リスクは必ず予想だにしないところから出てくる
須貝茉彩氏:広木さん、年末年始はどのように過ごされましたか?
広木隆氏:年末年始は僕と娘がインフルエンザにかかって、娘は明らかにインフルエンザ陽性が出たんですけど、僕は検査しても出なかったんですよね。
高熱が出ないと出てこないみたいですね。娘は高熱で苦しんでいたんですが、僕は熱が出なくて。ただ、喉の痛みとか鼻とか咳とか、それ以外の風邪の症状は全部出て、かつ、それがすごく長引いたんですよね。
年末から三が日、ずっと調子が悪いという最悪な年明けになりました。挙句の果てに、今日エスカレーターで転びましてね。けっこう顔を擦りむいたり、膝を打ったり、ちょっと散々な年のスタートですね。
やはりね、気をつけるべきなんだと思うんですね。どうしてインフルエンザにかかっちゃったかというと、気をつけなかったんですよね。まず、インフルエンザの予防接種をしなかった。こんなこと、ちょっと前だったら考えられなかったんですが、コロナで全部変わっちゃったんですよ。
コロナがはやっていた時は、まず人との接触を避けるし、「うがい・手洗い・マスク」を徹底していました。それから、距離を取るとか、換気とかやっていたから、インフルエンザなんかまったくかからなくなったじゃないですか。
だから、少なくとも僕はあのコロナ禍で、インフルエンザを忘れちゃったんですね。昔だったら必ずインフルエンザの予防接種を打っていたんだけど、そういうのを打たなくなっちゃった。それがまず気の緩みですよね。やはり慢心なんだと思うんですよ。
これは何にでも言えて、結局、投資でも言えるんだって強引に持ってくわけですが「備えをしないといかん」ということなんですよ。
僕はいつも年末年始は本を読んでいるんですが、いつも以上のペースでたくさんいろいろな本を読みました。このタイミングで投資関係のいい本がいっぱい出ているんですね。
最近読んだ本の中で、やはり備えるということをもう1回、あらためて意識させられる話が書いてあってね。結局、みんな「リスクは何か、リスクは何か」という、そんなことばっかりやるわけです。でもね、「こういうリスクがあります、ああいうリスクがあります」って、みんなが言うリスクは本当はリスクじゃないんですよね。リスクは必ず予想だにしないところから出てくるわけです。
コロナがはやりだしたのは2020年の春ですが、その前の2019年の年末に、翌年2020年のリスクとしてああいう感染症の話が出てたかというと、どこにも出てないわけです。突然ポーンとくるわけです。リーマン・ショックもそうです。まったくと言っていいほど予想しなかったところから出てくるものが大惨事につながるんです。
もう予想しようとしても駄目なんですね。「今年のリスクは何ですか、来年のリスクは何ですか」という質問に対して、僕もあちこちで「ヨーロッパの何とかです」とか「トランプの何とか」とかと言います。
だけど、そんなの、ある程度予想されていたらリスクじゃないんですよ。起こらないかもしれない、起こるかもしれない、それすらわからず、まったく予想だにしないことが出てくる。そうなった時に本当に悲惨なことになる。
わかんないことに備えようがないから、結局、何が起きてもいいような備えをするんです。フルインベストメントじゃなくて、キャッシュを何割か必ず持っておくとか、あるいは今では金(ゴールド)がものすごく買われていますが、そういう安全資産への配分を一定程度、持ち続けるとか。
つまり、トランプがどうだとか、ヨーロッパが何とかとか、中国の何とかとか、そういう特定のことなんて誰も予想できないのだから、何が起きてもいいような備えをするということです。
この年末年始の反省は、備えを怠ったことですかね。これが僕からのみなさんへの年初のメッセージです。備える。何が起きてもいいように備えるということ。
「変化するもの」より「変化しないもの」を見た方がいい
須貝:「モーサテ(Newsモーニングサテライト)」のオンエアを見守っていたのですが、今年も引き続き、株高予想ということでお話をされてましたね。
広木:そうですね。これもある意味、変える必要はないのかなということですね。
結局、あちこちで言っている持論は、結局、株は上がるものというもので、すごくつまんない話です。
これもまた年末年始に読んだ本の受け売りで「今、変化の時代でどういう変化があるんだろう?」とか「どうなってるんだろう?」とか、みんなそういうことばかりに気を取られるけれども、逆にそんなことはわからないんだから、我々が注目するべきことは何かというと、「変わらないものって何なんだろう?」というところで、そこをむしろ見たほうがいいんじゃないかと思うんですよね。
変わらないものって、たぶん、株が上がるということなんですよ。これは1年、2年、ここ5年、10年という話ではなく、例えばアメリカの150年の歴史を見れば、やはり株というものは上がり続けてきている。もちろん大暴落もしますし、何回も下がりますよ。そういうのを乗り越えて、結局、今は史上最高値じゃないですか。
だから、トレンドとしては本当に長期的に右肩上がりになっていく。その株価の生み出すリターンは、いろいろな研究所や、僕も散々聞いているピケティ(トマ・ピケティ氏)でもそうだし、そんな研究所に頼るまでもなく簡単にエクセルで計算すればいいだけの話なんですけれども。
150年間の「S&P500」のリターンは5パーセントです。暗黒の木曜日の世界大恐慌があり、2回の世界大戦があり、いろいろな悲惨なことを乗り越えても年率5パーセントです。そういうのを抜きにして戦後から測ったら9パーセント、過去50年間だったらやはり9を超えて1割ぐらいじゃないかな。たぶんS&P500は十何パーセントぐらいじゃないかな。
日経平均は過去10年間で、「8.〇パーセント」だから、ちょうど倍になっているんですね。7パーセントの複利で回していくと、10年で倍になるという「72の法則」をみなさんもご存じだと思います。7.2パーセントの10年複利で、資産が倍になるんですね。日経平均は、過去10年で2.3倍とかになっているから、7パーセントよりも、もうちょっと高いリターンで、8.1パーセント強なんですね。
株価が8パーセントの複利で上がっていって、10年で倍になったんだけども、EPS、BPS、1株当たり純資産、みんな8パーセント成長しています。利益が8パーセントで伸びていって倍になったから、株価も8パーセントで伸びていって、倍になったという、それだけの話なんですよね。
極めて、もうどこにも何のマジックもないという、おもしろくも何ともない話なんです。だから、僕の今年のコンセンサスの予想は、利益が8パーセントでいいペースで増えるから、年末の日経平均のEPSが2,800円になり、PERがまったく変わらない、16倍掛けて4万5,000円という、それだけの話なんですけども。
でも、つまらなくはないでしょう。8パーセントで株価が上がっていって、10年で倍以上になるんだから。
それって、今ある資産が、何にもしないでバイ・アンド・ホールド(Buy and Hold)で10倍になるわけで、毎月投資資金を積み立てていけばいいわけですよね。
元金をいくらから始めるかはわかりませんが、始めます。そこにNISAの枠をフルに使い切って1,800万。そうやって拠出していくわけです。拠出して、最初の元金にさらに追加投資していって、それを年率8パーセントで回して、10年、20年やる。
僕は10年、20年できるかわかりませんが、若い人は平気で20年くらいできますから。そうしたら、本当にびっくりするくらいの額の資産ができますよ。
アインシュタインが「人類最高の発明だ」というふうなことを言っていますが、この複利の効果でずっと回していったら、NISAなんか、もろに複利の効果を享受できる制度ですから、8パーセント、フルフルに複利で取れるわけですね。複利でやっていったら、本当にとんでもない、びっくりするくらいの額の資産ができます。
単純に、トレーディングで当てて「億り人(おくりびと)」になりましたとか、そんなつまらない話じゃなくて、本当に時間がかかりますが、でも10年、20年やっていって、それなりのものができればそこからの選択肢が、非常に豊富になると思います。
今、30歳くらいの人がここからNISAを始めて、1,800万円もろにフルに使い切るとして、NISAの枠外でも投資して、10年、20年やって、50歳くらいになった時に、僕はFIRE(Financial Independence, Retire Early)とか、アーリーリタイアメントなんて、まったくおすすめしませんが、そこでたぶん相当な額の資産ができていると思います。
そうすると、いろいろな選択肢があるわけですよね。やりたい仕事にまたチャレンジするとか、あるいはもっと別の趣味とか、何でもいいんですけど、そういうものの元年として、この2025年を位置づけてもらえればいいかなと思います。
質疑応答:アメリカ大統領によるUSスチールの買収中止命令について
須貝:最初の話が長くなりましたが、ここから本日の質問に入っていきます。
「アメリカ大統領がUSスチールの買収に中止命令を出したことで、このような案件が増えると、長期的に見て今後のM&A、国際投資などの足かせにはなりませんか?」です。
広木:普通に考えればそうだろうと思いますが、やはりUSスチールの場合は、特殊ケースだろうと思います。今回の状況は、バイデンだってやりたくてやったわけじゃなくて、トランプという極めて異質な人物がいて、そういう人への配慮とか、民主党内の複雑な立ち位置とか、いろんなことが絡み合っての非合理的な決定になってしまった。本当にレアケースだと思いますよ。
おもしろいのは、アメリカのような資本主義を突き詰めている国のトップでさえ、感情論や心情でアメリカの古き良き伝統に拘泥(こうでい)してしまって、こんな酷いジャッジをしてしまう。いかに人間が愚かかということです。
また本の話になって大変恐縮ですが、僕の好きな橘玲さんが書いた『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの?』はぜひ、須貝さんもお子さんに読んであげたらいいと思います。
一言で言うと、世の中って合理的に振る舞う人たちが成功し、豊かになるようにできているんです。ところが、大多数の人たちって合理的に考えられないし、合理的な行動ができない。要は大多数の成功していない人と、一握りの成功した人に分かれちゃうという話なので、橘さんは、「そういう人間になっちゃいけないぞ」ということを教育するわけです。
今回のUSスチールのケースは、本当に典型ですよね。アメリカのトップの大統領が、こんな非合理的な判断をしてしまう。でもそれが人間なんです。
国家であり、人間であり、いろいろな非合理的なものが、あっちこっちにあるわけです。だとすると、やはり合理的に振る舞い、合理的な判断をした人が勝つ。今回のUSスチールは、そういうことなんだろうと思います。
質疑応答:ストップ高銘柄を売るタイミングについて
須貝:次の質問です。「現在、保有している銘柄で、ストップ高しているものがあるのですが、一般にこういった場合、どのタイミングで売るのがよいのでしょうか? 売りが難しいです」ということです。
広木:一般論はないので、答えられないです。ストップ高するというのは、本当に特殊なことで、いろいろなケースがあります。個別銘柄を一般論で語るということ自体、無理があるので、それはお答えできないです。事情はさまざまです。
質疑応答:押し目買いのタイミングについて
須貝:続いて、「相変わらず日経平均4万円の天井は越えられないマーケットが続いています。年末の「Monday Night Live」で、『年度末にかけて、下押し局面が来た時が買いのチャンス』とおっしゃっていました。押し目はどのあたりとお考えでしょうか?」ということです。
広木:3万8,000円ですね。今は中途半端ですね。3万8,000円から4万円のレンジがずっと続いているじゃないですか。なので、4万円ワンタッチが来て、また3万9,000円まで押し戻されて、もう1回下のゾーンまで行くんだったら、買ってもいいんじゃないかなと思います。
質疑応答:株価の下落要因と時期、株価上昇の要因と時期について
須貝:続いて、「今年の株価の下落要因と時期、株価上昇の要因と時期をお願いします」です。
広木:政治リスクですね。2月23日にドイツの総選挙で極右が伸びてくると、ドイツのための選択肢、AfDがまた伸びてくる。それにまた、イーロン・マスクがすごく肩入れしているんですよね。
「EUの枠組みが守られるのか」みたいな不安が出てきて、世界的なリスクオフになるのが2月下旬から3月ぐらいで、また一つの下落要因になるんじゃないかなと思います。
上昇要因ですが、今度は逆に7月後半から決算発表が始まって、4年連続最高益の着地で、その高い発射台からさらに8パーセントぐらいの増益が見込まれているので、当面、当然ガイダンスリスクで企業が慎重になる。特にトランプ大統領の政策が見えないからという話が出てくると思いますが、毎年のことですからね。
毎年のことなので、別にそんなものはリスクでも何でもなくて、やはりアナリストの見通しどおり、また増益になれば5年連続の史上最高益になります。
為替の植野大作さんが、4年連続陽線、為替の円安というのはないんだとおっしゃっていました。変動相場制になって、アベノミクスの時に並んだんです。4年連続の円安になった。
2025年は、史上初の5年連続の円安になる年じゃないかと予想していて、僕もそうだろうと思います。そうなると円安だから株高はもうないのですが、ただ、円高になるよりはいいでしょう。企業業績の点でもこれだけグローバル製造業が日本は多いんだから。そう考えると、5年連続円安ということも一つの要因として、5期連続最高益、増益基調ということが、たぶん今年の企業情勢で、それは決算発表のタイミングで薄々わかります。
たぶんそこから株価がぱっと走って、夏前に高値をつける。今度は政治要因でも夏に下がる。政治要因で売られると、そういう展開が続いていくんじゃないかなと思います。
質疑応答:銀行株がPBR1倍以上になる可能性について
須貝:続いて「PBR1倍割れが騒がれた銀行株がPBR1倍以上になる可能性はあるのでしょうか」ということです。
広木:それはあるでしょう。銀行の業績はいいです。メガは、特にそういう状況じゃないですかね。あとは地銀ですね。地銀もさまざまなので、そういったところがどこまで改善していくか。僕は去年の後半からポートフォリオ開示していますが、ファクター投資とか、ジャッジメンタルのやつとか、今日アップしたやつは、今日が初日ですからね。
今日アップしたやつ見てもらうと、ジャッジメンタルで、銀行はもともと三菱UFJ(8306)に入っていて、本当はメガは三菱UFJ1銘柄でいいのですが、一応テクニカル的な問題として、オーバーウェイトするともう1個かぶらせないといけないというのがあって、三井住友(8316)をメガバンクとしてはもう1個入れました。
あと、地銀も入れたんですよね。八十二銀行(8359)はたぶん含みもあるし、PBR1倍に向かって、まだまだおもしろいし配当利回りも悪くないので、そういう銀行株が今年は非常におもしろいと思いますよ。
質疑応答:首相交代による影響について
須貝:先ほどもありましたが、「参院選の結果で首相交代となっても自民党であれば、誰がなってもさほど変わりはないのでしょうか」ということです。
広木:いやそんなことないでしょう。それはぜんぜん違うでしょう。だって、実際に安倍さん(安倍晋三氏)になった時の株価パフォーマンスはぜんぜん違うでしょう。やはりそこは違います。
質疑応答:2030年に向けた海運のニーズについて
須貝:では続いて、「今日の日経新聞に2030年に向けて海運のニーズが世界的に高まると書かれていました。三井E&S(旧三井造船)、日本郵船などは買いでしょうか、買いならばそのレベルをご教示いただきたいです」ということです。
広木:三井E&S(7003)はちょっとまた別で、造船業ですからね。海運はもちろん悪くなくて、商船三井(9104)とかはずっと前からいい銘柄として紹介したりしています。財務や経営戦略がすごくいいので、企業としていいということじゃないかなと思います。海運業は、近年ニーズがあるのですが、やはり好材料がいろいろありますから。
単純な話、貿易なので、トランプが関税をどうするかによって世界の貿易がどういう影響を受けるかという、目先のリスクがあって、その中期的な2030年までの話を、どう折り合いつけるのかなというところでの相場がまだ読み切れないんじゃないかなという気がします。
だから本当に、今だから海運って感じでも別にないし、コロナの時の特需とかで、バリュエーションがやはりちょっと狂っちゃって、あんまりうまくタッチできない業態になっちゃってるんですよね。はっきり言っちゃうともう仕手っぽいというか、ファンダメンタルズそのものでしょって評価できないような株価になっちゃうので、一言で言って評価が難しい。
だから、あまり触らないほうがいいというのが、得策じゃないかなと僕は個人的には思っています。今日も金融だの、防衛産業だの、自動車だのって言ってきたけれど、僕の実際のポートフォリオや開示しているのを見てもらえば、業種で何かするということは基本的にないことがわかると思います。
だって、先ほども言ったけれど、結局個別銘柄なんですよ。最終的には個々の銘柄なんですよ。業界でどうのとか、業種でどうのとか、セクターでどうのっていう投資の張り方をやってる人はいるんだろうけど、たぶんプロではいないと思うんです。なぜかというと、中途半端だから。やるんだったら、フィデリティとかキャピタルとかの徹底的なボトムアップです。あるいはもうマクロのヘッジファンドみたいな。
業種ってすごく中途半端だから、わかりやすくこのあたりみたいな話なんだけど、自動車買いですと言ったって、自動車の中にはトヨタ(7203)も日産(7201)もあるわけでしょ。だとすると今度はそういうホンダ(7267)とか日産でとか、いろいろなことが動いてきちゃうので、一言で何とかとは言えないわけですよ。
ここまで集約している業種でさえそうなんだから、業種で云々っていうのは、実はあまりいい投資の捉え方ではないと僕は思う。商売だから言いますけどね。