2021年3月期決算説明会

五嶋祐治朗氏:おはようございます。社長の五嶋です。本日はよろしくお願いいたします。まず初めに、私から概況をお話しいたします。

2020年度は、後半中期経営計画の最終年度でしたが、売上収益4,000億円、税引前利益400億円の目標に対して未達となりました。ベルギーのSAPプラントと米国SIRRUS(シラス)での減損もありまして、営業利益は159億円の赤字となりました。

欧州を中心に、紙おむつメーカー間の競争激化によりSAPへの値下げ圧力が依然として強く、短期的には厳しい状況が続くと見て、ベルギーSAPプラントについて、上期の約18億円に加えて、第4四半期に約100億円を減損損失として追加計上しました。

また、SIRRUSについては、2017年3月の買収以来、新たな事業として期待を込めて展開を図ってきましたが、市場の確度が十分に取れず、事業化見直しの変更が必要となり、今回93億円減損いたしました。ただし、顧客での評価は進んでおり、今後は日本を拠点として開発を進めていきます。

2020年度下半期は、アクリル酸エステルをはじめ各種製品の需要はアジアを中心に回復してきておりまして、営業利益から非経常項目である減損影響を除いた数字はプラス約50億円となります。

さらに、今年度は販売と市況もさらに回復しており、営業利益130億円の黒字の見通しで、着実に業績回復が進んでいます。

今年度と来年度にかけてV字回復を果たし、先日発表した2030年への長期ビジョン「TechnoAmenity for the future」を推進していきます。長期ビジョンについては、後ほどご説明いたします。

1.2020年度 業績

では、本日は前半で中期経営計画の振り返り、後半に新しい長期ビジョンについてお話しいたします。まずスライド4で2020年度業績について説明します。前期比の減収・減益要因については、ここに記載のとおりです。営業利益から非経常項目の減損を除いた場合、上期から下期へは41億円改善し、各種製品の販売回復が寄与しました。

2.2021年度 業績予想

次にスライド5で今年度業績見通しについて説明します。ナフサ価格前提を4万4,000円/kLとし、販売数量効果等により売上収益3,000億円と増収を見込んでいます。

営業利益は、減損損失がなくなることに加え、販売数量の増加と加工費の減少により増益となり、130億円を予定しています。強い覚悟を持って、確実に達成してまいります。

3.利益還元策

次にスライド6で利益還元策を示します。ここに示す基本方針を堅持しつつ、業績に鑑み、2020年度配当は計画どおり1株あたり90円とさせていただきます。2021年度配当予想は、前期と同額の90円に創立80周年記念配当10円を加えて、100円であります。

4.中期経営計画(2017年度-2020年度)概要

では、この後、昨年度までの中期経営計画の進捗と振り返りについて説明します。スライド8では、中期経営計画「新生日本触媒2020NEXT」の概要を示しております。

4.中期経営計画「新生日本触媒2020NEXT」概要

そして、スライド9は中期経営計画の方針です。これから、左下にある「重要課題に対する施策」2項目について、その進捗と振り返りをご説明いたします。

5.中期経営計画:重要課題に対する施策①1/2

まずスライド10で、SAP事業の競争力強化について、市場動向と併せ説明します。2020年度はコロナ禍の影響により、アクリル酸、アクリル酸エステル需要は低下しましたが、足元需要は回復してきております。中長期的には、コロナ禍からの経済回復とともに、図に示すように需給バランスは改善する方向と見ております。

SAPの需要については、2020年度はコロナ禍の影響によりヨーロッパを中心に減退し、横ばいとなりましたが、需要の底は2020年度上期で、これから回復すると見ており、SAPの中長期的な成長見通しに変わりはありません。各社の設備増強計画がない中、図に示すように、需給バランスは改善していくと見ています。

5.中期経営計画:重要課題に対する施策①2/2

次にスライド11で、アクリル酸・SAP事業における当社の取り組みについて説明します。まず生産面では、抜本的なコスト削減策である「SAPサバイバルプロジェクト」を足元で強力に進めています。

主な施策として、生産効率を上げることによる大幅な生産コストダウンを進めています。具体的には、古く生産性の悪い設備を停止し、比較的新しい設備へは生産効率を高める技術を導入しています。この技術導入は、全拠点で今年度にほぼ完了し、需要の回復とともに効果を発揮していきます。

製品面では、データサイエンスを駆使して開発スピードを上げ、かつ、開発コストを下げております。超速乾性SAP、リサイクルSAPなどの開発を進めています。

以上のように、生産面、製品面でのこれらの改善策により、今後のSAP収益性改善を進めていきます。また、4月から吸水性樹脂事業部をアクリル事業部に統合しました。今後、さらにアクリル酸・SAPトータルでSAP事業の競争力強化を推進し、さらなる収益性の改善を進めていきます。

6.中期経営計画:重要課題に対する施策②1/4

次にスライド12から、新規事業・新規製品の創出加速の状況を説明します。ここに示す3分野8領域をターゲットとして取り組んできました。

6.中期経営計画:重要課題に対する施策②2/4

まずスライド13で、エネルギー・資源事業分野における取り組みを示します。モビリティ領域でのリチウムイオン電池用電解質「イオネル(LiFSI)」は2023年度春稼働の予定で、年産2,000トンの設備増強を進めています。2024年には売上100億円超えを目指します。ヨーロッパを中心としたEV需要の高まりを受け、お客さまからも期待されております。

次にエネルギー変換領域では、主にこれら3テーマに取り組んでおります。グリーン水素へのニーズの高まりを受け、アルカリ水電解用セパレーターでは、実用化に向けて、お客さまでの評価が進んでおります。次世代エネルギーの実現に向け、さまざまな新しい部材開発を進めています。

このエネルギー・資源事業分野では、カーボンニュートラルのニーズの機を捉え、集中的にリソースを投入し、果敢に挑戦していきます。

6.中期経営計画:重要課題に対する施策②3/4

次にスライド14はライフサイエンス事業分野です。化粧品領域では、当社での評価ノウハウの蓄積をもとに、モデル配合と使用方法を含めたお客さまへの提案型営業を進めており、新規開発品が採用されるなど成果が出てきております。

医薬品領域では創薬支援事業の確立を目指し、核酸医薬、ペプチド医薬、DDS領域への参入を進めています。GMP製造体制を確立し、3月末に原薬のGMP製造を完了し、出荷しました。この実績をもとに、この4月から原薬受託などの営業活動を本格的に開始しております。

6.中期経営計画:重要課題に対する施策②4/4

スライド15は情報ネットワーク事業分野の取り組みです。「iOLED」ではパイロットラインを立ち上げ、お客さまで、実用化に向けた試験が進んでいます。

新規事業でもDXを推進しています。データサイエンスの活用においては、すでに実用の領域に入っています。現場で実験する研究員へのデータサイエンス教育も進み、複数のテーマで研究開発効率化の成果が出てきております。

デジタルマーケティングも積極的に推進しており、マーケティングサイトが立ち上がり、潜在ニーズと潜在顧客の発掘を進めています。

以上、後半中計の2つの重要課題に対して説明いたしました。それぞれ一定の成果はありましたが、いずれも計画未達となりました。その原因を分析し、そこから抽出された課題をスライド16にまとめております。

7.中期経営計画 重要課題振り返りのまとめ

SAP事業では「SAPサバイバルプロジェクト」の遂行と環境変化への迅速な対応が主な課題です。新規事業の創出加速では、特にマーケティング力の強化が重要な課題と認識しています。

これらの課題を踏まえ、2030年の目指す姿とその実現の方向性を議論し、長期ビジョンを定めました。次のスライド以降で長期ビジョンについてお話しいたします。

8.長期ビジョン 日本触媒グループ企業理念

スライド18に移ります。まず長期ビジョンをここに示しますように「TechnoAmenity for the future」と命名しました。社会トレンドや社会課題、そして当社グループの企業理念「TechnoAmenity」に込めた思いをあらためて掘り下げ、それらをベースに長期ビジョンを議論しました。

9.長期ビジョン 目指す姿と3つの変革

スライド19に示すように、2030年の目指す姿として「人と社会から必要とされる素材・ソリューションを提供」「社会の変化を見極め、進化し続ける化学会社」「社内外の様々なステークホルダーとともに成長」と定めました。

この目指す姿に向けて「事業の変革」「環境対応への変革」「組織の変革」の3つの変革を進めていきます。「これまでの延長線上では成長できない。変革なくしては成長はない」との強い危機感を持っております。これら3つの変革についてご説明いたします。

10.長期ビジョン 事業の変革:事業戦略

スライド20では1つ目の「事業の変革」についてご説明いたします。事業をマテリアルズとソリューションズの2つに分け、目標と責任を明確にするため、2022年度より外部発表セグメントを変更する予定です。なお、SAPはマテリアルズに含めております。

10.長期ビジョン 事業の変革:事業ポートフォリオ

次のスライド21で目指すポートフォリオをご説明いたします。ソリューションズ事業拡大にリソースを投入し、市場競争が激しく、かつ、市況変動の激しい事業となったマテリアルズに頼ってきた、これまでのポートフォリオからの変革を目指します。

ソリューションズ事業を拡大し、2030年にはソリューションズの売上構成を50パーセント以上とします。収益率の高いソリューションズを拡大することにより、経済環境変動への耐性を上げ、結果、ROAは8パーセント以上を目指します。

10.長期ビジョン 事業の変革:各施策

マテリアルズはDXも活用し、徹底的なコスト削減、他社とのアライアンスや事業再編により、収益を向上していきます。また、脱炭素・リサイクルも推進していきます。SAPについては、「SAPサバイバルプロジェクト」をしっかりと推進し、稼ぐ力を回復します。

ソリューションズは、マーケティング力の強化とともにタイムリーな生産・供給体制に整えていくことで、事業の拡大と収益の向上を進めていきます。ソリューションズ事業については、次のスライド23で詳しくお話しします。

10.長期ビジョン 事業の変革:ソリューションズ

ターゲット分野は、これまでの中期経営計画で進めてきた分野を基本として、ここにあるように定めました。今後、注力する分野・領域をさらに絞り込み、成長分野にリソースを集中させていきます。

前半の振り返りでご説明いたしましたように、リチウムイオン電池用電解質「イオネル」、中分子医薬、化粧品素材など、さまざまな新規事業・新規製品の芽が出てきております。

しかし、これらだけでは十分ではありません。引き続き、成長分野での新たな事業創出に取り組んでいきます。そのためには、当社の課題であるマーケティング力の強化が必須です。

これまで、「0」から「1」を生み出すことはできていたとしても、市場のニーズや時機を見極めて、その「1」を「10」に、「10」を「100」にしていくマーケティング力と事業化推進力が課題でした。

この4月に、事業部門と研究部門との両方の組織を見直し、マーケティング力強化と事業化推進力を強化していきます。また、自前、自力だけにはこだわらず、他社との協業やM&Aも十分に活用して、収益率の高いソリューションズ事業を拡大していきます。

11.長期ビジョン 環境対応への変革

次にスライド24で2つ目の変革「環境対応への変革」について説明します。化学産業にとって、カーボンニュートラルへの対応は事業存続の必須課題であるとともに、我々にとって大きなチャンスと捉えています。

ここに示すように、原料のバイオマス化によるCO2削減に加えて、環境貢献製品やCO2吸収・CO2変換技術などの販売拡大によるCO2削減を軸に進めてまいります。ここには触媒技術などの当社が培ってきた技術が活かせると考えております。

昨年の4月には、研究部門を中心としたサステナビリティに関するプロジェクトを設置し、脱炭素社会の実現に向けて注力すべきテーマや目標を検討してまいりました。

すでにバイオマス原料については、いくつか具体的な検討が進んでおります。2022年度からの中期経営計画では、カーボンニュートラルに向けての具体的な目標を設定し、実行してまいります。

12.長期ビジョン 組織の変革

次のスライド25では3つ目の「組織の変革」についてご説明します。ここに示すように、人財育成、組織改革、ガバナンス強化のそれぞれで具体的な施策を打ち出し、個人と組織がともに成長できる仕組みと風土を早期に実現していきます。

この4月には、各本部長クラスで長期ビジョンに基づいた野心的な目標「ムーンショット」を設定し、これを社員に公開することにより、社内でビジョンと目標の明確化をはじめています。

同じくこの4月に、多様な人材の活用を推進するためD&I推進グループを設置いたしました。また、チャレンジを推奨する風土を育むことを目的として、2022年度に新たな人事制度を導入し、チャレンジする人材を評価していきます。

13.長期ビジョン まとめ

スライド26にあらためて示しますように、3つの変革を成し遂げて、2030年の目指す姿に到達いたします。2022年度4月からの中期経営計画は、この長期ビジョンに基づいて策定いたします。中期経営計画年度は2022年度からとなりますが、今年度はそれに先立ち、中期経営計画「0年度」として3つの変革をさっそく進めております。

必ず業績をV字回復させ、2030年に向けた次の成長ステージに強い意志をもって踏み出してまいります。引き続きのご理解とご支援をお願い申し上げます。以上で、私からの説明を終わります。ご清聴ありがとうございました。