トヨタ自動車株式会社 2017年3月期決算説明会

豊田章男氏(以下、豊田):お待たせいたしました。豊田でございます。本日はお忙しい中、私どもの決算発表にお越しいただき、誠にありがとうございます。

2017年3月期の決算は、グループ一丸となった原価改善活動や、各国・各地域における懸命な販売努力により、1兆9,943億円の営業利益を確保することができました。

これも世界中でトヨタの車をご愛顧いただいたお客様のおかげと、深く感謝申し上げます。また、販売店・仕入先をはじめとする、多くの関係者のみなさまのご尽力に対しまして、改めて、心より御礼申し上げます。

株主のみなさまへの期末配当は、1株当たり110円とさせていただきたいと思います。これにより、当期の1株当たりの配当金は、中間配当100円と合わせ、年間では210円となります。また、2500億円もしくは5000万株を上限とする自己株式の取得を新たに実施する計画です。

株主のみなさまに、トヨタの株を持っていてよかったと思っていただけるよう、これからも持続的な企業価値の向上に努めてまいります。

持続的に成長できる会社を目指して

今回の決算に関しまして、私の考えをお話しさせていただきたいと思います。

私たちは、モノづくりを通じて、社会に貢献する会社でありたいと思っております。そのために、私たち自身が、どのような環境でも、持続的に成長していける会社となることを目指してまいりました。

意志ある踊り場で磨いてきた、もっといい車づくり、人づくりに加え、未来への挑戦、強靭な財務基盤の構築という3つの意志のもと、いよいよ持続的成長の実行フェーズに入ってきたとも申し上げてまいりました。

その取り組みに終わりはありませんが、今回の決算は、為替の追い風も向かい風もない中で、まさに現在の、等身大の実力が素直に現れたものだと感じております。

もっといい車づくりということに関しましては、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)という、まったく新しい車づくりへのチャレンジが、新型プリウスやPHV、新小型SUVであるC-HRというかたちとなり、お客様へ実際にお届けすることができました。

TNGAを通じて、技術開発、生産技術、生産現場を貫く、ブレない軸として、もっといい車づくりが定着してきたと実感しております。

これまで「トヨタの車はおもしろくない」「特徴がない」と評価されることもございましたが、走りとデザインについては、お客様からも評価いただけるようになってきたのではないかと思っております。

その一方で、もっといい車を賢く作るという点では、まだまだ改善の余地があることが見えてまいりました。

例えば、もっといい車にしたいという思いのあまり、性能や品質の競争力向上を優先し、コストやリードタイムは後回しということになっていないか、あるいは「適正販価−適正利益=あるべき原価」という基本原則を徹底的に突き詰める仕事ができているか。

いわば開発、生産、調達、営業、管理部門にいたるまで、トヨタのあらゆる職場で、お客様目線の車づくりが実践できていないのではないかという強い危機感を感じております。

“いい車づくり”の原点はコンパクトカーにあり

私は、もっといい車づくりの原点は、コンパクトカーにあると考えております。より多くの人に移動の楽しさや自由を提供するために、ボディーサイズは小さくても、安全性や快適な室内空間を実現しなければならない。

排気量は小さくても、快適な走りを実現しなければならない。そしてなによりも、それらを安価な価格で実現しなければならないのが、コンパクトカーだからであります。

昨年導入したカンパニー制で、コンパクトカーを専門で見る、「Toyota Compact Car Company」を立ち上げ、ダイハツ工業の完全子会社化や新興国小型車カンパニーの設立などに取り組んでまいりましたのも、コンパクトカーという車づくりの基本に立ち返ることを目的としております。

コンパクトカーを担当するカンパニーがお互いをベンチマークし、より賢い作り方を学んでいく、そしてそのカンパニーがより大きい車を担当するカンパニーと競争していくなど、カンパニー同士が切磋琢磨することで、トヨタの車づくりをより軽く、より低コストなものに変えていきたいと思っております。

未来の自動車産業を見据えたトヨタの戦略

今回の決算は、目先の利益の確保を最優先するのではなく、未来への投資も安定的・継続的に進めていくというトヨタの意思が現れた決算であったと思います。

現在の自動車産業は、パラダイムシフトが求められており、とくにAI、自動運転、ロボティクス、コネクティッドなどの新しい領域が重要な鍵をにぎると考えております。

こうした時代だからこそ、未来を創造する技術力と志を持った企業を育てていくことが必要だと考え、昨年1月にTRI(人工知能技術の研究・開発を行う新会社Toyota Research Institute, Inc.)を設立いたしました。

今後も10年先、20年先を見据えた種まきを続けてまいりたいと思っております。

こうした種まきは私たちだけではなく、ITなどの異業種や新興自動車メーカーなど、さまざまなプレイヤーも行っており、車そのものはもちろん、未来の自動車産業も従来とはまったく違った世界になるかもしれません。

私は、車が世界中のみなさまに愛されるものであってほしいと思っております。愛される車とは、新しいソフトウェアの革新ももちろん大事ですが、これまで私たちが磨き上げてきたハードウェアと組み合わせることで、それが1台の車としてお客様の大切なパートナーとなり、かけがえのない存在となることが最も大切だと考えております。

お客様の笑顔のために、ソフトウェアもハードウェアも全方位でやっていくのがトヨタです。そしてそれはすべての人に安全、安心なモビリティをお届けする責任があるからだと思っております。

私たちの取り組みはまだまだ道半ばですが、未来のために今を変える強い覚悟を持ち、リスクをとって自ら道を切り開いていこうとする会社に変わってきていると思います。

強靭な財務基盤を作り上げ、どのようなときでもブレることなく投資を進める準備もできております。これまでにまいてきた種を1日1日必死に育て、その積み重ねの中から未来を生き抜く競争力を生み出していきたいと思っております。

最後になりますが、今期に対する私の思いを申し上げれば、自分たちの等身大の姿を真正面から見据え、徹底的に競争力を磨いていく年ということに尽きると思います。

そのためには未来への投資をしっかりと進めるとともに、今日を生き抜くためのもっといい車づくりと賢い車づくりの両輪をしっかり回していくことが大切です。

経営にとって一番問題なのは課題があるということよりも、課題があるのかないのか、あるとすれば今どれだけあるのかがわからないということだと思います。

これまでカンパニー制やアライアンスなどを通じ、課題を顕在化させ、改善しなければならないようにマネジメントや現場に仕向けるための改革に取り組んでまいりました。

できたこと、できなかったことを真摯に見つめ、ここをボトムラインに持続的成長のオンラインで歩みを進めてまいりたいと思います。みなさまの変わらぬご支援をお願いいたします。ありがとうございました。