世界をリードする「国際金融都市・東京」の実現に向けて

小池百合子氏:みなさま、こんにちは。東京都知事の小池です。「国際金融都市東京 企業価値向上サミット」のメインテーマは、戦略的なIR(Investor Relations)だとうかがっています。

企業価値の向上は、中身と、それをしっかりと発信すること、この両方が相まって可能になるものだと思います。緊密なコミュニケーションを通じて企業価値の最大化に努めているみなさまが参加されているということで、私も話しがいがあります。

一昨日(8月23日)まで、ヘルシンキと、世界陸上競技選手権大会の会場となっているブダペストをかけ回って、日本に戻ってきたばかりです。あらためて、世界は激動しているといろいろな面からも感じているところです。

東京都知事の私も経営者として、東京都の取り組み、そして魅力を世界に向けて発信してきました。まさに東京都としてのIRを実践しているところです。今日は、東京都が世界をリードする国際金融都市となるための取り組みについても少しお話しします。

東京のポテンシャル

日本には世界3位となる経済力、2,000兆円を超える個人金融資産があることは言うまでもありません。

東京都についてお話ししますと、人口は全国の約1割に相当する1,400万人で、GDPの約2割を占めています。また、東京都の予算規模は約16兆円であり、これはスウェーデンの国家予算を上回る規模となっています。

私は国会議員を長年勤めていました。国会議員は一つひとつのセクションを担当し、大臣も同様に1つの分野を担当しますが、東京都のような大都市において、これだけの規模の物事を決めることは、まさに経営そのものに携わっているという感覚があります。

東京都のプラスの面としては、世界売上高ランキング500社に名を連ねる企業が集積していることも大きなポイントであり、圧倒的な経済規模を誇る大都市となっています。生活の面でも、都市インフラとして利便性が高い公共交通ネットワークを有しています。

さらに、今年の9月1日は関東大震災が発生してから100年の節目ということで、都市としての強靭化を一層高めているところです。昨今の台風大型化への対応などが挙げられます。私が子供の頃は、線状降水帯という言葉を聞いたことがありませんでしたが、このような想定を超えるさまざまな被害が世界中で発生しており、新しい対応も必要になってきています。

また、日本・東京都のアドバンスメントには、法の支配(rule of law)があります。そして安定した社会秩序があることから、ビジネスを発展させていくという意味では舞台が整っていると思います。

世界は激動の中・都市間競争は激化

今お伝えしたように世界は激動しており、ロシアのプリゴジン氏について報道されているとおりならば、世界の非情な一面だと言えます。また、このウクライナの情勢に端を発して、グローバルなサプライチェーンにも変化が起こっています。

スタートアップが牽引する産業構造も転換し、GX・DXが世界経済の新たな機軸になるなど、状況はめまぐるしく変化していることは言うまでもありません。

つい数時間前にもメルセデス・ベンツの社長が東京都庁に来られて、「日本でEVを展開する」とおっしゃっていました。いろいろな産業革命も起こっているということです。

「国際金融都市・東京」構想 2.0 による施策展開

このような環境の変化に対応して、経済の血液とも言われる金融ビジネスを活性化させるため、東京都は2021年に「国際金融都市・東京」構想を2.0にバージョンアップしました。キーワードはGDP(Green、Digital、Player)です。この3つを柱に政策を展開しているところです。もう1つPを重ねるならば、Promotionとし、国際金融都市を目指して発信していくことを旨としています。

サステナブルファイナンスの推進

1つずつお話しします。まず、Greenについては言うまでもありません。化石燃料中心の社会からクリーンエネルギー中心の社会へと転換しています。経済成長との両立を図るGXの動きが広がりを見せているのはご承知のとおりです。環境と経済の好循環を作り出すということが大きなテーマであり、それを回していくのが金融の力です。

東京都では、グリーンファイナンス、サステナブルファイナンスの発展に向けて戦略的に取り組みを推進しているところです。例えば今年度、再生可能エネルギーの導入拡大に欠かせない系統用蓄電池を主な投資対象とする新たなファンドを創設します。

既に立ち上げて進めている、再生可能エネルギーの施設を対象とするファンドとの両輪で脱炭素化、そしてエネルギー安全保障の実現を目指しています。9月には運営事業者を決定する予定です。また、民間によるESG債の発行経費の一部を支援するなど、サステナブルファイナンスを推進します。

他自治体を先導するESG 債・外債の発行

 

東京都自らも、国内のグリーンファイナンス市場の活性化に向けて、率先して「東京グリーンボンド」を発行しています。私が環境大臣を務めていた2005年頃、パリ市がグリーンボンドを発行しており、そこに日本の機関投資家が投資していました。パリ市の環境を良くすることに私たちのお金が使われていると聞いて、「これは何とかしなければ」と思いました。以来、私は金融と環境をいかにしてコラボさせていくかを長年考えてきました。

2016年に東京都知事に当選して、最初に取りかかったのが「東京グリーンボンド」を発行することです。もちろん自治体としては初の試みで、環境と一緒にお金をどのように回していくかを継続的なテーマとし、努めているところです。

発行額は年々増加しており、2023年度には1,100億円を予定しています。これを含め、これまでの東京都におけるESG債の累計発行額は4,000億円です。投資家向けに、どのような事業に資金が充当され、どのような効果が得られたのか、インパクトレポートも作成して公表しています。

国内の自治体として初めて、第三者機関による発行後評価を取得し、都債の訴求力を向上させています。また、東京都は外債を発行する唯一の地方公共団体として、平成19年度(2007年度)から海外IRも実施しています。

金融のデジタライゼーション

構想における第2の柱、「金融のデジタライゼーション」についてです。DXで経済構造が大きく変貌を遂げている中で、金融産業も例外ではなく、フィンテック企業の活動支援や、環境整備を実施することの重要性は、さらに高まっています。

今年度からは、ブロックチェーンを活用して発行される「セキュリティトークン」、いわゆるデジタル証券の発行費用の一部を支援する事業も開始しています。デジタル証券の発行事例を数多く生み出し、ノウハウや課題を広く共有することにより、市場の拡大を目指しています。フィンテック産業の育成、革新的なサービス提供の実現を目的に、支援ファンドも創設し、継続的な支援を行っているところです。

金融関連プレーヤーの集積

構想における第3の柱は、多様な「金融関連プレーヤーの集積」です。外国企業の誘致と、国内での創業と成長、この両面を支援する取り組みを行っており、相乗効果を生み出していきたいと考えています。外国からの誘致については、グリーンファイナンスを担う資産運用業者と、フィンテック企業の東京進出に重点を置いています。

今年度からは、GXを担う外国企業の支援も開始しています。また、国と連携して開業に向けた手続きを英語で一元的に提供する「金融ワンストップ支援サービス」も実施しています。

国内の成長創業支援として、新興資産運用業者の創業費用の補助にも取り組んでいます。これによって、東京での創業促進や、創業後の経営安定化を図っています。

【民間企業支援】ハンズオンによる英文IR支援

今日お集まりのみなさまのように、東京には優れた技術、製品を生み出す企業がたくさんあります。一方で、英語での情報発信については、十分に取り組めていない企業も多いのが現状です。

このような隠れた原石とも言える企業の情報開示を英文で行います。このための支援を行うFinCity.Tokyo(東京国際金融機構)の代表理事・会長には、元日銀副総裁の中曽さんが就任し、いろいろな機関と連携を取って、活動していただいています。

東証グロース市場・スタンダード市場、新規上場後5年以内の企業15社を対象に、海外投資家向けIRのブラッシュアップを、無料で実施しています。例えば、エクイティ・ストーリーの構築や決算IR説明会資料等の英訳、海外投資家とのコミュニケーションの取り方の支援などです。実施にあたり、「国際金融都市東京 企業価値向上サミット」の主催者である馬淵さんにもお力添えを賜ったと聞いています。

【民間企業支援】英文IR人材の育成

東京証券取引所と共催で、英文IRの人材育成講座を開催しています。昨年度は、1,300人超のみなさまにご参加いただいています。IR人材の裾野を拡大するため、日本の優れた企業が世界に向けて情報発信することを支援していきます。

今回、私が訪問していたフィンランドは、「フィンランド化(Finlandization)」という言葉があるように、ソビエト連邦のすぐ隣で、できる限りロープロファイルでいましたが、冷戦構造が終わり、そのくびきから解き放たれ、何をしたかはすでにみなさまがご承知のとおりです。

通信産業において、隣の村まで100キロあるような環境を結ぶのは情報通信です。情報通信の世界に、まずNokiaが出てきました。Nokiaは、その後の携帯電話産業の変遷に伴い、厳しい時期もありましたが、現在は5Gなどのネットワークのステーションの面で、さらなるチャンスを見いだしています。

そもそも、550万人というフィンランドの小さな人口市場では、十分に力が発揮できないため、最初から世界を相手にしていることがポイントです。そのため、フィンランドのほとんどの方が英語を話すことができ、それ自体がインフラとなっています。そのような意味で、IRを英語で行うことは、世界へのドアをノックする最低必要条件ではないかと思います。

プロモーションの展開

プロモーション活動についてです。今年2月にロンドンを訪問し、東京進出のための手厚い支援や、金融市場としての魅力、ポテンシャルの高さをPRしています。

Tokyo Sustainable Finance Week

サステナブルファイナンスの機運を醸成していくために、「Tokyo Sustainable Finance Week」を設けています。今年の9月30日から10月6日までを、「Tokyo Sustainable Finance Week」と銘打ち、セミナーやシンポジウムなど、さまざまなプログラムを用意しています。

また、日本で初開催となる国際イベント「PRI in Person」を核として、国内外のリーダーから最新動向を学べるように、「Tokyo Sustainable Finance Forum」などのイベントを集中的に開催し、機運を盛り上げていきたいと考えています。

Sustainable High City Tech Tokyo

そして、持続的な成長を実現する上で重要な役割を果たすのが、スタートアップです。そして、新たな価値を作り出し、東京都の社会課題の解決力を飛躍的に高めるイノベーションが何よりも欠かせません。イノベーションをこの東京都で引き起こすために、スタートアップのみなさまを、未来を実現する重要なパートナーと位置づけています。

さまざまなアイデアやテクノロジーによって、世界共通の都市課題を克服しようということで、「Sustainable High City Tech Tokyo」というネットワークを作っています。Sustainableの「Sus」と、High City Techの最初の「Hi」を合わせると、「SusHi(すし)」になるため、略して「SusHi Tech Tokyo」として発信しています。

バルセロナやパリ、ベルリンなど、世界各地でスタートアップが競い合っている中で、東京都が「ハイテクをやります」と言っても訴求できないため、わかりやすい「SusHi」という言葉を編み出しました。みなさまにお伝えすると「おいしそうだから行くよ」と人が一気に増える、大変訴求力が高いものだと感じています。

「SusHi Tech Tokyo2024」開催

今年2月には東京の国際フォーラムにおいて、最初のイベントを行いました。世界34都市のリーダーにお集まりいただき、300社以上のスタートアップが終結するイベントとなりました。

来年の4月から5月にかけて、2回目となる「SusHi Tech Tokyo2024」を開催する予定です。どうぞみなさまの手帳やスマホに、「SusHi Tech Tokyo」のスケジュールをSave your dateしておいてください。

「SusHi Tech Tokyo2024」概要

「SusHi Tech Tokyo2024」は、アジア最大規模のグローバルスタートアッププログラム、五大陸の都市のリーダーが集うシティリーダーズプログラム、お祭りのようなかたちで未来の都市モデルを楽しむ体験型ショーケースプログラムもご用意しています。来場された方々が互いにマッチングし、インスパイアできる場所にしていきたいと思っています。

インベスターやアクセラレータが集い、来られた方が「良かったね」「効果があったね」「世界のマーケットでがんばっていこう」と思える場になればと考えています。東京発のイノベーションを創出し、未来の都市モデルを発信していきますので、みなさまのご来場を心よりお待ちしています。

「国際金融都市・東京」構想2.0に基づき、さらなる進化を遂げるべく、力強く歩みを進めていきます。東京都の魅力や、企業の価値を、ともに高め世界に発信したいと思います。いろいろと術は用意していますので、ぜひご活用いただき、これによってグローバルに活動する80億人もしくは未来を対象にしたみなさまのご活躍を心から期待しています。

英文情報開示支援事業(Disclosure G)

福永真一氏:東京都のスタートアップ・国際金融都市戦略室特区・規制改革担当部長の福永と申します。簡単に3つほどご紹介します。1つ目は英文情報開示支援事業です。先ほど知事からもご説明があったように、ハンズオンによる英文IR支援および英文IR人材育成講座を行っています。

ハンズオンによる英文IR支援は、現在も今年度の支援対象を募集しています。スライドにQRコードを載せていますので、ぜひご検討いただければと思います。英文IR人材育成講座は来年2月に開催予定です。こちらは決まり次第、ホームページなどでご案内します。

“Tokyo Innovation Base”

スタートアップが集い、イノベーションを巻き起こす拠点として、「Tokyo Innovation Base」という新しい施設をオープンします。今年の秋にプレオープンする予定です。東京駅から約5分、有楽町駅前に設置することとなっています。

“Tokyo Innovation Base”のコンセプト

「Tokyo Innovation Base」のコンセプトです。アジアのスタートアップゲートウェイとなる拠点にしていく想定です。「シード」「アーリー」など、早い段階でのスタートアップや、都市課題を解決するスタートアップを中心として、業種・分野にとらわれないイベント等を常時開催します。

さらに、スタートアップ手前の起業を目指す大学生や社会人、子供を含め、起業へのマインドを持ってもらえる場にしたいと考えています。本日お集まりのみなさまには、このようなイベントにぜひご参加いただき、若いスタートアップやその手前の大学生へ刺激を与えていただければと思っています。

グローバルスタートアップイベント "SusHi Tech Tokyo"

知事からご説明した「SusHi Tech Tokyo」です。今年の2月のイベントでは、参加者2万6,000人、参加国60ヶ国以上、スタートアップ企業300社以上にご参加いただきました。

「SusHi Tech Tokyo2024」

先ほど、4月から5月にかけて開催されるイベントを複数ご紹介しましたが、スタートアップイベント「SusHi Tech Tokyo2024」は、2024年5月15日・16日に、東京ビッグサイトで開催します。会場が大きくなり、アジア最大級となる4万人規模の参加を目指しています。これから、随時情報を発信していきますので、ぜひご参加いただければと思います。

スタートアップ・国際金融都市戦略室 ウェブサイトはこちら

スタートアップ・国際金融都市戦略室は、今年の4月に出来た部署です。金融とスタートアップ、2つの力を合わせて新しいイノベーションを創出していきます。また、スタートアップ以外の企業も、都内経済の活性化に関わっていくことにより、イノベーションを生み出すと考えています。

スタートアップ・国際金融都市戦略室のウェブサイトから、さまざまなコラボレーションの機会も発信していきます。これからも、ぜひご支援・ご協力いただければと思います。