H.U.グループ IR Day 2022,Technology Day 2022

村上敦子氏:H.U.グループホールディングスCFOの村上でございます。本日は「H.U.グループ IR Day,Technology Day 2022」にご参加いただき、誠にありがとうございます。昨年のIR Dayに引き続き、本年はTechnology Dayも同時に開催する運びとなりました。当社の強みの源泉であり、将来の成長の種となる研究開発技術についてもご説明させていただきます。

また、各事業の強みに加えて、当社が誇る技術についても、この機会にぜひご理解を深めていただければと思っています。

本日は、R&D事業、IVD事業、LTS事業、HS事業の3セグメントについて各事業の責任者よりご説明します。みなさまからも積極的にご質問をいただくことによって、有意義な対話の機会になればと思っています。

それでは、本日は長時間に渡りますが、最後までどうぞよろしくお願いいたします。

H.U.グループR&D

小見和也氏(以下、小見):H.U.グループホールディングスの小見でございます。本日はお忙しいところお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。本セッションでは、当社のR&D活動について、私と青柳でご説明させていただきます。

当社としては初めてR&D活動にフォーカスしてご紹介する場となりますので、今回は活動の一部および概要のご紹介となりますことをご理解いただければ幸いです。

本日は、概要、パンデミックへの対応、LTS/Corporateの研究開発については私が、IVDの研究開発については青柳からご説明します。

H.U.グループ R&Dの目指す姿

まずは概要として、当社R&Dの目指す姿、歴史、価値創造ストーリーについてご説明します。

当社のミッションにもありますとおり、「ヘルスケアにおける新しい価値の創造」が当社R&Dのキーワードです。このミッションのもと、グループのR&D社員が一丸となって、No.1, Only-oneの製品・サービスによる医療・ヘルスケアの革新を目指しています。その結果として、どこでも最適なヘルスケアが受けられる社会の構築を目指しています。

R&D:No.1, Only-one の 歴史

当社の歴史を技術面からご紹介します。当社は1950年の創業以来、祖業となる血液製剤や血液銀行事業をベースに培った、検査関連の技術を磨いてきました。

1960年代に最初のNo.1, Only-one製品となる「TPHA」を提供して以来、研究開発活動を積極的に展開してきました。スライドの表に示したとおり、たくさんのNo.1,Only-one製品を開発、上市し、医療の発展に貢献してきたと自負しています。

研究開発面ではIVDの成果が注目されますが、1970年に創業されたSRLを中心に、LTS事業においても、特殊検査や検査の精度管理といった分野において、多くの医師および検査技師に支援していただきながら、No.1, Only-oneの製品・サービスを創業以来開発し、医療機関に提供しています。

そして、2017年のH.U.グループ中央研究所の設立以降、当社は新しいR&D体制のもと、さらなる価値創造を目指して多様な領域で活動を展開しています。

各社バラバラな活動 → HU R&Dとしての活動

当社のR&D体制についてご紹介します。これまで当社のR&Dは、IVDを中心として各社バラバラに活動していました。そのため各社の強みや課題を共有できず、例えば、IVD領域で生み出した製品の価値をグループ内で十分に活かし、最大化活用できないなどの事例がありました。

2019年以降、すべてのR&D人員を原則としてH.U.グループホールディングスへ統合し、現在1つのH.U. R&Dチームとしての活動を推進しています。この新しいR&D体制によって、各社の強みを活かすことが可能となり、新しい領域の技術や製品、サービスの早期実装が実現できています。

後ほどご紹介しますが、当社の新型コロナウイルス検査試薬の開発や実装においても、この新体制の強みは実証されており、今後も当社独自の強みとなると考えています。

R&D主導の価値創造ストーリー

統合したH.U. R&Dの強みを活かし、今後どのようにR&Dが価値創造を主導していくのかをご説明します。統合されたR&Dの中で、Corporate(H.U.グループ中央研究所)を中心に生まれる新領域・新技術や、IVDが生み出す新しい試薬などの非常に価値の高いコンテンツについて、R&DとLTSが連携し、迅速な開発と評価を高速に進めることが可能になっています。

その結果として、製品やサービスをグループ内、そして顧客に対して、迅速に上市・実装することが可能となります。そして、エビデンスや次の開発ニーズを他社に先駆けて獲得し、R&Dに質の高いフィードバックをかけることが可能です。このサイクルを高速かつたくさん回すことで、CDMO事業の拡張に加え、強い製品やサービス、新しい技術基盤の獲得につなげられると考えています。

このスキームは、グループ内に強いIVD開発機能や基礎研究機能、LTS事業を有する当社グループならではのもので、おそらく世界でも唯一の独自の価値創造モデルであり、各事業単体の競合に対して大きな差を生み出せる強みだと考えています。

R&Dの強化

厳しい事業環境の中、今中計でも、当社はR&Dの強化を掲げてきました。実際に昨年度は、過去最高の72億8,100万円の研究開発費を投じて、活動を強化しています。

なお、各事業でのR&Dの内訳と、主な研究開発内容はスライドのとおりです。約75パーセントがIVD、残りがLTSおよびCorporateとなっています。

R&Dの強化

今年度の研究開発費も、過去最高となる95億円を計画しています。研究開発を当社の重要な成長基盤と考え、今中計期間中に年間100億円レベルでの安定的な研究開発投資を目指します。

まずは、このレベルの安定的な投資によって、既存技術のさらなる深掘りや発展する新技術の獲得を進めるとともに、中長期を見据え、それらを生み出し活用できる多様な高度人材を確保していきたいと考えています。

R&Dパイプライン概要

短期および中期での注力テーマについて簡単にご説明します。主力となるIVDでは、要素技術を拡張、高度化しつつ、今後のビジネスのコアとなる、価値あるコンテンツの開発を軸とした活動を継続的に進めます。

Corporateでは、次世代基盤技術の獲得に注力し、中長期的にコアとなる新しい技術開発を進めています。

LTSでは、短期的に個別化医療・ゲノム解析などの現代の高度化医療が求める基盤構築を進めつつ、社内外の新しい項目、技術の評価、実装を継続して進めていきます。

R&Dが主導した国内初・世界初

次に、当社の新しいR&D体制の力が発揮された事例として、新型コロナウイルス・パンデミックへの技術的な対応についてご紹介します。

ご存じのとおり、2019年12月に新型コロナウイルスが初めて報告されました。おそらく、当社は他社に先駆け、翌年1月にはPCR検査・抗原検査試薬の開発をR&D内で開始しました。

R&Dが主導した国内初・世界初

その後、ダイヤモンド・プリセンス号での感染発生、WHOによるパンデミック宣言、我が国初の緊急事態宣言とその解除へと、時間軸は進んでいきました。

R&Dが主導した国内初・世界初

その中で当社は、2020年2月にはPCR検査を開始し、ダイヤモンド・プリセンス号の検体を受け入れました。そして5月には、世界初には数日遅れてしまいましたが抗原迅速検査を、6月には世界初となる高感度抗原定量検査の上市を果たしました。

まさにR&Dが主導し、当時大きな社会課題であった新型コロナウイルス検査の体制構築に貢献してきました。

R&D連携と価値創造

その後も、当社R&Dは全社と連携して活動することで、複数の検査試薬、検査にとどまらない各種サービスや学術的な貢献、検査インフラを社会に提供してきました。

特に、空港検疫やイベント・自治体を対象とした大規模なスクリーニング検査におけるインフラの開発は、当時の社会が必要とするインフラであったとともに、当社の独自技術、試薬を作る技術およびオペレーションのノウハウ、システム設計を高度に融合した、我々の集大成的な成果だったと考えています。

新規検査インフラ:パンデミック対応Dxラボシステム開発と実装

今回のパンデミックにおいて、当社が開発した新規検査インフラについてご紹介します。2020年に当社R&Dが連携し、各社の強みや技術基盤を活かした新しいコンセプトのラボを、パンデミック対応Dxラボとして開発し、その後の事業に活用してきました。

このラボは、機械化や高品質のIVD試薬、AIなどを活用し、検体の受付から顧客への報告までをICTにて直接連携を実現した、これまでにないラボシステムです。本システムは、大規模イベントや検疫、自治体などの大規模な迅速スクリーニング検査に活用されてきました。

検体を受け付けてからわずか2時間以内で、毎日1万5,000件以上の検査結果を安定して返却してきました。さらに、デジタル化や機械化を進めたことにより、通常の新型コロナウイルス検査ラボの約30パーセントのリソースでの稼働が可能となっています。

高性能である試薬も、小規模に利用されているだけではその価値は最大化されません。このラボは、各検査試薬を適材適所的に大規模に利用することで、製品である試薬の価値を最大化することに成功しました。

また、検査を受ける顧客のみなさまにとっては、検体を提出後、驚くほど短時間で個人のスマートフォンやパソコンに検査結果が返ってきます。さらに、検査を実施する側にとっても、ミスなく、精度の高い検査が少人数で安定的に実施でき、双方にとって価値のある新しいラボシステムとなっています。

新型コロナウイルスに限らず、今後発生すると想定されるパンデミックでも、試薬を入れ替えることで、大量の検査を早期に立ち上げることが可能です。したがって、本ラボシステムは、次のパンデミックへの備えとしても、非常に重要な技術基盤だと考えています。

次のパンデミックへの備え

人類と感染症との関係は永遠に続くと考えています。スライドに示した論文に記載のとおり、次は新型インフルエンザウイルスや未知のウイルス、薬剤耐性菌が流行するかもしれません。何が次の人類の脅威となるか確実なことは誰にもわかりませんが、人類の歴史を振り返れば、確実に次のパンデミックの発生もあると考えています。

当社は、今回の新型コロナウイルスへの対応で示したように、各R&D機能が有する高い技術基盤とノウハウによって、次のパンデミックに対しても、迅速かつ高精度の検査インフラを安定して提供することが可能だと考えています。

グローバルR&D組織の拡大

青柳克己氏(以下、青柳):こんにちは。H.U. IVDのR&Dを担当している、富士レビオ研究開発の青柳でございます。私から、IVDの技術開発と方向性についてご説明いたします。よろしくお願いいたします。

H.U.グループのIVD事業を担う富士レビオ・ホールディングスでは、富士レビオを含めた国内3社と、米国および欧州個社で構成され、各社がIVD R&D組織を有しています。

各社R&Dは、それぞれの臨床領域のパイオニアとして、その領域の臨床検査の研究開発を推進しています。今年度は、富士レビオ・ホールディングスの一員として、新しくADx NeuroSciencesとFluxusが加わりました。

ADx NeuroSciencesは、Fujirebio Europeとともにアルツハイマー病/NEURO領域のパイオニアとして、アルツハイマーの臨床検査の提案を継続的に行っており、この分野の幅広い臨床知見や検査薬開発の原材料等を有しています。

また、Fluxusはカリフォルニアのシリコンバレーにおいて、化学発光検出法を超える超・高感度検出技術を開発している会社です。今後のIVDの飛躍には、拡大が期待される領域としてのアルツハイマー認知症関連検査の開発強化および次世代の超・高感度検査領域の提案強化が必要だと考えています。

このように、各臨床領域のパイオニア、測定技術の高感度化や高性能化のパイオニア、システム開発のパイオニア集団がグローバル研究開発体制で連携し、IVDグローバルR&Dとして提案力の拡大・向上を進めたいと思います。

IVDグローバル戦略におけるR&Dの役割

IVDグローバルR&Dの役割は、各種技術を用いて、常にOnly-one, No.1の高性能な原料や製品というコンテンツを開発していくことです。

当社のIVDグローバル戦略では、開発された各コンテンツを「ルミパルス」や他のプラットフォームを用いて製品化し、お客さまの意見をもとに臨床的有用性を実証します。その後、グローバルパートナーへCDMOビジネス展開を提案し、最終的にはグローバルのヘルスケア全体に貢献していきます。

つまり、IVDグローバルR&Dはこの戦略の起点であり、エンジンでもあります。IVDグローバルR&Dのコンテンツ開発の基本方針は非常にシンプルで「より正確な検査、より広い臨床応用性、より正しい臨床診断に貢献する」ことです。

例えば、現在の各種臨床検査では、検体中のさまざまな要因、または用いた測定原理によって、「ピットフォール」と呼ばれる、正確な測定を阻害する現象が起こります。より正確な測定、検出をするためには、これらの阻害する現象を原理的に解決することが必要です。

後ほどご紹介しますが、当社では、より正確な測定、検出をするための各種技術を開発し、製品開発への応用を推進しています。現状のさまざまな検査に改良を加えることによって、大きく臨床価値を上げる、あるいは新規マーカーや新規システムを開発して、新しい臨床有用性を提案することを継続的に行います。

この方針に基づき、今後もさまざまな測定技術やノウハウを駆使し、コンテンツとしてOnly-one, No.1製品を開発します。また、それらに対してお客さまのお声をいただきながら実証を進め、グローバルヘルスケアに貢献していきたいと思います。

IVD R&Dの方向性

IVDグローバルR&Dの方向性について、スライドのイメージ図でご説明します。縦軸の高感度化の追求には、高精度化などの試薬性能向上も含みます。横軸は項目領域の拡大で、ブルーの領域は従来の化学発光測定技術を示しています。

IVDを担う富士レビオ・ホールディングスは、1960年代に世界初の梅毒検査から始まり、現在においてもB型肝炎ウイルス抗原検査薬や、新型コロナウイルス抗原検査薬など「Best in class」の高感度化試薬を提供してきました。

また、グローバル臨床検査メーカーに、すい臓がん、乳がん、卵巣がんといった腫瘍マーカーの原料を供給し、腫瘍マーカーのパイオニアとして、グローバルでもルーチン検査に定着させています。

さらに、臨床領域としては、高血圧などの生活習慣病やTDM等に拡大し、新規試薬の提案を継続してきました。後ほどもご説明しますが、例えば、当社のユニークな技術を用いた低分子のサンドイッチ法等、より臨床有用性を有する試薬の開発を進めています。

アルツハイマー関連認知症分野においても、本領域の臨床検査を20年以上提案してきたパイオニアであるADx NeuroSciencesやFujirebio Europeは、本検査薬開発にキーとなる原料や臨床的知見を有しており、さらなる開発強化を進めていきます。

高感度化技術に関して、当社独自技術である検体前処理法を用いた免疫測定法「iTACT」は、先ほどご説明した臨床検査におけるピットフォールの1つである、ホスト抗体や結合タンパク質などによる免疫測定法の阻害現象を原理的に排除する技術として、スライドに記載の項目以外にも、iTACT試薬のラインアップを進めています。より高感度で高性能かつユーザーフレンドリーなコンテンツを開発しています。

今後、従来の化学発光測定技術を超えるFluxusの超・高感度検出技術を、さまざまな臨床エリアで活用したいと思います。例えば、感染症では、さらなる高感度化による早期診断や治療のモニタリングへの応用、アルツハイマー検査では、より高い精度を有する検査薬の開発などへの応用が考えられ、現状用いられている検査項目の臨床有用性を、さらに向上させることが期待されます。加えて、がんマーカーなどの新規の超・高感度マーカーコンテンツの開発も期待されます。

また、現在の免疫測定法は抗体ベースの技術であり、その多くが抗体の良し悪しに依存しています。当社R&Dも、より良い抗体作成技術を常に追求し進化させながら、さまざまなコンテンツ作りに活用してきました。その一方で、抗体を検出ツールとして利用するには一定の限界があり、抗体では検出困難なターゲットも存在します。

そこで、新規の結合ツールの開発技術として、IVDメーカーとしては初めて、ペプチドリーム社より環状ペプチド開発技術をライセンスし、抗体の補完技術として活用したいと考えています。

以上のように、3次元的な技術戦略をもって、IVDグローバルR&Dのコンテンツ開発における技術力を向上させることで得られたOnly-one, No.1のコンテンツを、「ルミパルス」あるいは次の超・高感度プラットフォームで実証し、CDMOモデルを通じてグローバルヘルスケアに貢献することを目指していきます。

IVD R&Dの具体的な成果・進捗

ただいまご説明したOnly-one, No.1のコンテンツを生み出す3つの戦略を、再度スライドに簡単にまとめています。

戦略①の高感度化の追求においては、検体前処理プロセスを導入し、測定阻害因子の影響を排除したiTACT法を開発しており、関連特許を取得しています。B型肝炎ウイルス抗原の1つであるHBcrAgを測定する試薬や、甲状腺がんなどで有用なサイログロブリン測定試薬にiTACT法を応用して、ウイルス内部の抗原の抽出や自己抗体の影響を排除した製品群を提案しています。

今後もiTACTシリーズの試薬ラインアップを進め、より高性能でより新規臨床有用性を持つコンテンツ開発を継続的に進めていきます。iTACT法の原理については、この後のスライドで、iTACT-HBcrAg試薬を例にご説明します。

また、Fluxusの超・高感度検出技術を用いた新プラットフォーム開発を強化・加速し、各臨床領域で現状のマーカーの臨床有用性のさらなる向上や、超・高感度マーカーコンテンツの開発を期待しています。

戦略②の項目領域の拡大としては、ターゲット抗原に対してユニークな抗体を取得することで精度を向上させ、臨床の価値を上げたサンドイッチ法を開発し、生活習慣病関係項目等に適用しています。

例えば、高血圧症の検査項目であるアルドステロンや骨粗鬆症の検査項目であるビタミンD等の低分子抗原の測定法は、一般的に1種類の抗体を用いた競合法が開発されてきましたが、当社ではこれらの抗体と低分子抗原が結合した免疫複合体に対する抗体を開発しました。この抗体を用いたサンドイッチ法はより高い精度を有する技術であり、今後もラインアップを増やしていく予定です。この技術についても後ほどご説明します。

また、高血圧症項目であるレニンについても、非常にユニークな抗体を持っています。ドラッグの存在においても、レニン抗体を用いてレニン酵素活性と非常に相関する検査薬を開発し、長時間を要する酵素活性測定に替わる30分の短時間測定を提案しています。

加えて、ADx NeuroSciencesが保有する原料や臨床知見を用いたアルツハイマー病/NEURO領域の項目開発を強化・加速していきます。

戦略③は抗体ベース技術の補完として、先ほども触れたように、ペプチドリーム社のコア技術を用いて、環状ペプチドという新規の検出ツールを開発し、現状の抗体ベースの臨床検査薬の開発の補完・強化を進めていきます。また、新規バイオマーカーへの実用化や、より安定した生産・サプライチェーン構築を実現していきます。

戦略①:iTACT法1 HBcrAg(B型肝炎)

iTACT法の原理について、iTACT-HBcrAgを例にしてご説明します。先ほどからお伝えしている免疫測定法のピットフォールとして、感染症抗原に対する宿主由来抗体、内分泌マーカーや腫瘍マーカーに対する自己抗体や結合タンパクなどがよく知られています。iTACT法では、これらの抗体が免疫測定を阻害するという状況を解決することができます。

B型肝炎ウイルスの抗原についてご説明します。スライドの図の左側に記載されているように、HBVが感染した肝臓の中では、3種類のHBcrAgという抗原が作られ、一部はそのまま血中に放出され、一部はホスト由来の抗体と結合し、また一部はHBV粒子内に組み込まれて血中に放出されます。

このようにさまざまなかたちをしたHBcrAgが血中に存在しており、検体前処理によってHBV粒子内のものは粒子膜の破壊とともに抽出され、抗体と結合しているものは解離させ、最終的に遊離された3つの抗原は化学発光法を用いて高感度で測定されます。iTACT法では、一連の検体前処理から免疫測定法までが全自動で行われ、約32分で結果を得られます。

このiTACT-HBcrAg試薬は本年7月に上市され、院内での全自動ルーチン検査や、治療モニタリング・再活性化モニタリング、肝発がんのリスクや今後のHBV新薬効果判定等、幅広い活用が期待されています。

また、甲状腺疾患の重要なマーカーであるサイログロブリンの測定においても、血中の自己抗体の影響により正確なサイログロブリン量が測定できないという、歴史的なピットフォール課題がありました。こちらもiTACT法を用いることで、自己抗体の有無にかかわらず、正確にサイログロブリンを測定できるようになりました。

戦略①:超・高感度検出技術による開発強化

続いて、Fluxusのコア技術を用いた超・高感度検出技術についてお話しします。現在、この技術を用いた新規プラットフォームを開発しています。こちらは一分子を検出する方法で、RUO機器として2023年度中に上市することを予定しています。

免疫測定法は、スライド右側に記載しているとおり、長い歴史の中で、凝集試薬、ELISAのような酵素免疫測定法から化学発光測定法へと高感度化が進んでいます。それに伴って新たな臨床測定項目が開発され、市場が広がっていきました。今後は、超・高感度検出法が未来のグローバルスタンダードとなることを期待しています。

超・高感度化によって、新たな臨床的意義のある項目を開発していきます。まずはアルツハイマー病をターゲットとし、続いて、がんや感染症等の開発を進める予定です。当社の現在の化学発光法である「ルミパルス」とのコンビネーションにより、プラットフォーム戦略の補完・強化を進めていきます。

中期的なCDMO戦略のパイプライン強化としても、本技術を検討したいと考えており、超・高感度化による臨床的価値の実証とともに、グローバルパートナーへの積極的な供給を目指したいと思います。

戦略②:低分子サンドイッチ法 アルドステロン(高血圧症)

低分子サンドイッチ法について、先ほどお話しした戦略②のアルドステロンを例にご説明します。

高血圧症の検査項目であるアルドステロン等の低分子の測定法は、一般的に1種類の抗体を用いた競合法が使われていますが、この場合は低値域での再現性が低く、また、1種類の抗体を用いるため、特異性向上にはある程度の限界があります。

これらの課題に対して、当社では抗体と低分子抗原であるアルドステロンが結合した免疫複合体に対する抗体の開発に成功し、高い精度を有するサンドイッチ法を開発することができました。この技術を用いることで、低値域の高い再現性および特異性を有する検査を提案することができるため、正確な診断や治療方針の決定への貢献に期待しています。

そのほかの技術の応用例としては、ビタミンDや免疫抑制剤の製品化を行っており、今後もラインアップを増やしていく予定です。

戦略②:アルツハイマー領域試薬ラインアップの拡大

アルツハイマー関連の認知症領域の試薬ラインアップの拡大については、スライドの表に記載のとおりです。黒字は上市済みの項目、青字は開発予定の項目を示しています。当社ではまず脳脊髄液検査の自動化・IVD化を進め、現在左上の4項目の開発に成功しており、FDAや国内含む主要国におけるIVD承認を取得しています。

次なるターゲットとして、血液検査のラインアップ拡充を進めています。RUO試薬は黒字で示したメイン3項目を上市し、今年度中に青字の項目から追加で3項目の開発を予定しています。

これらの開発プロセスの中でIVD R&Dが強く連携し、ADx NeuroSciencesの保有する抗体や臨床知見も含めてベストの抗体を選択しながら試薬開発を進めており、今後も継続的にラインアップ化を進めていきます。RUO製品は、それらの中から臨床試験を通じて、臨床有用性を有するIVD化候補試薬を選別し、グローバル申請のプロセスに進みたいと考えています。

戦略③:抗体ベース技術の補完

ペプチドリーム社のコア技術を用いた、抗体ベース技術の補完についてご説明します。

ペプチドリーム社のPDPS技術を導入して、高い反応特異性を持つ低分子環状ペプチドBinderを開発し、新たな臨床検査薬の開発・実用化を推進していきます。スライド右上の図に示しているように、抗体は約15万の分子量ですが、環状ペプチドBinderは約1,000個から5,000個の低分子であり、少なくとも抗体の約30分の1以下の量です。

この低分子環状ペプチドBinderを用いることにより、右下に記載しているような抗体取得困難な部位との結合可能性、各種免疫測定法の性能向上、超短期間での結合Binderの開発、原料の原価低減、ロット間差の縮小などの効果を期待しています。

また、新規バイオマーカー項目の実用化も期待しており、有用なBinderを開発し、各プラットフォームで実証していきます。将来的には、CDMO事業へのラインアップに追加していきたいと考えています。

サマリー

以上のように、IVD R&Dはコンテンツ開発としてグローバル体制で3つの戦略を追求することで、他社が保有しないOnly-one, No.1製品を開発し、CDMOビジネスを通じて世界に供給することを目指します。

戦略①の高感度化の追求として、iTACT法の製品ラインアップの拡充およびFluxusの超・高感度検出技術を用いた製品化を進めていきます。

戦略②の項目領域の拡大として、低分子サンドイッチ法の製品ラインアップによる生活習慣病への項目拡大、ADx NeuroSciencesの原料・知見を活用したアルツハイマー病/NEURO項目の開発を行います。

戦略③の抗体ベース技術の補完として、ペプチドリーム社とのライセンス契約を通した製品化の早期実現を目指します。

これらの3次元的戦略により、さまざまなコンビネーション効果も当然得られると期待しています。臨床的意義の高い製品の早期製品化にこだわり、グローバルR&Dチームで実現していきたいと考えています。

COVID-19パンデミックの影響

小見:続いて、LTS/Corporateの研究開発についてご紹介します。本日の主なテーマは、高度化する医療・ヘルスケアに当社がどう対応し、リードしていくかについてです。本題に入る前に、研究開発に影響する外部環境について、少し俯瞰的にお話しします。

スライド左側に記載しているのは、医療技術の状況です。この10年ほどの間、医療と医療に関連する技術の高度化はこれまでにないスピードで進んでいます。特に個別化医療、それを支えるゲノム医療、そして細胞・再生医療や新しいモダリティが続々と登場しています。この流れと技術の高度化は近年さらに加速しており、当社の検査実績を見ても新型コロナウイルスによる影響はほぼなく、着実にそのニーズが拡大しています。

一方、右側に記載した医療・ヘルスケアの在り方については、新型コロナウイルスの影響により、デジタル化や予防的医療の進展を中心に大きく加速していると考えています。社会の在り方は変わりつつありますが、ヘルスケア領域で求められる技術内容に本質的な変化はなく、これまで当社R&Dで進めていた研究開発の大きな方針を変える必要はないと考えています。

当社のR&Dチームは、コロナ禍に柔軟に対応しつつもその先を見据え、「高度化する医療」「デジタル・ヘルスケア」「予防的医療」を大きなテーマとして、各種のプロジェクトを社内外で推進しています。

今回は時間も限られていますので、その内のごく一部として、ゲノム・Omics解析と新規モダリティに関わる我々の取り組みについてご紹介します。

高度化する医療:これまでの臨床検査

「高度化する医療」というテーマに関して、まずはこれまでの臨床検査についてご説明します。

スライドの図に示したとおり、これまでの多くの臨床検査では、検体を受け付け、比較的シンプルな前処理を加え、測定装置に乗せ、測定器から出される結果から報告書を作成するというのが基本的な流れでした。検査工程は比較的シンプルで自動化もしやすく、測定結果も「陽性」「陰性」などのようにシンプルで、データ量も非常に少ないものでした。

高度化する医療:個別化医療の時代

一方で、現在の医療は個別化医療が急速に進んでおり、そこで求められる臨床検査の在り方も急速に変化しつつあります。

その代表的なものがNGSなどの分析装置を高度に用いた検査で、数百に及ぶ複雑な工程がありますが、自動化が容易ではないという特徴があります。また、高度なデータ処理が要求され、扱うデータ量も極めて多く、これまでの検査員では対応が難しい検査が急速に医療で実装されています。

このように、複雑かつ高度な技術やスキルが臨床検査に求められるようになっており、こうした検査を安定的に提供するための研究開発や高度な人材の重要性が飛躍的に増加しています。当社では、この変化を「検査業界に生じているパラダイムシフト」と認識し、我々がリードできるように体制を構築しています。

高度化する医療:ゲノム・Omics解析

具体的には、SRLとH.U.グループ中央研究所が共同し、大規模ゲノム解析が実施可能な体制をあきる野市に整備しました。Informatics、Robotics、データサイエンスなどのスキルを有した技術者や研究者と、当社の検査員がチームを作り、これまで国内で実施されていた研究レベルではなく、臨床検査レベルでの大規模なゲノム解析を実施しました。

昨年度、厚労省およびAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)にて、我が国初となる大規模な全ゲノム解析が実施されました。スライド右側の表は、そのプロジェクトで対象となった疾患領域や病院名、解析受託企業の一覧です。黄色くマークした部分が当社の研究班であり、臨床検査において全体の約半数の解析を当社グループで受託・実施しています。

高度化する医療:ゲノム・Omics解析

現在、「AkirunoCube」では、全国の医療機関さまから毎日たくさんの検体が送られてきます。 T-cubeでは、個別化医療で求められる病理検査や核酸抽出、個別の遺伝子検査、NGS・ゲノム解析など多くの検査法やプロセスについて、技術基盤と人材を同一ラボの同一エリア内に集約しています。この施設を十分に活かし、今後はより精度の高い個別化医療検査の提供が可能になると考えています。

さらに、当社R&Dの強みである、社内外で開発された新しい技術と解析プラットフォームの早期実装も加わることで、新領域・新技術をすぐに臨床で実装して、エビデンスを構築したり、患者さまの治療に反映したりすることが可能なラボになると考えています。このような活動を通じて、高度化する医療の中でも、当社が今以上に必須の存在となることを目指しています。

高度化する医療:人材育成と技術基盤強化

一方、このような新しい技術や検査に対応するために、当社のみならず我が国全体に関わる大きな課題もあり、現在はその対応を進めています。一番大きな課題が、個別化医療を支える上で必須となる高度な人材、特に情報科学系人材の確保です。

参考までに、ゲノム医療・解析で世界的に先行しているイギリスの国家プロジェクト「Genomic England」の求人サイトを例にお話しします。このサイトを確認すると、いわゆるウェット系人材にも増して、IT関連人材やデータ解析人材を中心とした採用活動が非常に進められています。

我が国の現状はと言いますと、ご存じのとおり、やはりこの領域の人材というのは圧倒的に不足しています。IT系企業なども人材確保には苦労していると思いますが、特に臨床・医療がわかる情報技術者は、現在ほとんど存在していません。

そこで、当社では数年前に、インフォマティクスおよび医療AIを専門とする部署を設置し、社内での教育体制を整備することで、次世代を担う「次世代検査人材」の育成をすでに開始しています。

スライド右側に研修プログラムの一例を記載していますが、プログラミング一般、バイオインフォマティクス、AIなどの領域で座学と実習を実施しており、臨床・医療とICTをつなぐ、大変充実した内容となっています。

次世代のICT・検査ハイブリッド型人材の育成に関する組織的な取り組みは、業界・アカデミアなどを見渡しても、ユニークな取り組みだと思います。

また、現在は先端医療領域や海外の技術をそのまま日本へ導入し、試薬を購入するケースが大半であるため、自社ベースでの技術基盤の強化を進めています。関連会社のBaylor Geneticsからの技術移管によって、先端のゲノム検査のノウハウを十分に習得するとともに、アカデミア・ベンチャーとの共同研究・開発により、国産ベースでの新技術の獲得・実装の活動も積極的に進めています。

高度化する医療:新規モダリティ

高度化する医療の中でますます重要性を増している、新しいモダリティに関する研究を簡単にご紹介します。

医薬品開発や医療技術の進歩に伴って、今後は多様な新技術のモダリティが実用化される可能性が高いと考えられています。モダリティが生体材料に近いものであればあるほど、検体や生体材料を日々扱っている当社の事業との親和性は高く、品質検査、製造支援、バイオマーカー開発などの各種領域での事業展開が想定されます。

具体的には、「微小小胞(Exosome)」「細菌叢(Microbiome)解析」「細胞・再生医療」などの領域で、技術基盤の開発および実装化を進めています。例えば微小小胞では、当社独自の研究プラットフォームを開発し、製薬企業やアカデミアと多数の共同研究・開発が進んでいます。

細菌叢解析においても、臨床検査のノウハウを活かし、現在は多様な検体の解析ノウハウと実績を蓄積しています。すでに論文等で公表された成果も複数ありますが、外部との受託解析や共同研究が多数進行中です。

本領域は、近年急速に臨床研究等でも解析ニーズが増えていることもあり、一部のルーチン作業はR&Dから事業子会社への技術移転を完了させ、事業としての活動をスタートしています。

細胞・再生医療領域についても、今後の医療領域として重要だと考えており、H.U.セルズを新たに設立し、本領域の品質検査・研究検査の開発や細胞加工施設の運営などをR&Dと連携して進めています。これまでの検査や生体材料のハンドリングなど、当社が培ってきた技術基盤は強みとなると考えており、再生医療の実現パートナー企業となるために技術力を高めています。

研究領域例:Extracellular Vesicles(EVs)/Exosome

研究例から一例として、微小小胞に関する当社の研究成果をご紹介します。

EV(Extracellular Vesicles)とは、がんや神経細胞を含めた各種の細胞から分泌される小胞で、小さな包み・ウイルスのような分子です。この中に、タンパクやメッセンジャーRNAなどが含まれています。

近年、新規のバイオマーカーや新しい治療のモダリティとして期待されていますが、検査や製造に適したサンプルの処理方法や抽出法・解析方法が存在していません。これまでさまざまな論文などが発表されていますが、再現性に課題があり、実用化のハードルになっていました。

当社では、この小胞の組成や大きさがウイルスにとても似ていることから、当社が得意とする技術を活かしやすく、大変親和性の高い領域と考えました。そこで、当社内で各種素材を開発し、高純度のEVの抽出・解析が可能となるプラットフォームを開発しています。

現在、本技術を用いて、当社内および外部の企業や研究者と複数の共同研究を実施しており、新規バイオマーカーの発見につながる、非常に再現性の高いデータが取れるようになっています。

市場の拡大に伴い、このような基礎レベルの技術も、徐々にグループ内の事業会社へ技術移転し、早期の実装によって良質なエビデンスの蓄積に貢献できると考えています。微小小胞以外にも多くの共同研究・開発を実施していますが、それらの内容や進捗は次回以降のプレゼンテーションでご紹介できれば幸いです。

まとめ2:H.U. R&D活動

H.U. R&Dは今後も活動を強化し、新しい体制のもと、独自の技術基盤と高度人材を活かし、価値創造を加速させていきます。

IVDでの有用なコンテンツ開発をはじめ、LTSやCorporateでは、高度化する医療、デジタルヘルスケア、予防的医療の領域で多様なプロジェクトを推進し、当社のIVD製品やサービスを含めた新領域および新技術の早期実装を積極的に進めていきます。

この早期開発、評価、実装のモデルは、おそらく世界で唯一、当社だけが実現可能だと考えており、生み出された新しい技術や製品をいち早く実用化し、患者さまや医者、研究者に届けられると考えています。

さらに、研究開発活動を通じて今後の医療に求められる高度な人材を育成し、知財や技術を獲得することで、医療・ヘルスケアの領域において必須の存在・企業であり続けるよう邁進していきます。

私からのご説明は以上です。ご清聴ありがとうございました。

質疑応答:LTS事業における自社システムの開発について

質問者:R&Dパイプライン概要のスライドに、LTS事業の来期から取り組む開発テーマとして、「自社システム開発」の項目がありますが、この自社システム開発とは何を指す言葉なのかを教えてください。

小見:自社システム開発とは、個別化医療・ゲノム解析基盤に関する自社システムのことです。残念ながら、日本では標準的なゲノム医療におけるシステムがまだ存在していません。

そのため、今後の高度化する医療を見据え、自社で大量の情報を安全にやり取りして医療機関とつなぎ、社内のLIMS(Laboratory Information Management System)でどのように受付・報告するかなど、トータルな仕組みを作る意味での自社開発のことです。

質疑応答:CDMO事業におけるアルツハイマー領域での今後の展開予定について

質問者:血液ベースのアルツハイマー病の診断薬は、すでに御社のブランドとしてはRUO製品で上市していますが、1年後、2年後くらいの範囲で、他社ブランドとしてCDMO事業において出すプランはあるのでしょうか? その場合は、他社が承認手続きなどを行う可能性もあるのか、うかがえる範囲でお聞きしたいです。

青柳:当社はいろいろな共同研究を進めています。私どもは自社でも血液のラインアップ化を進めており、その中で「Clinical Study」を通じて、どの組み合わせが一番よいのかということを、グローバルで探索していきたいと考えています。

また、早期申請を進めるため、その知見を併せ込みつつ、他社のCDMO案件に展開したいと考えていますので、臨床試験の経過とともに、CDMO案件をタイムリーに進めていくというのが今の現状です。

質問者:そうすると、まずは自社ブランドでの申請が先になるのでしょうか?

青柳:私どもは「Clinical Study」に抗体を提供しています。そのデータも参考にさせていただきながら、CDMO案件のステップとして、自社より先に出る可能性もありますが、そのあたりは都度判断をしていきたいと考えています。

質疑応答:アルツハイマーについて

質問者:アルツハイマーについて、Rocheなどのアミロイドプラズマパネルを見てみると、中身にアミロイドβが入っていないという話がありましたが、これには非常に違和感があります。「アミロイドβ 1-42」の測定が難しいことは伝わりますが、測定において、抗体なのか、発光技術、要するに感度なのか、それ以外なのか、何が難しいのかいまひとつ理解できません。

凝集体を測定する臨床技術は今までになかったため、その難しさはあると思いますが、普通に考えると、抗体を作り、蛍光標識を付けて行えばよいのではと思います。確かに感度も低いため難しいとは思いますが、RocheやAbbottなどの大手が手をこまねき時間がかかっている理由について、どのように考えているのかを可能な範囲で教えてください。

青柳:私どもを含めて測定法という意味の測定原理は、それなりに開発が進んでいると思います。他社のことはわかりませんが、作った測定法において明確なエビデンスを得るための臨床研究が実は簡単にはいかないため、ここが一番苦労している部分だと思います。

対照としてPETやCSFのデータが必要であったり、もしくは、アミロイドβに限らず今はいろいろなマーカーの候補が出ています。このような中からAD(Alzheimer's Disease)のモニタリング、または診断結果が一番最適なのかということを、十分に見極めていかなければなりません。

ADは明日、明後日に発症する病気ではなく、何年間も経過した後に最終的に発症していないかなどを含め、現在は臨床診断や検体を集めることが非常に難しく、さまざまなデータが必要です。そのため、このような中から良いものを選択するといったプロセスが難しいところだと考えています。

質問者:それもアルツハイマードミナントネットワークなど、臨床試験を行う会社に検体があるため、そこをクリアできれば、データは揃えることができると考えています。したがって、検査系自体に何か引っかかるところがあるのだと思っていますが、そうではありませんか?

青柳:検査系についても、例えばELISAのようなものでは感度がピコグラムまで届かず、難しいと思います。

ただし、超・高感度系は当然第一候補になりますし、私どもの「ルミパルス」も高感度です。そのため、市場においてどの機械でも安定的に同じ数値が出るような、安全性を担保した測定系の開発が必要だと思っています。

質問者:Rocheが行っていた「ApoE4」「pTau 181」は完全にスクリーニングで、ある人は「pTau 217」、ある人は「pTau 181」といったように、今はアルツハイマーの測定項目としては何がよいのか混沌としています。

お聞きしたいのは、Aβなしでアルツハイマーを診断できると思っているのか、それともAβが必要だと思わているのか、いかがでしょうか?

青柳:いろいろなレポートや学会等での報告を見ると、「pTau」が中心になるところまでは、まず間違いないと感じます。

そこにAβが加わるかどうかは、臨床試験の中で十分に見極めていきたいと思います。例えばAβを使うとしたら、検体としての取り扱いも含めた中での検討になると思います。

質疑応答:戦略の優先順位について

質問者:IVD R&Dの方向性について、3つの戦略を同時にシナジーが出るかたちで進めていくと思いますが、御社として優先順位を付けるとすると、どこに一番注力したいと考えていますか? 戦略、またはそれぞれの技術でもけっこうですので、教えてください。

青柳:3つとも非常に大事な戦略ですが、短期的にアルツハイマー病/NEURO項目を充実させていきたいと考えています。その後、もしくは同時か少し後になると思いますが、超・高感度の世界の扉を開けていきたいです。

また、ペプチドリーム社の技術も非常に有用だと思っています。ただし、私どもは抗体を持っていますので、抗体を補完するためにどのようなターゲットが良いのかをきちんと吟味しつつ、優先順位をつけて進めていきます。したがって、重要度は短期・中期・長期で分類したいと思います。

質問者:研究開発費も、IVD事業全体で出していただいていますが、費用の使い方の配分も短期・中期・長期で重要度が変わるということでしょうか?

青柳:おっしゃるとおりです。

質疑応答:R&Dが与えるLTS事業への長期的な影響について

質問者:LTS事業について教えてください。個別化医療によりゲノム検査などが増えていますが、今後5年先、10年先、LTS事業のビジネスモデルはどのように変わっていくのでしょうか?

例えばコスト面でも、人材投資またはシステム投資が必要か、あるいは特殊検査の割合が増え、御社にとってシェア拡大のチャンスになるのか、長期的にどのような影響を与えるのか見通しをいただけますか?

小見:技術開発からの視点ですが、おそらく今後は個別化医療が進むことで、臨床検査業界の二極化が大きく進むと思っています。

二極化した時に、ゲノム検査のような高付加価値な新しい先進医療技術の領域と、今行われている汎用的な検査に二極化して、ビジネスも両極に富が分配されていくと考えています。

当社は現在、両極をカバーしていますが、特殊検査が我々のコアな強みの1つですので、先端医療の領域はカバーし続けなければいけません。そこで我々が持っている事業基盤が活かせると思いますし、そちらに投資し技術をキャッチアップして、高度化医療の流れにおいて、必要とされる存在になっていきたいと思います。

そこで鍵となるのは、有用な臨床成果です。有用なデータを今後、医療機関へ提供できるのかが鍵になり、単に検査を受けて返すところから、どのような有用な情報を返せる会社になれるかが求められています。

そこは特殊検査に強みのある我々が担っていかなければ、日本の医療の高度化はなかなか難しいと思っていますので、必要な対応をしたいと考えています。