投資で失敗しないために初心者が決めておきたい“自分ルール” 公認会計士・日根野健氏が伝えるアドバイス
投資をする際に“自分ルール”を決める重要性
株式投資で成果を出し続ける人に共通しているのは、「運」ではなく「再現性のある投資スタイル」を持っていることです。そのために“自分ルール”を明確に決めておくことが大切です。
株式投資をしていると、日々資産が増減するため、感情が揺さぶられやすいものです。ニュース・SNS・株価変動などにより感情が揺さぶられ、意思決定が乱されてしまう要因があふれています。そこで自分自身の投資スタイル、すなわち“自分ルール”を持つことで、外部環境に左右されず、冷静な投資判断を積み重ねられるようになります。
株式投資の世界では、短期的には株価が大きく動き、根拠のないストーリーが市場を支配する時期もあります。どう考えてもバブルなのに株価が上がり続けたり、どう考えてもパニック売りなのに株価が下がり続けたりすることがあります。このようなマーケットの気まぐれに翻弄されず、むしろ活用することができれば、大きなチャンスをつかむことができます。
長期的に報われるのは「企業の本質的な価値に基づいて投資する姿勢」です。この本質を見る姿勢を守るために、自分ルールは欠かせません。
例えば、「どの指標を重視するか」「どんな企業を投資対象にするか」「どんな時に買って、どんな時に売るのか」などを、あらかじめ明確に決めておくことです。
また、自分ルールは“自分の弱さ”をコントロールする役割も果たします。人は利益が出ると過信し、損が出ると現実から目をそらしがちです。こうした感情は誰にでもありますが、ルールがあればそれが暴走するのを防げます。
例えば「一度決めた企業分析の基準を崩さない」「短期の株価ノイズでは売買しない」といったルールは、長期的な成果につながる行動を維持する力になります。
投資初心者におすすめの3つのルール
総資産の中で何パーセントを株式投資にあてるか決める
株式投資を始める時、まず決めておきたいのが「総資産のうち、どれだけを株式にまわすのか?」という割合です。これは一見シンプルですが、投資初心者がつまずきやすい感情の暴走を抑えるために効果があるルールです。
株価は短期的に大きく動くことがあります。予想外の下落が続けば、不安になって「もう全部売ってしまおうか」と焦りが出ますし、逆に上昇が続けば、つい「もっと買わないともったいない」と欲が膨らみます。株式投資においては、時々訪れるこのような大きな変動のタイミングで恐怖や強欲の感情に振り回されると、株価の天井で大きく買ったり、株価の底値で投げ売りしたりしてしまったりと、良くない結果を招きます。このような感情に振り回されないためにも、あらかじめ株式投資にまわす上限を決めることが重要です。
例えば、総資産の30パーセントを株式投資に使うと決めれば、極端な集中投資は避けられ、相場が荒れた時にも精神的に耐えやすくなります。逆に、生活資金や緊急で必要な資金まで株式投資に振り向けてしまうと、値動きに一喜一憂し、冷静な判断ができなくなります。
このルールの狙いは、「どれだけリスクをとれるか」を自分自身で理解することにあります。投資は攻めだけでなく、守りも大切です。資産配分の割合を決めておくと、株式以外の資産(預金、投資信託、保険など)とのバランスも見えるようになり、長期で安定した資産形成をしやすくなります。
もちろん、この割合は人によって違います。収入の安定性、家族構成、今後のライフプランなどによって最適なバランスは変わります。自分の生活が揺らがない範囲でリスクをとることが大切です。
「買う理由」と「売る時の条件」を明確にしておく
株式投資においては「買う理由」と「売る時の条件」を決めておくことが大切です。株式を「買う時」と「売る時」に、恐怖や強欲の感情に振り回されると、結果として失敗が起きやすくなります。だからこそ、取引を始める前に 「買う理由」と「売る時の条件」をあらかじめ決めておくことは、大切なルールになります。
まず「買う理由」を明確にしましょう。「なぜこの企業を買いたいと思ったのか」を言葉で説明できる状態にしておくことです。例えば、
- 事業に勢いがあり、売上が毎年伸びている
- 利益率が高く、安定したキャッシュフローがある
- 長期的に有望な市場で、参入障壁も高い
- 株価が、価値に対して割安である
など、自分が納得できる根拠を持つことが大切です。
そうすれば「売る時の条件」が自然と決まってきます。その企業の株式を「買う理由」が明確であれば、その「買う理由」がなくなった時が、売る時と言えます。例えば「事業に勢いがあり、売上が毎年伸びている」ことを理由にして買ったならば、売上の伸びが止まったことが売る時の条件と言えるでしょう。
それ以外にも、株式投資においては次の2つを想定しておくと良いでしょう。1つは、株価が異常と思われるほど割高になった場合は一部売却することです。
株式市場においては、投資先の企業が何らかの理由で一時的に高騰することがあります。仕手化した場合、特定のテーマにヒットした場合などです。このような時は、当初の「買う理由」が持続していても、保有している株式の一部を売却して利益を確保しておくと、気分が楽になります。
例えば2倍になった時点で持ち株の半分を売却すれば、「元は取れた」という安心感が得られ、あとは冷静に株価の推移を見守ることができるでしょう。
もう1つは株価が一定の割合、下落した場合です。例えば10パーセント下落した場合など、一定のルールを決めておきます。
株式市場は、不合理な動きをすることも多々ありますが、合理的な動きをすることも多々あります。下落する株価が正しいこともあるのです。ですから、魅力的に思って投資した企業の株価が下落すると、つい買い増ししたくなるものですが、少なくとも初心者の間はお勧めできません。また、大きなロットを投資している場合には、10%など一定の割合下落した場合に、一部でも損切りしておく方が安全と言えるでしょう。
投資初心者ほど、株価の上下で気持ちが揺れやすく、そのたびに判断がブレてしまいます。しかし、「買う理由」と「売る時の条件」を先に決めておくことで、ブレの少ない投資ができ、長期的に安定した成果につながります。
インフルエンサーの発信やSNSの情報を鵜呑みにしない
今の株式投資環境は、昔とは比べものにならないほど情報があふれています。YouTube、X、TikTok、ブログなどでインフルエンサーがさまざまな情報を発信しています。私(ひねけん)もそのひとりです。
このような環境は個人投資家にとって情報収集に便利な反面、この情報の多さが落とし穴にもなります。なぜかというと、投資で一番やってはいけないのは、「よく知らないまま、他人の判断に乗っかってしまうこと」だからです。
インフルエンサーの中には、本当に優れた分析や有益な発信をしている人もいます。でも、投資初心者が気をつけるべきなのは、「その情報が自分の状況に合っているかどうか」を判断できないまま真似してしまうことです。例えば、
- ある人は投資経験10年で、値動きにも冷静に対応できる
- ある人は運用資金に余裕がある
- ある人は短期売買が得意で、毎日チャートを追っている
など、インフルエンサーごとに前提としている状況が異なります。
一方で、初心者は経験も資金も考え方もまったく違います。同じ企業を買ったとしても、同じ行動が良い結果につながるとは限りません。
さらに、SNSではバズる情報が優先されやすく、
- 極端な成功例
- 煽り気味の意見
- 感情的な投稿
が広がりやすいという特徴もあります。これを鵜呑みにすると短期思考へ引っ張られ、冷静な判断ができなくなります。
私は、「企業の本質を見る」「自分の頭で判断する」という姿勢が大切だと考えています。あふれかえる情報を自分なりに解釈、分析した上で、自分の基準に当てはめて投資判断することが大切です。あるいは、自分の基準を磨き上げることが大切です。
そもそもこれが株式投資の醍醐味だと思います。このような作業が好きでない方は、株式投資ではなく投資信託などによる資産形成を考えた方が良いと思います。
最終的にあなたのお金で投資をするのは、あなた自身です。だからこそ、他人の熱量や主張に振り回されず、自分の価値観と基準で判断すること。これが長期投資を成功させる、非常に重要なルールになります。
投資初心者が陥りやすいミス
投資初心者が陥りやすいミスは、ここまでに書いてきたことの裏返しと言えます。
- 株式投資に資金を振り向けすぎた結果、生活に支障をきたす
- 買う理由を明確にしないまま、良くない企業に投資してしまう
- 買う理由が明確でなかったため、いつ売却したらいいかわからない
- インターネットの情報に右往左往する
といったことです。
自分自身の失敗を振り返ってみると、株式投資には謙虚な姿勢が求められると思います。特に経験が浅い時は「10倍になる企業を見つけた!」「自分は株式投資の天才だ!」と思うことがあります。でも、大抵の場合は10倍にならない企業ですし、仮に10倍になる企業だとしても既に気づいている投資家がたくさんいます。
自分の投資判断や投資能力に対して、信頼する気持ちが50パーセント。「まだまだ自分は未熟な投資家であって、判断を間違えることもある」と謙虚に自分を疑う気持ちを50パーセント。常にこのバランスを保つことが大切だと思います。
株式投資は常に仮説検証を繰り返し、新たな情報収集を継続するものです。これが楽しく、株式投資の醍醐味であるのですが、面倒に感じることもあります。楽に儲けたいと思って、自分を疑う気持ちを捨てて、安直に投資してしまい失敗してしまいます。
投資初心者へのメッセージ
株式投資の目的は第1に「お金を増やす」ことだと思います。もちろん、資産づくりの選択肢として投資はとても大切です。でも、それだけではありません。株式投資は「社会に参加すること(Action)」であり、「生涯学び続けること(Learning)」でもあるのです。
企業は、私たちの生活を支える製品やサービスを提供し、社会をより良くするために挑戦を続けています。投資家は、その挑戦に株主として参加します。あなたが株を買うという行動は、単なる数字のやり取りではなく、「この会社の事業を、新たな挑戦を、応援しています」というメッセージなのです。
また企業は、四半期ごとに決算を発表し、経営の状況や次の戦略を説明してくれます。投資家はそのたびに新しい気付きを得て、知らなかった業界の仕組みや社会の動きに触れます。つまり、株式投資は社会と企業から学び続ける場でもあります。
投資を通じて見えてくるものは、株価の上下だけではありません。
- どんな企業が社会を支えているのか
- どんな技術やサービスが未来を作ろうとしているのか
- 経営者がどんな思いで事業に向き合っているのか
こうした現実に触れることができるのが、株式投資の本質的な魅力だと私は思います。
そして、もうひとつ大切にしてほしいことがあります。企業に対して、「ありがとう」と「がんばれ」という気持ちを持つことです。
企業は日々、価値を生み出し、雇用を作り、社会を動かしています。その努力と成果に対して「ありがとう」。未来に向けて挑戦する姿勢に「がんばれ」。この気持ちを持ちながら株式投資を続けると、数字の世界だった投資が、ぐっと温かく、豊かなものに変わります。
株主としての視点を通じて、あなたは社会をより深く理解し、企業を応援する存在になります。そしてそれは、あなた自身の人生にも、新しい視野や学びをもたらしてくれます。
どうか、その本質を忘れずに、これからの株式投資人生を歩んでいってください。
あなたの株式投資が、企業にも社会にも、そしてあなた自身にも大きな価値をもたらしますように!
YouTube「公認会計士ひねけんの株式投資チャンネル」
著書「世界一やさしいファンダメンタル株投資バイブル」
公認会計士の個人投資家。京都大学を卒業後、2003年、監査法人トーマツに入所、世界的な上場企業を担当する。2007年、独立。公認会計士事務所を開業。一方でアクションラーニング社を立ち上げる。同社では初心者投資家向けに、決算書をいかに株式投資に活用するかを中心に講義を行い、多くの個人投資家に実践的な知識を提供。「どんなに難しいことも、わかりやすく」の授業コンセプトは絶大な支持を得る。投資スタイルは、「決算書・IRなどから良い企業を見抜き、安く買って、持ち続ける」というファンダメンタルズ分析に基づく長期投資。


