2023年度業績見通しハイライト

小林仁氏(以下、小林):それでは、ベネッセグループの今後の戦略についてご説明します。まず、今年度の業績見通しについてです。

売上高は前年比2.7パーセント増の4,230億円、営業利益は前年比4.3パーセント増の215億円、純利益は前年比1.3パーセント増の115億円、ROEは7.3パーセントという計画を組んでいます。

2023年度業績見通しサマリー

業績見通しのサマリーについて、ポイントを3点お伝えします。1点目は、介護・保育事業が新型コロナウイルス感染拡大の影響からの回復で増益をけん引することです。2点目は、2023年4月において進研ゼミ事業は在籍数減少となっていますが、価格改定とコスト削減効果で会員数減少による減益を吸収し、増益を見込んでいます。

3点目は、将来に向けた投資を積極的に行うことです。成長投資を行いつつ、増益を実現する見通しとなっています。

変革事業計画の位置づけ

2023年5月19日に社外に発信したベネッセグループの変革事業計画についてご説明します。まず、変革事業計画の位置づけです。

当社では2020年11月に中期経営計画を発表しています。ただし、事業を取り巻く変化がさらに大きくなっているという認識から、中期経営計画のブラッシュアップが必要だという考え方のもと、今回の変革事業計画の策定に至りました。

変革事業計画の全体構成

変革事業計画の全体構成についてです。ベネッセグループが目指す方向性ををグループパーパスとして言語化しました。その実現に向けて、事業全体をポートフォリオで整理した上で、コア事業である教育事業・介護事業の変革計画と、今後のベネッセグループの成長を牽引する新領域の変革計画を明らかにしました。

さらに、この変革事業計画を実現していくための経営の仕組みについても整理しています。

「人」を軸にした社会課題の解決

ベネッセグループが目指す今後の方向性についてご説明します。先が読みづらい複雑化した社会において、教育や介護の事業を展開している会社というイメージから、「人」を軸にした社会課題解決に真摯に取り組む企業グループへと、会社の目指す方向性を変えていきたいと考えています。

ライフステージごとの社会課題に対して、我々はどのような存在でありたいかを言葉にし、その実現に向けて事業活動することが、事業の広がりや企業価値の向上につながると考えています。

グループパーパス

これらをまとめ、言葉にしたものがグループパーパスです。「誰もが一生、成長できる。自分らしく生きられる世界へ。ベネッセは目指しつづけます。」というグループパーパスを実現するため、会社や事業のあり方を変えていく、すなわち変革していくことが、今回の変革事業計画が目指すところになります。

グループパーパスの実現や企業価値の向上を目指し、展開する事業領域ごとにメリハリをつけながら経営資源を有効に配分していくことが重要となります。今回の変革事業計画では、ポートフォリオ分析によりこのことをより明確にしています。

ポートフォリオの状況と基本方針

ポートフォリオ分析による各事業領域の位置づけです。スライドに青で示しているのがコア教育領域、緑がコア介護領域、黄色が大学・社会人を中心とした新領域となります。縦軸に市場成長性、横軸に現時点での利益額を示しています。

コア教育領域については、利益は作れていますが、少子化の影響もあり市場成長率は低くなっています。一方、コア介護領域は、高齢化のさらなる進行により、市場成長性・利益額とも高くなっています。

大学・社会人を中心とした新領域は今後の市場成長性は高いものの、現在の利益額としてはまだまだ大きくないことがご理解いただけると思います。この状態に対し、領域ごとに基本方針を明確にして取り組んでいきたいと考えています。

ポートフォリオ変革を通して目指す姿

ポートフォリオ分析から、各事業の基本方針を実行することにより、2028年度を目途にコア教育・コア介護・新領域が利益を生み出す3本の柱となる利益構造を実現させ、持続的利益成長を実現できる状態を目指していきます。

2028年度にこの状態を実現させるために、現中期経営計画の最終年度である2025年度の各事業の目指す状態を明確にしています。

コア教育事業の変革

コア教育・コア介護・新領域の戦略についてご説明します。まず、コア教育事業についてです。現在のトレンドにおいて、最も悪いシナリオで推移することを想定し、そこから変革事業計画でどのように回復していくかを前提に検討してきました。

コロナ禍で始まった文部科学省の「GIGAスクール構想」により、学校におけるデジタル学習が推進されています。2025年度には「Next GIGA構想」によって大きな変化が起こり、それが当社においても次の機会点になるため、2025年度までの戦略と2025年以降の戦略に分けて計画を立案しています。

2025年度までは、商品価値や営業手法の再設計、コスト構造改革を進め、2025年度以降は商品サービスの実現化により、事業モデルそのものを変革していく計画です。

進研ゼミ:短中期の戦略

コア教育事業の中で、「進研ゼミ」は2025年までに、お子さまのやる気を高める教材サービスの充実、受講後の個別コミュニケーション強化によるやる気の継続支援、価値を体験していただくことを中心とした営業に取り組みます。このことにより、会員数である顧客基盤の維持・強化を図っていきます。

また、多様化するニーズに対し、教科以外の興味関心を支援するチャレンジスクールの展開や、難関校受験を目標にされるお子さまのニーズにお応えするために、すでに中学生向けで実績のある「EVERES」の他学年展開を進めていきます。

学校向け教育事業:短中期の戦略

2025年までの学校向け教育事業についてです。義務教育領域で展開しているデジタル学習教材「ミライシード」は、現在全国約9,000校の小・中学校にご利用いただいています。2025年以降さらにご利用いただく学校を増やしていくための取り組みも現在行っています。

高校領域において、入試の変化による高校の多層化・ニーズの多様化に対して、各々のニーズに即した商品サービスの展開を力強く推進することで、期待にお応えしていこうと進めています。

地域:多様化するニーズへの対応

多様化するニーズという観点においては、地域対応も重要になってくると考えています。現在はスライドの左側のとおり、地域ごとに課題やニーズが多様化しています。この地域の多様なニーズに対応していくため、2023年4月からエリア事業推進本部を新たに組織化し、全国9支社の機能を強化しています。

地域ごとの異なるニーズに対して、この組織が当社のさまざまなアセットを組み合わせながら、課題解決を図っていくことを目指しています。

コスト構造改革 検討中の実行策

さらに、事業を取り巻くコスト構造変革にも積極的に取り組んでいきます。構造改革のテーマを明確にし、340億円ほどある現コストに対し、2025年を目途にマイナス30億円から50億円のコスト構造変革を行う予定です。

電話窓口のコスト構造改革については、先日プレスリリースを行っています。生成AIといった最新テクノロジーも活用しつつ、抜本的な改革に意志を持って取り組んでいきます。

次世代化と事業モデル変革

コア教育事業の2025年以降の取り組みについてご説明します。「Next GIGA構想」で2025年度に大きな変化が起こるということを、先ほどお話ししました。これにより、教育のデジタル化がさらに進展します。「Next GIGA構想」を機会点とし、商品サービスの次世代化と事業モデル変革に積極的に取り組んでいきたいと思っています。

具体的には、スライドに記載の3点です。1点目は「BYOD化を機会点とした、進研ゼミの次世代化」です。今、進研ゼミではタブレットを教材と一緒に送っています。BYODというのは、すでにお客さまがお持ちの端末をご利用いただくサービスです。

2点目は「学校校務クラウド化を機会点とした、学校教育の次世代化」です。

3点目は「CBT化を機会点とした、学校・生徒支援の次世代化」です。今、進研模試をはじめとしてアセスメントを全国で広く行っています。このテストが、コンピュータベースで行われることをCBT化といいます。

この3つを2025年以降にしっかりと取り組んでいきたいと考えています。

BYOD化を機会点とした進研ゼミの次世代化

先ほどお伝えした「BYOD化を機会点とした進研ゼミの次世代化」について、現時点で考えていることをまとめています。

経済格差の拡大、自社タブレットの提供コストの負担増、子どものやる気・学習力低下がさらに拍車がかかっているという根本的な事業課題に対し、Next GIGA構想でデジタル学習の進展が行われます。個人端末の所有率の向上も進んでいきます。

このことを機会点として、BYODによる進研ゼミの低価格化、教室との組み合わせによる学習への取り組み支援、ニーズの多様化に対する個別対応のコンテンツサービスの充実など、現在の「進研ゼミ」をさらに取り組みやすいように次世代化していこうと考えています。

学校向け教育の次世代化

学校向け支援事業も、2025年を機会点に大きな次世代化を実現すべく検討を進めています。学校で行われている教育の重要な観点は、評価、日常学習、校務ですが、現時点ではこれらをバラバラに提供しています。

今後は学校におけるデジタル学習の進展を機会点に、この3つのデータを相互に連動していくことで、先生方の業務負担の軽減と学校教育そのものの新しいあり方について、商品サービスを通して提供していこうと考えています。

コア介護事業の変革

続いて、コア介護事業については、コロナ禍によって低下した入居率を早急に回復させることが最も重要なテーマです。

そのために当社の強みである、病院やケアマネージャーとの関係構築のさらなる深化、ショートステイによる入居体験の促進、営業力・マネジメント強化、物件開発対象エリアの新たな拡大などに積極的に取り組んでいきます。これらにより、コロナ禍前の入居率の水準に早期に戻し、業績を回復させていきます。

新領域事業の概要

今後のベネッセグループの成長を牽引する新領域についてご説明します。今回の変革事業計画では、今後の当社の成長を牽引する新領域として、スライドに記載の3点を掲げて検討を進めてきました。1つ目が大学・社会人事業領域、2つ目が介護周辺事業領域、3つ目が海外事業領域です。

大学・社会人事業

大学・社会人事業についてご説明します。最近、テレビや新聞で「リスキリング」について言われない日がないことは、株主のみなさまもご存じのことかと思います。

世界・日本・民間・行政でも、大学・社会人の学びの充実やリスキリングが取り組むべき大きなテーマになってきています。当社でも、今まで培ってきたさまざまなアセットやノウハウを強みとして、この領域で事業成長を図っていきます。

大学・社会人事業:目指す姿

当社がこの領域で目指す姿、事業モデルについてです。スライド左側は企業向け、右側は個人向けの図を示していますが、内容的には同じようなモデルを作っていきます。

まずは企業向けの図についてご説明します。各企業が持続的成長を進めていくためには、組織や社員のスキルを高めたり、チェンジしたりすることが必要です。必要なスキルの可視化と現在持っているスキルのギャップを明確にし、そのギャップを埋める研修を行うことが必要になってきています。また、社内の異動や採用もこれらをベースに進められていくようになっていきます。

続いて、個人向けの図をご覧ください。個人がキャリアオーナーシップを持ちながら、自分がやりたいこととそれを実現するために必要なスキルを学ぶことが、これからの行動様式になっていきます。

また、企業と個人をつなぐ転職や採用といったマッチングも大きな機会点になってくると考えています。

今、企業と個人でご説明しましたが、このモデルは対行政、対学校でも大きなニーズがあることを確認していますので、そちらもしっかりと対応していきたいと考えています。

大学・社会人事業:リスキリング支援事業拡大の流れ

このモデル実現に向けて、まずは「Udemy」のサービスを核に、ラーニング部分で事業の基盤ができつつあるのが現状です。さらに、スキルの可視化を強化するために、アメリカのSkyHive社と資本提携しています。マッチングについては、女性を対象に人材マッチングを行っているWaris社のグループインと、積極的な投資を行っています。

このモデルを早期に完成させることを最優先事項として、今後も取り組んでいきます。

大学・社会人事業:顧客基盤

大学・社会人事業を成功させるもう1つのポイントが、強い顧客基盤を持っているかということです。「Udemy」は、ご利用いただいている企業の数がすでに1,000社を超え、その中でも日経225銘柄では50パーセントを超えてご利用いただけるまでになっています。「Udemy」の国内利用者も130万人を超える規模になっています。

さらに、ベネッセの他の商品サービスの利用者も、顧客基盤としてこの事業の利用者となる可能性がおおいにあると考えています。高校生向けサイト「マナビジョン」、大学生向けの就職支援サービス「dodaキャンパス」、それ以外にも「たまひよ」利用者や「サンキュ!」利用者などがその候補に当たります。

大学・社会人事業:売上の展望

大学・社会人事業の今後の売上目標です。グループの成長を牽引する事業として、2030年度に1,000億円規模を目指していきたいと考えています。

その他の新領域事業

大学・社会人事業以外の新領域として、介護周辺事業での介護HR事業・介護食事業、海外教育事業でのインド学校教育支援事業についても取り組みを始めています。

どちらも今までの当社の知見やノウハウを活かし、十分に成長できる領域と捉えています。各々の事業で、300億円超の売上成長イメージを持って取り組んでいるところです。

マネジメント・コーポレート変革

続いて、変革事業計画実現に向けた経営の仕組みについてご説明します。変革事業計画を確実に推進していくための経営の仕組みそのものも変革していくことが必要と考えています。進捗管理を行うだけでなく、的確な経営資源配分を行っていくことで、実現の確実性を高めていきます。

そのため、スライドに記載の3つのことを実行していきます。

1つ目は「CXO体制再構築・強化」です。専門性や連携の強化を行いつつ、変革事業計画をしっかりと支えていくようなCXO体制を作っていきます。

2つ目は「経営トップ主体で、全社リソースアロケーションを行う経営システムを構築していく」です。今、いろいろなお話をしてきました。タイミングや経営資源をよく見極めて、本当に必要な活きる経営資源の配分を確実に行っていくことを考えています。

3つ目は「コーポレートの生産性の向上」です。事業とコーポレートが一丸となって、全社を挙げて変革事業計画の実現に邁進していく覚悟です。

財務目標

2025年度の財務目標です。現在の中期経営計画のゴールである2025年度の数値目標として、営業利益は320億円以上、ROEは10パーセント以上、新領域の売上高成長は対2022年度で2倍以上を数値目標としています。

2028年度の目指すポートフォリオ構造

冒頭でもお話ししたとおり、変革事業計画の実現を通して、2028年度にはコア教育・コア介護・新領域が3本の利益の柱になることを目指していきます。このことにより、当社の持続的・安定的成長を実現させていきます。

配当について

株主還元についてです。今年度の配当は1株当たり60円を継続していく予定です。今後も企業価値を上げることで株主還元の充実を図っていきたいと考えていますので、ご理解いただけますようよろしくお願いします。

最後に

事業環境が日々大きく変化する中、変革事業計画を推進することで、社会課題の解決と企業価値向上を目指します。

引き続きのご支援をお願いいたします。ご清聴ありがとうございました。