させるのは難しく、それが当社が担当することになった背景でもあると考えています。
中小企業への攻撃の実態 = 運用しているからこそ分かる不都合な真実①
山森:事業戦略に関する部分です。当社は「モノ売り」ではなく、運用という価値を売っています。「運用しているからこそ分かる不都合な真実」としていますが、中小企業を経営しているみなさまが、ふだんそこまで気に留めていないであろうデータをご紹介します。
スライドの図は、当社のCSIRTチーム、いわゆる「サイバー攻撃から会社を防衛する専任部隊」が、バリオセキュアに対するネットワーク上の攻撃状況などを常時モニタリングしているデータの一部です。
左上の折れ線グラフをご覧ください。2024年6月から7月にかけて、攻撃がスパイクしている時期があります。これは、この間、当社が非常に多くの攻撃を受けていることを示しています。
しかし、当社がよくないことをしたわけではありません。同時期に福島原発が処理水を海洋放出し、国際的にさまざまなバッシングを受けていた際、海外からの攻撃が、日本国内で無差別に行われました。その結果、スパイクしているように見えているということです。
つまり、ふだん世の中で報道されているニュースが、自分の会社とは関係のない内容であったとしても、トレンドに合わせて攻撃を受けてしまう可能性があるのが現状です。
なお、2024年6月のブロック数は月間で約2,300件、1日平均で約75件となり、24時間で割ると、1時間あたり3件ほどです。とはいえ、1件の攻撃が単発で終わるわけではありません。実際には、数百から数万のパケットに及ぶ波状攻撃があり、何らかの攻撃を受け続けている状態です。
また、これはバリオセキュアを狙ったわけではなく、無差別にIPアドレスを攻撃した結果です。社員数約100名の中小企業である当社でも、日々、これほどのサイバー攻撃を仕掛けられています。これは「モノ売り」ではなく、運用しているからこそ見えてくる事実だと思います。
中小企業の対策の実態 = 運用しているからこそ分かる不都合な真実②
山森:スライドは、当社のエンドポイントセキュリティ、つまりパソコンを防御するプログラムを導入している会社の、コンピュータのアップデート状況を示したグラフです。例えば、「Windows」を使っている際の、「Windowsアップデート」や「ソフトウェア更新があります」といった表示がそれにあたります。
スライド左側の円グラフで示しているように、当社EPS顧客の初期状態で、健全な状態になっているものは16パーセントほどです。つまり、ほとんどのコンピュータは、アップデートがきちんと行われていない状況になります。
スライド右側のグラフは、その後、アップデート運用管理をしっかりと行なった場合です。それでも脆弱性アップデートの完了率は72パーセント程度です。毎日膨大な数のアップデートが更新されるため、あるタイミングでスキャンを実施すると、その直前にアップデートされたものがまだ適用されていないことが起こり得ます。したがって、この72パーセントの数値は「最も健全な状態に近い」とご認識ください。
ここでお伝えしたいのは、「社員それぞれがきちんと対応しているはず」という性善説は、サイバーセキュリティの世界では通用しないということです。
バリオセキュアの市場戦略
山森:今後の市場戦略です。先ほど従業員100名未満の企業においては40.8パーセントのシェアを獲得しているとお伝えしましたが、仮にこれを100パーセントにまで引き上げたとしても、企業総数は一桁万社です。
しかし、日本でパソコンを使っている中小企業は100万社以上あると思います。したがって、円グラフの外側には、セキュリティ管理をプロに任せるべきであるにもかかわらず、自社で「少しITに詳しい〇〇さん」に任せてしまっている企業が100万社以上あるのではないかと考えています。
このような課題を内包した中小企業や大企業の中小拠点を守るために、今後も「セキュリティBPOサービス」を展開し、社会に貢献していきます。
経営理念を刷新(経営理念 2025 )
山森:今お話ししたことを実現するため、経営理念を刷新しました。「Our Mission」は、「企業のネットセキュリティに伴走し、安心・安全なビジネスを支えます」です。つまり、モノを売るのではなく、伴走し続けるということです。
また、「Our Values」は「企業のネットインフラに、正義の味方を常駐派遣します」としています。我々は、お客さまのシステムを常に見守り、外部からの攻撃から守りきります。
バリオセキュアの「問題意識」
山森:このような経営理念に行き着いたのは、当社がセキュリティ事業者として、いくつかの問題意識を持っていたためです。
セキュリティ事業者は、当然ながらセキュリティのプロであるため、「CASBは要りませんか?」「SASEは要りませんか?」と、セキュリティサービスの商品名・機能名を持って、サービスを提案したいと考えています。一方、中小企業の多くは、このような言葉がよくわかりません。
企業側が求めている「会社をサイバー攻撃から守りたい」「社内LANを守りたい」「パソコンを守りたい」というシンプルな要望を叶えるには、セキュリティ事業者と企業のマッチングが必要です。しかし、マッチングするにあたり、必要となるTranslatorの数が、国内にはまだ足りていないのが現状です。
昨年末に、銀行や航空会社、大手通信事業者がサイバー攻撃を受けました。そのような「ホラーストーリー」を持ち出して、「セキュリティ機器を導入しましょう」「ライセンスを買いましょう」と提案するのが、セキュリティ業界のこれまでの営業手法でした。
おそらく、被害を受けた銀行や航空会社などは、数億円、数十億円をかけてセキュリティシステムを導入していたはずです。したがって、この事例と中小企業が「数十万円・数百万円のセキュリティ機器」を導入することの間には、距離感があります。
これが、リアルセキュリティでは非常にわかりやすくなります。「ウクライナとロシアが戦争していて、怖いですね。イスラエルも戦争していて、怖いですね。だから、あなたの家の鍵を取り替えましょう」と言われれば、「それは違うだろう」とわかります。しかしサイバーセキュリティになると、その距離感がわからなくなってしまうのです。
我々は、「本当に必要なセキュリティ対策は何なのか」にフォーカスしつつ、「守ってほしいものを守るビジネスに移行する必要があるのではないか」という問題意識から、経営理念を刷新しました。
高度な専門領域はプロに任せるべき、は企業経営の基本
山森:高度な専門領域をプロに任せるのは、企業経営の基本です。例えば、「財務会計は会計事務所や税理士事務所に任せる」「社内の労務管理は社労士事務所に任せる」などです。
しかし、セキュリティ管理は高度な専門領域であるにもかかわらず、なぜか「自社でがんばろう」としている会社が非常に多くなっています。セキュリティ事務所にあたる役割を担う存在が、日本には必要なのではないかという問題意識から、我々は「セキュリティBPOサービス」を行っています。
「何を守るか」にフォーカスしたセキュリティ BPO を提案
山森:先ほどからお話ししているとおり、我々は「何を守るか」にフォーカスしたビジネスを展開しています。ネットワークのセキュリティについて語る以上、スライドに書いてあるような細々したネットワーク構成図を出すことは不可避です。
しかし、ネットワーク構成図の中にあるさまざまな商材の名前ではなく、「パソコンを守る」「ファイルを守る」「社内LANを守る」など、「お客さまが守ってもらいたいものを守る」という「WORK」を提供することが大切です。これは、我々が今後、よりフォーカスしていかなければならない営業手法・提案手法だと考えています。
バリオセキュアBPOサービスの特長
山森:「セキュリティBPOサービス」の特長です。リモート環境から、BPOいうかたちでサービスを提供し、「まるで常駐しているかのように」お客さまの社内セキュリティを守るのが、我々の目指す先です。
当社は100名程度の企業です。そのため、さまざまな企業に人を送り込んで情報資産を守ることは不可能です。また、現在、セキュリティ人材の確保は非常に難しく、たとえ確保できたとしても、24時間365日働き続けることができるわけではありません。そのため、「まるで常駐しているかのように」守ることを目標としているのです。
バリオセキュアが抱えていた従来からの課題①
山森:従来の課題についてです。1つ目として、「セキュリティBPOサービス」を打ち出していくには、サービス商材・サービスの範囲をさらに広げていく必要があります。
私はよく、セキュリティサービスを幕の内弁当に例えるのですが、運用管理という「主食(SOC)」に、どのような「おかず(商材)」をつけて提供するかは、お客さまのニーズ次第です。しかし、「今よりもサービスの数を増やしていきたい」という思いがあり、「サイバー保険」を自動付帯した「VarioSecure Cyber Insurance」の提供を開始しました。こちらは2025年3月3日に発表しています。
これまでは「サイバーセキュリティで守りきる」「万が一、何かが起こった際には元に戻す」ところまでが、我々の仕事でしたが、今後は、実費レベルで「補償」まで追加するサービスとなっています。
坂本:こちらの「補償」に関しては、損害保険会社に外注しているかたちですか?
山森:プレスリリースにもありますが、損保ジャパンがバリオセキュア向けに開発した新商材を「VarioSecure Cyber Insurance」として提供しています。
また、2025年3月25日に発表した内容として、空間プロデュースビジネスを手掛け、法人向け監視カメラにおいて大きなシェアを持つ東洋メディアリンクス株式会社と、業務提携契約を締結しました。
我々はこれまで、サイバーセキュリティに特化したサービスを提供してきました。しかし、今後はサイバーセキュリティとリアルセキュリティを融合したサービスも提供していきたいと考えています。
バリオセキュアが抱えていた従来からの課題②
山森:課題の2つ目です。先ほど、中小企業100万社程度をターゲットにしていきたいとお話ししました。今までの販路で当社を支えてくれた代理店との関係をより強固にしつつ、オーガニックな成長は続けていくものの、まだ販路が足りていないというのが実情です。
そこで、NTTコミュニケーションズ株式会社と事業提携を行うこととしました。NTTグループとの販路開拓にも、しっかりと取り組んでいきます。こちらは2025年3月12日に発表しています。みなさまに驚かれることとして、当社はネットワークセキュリティ事業を行っていながら、これまでNTTグループとの直接取引がありませんでした。
また、東洋メディアリンクス株式会社との事業提携について、当社にはもう1つ狙いがあります。サイバーセキュリティに対する感度がそれほど高くない中小企業、例えば従業員が10人、20人で、「うちはサイバー攻撃を受けない」という企業にも、エントランスに監視カメラが設置されています。
その理由について、人はインターネット越しに1,000万円の被害を受けるよりも、会社に置いてある5万円の小口現金や、15万円のパソコンを盗まれることのほうが、本能的に怖いということです。そのような本能が実際に存在するのであれば、「会社を守る」という本能に訴える販路の拡大もあり得るのではないかと考えています。そのような狙いもあり、事業提携を画策してきました。
坂本:前回のお話では、事業拡大について、直販とM&Aを中心に考えるという内容だったと思います。今回は事業提携の話が中心になっていますが、御社の方針に変化があったのでしょうか?
山森:「方針に変化があった」と言ってもよいと思います。2024年10月中旬に登壇した際は、社長に就任して2週間ほどで、それまでの路線を踏襲するという意味でM&Aや直販についてご説明しました。しかし、その後、経営陣も含めて頭を突き合わせて考えた時に、直販は大事な販路であるものの、中小企業のお客さまに1件ずつ直販を行っていく方法は、一つひとつが小粒になり、爆発力に欠けるかたちになるという話になりました。
坂本:人海戦術になってしまうということですね。
山森:はい。また、M&Aは時の運が絡むため、「ラッキーパンチ」を待つような状況になります。そうではなく、我々がこれまで成長してきたスキームで、事業提携というところから、爆発力のある切り口を開いていく必要があるのではないかという方向に移行しました。
坂本:事業提携することで販路も広がりますし、「補償」の部分など、今までにはなかったサービスを付加できると思います。また、M&Aや直販も試し、代理店への営業も強化しながら成長を目指すイメージでしょうか?
山森:そのとおりです。「直販はしない」「M&Aを拒否する」ということではなく、そのようなところもしっかりと考えながら、事業提携を主軸に進めていく方向性です。
このような取り組みを、昨年10月あたりから始めていますが、事業提携にはそれなりに時間がかかります。特に、今回ご紹介した損保ジャパンやNTTコミュニケーションズとの事業提携には、6ヶ月かかりました。今後も商材や販路の拡充に向けて、事業提携を進めていきたいと思っています。
前回の登壇動画を視聴した企業からも、お声掛けをいただいています。当社の役員・社員もアーカイブ映像の拡散に努めており、事業提携を進めていく上で、非常に大きな後押しとなりました。
中小企業に「WORK」を提供する、当社の「セキュリティBPOサービス」についても、少しずつご理解いただける状況になってきたのではないかと思います。
2025年2月期 決算ハイライト・重要な業績指標
山森:2025年2月期の決算概要についてご説明します。売上収益は、当初計画していた予算比に対して約97パーセントであり、3パーセント下回るかたちとなりました。一方で、営業利益と当期利益は予算比で約101パーセントを達成しています。
さらに、我々は継続課金型のストックビジネスを展開しているため、ストック型売上比率は87.9パーセント、エンドユーザー拠点数や解約率にも大きな変化はなく進捗しています。
まず、売上収益についてです。我々も原材料やエネルギー価格の高騰により、コストが上昇しています。調達元の会社からも、「コストを転嫁させてほしい」という声を多くいただいています。このような声にしっかりと対応しながら、取引先のお客さまや代理店に対して価格改定をお願いしています。この価格改定は計画に織り込んでいたのですが、実際の進捗が想定よりも遅れてしまいました。
昨年は、この価格改定が売上収益に反映されなかったことが、予算比で3パーセント下回った主な要因です。ただし現段階では、ほぼすべての代理店や企業との価格改定契約が終了しています。
坂本:価格を数年かけて上げていくことや、来期から引き上げていくことはないのでしょうか?
山森:はい。法人間の契約ですので、「明日からコンビニのカップ麺が30円値上げされます」といったような改定はできません。そのため、開始時期にずれはありますが、現段階では、価格改定はおおむね終了しています。
2025年2月期 財政状態
山森:財政状態について、詳細はスライドの数字をご覧ください。自己資本比率が若干上昇しています。
2025年2月期 サービス別業績
山森:サービス別の業績です。先ほどお話ししたように、既存顧客に対する価格改定の進捗の遅れが、売上収益を予算比で3パーセント下回る結果に直結しています。
解約率の推移
山森:我々はリカーリングサービスを展開しているため、解約率を非常に重視しています。2025年2月期の解約率は1パーセントを切っており、非常に低い水準で推移しています。
井上綾夏氏(以下、井上):解約率が低水準を維持している理由、秘訣はどこにあるのでしょうか?
山森:まず、ビジネスモデル自体が解約しにくい構造になっています。そもそも、当社は情報システムを運営する人手が足りない企業に「WORK」を提供しているため、我々のサービスを解約すると、「次に何をすべきか」「代わりに人を雇うのか」「別の人材派遣会社から人を連れてくるのか」といった問題が生じます。
当社が提供しているのは機器ではなく「WORK」であり、「WORK」を担う人材が必要です。特に、セキュリティに強い人材を人材派遣会社から連れてくるのは難しく、このような点が、当社のビジネスモデルの強みだと思います。
とはいえ、サービスレベルを日々向上させ続けなければ、今後も低い解約率を守っていくことはできません。ビジネスモデルとしての強みはあるものの、そこに胡座をかいてはいけないと考えています。
2026年2月期 業績予想
山森:2026年2月期(進行期)の業績予想です。2025年2月期の売上収益は26億6,700万円でしたが、2026年2月期は、前期比11.4パーセント増の29億7,200万円を目標としています。
二桁成長はそれなりに大きい伸びではあるものの、昨期の価格改定の進捗の遅れが、売上収益の下振れ要因となりました。2026年2月期は、その価格改定が終了している状況としており、11.4パーセントのうち何パーセントかは、価格改定の部分で下支えされると見ています。
営業利益と当期利益も、それに連動するかたちです。営業利益は前期比20パーセント増で、約1億円の増加、当期利益は前期比約17パーセント増の計画です。価格改定により、継続課金部分が通期にわたって底上げされる点が、2026年2月期の業績予想において、非常に大きいと感じています。
中期経営計画到達の1つ目の鍵は「商材&販路拡大」
山森:中期経営計画到達の1つ目の鍵についてです。数字は最後にご説明しますが、先ほどお話しした課題が解消したわけではありません。サービス商材・サービス範囲をさらに広げていく必要があります。
もちろん、この「商材&販路拡大」はジャンプアップのための鍵であり、今まで我々を支えてくれた代理店のみなさまとの関係性をより強化し、オーガニックな成長を担保した上での、プラスアルファの成長部分になります。
中期経営計画到達の2つ目の鍵は「シンプルな差別化」
山森:2つ目の鍵についてです。小難しくなってしまったセキュリティの話を、どこまでシンプルにしていけるかが、中小企業100万社をにらんだときの鍵だと思っています。
スライドには、例としてQ&Aを記載しています。1つ目の「あなたの会社ではパソコンやタブレットなどを業務に利用していますか?」「あなたの会社にはオフィスがあって、出社している社員がいますか?」という質問は、ITに詳しくなくても答えることができます。
もし、「パソコンもタブレットも使っています」「出社している社員がいます」という答えであれば、「最初にパソコンを守りましょう」「オフィスがあるのであれば、オフィスのネットワークを守りましょう」という提案になります。
2つ目の「あなたの会社では、クラウド上で動く『Google』や『Microsoft』のサービスを使っていますか?」という質問も、ITに詳しくなくても答えることができます。答えが「YES」であれば、「必要なアカウント管理をしっかりと行いましょう」という提案になります。
3つ目の「あなたの会社には、過去・現在・未来のセキュリティの詳しい知識・技能を持っている人がいますか、養成できますか?」「それはチームとして24時間、自社の安全を監視できていますか?」という質問に対して、どちらかの答えが「NO」であれば、「セキュリティの運用はプロに任せればよい」という提案になります。
このように、シンプルな差別化を推進していくことが、今後の中期経営計画達成に向けたジャンプアップの大きな鍵になると考えています。
中期経営目標
山森:中期経営目標についてです。当社は、大きなストレッチが求められる目標を掲げています。2027年2月期に売上収益37億円、営業利益9億2,000万円という、大きなジャンプアップを必要とすることに間違いはありません。
これまで我々を支えてくれた代理店のお客さまとのオーガニックな成長を強化しつつ、先ほどご説明したジャンプアップのためのプランを着実に実行しながら、目標達成に向けて進めていきたいと思っています。
坂本:マネージドセキュリティサービスの強化と、人材の採用戦略についてお聞きします。マネージドセキュリティサービスの構成比を、2027年2月までに94パーセントまで引き上げる計画ですが、これを実現するためには、やはり人材が必要となります。今後の採用方針や、育成にどの程度の期間がかかるのか、人材の育成戦略について教えてください。
山森:セキュリティ人材の採用が難しいことは、これまで繰り返しお話ししてきました。「バリオセキュアだけは人材採用が簡単です」ということはあり得ません。我々にとっても、人材確保は難しいことです。本当に即戦力となるセキュリティ人材の採用は、もはや「ラッキーパンチ」に近いところがあります。よい人材に出会えるかどうかは、ある程度の運も関係してきます。
我々は昨年から、即戦力となる人材の継続的な募集に取り組んでおり、第2新卒の年齢層から、その少し上の年齢層までを対象に採用を強化しています。その上で、1人のエンジニアとしてデビューするまでの教育プロセスについては、当社独自のノウハウがありますので、それを実行しています。
また、親会社であるHEROZが提供している生成AI「HEROZ ASK」には、当社の過去のマニュアルや対応履歴など、あらゆる情報を教師データとして読み込ませています。これにより、エンジニアの頭の中にはないことでも、そのAIが何とか答えてくれるという、「人とAI、2つの脳で業務にあたる」という方向性を取っています。
これにより、人材と生成AIのシステム、そしてプラットフォームが成長し、結果として、1人の優秀な人材に頼るのではなく、その人材が持つファンクションや技能・知識を分散して賄わせる方向へと進んでいます。この取り組みは、それなりの効果を上げており、「優秀な人材はいないか」と、ただ上を向いて待つだけの状況からは脱しつつあるのが事実です。
坂本:仮に未経験の人が入社した場合、一般的には、どのくらいで一人前の仕事ができるようなセキュリティ人材になるのでしょうか?
山森:独り立ちまでには3年ほどかかると思いますが、横にAIを置いておけば、3年はかかりません。結局のところ、人の頭の中にどれだけ情報が入っているかに依存しない計画を作る必要があります。
坂本:パターンが多く、臨機応変に対応する必要があるため、大変だということですね。
山森:はい。AIの中でも、「ChatGPT」のように「聞けば答えてくれる」タイプで、当社のサービスに特化したものが親会社から提供されており、かなり助けられています。
坂本:新サービスの開発についてのお話がありましたが、今後市場にどのように投資していくのか、ロードマップを教えてください。
多くの新サービスの提供や、ビジネスパートナーの獲得についてお聞きしてきましたが、将来的なパートナーの獲得には、最低でも半年ほどかかるとのことでした。戦略上、話しづらい部分もあるとは思いますが、新規分野として、どのような領域をお考えなのか、「将来このようなことがしたいから、このようなパートナーが欲しい」といったことが、成長のイメージにつながると思います。
山森:あくまでイメージの話になりますが、先ほど、監視カメラサービスのところでも触れたように、10人や20人の小さな会社で、ネットワークセキュリティへの感度が高くなくても、監視カメラを導入しているケースもあります。
例えば、社員10人の会社に、非常に高性能な複合機が導入されているケースもありますし、社員10人のうち7人が派遣社員といった小さな会社でも、なぜか必ず使われているものがあると思っています。まずは、そのような会社との事業提携を模索していきたいというのがイメージとしてあります。
「サイバーセキュリティに対して防御しましょう」と言われても、人間の本能として「すぐに守ろう」とはならないものです。
坂本:確かに、何か問題や大きな事件でもない限り、当事者意識は高まらないと思います。
山森:しかし会社を立ち上げて、「コピー機が必要だよね」と考えるのは、ごく普通の感覚ですし、「人がいないから派遣社員に来てもらおう」というのも、普通に考えることです。我々はそのようなレベルから販路を開拓していく必要があると考えています。
商材については、やはり「バリオセキュア」という社名が示すとおり、セキュリティに関する商材が中心になると思います。我々は国産メーカーですが、他社との事業提携の中で自社商材を増やしていきます。つまり、我々がOEMを受ける立場となって増やしていく方向性も、今後しっかりと検討していきたいと思います。
質疑応答:配当方針の今後の見通しについて
井上:「配当方針等、今後の見通しを教えてください」というご質問です。
山森:当社は一昨年、2027年2月期までの中期経営計画期間中は無配とする方針を発表しました。その理由として、先ほどお話ししたとおり、さまざまな事業提携の模索や商材の拡充といった取り組みの一つひとつには、それなりの投資が必要となります。
加えて、人材への投資もあります。このような「ジャンプアッププラン」を実現するためには、相応の規模の投資を行う必要があると考えています。2027年2月期まで無配とする方針について、現時点で変更はありません。今後の配当方針は、当社グループ含めて検討していくことになると思います。
質疑応答:競合と比較した際の強みについて
坂本:「セキュリティ関連の会社はいくつか存在します。スライドには円グラフがありましたが、御社のライバルも複数あるかと思います。他社と比較して『ここだけは負けない』という、御社の強みを教えてください」というご質問です。
山森:現在、当社では自社のビジネスを「セキュリティBPOサービス」とご説明していますが、少し前までは、「マネージドセキュリティサービス」という言葉を使っていました。このマネージドセキュリティサービスの市場には、確かに競合が存在します。
ただし、「サービスの深さ」という点で見ると、「壊れたら無償で交換します」といったレベルの対応でも、マネージドセキュリティサービスと謳っている会社があります。一方、当社のように24時間監視し、何かあればすぐに当社側ですべて対応するサービスであっても、同じマネージドセキュリティサービスとなります。
そのような市場環境で、差別化をしっかりと考えなければならないということで、「セキュリティBPOサービス」という独自の方向性に舵を切りました。何が強みかと言えば、やはり「サービスの深さ」です。何かあれば駆けつけ、24時間365日監視しており、「故障したら直しますよ」というレベルではない点が、競合に負けない強みだと思います。
質疑応答:海外展開のビジョンについて
坂本:「御社のサービスは海外でも展開できるのでしょうか? 海外展開のビジョンがあれば教えてください」というご質問です。
山森:現段階では、海外展開に向けた具体的な計画はありません。ただし、セキュリティは、全世界共通で必要な技術であり、日本国内でしか通用しないものではないと考えています。したがって、まずは中期経営計画を国内でしっかり実現した上で、次の段階として、海外展開を検討することになると思います。
坂本:海外でOEMを通じた展開を進めるには、やはり「駆けつけ」を確実にコントロールできる環境が整わなければ、難しいのでしょうか?
山森:24時間体制での運用を考えた場合、日勤帯で業務を行ってもらえると、お互いに運用しやすくなります。ただし、「駆けつけ」をどのように行うかという課題があります。
坂本:まずは「かけつけ網」を整備する必要があるということですね。逆に、海外の状況はどのようになっているのでしょうか? 24時間365日体制でサービスを提供している会社はありますか?
山森:中小規模の企業では、我々のようなサービスを展開しているという話を聞いたことがあります。大企業では、自社製の機器を活用しながら、我々のようなビジネスモデルを各国で展開しているケースがあるようです。
質疑応答:売上と利益の今後の見通しについて
坂本:「御社はこれまで売上成長に重点を置かれていたと思いますが、今後は利益を増やしていくという認識でよいでしょうか?」というご質問です。
御社のビジネスモデルは、基本的に売上が伸びれば定額の収入が入ってくる構造だと認識しています。そのため、売上が伸びれば利益も伸びるというのは、今後も変わらないと考えてよいでしょうか?
山森:変わらないと思います。ただし、運用サービスというのは、長年続ければ続けるほど、エントロピーが増大していくビジネスで、お客さまの要望も複雑になっていきます。
同じビジネスを行っていても、裏側のコストがどうしても増加していく構造のため、今後もコストの抑制に日々取り組みつつ、売上とのバランスをいかに取るかを考えていく必要があると思っています。
坂本:売上の伸びに伴って、利益や利益率も伸びていく構造ですが、その裏側には、相当の工夫や努力があるということですね。
山森:すればするほど複雑さが増大していく業態のため、本当に工夫が必要だと思います。
山森氏からのご挨拶
山森:本日は、バリオセキュア株式会社のセミナーをご視聴いただき、ありがとうございました。我々は、中小企業や大企業の中小拠点に向けて、確かなセキュリティの「WORK」を届けることを目標に掲げています。今後も、日本の「がんばる中小企業」を応援し、社会貢献をしっかりと行っていきたいと思っています。今後ともよろしくお願いします。
当日に寄せられたその他の質問と回答
当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。
<質問1>
質問:現在、従業員1,000名未満の企業向けファイアウォールやUTMの運用監視サービスでトップシェアと記載されていますが、今後そのシェアを維持・拡大するための具体的な戦略や施策はありますか?
回答:企業で導入している機器は約5年で更新タイミングが来るということを前提として、そのタイミングを逃さない提案活動を既存代理店・新規販路を通じて行っていくことが重要であるという認識です。
<質問2>
質問:生成AIやゼロトラストネットワークといった新たなセキュリティトレンドに対して、どのような技術開発やサービス対応を進めていますか?
回答:技術・サービス開発の詳細については回答を差し控えます。しかしながら、中小企業にとって「ちょうどいい」内容の開発を今後も進めていきます。
<質問3>
質問:過去3年くらい解約率が第3四半期のタイミングで下がっているのは、季節性があるのでしょうか?
回答:現時点で、当社サービスの解約には明確な季節性的傾向は見られていないという見解です。季節性というよりも契約会社さまの個別事情と考えています。
<質問4>
質問:機器の品揃え拡充の中で大事にされていることは何ですか?
回答:中小企業にとって「ちょうどいい」内容となることを重視しています。必要以上の高機能・高性能を求めず、投資効果が最大になるようなサービスを取り揃えていきます。