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INPEX Investor Day 2025

住吉美紀氏(以下、住吉):本日最後のプログラムは「コーポレートガバナンス 社外取締役との対話」です。

前半は社外取締役の柳井準さま、森本英香さまより、これまでガバナンスの観点で果たしてこられた役割、そして今後のINPEXの成長への期待についてお話をうかがいます。後半では、みなさまからの質問を受け付けますので、どうぞよろしくお願いします。

柳井さまは2016年から、森本さまは2022年からINPEXの社外取締役を務めています。これまで果たしてきた役割や心構えについておうかがいしたいと思います。それでは、まず柳井さまからお願いします。

柳井社外取締役のご紹介

柳井準氏(以下、柳井):ただいまご紹介いただいた柳井です。スライドにありますように、私は三菱商事でエネルギー事業グループのヘッドとして5年間務めてきました。その間、取締役会にも出席した際、多くの社外取締役がいらっしゃいました。率直な感想をお伝えすると、「なんて面倒くさい人たちなのだろう」という印象を受けました。

その後、退任後にINPEXから声をかけていただき、社外取締役を務めることになりました。その際、「あのような面倒くさい人になってはいけない」と思いながら引き受けたのですが、実際に務めてみると、むしろ面倒くさい人間でなければ社外取締役は務まらないものだと実感しました。

耳あたりの良いことばかりを言うのが社外取締役ではないと考えています。私がジョインした2016年当時、こちらの社外取締役の多くは業界関係者でした。しかし、それ以降、多様性に目を向けるようになり、現在では業界関係者はほとんど見られなくなりました。

私としては、業界関係者として自分の知見をある程度活かし、さまざまな案件が出てきた際に忌憚のない意見を述べることを心構えとして持っていました。

私も現役の頃に失敗を相当経験しており、その失敗体験をお話しすることが役に立つのではないかと考えました。記憶にある限り、3回ほど「恥を忍んで申し上げますが」という枕詞を用いて、自身の失敗体験を基に意見をお話ししたことがあります。

その際、特に根幹に置いていたのはリスクです。このリスクに関して言うと、社外取締役は担当部署と比べて圧倒的に情報量が少ない立場にあります。

私の経験上、トップの立場で案件が提出された際、違和感を覚え、担当部署にさまざまな質問をしても、担当部署は深く勉強しているため、すべてに回答が返ってきます。そのため、トップという立場はなかなか反対しづらいということがあります。

このような経験から、危険性を感じるプロジェクトや案件については、初めに自分の直感を信じて意見を述べることをポリシーとしてやってきました。

そのほかに自分の心構えとして留意していたことは、やはり数少ない業界関係者として、現在のエネルギー業界の状況について常にアップデートし、勉強を続けてきた点です。

住吉:携わってこられた関係者の視点から、INPEXという企業をどのように評価されていますか? 

柳井:冒頭にガバナンスというお話がありましたので、最初にガバナンスについて触れますと、私が社外取締役としてこちらにお世話になっている9年5ヶ月の間に、ガバナンスという観点ではまるで別の会社のように劇的に変わりました。

具体的には、取締役構成の多様化が進んだことや、議題に関する社外取締役への事前説明が非常にきめ細かく行われるようになったことが挙げられます。

また、とても良い点として挙げられるのは、耳に痛い意見もきちんと受け入れてくださる風土があることです。一方で、心地よい意見にはあまり耳を傾けないという姿勢が根づいていることは、非常にすばらしいと感じています。

森本社外取締役のご紹介

住吉:森本さまはいかがでしょうか? まず、心構えや拝命された役割についてお聞かせください。

森本英香氏(以下、森本):私は環境庁(当時)に入庁し、約40年にわたり行政経験を積んできました。基本的には環境行政に従事してきた人間です。ただ、東日本大震災後に原子力の問題が発生し、その際に内閣官房に異動して原子力規制の組織を立ち上げる仕事を担当しました。

その後、自ら立ち上げた原子力規制委員会に異動し、そこでエネルギーについて深く勉強する機会を得ました。

環境省に復帰した後、気候変動問題が非常に大きな問題となりました。特に、2020年の菅首相によるカーボンニュートラル宣言を契機に、経済構造や社会構造を大きく変えようとする動きが進みました。

気候変動問題とエネルギーの安定化という戦略は、基本的に表裏一体の関係にあります。そのため、経済産業省や資源エネルギー庁と密接に連携を取りながら業務に取り組んできました。

INPEXには2022年にジョインし、現在で3年強となります。まず、一番感動したのは、これほど大きく長期にわたるプロジェクトを推進することで、エネルギーの安定供給を実現し、国の中で大きな役割を果たしてきた点です。これには非常に感銘を受けました。

プロジェクトを進める中でさまざまな経験を積まれてきたと思いますが、その中で社外取締役として私が入った際、どのように貢献できるかを考えました。

特に、成長軸の1つ目である「LNG事業を中心とした石油・天然ガス分野の維持拡大」については、天然ガスを安定供給するためにさまざまなリスクが伴います。

アバディに関しては、先ほどのご質問にもありましたように、カントリーリスクなども存在します。これらにどのように対応していくかが重要です。

社外取締役は、さまざまな視点から意見を述べることができる立場であるため、その点からリスクを考えます。さらに言えば、リスクを踏まえ、かつリスクテイクについても考えていただく必要があると考えています。

また、成長軸2つ目の「CCS/水素をコアとした低炭素化ソリューションの提供」や3つ目の「INPEX『ならでは』の強みを活かしたエネルギー・資源分野での新たな挑戦」に位置づけられる低炭素ソリューションについてです。

確かに社会の状況は変化しており、現在は逆風下にある状況です。しかし、長期的な視点で考えると、これは当然ながら進展していくものであると考えています。

その際、社外取締役としての立場から考えますと、私自身、行政での経験があり、そのような分野に長く取り組んできたという背景があります。特に低炭素ソリューションに関していえば、政府との対話や、補助金の活用、あるいは規制措置によって市場をどのように構築していくか、このようなことを検討することは、政府の仕事でもあります。

政府との対話を意識した社外取締役としての役割を考えながら行動するというのが重要だと思います。

住吉:環境省、原子力、気候変動などに関するご自身のご経験の視点から、INPEXをどのように評価されていますか? 

森本:現在はトランジションの時期にあります。このトランジションの時期における天然ガスの役割は非常に重要だと考えています。

エネルギーの脱炭素化だけを考えるのではなく、トランジションと安定供給を同時に達成する必要があるため、天然ガスの役割は非常に大きいと考えています。その観点を気候変動を考慮する立場から重視することが、第一だと思います。

もう一つは、長期的な視点です。2030年、2040年、2050年といった長期的な視点から、多様なエネルギーを供給するというミッションをINPEXは持っています。

その目標に向けて、低炭素ソリューションについて政府との対話を進めながら、どのように取り組んでいくかを考え、あるいは発信することが重要だと考えています。

今後のINPEXに期待することは人材育成と知名度向上

住吉:続いて、今後INPEXのさらなる成長に向けて、執行側に期待することや、社外取締役の立場からどのように貢献したいかについておうかがいしたいと思います。柳井さま、いかがでしょうか? 

柳井:やはりまずは収益の柱であるイクシスに続く、ポストイクシスをしっかり進めていくことが重要だと思います。

また、成長という観点では、やはり人材の育成が最も大事ではないかと思います。社員一人ひとりがモチベーションを持ち、同じ目標を共有しながら取り組むことが重要です。

特に「INPEX Vision 2035」は若い社員にも参画してもらい作成した、大切なバイブルです。それを共有し、モチベーションを高めて進めていくことが重要です。

経営陣も育成に注力することが求められると思います。今日は私が発言していますが、社外役員全員が、人材育成が成長という観点では最も重要だと考えています。

少し話が逸れるかもしれませんが、成長という観点では、INPEXの認知度向上は課題だと感じています。INPEXは非常に大きな影響力を持つ会社です。

例えば、ウクライナ情勢が発生した際、INPEXが長期契約の価格で日本にLNGを安定的に供給していました。この契約がなく、当時スポット価格で調達していたら、日本は非常に厳しい状況に陥っていたと思います。それほどインパクトがある会社であるにもかかわらず、その認知度はまだ十分とはいえません。

日本製鉄やトヨタ自動車のような企業と同等、あるいはそれ以上の役割を果たしていながらも、認知度が不足している現状は、社員のモチベーションや将来のM&Aなど、成長の妨げになる可能性があります。これを改善するために取り組んでいただきたいです。

その一つの手段として、株主への還元政策があります。NISAではINPEXが上位に認知されているように、投資をされる方への認知度は上がっています。産業界全体、さらには国民全体に、この会社の重要性を認めてもらう必要があると思います。

その上で具体的な次のステップに進むことが重要です。ポストイクシスの確立や環境問題への対策も欠かせません。炭化水素を扱う企業として、環境に対する風当たりが強いのは明らかです。これに対応していかなければなりません。

さらに、M&Aに取り組む必要もあり、今後さまざまなことを進めていかなければならない中で、しっかりとした認知度を持ちながら進めていただきたいと思います。これが成長の1つの鍵だと考えます。

住吉:森本さまはいかがでしょうか? 

森本:今おっしゃったことに、私も同じ意見を持っています。まず、INPEXはこれだけの規模の企業であるにもかかわらず、実はあまり知られていないのです。

私は早稲田大学で講師を務めていますが、早稲田大学は非常にユニークな取り組みを行っています。卒業生であるおじいさまやおばあさまを早稲田に招く、ホームカミングデーというイベントで、現役の学生が卒業生を招待するのです。

この取り組みのすばらしい点は、おじいさまやおばあさまが孫を連れて来ることです。孫を連れてきて、「おじいさんが出た大学はここだよ」のような活動を行うことで、この伝統をつなげていく、非常に良い取り組みだと感じています。

私はINPEXのイクシスや新潟県の基地を見学しました。実際に現場を目の当たりにすると、確実に多くの人がファンになると感じました。実際に株主の方々に見学の案内を出すと、多くの応募があるそうです。これは非常に重要な取り組みとして大切にすべきだと思います。

具体的でリアルなものを示すことによって、新たな応援者が増えるという構図だと思います。

さらに、イクシスにはさまざまな資産、有形資産もあれば、無形資産もがあると思います。有形資産としては、基地や鉱区などがあります。

また、イクシス事業を通じて得られた約4,000件の「lessons learnt」を有している点も挙げられます。さらに、国内には1,500キロメートルにおよぶパイプラインを保有しており、オーストラリアやUAEとの非常に良好なパートナーシップも築いています。

これらの有形無形の資産をみんなで共有し、特にアバディなど次のステップに活用することで、成長につなげていると考えています。

また、日本国内に供給する際には、この1,500キロのパイプラインが役立つのではないかと思います。

質疑応答:指名報酬諮問委員会から見たINPEXの課題や機会について

質問者:柳井さまは指名報酬諮問委員会の委員長をされていると理解しています。その観点から、INPEXの課題、あるいは機会についてご意見を教えてください。

柳井:指名報酬諮問委員会の課題というと、おそらくサクセッションプランのことが念頭にあるのではないかと思います。

サクセッションプランについてお話しすると、現社長がすでに7年務めているということもあり、もちろん現在は非常に良好に運営されていますが、永続的ではありません。

そのため、サクセッションプランについては、1年以上にわたり、指名報酬諮問委員会においてクローズドサークルながらも議論を重ねています。そこでの議論では、固有名詞が挙がることもありますが、ここでお話しすることは控えます。

主に議論している内容は、どのような人物がこの会社のトップに立つことで、会社が円滑に運営されるのかという点です。

やはり、「社長が誰になるか」は非常に大きなメッセージです。社員やすべてのステークホルダーに対して最大のメッセージであり、将来をも左右する非常に重大な問題です。もちろん、大規模な投資も重要ですが、これも極めて重大なテーマであるという認識です。

強い緊張感を持って、現在、指名報酬諮問委員会のメンバーが議論にあたっています。

今年から、私が指名報酬諮問委員会の議長を務めており、委員の半数以上が社外メンバーという構成になっています。

最も注目しているのは、他企業でも同様ですが、あらゆるスキルマトリクスを駆使しながら、いわゆるしらみつぶしに、一番重要な要素は何かということについて、丁寧に議論しています。

具体的な内容については控えますが、この会社において、他の企業と比較して注目するべき点として挙げられるのは、非常に大きなエネルギー事業を取り扱っているため、関係先が主要産油ガス国や政府高官であることが多い点です。

そのため、このような相手に対応できる十分な知見、人格、高度な常識を備えた人材が求められています。これらは単なるスキルにとどまらず、さらに多角的な要素も含まれています。

また、スキルマトリクスの教科書的な項目だけでなく、最終的には人柄や人間性が極めて重要であることも経験からわかっています。実際、これらの要素が判断を誤って失敗を招いた企業も多く知っています。そのため、最終的にはこのような点が重要な判断材料になると考えています。

質疑応答:米国の反ESG動向を含む外部環境変化と投資計画の対応方針について

質問者:お二方とも、環境についての逆風の中でも、長期を見据えてしっかりと対応していく必要があるとお話しされていました。

外部環境を踏まえると納得できるところかと思いますが、一方で環境変化においては、反ESGの米国の動向が政権交代によってリスクとして変わり得るのではないかとも考えています。

いったん決めた投資計画から脱炭素投資の金額を減額されている点についてどのようにお考えなのでしょうか?

また、将来的にどのような状況が起これば意思決定を変える際の提案が可能になるのか、あるいは前回の意思決定に対して、どのようなご意見をお持ちだったのでしょうか?

さらに、同社の計画に柔軟性があるかどうかについて、どのようにお考えかをお聞かせいただけますか?

森本:まず、ビジョンと中期経営計画を策定するにあたり、1年かけて取締役会で議論しました。さらに、取締役会だけでなく、事前説明会や業務説明会などの自由な場でも、活発に議論を行いました。

ご指摘のような環境変化、例えば低炭素化への課題に対する対応については、やはりINPEXの強みやリソースを十分考慮しながら取り組むことが必要だと考えています。

成長軸2と成長軸3についてお話しすると、まず成長軸2で「選択と集中」を行い、成長軸3は新しい軸です。

「これから電気の需要が非常に増えるだろう。それに対してINPEXも参加すべきではないか」という議論もありました。電力分野は多数のプレーヤーが存在する中で、INPEXがどのような立ち位置を取るのかについて、かなり深く議論しました。

その結果、INPEXは「ならでは」に特化する、例えばヨウ素の利用、かん水からのリチウム採取といった事業に特化する方針を固めました。

一言で言うと、環境変化を踏まえつつも、低炭素分野でどのように取り組むのかを検討する際には、INPEXの持ち味や得意技を活かす方向で議論を集約したということです。

柳井:ほとんどお答えになりましたが、私からもあらためてお話しします。炭化水素をメインに事業を展開している企業においては、世の中がいつどのように変化するかわかりません。

現時点ではトランプ政権が2歩も3歩も後退していますが、これがどうなるかはまったく予測できません。また、ヨーロッパ主導の動きが再び活発化する可能性も十分にあると考えています。

そのため、このような将来のリスクや環境の変化に対して、十分な備えをしていく必要があります。ただし、その際に「これはコストだから」といって、あまり知見のない分野に多額の投資を行うことには反対です。

現在取り組んでいるのは、CCSやブルー水素、先ほど挙げたヨウ素など、さまざまな分野に網を張ることで将来的に需要を喚起する可能性があると考えています。

つまり、需要があるということはお金がついてくるということであり、そのような分野にある程度種をまき、備えておくべきではないかと思います。

質疑応答:社長交代および10年の変化について

質問者:柳井社外取締役におうかがいします。おそらくご在任中に社長交代を経験されていると思います。

先ほど「ガバナンスが大きく変わった」とお話がありました。株式市場から見ても、株主還元方針や資本効率への姿勢だけでなく、開示の一つひとつにも「足かけ10年弱でINPEXという会社は大きく変わったな」という印象を持っています。

そのような変化はどのような背景から生じたとお考えでしょうか? 社長交代という大きなイベントが影響しているのか、世の中の議論の変化によるものか、あるいは取締役会の変化が関連しているのでしょうか?

また、柳井さまから見た「私が変えたのです」の観点でもけっこうですので、この10年の変化についてどのようにお考えか教えていただけますか?

柳井:今おっしゃった3つの要素すべてが組み合わさった結果として現れてきたと思います。決して前社長が後ろ向きだったわけではなく、前社長の任期の終盤からそのような動きが加速していました。

特に顕著だったのは、取締役間の議論が活性化したことだと考えています。その要因の1つは、取締役全員に無記名でアンケートを実施していることです。このアンケートは取締役会の効率化を目的としており、自由記述欄も設けているため、思い切った意見が書かれることもあります。

無記名だからこそ率直な意見が集まり、時には私自身がどきっとする内容もあります。それらすべてを採用することは現実的ではありませんが、ブロードマインドでかなり幅広い意見を取り入れて取締役の議論を活性化させる一助としました。

こうした経緯の中で取締役としての緊張感が増し、多様な提言が出るようになりました。このことが非常に大きな要素だと思います。また、そのような意見を良しとして受け入れてくれた経営陣の意向も影響が大きかったと思います。

また、この大きな変化の背景には世の中の状況もありますが、特に株主還元についてかつてよりも注力するようになりました。直近では、株主還元を推進することで認知度を高めるとともに、多方面で企業にとって有益だというコンセンサスが得られ、大きく押し進めることになりました。

さらに、IR活動や広報活動もかなり積極的になったと感じています。

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