本日の内容

小野雅樹氏(以下、小野):島津製作所の小野と申します。本日はよろしくお願いいたします。当社のイメージについて、「名前は聞いたことがあるけど、何を行っているのかよくわからない」という方が多いと思っています。

当社は、ヘルスケアなどの今後成長する分野にさまざまな製品やソリューションを揃えている会社で、コロナ禍においても2期連続で過去最高の業績を更新する見込みです。本日の説明会では、スライドに記載の順番で、当社の概要とともに成長戦略についてもご紹介できればと考えています。

会社概要:島津製作所

社是が「科学技術で社会に貢献する」、経営理念が「『人と地球の健康』への願いを実現する」となっています。社是については、社員一人ひとりのDNAとして根付いているようなもので、科学技術でさまざまなお客さまの課題を解決しています。

所在地は京都市中京区西ノ京で、東に2キロくらい行くと二条城、西に2キロくらい行くと東映太秦映画村があるという位置です。「京都銘柄」として、京都にある他の企業と一緒に紹介されることが多いです。

島津の歴史① 創業当時の京都

歴史についてご紹介します。当社の創業は1875年で、今から147年前の明治8年です。スライド下部の赤枠で囲っている写真ですが、創業者は島津源蔵という者でした。

この島津源蔵ですが、実は仏具、仏壇などを扱う錺職人だったのです。仏具のかざり職人から、なぜ理化学機器の製造に行き着いたのかは、日本の歴史と深く関わっています。

当社ができる8年前に明治維新が起きました。そこで首都が京都から東京に移り、また、大規模な火事により、京都の人口が最盛期の3分の1まで減り、京都が荒廃しました。さらに廃仏毀釈が行われ、寺院などが壊され、仏具の需要はどんどん減っていくことになりました。

この荒れ果てた京都を復興したいと思ったのが槇村正直という当時の府知事で、まずは海外の優れた技術を取り込もうと舎密局を作りました。スライド左下に地図がありますが、赤い丸のところが島津源蔵の仏具店で、そのすぐ近くに舎密局ができたのです。

そこに源蔵は足しげく通いました。仏具職人で手先が器用だったため、外国の技術を用いていろいろなものを作りました。みなさまもご存知のフラスコやビーカーなど、そのようなものを作っていました。

日本で一番初めに小学校の制度を導入したのは京都なのですが、それが追い風になりました。京都では半年で60校以上の小学校ができたと言われており、理科の授業ではフラスコやビーカーも使うことになりました。もともとは仏具と理化学機器とで半々くらいだったのですが、仏具の取り扱いをやめ、始めたのが島津製作所ということです。

島津の歴史② 事業の礎

当社を大きくしたのは二代源蔵で、初代の息子です。二代源蔵は、日本の十大発明家の1人に選ばれたほどの発明家でした。発明したものは、スライドにも記載しています。レントゲン博士がX線を発見した翌年に日本で初のX線写真を撮ったり、100年以上前に蓄電池の製造を開始したりして、いずれも国産で初めて実用化しています。

スライド左下に自動車の画像がありますが、これは100年以上前のEVです。二代源蔵は自宅から会社までこれで通っていたという逸話も残っています。

島津の歴史③ 島津製作所ゆかりの企業

ゆかりのある企業についてご説明します。当社が1875年にできた後、先ほどご説明した蓄電池の会社を分社化しています。日本電池という会社ですが、現在はジーエス・ユアサコーポレーションという東証一部上場企業です。

「ジーエス」は「源蔵島津」のイニシャルです。みなさまの車にも同社のバッテリーが入っている場合、そのイニシャルを付けて走っていただいているということです。ジーエス・ユアサコーポレーションからは、大日本塗料や日本輸送機が分社化しています。

また、先ほどフラスコやビーカーなどの試験器についてお話ししましたが、理科室にある人体模型なども作っていました。お腹の部分を開けると内臓の仕組みがわかるような科学標本も作っていたのです。今はまったく資本関係がないのですが、そのようなところも分社化しており、脈々と受け継がれています。

島津の歴史④ 2002年 田中耕一がノーベル化学賞を受賞

2002年に田中耕一が世界で初めてタンパク質を分解させずにイオン化することに成功し、ノーベル化学賞を受賞しました。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):田中さんの開発した技術について、実際にどのような技術で、今どのようなものに使われているのかということを教えていただけますか?

小野:病院において院内感染というものがありますが、院内感染と一言で言ってもいろいろな菌があります。病気の蔓延を防ぐために、どのような菌があるかを調べて判断することを「菌を同定する」と言うのですが、そのような院内感染の同定に対して、一番多く使われています。

田中耕一は、現在はいち技術者として開発を行っているのですが、今は1滴の血液からいろいろな病気の早期発見につなげるということに取り組んでいます。

島津の歴史⑤ 145年以上の事業継続の要因

時代が変わっても「科学技術で社会に貢献する」という社是に忠実に行動していることと、スライドの図にオレンジの円がたくさんあるように、さまざまなお客さまの要請に真摯に応える姿勢、それに加えて、お客さまの課題に応えるための技術力があるということが、当社が145年以上に渡って事業を継続できた理由だと考えています。

研究開発体制

当社がどのようなことを行っているのかご説明します。まずは研究開発体制です。我々はR&D型の企業であり、研究開発体制には非常に力を入れています。

スライド右下の基盤技術研究と記載している施設で基礎研究を行っています。10年、20年、あるいはさらにその先を見据えた研究をしています。一例を挙げると、アンチエイジング、老化防止の分野です。20年、30年先も美しくいられるような薬を、今アメリカの大学の先生と一緒に開発しています。

そのような製品、サービスに加え、アプリケーションも開発しています。例えば同じ飲料メーカーでも水やお茶、コーヒーなどを扱っており、分析するにはいろいろな指標が必要となります。そのような分析の指標を示すアプリケーションを開発しているところです。こちらは日本にとどまらずグローバルで開発しています。

グローバル展開

グローバル拠点です。25か国53拠点で開発、製造、販売などを行っており、売上比率のだいたい半分は海外となっています。

売上高・営業利益の推移

スライドのグラフは、売上高と営業利益の推移を示したものです。若干凹凸はあるのですが、基本的には右肩上がりという分析になっています。10年間の平均成長率、CAGRですが、売上高は約5パーセント、営業利益は約12パーセントとなっています。今年は2期連続の過去最高の業績を目指しています。

坂本:「コロナ禍でも業績を伸ばしている」というお話をうかがいましたが、新型コロナウイルス関連の売上はどのくらいあるのでしょうか? 機器を含めいろいろなものがあると思いますが、解説をお願いします。

小野:PCRの試薬と全自動の検査装置について、昨年の売上は60億円程度でしたが、第3四半期の現時点で約70億円の売上があります。売上に占める割合は2パーセントから3パーセントで、少し貢献してはいるのですが、メインビジネスである計測機器の伸びが過去最高の業績を支えています。

坂本:グラフを見ると、直近の決算の状況から営業利益の伸びが顕著だと思います。国内と海外の売上比率は昔から半々くらいなのでしょうか?

小野:少しずつ海外の比率を上げていったかたちです。40パーセントくらいの時期もありました。

坂本:かなり早い段階から海外の比率は高かったということで、為替差益が出るようなイメージがあるのですが、そのあたりの感応度を教えていただけますか?

小野:ドルとユーロに感応度があり、円安になるとプラスになります。1ドルで売上が約12億円、営業利益が約4億円のプラスになり、1ユーロで売上が約2億円、営業利益が約7,000万円のプラスになります。

坂本:最近はその部分でけっこう伸びているものもあるということですね。

事業セグメント

小野:主要セグメントとして、計測機器、医用機器、産業機器、航空機器の4つを手掛けています。計測機器が売上の約6割、利益の約8割を占め、主力事業となっています。

坂本:簡単に売上構成をおうかがいしたいです。スライドのグラフでは計測機器がかなり多くを占めていますが、この売上形態はずっと変わっていないのでしょうか? それとも、最近特に伸びているセグメントがあるのでしょうか?

小野:最近は2つのセグメントが伸びています。1つは計測機器、もう1つは産業機器です。一番厳しいのは航空機器で、コロナ禍で飛行機が飛ばないということもあり、厳しい状況になっています。

計測機器①

小野:計測機器のセグメントです。見えないものを見る、測るということで、ヘルスケア、マテリアル、環境・エネルギーなどの分野で活躍しています。実際に、企業のラボや大学の研究室などに数多く設置されています。

そのため、文系の方々は見たことがない方が多数だと思いますが、実は今、毎週1回テレビに映っています。『科捜研の女』というテレビドラマがあり、舞台は科学捜査研究所、略して科捜研で、沢口靖子さんの演じる主人公が科学の力で難事件を解決するというものです。

八木ひとみ氏(以下、八木):あの舞台も京都でしたね。

小野:そうですね。実はあのドラマに出てくる機械は、我々が貸し出しています。セットにある装置は当社のもので、実際に全国の科学捜査研究所に販売しています。番組制作者の方にも、「このような事件でこのような使われ方をしています」とレクチャーしており、非常にリアリティのあるドラマとなっています。木曜20時から放映されていますので、ぜひご覧いただければと思います。

八木:文系の方々には身近かもしれないですね。

小野:一番身近で「ハマりやすい」ドラマとなっています。

計測機器②

身近で活躍する当社製品として、先ほど科学捜査研究所のお話をしましたが、さらに身近なものとして、ペットボトルのお茶を例にとり、ご説明します。

計測機器③

お茶の原料となる水を汲むときに「本当にきれいかどうか」を判定することや、茶葉を採るときに残留農薬が残っているかどうかを確認することにも、当社の装置が使われます。

さらに、テアニンやカテキンなどのお茶の成分が基準値にあるかどうか、ペットボトル容器を「もっと強く、軽くできないか」ということに関しても当社の装置が使われています。

計測機器④

工場排水に関して「お茶を作った後に出てくる排水はきれいなのか?」ということや、「お茶を飲んだらどのような健康効果があるのか?」ということも調べています。

伊藤園と一緒に、抹茶の成分が認知機能の低下に効くのではないかということも調べており、テアニンや茶カテキンが効くことが証明されていますので、抹茶も飲んでいただければと思います。

計測機器⑤

業績ですが、製薬・ライフサイエンス向けの需要が伸びており、2期連続で過去最高を更新する見込みとなっています。地域別の売上は日本が4割で、海外が6割、その中でも中国が大きな割合を占めています。

医用機器①

医用機器です。こちらはX線の診断装置で、健康診断などで「吸って、吐いて」と指示されながら撮影する装置です。いわゆる静止画と呼ばれるものです。

また、人間ドックなどでバリウムを飲み、胃の動きを動画で見るのですが、その動画を見るX線TVシステム、あるいはカテーテル手術で使われる血管撮影システムのような、X線の画像診断機器を主に手掛けています。

坂本:これはパッケージで、システムごと提供しているものですよね。けっこう高そうですね。

小野:おっしゃるとおり、定価は数億円します。もう終わってしまったのですが、テレビドラマで『ラジエーションハウス』というものがありました。放射線技師たちが活躍するドラマで、ここにも当社製品を貸し出していました。我々の製品が出て、喜ばしく思いました。

坂本:医用機器の売上は、コロナ禍ではどうでしたか?

小野:よく売れた製品とまったく売れなかった製品に、二極化しました。「回診用X線撮影装置」はタイヤがついており、装置を移動することが出来、ベッドサイドで患者を診られます。新型コロナウイルスの患者は、病院内での移動が困難なため、特に海外で非常に売れました。

一方で、新型コロナウイルスで病院経営が非常に厳しくなっているため「X線TVシステム」や「血管撮影システム」などの高額商品は非常に厳しく推移したというのが正直なところです。

坂本:「回診用X線撮影装置」は同業他社ではどのような会社がありますか?

小野:我々の業界用語で、GPSと呼んでいる海外メーカーのライバル会社が3社あります。GはGEヘルスケア、Pはフィリップス・ジャパン、Sはシーメンスです。

坂本:超大手企業ですね。

小野:キヤノンや富士フイルムもライバル会社ですが、本当にグローバルに強いのは、GPSです。どこに行ってもそちらと戦っています。

坂本:こちらは内科に絞られているわけではなく、いろいろな診療科で用途がありますか?

小野:そうですね、健康診断や骨折などでも使用します。「X線TVシステム」に一番近いのは胃のバリウム検査です。ほかには、日本生まれの技術であるカテーテル手術で使われるものもあります。カテーテル手術は今まで切って手術しなければいけなかったのが、管を入れることで日帰り手術ができるようになり、グローバルでもどんどん広がっています。そうすると血管撮影システムが必要です。そのため、外科や放射線科などいろいろなところに販売しています。

医用機器②

回診用X線診断装置は売れましたが、それ以外はなかなか売れなかったということもあり、売上的には若干へこんでいます。

一方で利益率を高めるために、保守メンテナンス、いわゆるアフターマーケットに力を入れており、営業利益は改善傾向にあります。

産業機器

産業機器は、大きく2つあります。1つは「ターボ分子ポンプ」です。あまり見たことがない製品だと思いますが、別名「真空ポンプ」と言われており、中に大きな羽根があります。

羽根が回り真空にするもので、売上の70パーセント以上が半導体製造装置向けです。現在、半導体不足だと言われているため、半導体装置メーカーもどんどん装置を作っています。したがって「ターボ分子ポンプ」も絶好調です。

坂本:けっこう動く機械だと思いますが、消耗品ですか?

小野:基本的には壊れませんが、空気を吸うため羽根に汚れがつきます。汚れがどんどん溜まっていくと、最悪の場合、壊れることもあります。そのため、羽根を洗浄するアフターマーケットの市場であり、売上の2割くらいを構成しています。

坂本:御社がメンテナンスを行うということですか?

小野:おっしゃるとおりです。産業機器のもう1つは「油圧コントロールバルブ」です。スライドには、フォークリフトの絵を記載しています。このようにフォークの部分を、上げたり下げたりする動力源になっています。おそらくは新型コロナウイルスの流行直後は設備投資が止まり売上が落ち込みましたが、今は回復しており、フォークリフトや小型建機向けに好調に推移しています。

坂本:ニチユ(現三菱ロジネクスト)も、孫会社になっていたこともありましたね。

小野:資本関係はありません。歯車などを取り扱っていて、その技術を活かした製品です。

航空事業

航空事業は防衛省や民間航空機などのボーイング向けの商品を手掛けていますが、新型コロナウイルスの影響で飛行機が飛ばず、売上・利益とも非常に厳しい状況です。現時点では、赤字にしないことを命題に経費を削減し、1億円の黒字を目指している状況です。

坂本:売上が落ちても、利益は確保できるのですね。普通は固定費がかかるため、売上が落ちると赤字になりますが、こちらはどのような感じですか?

小野:ほかの航空機関連会社は赤字に陥っているところがあります。しかし、我々は赤字にしないことを最大命題とし、現在好調な「ターボ分子ポンプ」の部門などへ配置転換を行うなどで、固定費を圧縮しコントロールしています。

中期経営計画(2020年度から2022年度)改定版

基本コンセプトに「世界のパートナーと社会課題の解決に取り組む企業へ」と掲げ、パートナーのみなさまと社会課題の解決に取り組んでいきます。

来年度の目標は、売上高4,300億円、営業利益570億円とスライドに記載していますが、今年度の営業利益が610億円で、すでに超えているため、来年度に見直すと思います。

ほかには、緊急重要課題への取り組み、4つの成長戦略、成長基盤の強化を掲げています。今回は「感染症対策プロジェクト PhaseII」と成長4分野におけるヘルスケアを紹介します。

感染症対策プロジェクトの今までの動き

スライド下部に記載している青いグラフは、日本の新型コロナウイルスの感染者数です。一番右の増加しているところは、オミクロン株の流行によるもので、中央はデルタ株です。

2020年の3月頃から日本で流行りはじめ、4月には当社から「新型コロナウイルス検出用試薬キット」を発売することができました。こちらの試薬を開発できたのは、10年前にノロウイルスの試薬を開発しており、その技術を応用したためです。

加えて、通常の半分で結果が出るという、特許を取得している技術があり、早く作るため開発を急ぎで4月に上市しました。試薬だけでなく装置もほしいという要望もあったため、半年間でクリニック向けの「全自動PCR検査装置」も作り、現在までに1,000台以上設置しています。

仕組み作りも推進しています。スライドの四角で囲っている部分に記載しているとおり、京都産業大学やDMG森精機とPCR検査センターを設置し、学生や社員の方の陰性証明を行う仕組みを設けています。今年2月には、塩野義製薬と下水モニタリングの合弁会社も設立しました。

感染症対策プロジェクト PhaseII(「仕組み作り」を推進)

新型コロナウイルスの感染者の糞便の中には、ウイルスが存在することがわかっています。下水モニタリングがどのようなビジネスモデルかと言いますと、ビルの下の下水道に装置を垂らし、引っ張り上げてモニタリングすると、感染者がいることがわかります。

つまり、便をした方がコロナになっていることがわかり、その方に対してPCR検査を行えば早期発見につながります。実際に、高齢者施設などでサービスも行っています。

我々も塩野義製薬も同じようなサービスをしていたため、両社で一緒に行いましょうということで合弁会社を作り、2月から自治体などに対して感染者の早期発見をしていくよう働きかけています。

認知症への取り組み

認知症は、アミロイドβが脳内に溜まり、発症することがわかっています。このアミロイドβがどれだけ溜まっているか調べるためには、30万円から40万円もする高額なPETの診断を受けるか、髄液検査という、とても痛い検査しかなかったのですが、我々の技術では、数滴の血液から検査が可能です。

こちらは、先ほどお話に出た、田中耕一が行っている技術で、現在も陣頭指揮をとりいろいろな開発をしています。昨年の新製品の記者会見でも、田中耕一が説明しています。

血液数滴でアミロイドβがあるかないかがわかる計測機器の技術で、医療技術としては頭と乳房、いわゆる乳がんに特化したPETも作っており、非常にきれいに映ります。

今後認知症の薬が認可されると、薬を投与するかどうかの判断はアミロイドβの量を測ることが必要になるため、我々の計測技術や医療技術が役に立つのではないかと考えています。

新たながん治療法に挑む がん光免疫治療

新たながん免疫治療をアメリカ国立衛生研究所、アメリカ国立がん研究所の小林先生と一緒に取り組んでいます。特殊な薬剤を打つと薬剤ががん細胞に集積するため、特殊な光でがん細胞を破壊するということを行っています。

楽天メディカルと一緒に日本で治験を始めて、つい先日はアメリカでも治験を始めたとリリースしました。

坂本:近赤外線を当てるものですか?

小野:そうですね、近赤外線でがん細胞を破壊するということです。

すべての製品をエコ化

サステナビリティについて説明します。ESGのEである環境については、製品のエコ化を推進しています。島津グループの「エコプロダクツPlus」というものがあり、こちらの商品において、お客さま側でCO2排出が抑制出来た量と我々のCO2排出量を比べると、2019年に逆転しました。今後もより環境にやさしく、CO2排出量の少ない製品を出していきたいと考えています。

事業における環境負荷低減「CO2排出量の削減」

事業におけるCO2排出量の削減として、2018年に30パーセント削減という目標を出しました。しかし、前菅政権が2050年に「カーボンニュートラル」を達成すると打ち出される前に設定した目標のため、来月にはもう一歩踏み込んだ目標を出したいと考えています。また、「TCFD宣言」や「RE100」にも参加しています。

ダイバーシティ

ESGのSのダイバーシティでは、科学技術を生み出す源泉ということで「なでしこ銘柄」や「新・ダイバーシティ経営企業100選」で、外部の賞をいただいています。

KPIはスライドの右側に記載しています。女性管理職の比率が約4パーセント、女性の正社員比率が約20パーセントで、まだまだ低い状況です。新卒採用の7割か8割は理系の大学院卒のため、母集団は男性が多くなります。

我々としては、新入社員の3割は女性がほしいということで、リケジョを含めてそのようなところにアプローチをして、最近は約30パーセントが女性です。管理職になるには少し時間がかかるため、もうしばらく経つと女性の比率も高まっていくと考えています。

科学技術振興と人材育成

科学技術振興と人材育成においても、さまざまな取り組みをしています。スライド中央に記載している学校法人島津学園の京都医療科学大学は技師を養成する学校です。「X線診断装置」を作っているとお伝えしましたが、「放射線の技師も養成したい」ということで、京都府南丹市にそのような学校があります。

スライドの右側に記載しているのは、大学と組んで社員を大学院に送り込み、さまざまな勉強をして博士課程で博士になってもらい、知識をフィードバックしてもらうということも行っています。

コーポレートガバナンス

コーポレートガバナンスについて、スライドには取締役の構成が8名の3分の1が社外取締役と記載しています。しかし、ちょうど昨日適時開示を行い、今年6月の株主総会の承認が前提となりますが、半分の4名となる予定です。

指名・報酬委員会も設けており、社外の方が委員長で、後継者や報酬などを決めることになっています。スキルマトリックスについても定めており、報告書などに掲載しています。

社外からの評価

社外からの評価は、GPIFが採用するサステナビリティ指数の組み入れや、健康経営銘柄、環境への取り組みに対しても、スライドに記載しているような賞を受賞しています。IRでも、昨年、日本IR協議会から、初めて「IR 優良企業賞」をいただくことができました。

株価推移

株価と配当です。スライドに記載している株価4,100円は、2月18日時点です。昨日の終値は4,035円でした。時価総額は約1兆2,000億円で、上場会社で言いますと昨日の終値では119番と、110番から120番くらいにつけています。

株価についてですが、我々は中計期間中に区切っており、前々回の中計期間は株価が1.9倍で、前回は1.6倍です。今回の中計期間では、今のところ増減しつつも株価は上昇しています。

配当

総還元性向は30パーセントを目途にしています。我々はR&D型企業のため、研究開発、設備投資、もしくは足りない技術を買うためにM&Aなどにも積極的に投資したいと考えています。配当は8期連続の増配で、今年は41円を予定しています。

坂本:配当性向は30パーセントを目途に維持されると思います。仮に自社株買いを行う場合、配当は落ちますか? それとも、それを含めた総還元性向ですか?

小野:現時点における総還元性向で30パーセントです。41円という配当については、「中間期に41円に増配します」ということになりました。2月4日に第3四半期の決算を発表し、その時に上方修正したのですが、配当については上方修正しませんでした。したがって、通期の決算次第では増配の可能性があるということをお伝えしておきます。

坂本:M&Aについての話の中で「足りない技術を買う」とのことですが、どのような分野を強化されたいとお考えですか? イメージで構いませんので教えてください。

小野:アフターマーケット、アフターサービス、消耗品、試薬などに対応している会社を手に入れたいと考えています。

実際、3年前にフランスの試薬の会社を買収しました。また、メンテナンスやサービスについては人がいないと何も始まりません。2年前には北米の販売の代理店を買収し、自社の子会社にしました。

まとめ

我々は力を入れている研究開発の分野で、他社との差別化を図りたいと考えています。今後、よりグローバルに展開していきたいと思っており、主力の計測機器事業についてもヘルスケア市場、カーボンニュートラル市場など、これから伸びていく市場に対して、様々な製品・ソリューションで対応していきたいと思います。

また、8期連続増配ということで、株主還元も行っていこうと考えています。我々により関心を持っていただけると幸いです。本日はありがとうございました。

質疑応答:会社を牽引していく事業について

八木:「大変多岐に渡るビジネスを展開されていますが、将来的に会社を牽引していくのはどの事業で、また、どの地域であるとお考えですか?」というご質問です。

小野:事業の中心となるのは、やはり計測機器事業です。足元で製薬向けが伸びているとお伝えしましたが、その契機となったのはコロナ禍でした。どの国にも製薬企業は存在しますが、薬を作るための原薬がコロナ禍により入手しづらくなり、結果として薬を作ろうにも作れないということになってしまいました。

そのため、自国で製薬のサプライチェーンを完成させようという動きが各国で出てきており、それによって我々の計測機器が必要とされ、購入してもらうことにつながっています。

また、コロナ禍を収束させるためにはワクチンだけでなく、やはり画期的な医薬品が必要という声が高まり、創薬に関して、各国政府が補助金を出したり、投資が盛んになったりという動きが出てきています。例えば質量分析計は4,000万円、5,000万円もしますが、創薬には不可欠なため、我々のヘルスケア、製薬の分野は大変伸びているのです。

加えて我々の分析機器というのは化合物を分析することが多かったのですが、今後は血液、尿、汗といったものを分析する臨床分野で使用されることが増えると考えています。臨床市場は、中国やヨーロッパで伸びており、今後はグローバルで伸びると考えています。

少し先の未来については、グリーンが有望な市場です。ゼロカーボンという観点から、電気自動車や水素が注目されています。電気自動車を作る上で求められるのは車体を軽くすることで、それには新素材の開発が欠かせません。

また、リチウムイオン電池の本来の性能が発揮されているのかどうか、モーターが正しく垂直についているかどうかを調べるための機械の需要も注目です。水素に不純物が交じっていないかどうか、さらにバイオ燃料についてもフランスのトタルというメジャーな会社と組んで研究を進めています。このようなことからも、市場が着々と広がっていることがわかるかと思います。

したがって、計測機器のようなこれから伸びる市場については、我々も経営資源を投入していきます。また、これから伸びていく市場ということでは、欧米、アジア、中国だと考えています。

質疑応答:山本新社長の得意分野・経歴・ミッションについて

坂本:「4月に経営層の異動がありましたが、山本新社長の得意分野、経歴、またミッションなどありましたら教えてください」というご質問です。

小野:IRも担当している山本ですが、山本を含めると継続して計測機器の技術者が社長に就任していることになります。ただ、計測器の技術者といっても山本は物理についても明るく、従来の社長は化学に明るいといった違いがあります。さらにヨーロッパでの社長、製造担当、経営戦略、IR担当、さらにCFOなど幅広い経験があります。

IRを担当していることから、年間50件から60件の面談で厳しい声を聞いていることもあり、投資家の声をマネジメントとして反映でき、このことも適任と考える理由です。

八木:技術者でありながらいろいろな数字についての理解が深いというのは、本当に素晴らしいですね。

質疑応答:半導体不足の影響について

坂本:「半導体不足の影響について、現在の状況を教えてください」というご質問です。

小野:上期はなんとか乗り切ることができましたが、第3四半期、10月から12月期を見ますと、半導体不足が顕在化し、半導体とコネクターと電源が手に入らず、計測機器や医療機器を作ることができないケースもありました。両者合わせて十数億円の受注をいただいたのに、作られなかったということもあります。

半導体が少なく、1個100円だったものが、今は購入すると1万円ちかくになります。したがって、原価率がアップしましたが、影響額は1桁の真ん中億円から少し下くらいです。我々の規模からすると、そこまで大きな影響はないと考えています。

古いアナログ半導体は、手に入れることが難しい一方、新しい半導体については、ある程度は入手できるため設計変更を進めているところです。研究開発については一旦設計変更を優先しました。また、コロナ禍でコネクターや電源が手に入らないということがあったため、1社購買ではなく、いろいろなところで作ってもらうということを現在進めています。

八木:半導体製造装置に部品を出しているということですが、半導体不足の影響も受けているということですね。

小野:半導体製造メーカーが半導体不足で作ることができないようです。

坂本:お互いに困っているのですね。

八木:解消する見通しについてですが、会社としてはいつから正常化すると見ているのでしょうか。

小野:来期の9月末くらいまでには解消すると考えていました。しかし現在は、3ヶ月、半年になるかはわかりませんが、まだ少し伸びると考えています。今年の上期での解消というのは、少し甘い見通しかもしれません。

質疑応答:人材の確保について

八木:先ほど、人材についてのお話がありました。やはり各社、優秀な人材の獲得に大変苦労されていると思います。それを踏まえて、御社の魅力や、工夫されていること、さらには社内の育成に関して工夫されていることがあれば教えてください。

小野:私が入社した当時と比べると、今の学生はSDGsへの関心が高く、社会に貢献したいという気持ちが大変強いと感じます。そのような意味で、我々はヘルスケアの分野で、例えば医用関係など、社会に役立つ装置を作っているため、学生に興味を持ってもらいやすいと考えています。

坂本:学生にとって就職したいと思わせてくれる企業ということですね。

小野:ただし、優秀な人材がいると取り合いになるため、その辺に関しては、ファシリティを高めていくなど、アピールしたいと考えています。

研修では、例えば、海外研修も実施しています。女性登用では、ちょうど管理職手前に出産や結婚といったライフイベントを迎えるために、その前にいろいろな事を経験をしてもらうような準備も進めています。

また、月曜日、水曜日、金曜日を「ノー残業デー」にしたり、英会話などの通信講座に補助したり、時間を有効活用してスキルアップしてもらう「スキルアップデー」も設定しています。

質疑応答:優位性を高める仕組みについて

坂本:「アメリカなど世界の競合と比較した技術の優位性と、今後の優位性を高めていく仕組みについて教えてください」という質問がきています。事業セグメントがかなりばらけているため、御社で絞っていただいて構いません。

小野:では、主力の計測機器についてご説明します。我々の競合はすべて、アジレント社、ウォーターズ社、サーモフィッシャー社といったアメリカのメーカーです。我々の強みは「早い、使いやすい、汚れにくい」です。

「早い」というのは分析が早いということです。「汚れにくい」というのは、分析結果における精度の高さです。実は、水とお茶とコーヒーを分析する時に、お茶のあとにコーヒーを分析すると、お茶の成分が残っていたりすると異なる結果が出てしまい、つまり「汚れる」ことがあるのです。その意味で、「汚れにくい」というのは現場の人間にとって大変ありがたい特徴と言えるのではないかと思います。

「使いやすい」ということについては、ベテラン技術者が持っているノウハウをコンピュータに覚え込ませ、よりよい結果が出るようにしています。分析時は温める必要があるのですが、これを知らないと結果が変わってしまいます。「まだオーブンが温まっていないから待ちなさい」ということを、コンピュータが教えてくれるというわけです。

他には消耗品がなくなっていると、iPhoneやiPadに、そのことを伝えるメッセージが出るようになっていたりします。このような使いやすさというのは日本製品の強みだと思います。分析に関して、朝見ると、失敗していたというケースは約40パーセントもあるのが現状です。

坂本:大学院生のみなさんは同じような経験をされた方が大勢いらっしゃるのではないでしょうか。

小野:よくありますね。そのような機能を持った製品というのは、大学の教授が一番喜びますし、学生に壊されることがなくなったという話もあります。

質疑応答:木製のSDGsバッジについて

八木:小野さんが付けているSDGsバッジは木製ですが、自社で作っているのですか?

小野:自然保護活動をしている職員が、京都の南丹市にある「島津製作所の森」の間伐材でバッジを作っています。