韓国政治の混乱が世界のマーケットに与えるインパクトは?
佐々木真奈美氏(以下、佐々木):みなさん、こんばんは。広木隆のMonday Night Liveをご視聴いただきまして、ありがとうございます。本日は佐々木真奈美がMCを担当いたします。どうぞよろしくお願いいたします。
広木隆氏(以下、広木):こんばんは。よろしくお願いします。
佐々木:今日、ご質問の数として、おそらく一番多いかな? と思われるのがやはり韓国の政治不安に対する質問です。
例えば、最初のご質問「EUや韓国の政治情勢悪化、アメリカの『またトラ』で日本の立ち位置、どのように変わると思いますか?」「韓国やシリアの政情不安は、日本の株式市場にどのような影響を今後与えそうですか?」「韓国の政治的不安定について、近隣のアジア諸国のマーケットに対するネガティブインパクトはどの程度と思われますか?」という質問が来ています。
特に韓国の戒厳令を受けて、政治の混乱が今も続いていますが、これが現状、世界のマーケットにインパクトを与えているのか、今後与えそうなのか? というところ、広木さんはどう見ていますか?
広木:世界のマーケットには、なんの影響もないでしょうね。だって、お隣である日本のマーケットにだってなんの影響もないのですから。ほとんど無風ですよね。まったく動いてないですよね。
先週の日経平均の動きを見ても、4日連続の上昇でしょう。木曜日まで上げて、金曜日ちょっと下げたのはアメリカの雇用統計を控えていたからで、それ以前に4日続伸して、なにしろ月曜日と火曜日の2日間で1,000円以上を上げて、結局トータルでは千何百円上げたわけですよね。
3万9,600円台まであったわけだから。雇用統計の出る週末なので、当然利食っとこうかということで300円安で終わったっていう。これが先週1週間の動きなわけです。
「さあ、混乱が続いている週明け、今日どうか」といっても、アメリカのマーケットの時間帯での日経平均先物が300円高ぐらいに反発してきて、それをそっくりそのまま映して高く始まって、上げ幅を縮めたけど結局プラスで終わっているということですから。
日本のマーケットになんの影響もないんですよね。「そりゃそうですよ」ってことなんですよね。今回のケースは極めて異質というか「そもそもなんで?」というところで、これもまだはっきり言ってぜんぜんわかりません。
韓国の政治はまだまだ地に足がついていない
広木:4月の総選挙は不正だったという疑惑を打ち消したかったとか、いろいろなことを言われていますが、それで戒厳令とかになっちゃうと「どうなんだろうな」という話なんです。こういうふうな言い方をすると失礼ですが、やはり韓国という国自体が未熟なんですよね。
今回のことでみなさん『ソウルの春』という映画を引き合いに出されていますが、要は全斗煥のクーデターのことで、韓国の民主化は1980年代初頭なので、そういう意味では民主化されてまだ40年しか経っていないわけです。
お隣で過ごしてきて、最近の韓流ブーム、それからK-POPなど、文化的レベルは本当に変わらないような感じで接してきたけど、そういう意味では民主主義自体が根付いて、ぜんぜん浅いんですよね。
だからこそ、民主化後も大統領は失脚したら、本当に叩き落とされて、そして恩赦で救われるとか、そういうことの繰り返しですよね。
韓国の政治って、まだまだ地に足がついてないというか、そういったことで今回の戒厳令発出みたいな、ある意味とんでもない、本当に世界的な汚点という状況になっちゃった。要は底が浅いということなんだろうと思います。
政策によって経済は変わってくる
広木:そして、ちょっと話が変わるけれど、僕がこういう話をすると、批判がけっこう来るんです。前回のアンケートを拝読すると「マーケットの話をしろ」「政治の話なんかいいんだ」という声ばかりなんですよね。
前回は、日本の衆院選が終わって、自公連立が大敗して、国民民主の玉木さん(玉木雄一郎氏)が出てきて、パーシャル連合などの話をしました。アメリカではトランプが出てきて、矢継ぎ早に人事の話だとかという話をしました。
ヨーロッパまで触れられなかったのですが、主に日米の話で、特に日本の政局については相当な時間を割いてやったと思うんです。そしたら、見ている人から「政治の話なんかするな」みたいな声がすごく来るわけですよ。僕は、どうしてだろうと思って。
なぜ政治の話をするかというと、結局どういう政策が出てくるか、実行されるかによって経済が変わってくるからです。それによって、やはりマーケットは動くわけです。
振り返って近年で言えば、結局アベノミクスが一番、マーケットをドライブしたわけでしょ。2013年、アベノミクスの実質1年目ですが、2013年の日経平均の上昇率は55パーセントですよ。歴代4位ですよ。直近で言ったら、もうこれを超える上がり方ってないでしょ。それだけアベノミクスはインパクトがあったんですよ。政治がごろっと変わったから。
トランプにしたって、未だにトランプトレードと言われたり、前回のトランプショックから一転、トランプラリーへと言われたり。EU離脱を決めたイギリスのブレグジットの時なんて、ブレグジットショックで日経平均が1,600円ぐらい下がった。
とにかく政治がマーケットに与えるインパクトは短期的にも長期的にもものすごいわけです。政経不可分という言葉があって、もともとは日本が、政治的な話を抜きにして経済的なところだけやろうよって中国に言ったのに対して、中国が牽制した言葉なのですが、そこからけっこう転用されて、やはり政治と経済は切り離せないんだというのが、今の常識じゃないですか。だから僕はもう政治の話は抜きには語れないなと思っているんです。
ただ、すごく不評なんだよね。だけどやはり、いったんお隣でこういうことが起こると、すごくショッキングなことだから、みんなの関心がたくさん集まりますね。
佐々木:そうですね。
来年のテールリスクはドイツのEU離脱
広木:今言ったように、韓国は特殊だと切り捨ててしまえばそれまでですが、でもその選挙って不正だったよね。戒厳令を敷いて、国会を封鎖してって、ある意味トランプですよね。
前回の大統領選は不正なんだから、俺は負けを認めないって、ずっと言っていて。未だにあの時の負けは認めていない。要はトランプ支持者が議会を襲撃するという、まさに民主主義の汚点と言えば汚点です。未だにトランプの復活に対して、あの事象をもってして、「これで民主主義はもう終わりだ」みたいなことをいう人がいっぱいいるわけです。
僕も、今日締め切りの日経ヴェリタスのコラムは、民主主義の終焉みたいなことを感じさせる1年だったみたいな、いつになく硬いテーマになっちゃったのですが、日本もしかり、アメリカもしかりヨーロッパも大変なことになっている。
あまり時間がないからやめますが、僕のレポートを読んでいただければ、来年のテールリスクは、Dexit(デグジット)と書いているんです。ドイツのEU離脱。そんなことを来年のテールリスクとして掲げているのですが、本当に大変な話だと思っていますよ。このショルツ政権の連立が崩壊して、2025年2月23日に総選挙があるわけですが、それに続いてフランスの内閣総辞職ですから。本当にEUの盟主であるドイツ、フランスの中道が保てない。
フランスのね、ルペン(マリーヌ・ル・ペン氏)の率いるところ。それからドイツも、「ドイツのための選択肢」という極右がすごく議席を伸ばしてきて、旧東独地区では地方選なんか、地方議会が首位ですからね。そういったところが押さえてきている。実は大変なことになってきているんです。
マーケットにとって、そういう話も僕は来年の1番大きなテーマだと思っています。新たなかたちでの欧州危機再燃ですね。あの時散々やった、ギリシャから始まった欧州債務危機の根っこは欧州の債務なので、南北問題があったわけですが、今回はもっと根が深い話になってくる可能性がすごくあって、そういう意味でのヨーロッパ発の危機は、来年の大きなテーマだと思います。
佐々木:つい、政治のリスクというと、アメリカばかり考えがちですが……。
広木:いやいや、アメリカのほうなんてことも別にないですよ。アメリカは二大政党で、共和党から民主党へ、民主党から共和党へ振れるんですよね。スイングするのが毎回のことですから、ある意味、慣れっこです。今回はすごくわかりやすいですよね。ただその根っこのところが深いので、この闇は解決のしようがないですね。
アサド政権崩壊による世界経済への影響は?
佐々木:地政学リスクというところで言うと、中東に関するご質問もいくつかきています。「むしろ世界経済に影響を与えるのは、アサド政権崩壊のほうが大きいのではないでしょうか?」とか、中東のほうが怖いな、原油の動向とか心配材料が多いというお声も来ています。こちらについてはどうですか。
広木:アサド政権崩壊も、これまたびっくりする話ではありますが、極論、これも大丈夫です。大丈夫というのは、今回の件をもって、即、直接世界経済につながったりはしないんですよ。
韓国の民主政治の底が浅いという話をしたじゃないですか。それはそうなんだけど、今年を振り返ってみれば、民主主義の根本を揺さぶるようなことが次々と起きてきているわけです。
日本は非常に低俗で、東京都知事選に始まり、この間の兵庫の県知事の出直し選挙に始まり、SNSだの何だの、政治利用だとか、ある意味つまらない話はあるんだけど、日本にも、いわゆる中間層の不満が代弁するかたちで表れたのが、この間の衆院選であり、民主党の躍進なわけです。
立憲は自民の批判でしょ。自民の批判だけでぜんぜん伸びない。だから結局、玉木さんのところみたいに、中間層へのポピュリズムがこの日本でも効いたんです。
そういう意味では、ちょっと「おっ」という感じであって、さらに何歩も進んでいるのはアメリカのトランプ氏で、本当に低所得者へのポピュリズムで票を奪って勝ったという。
こういうもので、あまりにもドラスティックな政権が誕生してしまうというのは民主主義である以上、どうにもならないわけです。貧富の差は拡大するけれど、票の重みはイコールなので、大多数の貧しい人たちの声が反映できるというのが民主主義なのですが、そうすると本当にポピュリズムに走ってしまって、過激なところへ行ってしまう。それが今のヨーロッパなどになってきています。
話を中東に戻すと、そもそもシリアのアサド政権は、ロシアの傀儡政権だったので、別にこれが崩壊しようが何だろうがどうでもいいのですが、ただこれは、ロシアやイランなどの強権国家のパワーが落ちてきていることの表れじゃないかという見方もできます。
結局は民主政治側の西側の体制が、すごく崩れてきているのは確かですが、相手方の強権国家がどうかというと、実は今回のアサド政権の崩壊は、そういう観点で捉えるべきだと思っているんですよ。これはロシアやイランのパワーの低下なんですね。
もっと言っちゃうと中国ですよね。中国では今、無差別殺人とかが社会問題になっているじゃないですか。それはやはり中国のシステムが、かなり崩れてきているからなんだと思うんです。
他の民主政治の国家であれば、選挙で与党への批判とかで表れるけど、中国は共産党の一党独裁でそういう選挙がないので、そういう表出のされ方しかないんですよね。
それで出てきちゃっているということは、やはり向こうの体制がおかしくなっているということですよね。なので、中国での社会不安の増大と、中東で言えば今回の件は、やはり国のシステムがおかしくなり始めている。
そうすると、この世界がものすごく不安定化してくるんです。西側の民主主義の根幹が崩れ始め、大きく揺らぎ始め、一方で対立している向こう側がどうかというと、向こうもガタガタですから。これはね、本当に怖い気がします。
そういう意味では中東云々とかではなく、もっと大きな話だと思うんですけどね。
石破政権とトランプ政権に対する見解
佐々木:そういった政治絡みでいくと、日本の石破政権、まだ持つかどうかというところや、一方のアメリカは次の中間選挙までこのトランプ政権が安泰なのか、というような質問も来ていますが、この2つについてどう見ていらっしゃるか簡単に教えていただけますか?
広木:石破さんはぜんぜんもたないですよね。国会の討論見てもぜんぜん駄目じゃないですか。本当に官僚が書いたものから目を上げないですもん。
肝心の政治資金の話を非公開でやるとかやらないとかという話だって、ぜんぜん潔くなくて、結局いつまでたっても自民党の不信の根っこである政治と金の問題をクリアにしようという意向が今回の政権から見えないので、自民党への逆風は続きます。これがある限りはもう駄目なんですよ。もうどうにもならないです。自民党のネックです。
看板掛け替えたからそれを変えることができたかというと、ぜんぜん変わることができずに失敗している。結局そのままいっちゃうと、今度の夏の参院選も駄目だから、たぶんまた自民党の若手中心に批判がすごく出てくるでしょう。
今すぐは代わりがいないのが悩ましいところですが、夏までもたないんじゃないかなと僕は思っています。とりあえず今は仕方なくて、こういうパーシャル連合で予算を通しちゃわないとどうにもならないのですが、次の参院選どうするという話になってくると、もたない気がする。ただ、代わりがいないというのもまた事実で、ここもちょっと難しいところだと思います。
アメリカは、制度的に大統領は4年ですから、そういう意味ではトランプ自身は4年間やるわけですね。まだ就任もしていないですけどね。来年の1月20日就任。そこから4年はやるんですよ。これは決まりなんです。
だけど、日経電子版の「広木隆のザ・相場道」に書いたように、あるいはモーサテ(モーニングサテライト)の「今朝の経済視点」で申し上げたように、中間選挙では共和党はたぶん上院下院とも失うでしょう。議席数だとか、あるいは中間選挙というものの性質からして、おそらく民主党が上院下院とも奪回すると思うんですね。
そうなると、トランプがレームダック状態になってしまって、政策面でやりたいことがなにもやれなくなる。そうなった時にどういう荒れ方をするかがポイントだと思いますね。怖い気はしますけどね。
日経平均株価の見通しはどうか?
佐々木:さて、では話題を変えて、来週は中銀ウィークと言っていいんですかね、日本やアメリカで金融政策決定会合ありますが、ズバリ「次、日銀利上げありそうかどうか」というご質問も来ています。こちらはいかがでしょうか?
広木:市場もちょっと悩んでいる感じはしますね。フィフティフィフティじゃないですか。今回は本当にわからない。やってもおかしくないし、見送ってもおかしくないという感じじゃないでしょうかね。
佐々木:アメリカの利下げのほうはどうですかね?
広木:阻むものがとりあえずないからアメリカは利下げをするでしょう。今回は利下げをしてくると思います。
佐々木:では、それを受けて「日経平均株価の見通しはどうか」という質問もいっぱい来ているので、お答えいただきたいなと思います。
例えば、年末には掉尾の一振があるのか、そして来年3月末までにどれくらいになりそうかとか、最高値を再び更新するような動きありそうかどうかなど、質問がきています。
広木:ベストシナリオは、FRBが利下げをして、日銀が利上げをしない。それで材料出尽くしで、円高も進まず、安心感から買い戻しがあること。毎度のことですが、最後の週になってくると、やはり外国の方はクリスマス休暇でお休みになってくるのでね。
今回、中銀ウィークが終わったら、外国の方は一休みで、こうなると日本の個人投資家の出番です。今年は特にNISAが始まった初年度ですから、NISA枠を使い切ろうなんて話が出たり、あるいは12月決算銘柄もそこそこあるので、その配当取りの動きだとかもあって、月末にかけてたぶん締まってくると思うんですよね。
そんな感じで先週は一時3万9600円と、一時高いところをつけたわけです。年内、掉尾の一振で4万円回復ぐらいのところはあると思うんですね。高値となると4万2000円で、ちょっとそこまでは届かず、4万円で着地というのがきれいなところじゃないかなと思います。
4万2000円の最高値は年度内ということで、3月までのどこかでまた高値更新はしてくるんだろうと思います。