アジェンダ

秋元洋平(以下、秋元):みなさま、こんにちは。これより「決算説明会の成功パターン〜業界20年のプロが語る 資料編〜」を始めます。ご視聴のみなさまは、日々機関投資家の注目度を高めるために、決算説明会をよりよいものにしたいと考えていると思います。本日のセミナーでは、特に決算説明会資料にスポットを当てたコンテンツをお届けします。

この後、モルガン・スタンレー、JPモルガン、ドイツ証券において20年近くにわたりIRミーティングやロードショーに関わってきた、MIHアドバイザリー株式会社代表取締役の牧さんから投資家に響く決算説明会資料の作り方を学ぶことで、みなさまの情報発信のヒントをご提供できればと思います。

〜QAタイムの参加方法〜

秋元:質疑応答の時間も設けていますので、ご質問のある方は「Zoom」のQAボタンからいつでも投稿していただければと思います。

ファシリテーター

秋元:あらためまして、私は秋元と申します。簡単に自己紹介します。2016年にログミー株式会社に入社し、翌年にIR情報の書き起こしメディア「ログミーFinance」を立ち上げました。現在は、同メディアと金融・IR関連のサービスとのアライアンスであったり、個人投資家向けであったり、企業さま向けのイベントの企画・運営をしています。今日は少しでもみなさまのお役に立てればと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

1.決算説明会資料のエッセンス

秋元:それでは、決算説明会資料のエッセンスへ移ります。まずは、MIHアドバイザリー株式会社代表取締役の牧さんからご説明をいただきたいと思います。牧さん、今日はよろしくお願いします。

スピーカー①

牧知秀氏(以下、牧):よろしくお願いします。みなさま、こんにちは。MIHアドバイザリー代表取締役の牧と申します。今日は「決算説明会の成功パターン〜業界20年のプロが語る 資料編〜」というテーマでお話しします。

先ほどご紹介いただきましたが、私は証券会社でコーポレートアクセスの責任者として機関投資家向けにサービスを提供してきました。ただ、自分としては、より多くの価値を投資家ではなく、事業会社に提供できるのではないかという思いが強くなり、昨年にこの会社を設立しました。

MIHアドバイザリーの事業内容

:MIHアドバイザリーの主なサービスは、中小型の事業会社に特化したIR業務全般へのコンサルティング、アジア投資家をメインのターゲットとしたIRロードショーのアレンジメントです。

お話を始める前に、みなさまに1つ聞いてみたいことがあります。決算資料を作る時、みなさまは何を一番大事にしていますか? 何に重きを置いて資料を作成されているのでしょうか? 今日はみなさまにとって基本的で大事なことを振り返る機会にしたいと考えています。

効果的なIRに必要なこと

:最初にIRの基本的なことをお話しします。このスライドは、20年以上前に私がモルガン・スタンレーでコーポレートアクセスチームを立ち上げた時に使っていた、マーケティング資料の1枚です。

「そのような昔にすでに私はこれだけIRの本質を理解していたのです」と自慢したいところですが、現実はそうではありません。当時、私を含めて東京オフィスにはそれほどIRのことをわかっている人はいなかったのです。よって、海外のチームが作成していたいろいろな資料を見て、そこからこのスライドを作成しました。

その後20年以上経ち、IRはすごく変化・進化したのですが、ここに書かれている本質は変わっていません。IRは、投資家に対するマーケティングであり営業です。事業会社にとって貴重な情報収集の機会でもあります。また、会社・投資家・市場・その他ルールが常に変化する中で、それに対応して「Dynamic」「Flexible」そして「Agile」な対応が必要です。

一方で、会社としてブレない態度、「Integrity」も大切です。そして、誰に対しても「Transparent」、透き通ったフェアな情報開示がマストです。みなさまにとっては決して目新しい内容ではないかもしれませんが、常にここに立ち返るのは非常に大事だと考えています。

会社の成長ステージによって、必要な資料は変わる

:さて、資料についてのお話に移ります。会社の成長ステージによって求められる資料の中身は変わってきます。上場してからそれなりに時間が経ち、すでに多くのセル・バイサイドの人たちがカバーしている大企業の場合、彼らに対するアップデート・説明責任がメインの目的になります。

一方で、新興企業の場合は大企業と同様の目的に加えて、より多くの投資家に会社のことを知ってもらうために、会社の紹介が重要な目的になります。このウェビナーに参加されているのは新興企業の方が多いと聞いていますので、そちらにフォーカスしてお話を進めます。

ここでみなさまにグッドニュースがあります。それは、次のページで述べる2つのポイントを押さえるだけで、みなさまの決算資料は劇的に改善するということです。

資料作成のために、まず最初に認識すべきこと

:資料作成にとって最も重要なことは、このスライドに書いてあることに尽きます。「会社が伝えたいメッセージは何か」「投資家が聞きたい情報は何か」です。これらを正確に把握して正しく反映できれば、その決算資料の成功は約束されたも同然です。

会社が伝えたいメッセージは、マネジメントの意向を反映して最初に決めるべきことです。会社のビジネスモデルを知ってもらいたいのか、中期のビジョンについて語りたいのか、足元の決算内容から会社の高い収益性や成長性をアピールしたいのか、全員で明確なメッセージを共有することが非常に大事です。

一方で、先ほど述べたとおり、IRは投資家に対するマーケティング・営業です。よって、いくら会社のメッセージが明確に表されていたとしても、顧客である投資家が求めるものを提供しないのであれば、その資料はまったく意味のないものになってしまいます。

例えば、投資家がその会社の中期的なトップラインの成長性に興味を持っている時に、詳細な費用分析に資料の多くのページを割いたとしても、高い満足度を得ることはできないはずです。では、どのようにして投資家の関心を把握するのでしょうか?

株式市場とのInteractive Communication

:ここで、「Interactive Communication」が重要になります。IRは事業会社にとって発信だけではなく受信の機会でもあるべきです。例えば、セルやバイサイドとのミーティングの最後に数分間のフィードバックの時間を設けるだけで、多くの情報を手に入れることができます。

MIHアドバイザリーでミーティングのアレンジを行う時は、後日しっかりした投資家フィードバックのレポートを提出しますが、通常はそのような情報が提供されることは稀です。ですから、自身でそれらの情報を入手する必要があるわけです。

さらに、ミーティング中の投資家の反応からも多くを学べます。例えば、毎回資料にバランスシートを載せているが、それについて質問されることがほとんどない場合、そのバランスシートのページをメインの資料に載せ続ける必要はあるのでしょうか? 必要ないならAppendixに持っていくことも検討すべきです。

また、たくさんの企業が説明会でのアンケートを取られていますが、これもいろいろな情報ソースになると思います。ただ、あらかじめ用意された通り一遍の質問項目を挙げているケースが非常に多いのですが、それでは情報がどこまで役に立つのか疑問を持つことも多いです。

集めるべき情報の例をスライドに記載しています。これ以外にもいろいろ思いつくと思いますが、おすすめはベンチマークにすべき会社について聞くことです。これは非常に参考になる意見だと思います。とにかく聞きたいことがあれば何でも聞いてしまってください。

一般的な決算資料に含まれる項目

:では、決算資料にどのような内容を含めるべきなのでしょうか? このページに一般的な内容をまとめましたが、このような情報はすでにみなさまも十分把握されていると思います。

私自身は毎四半期50社を超える中小型の会社の決算資料に目を通しています。実際、その中で80パーセントから90パーセントくらいの会社が、すでに必要と思われる情報をカバーした資料を作成しています。

この点においては、過去10年で業界全体の資料の質は大きく向上したと考えています。あとは「会社のメッセージ」「投資家が聞きたいことがしっかり反映されているか」がポイントになるわけです。そのための注意点についてお話しします。

会社紹介に関して最も大事なのは、やはりビジネスモデルと強みです。この点をいかにわかりやすく伝えられるかは資料の成否を大きく左右します。

決算の項目では、投資家が注目するKPIについて、わかりやすく実績・今後の見通しを表すことがポイントです。また、中計は、会社・投資家にとって「夢」の部分になりますので、こちらを新たに発表する場合は決算とは別資料にすることも検討すべきだと思います。さらに、それ以外の重要な情報があれば、なるべくAppendixに持っていきましょう。

本日お話ししたのは、決算資料を作成する上での基本的な心がけです。非常に基本的な内容ではあるのですが、これを心に留めておくだけでも投資家を満足させる資料を作成できると私は信じています。

2.質疑応答

秋元:それでは、質疑応答に移ります。みなさまも「Zoom」のQ&A欄からテキストで随時ご質問をいただければと思います。

Q.情報が多くなる原因は?

秋元:今回、事前にみなさまからご質問をいただいていますので、まずはそちらからお答えいただきたいと思います。「情報が多くなる原因は?」ということで、ご説明いただいてもよろしいでしょうか?

:冒頭にご説明したとおり、会社が置かれている状況により求められる決算の資料は異なります。実際、かなりの大企業でいくつもの事業部門があり、相当長くトラックレコードがあったりすると、それなりにたくさんの情報を求められるケースがあるのは事実です。ただ、より新しい会社を想定すると、1ページにあまりにも多くの情報が載せられているのは決して親切ではないと考えています。

では、なぜそのようなことが起こるのかと言うと、「More is better」といって、たくさん提供するのがより親切であり投資家のためであるという勘違いがあるためです。これは見にくくなるだけで、重要なメッセージが埋もれてしまうということで、むしろ不親切です。

また、会社のメッセージや実績に自信がない場合に、聞かれるであろう情報をとにかく全部最初から載せてしまうという理論武装をするのも原因になると思います。

さらに、本来は会社のメッセージや投資家が何を聞きたいかというテーマを持って資料を作成するべきなのですが、非常に気をつけていただきたいのは、毎回なんとなくの流れ作業で作成し、それなりに資料がたまってきても、それをどんどん入れ込んでいっているケースです。実は非常に多いのですが、これが情報が多くなる原因です。

また、最終的には、実際に発表する前にレビューをしていると思うのですが、そこで本当に投資家の立場に立ってレビューをしているのかどうかです。客観性を持ってできていないのです。そのようなところが情報が多くなりすぎる原因ではないかと考えています。

秋元:確かに、1on1などで投資家によって細かく求められる数字が異なると、「その事象をもとに説明会資料にすべて載せたほうがよいのか」と思われると思うのですが、必ずしもそうではないということですよね。

:おっしゃるとおりです。それを求める人がいるのは確かに事実ではあるのですが、割合で見てみると比較的知識がない人や初めて見る人が多いです。個人投資家も含めると、ほとんどの投資家は最初はそこまで求めていないと思います。

別のかたちで提供するなど、投資家が見たければ見にいけるものを提供していれば、必ずしも決算資料というかたちで提供する必要はないと思います。

秋元:限られた時間の中で何の情報を出すかというところの重要性ですよね。

:そうだと思います。

Q.スライド作成のコツは?

秋元:では、次の質問に移ります。「スライド作成のコツは?」ということで、こちらのご説明をお願いします。

:先ほどの情報過多にも関わるのですが、本当は1スライドにつきメッセージは1つにしてほしいと考えています。もちろん、説明する文章を付け加えることはあると思うのですが、そのページで何が言いたいかを1つにすることが重要です。

あわせて、なるべく文字は少なくします。これは昔からずっと言われていることです。親切心ですべて書いているのだと思うのですが、それによってメッセージが埋没するならむしろ邪魔です。必要になったら後から加えるということです。

また、資料の枚数(スライド数)も非常によく聞かれます。正直、その会社の置かれている状況やセクターなどによってかなり異なってくると思いますので、みなさまに共通のマジックナンバーはありません。ただ、実際に読む立場から言うと、Appendixは抜いて25スライドから35スライドくらいだと集中力ももちますし、それくらいが気持ちよいところではあると思います。

色使い・デザインについては私の専門内ではありません。このような観点から見てくれるところはいろいろあると思うのですが、やはり会社のカラーやデザインが資料にうまく反映されており、統一感があると見ていて気持ちよいと思います。そこは気をつけるべきではないかと思います。

秋元:デザインやメッセージがきちんと伝わるかどうかは、感覚的な部分がすごく大きいと思うのですが、私も思うところがあります。みなさまが営業サイドで使われている資料と決算説明会の資料において、見やすさやデザイン性の違いはすごくあるのではないですか? たまにそこがすごく上手な企業さまもいらっしゃると思うのですが、投資家目線で考えると、そのようなところで受ける感覚はすごくポジティブにはなるものですか?

:冒頭のお話ではないのですが、新興企業で言うと説明資料ではなく、営業資料のはずなのですよね。慣れてきて、みなさまがその企業のことを知っていれば、だんだん説明的な要素が増えてくるのはしょうがないことです。

したがって、感覚的には絶対に説明に流れてしまいますので、「営業だったらどのような資料を作るのか」という観点は常に持っておくべきです。

Q.オンライン化の影響は?

秋元:では、次の質問です。「オンライン化の影響は?」ということで、オンライン時の資料では何か工夫が必要なのかを含めてご質問させてください。

:資料ということだけで言いますと、オンラインもオフラインもあまり関係ないはずです。ただ、決算説明会を開催する場合は決算説明会で決算資料が使われる前提があります。そうなると、このオンラインとオフラインの影響はけっこう出てくると思います。

スライドに「プレゼン時間の短縮」と記載しています。今までのリアルの説明会は、90分枠になる企業もありますが、1時間枠がほとんどです。プレゼンが35分から40分、またはもう少し長く続き、残りは質疑応答の時間で、あわせて1時間というかたちが今までのデフォルトでした。

これがオンラインに変わり、リアルとまったく同じかたちで続けている企業もあります。しかし、申し訳ないのですが、聞いている方からすると40分聞くに値するプレゼンは20社から30社のうち1社もありません。オンラインで聞けるプレゼンの長さは、リアルよりも絶対少ないと思います。

そのため、みなさまには「できれば25分以内には納めるべきです」とお伝えしています。ここで「プレゼン時間の短縮」ということが出てくるのです。したがって、それに合わせて資料は短く、スライドの枚数は少なくなるべきではないかと思います。

また、中には「オンラインになるとマネジメントのパッションが伝わりにくい」「リアルなら伝わるが、オンラインではなかなか伝わらない」という声もあります。

私も今日実際にプレゼンしてみて、「確かに難しい」と痛感したところではあるのですが、パッションを妨げている1つの要因として、「本当にマネジメントが話しやすいかたちで資料が流れているのか」ということがあります。

「このページはけっこうなので、次に移ってください」というかたちで、組み込んである資料をスキップしていたり、本当に一言しか触れなかったりということがよくあります。そして、すごく熱く語ったあとにそのようなケースが続き、一度冷えてしまうことがあります。

マネジメントがコメントしない程度の情報しかないのなら、Appendixでよいのだと思います。したがって、説明会を開催し、そこで資料を使うという前提であれば、時間の短縮が資料に影響することを考えるべきではないかと思います。

秋元:今のお話を伺っていて、「そうなのであれば、リアルのほうがよいのではないか」と考える企業さまがいると思いました。ただ、実際には今は決算説明会のオンライン化が急速に進み、ものすごく便利になっていますし、決算説明会自体をカバレッジする企業数もものすごく増えています。よって、これは企業さまに努力していただきたい部分だと思います。

:そうですね。「では、リアルのほうがよいことには何があるか?」と考えた時、確かに、説明会が終わった後にマネジメントのところに行き、営業の立場では投資銀行は名刺交換ができますし、直接質問することもできるのですが、それはほんの一部の人たちにとってのベネフィットでしかありません。

そう考えると、聞き手の投資家にとってはオンラインのほうが便利だと思います。「今後もオンラインで続けて欲しい」という声が圧倒的なのだとしたら、お客さまの意見に合わせ、オンラインでどれだけ効果的なことができるのかにフォーカスするしかないと私は思います。

Q.ネガティブ情報の伝え方は?

秋元:では、次の質問に移ります。みなさまも大変頭を悩まされていると思うのですが、「ネガティブ情報の伝え方」について教えてください。

:おっしゃるとおりなのですが、ネガティブ情報が出たときに最もよくないのは、それを包み隠し、きちんと言わないことです。

ネガティブ情報が出たために他の情報で塗そうとされることもありますが、それで騙されるような投資家はある意味では大したことはありません。まともな人たちはそのようなことでは絶対に騙されませんので、まずは包み隠さずきちんと説明します。

そして、まずは原因が何なのかを明らかにすることが一番大事です。それすらわかっていないのは最もよくないです。もし可能であれば、解決策も示せればベストです。

ただ、よくあるのが、解決策を示せないのでネガティブ情報を出さないことです。出さないということはないと思いますが、説明会の場を設けず、中には解決策が出てから併せて説明するケースもあります。

同時にできないのであれば、「いつまでに原因を究明し、いつまでに解決策を提示します」というかたちでタイムラインを示すほうがよいです。そして、「その際は、またあらためて説明の機会をきちんと設けます」というかたちで対応していくしかないのだと思います。

このような対応をしたとしても、ネガティブなインパクトがあるのであれば株価は下がるとは思います。ただし、そこできちんとした対応をするかしないかで、投資家にとって長く保有できる会社なのか、一時的なお付き合いの会社なのかといった見方が分かれると思います。

短期的には難しいですが、長く付き合える会社だという印象を与えることができれば、長期的に見ればピンチをチャンスに変えていることになるのではないかと思います。したがって、ここは非常に大事なところだと思います。

秋元:シンプルにきちんと信頼関係を作りましょう、ということですね。

:おっしゃるとおりです。

Q.機関投資家向けと個人投資家向け 強調すべき事項の違いは?

秋元:では、次の質問に移ります。「機関投資家向けと個人投資家向け、強調すべき事項の違いは?」ということで、先ほどご説明いただいたものと重複する部分もあると思うのですが、いかがでしょうか?

:以前は私も、「個人投資家と機関投資家はけっこう違うし、それなりに別の対応が必要なのではないか」と考えていたのですが、企業の置かれている状況や、どれくらいみなさまが知っている会社なのかどうかで変わってくると思います。

ただ、新興企業のケースで言うと、実はそれほど違わないのではないかと思います。まず「会社を知ってもらう」という部分の努力は機関投資家に対しても個人投資家に対しても同じではないかと思います。

特にビジネスモデルをきちんと理解してもらうところは同じです。もちろん、機関投資家のほうがいろいろな知識を持っているため、同じ情報を与えてもより多く理解してくれる可能性はあると思うのですが、もし、そこですごく開きが出てしまうようであれば決算資料でそれをすべて補うのは無理です。

例えば、会社説明の動画を付けたり別途機会を設けたりしてカバーしていくことは可能だと思いますが、基本的には強調すべきことは機関投資家と個人投資家で違うことはないとは思います。

秋元:確かに、フェア・ディスクロージャーの観点でも個人にも均等に情報が行き渡るようになってきていますので、前提条件はそこまで大きく変わっていないですよね。

:そうだと思います。

Q.毎回同じ構成の資料と毎回構成が大きく異なる資料、(投資家目線で)どちらが価値のある資料か?

秋元:次は「毎回同じ構成の資料と毎回構成が大きく異なる資料では、どちらが価値のある資料ですか?」というご質問です。これはどちらが正解と言うのはなかなか難しいと思うのですが、いかがでしょうか?

:質問をいただいておいて申し訳ないのですが、これは質問自体がある意味おかしいかと思います。どちらが価値がある資料かは、結局ケースバイケースになります。先ほどお伝えしたとおり、その資料がきちんと会社のメッセージを伝えて、投資家のリクエストに応えられるように構成すべきです。

確かに、毎回同じ構成では、ずっと見ている人にとってはわかりやすいのは間違ありません。そこで、先ほどお伝えした目的が達成されているのであれば、それでよいのだと思います。

ただ、これは先ほどの「Dynamic」というお話につながります。1年前はすごくニーズを捉えており、「非常に評判がよかったため、毎回これを使っています」としていると、1年後、1年半後には実はそのニーズを満たさなくなってしまっている可能性もあるわけです。したがって、先ほどお伝えしたところを捉えた上で「Dynamic」に変えていく必要があるのだと思います。

もちろん、中には、毎回かどうかはわかりませんが、構成を変えてくる企業もあります。会社としていろいろなことを考え、「こちらのほうがよりよいのだろう」「このように取り組んでいるのだ」と、すごいチャレンジしている資料を見るのは、それなりに気持ちよいものではあります。

そのようなチャレンジが必要であればするべきだと思いますが、要は構成ではなくメッセージと投資家ニーズを満たすところから出発するということです。

Q.ベストプラクティスとして参考になる企業は?

秋元:次の質問は、会場のみなさまからいただいている質問の中で一番「いいね」が付いています。ベストプラクティスとして参考になる企業、事例についてです。いかがでしょうか?

:これもみなさまがすべて真似をすればよいというものではなく状況次第です。ただ、非常によいと思う資料をいくつかご紹介できればと思います。

まずは、GMOペパボさまの資料です。この会社は新興と言うにはすでにだいぶ大きくなられていますが、それなりにいくつかの事業部門を持っています。そこを非常にわかりやすく伝えられています。また、非常にシンプルな資料構成になっています。

2ページ目がある意味すべてかと思います。エグゼクティブサマリーと言いますか、メッセージなのですよ。はっきり言ってこの一言です。今の時代に言うのはあまりよくないと思いますが、男らしくないですか? 「今回の資料はこれです」という、惚れてしまうくらいの潔いメッセージが最初に来ているのです。

エグゼクティブサマリーというかたちで付けるかどうかは別にしても、今回の決算資料で何を伝えたいのか、これくらい明確なものが会社側にあるべきだと思います。

チャートに関しても、複雑なものは載せておらず、非常にシンプルです。必要のない文字がたくさん書いてあるわけでもありませんし、そのような意味では非常に見やすいです。「GMOカラー」の色遣いも含めて、私は非常に好きです。

個人的にはまったくお付き合いはないのですが、「この会社はいつも何かおもしろいことをしている」という印象があります。

秋元:このような資料を作られるということは、発信していく時の考え方であったり、社風だったりにも影響されるのかと思います。

私どもは決算説明会の書き起こしのメディアですが、GMOペパボさまもお客さまとしてお世話になっています。「Twitter」での個人投資家からの反応もすごくよいです。よって、見やすさや理解のされやすさ、また、それによって「毎回この企業をウォッチしよう」と思わせるあたりがすごく上手なのだと感じています。

では、他の企業さまも見ていきましょう。セレスさまです。

:セレスさまの事業内容は、ポイントメディアとアフィリエイト、ブロックチェーン絡み等々と、ある意味ビジネスとしては若干複雑な会社ではあるのですが、そこを非常にわかりやすく示しています。

毎回よいかたちかどうかは別にして、最初が会社説明でビジョンなどの一般的なものが出てきており、他の数ページも、複雑な会社の説明のチャートを非常にわかりやすく説明しています。

決算についてはたくさん載せていないと思うので飛ばしていただいて、その次は成長戦略と事業概要になっています。成長戦略と事業概要、要するにもう少し事業に突っ込んだところを後ろに持ってきています。

それぞれの複雑な事業が非常にわかりやすく、チャートもきれいでシンプルに示せており、説明するのが難しい複雑な事業をかなりうまく伝えられているという印象を持っています。

秋元:もしよろしければ、最後にもう1社ご説明いただいてもよいでしょうか?

:では、グッドパッチさまについてご説明します。グッドパッチさまは、もちろん資料の中身もクオリティが高いのですが、デザインの会社ですので本当にきれいです。

チャートについてもいろいろ参考にできるものがあると思います。例えば、決算数字のハイライトも「ここからここが何パーセント伸びた」と、線を引いています。また、チャートや色遣いなどで非常に参考になる会社ではないかと思います。もちろん彼らはプロですので、このようなデザインやチャートで参考にできる表現があると思います。

また、わかりやすいヘッドラインを毎ページ載せています。資料の構成としても非常にレベルが高いのではないかと思います。

秋元:みなさまに共通しているのは見やすさでしょうか?

:そうですね。もちろんテクニックは上ですよね。

会場からの質問:詳しい会社情報の記載について

秋元:会場からいただいているご質問で、ちょうど同じようなものが2つありました。「今までは詳しい会社情報を掲載してきたのですが、上場から1年が経ち、今後もそれを掲載していくべきか悩んでいます」ということなのですが、そのあたりはいかがでしょうか?

:まず、1年間取り組んできて、会社の情報がどのくらい浸透しているかによります。どのような人が、どのような思いで作った会社で、どのようなビジネスモデルで、どのような強みがあるのかが、どれくらい浸透しているのかというところです。そこが浸透していないと思うのであれば、時間は少々短くなってもよいので冒頭にもってくるべきだと思います。

それなりに知られてきて、新規のミーティングでも「そこからご説明してください」という声がかなり減ってきたのであれば、Appendixにもっていってもよいのではないかと思います。

もちろん、2回目、3回目の投資家さまはそこは必要ないのですが、そのような人たちはそこをスキップして次から読みます。スライドが10枚、20枚もあるとまた違いますが、10枚以内であれば、一番最初にあったとしても読まない人にとってもそこまで不便にはならないのではないかと思います。ただ、まだまだ新しい投資家の開拓がメインの目的になる会社は冒頭に載せるべきだとは思います。

秋元:すると、決算説明会の参加人数や、1on1の新規の実施数などがまだまだ足りないと思われるようであれば会社概要は載せ続けていくべきであり、ある程度自分たちが望む投資家には知ってもらえてリーチができ、説明会にも参加してもらえており、1on1も行えているという状況であれば省いてもよいのではないかということですね?

:おっしゃるとおりです。

会場からの質問:どのような項目の分析を掲載するかについて

秋元:では、次の質問に移ります。「状況によって異なるとは思うのですが、どのような項目の分析を掲載するのが望ましいのか教えてください」というご質問です。

イコールの部分だとは思うのですが、会社が重要としている指標なのか投資家が求めている指標なのか、投資家の傾向として「このようなものが好まれます」というのはありますか?

:これはその会社や局面によるため、なんとも言えないのですが、結局はその会社の業績や成長性を知る上で重要なKPIとなると思います。投資家が知りたいのは重要なKPIだと思いますので、そこがきっちりカバーされていることが大事なのだと思います。

先ほどもお伝えしたのですが、もちろんP/L、B/S、キャッシュフローなどは基本的な情報です。しかし、場合によってはそこにまったく注目が集まっていないケースもけっこうあると思います。基本的な情報だからと言って、毎回載せる必要はまったくないと思います。

その業界や会社によってまったく異なるKPIがある会社もたくさんあるため、KPIはきちんと載せることが一番大事かと思います。

会場からの質問:中期経営戦略を別資料にするメリットについて

秋元:では、次です。「中期経営戦略を別資料にすることのメリットは何でしょうか?」というご質問です。

:先ほどの私の説明もわかりにくかったのですが、つまり決算と中計を同じ時間に行うと時間が足りないのです。中計も、ローリング的なもので「今回の決算を受けて中計の数字をこのように変えました」という程度であれば、決算資料の一項目でもまったく問題ないと思います。

しかし、新規の中計で、戦略やマネジメントの考え方にもそれなりに大きな変化があったり、メッセージがあったりするのであれば、別の資料もしくは別の機会を設けるべきではないかと思います。先ほどはこのようなことが言いたかったです。

秋元:例えば、「通常の決算説明会に参加してください」という案内がくるのと、「今回は中計を発表しますので参加してください」という案内がくるのとでは、投資家として参加するモチベーションは変わりますか?

:もちろん決算内容などにもよりますが、やはり中計と聞くほうが、中長期でその会社を見る上で非常に重要です。トラックレコードによるため、「何回も中計を発表しているが、いっこうに達成したことない」「言っていることが変わらない」となってくるとあまりよくないとは思います。

したがって、先ほどお伝えしたように、基本的には中計は「夢」の部分ですので、それをうまくアピールし、投資家がのってくれると本当にバリュエーションを変えられる部分です。そのような意味では非常に重要だと思います。

会場からの質問:図や表や数字の伝え方について

秋元:お時間も限られていますので、最後の質問にしたいと思います。牧さんの専門外かもしれないのですが、「図や表や数字の伝え方において、情報の受け取り手として、このような方法がよいのではないかというコツがあれば教えてください」というご質問です。

:たしかに、あまり専門ではないのですが、先ほどからお伝えしているとおり、やはりシンプルなもののほうが好ましいため、本当に伝えたいことが何なのかというところからチャートやグラフを作るのがよいと思います。

何かを作り、それに関連するものをいろいろ載せてしまうと見にくくなってしまいます。先ほどお見せしたGMOペパボさまの資料はシンプルすぎるくらいのチャートではないですか? 簡単すぎるくらいです。しかし、それが本当に伝えたいことであれば、シンプルなほうが一番伝わると思います。

秋元:どうもありがとうございました。

:こちらこそ、ありがとうございました。またよろしくお願いします。

スピーカー②

秋元:お知らせがございますので、ぜひ最後までご覧いただけますと幸いです。まず、株式会社ストリームライン代表取締役の梶山さんから、決算説明会資料に関するサービスのご案内があります。ご説明をよろしくお願いします。

梶山洋二氏(以下、梶山):ただいまご紹介にあずかりました、株式会社ストリームラインの梶山と申します。私からは弊社のIR資料作成支援サービスについてご案内します。

会社プロフィール

梶山:まずは弊社の簡単なご紹介です。2016年の創業以来、ビジネス資料の作成代行といった事業を展開しています。

ビジネス資料作成代行サービス

梶山:一言で言いますと、お客さまからのご依頼のもと、あらゆるパワーポイント資料の作成をワンストップで代行するサービスになります。

ビジネス資料作成実績

梶山:創業から5年間で累計500社以上、1,000部以上の資料作成支援を行っており、現在もあらゆる業種の企業さまから日々お引き合いをいただいています。

IR資料作成支援サービスとは?

梶山:そうした中、IRのご担当者さまからのご要望を受け、決算説明会資料、中期経営計画書、成長可能性に関する説明資料などのIR資料の作成ニーズにより特化した支援を実現したいということで、来月6月から新たにIR資料作成支援サービスの提供を開始します。

「資料の内容がマンネリ化している」「デザインが洗練されていない」「考えをうまく図解できない」「業務が忙しく手が回らない」といったIRのご担当者さまの資料の悩みを解決していきたいと考えています。また、こちらのサービスはログミー株式会社との共同で展開していこうとお話ししています。

サービス紹介①

梶山:サービスは大きく2つに分かれます。1つは資料全体を刷新する、IR資料の作成代行サービスです。内容、ストーリー、デザインを原初のものから大きく刷新したり、資料を内製する体制が整っていない企業さまを対象にデザインのみを行うデザインプランと、企画構成からデザインまで一通りご支援するコンサルティングプランをご用意しています。それぞれ対応ページ数に応じて価格が決まっているかたちになっています。

サービス紹介②

梶山:2つ目は、すでに構成の大枠やデザインのテンプレートが決まっており、継続的に改善を重ねていきたい企業さま向けのIR資料定額メンテナンスサービスです。資料作成の代行やアドバイス業務などを1年を通じてご提供していくもので、月額5万円、3ヶ月あたり10時間の実働をご提供するかたちになっています。

サービスの特長

梶山:これらのサービスの特長は大きく4つあります。1つ目は、企画構成からデザインまでワンストップで対応できる点です。2つ目は、お客さまのビジネスを理解した専任のコンサルタントが付き、資料の最適解を一緒に考えてご提案していく点です。

3つ目は、パワーポイントデザインに特化した専門チームを社内に組織化していますので、高品質なデザインを安定して実現できる点です。4つ目は、特急料金や修正の制限のような制約を設けずにスピーディーかつ柔軟な対応が可能な点です。

資料作成の流れ

梶山:次に、資料作成の基本的な流れについてご説明します。まず、要件や課題について弊社がヒアリングを行って整理していきます。その整理内容を踏まえ、パワーポイントで構成案を作成し、その構成案をお客さまにご確認いただきながら構成文章の修正を共有し、やり取りしていきます。

その後、デザインの工程に入り、同様にデザインの修正のやり取りを行っていきます。特に決算説明会資料に関しては、開示直前まで数字などの内容が固まらないという特性がありますので、その場合は事前に構成デザインを固めておき、その枠組みに対して最後に確定情報を反映します。そのような最終調整を行うかたちをとっています。

制作事例①

梶山:最後に、最新の制作事例をご紹介します。こちらは東証JASDAQに上場しているINESTさまの決算説明会資料です。スライド上側のBeforeがお客さまにご用意いただいた元の原稿で、下側のAfterがお客さまのご要望を反映しながら弊社が作成した資料になります。

こちらのページは通期業績の報告を昨対と比較しながら見せるページですが、伝えるべき情報を絞り込み、リード部分や表をシンプルな内容に変えるような編集を行っています。

制作事例②

梶山:2枚目は業績推移のグラフです。もともと1スライドの中にグラフが4つ入っており、非常にビジーな状態になっていたのですが、グラフを2つずつに分解し、デザインも変えて伝えるべき情報がより伝わるように変えています。

制作事例③

梶山:3枚目は、ビジネスモデルと強化する機能についてのご説明です。原稿の図解の意味が非常に読み取りにくい状況でしたので、まずはステークホルダーを軸にそれらの関係性で枠組みを作り、その中でINESTさまの各機能がどのような時系列で動くのかを上から配置し、さらに強化中である機能、プロダクト開発、Webマーケティングを強調する流れで修正を行っています。

制作事例④

梶山:4枚目は将来の事業ポートフォリオの変遷と、それに伴う収益構造の転換のイメージを図解したものです。INESTさまに関しては、一時金収益ビジネスとストック収益ビジネスという分類があり、その説明がやや冗長で不必要な複雑化を生み出していました。そこで、まとめられるものは極力まとめ、文言によってではなく視覚的にパッと理解できる状態を目指して修正を行っています。

制作事例⑤

梶山:5枚目は自社プロダクトのリリース状況です。時間軸を入れたいというご要望を受け、左から右へ年表形式に変えています。

先ほどの牧さまのお話をお伺いしていると、まだまだシンプルにするという意味では課題も大きいと思っています。今ご説明した事例は先日5月8日に開示された資料になりますが、構成からデザインまですべて弊社でお手伝いしています。

お申込みについて

梶山:現在このサービスについて、条件付きではありますが、最大15パーセント引きのキャンペーンを展開していこうと思っています。少しでもご興味がありましたら、お気軽にご相談いただければと思います。

スライド下部のログミーへのお問合せ先へご連絡いただくか、もしくは本セミナーのアンケートにチェックを入れていただければと思います。以上が弊社サービスのご案内になります。ありがとうございました。

秋元:梶山さん、どうもありがとうございました。

決算ログキャンペーン

秋元:最後にログミーからもご説明します。私どもは決算説明会を全部文字に起こし、多くの投資家に届けるというサービスを、通常1回25万円から30万円という金額でご提供しています。しかし、今回は思い切り、この6月から8月に決算説明会を実施される企業さまに関しては、1回あたり10万円でご提供します。

まずは体感していただきたいという意図でこのような金額設定とさせていただきました。もし、少しでも興味をお持ちでしたら、ぜひアンケートにチェックをいただければと思います。よろしくお願いいたします。

ログミーFinance Zoom導入無料支援

秋元:また、引き続き「Zoom」ウェビナーを使い、決算説明会のオンライン化の無料支援を行っています。こちらは、コロナ禍になって以降、計100社以上ご支援させていただいています。

一度も事故を起こすことなく、みなさま健全に運営できていますので、もし「オンライン化のノウハウがない」「コストでだいぶ悩んでいる」といったことがあればご相談いただければと思います。

ログミーFinanceのYouTubeチャンネル

秋元:さらに、弊社のログミーファイナンスではYouTubeチャンネルがあります。もし、企業さまのIRに関わる動画コンテンツにおいて、「もっと投資家に見てもらいたい」ということで、私どものチャンネルに置かせていただければ、多くの投資家に視聴していただけるようになります。ご興味があればアンケートにチェックをいただければと思います。

私どもは、日々IRに向き合い、みなさまによりよくご提供できるものは何かないかと考えていますので、また来月あたりにこのようなセミナーで情報をご提供させていただければと思っています。本日は、ご清聴いただき誠にありがとうございました。