個人投資家向けIRセミナー

村井博之氏(以下、村井):みなさま、こんばんは。バロックジャパンリミテッド代表取締役社長の村井博之です。この度は当社の説明会にご参加いただき、誠にありがとうございます。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):本日はよろしくお願いします。

村井:よろしくお願いします。坂本さん、今日は当社のシャツを着ていただいていますね。「AZUL BY MOUSSY」をわざわざご着用くださりありがとうございます。

坂本:私は服が非常に好きで、店舗にもよく行っています。コラボTシャツをよく出されていますよね。私が着ているものが今展開されています。半袖と長袖、黒っぽいもの、白っぽいものなどありますので、みなさまもぜひ見てみてください。

01/代表者プロフィール

村井:まずは私のプロフィールを簡単にご紹介します。私は大学を卒業して中国での留学を終えた後、1985年にキヤノン株式会社に入社しました。この年にはプラザ合意があり、せっかく花形の輸出企業に入ったにもかかわらず、いろいろと大変な思いをしました。

キヤノンは私が入社した1985年頃から中国へのビジネスをスタートさせており、私の社会人デビューとキヤノンの中国展開は、ほぼ同時期にスタートしたというご縁がありました。その後、また別なご縁があって、キヤノンから当時の日本エアシステム、今の日本航空に移り、香港現地法人の代表をしました。

1990年代になってから、日本製だった家電製品、精密機器、自動車など、あらゆる分野でさまざまな製品の生産拠点が次々と中国にシフトし始め、中国が世界の工場になっていく第1段階となったのです。このように物流ニーズが航空も含めて非常に多く出てきた中で、私は航空会社での仕事として、日中の航空路線を開設してきました。

そして2006年に、まったく若い頃は想像もしていなかったアパレル企業の経営者になり、今日に至っている次第です。

坂本:非常に多彩な経歴ですね。

02/会社概要

坂本:続いて会社概要です。

村井:バロックジャパンリミテッドは、2000年に「MOUSSY」というブランドを店舗展開してスタートしました。

この時点では私はまだ経営に参加していないのですが、その後、会社も少しずつ大きくなってきて、現在17のブランドを国内に343店舗展開しています。中国でも一時期は300店舗以上あったのですが、コロナ禍後の中国経済の縮小に伴い、現在は174店舗です。その他、米国、韓国等に展開しているアパレル製造小売業です。

03/沿革

村井:スライドに会社の歴史を記載しています。2000年に「MOUSSY」からスタートし、これが瞬く間に100億円の規模まで大きくなりました。

最初はSHIBUYA109の小さな店舗でスタートしました。その時に私はいなかったのですが、私よりも10歳以上若い当時の20代の創業メンバーたちが、自分たちの作りたい服を自分たちで作ろうとスタートしています。それが多くの共感を呼んで「MOUSSY」が大きくなったのです。

また当時、当社は広告宣伝費などを使う余裕のない時期でしたが、多くのスター、歌手、女性俳優など著名な方々からも非常に強い支持を受けており、自然にみなさまが着用してくださって大きくなっていきました。

2003年には「SLY」という新しいブランドが立ち上がりました。これはもともと「MOUSSY」の販売員だったデザイナーが独立して新しく作ったブランドです。

私は不思議な縁からこのような若い創業メンバーたちと出会う機会があり、2006年に会社の代表として経営を委ねられました。その後、そのようなブランドをすべて統一して今のバロックジャパンリミテッドを設立したという経緯です。

そして、それまでは主にギャル系といわれた「MOUSSY」「SLY」「rienda」「RODEO CROWNS WIDE BOWL」というブランドを展開していたのですが、その後、これらのギャルブランドだけでは成長の余地がなくなるのではないかと思い至りました。

坂本:年齢層も狭いですし、少子化もありますしね。

村井:そのとおりです。さらに、2008年はリーマン・ショックの年です。その前年にサブプライムローン危機が起こっており、これが引き金になるのですが、その時に私はニューヨークに行っていました。

その時、ニューヨークの5番街で人々が買い物をしているのはファストファッションのみでした。5番街には星の数ほどの世界中のブランドがあるにもかかわらず、価格が低くてカジュアルなものを扱うお店にしか客がいなかったのです。

坂本:高級ブランドを含めてたくさんありますよね。

村井:高級ブランドはありますが、みんな閑古鳥が鳴いている状態でした。アメリカは経済のショーウィンドウとして状況が非常に顕著に表れる国で、景気が良ければみんなが消費に走ります。そして、いったん景気が悪くなると一挙にそれがなくなってしまいます。

それを経験して、やはりこれは遅かれ早かれ日本にも影響してくるだろうと思いました。そして我々は、よりカジュアルで、女性だけではなく男女ともに楽しめるブランドを、ショッピングモールで展開していこうと思いついたのです。それが「AZUL BY MOUSSY」をスタートしたいきさつです。

坂本:ファンの年齢層が上がってくるという理由もありますよね。

村井:1つのターゲットコンシューマーは、絞れば絞るほど当たる確率は大きいのですが、その後どのように進めていくかはかなり難しい問題になってくると思います。

坂本:それに対応するために、カジュアルで年齢層も広めにしたのですね。さらに、販売もSHIBUYA109だけではなく全国に広げようと考えたということです。

村井:今「AZUL BY MOUSSY」が、おかげさまで我々のポートフォリオの中で一番大きなブランドとして存在しています。

坂本:村井社長が中国に詳しいことと、経験、経営能力もあったことから代表にと請われたと思います。中国展開については、社長が御社に来られた時からすでに考えにあったのでしょうか? 

社長だから中国で展開しようと考えたのか、それとも、リーマン・ショックの中で業態を展開していく戦略として中国に行こうとしたのか、そのあたりのお考えをもう少し教えてください。

村井:我々がもともとあったブランドを統合してバロックジャパンリミテッドを作った時には、中国をそこまで意識していたわけではありません。私自身は自分の経歴の中で長らく中国のビジネスに携わっていたため、いつか中国で展開したいという思いはありました。しかし、社員も含めて当時は誰も、この会社がその後中国に数百店舗をオープンするとは考えていませんでした。

我々も初めは、やはり日本との親和性の部分を加味して台湾に進出しました。台湾でいったん20店舗ほど展開したのですが、2009年に一大決心をして、中国本土に早く展開していかなければいけないと考えました。とはいえ、当時は当社もそこまで規模の大きい会社ではなく、まだ上場もしていない時期だったため、台湾に投入したリソースを全部引き上げたのです。

坂本:閉じてしまったのですか? 

村井:台湾の店舗を全部閉店して、それを全て中国本土に投入するという方法で、2010年にスタートしました。

04/ブランド紹介

坂本:続いてブランド紹介です。

村井:先ほどからお話ししているように、当社で最初のブランドは「MOUSSY」です。2025年がブランド開始から25周年で、創業4年後から今日まで100億円規模を維持しており、当社の大黒柱といえると思います。

そして「MOUSSY」から出たデザイナーが新たなコンセプトで作った「SLY」が、直近で若いコンシューマーに支持されています。また、最近、SHIBUYA109を中心にしてギャルブームがリバイバルしています。「SLY」はそれを牽引するようなブランドです。

「rienda」は、今はエイジレスですが、もともとのスタートはSHIBUYA109の中でギャルに支持されるブランドでした。顧客はそこから少し大人になったものの、今また客層が若年化しています。

「RODEO CROWNS WIDE BOWL」と「AZUL BY MOUSSY」は、ともに郊外のショッピングモールを中心に、いろいろな年代の方に広く楽しんでいただけるブランドです。

「STYLEMIXER」は比較的新しいブランドで、変わった立ち位置にあります。モードというと今までは百貨店や専門店で展開するのが常識とされていた中で、我々はあえて出店立地を問わず、郊外型モール等も含めて展開して、非常に大きな反響を得ています。

坂本:かなり特異で、そのような店がモールの中にあると目を引きます。

村井:表参道にある我々の旗艦店の中でも、今「MOUSSY」と並んで売上があるのがこのブランドです。

現代は世の中の消費動向が多様化しており、都心から郊外モールまで幅広く「こういうものを買う時はこういうお店に行く」という、これまでの定番の消費行動が変化しつつあります。我々もそのようなことを勉強しながらこのブランドを推進しています。

ブランド紹介

村井:「ENFÖLD」は、もともと「MOUSSY」から「SLY」に行き、「SLY」を成功させた植田みずきという当社のデザイナーが、「SLY」を卒業して「もっと世界のモードに挑戦したい」と立ち上げたブランドです。

当初は苦戦したのですが、今ではパリのファッションウィーク等でも評価されるようなブランドに成長しています。今後はこれを我々のハイエンドの1つの見本として世界に発信していきたい考えです。

「någonstans」は「ENFÖLD」のデザインチームが、もう少しカジュアルなオケージョンと、若い世代で買えるものをと考えて、「ENFÖLD」とは少し違ったコンテンツを提供しています。

次に「RIM.ARK」です。社内で「スター発掘コンテスト」を開催し、このコンテストで優勝した人の夢を叶えるということをしており、「RIM.ARK」はそれがきっかけでできたブランドです。コンテストで最初に優勝したのがそのスタッフで、偶然、ブランドをしたいという思いを持っていました。

坂本:もともとデザイナーの方なのですか? 

村井:もともとはヘアーデザインなど美容に携わっていたスタッフなのですが、ファッションをしたい、デザイナーとして活躍したいとのことで、会社として応援して今はブランドを作っています。

このコンテストで優勝したら、例えば芸能人になりたいとかモデルになりたいということでも、会社として資金援助をし、それを実現するようにしています。

坂本:バックアップですね。

村井:「HeRIN.CYE」は、「MOUSSY」の創業時からいるメンバーで、今一番年長のデザイナーが、今の時代を生きる女性に向けて提案している新ブランドです。

「STACCATO」は、我々の中国のパートナーが靴を本業としており、そこが世界向けブランドとして作っているものを我々が日本の百貨店で展開しています。

最後に「LAGUA GEM」は、「SLY」よりもさらに最近の、SHIBUYA109における新ギャルブームに対応したギャルをターゲットとする新ブランドで、現在絶好調です。

05/成長戦略

坂本:主要なブランドについて、どのような戦略で進めていくのか教えてください。

村井:まずは「MOUSSY」で培った、ブランドを確立する力を1つの糧として、本当の意味でのブランド作りをしていきたいと考えています。そのブランドに求められるものとは、買う価値のある商品と、その商品を買う体験であり、それらを提供したいです。

買い物とは不思議なもので、もちろん物を買って所有する楽しみもありますが、買う瞬間が買い物の醍醐味の1つと我々は考えています。そのような意味で、我々は、起業当初のカリスマ店員文化に代表されるように、販売する人がお客さまに感動を届けることを非常に重視しています。

これをもとにして今日まで取り組んできており、連結売上高が現段階で600億円から700億円程度のところ、2030年までに1,000億円を目指しています。

今後も、すべての商品とそれを売る人たちについて、その物を作っていくことはもちろん、ブランドの商品とそのブランドを買う感動をお届けすることを、ビジネスとして拡大していきたいと考えています。

06/主要ブランドの拡大

坂本:2030年までに連結売上高1,000億円を目指す上での取り組みについて、ご説明をお願いします。

村井:我々の取り組みは、日本での事業と、2番目に進出した中国での事業です。中国も大きくなってきたのですが、中国とアメリカは世界の中で最大のファッションマーケットです。我々は中国に進出した1年後にはアメリカにも進出しています。

当時、アメリカでのビジネスは成功するのがなかなか難しいといわれていました。我々よりも遥かに大きな規模でビジネスを行っている会社でも当初は赤字が続いていましたし、我々も3年で黒字化できなければ撤退すると明確に決めてからスタートしました。

中国では、日本の「MOUSSY」を中国に輸出してパートナーと一緒に直営店舗で販売していますが、アメリカでは、実は日本でも売っていない商品を扱っています。

1つの代表的な商品は、「MOUSSY VINTAGE」です。「MOUSSY」をアメリカのラグジュアリーマーケットで展開するために、日本国内で一つひとつハンドメイドで作ったものです。

坂本:見ただけでもかなり良いと思います。こだわりが強く見えますね。

村井:これはかなり良いものです。もちろん、機械で作るものや普通の「MOUSSY」の品質も、我々としては十分に誇れるものです。「MOUSSY VINTAGE」については、アメリカの富裕層をターゲットにした商品として、有名なハリウッドスターや英国王族の方にもお召しいただき、それらがいろいろなメディアで報道されました。

坂本:どこの何というものかと話題になりますよね。

村井:そして今、「MOUSSY」の知名度が欧米でも急速に上がりつつあります。

坂本:メイドインジャパンで、ダメージの部分や色落ちなども1点ずつ作っていますよね。これはとても良いですし、非常にきれいに作ってあります。これは日本では買えないのですか?

村井:残念ながら、日本では買えません。もしみなさまがアメリカにお越しの際には、全米の主要セレクトショップ、高級百貨店で買うことができます。

坂本:アメリカの直営店は1店舗とのことですが、今はセレクトショップなどに置いてあるのですか? 

村井:そのとおりです。

坂本:これほどまでに良い品質のものがあると、確かに目を引きます。

本当のヴィンテージが好きな人はいいのですが、実際に着古したものはどうしてもファッションにあわなかったり、耐久性などに問題があったりします。これは一から作っているため、耐久性の面から見ても良いと思います。しかも、普通に自分で履きつぶしたようなかたちに作ってあることがすばらしいです。

村井:また、デニムはアメリカで一番ポピュラーな衣料品なのです。そのため、日本人がアメリカで最高峰のデニムを売っていくことは相当困難です。

坂本:もともと歴史のあるブランドもありますしね。

村井:逆にいうと、外国人が日本で酒蔵を作って酒を売るような話です。

坂本:それをあえて展開しているということですね。

村井:このようにアメリカでは、中国では展開していないラグジュアリーマーケットをどう取っていくかに取り組んでいます。今後これをさらに拡大したいと考えており、海外で500億円ぐらいの売上を目指しています。

バロックジャパンリミテッドとしては、日本のアパレルの中でどんどん大きくしようという戦略ではなく、日本、中国、アメリカそれぞれにおいて、メジャーになることよりもニッチャーとして存在価値を適切に作っていきます。大きくして、バーゲニングをして広げていくのではなく、みなさまから愛されるブランドとしてそれぞれの国での立ち位置を作っていきたい考えです。

坂本:米国ではそれがデニムで、今展開しているのですね。

07/ギャル文化のリバイバル

坂本:日本でギャル文化がリバイバルしていることについて、ご説明をお願いします。

村井:我々が「MOUSSY」をスタートしてから25年が経つ中で、ファッションとは何年、何十年という周期で同じようなブーミングがあります。

そのような意味で、コロナ禍を挟んだ数年の間に、自分たちの個性を追い求めるよりも「みんなと同じ」という風潮が日本で出てきました。また、世界的にもファストファッションブームで、アパレルにあまりお金を使わない方が多い状況でした。

しかし、最近では若い人たちの間で「人と一緒では嫌だ」という、2000年頃に最初にギャルブームが起こった時と同じような現象が起こりつつあります。このような中で、元祖ギャル文化を創生したバロックジャパンリミテッドとして、この市場を確実に伸ばしていくことが、直近でフォーカスしている戦略です。

坂本:私は男性ですが、若い頃は確かにギャル文化が非常に流行っていたように思います。今でも、そのような服を着ている人を見ると非常に懐かしいと感じますね。こちらが影響して月次売上高が大きく増加してきている状況は興味深いです。

08/インバウンド需要の取り込み

坂本:日本を訪れる観光客の約65パーセントが中国、台湾、韓国をはじめとするアジア圏の方々です。もちろん欧米からの観光客もいるかと思いますが、そのような状況となっています。御社は中国でも展開されているため、インバウンドについても教えてください。

村井:「MOUSSY」は中国や米国でもブランドの知名度があるため、コロナ禍前に多くの中国のお客さまが来られていた時も、日本の店舗でたくさんお買い物をしていただいていました。

直近では為替の影響もあり、全世界から日本に来ていただいている状況です。その中でも、表参道にある旗艦店では、TST免税売上高が前年比125.3パーセント増となりました。店舗全体の売上に占める外国人のお客さまの比率は4割近い状況になっています。

この状況がどこまで続くかということはありますが、我々としては、外国人のお客さまにも日本でショッピング体験をしていただき、今後のさらなる需要喚起につなげたいと考えています。

坂本:御社は多くのブランドをお持ちですが、外国人のお客さまにはどのブランドが刺さっているのでしょうか?  セレクトショップのような、御社のブランドが詰まった店舗かと思います。

村井:そのとおりです。以前は、店舗に来れば当社のすべてのブランド商品を購入できました。しかし、直近ではどんどん構成を変更し、現在置かれている自社ブランドの商品数はそれほど多くありません。

むしろ、日本に来てショッピング体験をしていただけるようなコンテンツをどんどん広げていこうと考えています。今後の計画としては、アパレル商品に限らず、雑貨等も含めたさまざまな商品を展開し、日本でのお買い物を楽しんでいただきたいです。

09/新規事業の推進

坂本:新規事業として、先ほどお話しいただいたデニムや50代の方に向けたブランドについてもご説明をお願いします。

村井:50代の方々は、実は「MOUSSY」の第1世代です。現在、25年前に25歳だった方がちょうど50歳に差し掛かるタイミングなのです。

そこで今、「『MOUSSY』を卒業した方々に何を提供していくのか」をテーマに、当時の「MOUSSY」第1世代のデザイナーたちが中心となってコンセプトを固めようとしています。

今後、日本でも人口構成比の中で高齢化がますます進んでいきます。また、50代の方々の世代のほうが服に対する消費が大きいです。

坂本:愛着がある方も多いのではないかと思います。

村井:そのため我々としては、今後の日本国内市場ではこのマーケットを最重視していこうと考えています。

そして、この世代の方々は、満足のいく洋服選びや、おしゃれな・かっこいいものを買うことに非常に長けた世代です。そのような方々が満足を得られるものを提供していこうというのが、我々の大人向け新規事業開発の中心となっています。

10/中国アパレル事業について

坂本:中国市場についてお聞きしたいと思います。

村井:私自身、今年で60代半ばに近づいてきましたが、18歳の時に初めて中国を訪れ、それ以来、長年にわたり中国を見続けています。

私が初めて中国を訪れた頃は、電気などが不足し、基礎インフラがありませんでした。冬は暖房がなく、夏は冷房がないという環境で、まるでタイムマシンで過去にタイムスリップしたような寮生活を送っていました。

しかし、その後90年代、2000年代はカセットテープを早回ししたように時代が進み、現在の中国の大都市での生活水準は東京と変わらない状態にあります。

ところが、新型コロナウイルス感染症のまん延を境に、中国経済には大異変が生じました。この大異変は、おそらく我々が体験した90年代のバブル崩壊と似ています。

長年にわたり高い経済成長が続いたことで、不動産バブルが拡大していきました。中国の政策当局も、日本のバブル崩壊のような事態にならないように強く意識していましたが、不動産バブルを規制するための政策と新型コロナウイルス感染症の予期せぬパンデミックが重なったのです。

このような中で、中国でのビジネスにおける重要点の1つは「早く動かなければならない」ということです。

坂本:変化のスピードが速いのですね。

村井:中国は日本の数倍の速度で変化するため、我々も状況が悪い時にはいったんしゃがもうと、店舗数を300強から半数近くにまで縮小しました。

しかし、日本もかつてバブル経済を乗り越えています。「失われた30年」といわれる期間もありますが、その間ずっと停滞していたわけではありません。我々自身も2000年に「MOUSSY」を立ち上げ、2004年には売上高100億円を達成しました。「ITバブル」と呼ばれた時代など、いくつかの山は訪れるものなのです。

つまり、今は少しおとなしく構えておきながらも、再び訪れるチャンスをしっかりとつかみ、きちんと展開できるよう準備を進めています。

坂本:現在、中国における店舗数は174店舗ですが、以前は300店舗以上展開されていたとうかがいました。中国で100店舗以上を展開している日本企業は非常に少なく、ファーストリテイリングや良品計画と御社あたりかと思います。

店舗を広げられた理由として、「『MOUSSY』を持ってきました」とお話しされていた以外にもあるかと思います。

村井:もちろん、直近でバブル崩壊に近い状況が発生したため、短期的には当社の業績も比較的マイナスのインパクトを受けています。とはいえ、14億人近くの人口を抱える中国は、アパレルの消費地としてはアメリカと並んで世界一の規模を持つマーケットで、その重要性は変わりません。

また、日本市場については、当社創業時と現在とでは、成人式を迎える人数が約1割減少しています。そのような意味で、人口規模の大きなマーケットは重要です。

さらに、今後他国へ展開する際にも、中国とアメリカのビジネスモデルが大いに役立つと考えています。

11/米国アパレル事業について

坂本:米国のアパレル事業についてあらためて教えてください。

村井:北米は、中国と並ぶ最大のファッションマーケットです。そして、その中心となるアイテムがデニムです。つまり、北米のデニム市場は限りなく大きく、そのすべてを取りに行くことは、我々の力では到底できません。

我々がもっとも得意とするのは、日本の匠の技を活かしたハンドメイド商品です。こちらを富裕層に向けて訴求していくことで、利益率が非常に高いビジネスを展開できると考えています。

12/海外事業について

その他海外事業については、現在、当社全体で27ヶ国に事業展開しています。その中でも、リアル店舗を展開しているのは中国、北米、そして最近では韓国です。

韓国では、「ENFÖLD」を中心に百貨店事業での展開が進んでいます。一時期は危ぶまれた韓国との国際関係については、まだなんともいえない要素もありますが、最近は比較的良い中で順調に伸びている状況です。

13/スクラップ&ビルドの推進および経営資源の再配分

坂本:御社には多くのブランドがありますが、ここでの選択と集中について教えてください。

村井:当社は、会社規模に対してブランド数が多いです。複数のブランドを持つことには一定の意味があります。時代の中でどのようなものが受け入れられていくかというと、高級志向になる時期もあれば、専門志向、大衆志向が高まる時期もあります。

当社は市場のシェアを大きく取ることよりも、どのような状況になってもきちんと対応できるポートフォリオを持つことをポリシーとしています。

坂本:時代にあったブランドを持ち、そこを大きくするために経営資源を投下するかたちですね。こちらは「MOUSSY」のような旗艦ブランドがあってこそだと思いますが、常に実験というかたちで次も温めているのですね。

14/中期経営計画(定量目標)

村井:我々が中期経営計画で目指す定量目標です。実は、当社は東証上場時、営業利益率8.7パーセント、在庫回転率6.2回を達成しており、これらはすべてトラックレコードとして達成した数字でした。

坂本:今までで一番良かったということですね。

村井:その後、新型コロナウイルス感染拡大などさまざまなことが起こり、直近では低迷しているため、現在の中期経営計画はこれらを元に戻すことを目指したものです。したがって、この計画はそこまで無理をしたものではなく「当社が良かった時の指標に戻していこう」という内容で、当然、達成は可能だと考えています。

坂本:実際に、2030年2月期の指標では特にROEが高くなっています。その改善は当然ありますが、在庫管理の徹底やECの引き上げなどもあればプラスになってくると思います。このあたりの取り組みについてはそのような理解でよいでしょうか?

村井:もともと当社は、日本で小ロット多品種の生産によって在庫回転率を高めることが一番できている企業の1つとして、当時の一部市場への上場に成功しました。しかし、直近ではその良さが少し失われています。

そこで、すでに我々が通ってきたのと同じかたちに戻していく中で在庫回転率を高めていくことにより、ROEの向上も発生してくるだろうと考えています。

坂本:御社は非常に高い収益率で、高配当が可能な企業です。そのため、指標を無理やり上げていくのはなかなか難しいという考えもあると思います。私としてはそのバランスを見つつ、今後も御社の状況を見ていきたいという考えです。

15/株主還元方針・配当利回り推移(配当実績)

坂本:株主還元についても教えてください。

村井:配当方針については「継続して安定的な株主還元」を掲げ、2025年2月期は期首の発表どおり配当金38円を予定しています。

坂本:配当性向などの指標はありますか?

村井:当社の中期経営計画達成時の配当性向を考えると、38円という配当額はそこまで高くありません。現状では業績が低迷している中で、段階的な引き下げなどさまざまことを考えて議論を重ねています。それでもやはり、我々はお客さまの満足度を上げていきたいと考えています。

坂本:「株主もお客さまになる」とお話しされていましたね。

村井:アパレルでお客さまに信頼と感動を提供することと同じように、投資家のみなさまの信頼を裏切らないことが、我々の安定配当ポリシーの大前提です。

16/株主優待について

坂本:それに加えて、御社は株主優待も設定されているのですね。

村井:株主優待については、むしろみなさまの購買チャンスを広げるという意味で拡充していきます。

現在の株主構成でも、個人株主の割合が非常に高くなっています。その多くの方々が当社のアパレルやブランドの愛好者で、そのような方々に株式を買っていただけているという非常に幸福な状況が続いているのです。

そのため、株主優待も常に拡充し、みなさまの満足度をさらに高めようと努力しています。

17/連結業績概況

坂本:最後に、今後の部分も含めてまとめをお願いします。

村井:直近では、コロナ禍後の業績が伸び悩んでいます。その大きな要因の1つとして、これまで当社の成長を国内事業とともに牽引してきた中国での事業が、現在は大きく毀損していることがあります。この状況は、我々の日本国内のサプライチェーンも含め、さまざまな悪影響を及ぼしています。

現在、この課題に対して超スピードで解決を図っています。まずは中国事業を適正規模に調整してきちんと利益を出していきます。それと同時に、日本国内のサプライチェーン全体で調子を押し下げているモールビジネスに対しても、適切なサプライチェーンの再構築とそれに対応したマーケティング施策によって、業績を元に戻していきたいと考えています。

坂本:成長戦略について、M&Aは昨今、御社以外のさまざまな企業でも取り組まれています。こちらのイメージを教えてください。ブランドを買う、あるいは海外出店に寄与する領域を買う、または現地企業を買うのでしょうか? その場合は人材もついてくる可能性があります。

村井:M&A案件によるインオーガニックな成長については、上場当初は海外のブランド買収などさまざまな案件を検討していました。しかし、ブランドは我々自身で作ることができます。

坂本:社内にデザイナーもいますからね。

村井:そのためブランドを買うよりも、当社ではできない、今後のデジタルやAIも含めたものを多様化していくなど、我々のビジネスの大きな助けとなるような本業周りの領域を拡充していきたいと考えています。

現在、労働力不足は大きな問題です。当社は対面接客を行う労働集約型のビジネスを展開しているため、そのようなことも含めてデジタル化していく領域にフォーカスしていくかたちになると思っています。

質疑応答:人材採用について

坂本:「人材に関して、採用は好調でしょうか? 御社ならではの人材教育制度などがあれば教えてください」というご質問です。

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