ソフトバンクが日本経済から受ける恩恵
質問者1:テレビ東京のオオハマです。まず、足元の日本経済についておうかがいしたいんですけれども、昨日、安倍総理大臣が大規模な経済対策を発表しました。
また今後、例えば日銀の追加の金融緩和みたいなものというのは必要だと見てらっしゃいますでしょうか?
孫:まああの、政治の観点で日本経済全体を考えて、十分に議論されたうえでの判断でしょうから、僕はそういう日本のリーダーの方々の判断には、それなりの十分な検討の結果が表れていると思いますね。
ただ私は一つひとつの詳細については議論の中身を知りませんので、コメントするレベルの立場にはないと。彼らの高度な判断でされたことだと思います。
質問者1:ソフトバンクグループとしては、先ほど「Sprintは円高の恩恵も受けた」なんてちらっとおっしゃってましたけど、どんなふうに捉えてらっしゃいますか。
孫:我々としてはありがたいですよね。やっぱりまだ借入がこれだけあるわけですから。金利が安定的に低いと。また、円高であると。
結果、我々が買収できたと。これからは円安になってくれば、それなりに多くの企業がそのメリットを受けられるわけですから。ARMだとか、こういう積極投資をやっている立場からみると、ありがたい援護射撃だとは思います。
ニケシュ退任、社長続投、ARM買収を振り返って
質問者2:BSジャパンの「日経モーニングプラス」のエノキダと申します。よろしくお願いします。この1ヵ月ぐらいの間、どのようなお気持ちで過ごされたのかをお聞きしたいんですけれども。
孫社長は冒頭で、「人生というのはほんとにおもしろいものだとつくづく思う」とおっしゃいました。ニケシュ・アローラ氏の退任、それと同時に孫社長がしばらくトップでい続けるということを公言されました。また巨額のARM社の買収もありましたけれども。
衝撃的なニュースが続いた1ヵ月ですけれども、孫社長にとって、人生のなかでどんな期間だったのか、どんなお気持ちで過ごされたのか、まずはお聞かせください。
孫:毎日がワクワクで、寝る時間がもったいないと。朝が早く来てほしいという思いですね。今は本当に、事業家として人生充実してます。非常に楽しい。
Sprintの苦しみもがいた部分も、今になってみれば非常に楽しいと思いますし、新しい挑戦がまたできるということも非常にワクワクするということで、まあ、当分社長辞めらんないなと(笑)。楽しくてしょうがないということであります。
ソフトバンクの株は今が一番の買い時
質問者2:ソフトバンクの株価についてお聞きしたいんですけれども、ARMの買収のあと、株価は下落していまして、マーケットから必ずしも評価を受けているとは思えない水準なんですけれども、孫社長はこの株価の水準、どう捉えていらっしゃいますか。
孫:これはですね、私は今まで大きな買収を何回かやってきました。毎回、1回下がってるんです。大きな買収のたびに、毎回「負債が大きすぎる」「大丈夫か」ということで、一度下がってます。
その後に少し市場がこなれてきて、そのプロセスのなかで、きっと株主の方も入れ替わってるんだろうとは思うんですよね。
株価が下がって、ここから成長がおもしろいじゃないかという人は株を買いに来られるし、いやいやもう借金が多いからダメじゃないかと思う人は株を売られると。これはもう株主のみなさんの自由なご判断ということだと思うんですね。
ただ、私も大株主なんです。私も中長期的に見れば当然株価は上がってほしいわけです。だから本質的に見て、中長期的に見て、私は株価が下がるような意志決定はしないと。
ただ、それが市場の信任を受けるかどうかというのは、短期的に見た場合と、長期的に見た場合といろいろあるから、いろいろご判断はみなさんそれぞれのご責任でやっていただいたらいいんじゃないかなと。
ただ、私はもう今うれしくてしょうがないと。これはソフトバンク創業以来、最大の成長の飛躍の前の屈み時ということで。
もしソフトバンクに興味のある方にとってみれば、実は一番の買い場だと思いますよと。これは、Yahoo! BBをやったときも言いました。Sprintをやったときも言いました。ボータフォンジャパンを買ったときも言いました。
僕は、毎回正しかったと思うんです。毎回その度ごとに正しくて、ただ短期的に見れば毎回下がってますから、短期的に見ると「やっかいなヤツだ」ということになると思うんですけれど、僕は今、心底買い時だと本音では思っています。
他の通信大手がARMを買えない理由
質問者3:日本経済新聞の編集員のセキグチと申します。孫さんの情報革命にかける思いというものを改めて聞かせていただいて、ARMはすばらしい会社だと思いますし、それを買収する決断というのには敬服しているわけなんですが。
そうは言いつつも、これまでも何度も言われたかもしれませんが、先ほどのご説明のなかにあったシナジーですね。シナジーが今のご説明のなかではいまひとつわからない。
例えば、ARMを買ったことによってSprintの売上がさらに増えるとか、日本のソフトバンクのユーザーがよりハッピーになるとか。そこのところがいまひとつ連携が見えないわけなんですけれど、そこのところをどう考えていらっしゃるんでしょうか?
孫:だからいいんですよね。これがシナジーが見えすぎると2つの問題でまずいんですね。 まず、シナジーがすぐ見える会社。
例えば、インテルとか、AppleとかGoogleとか、いろいろありますけれど、彼らは独禁法上、全滅なんです。
独禁法上、ARMがこれだけ高いシェアを持っていて、別の分野でこれだけ高いシェアを持っているインテルとかクアルコムとか、そういう会社が買いに来るというのは独禁法上成り立たないから、彼らはアウトですね。
一方で、世界中のシナジーが直接的に見えない会社。直接的に見えないから、まさに今おっしゃったような議論が取締役会で出るわけです。
これがシナジーがすぐ見えるような手だと、我々が買えないわけです。ですから、シナジーが見えない。シナジーが出る会社は買えない。
だからソフトバンクにこんなすばらしいチャンスが今ポンと目の前に現れて、無風状態で我々が買いに行けるというのはそういうメリットがあったということですね。
今まで若干比喩として使わせてもらいましたけれども、囲碁の名人戦を見ていただいて、例えば自分が持っている黒い石があったとしたら、黒い石のすぐ側にもう1個黒い石を置く。そういう人が必ずしも名人戦で勝てるかというと、そうじゃないですよね。
すぐ近所同士に打つというのは、小学生同士の囲碁となると近所に石を固めにいきますけれど、名人戦となると必ずしもすぐ側の石を打たないと。
ポーンと離れたところに打った石が、一手目、二手目、三手目では、繋がりがよく見えないと。ほとんどの人には見えない。
「なぜあそこに打ったんだろう?」と。それが深くわかる人からみれば「なるほど」と。「よくぞ、そこを見つけて、そこに打ったな」と。ということで、私としてはうま味があるのだと喜んでるわけですね。
そのつながりを説明するつもりはないし、説明をするとやっぱり競争がありますからね。我々はリングに立つボクサーみたいなもので、相手とリングの上で戦うのに、「次は左のジャブを何発目に打ちますよ」なんていうのは絶対言わないと。勝つことが大事なわけで、勝つプロセスを説明することが大事なのではないと思っております。
ベライゾンによる米Yahoo!の買収について
質問者3:今、通信業界を見てますと、世界中でM&Aの嵐でありまして。アメリカでは例えばAT&TがDIRECTVを買収し。
そして今度、今回のこの発表の直後に、ベライゾンがYahoo!の中核事業を買うという発表がなされたわけですね。ベライゾンはすでにAOLも買収しております。孫さんから言わせるとこれは常人の判断なのだと思うんですけれども。スマートフォンあるいは携帯サービスがあって、そこにそういう情報サービスをのせるというのは、まことにわかりやすいシナジーなんですけれども。
それによって、日本でもアメリカでも言われている、スマートフォンが普及したことによって、通信サービス会社が土管化してると。それを違うビジネスに持っていこうということを、あちらのAT&T、ベライゾンはやってるわけですね。
こともあろうに、ベライゾンがYahoo!を買収することによって、日本のヤフージャパンの収益の一部が、こともあろうに、このライバルであるベライゾンにいくわけですね。
だったら、こういうふうになる前に、例えば、孫さんの持ってる力でYahoo!の本体を買って。SprintとYahoo!を合わせて、もっと違う情報革命を起こして、さらにそのなかに日本を巻き込んでいくというようなかたちの構想というのはありえなかったんでしょうか?
孫:それは先ほど私が言った、表現が悪いから誤解を与えるといけないんだけど。「孫のくせに不遜だ」とか、また言われそうですけど(笑)。
すぐ隣に石を打つというのはあまりにもシンプルすぎて、それはもう我々が20年前に打った手なんですよね。
ヤフージャパンは20年前に我々が作ったんです。シナジーはもう20年前に計算して、20年前に打った手です。それを20年後に彼らが打って。
それでも僕は意味のある手だと思うから、その手自体を批判するつもりもないし。いや、「あなたもよくわかっていただきました」ということで、「あなたも私もやはり同志ですね」と高く評価しますけれども。
少なくとも我々にとっては20年前に打った手です。ARM買収の手を打ったことが、20年後に、もしかしたら多くの会社に「なるほど」となるのかもしれませんけれども。まあ、それでいいんじゃないかと思いますね。
質問者3:20年後の話はわかるんですけれども、じゃあこのままSprintが20年ずっと万年4位に安穏としててもいいんでしょうか、という点はどうでしょう?
孫:いや、20年よりもはるか前にSprintは、もうすでにV字回復の兆しが出て、我々が投資したときの株価を上回るというところまできたわけですから。これはSprintは着実にこれから収益化していくと。20年待たずに収益化できると。
ただ、大きな収益に、いろんなかたちで手が結果的に見えてくるのは、5年後、10年後、20年後と。噛めば噛むほどおいしいというふうに、あとから多くの人が思うでしょうね、ということを言ってるわけですね。20年後までなにも出ないということではないですよ。
ARMの成長と中国企業との提携
質問者4:野村證券のマスノです。ARMについて1点おうかがいしたいんですが。1兆個のチップを現実のものとするには、だいたい年率3割で伸びていけば、17年とか18年目で達成できるんですが。
今週のARM4〜6(月)の決算だと、ドルベースの売上で9パーセントしか伸びてなくて、チップの出荷でも9パーセントしか伸びてなくて。9パーセントと30パーセトというのはありにも乖離があって、ソフトバンクさんが払われた1兆円のプレミアムというのは、今のARMではなかなか届かない、30パーセントにはいかない。
だから、今どう変えていけば9パーセントから30パーセントに変わっていくのか。どこの市場を攻めればいいのかと。
数年経てば電気自動車でも世界最大の市場は中国ですし、IoTでもおそらく間違いなく最大の市場は中国になると思うんですが、ソフトバンクのみならず、例えばアリババと組んで、どうやって中国市場を攻めていくのか。そのあたりはどうお考えですか。
孫:基本的に、年率20数パーセントの伸びで、そのぐらいの数になると思うんですけれども、IoTはまだ始まったばかり。これから本格的に伸びていくと私は思っています。僕が1兆個と言っているのは、年間じゃなくて累積でそういうかたちになっていくと思います。
IoTは好む好まない、誰かがやるやらないに関わらず、技術の大きな流れとして、「インターネットを広げたのは誰ですか」と聞かれても困るぐらいで、インターネットはみんなで広げたと。Google1社でも、Amazon1社でもなくて、みんなでインターネットは広げたと。
同じようにIoTも、誰か1社の力でやるのではなくて、みんなの力でどんどん広がっていくと。技術の進展というのはそういうもんだと思うんですね。
ARMはそのコアを設計している。それで、それを世界中のさまざまなチップメーカーがいろんな用途に向けてカスタマイズして、システム・オン・チップというかたちで出している。
これはもう、いろんなガートナーとかIDCとかマッキンゼーとか、いろんなところが調査してますけども、だいたい彼らの調査の平均値ぐらいのところでそれぐらいの数にいくと。
もちろん中国はそのなかでも一番大きな市場になるだろうというのは、私もそう思います。ジャック・マーからも早速、「詳しく話を聞きたい」という連絡がきておりますので、まあ近々彼に会いますけれども、ぜひいろんなかたちで、アリババだけではなくて、いろんな中国の会社とも提携話をこれからやっていくんだろうと思います。
SprintとARMの兼務は可能か
質問者5:東洋経済のヤマダです。2つあります。1つ目は、今でもSprintのチーフネットワークオフィサーであられるのでしょうか、いつまでやられるおつもりでしょうかという質問です。
というのは、ブロードバンドだとかモバイルにいくときはそれに専念されて、それで成功してきたわけですから、SprintをやりながらARMというのはちょっと想像つかないんですが、そのへんはいかがでしょう。それが1点目です。
孫:少なくとも来年末までは、私がチーフネットワークオフィサーをやるということをマルセロに言って、またSprintのネットワークの技術者の諸君もそういう認識でいます。
そのあとどれくらい続けるかというのは、そのときになってみないとわかりませんけれども、今までの私の時間配分、個人の時間配分で、自分の1日の約50パーセントぐらいがSprint関連でやってました。
そのSprint関連のなかでもさらに中心はネットワークのほうに、設計に一生懸命やっておりました。残りの半分をいろんなところへの投資だとか、国内の通信だとかいろんなところを残り半分でしていました。
今後どうなるかというと、全体のなかの45パーセントぐらいがSprintで続けます。つまり、50パーセントが45パーセントに減ると。減るけども、あんまり変わらないぐらいつぎ込める。
残りの部分について、45パーセントがARMの中長期の戦略を考えるところに時間配分を集中したい。最後の残りの10パーセントですね。45・45の10パーセント。10パーセントのところでそのほかを行うと。
国内で言えば、宮内(謙)を中心に非常に安定的に収益が伸びてますし。それから海外の投資事業のところは、ロン・フィッシャーを中心に、またこれそれぞれしっかりやっていけてるということで。私は10パーセントぐらいの時間配分でやっていこうと。
だから、Sprintがおろそかになるというのではなくて、ほぼ変わらないぐらい突っ込むよと。そのほかの部分をどんどん権限移譲して、私はWエンジンでSprintとARMを中心にここ数年間はやっていくというかたちになります。
質問者5:2つ目はIoTのところの打ち手なんですけれども。チップでもうほとんど打ち手は終わりなんでしょうか? なにかまだ足らないところがあるとか?
孫:いや、ARM自身は、このチップでかなり自らの事業モデルがありますから、いいんですけれども。ソフトバンク・ARMグループとして、そのインフラといいますか、プラットフォームをこれからさらに強化していくと。いつどういうかたちで、どのようにということについては、まだ戦略上コメントできないということです。
Sprintやヤフージャパンを売るつもりはない
質問者6:フリーランスのイシノと申します。先ほど孫社長があげられていた、すぐ売れる資産というところにSprintやヤフーが含まれていたんですけれども。本業ではないともおっしゃっていたんですけど。
これらは、もうソフトバンクグループの本業ではないとみなしているということでよろしいでしょうか、というのがまず1点目です。
孫:いや、違います(笑)。売るつもりはないですよ。万が一売らなきゃいけないときには売ることも可能ですね、ということを言ってるわけで。万が一というのは来ないと思ってるので。
年間5,000億円のフリーキャッシュフローがあるわけですから、売る必要はないと思ってますね。
質問者6:わかりました。2点目は国内携帯通信事業の話です。最近Y!mobileが好調という話がよく聞こえてくるんですけれども。あまりソフトバンクモバイルというか、ソフトバンクのほうの話は聞かなくなってきていまして。
決算の資料を見ますと、純増数なども、いつまにかソフトバンクとY!mobile合算になってしまっていたりなど。ちょっとソフトバンク側の実体が少し見えづらいなと思うんですけれども。ここをもう少し詳しく教えていただけないでしょうか?
孫:宮内にちょっとコメントしてもらいます。
宮内謙氏(以下、宮内):ブランド戦略として、Y!mobileとソフトバンクの2つがあります。
孫:ですからブランド戦略というのは、いくつか分けて、それぞれの持ち場持ち場で活躍をさせていくということですね。
まあ、ファーストリテイリングさんの、ユニクロさんとGUみたいなものです。2つブランドがあって、それぞれの客層にそれぞれの取り方で取っていくというかたちになってます。
質問者7:フリーランスのコヤマと申します。先ほどARMの買収のお話のなかで、1兆個チップがばらまかれて、そこからデータを吸い上げて。それで、ソフトバンク、Sprintのネットワークでバンクして、みたいなお話があったんですけれども。
それというのはARMの設計のなかに、ソフトバンクのためのなんらかのものを入れていく、データを吸い上げるためのものを入れるというお考えということでしょうか? 中立性や独立性についておうかがいしたいんですけれども。
孫:それは例えばの事例で申し上げただけです。ARMの、それは世界中にいろんなかたちでばらまかれて。いろんなかたちのスマホだとか、タブレットだとか。
これはドコモさんのネットワークでもつながってるわけで。我々がソフトバンクだけでそれをやれると思ってるわけではないです。よろしいでしょうか?
それじゃあ、だいぶ時間になりましたので、いったんここで締めさせていただきます。どうもありがとうございました。