第2部 コーポレートガバナンスに関するディスカッション

大槻幸夫氏(以下、大槻):ここからは第2部として、コーポレートガバナンスに関するディスカッションを進めていきます。今のところ、参加者が120名を超えて1つの本部くらいの規模になっています。ご意見もけっこういただいており、私たちの期待どおりのイベントになっているかと思います。

青野慶久氏(以下、青野):本当に、このままITスクールができたら、この株主本部会初の企画がスタートすることになりますね。

大槻:そうなったら本当にすごいですね。第2部でも引き続き、助言を募集しています。ここからの参加者は社長の青野さんと、IRチームの田中那奈さんです。コーポレートブランディング部の部長をしている私、大槻が進行します。

田中那奈氏(以下、田中):よろしくお願いします。

大槻:「Zoom」の参加者は、組織戦略室の理さん、経営支援本部の忠正さん、人事本部兼法務統制本部長の中根さんです。さらに、この後ご紹介しますが、社外取締役候補のお二人にもご参加いただいています。

まず、このガバナンスに関するディスカッションの最初の部分で、サイボウズのガバナンスがどのように保たれているのか、実現されているのかというところに触れます。もちろんいろいろな仕組みがあるのですが、情報共有における透明性はどうなっているのかについて、今回ご参加いただいている株主のみなさまにご説明したいと思います。

サイボウズの意思決定フローとコーポレートガバナンス(イメージ)

大槻:左から右に情報が流れ、意思決定がされていくようなイメージをスライドに記載しています。正確にはもっといろいろあるのですが、まずは部内やチームの中で「kintone」上でいろいろなディスカッションが行われます。それをもとに「Zoom」などのWeb会議システムを使ってディスカッションが行われ、その結果が「kintone」の議事録アプリに登録されたり、会議の録画を見たりでき、いつでもどこでもみんなが議論を確認できるかたちになっています。

さらにその意思決定が本部単位で上がっていき、各本部でのディスカッションを通じて、最終的に意思決定の場である経営会議に議案として上がったのち、ここでみなさまの意見をいただきながらディスカッションが行われ、Web会議などを通じて決まっていく流れです。この議事録も「kintone」上で見えるようになっており、最後に取締役会で議案として上がり、承認されるかたちです。

ここまでの流れは他の多くの会社も同じだと思うのですが、サイボウズの場合はこの流れをすべて見ることができます。「kintone」でデータが見られますし、経営会議に新人が参加することもできます。議事録や録画も見られます。

ここだけでもかなりチャレンジングかと思いますが、昨年はさらに2つの新しい取り組みがありました。先ほど理さんからもご紹介がありましたが、経営会議で上がってくる議案に対して、社員が意見できる助言収集アプリが「kintone」上にあり、ここに意見を登録することができます。先ほど忠正さんのお話に出たような、「東証の市場選択をどうするか?」ということでいろいろな意見が湧き上がった現場がこのアプリ上でした。

さらにこの取締役会も含めて、「サイボウズのコーポレートガバナンスはどうなっているのか」「このプロセスがおかしい」もしくは「いいですね」という意見をすべて登録できる、「みんなで取締役」というアプリもスタートしました。ここにフィードバックできることにより、二重、三重の「網を張る」かたちでサイボウズのコーポレートガバナンスが実現されているのだと思います。

他にもいろいろな仕掛けや仕組みがありますが、情報共有に関しては「kintone」などを使ってこのように実現されています、というご説明でした。ぜひ株主のみなさまにも知っていただいてから、この後のディスカッションを進められればと思っています。

2021年コーポレートガバナンスのトピック(ディスカッションテーマ)

大槻:今日お話ししたいトピックはたくさんあるのですが、チームのみんなで厳選して、この5つを取り上げました。時間があまりなくて申し訳ないのですが、いくつかのトピックをピックアップしてお話ししていければと思います。

特にお話ししたいのが、久しぶりに社外取締役を招聘したということで、候補者のお二人をご紹介します。株主のみなさまも気になっている方が多いのではないかと思いますので、こちらからお話ししていきます。

社外取締役候補

大槻:名古屋商科大学の北原先生と、HSW Japan共同創業者の渡邊さんです。北原さんから、自己紹介を簡単にお願いできればと思います。

北原康富氏(以下、北原):みなさま、こんにちは。名古屋商科大学大学院で教員を務める北原です。私の専門はイノベーション、ベンチャービジネス、意思決定です。大学院の修士課程といっても、ビジネススクールでして、生徒はみんな働いており、本部長クラスくらいの現役の方々が生徒です。

40人から80人くらいのクラスサイズですが、そこで週末、朝から晩までいろいろなケーススタディを使ってカンカンガクガクと議論しています。私自身もいろいろな会社の生徒の問題を共有して議論し、そこを通じて学んでいるというのが現状の仕事です。

この専任教員を始めて10年になりますが、その前は私も実務家でした。自分の会社を創業して、18年くらいCEOとして経営に携わっていました。今回は社外取締役として立候補していますが、ビジネススクールでのいろいろな経験に加えて、今は所属する大学の学校法人の理事も務めています。理事といいますのは取締役のような立場ですが、そのようなところでいろいろな組織を見た上で、サイボウズの経営やガバナンスについて一歩外から見ながら、これからお付き合いできればと期待しています。よろしくお願いします。

大槻:ありがとうございます。続いて、渡邊さんお願いします。

渡邊裕子氏(以下、渡邊):渡邊裕子です。私は1993年からずっとアメリカを拠点にしているのですが、現在はニューヨークにいます。ニューヨークは日本と14時間の時差があるので、今は夜中です。

私のバックグラウンドとしては、過去15年くらいは地政学のリスクの仕事に携わっていました。先ほどご紹介いただいたHSW Japanというのは、私と同僚たちとで作った会社で、中東の情勢の分析を行っています。それ以外にも、スライドに記載のあるGreenmantleという、ニーアル・ファーガソンという金融を専門とする歴史学者の会社で、アドバイザーも務めています。

その前は、みなさまもご存じかもしれませんが、イアン・ブレマーという国際政治学者が作ったユーラシア・グループという会社の日本の営業を担当していました。お客さまは日本の企業だったため、私は毎月のように日本に行って、今世界で起きていることが日本にとってどのような意味があるのかを分析して説明するという仕事を12年間行ってきました。

私はけっこう早い段階でユーラシア・グループに入ったため、会社がスタートアップのようなところから、急に大きくなるところを体験しました。その時に感じたガバナンスや、会社を大きくしていく中で出てくるチャレンジなどについて、青野さんと少しお話しする機会がありました。

今、サイボウズは非常に勢いがある会社だと思うのですが、楽しいままどうやって成長していけるのかという問題意識を私は前から持っており、そのあたりで今サイボウズがチャレンジしようとしていることに、自分なりに関わっていけたらおもしろそうだと考えて、今回手を挙げた次第です。

大槻:ありがとうございます。今までのサイボウズになかった新しい風といいますか、知見が広がりそうに思います。

青野:本当ですね。これまで社外取締役を置かなかったことについて、株主総会で「置かなくてもよいのでは?」と毎年言っていたのですが、「置かなければいけない」というルールに変わったので探したら、今回めちゃくちゃよい方に出会うことができました。「今まで置かなかった理由は何だったのか?」となりますが、ぜひお願いしたいと思います。

大槻:今回はどのような経緯で、そもそもなぜ社外取締役のみなさまにお願いするかということについて、青野さんからもお話があったのですが、具体的にどのようなプロセスでお二人にお願いされたのか、忠正さんのお話をうかがえますか?

林忠正氏(以下、林):経営支援本部長の林です。社外取締役と社内取締役の選任プロセスに関する事務局を担当していました。先ほど青野さんからのお話にもあったように、これまで長らく社外取締役は置いていませんでした。

サイボウズとしては、社外取締役ではなくても、第三者の方々からさまざまなご意見をいただいており、透明性の高い情報共有とオープンな議論の中で、適切なガバナンスの実現に努めてきているという事実があったため、これまで社外取締役を置くという選択肢は特に選んできませんでした。しかし、今回法律で義務化されたことで、あらためて「社外取締役を選ぶには」という観点から議論してきました。

ある意味、我々独自のガバナンスにチャレンジしているため、取締役としても当然、法的な義務を最低限果たしていただきながらも、このようなサイボウズの取り組みに対してご理解いただける方に取締役をお願いしたいと思ってます。

そのために、社内のメンバーから「この方だったらご理解いただける」という方をまず推薦してもらい、推薦されたメンバーの中から候補者を選ぶというプロセスで、今回このお二人を選ばせていただきました。私が北原さんを推薦して、理さんが渡邊さんを推薦したので、それぞれの推薦者から選んだ理由をお話しできればと思います。

私が北原さんを推薦したのは、先ほどの自己紹介でもあったとおり、名古屋商科大学のビジネススクールの研究科で教授を務めており、多数の企業の経営やガバナンスに関する知見をお持ちで、かつご自身で会社を経営されていたこともあるということで、学術的観点と実務的観点の両方から、サイボウズのガバナンスについてアドバイスをいただけるのではないかと思ったのが理由の1つです。

実は、北原さんは以前サイボウズが買収した企業におられて、退職からすでに10年以上経過しています。社外取締役の要件的には問題はないのですが、その後もサイボウズに対するアドバイスを青野さんに向けて定期的に伝えてくださっています。サイボウズについての理解があり、昔から今に至るまで客観的に見ていただいているところもあるため、そのような意味でも適切なアドバイスをいただけるのではないかと考えて、私から推薦しました。

大槻:青野さんも今まで、北原さんからいろいろなアドバイスを受けていたのですね。

青野:そうですよ。表では僕がえらそうに決断してクラウドに移行したように言われていますが、裏には北原さんがいました。毎月北原さんに相談しながら、どのように事業戦略を立てたらよいか検討していました。

事業戦略を立てることがそもそも僕にとって初めてのことだったので、そこからずっと北原さんにご指導いただきながら進めてきました。本当にありがとうございます。

大槻:北原さんは長い間、サイボウズをどのようにご覧になっていたのでしょうか? 北原さんの感想をお願いします。

北原:もう10年以上前にサイボウズから離れて、月1回、社外から垣間見えるところで非常に感じるのは、社員が発言する時に精神的なリスクを感じるような心理的圧力がなく、まったく自由に発言できていることです。他の会社がグループウェアを入れたら自動的にサイボウズのような会社になるかというと、必ずしもそうではないと思っています。

典型的なトピックをご紹介します。ある時、青野さんとの定例会議の最後に、青野さんがいきなり「朝寝坊」というキーワードで「kintone」を検索し始めて、「朝寝坊で遅れます」という発言をしたことがありました。

サイボウズは「kintone」上ですべてのデータを検索できるので、それを青野さんが見て「また出てきた」と言って、ニヤリと笑ってよろこんでいました。なぜよろこんでいるかというと、公明正大だからです。普通は朝寝坊したら嘘をつきますよね。でもそうではなく、みなさんが本当の理由を言えていること自体が、青野社長にとって非常にうれしいことなのです。それで笑いながら「朝寝坊」を検索しているわけです。

デジタル化するだけでは必ずしもこのようなかたちにはなりません。このあたりは後で時間があれば言いたいと思いますが、マネジメントとガバナンスは非常に強く結合している重要なことです。

社員が自由に発言できること、ましてや創業者であり経営者の青野さんの前で積極的に発言することは、一般的に考えるとなかなか大変なことであり、怖くてびくびくしてしまうものですが、そのようなことがまったくないところがサイボウズの非常におもしろいところであり、不思議なところだと思ってます。

大槻:確かにそうですね。社員としても本当に不思議です。

青野:やはり心理的安全性を作らないと、意見は言ってもらえません。北原さんがおっしゃるような怖さはありますね。最近だと、企業の中で社員が言いたいことを言えないなどということもありました。

大槻:金融庁から怒られていましたね。

青野:怒るから言いたいことが言えなくなるということですよね。そうならない環境を作ることは本当に大事だと思います。

大槻:ありがとうございます。次に理さんから、渡邊さんを推薦した理由などを教えてください。

山田理氏(以下、山田):先ほどの自己紹介を聞いたらわかるとおり、渡邊さんは本当にすごい人です。オリジナルが日本にあって、ニューヨークに渡ってチャレンジしながらビジネスを運営して、そのビジネスも日本だけではなくグローバルに展開しています。

たまたまご縁があってニューヨークで出会ったのですが、サイボウズの「話をするカルチャー」といいますか、やりたいことに非常に共感してくださっていることに加えて、渡邊さんはさまざまなメディアに寄稿しており、発信力が非常に高いです。記事を読めばわかるのですが、「歯に衣を着せない」ような、言いたいことをどんどん言ってくれるところがあります。

その知見を活かして、社内に意見を言っていただきたいという私の希望ももちろんありますが、社外の人の中には「サイボウズはユニークなことを行っているように見えるけど、実情はどうなのか?」と感じる人もいると考えています。そこで渡邊さんなら、サイボウズ社内のことを生の声として発信していただけるのではないかと思いました。

実際のサイボウズの経営の一端を見ていただいて、それをご自身の言葉で発信していただけたらよいのではないかと考えました。私たちにとってプラスになるかマイナスになるかはわかりませんが、どちらも含めて「こうあるべきだ」と発言していただきたいですし、渡邊さんがその適任ではないかと思ってお声掛けしました。

大槻:確かに、この中では一番サイボウズをご存じない方と言えますよね。新鮮な目で見ていただける印象です。

青野:僕も渡邊さんとお仕事をするのは初めてで、「どんな方かな」と当初は心配していました。僕が「Twitter」で発信すると、よく社内外から「お前は言い過ぎだ」という意見が来るのですが、渡邊さんから「まだまだ足りない」という意見を初めて受けたとき、この方が取締役でよいのかと思っておもしろかったですね。グローバルにさまざまなことを経験されていて、アメリカの最先端の経営のトレンドも見ている渡邊さんに、本当に学ばせていただきたいと思っています。

大槻:グローバルな観点について、渡邊さんからご覧になるサイボウズはやはりまだまだというイメージでしょうか?

渡邊:そんなに大それたことを言うつもりはないのですが、私は日本で働いたことがありません。日本の企業とはお客さまとしてお付き合いしたことはあるのですが、組織の中で社員として働いたことはないため、そのような意味では、おそらくここ20年くらい社会人として働いてきた中で、みなさまとずいぶん違うことを体験していると思います。

私がアメリカのすべてを知っているわけではありませんが、アメリカの組織を経験してきた立場からということであれば、ある程度はバリューを出せると思います。

大槻:そのあたりは、私たちはぜんぜんわからないですからね。

青野:本当にね。僕は日本の経営だけ見ていて、やはり世界の潮流にはついていけないですね。

大槻:ちなみにお二人は、社内環境はご覧になれるのでしょうか?

:もちろん、手配しているので見られる状態になっていると思います。

大槻:私たち社員が、お二人と出会ったり議論したりする場は社内で作られるのでしょうか?

:はい。社員とまったく同じ環境を提供しますので、オープンなスペースでフラットに議論できる状態になっていると思います。

大槻:普通にメンションしたら答えをいただけるのですね。

:ニューヨークの渡邊さんにも届くようになっています。

大槻:おもしろいですね。そのようにいろいろなアイディアが生まれると、青野さんとしても社外取締役のみなさんに期待しますよね。

青野:そうですね。社外取締役だから月1回の取締役会議に参加して、数時間だけ一緒に過ごして、しかもそこで一緒に過ごせるのは一部の人だけ、というのではぜんぜんおもしろくないですよ。まさに僕が最初に言った情報分断が思いっきり起きているじゃないか、ということです。

それよりも「情報の海」に一緒に来ていただいて、どこでどのような化学反応が起きるかわからない、というかたちにしたいですね。だからこそ今回、僕は非常に楽しみにしています。今まで社外から入社してもらうことはあっても、社外の立場のまま社内に入ってもらうことはなかったですよね。社外の立場のままの方々が入って、融合を起こした時に何が出てくるのだろうと考えるのがおもしろいです。

大槻:株主はもちろん、社外取締役のお二人にも働いてもらうかたちですね。

青野:そのとおりです。

山田:それでも、まずは最初に「朝寝坊」と検索してみてほしいですね。

田中:私のが出てきてしまいます。IR定例でも、しょっちゅうありますよね。

:朝に限らないですからね。昼過ぎくらいに寝坊するパターンもあって、「朝」を付けなくても出てくると思います。

大槻:時間が来たので、社外取締役についてのトピックについてはここまでとします。先ほど北原さんから「このあたりは後で時間があれば」というコメントがありましたが、おうかがいしてもよろしいですか?

北原:私が外から少し見せていただいた範囲ですが、情報の非対称性が非常に少ないと思います。会社というものはやはり、階層レベルに応じてしっかりと情報が統制されているのですが、そのようにすると、機密情報が1つあって、それを管理するだけでも多くの人がたくさん働かなければいけません。サイボウズが非常にオープンであることのメリットの1つに、おそらくですが、情報の取り扱いにかかるコストがずいぶん少ないことが挙げられると思います。

一方で、コミュニケーション量が増えると、言葉の量が非常に多くなります。なぜかというと、いわゆる伝統的な会社では「空気を読め」「行間を読め」というような、コンテキストと言われているお互いの共有知識、暗黙の知識の中で少ない言葉でもわかり合っている状態にあります。

しかし、サイボウズはそのようなことがないため、「トンチンカンなこと」がたくさん出てくるわけです。助言としてもおそらく山のようにたくさん入ってきていると思うのですが、その「トンチンカンなこと」もきちんと拾わないといけないため、その部分に大きなコストがかかっていると思います。

リアルタイムで対応する必要はありませんが、それをデジタル技術を使って効率的に行っていること、それから先ほどお伝えしたように情報のオープンさが管理コストを下げていることでバランスが保たれていて、結果的にはオープンな状態で、みなさんが限られた時間で共有プロセスを通じて意思決定しているように思います。正しいかどうかはわかりませんが、外から見るとそのように感じます。

大槻:いろいろなメリット、デメリットがあるわけですね。「みんなで取締役」で先日社員から組織戦略室宛に「情報共有をこれだけ増やしていくと、かえって業務が非効率になっていくのではないか?」という意見をもらったことがありました。そのあたりを、理さんはどのようにお考えですか?

山田:結局のところ、全員がすべての情報を見る必要はないですよね。必要な情報を必要な時に見られる状態のほうが大事です。情報を頭の中にとどめるのではなく、きちんと出していき、それをどのように処理するかというところも含めてみんなの前で行えばよい話です。

「聞いたけどスルーします」という意思決定も僕はアリだと思います。その中には「それスルーしちゃうんだ」と思うものも、「それはスルーしてもいいよね」と思うものもあると思います。

まずは情報を出すことのほうが、北原さんのお話にもあったコーポレートガバナンスにおいては大事だと思っています。コストをかけるかどうかはその後の話です。しかし、効率化することはできても、情報を出していくのはやはり難しいです。

大槻:まずは情報を出してもらうために、今は全力で工夫しているのですね。

山田:そのとおりです。

青野:今日の第1部でも触れましたが、出てくる情報が増えすぎているため、その流通の部分を経営支援本部長の忠正さんが工夫してくれています。そうは言っても、出てきた情報をどのように人間が受け止めて処理するかが課題ですよね。マネージャー同士のネットワークは中根さんが作ってくれていますので、人と情報の部分に網の目をかけて、こぼれ落ちないように僕たちが拾っていくしかないと考えています。

大槻:このような議論が増えていくとイメージがよくなりますね。

2022年度社内取締役候補(新任4名・再任3名)

大槻:続いて、社内取締役候補についてです。昨年、社内公募で取締役候補者を選任するという新しい取り組みを始めたサイボウズですが、現在の取締役は17名です。それ以前はおじさん3人だったところから、女性や新人、外国の方も入って、多様なメンバーが揃った1年でした。

今回新たに発表した候補者はスライドに記載のとおりです。コーポレートブランディング部に昨年入社したばかりの穂積さん、Kintone Corp. (US)のマイケルさん、チームワーク総研の松川さん、営業本部名古屋所長の吉原さんです。さらに、再任で青野さん、中根さん、忠正さんが入って7人となりました。

青野:新任の4人は手を挙げたということですね? 

大槻:そうですね。17名の多様なメンバーから大きく変わったと思いますので、この経緯について、社内での苦労なども交えて忠正さんからご説明いただいてもよいですか?

:昨年の17名体制については、2年目の新人が入っていることもあり、「大丈夫なのか?」というご意見を各所からいただいていました。しかし、大槻さんの話にもありましたが、これまで同様、社内でしっかり議論した上で結論が取締役会に上がってきているため、意思決定のプロセスの中で決議の妥当性は問題ありませんでした。

ただし、取締役会の運営的には17人という人数はけっこう大変でした。各社の事務手続きや議事録の確認など、運営の負荷も大きかったため、2年目は人数を絞ったほうがよいという結論になりました。

「がんばって人数多くても対応してよ」という意見もありましたが、取締役会だけでサイボウズのガバナンスを実現しているわけではありません。他のいろいろな仕組みを合わせて、サイボウズが実現したいガバナンスを模索すればよいと思いますので、必ずしも手を挙げた人全員を取締役にする必要はないという考えに至りました。

昨年の半分以下なら対応できそうだったため、青野さんは代表取締役候補として、中根さんと私は株主総会と取締役会の事務局として入っていたほうが運営上よさそうだと考え、まずこの3人に決めました。残りは、現任の方も手を挙げてくれていましたが、誰でも取締役になりうるという観点から、新任の方がたまたま4名でしたので人数的にもちょうどよく、この7名を選出することになりました。

社員からの助言例

:一見、男性が多い印象があると思います。実は、女性比率を高める議論もあり、青野さんが経営会議で「取締役の過半数は女性にしたほうがよいのではないか?」と意見を出したこともありました。

しかし、まさに社員からの助言のよい例なのですが、「形式にこだわって取締役の比率だけを高めるのはサイボウズが実現したいガバナンスではないよね」という意見がかなり出ました。賛否両論ありましたが、青野さんが出した議案を社員のみんなの意見を踏まえて取り下げるという一幕もありつつ、今回の候補を決定したという経緯があります。

青野:これ、すごくおもしろかったですよ。何がおもしろかったかと言うと、僕は今まで社内で男女という言葉をあまり使ってきませんでした。100人100とおりなので、男女という言葉を使った時点で僕らの負けだと思っていました。つまり、男女で括ってしまうと一人ひとりを見ていないことになると考えていたわけです。

しかし、昨年、中根さんに調べてもらったところ、人数が増えてきたこともあり、社内でジェンダーギャップがあるというデータが出てきました。このまま男女という言葉を使わずにいたら、このギャップは埋まりません。

結局、僕たちはどこかで偏見を持って動いています。しかし、自分で気づいていないから直せない。だから、あえて男女という言葉を使ってアファーマティブアクションをしようと考え、「取締役の男女比を同じにしよう」と言ってみました。そうしたら、どんどん意見が集まってきました。

大槻:青野さん的には「よいことを言ったぞ」くらいの感覚だったのですか?

青野:みんながどう反応するかを見てみたくて、少し刺激を与えてみたかったのです。よく考えて意見も出してくれて、本当にすごいと思いました。

また、マネージャー陣の目つきも変わりましたよね。「もしかしたら自分の中に自分が気づいていない偏見が残っているかもしれない」という意識が芽生え、みんなの言葉が変わってきてるように感じています。すごくよい議論ができたと思っています。

大槻:青野さんが投げかけたやりとりをみんなが見ているわけですよね。先ほど北原さんの話にもありましたが、情報を公開することで社長の議案に対して意見を言えて、よい考え方も浸透していくという一石二鳥どころではないメリットがありますね。

青野:例えば、マネージャーを選ばないといけない時に、「この人でしょ。あ、ちょっと待てよ。無意識のうちに男性を選んでいないか?」と一歩踏みとどまるきっかけになっています。情報を公開することで、活発に議論していけたらよいと思っています。

大槻:あえて自ら炎上したのですか? 

青野:みんなもう少し賛成してくれるかと思っていましたけどね。

:取締候補の議論を進めていく中で、選出の道筋が見えてきたタイミングで急に「女性を過半数にしたらどうか」という意見が出てきました。そのため、「今、手を挙げている人の中から、この人とこの人を選ばないといけないのではないか?」と迷ったり、「みんなの意見を聞いてフラットに選んだほうがよいのではないか?」と当たり前のところに落ち着いたり、紆余曲折ありました。

社員みんなが取締役を選ぶというプロセスの中に参加している感覚があり、これが議論の流れの中で決定していくということなのだと感じました。運営側としては大変でしたが、プロセスへの参加意識を促すという意味でも青野さんの投げかけはよかったと思います。

青野:ちなみに、意思決定の品質には2つあると北原さんから教えてもらいました。決定した内容も意思決定の品質の1つですが、決定までのプロセスをいかに充実させられるかどうかも意思決定の大事な品質の1つです。

まさに僕はプロセスを作ったのです。結果的には「変わらない」という意思決定をしましたが、プロセスを作るという大事な成果を残したのではないかと思っています。北原さん、いかがですか? 

北原:そのとおりです。

青野:ありがとうございます。

田中:取締役という形式的な部分でのジェンダーギャップをなくすのではなく、本部長などの本質的な意思決定の部分で、ジェンダーギャップをなくしたほうがよいという意見もけっこうありました。今まで表立ってジェンダーについて話してこなかったのに、「ジェンダーに対してサイボウズはどうするか?」という議論が展開されましたよね。意思決定には直接関係ありませんが、違うところでも議論につながっていったのがすごくよいと思いました。

大槻:渡邊さんは、このあたりの今のサイボウズ社内の流れや議論をどうお考えですか?

渡邊:問題提起はすごくよいと思います。ただし、女性の取締役の数を増やすかどうかについては賛否両論いろいろありますが、増やせばよいというわけではないと思っています。先ほどの話にもありましたが、ジェンダーギャップがあるということがわかったのであれば、どうしてそのギャップがあるのか、何によってそのギャップを減らしていけるのかを考えるべきです。最終的な人数は結果でしかないので、構造的な問題のほうを検討していけば、自然に数は増えていくと思います。

青野:これについては中根さんの意見も欲しいですね。

中根弓佳氏(以下、中根):では、次のスライドとあわせてお話しします。

人材多様化の現状

中根:「取締役ではなく実質的なところでジェンダーの多様性を意思決定に反映していくのがよいのではないか?」という意見についてです。現在、意思決定の権限を持っている管理職の女性比率は24.3パーセントです。昨年が20パーセント台だったので、少し増えました。ただし、国内の女性比率が46パーセントということを考えると、それよりは低いのが実情です。

1つの原因としては女性社員のほうが勤続年数が短いことがあります。平均的な勤続年数は5年9ヶ月ですが、女性のほうが1年4ヶ月短い傾向にあります。その理由として、女性社員のほうが若年層の比率が高く、平均年齢も低いことが考えられます。ちょうどいろいろなライフイベントが重なりやすい年齢です。

女性の場合は出産によって男性よりも長めの育休を取ることが多いため、結果的に経験年数が短くなりやすいことが、管理職比率に表れている可能性があると思っています。ただし、現場のマネージャーと話してみると、この点はあまり悲観する必要はないと思っています。権限の分散によって意思決定に関わるメンバーが実数として増えてきており、女性参加者の候補も十分上がってきている状態ですので、今後数字として表れてくると見ています。

もう1点、実は給料に関してもジェンダーギャップを分析してみました。サイボウズの場合、人によって働き方がバラバラで、一律の給与階層はありません。ジェンダー以外の条件を全部一律にしないと比較ができないため、給与格差を分析するのはとても難しく、どのように調査するべきか悩んでいました。

昨年ようやく、ある仕組みを使うことでジェンダー以外の条件を全部一律にした給与格差を算出することができました。その結果、一部の層にジェンダーギャップがあることがわかりました。具体的には、難易度の高い仕事をしているメンバーにジェンダーギャップがありそうだということがわかったため、これから原因の分析と対策を行っていきます。

青野:サイボウズもまだまだということですね。

大槻:青野さんの発言がなければ、気づかないまま通り過ぎていたかもしれないですよね。

青野:100人100とおりを大切にしていると、従業員満足度はどうしても高めの数値が出るので、つい見逃しがちですよね。

田中:管理職における女性比率をなぜ高めるのかというと、多様な意見を取り入れることにつながるからだと思っているのですが、サイボウズでは意思決定者でなくても、助言などで意思決定に関われますよね。なので、多様な意見を取り入れるという意味では、現状でもそんなに困っていないかと思います。

大槻:他の企業では管理職が権限を持っているので、管理職における女性比率が気になってきますが、サイボウズの場合は管理職でなくても社長に意見できますからね。

田中:自分の意見で会社の方向性が少し変わるなんてことも普通に起きますよね。女性目線からすると、「給与に少しジェンダーギャップがあるなら直してほしい」とは思いますが、それ以外の面で女性だから意見が言いにくい雰囲気はありません。

大槻:このあたり、『最軽量のマネジメント』を出版している理さんはいかがですか?

山田:僕が実現しようとしてるのは自律分散です。ヒエラルキーに集中したり、上層部の人がすべて決めたりといったことがサイボウズの中にもいまだにあります。だからこそ、本部長の女性比率の話になっているわけです。

意思決定が得意な人に権限を渡していけば、自動的に意思決定が分散されていきます。先ほど、那奈さんが言ったことと近いかもしれませんが、役職者の人数だけでなく、どれだけの人たちがどれだけ意見を言えているかや、自分がどれだけ主体的に参加できたかのほうが大事になってきます。自動的に意思決定を分散させていき、役職でジェンダーを数えることのない世界があるとよいと思います。

一方で、性格的に「意思決定したい」「責任を取りたい」と思う人と、「意見は言いたいけど任せる」という人がいますよね。性格とジェンダーがどのように関連してるのかはわかりませんが、いずれにせよ、役職者をジェンダーギャップ解決のターゲットにするのは昔ながらのヒエラルキーがある世界での話ですので、『最軽量のマネジメント』的には違う世界に行きたいと思っています。

:まさに行き着く先はそのようなところだと思うのですが、すでにその一歩か二歩手前まで来ているのではないかと感じています。実際にサイボウズのマネージャーが自分の独断と偏見だけで意思決定してるケースはかなり少ないですよね。本部の中でみんなの意見を聞いて、その上で最終的に意思決定することはありますが、少なくともみんなの意見をまったく聞かないで決めているケースはほぼないと思います。

さらに、マネージャー以外の意見のほうが筋がよさそうだったら、自然と「そのほうがよい」という温度感になります。それを無視したマネージャーの独断は、事実上なくなっているのではないか、というのが現場のマネージャーサイドの感覚としてはあります。

大槻:本当にそうですね。私も組織変革の波に揉まれている現場マネージャーの1人ですが、思いつきで発言すると炎上しますよね。物事を実行していくためには、広く意見を募り、みんなでディスカッションするというハードなアプローチが身についています。そして、そのほうが自分も楽になる感覚があって、不思議な体験をしていると感じます。

青野:このあたりのテーマについても、これを見ているたくさんの人に助言をいただければと思います。「こんなことをやってみたらよいのではないか?」と思うところがあれば、ぜひコメントを書いてください。

先ほど中根さんが言ってくれたように、給与格差は直していきたいと考えています。僕らは世界一のチームワークを目指していますから、そのような部分を見逃さず、妥協せずにいきたいと思います。

みんなで取締役

大槻:続いて、「みんなで取締役」についてです。仕組みについては理さんからご説明しました。ここからは実際にデータをご覧いただきながら、理さんにお話をうかがえればと思います。 

山田:「サイボウズは取締役にそこまで集中させなくても、情報がオープンだから大丈夫です」というところから一歩踏み込んで、「そうは言いながらも、目の前にゴミが落ちてたら教えて」というのを全員に行ってもらおうと考えています。コーポレートガバナンスにおいて、重要な経営会議で嘘をついたり隠したりするのはすごく大変です。なので、実際には、そこに上がってくる手前のところで、いろいろなものが隠されていたり報告されていなかったりします。途中のフィルターの部分で抜け落ちていくのが、コーポレートガバナンスで不正が起こる一番の要因だと思っています。

結局、取締役会は誰かがフィルターをかけた議題を限られた時間の中で見る場になっています。それなら最初から現データを持っている全員に「大丈夫ですか?」と聞くほうが、コーポレートガバナンス的には圧倒的によいと考え、「みんなで取締役」を立ち上げました。投票をお願いしたところ、412人、つまり社員の4割以上が投票してくれて、そのうちの87パーセントは「問題ない」という意見でした。

また、全体の13パーセント、55件のフィードバックがありました。スライド右側にその内訳を記載しています。どの部門・責任者に指摘が多かったかというと、組織戦略室が一番で、僕のところに21件でした。

投票者の希望で一部未公開なものもありますが、いただいたフィードバックは基本的には全社員に公開しています。55件のうち35件はすでにみんなに見えるかたちで課題設定済みになっており、残りは各本部長に依頼しています。どのようなコーポレートガバンスを実施していくべきかは、みなさんの評価を聞いてから改善していけばよいと思っています。まず第一歩としてこのような取り組みを行いました。

大槻:この取り組みについて、社外取締役のお二人はどうご覧になっていますか?

北原:多様性を有効に使う手段だと思いました。価値観は個人ごとに当然違いますが、その正しい・正しくないではなく、「会社がこう言ってるけど、私はこう思います」という意見を表明できるかどうかが非常に重要です。

最近、製造業で品質が悪いのに納期を優先するなんてことが新聞で取り沙汰されています。納期優先という組織の大きな号令に対して、個人が「これ、よいのかな?」と思った時に、どうしても大きな圧力に押されてしまって自分の価値観を表明できないことがあります。

もしかしたら、その価値観は間違っているかもしませんが、まずは表明することが第一です。ところが、みんなが表明しだすと効率が悪くなり、「お前、何を足引っ張ってんだよ」と言われそうだから黙ってしまうわけです。

やはり異なる価値観をあえてぶつけて、効率が多少悪くても「それはおかしいのではないですか?」と言えることが大切です。結果的に、会社としても新しい価値の声、いわゆるボイスオブバリューを受けて、また1つ成長することができます。結論はどうであれ、「みんなで取締役」の取り組みによって「価値観が違っても表明して大丈夫なんだ」と思える素地を作っていくことがガバナンス上で重要だと思います。

大槻:ありがとうございます。渡邊さんはいかがでしょうか? 

渡邊:私も基本的には北原さんのおっしゃったことに同感です。1点気になったのが、6割の人は投票に参加していないのですよね? 先ほど山田さんの話にもあったように、意見を言いたい人と言いたくない人が世の中には必ずいます。性格的な問題はもちろんあると思いますが、参加してこない人たちをどうやって参加したい気持ちにさせるか、それをどう汲み取っていくかが次のステップの課題だと思います。

大槻:理さん、そのあたりはいかがですか? 

山田:ありがとうございます。本当にそう思います。

青野:400件集めるのもけっこう大変でしょうね。

山田:400件集めるのも相当苦労しました。「400件も集める必要があるのか」「忙しくて、意思決定なんて見ている暇がない」という意見も来ました。渡邊さんの声をもっと大きくして、みんなに伝えていきたいと思います。

大槻:青野さんはこの取り組みをどのように見ていますか?

青野:全体をざっと見て、現時点では深刻な内容はないと思っています。毎年のプロセスをメンバーが見て、意見をぶつけている状態を作っておくことが大事です。そうしないと、いざ「このプロセスおかしくない?」と思ったときに、周りで誰も言っていなければ「言っていいの?」というところから始まりますよね。

毎年当たり前のように「言う」という循環ができあがっていないと意見を表明できません。誰かが言っていると言いやすくなるので、常に誰かが言っている状態をキープしたいです。もう1回エンジンをかけ直さないといけないと思っています。

田中:今回は初めてだったので、勇気ある13パーセントの人たちが意見を書いてくれましたが、ライトなフィードバックは本当はもっとたくさんあるかもしれないですよね。寝坊が日報に書けるのと同じように、「こんなに軽い感じで言っていいんだ」「経営陣に直接言っても怒られないんだな」とわかったと思います。理さんは大変になるかと思いますが、来年はもう少し活性化が期待できるのではないでしょうか?

山田:僕は青野さんや渡邊さんのようにハートが強くないですから、上限を20件くらいにしたいと思っています。「今年の組織戦略部の分は打ち切りました」と言いたいと思います。あとは中根さん、忠正さんのほうに意見を寄せてください。

大槻:2番目に多かった人事本部の中根さんはいかがでしたか? 心が折れました?

中根:今回の取り組み自体は、意思決定やプロセスに対するフィードバックということで始めていますよね。しかし、蓋を開けてみたら、人事には意思決定やプロセスではない意見も来ていました。

具体的には、「制度をこうしてほしい」という制度に対する要望や意見がありました。「みんなで取締役」の意図とは異なりますが、このような要望を言う場所がない、もしくは言う場所があることを知らないメンバーがいることに気付きました。ここに対してはきちんと対応していきたいですし、今回の最大の収穫でした。

山田:1つ伝え忘れていたのですが、半分以上は「『みんなで取締役』、なんのためにあんねん?」というフィードバックでした。おもしろいのが、「みんなで取締役」はまさにそのために実施しているということです。

みんなに「がんばってこうやりましょう」「これはコーポレートガバナンスです」と言っても全然伝わらず、「なんでやらされなあかんねん」という意見が来ました。これこそ、僕がそのような意思決定をしてしまっている証拠で、このプロセスが正しいかどうかのフィードバックになっていたわけです。

いきなり取締役と言われても、感覚がわからないと思います。基本的に不正がないという前提があれば、意思決定のプロセスに対するフィードバックは探さないと見つかりません。だから、感覚的にわかりにくい部分を肌で感じてもらえたのではないでしょうか? 知らず知らずのうちに、「みんなで取締役」を活用してくれていたことがすごくおもしろいと思いました。

大槻:なるほど。では、理さんは来年も上限なしでお願いします。

山田:いやいや、20件でお願いします。

大槻:ありがとうございます。「みんなで取締役」はすごくおもしろい取り組みで、今後もどうなるか、どんな炎上が起きるのか注目しています。

最近メンバーから「大槻さんが言ったら正解なんです」と言われて、ショックを受けました。僕は社員が100人くらいのときに中途で入ってきていて、いまだにそのときの感覚のままでいたのですが、そのように見えてしまうのだと気付きました。

フラットに意見を言い合えるチームを作ってきたと思っていたのに、最近入社した方は前の会社の文化もあり、「部長が言ったこと」と捉えていることがあります。新しい仕組みを取り入れて当たり前に回っていく環境を作っていかないと、本当にこのようなバイアスが起きるのだと身をもって感じました。なので、この取り組みが広がっていくとよいと思います。

それでは、以上でトピックについてのディスカッションを終わります。いろいろな助言をいただいているようですので、そちらをご紹介していきます。那奈さん、お願いします。

社外取締役について

田中:「社外取締役について、とても賛成です。北原さん、渡邊さんともに多様なバックグラウンドで、サイボウズに対して非常によい影響を及ぼしていただけそうだと感じました。今後に期待します」とのことです。社外取締役のお二人、いかがでしょうか?

北原:ありがとうございます。がんばります。

田中:社員からすると取締役などの役員はすごく遠いイメージがあります。しかし、社外取締役候補のお二人が今回のイベントにお声がけしたところ、お忙しい中参加してくださって、ここからまたやりとりできると思うと楽しみです。引き続き、よろしくお願いします。

取締役の女性比率について

田中:「社内取締役について、どちらかと言えば反対です。また、ジェンダーギャップについて、今回の議論を聞いていると、女性が地位を持って意思決定に参加することに対してかなりアレルギーがあるように感じました。昨年、取締役には管理職経験がまったくない人を選んだにもかかわらず、取締役に女性を同数入れることに対してここまでアレルギーがあることに驚いています。取締役が大して意味を持たないと言うのであれば、一度同数にすることを試してみてほしいです」とのことです。

青野:取締役に女性を同数入れることに対してアレルギーがあるのではなく、数字を合わせにいくことに違和感があるということです。そこは少し認識が違うと思います。

また、女性が地位を持って意思決定に参加することにアレルギーがあるように感じられたのは、僕らの無意識の行動に原因がある気がします。先ほど中根さんの話にもありましたが、サイボウズでは管理職の女性比率が高くありません。ただし、管理職が権限を振り回すようなやり方はしていないため、僕ら的には不快に感じていません。

つまり、気付いた時には「なんとなく男性のほうが多くない?」という状況です。もしかしたら、無意識のうちに何の悪気もなくアレルギー反応を起こしていることがけっこうあるのかもしれません。

無意識の行動は、意識的に変えていかないと直りません。「癖を直せ」と言われているようなものですよね。だからこそ、僕はチャレンジしていきたいと思っています。みんなで意識を上げていこうというのが僕の意見です。

田中:他のみなさま、いかがですか?

渡邊:繰り返しになりますが、数合わせはあまり意味がないと思っています。それよりも、問うべきなのは本当に男女に平等に機会が与えられているかどうかです。

例えば、同じ能力だとしたら同じだけの機会が将来待っているかどうか、あるいはロールモデル的な存在がいるかどうかが大きな要素になってきます。女性が社内で活躍できる土壌があれば、自然に女性の管理職の数も増えて、その人たちを見て「自分もああなれる」と若い人が思えるようになります。そのような意味で、数よりも構造の部分に検討していく余地があると思います。

山田:外から見たカテゴライズで数をこなすよりは、本人がやりたいと思うことを聞いて、そこに対していかにサポートできるかどうかが大事で、それが結果として数字になったらよいと思っていました。しかし、この考えには反省点もあります。

なぜかと言うと、そもそも本人がそのような社会の中で生まれ育っていると、「やりたい」という思いにすでにバイアスがかかっている可能性があるからです。自分の癖を自分では意識していないのと同じで、本人に聞いたところで本当のところはわからないこともあります。

やはり、外形的な基準を一回作って、無理矢理にでもそれを当てはめてみて、支障があるかどうかを見てみる必要があるのだろうと思います。どのように取り組めばよいかはわかりませんが、アンコンシャスバイアスは難しい課題だと最近感じています。

田中:ありがとうございます。確かに、できることはまだまだありそうな気がしますね。

大槻:まずは見つけられたことで一歩前進したということですね。

社内取締役の選出の公平性について

田中:「社内取締役について、とても賛成です。手を挙げる際の公平性が保たれていれば、結果として女性が少なかったり男性が少なかったりしてもよいのではないでしょうか? 例えば、出身地で区分したらどこかの地域に偏っているかもしれません」とのことです。

手を挙げる公平性については、立候補制ですので誰しもが取締役になれる状況です。何かご意見ある方はいますか?

青野:先ほど、理さんの話にもありましたが、手を挙げるという選択肢を自分の中で無意識のうちに捨てている可能性はありますよね。

大槻:「手を挙げていいのか?」みたいなことですよね。

青野:そうそう。僕には小学生の子どもが3人いるのですが、PTA自体には女性の参加者が多いのに、なぜかPTA会長は男性なのですよ。確率的におかしいだろうと思っています。おそらく、「なんとなくそうだから」というだけの理由なのですよね。合理的な理由はなく、「PTA会長は男性がするものでしょ」くらいに思っている人が多いのだと思います。そのような中で手を挙げた人に対して、「全然挙げて大丈夫だから」ということを意識的に伝えていく必要があると思います。

田中:やはり「時短だから」「育休を挟んでいて勤務年数が少ないから」という気持ちが無意識に自分の中で働いて、立候補しないほうがよいと思う可能性は高そうですよね。

大槻:時短の取締役がいてもよいですよね。

青野:時短という言い方がよいのかわからないですが、そのような意味では、中根さんが取締役になったのはロールモデルの第一弾としてすごくよかったと思います。「中根ネクスト」を作っていく必要があるということだと思います。

中根:社内にはいると思います。

田中:部長・本部長クラスの仕事が楽しそうだったら「がんばってみようかな」と思いますが、役職を持つことにワクワクしないと言いますか、子育てしながら忙しい中で、さらに大変そうな役職にリソースを割く優先度がどこまであるかという問題もありますよね。

青野:理さんみたいにフィードバックをもらって心が折れるとかね。そんな姿を見せられたら、がんばるのやめようかと思うよね。

中根:那奈さんの指摘は、本質を突いていると思います。ジェンダーだけではなく、組織が大きくなっている中で、マネージャーの負荷や業務の難易度も上がってきています。マネージャーはいろいろな拠点で、いろいろな働き方のメンバーがいる中で成果を上げていく必要がありますよね。

そのため、マネージャーがいかに楽しく働けるか、いかにワクワクする役割にできるかどうかがすごく大事だと思っています。第1部のテーマにもつながるのですが、マネージャー同士のネットワークを作ることで、権限を分散しつつも、自分で意思決定するべきことに関してはいろいろな相談先があるといいですよね。メンバーに「自分でもできそうだ」と思ってもらうためには、ここが一番のポイントかもしれません。

大槻:本当にそうですよね。

田中:みんながなぜそこまでやりたがらないのかをヒアリングしたほうがよいですね。

青野:そうか、おもしろそうに仕事すればいいのですね。

:私は那奈さんのマネージャーですが、楽しそうに働いているのがあまり伝わっていないのですかね? まあまあご機嫌よく働いているのですが。

確かに、サイボウズには説明責任があるので、意思決定に関わることの多いマネージャーはその負荷にさらされています。質問を受けたら、基本的には必ず返さなければなりません。理さんの心が折れる話ではないですが、もらった質問には向き合わないといけないため、その大変さがひょっとすると伝わっているのかもしれません。

大槻:最近、マーケティング本部の中に組織運営チームをマネージャー同士で作りました。HR系のあれこれに対して、今まで一人で対応してきましたが、相談できる相手ができてありがたいと感じます。

そこにはもちろん男性・女性がいて、年齢の幅もあるのですが、ワクワクの前にまずラクラクができます。仕事がうまく回っていかないとワクワクにはつながりませんので、その一歩を飛び越える手前のところをマネージャー陣で整備できている感覚があります。

山田:『最軽量のマネジメント』という本があるのですが。

田中:まだ重そうですね。

山田:まずは、社内で実践していきましょう。

田中:理さんは身軽そうですが。

山田:僕は基本的にサイボウズで最軽量ですね。

社員の時間の使い方と企業統治の考え方について

田中:「『みんなで取締役』について、株主から見て社員の時間の使い方に疑問があります。意思決定の質量が見えてきませんが、青野社長は企業統治において何を重視していますか?」とのことです。

青野:質問の受け取り方が難しいですね。社員の時間の使い方について、どこに疑問を感じているのでしょうか? プロセスにフィードバックさせているのが、社員の時間を奪っているということですかね。

企業統治においては企業理念をとても重んじています。僕たちが掲げている「チームワークあふれる社会を創る」という理念は、多様な個性がお互いに嘘をつかず、隠さず、自立して議論をする状態を作ることを指しています。

そのために、「申し訳ないけど、ここに意識を払ってくれ」とフィードバックをお願いしました。自分の仕事が楽しいのはわかるのですが、僕たちの仕事はチームワークです。自分の仕事だけ楽しければよいわけではなく、みんなで目指している目的・理想に共感して、組織がうまく回っているかどうかに意識を払ってほしいと思っています。

僕がみんなで取締役を進めたいと思っているのは、やはり企業理念があるからです。これを進めることで生産性もかなり上がるのではないかと思っています。言いたいことも言えず、やらされ感があって、幸福度も失い、会社がおかしな方向に向かっていても誰も止められない状況は終わらせます。お互いに少し意識を払うだけで、おかしなほうに行ってもすぐに止まり、新しい理想が見えたら共感して動いていけるようなよい組織が作れるのではないかと思っています。

そして、それを示したいと思っています。よく「サイボウズは面倒くさいことをやっていますね」と言われるのですが、「いや、全然効率的ですよ。おたくより」と僕は言いたいです。業績にもこだわって、このあたりを進めていきます。

田中:理由がよくわかりました。

青野:面倒くさいように見えることをきちんと実践していくことで、生産性がかなり上がるということを見せていきたいと思っています。

大槻:ウサギとカメの寓話みたいですね。ゴールにたどり着くのに、スタートダッシュの速さは関係ないですからね。

青野:本当にそうです。サイボウズは最初はガチャガチャしていても、議論が結論に近づいた後はすごい速いですからね。みんなよく理解して、次の理想に向かって動けますから、実は早いのです。

:説明責任を果たすほどコストはかかると思うのですが、結果としてみんなが納得してくれたほうが、前に進む力は強くなります。ここがレバレッジの効かせ方のポイントではないかと思っています。

また、我々も試行錯誤の途中だからだと思うのですが、そのうち質問の仕方も答え方も洗練されてくるはずです。そうすると、質問責任と説明責任の果たし方の効率もよくなってくるのではないかと思います。

大槻:他の人の質問も見えるので、「このような観点で、このような質問をすればよいのか」と学べますよね。

:変な質問に対しては「それは違うのではないか?」とみんなが指摘しあってくれれば、ブラッシュアップしていけるのではないかと思います。

山田:質問に「いいね」を付けたい。

青野:ちょうど理さんと話していたのですが、質問の中にもよい質問とそうでないものがあります。質問上手になっていくと、さらに効率が上がりますよね。

田中:助言もそうですよね。「考えてくれてありがとうございます」という一文から始まっていると心理的に安心して受け取れますが、すごくよいことを言ってくれていてもグサッとくる助言もあります。

そのあたりのクオリティを上げられると、みんな安心して助言できますし、受け取る側のストレスも低減されます。それがコミュニケーションの活性化にもつながるのではないでしょうか? お互い傷ついていたら、血だらけですから、穏やかな気持ちで助言できるような仕組みになっていくとよいと思います。

大槻:そうすると、理さんの上限もどんどん上がっていくかもしれない。

田中:来年は30件までいけそうですね。

山田:いやいや、20件でお願いします。第1部でもお伝えしましたが、意思決定を分散していこうと思えば思うほど、多くの人に見てもらうことが必要になります。そのため、自分の周りで何かがあったときにチェックしたり、そこに参加したりすることを続けていくことで、それが当たり前になっていけばコストも下がり、分散させやすくなっていくと思います。

田中:ありがとうございます。次で最後の助言にさせていただきます。

会社の成長について

田中:「とてもオープンでよい議論ができている組織だと思いました。サイボウズのファンです。ただし、これをどのように会社の成長につなげられるかが課題だと感じました。引き続き、トライしてください」とのことです。

大槻:今の議論を聞いていたかのようですね。

青野:まずは褒めるところから始めていただいて。

田中:このような助言をいただくとうれしくなります。

青野:うまいですよね。

田中:「みんなで取締役」の意義に疑問がある社員がいたり、「なんでこんな非効率なことをやっているんだ」という意見もあったりしますが、結果としてサイボウズを成長させ、強い組織にしているということが社内でも社外でも理解されていくとよいと思います。

何を見せていけばいいのでしょうか? 本部長がキラキラしはじめたとか、そのようなことですかね?

:今はキラキラしていないみたいな言い方、やめてもらえますか(笑)。

田中:いやいや、そんなことはないのですが、何で示せばいいのだろうかと思いまして。

:業績の話をすると、我々のサービスを使っているユーザーやお客さまがどんどん増えており、それに伴って収益も上がっている事実を伝えればよいと思います。

青野:「チームワークあふれる社会を創る」という理念に対して、まだまだ入り口に入ったくらいの地点にいます。ここからですよ。今が完成形とはまったく思っていませんので、成長し、社会を変えていきたいです。

田中:ありがとうございました。助言については、以上で終了します。いただいた助言は、後ほどホームページにて公開しますので、どのような意見をいただいたか、みなさまにも見ていただければと思います。

まとめ

大槻:それでは、最後のまとめに入っていきます。個人的には、思い描いていた以上の議論や助言をいただき、盛り上がったイベントになったと感じています。青野さんはいかがでしたか?

青野:このように、みなさまにご参加いただいて、きちんと助言をいただける流れができたことが大きいですよね。「みんなで取締役」の仕組みもそうですが、株主の方と意見のループができるようになったわけです。

このようなループをたくさん作っていくことで、僕たちに問題が見つかった時にも、すぐに気づき、対応でき、助言をいただくことができます。このような取り組みによって強い組織に成長していけると期待していますので、機会があればぜひまた参加してください。

第25回定時株主総会のご案内

大槻:ここでお知らせです。本日のイベントでサイボウズの現状をインプットしていただいたと思いますが、3週間後には株主総会があります。株主のみなさまにはぜひご参加いただき、議案について投票していただければと思っています。

時間になりましたので、以上を持ちまして、本日のイベントはお開きとします。ご参加いただき、ご助言もいただきまして、ありがとうございました。